銀二貫 ~第2章「商人の矜持」②~
2月5日ブログ「銀二貫 ~第2章「商人の矜持」①~ 」の続き。
2月5日ブログ「資生堂パーラー GINZA TOKYO 」」
2月6日ブログ「総本家 小鯛雀鮨 鮨萬 」
老舗のお店を紹介している時に気付きました。
大阪商人の「暖簾/のれん」の意味を知りたいなら、多くの老舗店・企業に聞くのが一番!
見つけました。⇒ 大阪NOREN百会 、大阪「NOREN」百会ホームページ
大阪「NOREN」百年会は、大阪商人の歴史と伝統を守りながら新しいものを生み出し、 大阪の経済発展に貢献していくとの趣旨に賛同した創業百年以上の企業が集まって平成2年11月に設立された団体。
2月6日ブログ「総本家 小鯛雀鮨 鮨萬 」で紹介した、創業1653年、すし加工販売の「㈱小鯛雀鮨鮨萬」さんも、会員のお一人のようです。
大阪「NOREN」百年会は、「のれん」について、このように定義しています。
壱、のれんとは、永続性のシンボルであり、経営理念の表明である。
企業は継続することが使命であり、目的である。
伝統にしがみつくのではなく、時代の変化に適応した創意工夫を怠らないこと。
そして、顧客や得意先、地域社会から理解・支援され、企業の社会的責任を果たすことで、それははじめて実現される。
弐、のれんとは、長きにわたる信用の蓄積である。
信用の蓄積は、人間尊重の精神から生まれる。
仕入れ先、得意先、従業員、地域社会、そして製品を尊び、良い品質と適正な価格で誠実な取引を続ければ、社会から信用を受けることができ、商売の根本精神である永続的な成功が得られる。
参、のれんとは、時代に適応した経営革新によって生き抜く力の源泉である。
企業の存続には、時代性に応えた創意工夫と創造的な勤勉が必要である。
顧客に満足を提供するためには、的確なマーケティング、ニーズにあった製品・事業の開発、資源に新しい価値を見いだす創造力を養うことを怠ってはならない。
四、のれんとは、和合と共生の経営という強みである。
商取引のあるべき姿が、売り手と買い手双方の共生関係にあるように
企業が共同体として発展していくためには、何より「人の和」が大切である。
地域社会はもちろん、組織内においても同様で、「のれん分け制度」は、先達が残してきた資産といえる。
五、のれんとは、事業活動を通じて、社会的責任や社会的貢献を果たすことである。
大阪では、事業を通じて社会的責任や社会貢献を果たすという考え方が江戸時代から培われてきた。
利益中心主義より、利益の社会還元運動に重点を置くべきという老舗の精神から生まれたもので、今後も大阪の文化として継承していく。
(大阪「NOREN」百年会 ご案内 大阪のれん商法とは
より。
大阪「NOREN」百年会TOPページ>ご案内>大阪のれん商法とは)
私なりに、上記の大阪商人の「暖簾/のれん」の5つ考え方を、整理してみると…。
その企業・店が永続することにより、顧客、仕入先、得意先、従業員、地域社会の利益になり今後の支援が期待されるのであれば、その企業・店は、永続することを最大の使命としなければならない。(其の壱)
⇒企業・店が永続するためには、利益中心主義を捨て、利益の社会還元による、社会的責任の実践や社会貢献活動を、理念・目標として掲げなければならない。(其の五)
⇒目標達成のためには、時代性に応えた創意工夫と創造的な勤勉が必要となる。(其の参)
目標達成のためには、組織内において従業員が団結する「和」が必要となる。(其の四)
⇒そのような努力を経て、顧客や社会から長年にわたって信用を得ることにより生まれるのが「暖簾/のれん」である。現代では、商号や屋号というものが、「暖簾/のれん」、つまり、信用の蓄積を表象し、永続性のシンボルとなり、経営の理念を表明するものとなり得る。(其の壱、其の二)
⇒「暖簾/のれん」を築きあげるために和合し貢献してくれた従業員が、同じ精神を受け継ぎ、また別の場所で引き続き社会に貢献しようとする意思と気概があるのであれば、
信用の蓄積であり、技術やノウハウの蓄積でもある「暖簾/のれん」を独占することなく、その者に「暖簾/のれん」を分け与え、共生の道を選ぶべきである。
更なる、顧客、仕入先、得意先、従業員、地域社会の利益になることが期待できるのであれば、「暖簾/のれん」分け(現代でいえば、支店拡大、グローバル化も含むか。)は、企業・店の使命として積極的に行うべきである。(其の四)
私としては、現時点では、このように解釈しました。
そして、2月5日ブログ「銀二貫 ~第2章「商人の矜持」①~ 」での、
>企業・店などといった組織(家族にも当てはまるかも。)において、
>「暖簾/のれん」って、一体何なのか?
