ダグ・リーマン監督、トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライト、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、アレハンドロ・エッダ、マウリシオ・メヒア、ジェシー・プレモンス出演の『バリー・シール/アメリカをはめた男』。

 

1970年代の後半、大手航空会社TWAのパイロット、バリー・シール(トム・クルーズ)はその操縦技術を買われてシェイファー(ドーナル・グリーソン)と名乗る男からCIA(中央情報局)の任務への参加を持ちかけられる。中米の国々を偵察撮影したり武器を運んだりCIAとパナマのノリエガ将軍を仲介したりするうちに、麻薬組織「メデジン・カルテル」の麻薬の密輸に関わるようになる。

 

オール・ユー・ニード・イズ・キル』のダグ・リーマン監督とトム・クルーズのコンビが描く「事実を基にした物語」ということで、しばらくトム・クルーズ主演映画はご無沙汰だったので、久しぶりに観たいな、と思って。

 

日本語字幕は、トム・クルーズといえばこの人、戸田奈津子!かもだが(今回は言いません)!

 

映画評論家の町山智浩さんの解説を聴いていたけどうろ覚えだったし、内容についてはほとんど予備知識のないまま鑑賞。

 

最初は不安定な手持ちズームとかペースが速くて場面がポンポン飛ぶ編集なんかに「あぁ、こういうの苦手」とちょっとノれなかったんだけど、だんだん慣れてくると気にならなくなって、主人公バリー・シールの慌ただしい日々と映画の走り気味のテンポがうまく重なって結構楽しめました。

 

まぁ、麻薬がらみの話だし実話なので、ただ「面白い」では済まないのだけれど。

 

実録犯罪モノということではちょっと『アメリカン・ハッスル』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』なんかを連想しました。

 

主人公が調子のいい男、ということでは『ウルフ~』に近いノリ。

 

正直政治や麻薬、アメリカと中米の国々の関係については知識がないためにちゃんと理解はできていないんだけど、映画の中でトム・クルーズが自らその辺のことについては解説してくれるので混乱はしない。

 

一応、ラストについても言及するので、ネタバレを避けたいかたは鑑賞後にお読みください。

 

 

主人公のバリーが堅くて実入りのいい航空会社の仕事を辞めてどうして危険なCIAの任務に就いたのか、納得できる理由はない。

 

バリー・シールというのはそういう男だった、と思うしかない。

 

金は必要だが、それだけが目的ではなくて、「冒険こそ命だろ?」ってな具合に刺激を求めてのことだったのかもしれない。

 

とにかくこの人、仕事を頼まれると断わらない。まぁ、断われない理由もあったわけだが。

 

最初は何もかもうまくいっているように思えたのが、やがて暴走が止まらなくなり歯止めが利かなくなる。

 

ひっきりなしに“仕事”が入ってくるので麻薬の密輸で儲けた金を洗浄する暇もなく、家の中や敷地のあらゆる場所に隠す。馬小屋にまで無造作に溢れている札束。

 

こんなに大金があっても気軽に使うこともできない。最初は夫に振り回されてキレていた妻も、やがてそんな異常な生活に慣れていく。

 

 

 

このあたりや終盤になってついにDEA(麻薬取締局)とFBI(連邦捜査局)、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)が次々とバリーの家に押し入ってくる場面なんかは完全な喜劇だし、劇中でトムクルが意味もなく家族たちの前でペロッと出す生っ白い尻が2回ほど拝めます。あと飛行機に乗ったままでの「無重力SEXシーン」もあり。

 

結局、ウハウハだった彼らはそのしっぺ返しを食らうわけですが。

 

この映画を観ていてまず感じるのは、「麻薬カルテル怖ぇ」ってこと。

 

仲間のはずのバリーを部下に「撃ち殺せ!」と命じて、その直後に「嘘だよ~ん、ビビッてやんの~w」と笑うとか、一番やってはいけない冗談を平気でカマしてくるところなど、あぁギャングってこういうめんどくさい奴らなんだろうなぁ、と思わせる。

 

 

 

僕はあちらの国のこの手の麻薬戦争モノみたいなのに疎いんですが、そんな僕ですらこの映画にも出てくる麻薬王パブロ・エスコバルの名前は知っていたし、バリーとの間には言語の問題もあるけど(彼らが喋るスペイン語はわからないけど、アメリカ人のことを指す「グリンゴ」という言葉だけがハッキリ聞き取れた)、何よりもまず彼らギャングの「言葉の通じなさ」がスゴく怖いと思った。

 

いつ、何を理由に因縁つけられて殺されるかわからない。

 

そもそも関わってはいけない人々なんだよね。一度関わったら死ぬまで手を切れない。

 

そんな奴らに目をつけられたバリー・シールという男は、よっぽど目立っていたんでしょう。

 

麻薬カルテルの連中は速攻で自分たちのためにバリーを使い、彼が妻の頭の悪い弟に手を焼いているのを知ると、早速車に爆弾を仕掛けて殺す。

 

そしてバリーがアメリカ政府との司法取引によって自分たちを裏切ると、今度は復讐のために執拗に彼の命を狙う。邪魔な人間には容赦しない。

 

どんなに金持ちになっても、その分リスクがあまりにも高い。犯罪のために使ってる知識や技術を他のことに使えばいいのに。

 

犯罪組織もそうだけど、彼らの撲滅を狙うCIAのやり口もまた汚い。

 

バリーの大量の麻薬の密輸を黙認し、用済みになると証拠をすべて焼却してバリーを見捨てる。

 

ドーナル・グリーソン演じるCIAのシェイファーは、いつもにこやかな顔でカジュアルに無茶な要求をしてくる。もし断われば、エスコバルらメデジン・カルテルと繋がって麻薬の密輸に関わっているバリーは刑務所行き。

 

ドーナル・グリーソンっていつもいろんな映画でヒドい目に遭ってる人ですが、今回は珍しくトムクルをヒドい目に遭わせる側。

 

 

 

 

ハンバーガーを頬張りながら重要な話を軽く聞き流したり、CIAの内部でもいかにも公務員みたいな感じで人の命が懸かっている重要な事柄も自分のポイントを稼ぐための手段ぐらいにしか考えてないのがよくわかる。彼を見ているとその薄情さにゾッとする。

 

バリーに対する「シェイファーって誰だ?」という冷たいトボケ方が怖かった。

 

逮捕されたバリーが若い頃のジョージ・W・ブッシュと鉢合わせして会話するシーンが可笑しい。のちの大統領がボンクラ息子だった頃の話w

 

まぁ、これもその後ブッシュがやったことを思い起こすと笑えないんですが。

 

そして、エスコバルたちを盗撮した映像がTVに映し出され、そこにバリーも映っていたために彼の裏切りが露見して命を狙われることになる。誰も守ってはくれない。

 

身から出た錆とはいえ、バリーをいいように使っていたCIAすら彼を保護しない。そもそも任務のことも「なかったこと」にしてしまっているから。

 

家族は別の場所に避難させて毎日泊まるモーテルも変えて各地を転々としていたにもかかわらず、バリーは見つけ出されて射殺されてしまう。

 

彼は「アメリカにはめられた男」だったんですな。手玉に取ってるつもりがまんまと踊らされていた。

 

例のごとく、あくまでも「事実に基づく物語」なのでTWAを辞めることになった経緯やCIAへの関与の順序とか実際とは違ってるところもいろいろあるようですが(ってゆーか、本人はトム・クルーズとは似ても似つかない顔)、勢いと諧謔味で楽しませながら権力や犯罪組織の恐ろしさを感じさせもして、なかなか見応えがありました。

 

 

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