【書評】ヘッテルとフエーテル | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

【書評】ヘッテルとフエーテル

題名からピンと来る人がほとんどだと思うけれど、副題を示せばそこに回答が。

そう「本当に残酷なマネー版グリム童話」と付けられた本書は、グリム童話のようなテイストで、現代にうごめく様々な「騙し」の手口を描き、大人向けの童話に仕立て上げられている。


もともと「童話」は、教育的な示唆を含んでいるものが多く、時に悪者への制裁や罰などが子供向けとは思えないほどに残酷なものであったりする。

本書は、そういった意味でも真に「童話」であり、かなり身近な話題が取り上げられていることに加えて、著者の辛辣な書きぶりも加わって、読む人によっては自らの身を省みて身震いするかもしれない。


たとえば、「自己啓発は提供者を儲けさせているだけ」とか、「年金制度の嘘っぱち」や、「債務の一本化による債務の増加」が寓話仕立てになっていて、最後にグリーム婆さん解説と、「悪知恵」として正しくは「騙されないための心得」、裏側から見れば「他人を騙して儲けるためのポイント」、が付いている。

ちょっと刺激的な表現のものを一部だけご紹介させていただこう。


グリーム婆さんの悪知恵

■ 損話は、赤の他人に儲かると勘違いさせてやれば、儲け話に早変わり

■ 遠い将来の約束はごまかしやすいし、やぶりやすい

■ お金が欲しかったら、あなたから遠くの人を救うふりをしなさい

■ 無料で相談に乗るふりをすれば、詐欺のカモが手に入る



他人が騙された話を第三者の立場で聞くと、えてして「なんでそんなことも分からずに騙されちゃったんだよ…」と思うくせに、自分がその立場になるところりと引っかかるというのはよくある話。

どの話も、詰まるところは、「もうちょっと自分の頭を使って考えようぜ」ということに他ならない。


たとえば、グリーム婆さんの解説の中で、「本当に100%儲かるなら、わざわざ赤の他人に教える人間などいない(p.24)」という教えがある。

「そんなことはない。自分は教えてあげるよ!」という聖人君子のような人がいたら申し訳ないけれど、僕も以前からこの考え方。

そういえば最近掛かってこなくなったけれど、一時期、外国為替証拠金取引の勧誘電話が結構掛かってきた時期があって、ついマニュアルどおりの若手営業マンに「じゃあ、あなた、会社をやめて自分がやればいいじゃない」と言ってしまったことがある。

(そのあと、なんだかんだで引っ張っていたら、上司が電話口に出てきて、夜中にも関わらず今から行くぞなどと半分脅しの入った電話になってしまったのだが…)


しかし、結局はそういうこと。

100%儲かる話を知りもしない人間が電話で誘ってくれるなんてことは、それこそ100%ないわけで。

それくらいのことは、普通に考えれば分かるはずなんだけれど。

(一応お断りしておくと、きっかけが勧誘電話であったとしても、リスクをきちんと把握した上で取引を始めることは自己責任の原則に基づいた行動であり、何の問題もない。)



さて、当ブログの読者にとって一番面白がって読める話は、第2話の「カネヘルンの笛吹き」だと思うので、その話も簡単に紹介しておこう。


主人公は「自分は普通の女の子じゃなくて、キラリと光るところがあると思っているけど、実際はどこにでもいる普通のOL(p.29)」のヘッテル。

そんな彼女が、ある日本屋で、カネヘルン・ミセス・インディさんという「女手ひとりで子供を育てながら、転職&キャリアアップで年収は10倍、給料を何千万円ももらい、何冊も本を書く肉食獣のような生活をしている女性(p.30)」が書いた本を手に取ったところから始まる。


多分、今読者の方々が、想像されたであろう実在の人物の名前を、読みながら僕も想像したわけだが(笑)


そんなカネヘルンさんの本に触発されたヘッテルは、彼女の提唱することを次々と自分も実践。

「会社に人生を預けてたまるか」と、断る力を駆使して嫌なことはすべて断」ったり、「入ってきた給料は、証券会社で投資信託、とくにアクティブファンドと呼ばれる積極的運用ファンド」で運用したりして、「インディーズ」と呼ばれる仲間たちとも盛り上がって楽しい日々を生きていた。


ところが、1年ほど経った頃、「会社で断ってばかりいたのでリストラ対象にあがって解雇」されたり、「土日に無理なく勉強しても、全然効果が出ず試験は不合格」だったり、「世界恐慌が発生、投資信託はあっという間に半値に」なったりして、散々な目に。

インディーズの仲間も、実際に成功した人としなかった人に分かれ、妬み嫉みで足の引っ張り合いになってしまって面白くなくなってしまう。


そしてヘッテルは……


という感じの童話。

どうだろう、いろいろと思うところはあるかもしれないけれど、僕はやっぱり「もうちょっと自分の頭で考えようぜ」というメッセージと受け取った。

もしかすると著者は、いわゆるアンチ寄りの考えをお持ちなのかもしれないという気もするけれど、そこは個々のご判断にお任せしたい。

(史上最強の人生戦略マニュアルは、確かに人生に大きな影響を与えてくれた一冊と言ってはいるけれど、書き下ろしではなく翻訳しただけなので、ここで挙げるのが果たして適切かなとも思うけど。)


アンチ?と思われるグリーム婆さんの解説文より

だれも疑問に思っていないのが不思議なんじゃが、本当に優秀でチャンスをつかむ人は何回も転職しない(優秀な人は高給で引き止められる、なぜ外資を転々とするんじゃ?)。

史上最強の人生戦略マニュアルを持っている人は、何回も離婚しないもんじゃ。

投資で成功できるなら何冊も本を出さないし、やたら講演やらボランティアで世界中を回らない(実際は、ミセス・インディが推奨した金融商品は軒並み50%くらい下がってる、というか、そもそも統計学的に薦められないモノを平気で推奨している?)。


少なくとも僕は、こうした解説文も、「自分の頭でこうした疑問に対する答えを出した上で、それでも学ぶべきところがあると思うのなら、あとは自己責任でどうぞ。ただ、こういう視点を持たないとダメだよ」と読む。

僕も以前読んだ時に、投資関連の話には少し疑問を持ったので、そこは見習っていないなど、取捨選択をきちんとすればいいだけのことだ。



現代に生きるすべての大人にお薦めしたい童話集。

辛辣な話に乗せて、知らなかった実社会の仕組みなどを押さえさせてくれる一冊。



【関連リンク】

著者ブログ: マネー・ヘッタ・チャン 物語るモノガタリ


【基礎データ】

著者: マネー・ヘッタ・チャン

出版社: 経済界 2009年11月

ページ数: 152頁

紹介文:

心配性でいつも不安な妹、ヘッテル。お金のことばかり考えてる兄、フエーテル。

激動の時代を生きる2人を待ち受ける末路とは―。


ヘッテルとフエーテル 本当に残酷なマネー版グリム童話
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経済界
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