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Islam is Addin, a way of life -書評- イスラームとは何か

イスラームとは何か (講談社現代新書) これまでビジネス書を読み漁ってきた中で、「宗教」についての理解を深めることの必要性を何度も感じさせられてきました。

ただ、特段困ることもなかったので、ついつい後回しになってしまっていました(良くないですね、はい。。。)


しかし、意図的にブログの書評記事を休むことによって、「ブログを意識して新刊に手を伸ばす」という、ある意味歪んだ読書が減り、もう少し純粋に読みたいものを読めるようになってきました。

そんな中で手に取ったのが本書です。

僕にとって「イスラム教」というのは、高校の歴史か何かで習ったところで完全に知識がストップしていたのですが、本書はそんな僕の浅薄な知識をことごとく打ち壊し、新たな世界を見せてくれました。



まずは単純に呼び方から。

タイトルにもありますが、「イスラム教」ではなく「イスラーム」が正しい用法。

そして、イスラームの教典といえば高校(中学校?)で習った「コーラン」ですが、これは「クルアーン」。

さらに、イスラームの開祖といえば「モハメッド」と習ったわけですが、正しくは「ムハンマド」。

筆者によれば、最近は正しい表記で表されていることが多いそうですが、ほとんど見かけたような記憶もなく(汗)、こんな初歩的なところから僕の知識のアップデートは始まります。


こんな調子ですから、新発見を一つ一つ書き出していったら限がありません。

そういう話は個人的な読書ノートに留めておくことにしますが、とはいえ、イスラームを理解しようとするうえで、抑えておきたい基本的な考え方はさらっと整理しておきます。


しばしば「無宗教」といわれる僕たち日本人にとってはなかなか理解しがたい点ですが、ムスリム(イスラームの信仰者)にとっては、イスラームは僕たちのイメージする「宗教」を超えています。

ちょうど、本書を読んでいたときに目に留まったのが以下の記事です。


Hadi: We will amend Constitution │ New Straits Times

この記事の中で、“It is not right to say Islam is a religion, the right way is to describe it as Addin, a way of life.”という言葉が引用されているのですが、なるほど、こういう捉え方をしているんだな、と思わされました。


本書に記されている成立の様子など、歴史的な背景を知ることによって、それがどういうことであるか、ということが少しずつ理解できるような気がします。

例えば、僕たちは政治と宗教といえば「政教分離」が原則という世界に生きているわけですが、イスラームは「政教一元」の世界ですし、日本でも注目された「イスラム金融」など、そういう分野にもイスラームが及んでいくわけですね。


そんなイスラームについて、ちょっと驚きだったのが他の宗教の位置づけです。

一神教ということで、イメージではものすごく排他的なイメージがあったのですが、実は同じ一神教であるユダヤ教やキリスト教のことは認めているのですね(セム的一神教というらしいです)。 これらに共通しているのは、

その世界では、唯一神が実在すること、宗教が啓示で始まること、啓示は天使によってもたらされることなどは、いわば常識である。(p.31)

という根本的な部分です。

※イスラームの始まりについては本書でご確認を。


実はクルアーンには、ユダヤ教のモーセやキリスト教のイエス・キリストの物語も登場するそうです(ほかにも旧約聖書に出てくる、ノアの方舟なんかも登場するとか)。

モーセもイエス・キリストも、唯一絶対の神の言葉をこの世に伝える「預言者」という位置づけであり、これはイスラームの開祖ムハンマドと同じなのです。

イスラームではノア、アブラハム、モーセ、イエス、ムハンマドの5人を五大預言者と位置づけています。


ここまで読んだときには、「へー、懐が深いなあ」と単純に思ったのですが、やはり、そう単純なわけではありません。

イスラームでは、ムハンマドの役割は啓示という、神から人類へのメッセージを完結し、封印するものとされました。

つまり、モーセもイエスも、神から人類へのメッセージを啓示として受け取ったわけですが(神が使途を遣わして教えを示すと新しい宗教が生まれる、という世界観が根底にあります)、そのメッセージは完成されてはいなかったんだと。

同じ唯一絶対の神からムハンマドが新たに受け取ったメッセージを持って、神から人類へのメッセージは完結されたのだ、という考え方なのです。


つまり、これらセム的一神教と呼ばれる宗教は、誰を預言者として認めるか、が根本的な部分で大切になってきます。

だからこそ、イスラームはユダヤ教もキリスト教も許容している一方で、ユダヤ教徒がイエス・キリストを拒絶したことを激しく非難し、逆に、同じ理屈によって、ユダヤ教、キリスト教はイスラームを認めるべき(ムハンマドをイエス・キリスト以降に誕生した「預言者」であると認めるべき)だと主張しているということです。

俗に言ってしまえば、「俺たちの教えこそが完成された形なんだ」と主張しているようで、なんとなく元々持っていたイスラームのイメージに当てはまるんですけどね(笑)


ただ、こういう文脈やら歴史的な背景、イスラームにとっての(宗教的な意味での)危機意識などが理解できてくると、現代に起こっている問題の理解も深まります。

例えば、本書ではパレスチナ問題を取り上げていますが、これはイスラームにとっては民族問題なんかじゃなくて、はっきりと宗教的な側面があるわけですね。

なんせ、ユダヤ教もイスラームも同じ、アブラハムの後裔に当たるというのが根本にあるのですから。

パレスチナは神がアブラハムとその後裔に与えた地なのであるから、ユダヤ教だけではなく、キリスト教にとってもイスラームにとっても等しく聖地であると。


僕はパレスチナ問題について語る言葉を持っていませんが、知らなかった背景事情が分かってくるとイスラーム側の主張が(共感できるかどうかは別として)理解できるようになります。



知らなかった世界に対する知識が吸収できるのは素晴らしい、ということをあらためて実感させてくれた一冊でした。

初版が1994年7月とちょっと古い本ですが、僕の手元にあるものが2011年12月で28刷を数えていることからも、長きにわたって読まれている良書と言えるでしょう。

今、経済的に注目されつつあるインドネシアもイスラーム国家ですし、グローバルに活躍するビジネスマンとしても、イスラームは押さえておきたい知識じゃないでしょうか。その第一歩として、本書はお勧めですよ。


※しかし、よくよく考えてみると、本書が出た1994年というのは、ちょうど僕が大学に入学した年です。 なぜ、古い呼称で習い、記憶していたのでしょう…orz

 他にも色々あるでしょうから、歴史を学び直すいい機会になりそうです。



■ 基本データ


著者: 小杉泰

出版社: 講談社(講談社現代新書) 1994年7月

ページ数: 302頁

紹介文: クルアーンが語る、神と使徒と共同体の根本原理と、その実践。イスラーム理解が拓く、世界への新たなる視点。


イスラームとは何か (講談社現代新書)
小杉 泰
講談社
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■ 併せて読みたい


イスラームにだけ偏ってもいけませんので、人気のあるこちらも読んでみたいですね。

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
橋爪 大三郎 大澤 真幸
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ただ、僕は特に信心深いというわけではありませんが、あえて言うならば、仏教的な考え方が一番しっくりくると思っていますので、やはり「知識としての宗教」という読書になりますが。
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