【前回のあらすじ】
主人公の家でクリスマスの夜を迎えた二人。もう一つの想いを抱きつつ、お互いの温もりを感じながら一夜を過ごしたのだった。
※沖田さんを攻略されていない方や、花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意ください!
現代版ですし、私の勝手な妄想ではありますが…よかったらまた読んでやってください
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第2話
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第14話
【沖田総司~花end後~】第15話
あの、激動の幕末時代を生きた武士であり。新選組一番隊組長、沖田総司の生まれ変わりである、総司くんと出会ってから、三カ月の時が過ぎようとしていた。
その間、失っていたあの時代での記憶を取り戻しながら、私達はこの現代でも沢山の思い出を重ねて行き。
哀しい記憶や真実を受け止めながら、二人で乗り越えようと支え合ってきた。
「…おはよう」
総司くんの長い睫毛が微かに揺れ、まだ微睡んだままの瞳が私を見つめた。
「おはよう…」
「雪は……積るほど降らなかったみたいだな」
ゆっくりと上半身を起こして窓の外を見やる総司くんを見上げ、私も同じようにして総司くんに寄り添うと、長い腕が伸びてきてそっと肩を抱き寄せられる。
「あの時代の夢を見た」
「え?」
「貴女に初めて想いを告げた…あの日の…」
あの大火の日。
任務の最中だったにも関わらず、私を心配して会いに来てくれた沖田さん。強引に手を引かれながら、禿の菊矢ちゃんと一緒に避難していた時…
私達は、初めてお互いの胸の奥に抱えていた想いを伝え合えたのだった。
「思い出す度に思う。どうして、あんなに意地を張っていたのかと…」
総司くんは、視線を逸らしながら瞳を細めた。
「…本当に。でも、あの頃の沖田さんは新選組として生きなければならなかったし、私も…藍屋を背負って立つ太夫であり続ける為に必死だったから…」
本当は、何もかも放って沖田さんの傍で生きて行きたいって思っていた。沖田さんも、同じように思ってくれていたのに、「好き」という二文字が言えなかったあの頃。
「怒った顔も、可愛かった」
(…っ……)
微笑み合い、あの頃の二人を懐かしむ。
あの頃が懐かしいと思えるということは、今が幸せな証拠。
その後も、私達は時計を見やりながら、朝食の時間ギリギリまでお互いの温もりを感じ合っていた。
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PM:9:45
あの楽しいクリスマスから三カ月が過ぎ、季節は春を迎えていた。
お正月も、お互いの家を行き来して近所の神社で参拝し、バレンタインデーも二人だけの時を過ごし、素敵な思い出を紡ぐことが出来た。
その間、翔太くんや裕香とも一緒に過ごすことが多くなり、4人で幕末時代の話をすることもあった。
気がかりだった総司くんと翔太くんは、時間を掛けてお互いのわだかまりを解き合い。裕香は、彼らがあの頃の話をする度に、目を丸くしながら驚愕の表情を浮かべていた。
時が経つにつれ、彼女も幕末時代に興味を持ち始めたようで、どうせなら4人で京都旅行に興じようということになり、京都滞在中は、裕香の親戚が経営している旅館にお世話になることになったのだった。
(なんだかんだと、明日の今頃はもう、みんなで京都にいるんだなぁ…)
高校最後の春休み。
来年から社会人になる私達にとっては貴重な時間だ。
(総司くん……沖田さん…)
総司くんとのツーショット写真を見ながら、これまでのことを振り返ってみる。
今まであまり考えたことが無かったけれど、あの時代で重ねた年月はリセットされ、一切の記憶を失った状態で現代へ戻って来た私と翔太くん。
あの時、総司くんと出会わなければあの頃の記憶を思い出すことは無かったのだろうか。
