今回は『病を引き受けられない人々』のシリーズの第8回をお送りいたします。
前回までの話はコチラ
第1回 ×河合隼雄
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12005136664.html
第2回 ×養老孟司
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12026447737.html
第3回 ×北山修
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12026447915.html
第4回 ×中井久夫
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12037257465.html
第5回 ×中村桂子
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12037257655.html
第6回 ×門脇孝
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12048361197.html
第7回 ×鷲田清一
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12048361508.html
本書はコチラ
病を引き受けられない人々のケア: 「聴く力」「続ける力」「待つ力」
石井 均 著
http://www.amazon.co.jp/dp/4260020919/
今回の対談相手は現在、医療経済研究機構所長を務めておられる経済学者の西村周三氏でございます。以前、当ブログで紹介しました『行動健康経済学』の著者の一人でございます。
・『行動健康経済学』 西村周三、依田高典、後藤励
その1 http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12005138073.html
その2 http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12026444157.html
その3 http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12026447121.html
それでは、さっそく見てまいりましょう。
「今の楽しみか、将来の健康か」
西村「自己負担が上がると一時的に受診率は下がるけれど、必ず元の水準に戻るのです。これをどうやって説明するのかといったら、経済学では説明できないのですよ。(P199)」
経済学の世界では値段か上がれば売れる量が減り、値段が下がれば売れる量が増えるという単純な数式で説明されますが、人間は必ずしも合理的とは限らないようです。
合理的経済人(ホモ・エコノミクス)を想定した現代の主流派経済学が行き詰っているのは、このような現実の事象を説明することができないことからも分かりますね( ̄▽ ̄)
西村「経済学では、病気のときも元気なときも、考えが変わらないという想定で話を進めるからです。(P200)」
インフレでもデフレでも対処法が変わらなかったり、やせでも肥満でも対処法が変わらなかったりする原因はここかもしれません。西村氏いわく「人間は病気になったら、元気なときと考えが変わる」ものなのです。おなかの調子が悪くてムカムカするときに焼き肉をたくさん食べたりしますか?という話ですね( ̄▽ ̄)
経済学の世界では、そんな時でも焼き肉の値段が下がればたくさん食べるようになるらしいです(苦笑)。
石井「僕らが習った医学は、検査値が良くなっているとか、画像所見が改善しているなどの客観的な指標をベースにしたものでした。(P202)」
これに続けて石井氏は患者の主観を大事にしないといけないのではないかと述べます。
GDPが上がってます。インフレ率が上がってます。失業率が改善しています。雇用者報酬が増えています…とか言われても、国民の実感として景気が良くなっていないのならば意味はないのかもしれませんね。
石井「たとえば、腰が痛い、皮膚がかゆい、そして糖尿病がある。そういう方に「自分にとって気になる順番に並べてください」と言ったら、たいてい糖尿病がいちばん下になります(笑)。(P203)」
患者さんにとってみれば自覚症状のない糖尿病より自覚症状のあるもののほうが重要と感じるようです。現在、日本経済はデフレ不況の真っただ中ではございますが、国民の感情としては「デフレをなんとかしてくれ」というものより「自分の懐をどうにかしてくれ」「食うものをどうにかしてくれ」というものが優先されるのではないでしょうか。客観的な指標よりも、景況感のような主観的な指標が重要なのかもしれません。
(ちなみに日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると2015年12月の調査で1年前より景気が良くなったと感じる人が9.0%、悪くなったと感じる人が26.3%のようです。)
石井「患者さんにとって、「いまの楽しみか、将来の健康か」という選択は、そう簡単ではないと思います。(P205)」
なかなか質の違う両者を比較するということは困難なものです。しかし、西村氏によれば人間は合理的ではないものの、「合理的に動きたい」というイデオロギーは持っているようで、人間は合理的ではないのだから…で片づけるのはよくないようです。
たとえば、暴飲暴食をすると太ると分かっていて暴飲暴食をしてしまう人がいますが、この方は決して太りたいわけではないのです。いまの楽しみを許容しつつ、将来の健康を放棄しない、そんなやり方が大切になってくるのかもしれません。
西村「経済ではいろいろなことを考えますが、基本的にはお金という一次元の尺度が幅を利かせています。ところが医療は多次元のさまざまな要素を考える分野だと、恥ずかしながら研究に取り組んで10年以上経ってからわかりました。(P207)」
もちろん、経済についても多次元の要素を考えるべきだとは思いますが、残念ながら主流派経済学がそういうものになっていないので…(;^_^A
どの分野に関しても評価尺度が限られていると、手落ちになる部分がどうしても出現してきます。
たとえば、糖尿病の世界ではHbA1cという約1~2か月の血糖値の平均を評価できる指標が用いられており、これを見て血糖コントロールの良し悪しを判断するのですが、この平均の指標がたとえよくても著明な高血糖や著明な低血糖が存在すると合併症の発症などに悪影響を及ぼしたりすることが知られていますし、また、血糖コントロールが良くてもQOLが改善されないのならば、それもまた問題といえるでしょう。
そして、QOLをどのように評価するのか。
ここについても多次元な評価尺度が必要になるでしょう。
一元論あるいは、それに準ずる少ない次元で物事を考えてしまい、その他の次元については思考の外に抜け落ちてしまう…。これも、またキッチュと呼べる代物なのかもしれませんね。
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』・その1
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