『行動健康経済学』・その1 | くらえもんの気ままに独り言

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 今回から、また読書まとめシリーズをお送りしたいと思いますが、今回取り上げますのは依田高典氏・後藤励氏・西村周三氏の共著である『行動健康経済学』(日本評論社)でございます。


本書はコチラ
行動健康経済学―人はなぜ判断を誤るのか

http://www.amazon.co.jp/dp/4535555966/


 この本のサブタイトルには「人はなぜ判断を誤るのか」とありますが、帯にはこのように書かれております。


 なぜ喫煙をやめられないのか?
 なぜ肥満をとめられないのか?
 ホモエコノミクス(超合理的な経済人)という理論優先のご都合主義を反省し、分かっていてもやめられない限定合理的な人間の行動モデル構築への道を開く


 つまり、経済学の観点から見た医学研究というような側面を持った内容になっているわけです(o^-')b

 著者の先生方は行動経済学・経済心理学・医療経済学というような分野を専攻しておられるわけですが、依田氏と西村氏は1970年代の時点で主流派経済学と現実の人間の行動との乖離に疑問を感じており、日本における行動経済学の第一人者となられたようです。


 というわけで、自分の勉強も兼ねて、本書の内容を分かりやすくかいつまんで、まとめてみたいと思います。


第1章 行動経済学の現在


 本書では健康をテーマにした行動経済学を取り扱っているのですが、この行動経済学の重要な概念が限定合理性というものです。人間の意思決定には知識と計算能力の限界があるという意味ですが、簡単に言うと「いつも合理的に行動するとは限らない」というわけです。ちなみに完全に合理的な経済人なるものを想定しているのが主流派経済学でございます。


 なぜ人間は合理的に行動しないことがあるのでしょうか?一つの解釈は人間が愚か(完璧ではない)というもの、もう一つは進化論的合理性、つまり文明の発展に伴い理性を鍛えてきた人類ですが、以前よりある感情などの機能と葛藤を起こすことにより、非合理的な行動をとることがあると。


 経済学において期待効用理論なるものがあって、期待効用の大きいものを人間は選択するとされておりますが、まぁ、人間なかなかそういう風には動きません。状況によっては、たとえ経済学的にはまったく同じ条件であっても異なる選択をするものです。例えば50%の確率で101万円もらえる50万円のくじが1人1回だけ買えるとして、買いますか?

 主流派経済学的には買った方が期待効用が大きいので全員このくじを買うということになるでしょうが、まぁ、普通は買いませんよね。


 人間には損失を回避する習性や確実性を重視する習性があり、50万円を失うリスクや不確実性を避けようとするのです。


 また、人間は直近の事柄には衝動的で、遠い先になると忍耐強くなったりします(時間非整合性)。例えば今5万円もらえるのと、1年後に6万円もらえるのはどちらがよいかと聞くと多くの人が今5万円をもらおうとするのに対し、10年後に5万円もらえるのと、11年後に6万円もらえるのはどちらがよいかと聞くと11年後の6万円を選択する人が多いようです。


 リスク回避する性質は人間の本能的な直感というようなものですが、これが合理的な考え方と違った行動を人間にもたらすのです。実はこのあたりの脳内の葛藤は脳科学の発達によって徐々に明らかになりつつあるようです(ニューロエコノミクス)。


 このように発展してきた行動経済学を健康に対して応用しようというのが行動健康経済学というわけです。


第2章 嗜癖と依存症の経済学


 やめたくてもやめられない(依存症)、はまってしまう(嗜癖)ということはアルコールや喫煙、ギャンブルなどで社会問題になっていますが、これを経済学から観てみるとどうなるでしょうか。


 ここではタバコの消費について考えてありました。


 1960年代の時点で習慣性形成に着目し、過去の消費が現在の消費を促進させるというモデルを構築していたようです。1970年代に入ると健康を害するという負の影響が消費に影響を与えるということも計算に組み込まれます。そして、これらのモデルからは将来の値上げが予想される場合には現在の消費を減らそうとすることも導かれます。


 しかし、これらのモデルではやめたくてもやめられない人はいなく、やめた方が得ならやめるし、やめない方が得ならやめないという感じになってしまいます。


 そこで不確実性を考慮に入れたモデルが考えられ、さらに時間整合性を考慮に入れたモデルが考えられ、そして、人は時として冷静になったり衝動的に動いたりするという個人内葛藤を考慮に入れたモデルが作られます。


