デヴィッド・O・ラッセル監督、クリスチャン・ベイルエイミー・アダムスブラッドリー・クーパージェレミー・レナージェニファー・ローレンス出演の『アメリカン・ハッスル』。2013年作品。

音楽はダニー・エルフマン




Electric Light Orchestra - Long Black Road


1978年。クリーニングのチェーン店を営みながら実は詐欺師のアーヴィング・ローゼンフェルド(クリスチャン・ベイル)は、愛人であるシドニー(エイミー・アダムス)とともに5000ドルの手数料でロンドン銀行から5万ドルの融資を受けられる、と持ちかけて何人ものカモを引っかけていたが、FBI捜査官のリッチー・ディマーソ(ブラッドリー・クーパー)に捕まり、司法取引で政治家たちのカジノ利権にからんだ汚職を暴くおとり捜査に協力させられることに。


ザ・ファイター』や『世界にひとつのプレイブック』のデヴィッド・O・ラッセル監督の最新作。

ハッスル(Hustle)とは、詐欺のこと。

実際に1970年代後半~80年代初頭に起こった、政界を巻き込んだ収賄スキャンダル“アブスキャム事件”を基にした作品。

映画の主人公アーヴィング・ローゼンフェルドのモデルになったのは、実在の詐欺師メル・ワインバーグ。


出演者と実在のモデルの比較


主演のクリスチャン・ベイル、そしてヒロインの一人シドニー役のエイミー・アダムスは、デヴィッド・O・ラッセル監督の前々作『ザ・ファイター』で共演済み。

そして僕はあいにく未見ですが、ブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスは、前作『世界にひとつのプレイブック』からの続投。

なぜ評価も高かった『世界にひとつのプレイブック』を観なかったのかというと、『ザ・ファイター』を観て、クリスチャン・ベイルはあの映画でもやっぱり頭髪がヤバくなってる人を熱演しててオスカーも獲ったし、作品として手堅く作られているのはわかるのだけれど、それ以上にガツンと打ちのめされるようなものがなかった、というのがある。

それと精神的に問題を抱えた人の話は個人的にあまり積極的に観たくない、という気持ちがあったので敬遠してしまったのでした。

でも今回は登場人物の髪型が面白すぎたので。

マーティン・スコセッシの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とどっちにしようか考えて、ディカプー主演の映画が3時間あると知ってこちらを選びました(『アメリカン・ハッスル』は138分)。

『ウルフ・オブ~』の方もベタ褒めしてる人たちがけっこういるのは知ってるけど、これまでのスコセッシの映画を僕はそれほど好きじゃないのと、特にディカプリオとのコラボ作品では『インファナル・アフェア』のリメイク作以外はほんとにピンとこなかったんで。

んで、『アメリカン・ハッスル』ですが、2時間以上あって正直後半ちょっとダレたりもしたんだけど、面白かったですよ。

とにかくもう、「面白いヘアスタイル」の人が何人も出てくる。

大仏パーマのブラッドリー・クーパーに、メットみたいなリーゼントのジェレミー・レナー、そして極めつきはもちろん主人公アーヴィングを演じるベイルのまるで海原はるかか湾岸戦争の時にやたらとTVで見たあの軍事評論家みたいな最強の9.1分け。

 
以前、クリスチャン・ベイルのこの頭がスクープされて、「マジにハゲたのか、それとも役作りか」と騒がれてましたね。2枚目の画像はモデルになったメル・ワインバーグ

映画の冒頭で彼が鏡の前でそれを作り上げるまでが映し出されるのだが、これがほんとに痛々しくて堪らない^_^;