>「暖簾/のれん」は、従業員の信用を上回るもの?
>従業員の尊厳・価値観を犠牲にしてでも、「暖簾/のれん」を守らなければいけない場合があるのか?
の疑問に対しての回答は、このように考えました。
従業員が己の尊厳・価値観を守ることにより、企業の使命や目標が達成できるのであれば、それは最も望ましいことである。
しかし、従業員が己の尊厳・価値観を守る結果、企業の使命や目標を達成できない、つまり顧客、仕入先、得意先、他の従業員、地域社会の利益にならない場合には、経営者は、その従業員の当該行動を正さなければならない。
それでも従業員が当該行動を正さない場合には、その組織を去ることを勧め、ときには去るよう毅然と伝えなければならない。
法律の言葉で表現すると、(更に厳しい言い方になりますが) 経営者は、己の信用のため、「暖簾/のれん」の信用を失わせしめる者に対し、指導・是正・勧告、退職勧奨、懲戒処分、解雇といった形をとる。
場合によれば従業員自体は悪くなくても、企業の永続のため、整理解雇といった措置を決断しなければならない場合があり得る。
これらは、従業員個人にとって酷な結果となる以上、あくまで「暖簾/のれん」の信用を目的として、正当化されるべき手段。
しかし、和合と共生をも本質とする「暖簾/のれん」制度からすれば、そのような手段をとる事態は望ましい状況ではない、最も避けるべき事態である。
そのような事態を最終手段としてとらざるを得ない状況にならないよう、経営者は、常日頃から、従業員が、組織の使命・目標を共有し、組織内で一致団結し、時代性に応えた創意工夫と創造的な勤勉を積み重ね、最悪の事態を回避する経営努力をしなければならない。
「暖簾/のれん」の信用が、なにゆえ、個人の信用より優先するか?
この問いに対しては、現時点での私としては、こう答えることになろうかと思います。
以上。
和助の言葉を十分に理解していると言われるだけの回答ではないかもしれませんが…。
大阪で法律事務所を経営する弁護士として、企業や個人事業者の顧問を務めたりする場合には、単なる通り一遍の、法律の側面しかみえていない答えをするのではなく。
この「暖簾/のれん」の精神に照らし、本当に当該企業・事業者の永続のために、どう行動すべきかといった観点からアドバイスができるようになれる。
具体的にいえば、
もし、顧問先やご相談者が、「船場吉兆」のようになりかねない判断をしようとしていることに気付いたとき、
「社長、『暖簾/のれん』を傷付ける気ですか。止めましょう。」と、中立的な立場で毅然と自己の意見を伝え、相談者と共に改善策を考え知恵を出し合う。
そのような弁護士になりたいと思います。
「商人が何よりも大事にせなあかんのは、他人さんの自分に対する信用とは違う。暖簾に対する信用なんや。奉公人が己の信用を守るために実を通して暖簾に傷がつくのんと、己の信用は無うなっても、暖簾に対する信用が揺るがんのと、どっちが商人として真っ当か、よう考えてみ」
(「高田郁(かおる)著/銀二貫/株式会社幻冬舎発行/2010年8月発行」61頁より。)
松吉の行動は、松吉の正義・価値観に適うものではある。しかし、それを貫けば、店の顧客に不利益を与え、ひいては店・他の従業員の不利益に繋がる。
和助が率いる井川屋の使命である、社会的貢献、すなわち
町民の心の拠り所である、「大阪天満宮」再建のための寄進
これを果たすために。
松吉の尊厳を尊重しつつも、経営者として毅然とした対応をとる。
味わい深い言葉です。
【関連ブログ】
1月21日ブログ「銀二貫 ~序章~ 」
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2月4日ブログ「銀二貫 ~第2章「商人の矜持」①~ 」
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