『貴女を、探していたような気がします…』
そう言ってくれた総司くんの瞳は、まだ少し戸惑いの色を浮かべていたけれど、その一言を聞いた途端、私は彼の瞳から目が逸らせなくなり。
夢中で愛したあの人を思い出し、涙が止まらなくなって。
(…沖田さん)
沖田さんと総司くんは、同じであって違う。
総司くんは、あの時代に生きた沖田総司の記憶を持つ、彼の生まれ変わり…。
そう理解しつつも、沖田さんを思わせるような口調で私に語り掛けてくれる総司くんに、あの頃の沖田さんを重ね見てしまう。
(これからも、お互いに複雑な想いを抱えながら生きて行くんだろうな…)
もう一度、バッグの中身を確認した後、総司くんにメールを認めた。
*総司SIDE*
「今夜も月が綺麗、か…」
窓辺から、彼女も目にしているであろう月を見上げながらすぐに返信する。
自分でもどうして京都へ足を運ぶ気になったのか分からないまま、明日を迎えようとしていた。
(…あれから、も三ヶ月が過ぎようとしているのか)
彼女を見つけたあの瞬間から、僕の進む道は完全に変わってしまった。
『貴方に会いたかった…』
あの時の彼女の泣き顔を思い出す度、もう二度と悲しい想いをさせてはいけないと思った。
まるで、過去の自分を精算しろとでも言うかのように思い出される辛い記憶に、心が折れそうになることもあるけれど、それらは全て自らが選んだ道だ。
───もう一度だけでいい、あの方の笑顔に触れたい。
ただ、それだけだった。
京都へ行けば、また辛い記憶や知らなくても良い真実を目の当たりにすることだろう。それでも、僕は何故か、あの地へ行かねばならないという衝動に駆られていた。
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───翌日。
AM:11:46
私達は、数か月ぶりに再び京都を訪れていた。
「う、サブい。もっと、あったかい格好してくれば良かったかな…」
裕香が肩を竦めながら呟いた。
新幹線のホームに吹き付ける冷たい風が、容赦なく私達の髪を揺らしていく。
「上着、貸そうか?」
「え、いいよ。翔太が風邪でも引いたら困るから」
「俺は大丈夫」
言いながら、翔太くんは手にしていたバッグを下ろし、上着を脱いで裕香に手渡した。
「裕香こそ、我慢して風邪引くなよ」
「…うん、ありがと」
嬉しそうに翔太くんの上着に袖を通す裕香の頬が赤く染まり始め、いつも以上に柔和な微笑みを見せる翔太くんを見やり、もしかしたらという気持ちを抱いていると、隣にいる総司くんの優しい視線と目が合った。
微笑み合って、あとは暗黙の了解というか。
「とりあえず、どこかで昼飯食おう」
「ああ」
翔太くんの言葉に総司くんが頷いて、何やら今後のことを話しながら歩き始める二人の背中を追いかけながら、私は小声で裕香に話しかけた。
「ねぇ…」
「ん?」
「もしかして、翔太くんのこと…」
「…うん。気が付いたら、意識してた」
彼女が言うには、以前から何気に翔太くんのことを意識していたそうで、私から幕末時代での話を耳にしてから特に、翔太くんを意識し始めたことを話してくれた。
ライバルが沢山いるし、自分には友達以上の気持ちは無いだろうと思いながらも、今はフリーだということが判明してからは、秘かな想いを抱き続けているのだそうだ。
「いつか、告白したいなぁ…なんて、思っているんだけど…」
「うん…」
「今はただ、翔太のことを想っていられるだけで…」
それだけで良いと、言って微笑む彼女が可愛くて。
「そんなところで何やってるんだ?置いて行くぞ」
「ごめん、今行く!」
彼らとの距離がかなり空いてしまっていたことに気付き、私達は微笑みながら歩みを速めた。
(…片思いかぁ…)
沖田さんに片思いしていた頃の自分を思い出し、改めて彼女の気持ちに寄り添いたいと思った。
やがて、辿り着いた裕香の親戚の旅館で寛いだ後、私達はまず翔太くんの案内であの古道具屋へと向かった。
以前から、気になっていたあのお店は今でも存在するのだろうか?