頭頂部にはなんか黒い“まりも”みたいな作り物の毛を乗せて、そこに頭の片方から持ってきた髪を乗っけて馴染ませる。

あぁ、世のバーコードのあの人たちはこうやってるのか、とその涙ぐましい、しかし実に無駄な努力に早速涙ぐみそうになってくる。

しかも、その直後にブラッドリー・クーパー演じるリッチーに「こうしてやるっ」と頭ワシャワシャされちゃうし。


あっ!!! 前半最大の笑撃シーン

出演者たちはみんな大真面目に演じてるんだけど、客席で肩がプルプル震えてしまった。

それを見たエイミー・アダムス演じるシドニーの「それだけはダメ」という冷静なツッコミにも腹筋がピクピクとw

この映画、「髪」がけっこう重要な意味を持っていたりする。

ようするに自分の「リアルな姿」を隠し続ける男の話なのだ。

自分を偽り続けるのは彼だけではない。

アーヴィングの愛人シドニーは、リッチーの前ではイギリス訛りで喋る貴族“イーディス”を演じ続ける。

映画の後半になると、彼女の髪はクルクルのゴージャスヘアに。

リッチーもまた直毛なのにわざわざ毎晩カーラーで髪を巻いてクルクルの癖毛に見せている(当時の人気野球選手の髪型に似せてるという設定らしいが、なんでだ)。


別にギャグではなくて真剣にやってます。

誰もが別の自分になりたがっている。

こうありたい自分、こう見られたい自分に。

人は信じたいものを信じる

この映画のテーマだ。


ところで自分が薄毛なんで言わせてもらいますが、僕はあの「バーコード・ハゲ」というのが大嫌いで、世界でもっとも往生際が悪い行為だと思っているんですよ。

なんであんな見苦しいことすんのかね。

電車とかでああいう頭のおっさん見かけると、ブラッドリー・クーパーみたいに思いっきり手で掃ってハゲを晒してやりたくなる。

毛がないんならまわりも短く刈り込むか、とっとと剃っちゃえばいいのに(僕は短く刈ってます)。

自分をハゲだと認めるのが嫌な人ってのは自分のほんとの姿を受け入れようとせずに「こうありたい自分」を心の中で勝手に思い描いてるんだろうな。

実際には誰がどう見てもゲーハーなのに、自分一人だけ夢を見てる。

同族嫌悪でヒドいこと言ってますが、ただこの映画の中では主人公アーヴィングのバーコードにはなんともいえない哀愁が漂ってて、どこかユーモラスで彼を憎めない男に見せている。

彼のあの突き出た腹は、自分のボテ腹に酷似していて観ててゾッとしましたが。




このようにルックスに関してはけっこうなハンデを負ってるアーヴィングだが、店をいくつも経営してて綺麗な妻と可愛い息子もいる。

そして愛人も。

金持ってたり頭がキレる男はモテるんだね。

こういう人は裸一貫で底辺からのし上がってきたという自負があるからプライドが高い。

そのプライドの高さが自信に見えて、魅力的だと受け取られもする。

アーヴィングはパーティでシドニーと知り合い、ふたりはともにデューク・エリントンのファンだったことで意気投合。協力しあって詐欺行為を始める。


Duke Ellington - Jeep's Blues



有名な画家の贋作を売ったり、ロンドン銀行にコネがあると偽って融資を望む者たちから手数料を巻き上げる。

被害者たちに対しては、小金でウマい汁吸おうとしてるような奴らなんだから、と罪の意識を持つこともない。

しかし犯行がFBIにバレて、捜査官のリッチーに捕まってしまう。

拘留されて憔悴するシドニーの心の隙を突くように「アーヴィングは君を利用しただけだ」と彼女に近づくリッチー。

アーヴィングは同業者を4人売ることを条件にシドニーとともに保釈される。


架空のアラブの大富豪シークをでっち上げて東海岸にカジノを作るために政治家たちに便宜を図ってもらえるよう賄賂を渡し彼らを一網打尽にする計画を立てたアーヴィングたちは、まず手始めにニュージャージー州カムデン市の市長カーマイン・ポリート(ジェレミー・レナー)に話を持ちかける。




リッチーの勇み足でカーマインに怪しまれるが、アーヴィングが説得してなんとか収まる。

カーマインは地域の雇用を生みだすためにカジノ誘致の話に乗る。

カーマインがシークのことをずっと「黒人なんだろ?」とアーヴィングに尋ねるところが地味に可笑しかった。

「いや、黒人じゃなくてアラブ人だ」と答えても、「うん、だから黒人だろ?」と話が噛み合わない。

多分、この人はアラブ系とアフリカ系の区別がついていないのだ。アホなのか?市長なのに(;^_^A

カーマインは町の人々のために尽力し、心からシークを歓迎している善良な人物であることがわかるが、その裏表のなさをつけ込まれることになる。

それに対しては彼のことを唯一の友人と感じ始めてもいたアーヴィングも、良心の呵責を覚えたようだ。

非情にはなりきれない、こういう人間臭いところもまたこの映画の登場人物たちを嫌いになれない理由でもある。

彼らはみんな「愛」を求めている。

アーヴィングの妻のロザリンなんかは(二股かけられているからとはいえ)夫の足を引っぱりまくるんだけど、それでも演じるジェニファー・ローレンスの「感謝してほしいくらいよ!」と連呼する口達者でハスッパな魅力によって、やはり憎めないキャラになっている。

