新宿・横浜・焼津・神戸に見る「危機管理マニュアル」


「新幹線の奇跡」と活かされなかった教訓


原発は大丈夫なのか


2004年10月23日、新潟県中越地震の発生と同時に、震源近-を走っていた上越新幹線の下り「とき325号」が脱線した。


事故現場は-ソネルを抜けてすぐの高架橋上で、長岡駅から7.5の地点だった。


地震発生直後、揺れを感じた運転手は非常ブレーキをかけた。


同時にも車内は一瞬にして停電、1 0両編成のうち8両が脱線した。


車体は30度近-傾き、右側車輪は脱輪して、上り線路との問の溝に落ち込んでいた。


新幹線の開業以来、営業運転中では史上初めての脱線事故。


時速200kmでの走行中に転覆を免れ、ひとりの死傷者も出なかったのは、まさに奇跡といえる。


その「奇跡」から学ぶことも多いのではないか。


旧国鉄役員で、東海道新幹線の開業に尽力した交通評論家の角本良平氏が話す。


「地震による脱輪や転覆は、地面に接する線路上を高速走行している列車では、避けられないリスクです。

いままで新幹線で脱線事故が起きなかったのは、運が良かっただけのこと。

もし阪神大震災が今回の新潟と同じような午後6時前に起こっていたら、列車が脱線したり'転覆したりの事故が起きていた可能性があったでしょう」


 東海道新幹線はほぼ5-10分間隔で運行されている。


上越新幹線が .0分間隔とい-ことを考えれば、列車のすれ違う頻度は明らかに東海道新幹線のはうが高い。


乗客が満席の状態で、もし一本の列車が脱線し、そこに別の列車が突っ込んで-るような事態となれば大惨事となりかねない。


上越新幹線での事故は、幸運な点が多かった。


まず列車が長岡駅に近づいて、減速しはじめていたこと。


そして、直線区間であったこと。


さらに'除雪対策として'線路をコンクリ-ト板に固定するスラブ軌道を使っていたことなどがある。


車輪がバウンドしにくいため、転覆を免れたと見られている。


『新幹線「安全神話」が壊れる日』などの著書もある技術評論家の桜井淳氏は、別の視点から新幹線の危険性を指摘する。


「高速化を追求するあまり、車両の軽量化が進みすぎている傾向があります。

車体が軽けわは軽いほど転覆しやすくなるわけで、今回のケースでは、旧型の重い車両だったことがむしろ辛いしました。

車体が垂ければ、脱線しても比較的安定して進むからです。

 また'新幹線は時速oJt>-Oァで都市部を走っている区間もあります。

もし、住宅地に隣接する地域で、転覆事故が起きるような事態となれば、いろいろなかたちで沿線住民にも被害が及びます」 


地震は上越新幹線の車両ばかりでな-、トンネルや橋脚にも大きな被害を与えた。


「魚沼-ソネル」では、壁面から1m大の多数のコンクリIト片が落下した。


高架橋の橋脚45本にも異常が見つかり、「勇断」といわれる左右に逆方向の力が加わったことで生じる阪神大震災の際に見られた被害も確認された。


この点について、橋脚建設時のコンクリートの打ち込み作業の施工不良の可能性を指摘する声もある。


コンクリ-ト工学が専門の東京大学名誉教授・小林丁輔氏が指摘する。


「コンク-ートが剥がれ落ちた橋脚のなかに、阪神大震災の際も山陽新幹線の橋脚で見られた施工不良のケースと似たような状況が見受けられます。

橋脚のコンクリ-トは一度に流し込むわけではありません。

何回かに分けて接合してい-わけですが、前に流し込んだコンクリ-トの乾いた表面をきちんと表面処理しないと、うまく接合しないのです。

早急な調査が必要です」 


もちろん、JRも耐震対策を講じてきている。


「阪神大震災を受けての補強工事は、対象箇所については、19980年までにすべて完了しました。

その後に起きた三陸沖地震を受けての補強工事も2008年度末完了をめどに急いでいます」


(JR東日本広報部)


「高架橋の耐震補強対象は1万本ありましたが'2004年度末までに1万2700本が完了しました。

残りは2008年度末までに完了すべく、前倒しで進めています。
また、東海地震への対策として別途、小田原付近~豊橋付近問の2000本の緊急耐震補強にも取り組んでいます」


(1R東海広報部)