私達をあの時代へと導いた場所…。
滞在場所からその古道具屋まで電車を二本乗り継ぎ、ようやくたどり着いた時にはもう、一時間の時が流れていた。
「ここだよな?」
一軒の古道具屋さんの前に佇んだまま、翔太くんは私に同意を求めてきた。私は、促されるままに頷き返す。
「何か、少し雰囲気が変わったように見えるけど…ここ、だったはず…」
「どうする?」
「え…」
翔太くんだけじゃなく、総司くんや裕香の視線もいっぺんに受けて、私は思わず息を呑んだ。
「とりあえず、お店の中へ入ってみようよ…」
「そうだな」
裕香の提案に、翔太くんが頷く。
次いで、一番近くにいた私からドアに手を掛けて店の中へと足を踏み入れると、店内には老夫婦が一組いるだけで、あの頃とは違う静けさに包まれていた。
(なんか、中も雰囲気が変わったような…)
以前、訪れた時よりも若干洋風に改装されたような店内に、疑惑の目を向ける。
「…変わったな」
「翔太くんもそう思う?」
「本当にここだったか、自信が無くなって来たよ」
あの頃、裕香や他の子達と一緒に、古ぼけたカメラを扱っていた時…それは起こった。本当に、あっという間の出来事だった。
(…無いなぁ…やっぱり…)
店内のどこを探してもあのカメラは見当たらず、私達は安心したようなどこか物足りなさを感じながら店内を後にした。
「やっぱ、無かったな…」
「うん…」
振り返りお店を見上げながら言う翔太くんに頷いて、私も同じようにお店に視線を向ける。
ある筈がないと思いつつ、もしかしたら…という気持ちを抱いていたからか、少し拍子抜けしたような、それでいて安堵の息を漏らした。
「もう二度と、あんな体験は出来ないと思っているんだけどさ。また、あのカメラを見つけられたら、なんて期待感もあったんだ…」
「翔太くん…」
「もしかしたら、あの時代へ戻ることが出来るかもしれないって…」
その言葉に、思わず肩を震わせた。
(あの時代へ…もう一度…)
神妙な顔つきをしていたのだろうか、翔太くんは私達を交互に見やりながら困ったように微笑う。
「なんてな、そんなことある訳ないんだけどさ。ただ、」
「あの頃出来なかったことや、知らなかった事実が分かるかもしれない」
(…えっ…)
翔太くんの言葉を遮るように総司くんが呟いた。すると、裕香が何かを考えるように顎に手を添えながら言う。
「でも、もしもそのカメラを見つけて、もう一度幕末時代へ行くことが出来たとしても…帰って来られなくなったらどうするの?それに、また帰って来られたとしても記憶を失ってしまったら…」
その言い分に、翔太くんは沖田さんと顔を見合わせ黙り込んだ。
確かにそうだ。
現代へ戻って来た時、私と翔太くんは幕末時代での記憶の全てを失っていたのだから。
それに、再び幕末時代へ行けるとは限らないし、もし行けたとしても、あの頃関わった人達と会えるかどうか分からない。
けれど、翔太くんは真剣な眼差しを浮かべたまま静かに口を開いた。
「それでも俺、やり直したいことがあるんだ」
私が病床の沖田さんに付き添っていた時。
翔太くんは、龍馬さん暗殺を阻止しようと必死だった。
龍馬さんが暗殺される場所は知っていたものの、いつその日がやって来るのかまでは分からなかった為、結果的に不意をつかれた形で襲われてしまい、龍馬さんの運命を変えることは出来なかったから。
「だから、今なら…たとえ、歴史を変えることになったとしても、あの人を助けることが出来るはず」
「…………」
翔太くんの想いを聞いて、少し狼狽えた様子の総司くんの腕に寄り添う。
結局、龍馬さんを暗殺した人は誰なのか判明していないのだけれど、史実ではその中に新選組隊士もいたとされている。
沖田さんで無いことは確かだけれど、もしも、史実通りに新選組隊士が龍馬さんの命を奪ったのだとしたら…。
(…総司くん)
俯く総司くんを見つめていると、翔太くんが静かに口を開いた。
「沖田…さん。くどいようだけど、俺はあの頃のことを根に持ったりしちゃいない。だからもう、気にしないで欲しい…」
「…そう言って貰えるのは嬉しいのだけれど、」