知らぬこととはいえ計画の邪魔ばかりしてると思えば一人でマフィアたちに話しかけたりして、もしかしてけっこう役に立つのでは?と見直したらやっぱりダメじゃん、とか、ほんとにもうやっかいなかみさんで。

 


リッチーが上司(ルイス・C・K)にむりやり許可させた自家用ジェットの中で偽者シークとカーマインは対面、計画はうまく進むかに思われたが、シークの歓迎パーティには大物マフィアが来ていた。

早速彼の元にシークとともに呼ばれるリッチーとアーヴィング。

待っていたその大物マフィア・テレジオを演じているのは、大御所ロバート・デ・ニーロ




クリスチャン・ベイルは、この作品が元祖なりきりメソッド演技の大先輩との初共演。

新旧肉体改造俳優のご対面となった。

さすが『アンタッチャブル』で頭髪を抜いて役作りしたデ・ニーロ、クリスチャン・ベイルに対抗したのかどうかさだかではないが、今回も寂しい頭髪を披露。

ちなみに御年70のデ・ニーロご本人はまだまだ頭髪はしっかり残ってます。

撮影前に紹介された太ってハゲ散らかしたベイルに気づかず、「あれは誰だ」と監督に尋ねたんだそうで。

出番はわずかながら、久しぶりに「…キター!!」って感じのドンピシャなキャスティングでした。

テレジオはリッチーやアーヴィングの前で、いきなりシークにアラブ語で話しかける。

劇中でシークを演じているのは実際はメキシコ人(マイケル・ペーニャ)なので、絶体絶命の危機。

一同が一瞬凍りつくこの場面にはゾクゾクしました。

ってゆーか、そんな重要な役割の人間ならちゃんとアラブ系の人使えよσ(^_^;)




実際の事件ではどうだったのか知らないけれど、映画の中では過剰な暴力シーンも人が殺されることもないので、この手の実録モノにありがちな殺伐とした後味はない。

そこがいいともいえるし、ちょっと物足りないと思わなくもない。

無責任なこと言ってますが。


マフィアとは関わりたくないアーヴィングは深入りすることをいさめるが、リッチーはマフィアも一緒に挙げるつもりで計画を強行する。

テレジオは口座に一千万ドル振り込むよう指示してくる。

テレジオが金を受け取ったら彼を引っぱれる。

まずは200万で、ということで金を持って彼の弁護士の所に行くが、テレジオは来ない。

怪しんだアーヴィングとリッチーは立ち去ろうとするが、シドニーの一声で送金を決意。

渡された口座の番号に電信送金するFBI。

リッチーは作戦成功に浮かれまくって仲間たちと大はしゃぎする。

カーマインや収賄に関わった政治家たちが逮捕される。




一方で、映画の後半ではアーヴィングの存在感はその頭髪並みに薄くなっていって、まるでリッチーが主人公のようになっていく。

アーヴィングはカーマインに詫びにいくが、夫妻から罵られて家から追い出される。

その姿はひどく弱々しくて、とても天才的な詐欺師には見えない。

しかし、どうやらこの男は逆境で名案が閃く人らしくて、妻ロザリンが不用意にマフィアの構成員の前でFBIの計画について口にしたために呼びだされて痛めつけられた時に、最大の詐欺を思いつく。