 このモデルでは人は通常は冷静モードで、この時には喫煙の契機が訪れた場合にもタバコを吸わない決心をすることが可能(実際に吸わないかどうかは別の話)ですが、契機に出会う機会がたくさんあったり、今までの消費量が多かったりすると衝動モードとなり、とにかく何が何でもタバコを吸おうと行動してしまうということになります。


 現在、このような経済モデルをエビデンスに基づきながら様々な検討が行われているようでございます。


第3章 行動経済学から行動健康経済学へ


 新古典派経済学の考え方では人間の行動は説明できません。例えば深夜に子供が熱を出した時、新古典派的には無料であれば救急車を呼ぶのが得であるため全員が救急車を呼ぶと考えますが、実際には救急車を呼ばずに翌朝病院へ連れて行くという人が多いのです。(最近では軽症でも救急車を呼ぶ事例が増えてきてはおりますが。)


 つまり、新古典派経済学ではモラルの存在を考慮しないのです。


 さて、安全性への志向が強まり、地震や事故への対策が求められますが、十分に対策をしたとしてもリスクをゼロにすることは不可能ですし、リスクを例えば15%から8%へ7%下げるのに要するコストと8%から1%へ7%下げるのに要するコストとでは後者の方がかなり大きくなります。(最近の風潮ではコストを減らしてリスクも減らせという空気が蔓延していますが、リスクを減らすにはコストが必要なのは当たり前です。)


 一方、リスクに関して手術の成功率が医学の発達で99.5%から99.8%に上がりましたよと医療者が患者に説明しても、患者にとってはリスクが存在することに変わりはなく的確にリスクを認知することができませんし、0.5%と0.2%の違いも理解できません。しかも、この0.2%に当てはまった時には新古典派経済学が想定する以上に効用が小さくなります(ショックがでかいということ)。行動経済学的観点から言えば、適切な教育の上、望まない事態に陥った時のケアが重要になってきます。


 それでは喫煙について行動経済学から分析してみましょう。喫煙は死亡リスクを2倍以上に増大させ、入院や死亡による社会的損失の推計は年間約4兆9000億円に達するとも言われています。というわけで、政府は国益の観点からも禁煙対策を進めたいところでございます。そこで、最も効果的な禁煙対策を考える必要があるというわけですね。


 伝統的な医療経済学ではどうやれば喫煙率を引き下げることができるかを導き出すことはできませんでしたが、行動経済学を用いることによって、それを考えることができるようになったのです。そして、行動経済学的視点に基いて健康や医療を分析するアプローチが行動健康経済学ということになるわけですね。


第4章 ニコチン依存と禁煙意思


 喫煙は依存症の問題の他に癌などの死亡リスクの増大や入院や火災などによる経済的な損失などなど政策的対策が求められている問題です。ちなみに日本は先進国の中でもトップクラスの喫煙率、最下位のたばこ対策、安いたばこ価格を誇っております(苦笑)。


 タバコの価格と喫煙率および消費量には逆相関の関係が認められるほか、たばこ税にはタバコをやめたくてもやめられないという依存症に陥った人に対しても効果的なストッパーになり得ることが知られています。


 ニコチン依存症は今や病気としてとらえられており、自分の意志で喫煙をやめることができない場合には禁煙治療の対象となります。


 それでは、喫煙者はどういった条件があれば禁煙しようと思うのでしょうか(実際に禁煙するかどうかは別の話)?


 研究結果によればニコチン依存度があまり高くない人は風邪をこじらせたときに寝込む期間が長くなるという情報や家族の肺がんが増えるという情報をゲットした時にタバコやめようかなと思うのですが、ニコチン依存度が高い人はやめようとは思わないようです。一方、タバコの価格が上がった場合にはニコチン依存度が高い人も低い人もタバコをやめようと考えるようです。ただし、50%の人が禁煙しようと思うタバコの価格は低度喫煙者では467円であったのに対し、高度喫煙者では983円でした。


 高度喫煙者になると将来の健康より目先の喫煙を優先してしまいがちになるのですが、このようなケースでもタバコ価格の上昇は禁煙の意思を持たせるのに有効というわけですね。


 まぁ、もちろん高度喫煙者ほど禁煙の意思があったとしても禁煙に失敗しやすいのではありますが(^_^;)


 というわけで、今回はここまで。


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