総司くんは、薄らと微笑みを浮かべる翔太くんに困ったように微笑み返す。
「…そろそろ、その沖田さんっていうの、やめて貰えるかな」
「え、あ…まぁ、確かに…」
それなら、と言って翔太くんは、「これからは、沖田って呼ばせて貰う」と、伏し目がちにぽつりと言うと、沖田さんも、「そうしてくれると助かる」と、言って嬉しそうに微笑った。
そんな彼らのやり取りに、裕香と顔を見合わせて微笑み合う。
お互いのわだかまりは、まだ完全に拭いきれずにいるのかもしれない。それでも、二人がこうして理解し合おうとしてくれていることが嬉しかった。
それから私達は、その近辺にある観光名所へと足を運んだ。
まずは、あの新選組のゆかりの地である池田屋近辺を散策していると、前方から隊士姿で歩いて来る集団を見つける。
(うわぁ、本格的…)
「あ、あそこで着られるみたいだね。着てみたいなぁ…」
裕香が指さす方向に、着物や新選組隊士の服が何枚か飾られたお店があり、目を輝かせている彼女の願いを叶えるべく、私達はそのお店でそれぞれ好みの格好に着替えることにした。
女子は着物姿に。
男子は袴姿に、それぞれ着替えて別室で顔を合わせると、
「あ…」
それぞれがきょとんとした顔をしたものだから、自然と笑いが込み上げた。
「ふふ、なんか総司くんも翔太くんも、着物のサイズが合わないみたいだね」
「そっちもな」
翔太くんが苦笑しながらそう言うと、総司くんも「大きめの袴しか残っていなかったから」と、言って苦笑した。
そんな風に和やかな雰囲気に包まれる中。
折角だから、写真を撮って貰おうということになり。所定の位置で少し緊張していると、カメラと三脚を持った20代後半くらいの男性が笑顔で部屋に入って来て、準備を整えながら私達に話し掛けてきた。
「よく似合ってるね」
予想していなかった言葉を貰い、それぞれ顔を見合わせながらお礼を返して、男性の指示通りに場所を移動する。
何パターンか試した後、女子が丸椅子に座り、そのすぐ横に男子二人が寄り添うように立つというシチュエーションに決まった。
(…結構、こだわるんだなぁ。)
準備が整って、これから写すという合図を貰ったその時、裕香と私の間に佇んでいた翔太くんが、視線をカメラに向けたままぽつりと呟いた。
「なんか、あのカメラに似てないか?」
「え?」
結構離れていたからか、全然気にしていなかった私は、翔太くんの言葉に首を傾げながらもカメラに目を凝らしてみる。
「…確かに似ているかも。でも、似てるだけじゃないかな?」
「そう…だよな…」
と、その時だった。
───行ってらっしゃい。
微笑んだ男性の指がカメラのボタンに触れた途端、シャッター音と共に眩いばかりの強い光に包み込まれ、私達は腕で目元を庇うようにして様子を窺い始める。
「何だっ?!」
翔太くんの叫ぶような声を聞いた後、すぐに背後から抱き竦められた私は、その総司くんの腕を掴みながらも、同じように翔太くんから抱き寄せられ動揺している裕香の手を自分の方へ引き寄せていた。
(嘘っ…でしょ…)
あの時と同じ展開を迎えたと理解した時にはもう、私達はあの時代へと飛ばされていたのだった。
~あとがき~
急展開です(;´▽`A``
まずは、ここいらでまた二人にこれまでの出来事や想いを語ってもらい、こちらの物語では、もう一度あの時代へ行って貰うことになりました
これからの展開は…
皆さんの想像通りに進むのか…。
それとも…。
唯一、あの時代のことを知っている裕香と、現代に生きていた総司くんを引き連れての幕末時代へのタイムスリップ
あ、ちなみに…
禿の名前を忘れてしもた為、勝手ながら「お凛ちゃん」と、名付けていましたが!「菊矢ちゃん」とのお答えを頂いたので訂正させていただきました
次回もまた良かったら、覗きに来てやって下さい
でもって、今日はひな祭り
男の子だから、なんもせんけど…。
子供の頃…。
毎年、ひな壇を出しては両親が、「片づけるの面倒臭い」と、言っていたのを思い出します(笑)
そして、WBCは中国戦
昨夜のように、繋がる打線を観せて欲しい
だるびっしゅくんも、観とるらしい