FBIの手がマフィアに伸びれば、報復としてアーヴィングと家族の命が狙われる。

手柄を上げることに躍起になっているFBIの鼻を明かして、みずからの命を窮地から救う方法とは。

騙し騙され、といったコンゲーム的な面白さがほとんどといっていいほどないこの映画の中で、唯一その要素があった場面でした。

近くの席で観てたおじさんも種明かしのシーンでちょっと吹いてた。


騙し、といえばシドニーは途中までは完全にリッチーの側についたと見せかけていたんだけど、リッチーから「愛してる」と言われて真実を告白する。

自分はイギリス貴族イーディスではない、と。

その時のリッチーの唖然とした表情。

もしも彼が本当にシドニーを愛しているのなら彼女がイギリス貴族でなくたって関係ないはずだが、リッチーにはそれは受け入れられない。

彼は、この世には存在しない女性を愛していたのだ。




残念ながら『ザ・ファイター』の時に「作品としてガツンと打ちのめされるものがない」と感じたように、今回も観終って深く余韻に浸るということはありませんでした。

特にラストが「…ふーん」といった感じで。

結局、アーヴィングはロザリンと別れてシドニーと結婚。そして前妻と離婚したあとも息子とは週末に会えることに。

映画の結末は史実とは異なるそうだけど、だったらもっと大胆に変えてしまってもよかったんじゃないかなぁ、と思ったんですが。

最後にアーヴィングは頭丸めるとかw

なんとなく丸く収まって、ブラッドリー・クーパー演じるFBIのリッチー・ディマーソだけが泣きを見た、というのではなんだか釈然としないんだよなー。

現実ではマフィアとのやりとりはもっと苛烈だったらしいし、アーヴィングのモデルであるメル・ワインバーグの元奥さんはワインバーグが愛人と再婚する前に82年に自殺している。

「あなたのリストに私は載っていない」とアーヴィングに怒りをぶつけたシドニーが最後には彼の愛情を勝ち得た、というのは物語としてはうまくまとまったことになるのかもしれないけど、でもいいのかな、これで。


それでも『ザ・ファイター』よりはこの映画好きだなぁ。

リッチーの上司が話していた「氷上の釣りの話」のオチが最後までわからないのは、ちょっと『ゼロ・グラビティ』のジョジクル兄貴の話みたいで、こういうパターン多いですねw


映画の撮影当時22歳(!)だったジェニファー・ローレンスはモデルとなったワインバーグの妻よりもはるかに若いし、たしかに見た目はそんなにトウが立ってるようには見えないんだけど、そこはアカデミー賞主演女優賞を獲った底力で貫禄のおばちゃん演技を披露してました。


Wings“Live and Let Die”に合わせてお掃除。「パパはクソ野郎よ」



ところで、ジェニファー・ローレンスは同じデヴィッド・O・ラッセル監督の『世界にひとつのプレイブック』でオスカーを獲得してるけど、シドニー役のエイミー・アダムスはこれまで『ザ・ファイター』などで幾度もノミネートされながらアカデミー賞ではいまだ無冠。

なので、映画の中でアーヴィングを巡って火花を散らすJ・ローレンスとA・アダムスの姿がまるでオスカーを取り合ってるみたいに見えてきたのだった。




僕はエイミー・アダムスって初めて見たのがディズニー映画『魔法にかけられて』のノーテンキなお姫様役だったせいもあって、歌って踊れる明るいおねえさん、というイメージだったんだけど、その後のフィルモグラフィを見ると、そういう子どもから大人まで楽しめる映画の陽性のヒロインとシリアスな人間ドラマでの知的だったり肉感的な女性役など、作品と役柄を実にうまく選び分けていて、あの大きな瞳にしたたかな野心を宿らせている女優さんなんだなぁ、と。

この映画では不二子ちゃんみたいにしょっちゅうおっぱいが見えそうな衣装着ててステキでしたが。

 


僕はこの女優さん以前からけっこう気になってるんだけど、でも彼女の見開かれたあの瞳は少々怖い時もある。

あまり「頑張り」が目立つと、ちょっとシンドかったりもするんで。

この映画で演じたシドニーが頭がよくて成功を手にするために貪欲に行動する女性だったように、エイミー・アダムスにもまたチャンスがあらば我が物にしようとするハングリー精神が濃厚に感じられるのだ。

で、それはジェニファー・ローレンスもまたそういう女優さんなんだよな。

いかにもアカデミー賞狙いのような作品の合間に、しっかり『X-MEN』や『ハンガー・ゲーム』などにも出てたりして抜かりがない。

演技力を高く評価されながら、メジャー系の作品でもちゃんと顔を売っている。

だからこそ、同じようにメジャー大作から小規模なドラマまでを自在に行き来するクリスチャン・ベイルやブラッドリー・クーパーたちとのアンサンブルは観ていて実に楽しかった。

ジェレミー・レナーがアクション系の筋肉キャラだけじゃなくて、味のある演技ができる人なのもよくわかったし。

今まさに旬の人たちが揃い踏み、といった具合で、彼らの演技合戦を観られたのが最大の収穫でした(^_^)





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