〝安全神話″という虚像に囚らわれず、事故を教訓とすべきだと前出の角本氏は説く。


「新幹線でも事故が起きることを教えて-れました。
利用者にも経営者にもいい警鐘となったでしょう」 


今回の事故では死傷者は出なかった。


だが、一歩間違えば重大な危険にさらされたのが、上下線を隔てる満まで脱線した最後尾の車両だった。


「トンネルに車両が出入りする際へ横方向の揺れが生じて、事故の引き金になることがあります。

今回は、一番後ろの車両だけが、側溝に落ちるほど大幅に脱線しました。

高速走行している新幹線がトンネルを出たとき、流体力学の面から考えると、7番後ろの車両にも1とも大きな力が加わるからです。

これを〝尻振り現象″といいますが、今回もトンネルを出た直後の事故ですから'これが原因でしょう」


(前出・桜井氏〕 



これまで在来線の場合、「先頭車両は危ない」といわれてきた。


さまざまな状況下で、先頭車両がもっとも影響を受けるからである。


今回の事故例を考えれば、新幹線の場合へ先頭車両と最後部の車両以外が比較的に安全だといえるかもしれない。


新幹線の他にも心配の種は尽きない。


例えば、原子力発電所における事故だ。


もし大地震によって原発が崩壊するようなことがあれば'放射能汚染の被害は想像を絶するものになるだろう。


「原発震災を防ぐ全国署名連絡会」顧問で'東海学園大学教授の村田光平氏がこう語る。


「原発は一定規模の地震が起こると'自動停止システムが稼動する仕組みとなっています。

2004年5月の宮城県沖地震でも、女川原発3号稜で自動停止シグナルが出ました。

ところが、宮城県沖地震よりも大規模だった新潟県中越地震では、柏崎原発になぜか停止シグナルが出なかったのです。

電力会社は 『正常に運転している』としていますが、停止サインが出なかったこと自体が問題だといえるのです」 


防災都市計画研究所代表の村上虞直氏は、大都市の持つ根本的な危険性に警鐘を鳴らす。


「直下型地震の場合、震源の真上にあたる地域では、耐震規定をはるかに超えた力が働きます。

対策の施しようがないのです。

その点、アメリカのロサンゼルスでは、ある程度の地震では逆に壊れてもいいように設計されています。

道路も同様で、地震発生後の復旧を視野に入れた都市構造となっているのです」


一方へ自治体による救援・復旧作業は確実に進められたのだが、その過程で、多-の問題も噴出した。


ことに自治体の〝初動″態勢はどうだったのか。


地震直後を取材した 「週刊現代」 のレポ-トを見てみよう。


(地震発生から1カ月経った日月2 4日、ようやく被災者向け仮設住宅の入居が始まった。


しかし'戸数は長岡市と小国町のわずか215戸。


今後、1 3市町村で計約3200戸を建設も 1 2月中旬までにすべて入居が可能になる予定だが、期間は最長でも2年と限られている。


地震発生から計4回、11月20-21日にも現地で被害状況を調査した、防災・危機管理^ヤーナリス-の渡辺実氏は、仮設住宅建設の遅れを指摘する。


「阪神大震災では'震災から3日後に建設に取り組みはじめ、3週間後には完成しました。


しかも、新潟では時間的な遅れもさることながら、とりあえず建てたという感じで'地震から『1カ月後』 でようやく神戸の 『1週間後』 のレベルという状況です。


その原因は、各自治体に緊急時のマニュアルがなかったこともありますが'情報の共有化ができていなかったことが大きい。


阪神大震災の反省から、災害情報のシステムが急速に構築されました0

しかし、首相官邸の危椀管理センターに集約された情報が、肝心の被災地である自治体にまった-フィードバックされなかったのです」 


救援物資の分配にも問題が露見した。


地震発生から1週間もすると、救援物資が堆-積まれた様子がテレビで映し出され'ボランティアが余っているという声が漏れ伝わってきたのだ。


現地に2度入りも危機管理態勢の確立を提唱し続けている'村上虞直氏もいう。


「報道陣が入るのが遅れたせいか'川口町ではしばらく物資不足が続いた一方で'小千谷市などでは物資が山を作り、役所の業務ができないほどでした。

被災地域全体で救援物資を受けてー効率的に分配する態勢が取られていなかったからです。

これは救援活動にとって致命的な欠陥です」 


さらに村上氏は'緊急時の役人の姿勢にも疑問を呈する。


「大地震という緊急事態においても、タテ割り体質からどうしても抜けきれない。

老人が救援物資の毛布一枚を求めたときも、現場の役人が 『私には権限がない』 と、目の前にある毛布を渡さない光景を目にしました0

アメリカなどではこんな場合、現場の人間に法律の枠を超えた〝裁量の余地″が与えられますが、日本では硬直したままです」 


行政の危機管理態勢は'さらに深刻といわざるをえない。


例えば'小千谷市で避難所が開設されたのは地震発生の翌日の午後。


やっと開設された避難所も、毛布もなければ水もないという状態が3
日も続いた。


緊急事態への備えがまった-できていなかったことの表れである。


防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が、新たな課題を指摘する。


「被災者が二極化し始めています。

つまり、家屋の危険度判定で 『住むことが可能』 と診断された住民は、復興に伴い再び元の生活に戻ることができる。

しかし、家屋が全壊もし-は半壊した住民は、将来への不安からジワジワと精神面での影響が出始めています。

きめ細かいケアが、今後ますます必要です」 


新潟県中越地震では電気やガスの緊急停止など、阪神大震災での教訓が活かされた点も確かに存在する。


しかし一方で、活かしきれなかった面が多すぎるというのが専門家の意見だ。




    <緊急>週刊現代特別取材班編…

  1. 巨大地震と地震雲-2
  2. 大地震と地震雲-3
  3. 巨大地震と地震雲-4
  4. 巨大地震と地震雲-5
  5. • 巨大地震と地震雲-6
  6. 電波の特異な波形'乱れをキャッチ
  7. 警戒サインは' 10日前に出る
  8. 歴史が証明!地球はいま'地震続発の周期に入っている!
  9. 太陽の磁気エネルギーが地震を誘発する
  10. 周期望星による「持異日」
  11. 20m超の巨大TSUNAMIが'津波列島を呑み込む!
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