電気パンふたたび | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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電気パン1


 上のイラストに見覚えのある方は、「いきわく」シリーズを古くからご存じの方でしょうね。

 理科実験としての「電気パン」が広まったきっかけになった「いきいき物理わくわく実験」(新生出版)の「パン屋もびっくり 電気パン」に使われたイラストです。

 なぜ、いまどきこんなものをひっぱりだしてきたかというと・・・

 じつは、この記事、現在発行されている「いきいき物理わくわく実験1改訂版」(日本評論社)には掲載されていないんですね。

 新生出版が廃業した後、日本評論社から改訂版を出版することになったとき、サークル関係者でずいぶん議論しました。ぼくはその改訂版作業の上半期には編集会議に参加していなかったので、議論の詳細は知りませんが、改訂版では安全面の配慮をして、実験を改良したようです。

 電極に使っているステンレス板が、電気分解で微少量がイオン化して溶け出すのではないか、との議論だと記憶しています。

 ぼくは改訂版のイラストを描くだけで精一杯だったので、編集会議には出られませんでしたが、この議論の結果、代替実験が開発できなかった電気パンの記事をはずすという結論になったのにはがっかりしました。(これに似た話として、綿菓子機の記事で書いた件もあります。空き缶を使うのがまずいということで、茶こしを使う方式に変えたんですね。前の記事に書いたように、ぼくはそのときの編集方針には反対です。ぼくはいまでも、綿菓子機には空き缶を使っています)

 そこまで、神経質になる必要があるのか、と思ったからです。

 電気パンは戦後、専用の装置が売られ、家庭に広まったものでもあります。当時は電極に鉛板を使っていたというから、それもまたすごいと思いますが。

 交流だから電気分解の量も少なく、また溶けだしたイオンの大半は電極付近にとどまるので、電極近くのパン部分を切り取って食べれば、健康への影響はないでしょう。それも毎日食べる食品ではなく、ごくまれに実験として食べる程度です。ごくわずかの量でも問題だというなら、普段の生活で自然に吸引している自動車の排ガスやペンキなどの有機溶媒など、どうするんでしょうか・・・

 別の実験の話になりますが、ぼく自身も、クルックス管の実験でX線が出ているということが話題になった後は、生徒の前で実験をするのを控えていた時期がありました。

 数年前、放射線の研究の第一人者である福井先生(スパークチェンバーを作った方です)がぼくの職場で特別講義をしていただくお手伝いをさせていただく機会があり、そのときの雑談でその話題に触れたとき、先生から叱られました。「そこで放射される放射線量がどれだけ健康に害があるというのか。先生たちがそんなことばかりいっているから、正しい知識が伝わらなくなる」と。

 さて、現在の「いきわく」には載っていない「電気パン」の実験ですが、ぼくは(他のメンバーも)それとは関係なく、実際の授業では必要に応じてこの実験をやってきました。ぼくらが普段やっている実験を紹介するのが「いきわく」の趣旨であったはずなのに、いつのまにか「よそいき」の編集方針になってしまったのが、残念です。いつか、「いきわく1」にこの記事が復活して欲しいなあと思っています。

 ということで、「失われた」電気パンの記事の代わりに、ぼくが授業などでやってきた「電気パン」の記事を載せたいと思います。
 

 

 

 

電気パン2


 牛乳パックを用意し、底から高さ10センチくらいのところで、カットします。

 ステンレス板を牛乳パックの幅にぴったりあう幅に切り、さらに10センチより少し長めの高さに切って、先をペンチで曲げ、曲がったところまでの高さが10センチくらいになるようにします。

 このときのポイントは、ステンレス板の先が、きちんとパックで作った容器の底まで達していること。長さが足りなくて底から浮いてしまうと、底のあたりのパンが焼けずにどろどろのまま残ってしまいます。もちろん、牛乳パック容器との間にスキマができるのもNGです。そこだけ電流が流れずにどろどろになっちゃいますからね。

 

電気パン3

 材料にはホットケーキミックスを使います。もうふくらし粉が入っているし、うっすらと甘みもついているので、めんどくさくない。独自に味付けをしたい場合は、水で溶くかわりにジュースを使ってもいいでしょう。野菜ジュースなんかも好みはありますが、おいしい味付けになります。(ただし、カレー粉を混ぜるのはうまくいきません。自然科学部の部員が試してみたのですが、だめでした)
 

 

 

 

電気パン4
 

 実験に必要な道具はこんなところですね。当然ですが、ビーカーは食品専用のものを使いましょう。(べつにビーカーである必要はありませんね。普通の調理用の器でいいんですが、実験室だとビーカーの方が簡単に手に入るので、たいていはビーカーを使います)かき混ぜるのにスプーンを使いますが、べつに割り箸でもかまいませんね。
 手作りコードだけは、頑張って作る必要があります。普通のコンセントプラグと、ミノムシクリップと呼ばれる端子を組み合わせて、図のようなコードを作ります。ミノムシクリップは数十円で電気パーツの店で売っていますし、学校だったら理科の教材屋さんから手に入れることができます。
電気パン5


 ホットケーキミックスと水の分量ですが、普通にホットケーキを作るときと同様でよいですね。ほぼ等量まぜれば大丈夫。とろりとした生地になったらできあがり。割り箸につけた液がたらりと落ちる程度の粘りけがあればいい。びしょびしょでは困ります。

 

電気パン6


 この実験でもっとも重要なのは、実験の用意が完成するまで、決してコンセントにプラグをつながないことです。

 というのは、コンセントプラグをつないだまま実験の用意をすると、なにかのきっかけでステンレス板同士が触れてショートすることがあるからです。大電流が流れ、ステンレス板が溶接されてしまうほどの熱が発生します。危険ですから、コンセントを入れるのは最後の最後にしてください。

 パックの容器の三分の一くらいまで生地を入れ、用意ができたら最後にコンセントを入れて電流を流します。
 生地は焼けるにつれむくむくとふくらみ、容器からはみ出そうなくらいになります。パンが焼き上がると電流が自動的に切れますので、焼けたなと思ったら、コンセントを抜いてください。
 あとは、容器をカッターナイフで縦に切って、パンを取り出します。電極に接していた部分の近くは変色していることもありますが、カッターで切り落として、パンの真ん中部分を食べます。

 

電気パン7


 定性的な実験として、電流のジュール熱でパン生地が焼け、水分がなくなると自動的に電流が切れるのを見るというのが、この実験の定番です。が、学校の授業でもうすこし探究的な実験をしたい場合には、交流電流計とストップウォッチ(なければ時計でよい)を使って、時間経過とともに電流値が変化する様子を記録し、それをあとでグラフ化するという定量実験にすることもできます。

 どうしても健康面が気になる場合は、実験だけして「食べない」という選択肢もあることをお忘れ無く。

 ・・・このところ、ミオくんと科探隊から少し離れた記事を書いてきましたが、そろそろミオくんたちが恋しくなってきました。

 また、会いたいな。

 

 

追記:電気パンについてのより詳しい記事(マンガ)と解説を『いきいき物理マンガで実験』に掲載しました。ぜひ、ご覧ください。

 

 

 

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