『病を引き受けられない人々のケア』×河合隼雄 | くらえもんの気ままに独り言

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 今回から石井均氏の『病を引き受けられない人々のケア』(医学書院)を不定期連載していきたいと思います。


本書はコチラ
病を引き受けられない人々のケア: 「聴く力」「続ける力」「待つ力」

石井 均 著

http://www.amazon.co.jp/dp/4260020919/


 本書では糖尿病についての話を糖尿病専門家以外の視点から見ていくという、とてもユニークな本になっております。糖尿病治療にはこうすればいい、ああすればいいというのが、様々な研究で徐々に明らかになってきてはおりますが、実際問題、患者側が医療者側の言うとおりにする(食事制限を守るとか薬をきちんと飲むとか)とは限りません。


 石井氏は現在、奈良県立医科大学・糖尿病学講座の教授を務めておられますが、「医学」から見ただけでは糖尿病というものがどんなものかをつかむことはできないということで、様々な分野の方々と本書の中で対談することにされたそうです。(石井氏は「医学」とはちがう「医療学」なるものを興そうとしておられます。)


 今回はその第1弾ということで、著名な臨床心理学者でありました故河合隼雄氏との対談を取り上げたいと思います。


 また、当ブログは糖尿病とそんなに関わりのない読者も多いかもしれませんので、対談の内容を国民経済と絡めながら解説していきたいと思います。


 それでは、いってみましょう(^O^)/


「何が楽しみで生きていくのか分からないんだ」


河合「人間というものは完全に近代医学の対象にはならないし、なれないところが非常に大事ではないでしょうか。(P9)」


 糖尿病やアトピー性皮膚炎などに代表されるような慢性疾患は病気に対応するだけでなく、人間というものを相手にしなければならない類の病気だということなんですが、こうしてみてみると、医学は経済学でいうところの新古典派経済学とか主流派経済学的なもので、医療学はケインズ経済学などのような動態理論に近い印象ですね。


石井「(心理テストを使うことで)かえって、「やらないのは、指導する側の問題じゃなくて、本人に問題があるからだ」というふうになってしまったんです。(P13)」


 糖尿病の治療ができない人の助けになるようにすることが医療者の目的であったはずなのに、患者側の要因に責任をもとめがちになってしまうってことですね。そう言えば、国民の生活を豊かにするのが政治あるいは言論の目的であったはずなのに、「国民の努力が足りない」だの、「働かざる者食うべからず」だの言ってる人もいるようですね。目的を見失わないようにしたいものです。


石井「「われわれは、ひょっとしたら糖尿病について半分しか知らないのではないか」と思ったんです。(P14)」


 医療者側から見た糖尿病患者側から見た糖尿病別物だったりします。糖尿病が何であるかを知りたければ、その両方に思いを馳せる必要がありそうですね。ただ、医療者側にしても医療者側から見た糖尿病のすべてが見えているわけではありませんし、逆もまたしかり。つまり、お互いに糖尿病について実は4分の1しか知らないのかもしれません。
 サプライサイダーと呼ばれる人たちが需要側を見ようとしないのと同じことかもしれませんね。


河合「臨機応変にやっていったらいいんで、どっちが正しいということではないけど、人間関係を考えろというのが私のやり方なんです。(P18)」


 人間関係に注目せずに技術的なことにばかりに目が行ってしまうと、うまくいかないことが多いのではないでしょうか。糖尿病治療や心理療法が行われるうえで良好な人間関係の構築が重要ということですね。
 なんとなく、先日紹介しました『プラグマティズムの作法』に通じるところがありますが、特定のやり方にこだわるのもいけませんし、人間関係を無視して「三方わろし」になってもいけないってことですね。


河合「よほどのことがあっても希望を失わない人間にならねばならない。私は、それがいちばん大事なことだと思っているんです。(P19)」


 医療者側が希望を失って、「あぁ、コイツはダメ人間だな。」って見捨てたりすると、それは患者に伝わってしまい、もう、その患者は治療していくことができなくなってしまいます。しかし、希望を失わないというのはなかなかに難しいことです。例えばネオリベ汚染がひどくて、どうしようもない状況だったとしても、諦めないってことですが、ここで勘違いしてはいけないのは「どうにかできる」とか「どうにかしなければならない」って思わないことです。自分では「どうにもできない」ことを自覚しつつ希望を失わないことが大事です。(「どうにもならない」とは言っていません。)
 「楽しみがない、死んだ方がマシだ。」と言ったりする方を前にして、見捨てない、希望を失わない、という態度が必要なんでしょうね。


「痛いのだけ治してくれればいい。糖尿病は放っといてくれ!」


河合「いまの大きい問題は、医学のエライ先生がみんな教授になっていることです。そして、みんな医学を教えておられるんです。(中略)。ところが、医療学については何も習ってないから困っているんです。(P31)」


 医療において「医学」だけでは太刀打ちできない問題はたくさんあります。実際の人間との関わりを考える「医療学」が医療の現場ではもっと価値を発揮してもいいのではないでしょうか。しかしまぁ、やっぱり主流派経済学チックな感じですね(^_^;)
 近代医学が問題であるとは言いませんが、それだけでは生身の人間に対応できないということですね。


石井「(治療に抵抗しそうな患者が来て)私が「今度の方は、さすがにしんどそうやな」とか言うでしょう。そしたら若い看護師が、「先生何言うてんの!この人がどう変わるか楽しみです」って言い出したんです。(P32)」


 これが、まさしく希望というやつですね。
 この患者を「変えよう」とか「変えなければいけない」というのではないのです(こんな考え方をしてもうまくいきません)。変わることを信じているのです。決して楽観視しているわけではなく、ただ信じているのです。


河合「難しい人ほど、言葉がなくなります。希望をもっていませんのでね。それでも、こちらにやる気があれば、希望をもってその人に会い続けることです。(P34)」


 言葉のやり取りには限界があります。ケースによっては言葉が出ませんし。それでも希望をもって会い続ける事によって人は変わるといいます。言葉がなくとも、変わる兆候というものはあるらしく、それを見抜く観察眼が必要なのですが、それには相応の専門的訓練が必要なようです。しかし、その兆候を見抜くことができるなら、希望を持ち続けることができやすくなりそうです。


河合「近代医学を超えたところに、僕らがどんなに役に立つかを示したいと思っています。(P39)」


 みんなで事例を持ち寄って検討していくという医療学の研究を臨床心理学のプロが主導してやっていくことが大事です。そして心理的アプローチも重要視されることで、より患者に対するケアも充実したものになっていくのではないでしょうか。


 というわけで、今回はここまで。それにしても糖尿病に関わらずほかのことでも同じようなことが言える感じがしますね。優秀な方々がたどり着く答えというのは一定の普遍性を有しているのかもしれませんね。


 次回はいつになるか分かりませんが、お楽しみに(^O^)/


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