東京都知事選の投票率は60.62%で、小池百合子氏が再選を果たした前回選(2020年7月)の55.00%を5.62ポイント上回った。今回は、小池氏の有力な対抗勢力として、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏や立憲民主党や共産党が支援した前参院議員の蓮舫氏が立候補し、有権者の関心が高まったとみられる。また、立候補者数が過去最多の56人となったことや、ポスター掲示や政見放送で物議を醸したことも、投票率を押し上げた要因とみられる。- 東京新聞
小池百合子氏の再選は予想できたが、まさか蓮舫氏が第3位に沈み、広島の安芸高田市の市長を一期の途中で辞職している(LINK)、石丸伸二氏が第2位に入るとは予想がつかなかった。蓮舫氏は無所属だったものの、立憲民主党のみならず、共産党の支援も受けており、保守・リベラル双方からも一定の拒否反応を示され、結果的に無党派層の取り込みに失敗したとみられる。
小池百合子氏は、自民・公明の盤石な支持層の票を獲得し、知事に再選した。学歴詐称問題はあるし、実際は当時卒業していなくとも、(政治的な問題とはいえ)現在においてカイロ大学側が卒業したと認める以上は、この問題はノイズに過ぎない。学歴詐称は公職選挙法違反であるが、これすら政治力で解決する小池百合子氏の剛腕はさすがと言わざるを得ない。「勝てば官軍負ければ賊軍」である。
それにしても石丸伸二氏にはあまり関心がなかったが、インタビューやら安芸高田市の市長時代の議会とのやり取りをみると、コミュニケーションになっていないものが散見される。これを揶揄して石丸構文と言われているが、こうした「詭弁論法」(といっていいか分からないが)は参考になる。もちろん、嫌われ者にならないためである。
(石丸構文)
① 質問に質問で返す。これを行うことで、相手方の質問が正しいのか、的を得ているのかを自分は査定する側にあるという構図にできるので、自分の優位性を演出できる。初歩的なマウンティング手法である。
② 正誤問題に持ち込む。
(1)相手の使った用語の定義などを聴き返す。「XXとおっしゃいましたけど、どういう意味で使われていますか?」などである。相手方が質問に答えられないと、相手の失態となり、自分の優位性を示すことが可能である。
(2)文脈を問う。どういう文脈で質問しているかを質問し返して、相手が答えられないと、「文脈が分かっていない」「文脈も分からずに質問しているのか」と追い打ちをかけることで自分の優位を示せる。
③ 文脈上明らかでも、発言していない事柄の用語や話題が出ると「XXについて一言も言っていませんが?」と逆切れし、相手が思い込みが強い、事実に即していないと印象付けることが出来る。
④ 自分は知らなくとも、そんなことも知らないのかと、糾弾する。「XXと言っているのに、そんなことも知らないのですか?」という。こうしたことで、あたかも自分が知識で優位にあると示すことが出来る。
⑤ やり取りを踏まえてネガティブな印象付けを行う。「あなたは知識不足で議論をかき乱す恥ずかしい方ですね」等。
⑥ 冷笑する。相手の質問を嘲笑ったり、相手が答えられなかったりした場合、溜息をついたりして、自身の優位性を示す。
※上記はブログ主の勝手な整理です。
こうした「石丸構文」は使うと間違いなく嫌われるので私生活では使うことは推奨しないが(会社で上司が部下にやればパワハラだろう)、こうした厄介な人物に出くわした場合に備えておくのは悪くない。こういう質問返しには、さらに質問返しを行ったり、負けを認めて、「私が無知でした申し訳ございません。それでは正しい用法/文脈を教えていただけますか?」、「大変恐縮ではございますが、私の理解力が及ばないため、ご説明いただけますか?」と丁重に下手に出て、相手のマウンティング行為を無効化しつつ、説明者を相手方に転換してしまう手がある。こうすることで、下手に出ている礼儀正しい人にマウンティングする攻撃的な人という構図を描き出しつつ、相手の失点も引き出せる。こうすると、もし相手が教えてくれればそれを受けて進行し、相手が答えられなければ相手の負けである。
この点でいうと、ミヤネ屋の宮根誠司さんはそこが上手い。石丸さんの説明について、「私は頭が悪いので分からない」と下手に出て、それってどいう意味ですか?と石丸さんに説明させ、そして、石丸氏の解説を踏まえて「石丸さんは選ばれなかった方(ということが可視化された)という認識ですか」と、相手の勢いで反撃を行っていた。ここらへんのやり取りをみるに、IQだけではダメだなと思った。「柔能く剛を制す」だなと思った。
結局、「石丸構文」では、語の定義の正確性やロジックの厳密さを攻撃してくるので、これに耐えるのは通常は難しい。然様であれば、その正確性や厳密さを相手方に転嫁してしまえばいいのである。普通はこんなテクニックなくコミュニケーションがなくとも会話が可能であるが、相手方がこうした詭弁論法を駆使してくれば、クレバーに対応せざるを得ない。
空気を読む日本の文化では、一般論として「詭弁家」に耐性がなく扇動されていまう衆愚があまりにも多い。
ちなみに、石丸さんはポスター代金を踏み倒して最高裁まで争って敗訴している。「2020年8月の同市長選でポスターやビラの製作を委託した印刷業者から代金の支払いを求められた訴訟で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は8日までに、同氏側の上告を退ける決定をした。5日付。同氏に72万円余りの支払いを命じた二審広島高裁判決が確定した」(LINK)そうだ。詭弁は裁判所には通じない。