大変大変、ご無沙汰しております。

 

現在、夏の間だけアメリカに戻っています。日本への本帰国から2年が経ちますが、やはり未だに長く暮らしたアメリカに戻ってくると、ほっとしてしまう自分にびっくりします(あんなに嫌いだったのに!)東京の暮らしは、様々なストレスが多くて、色々な情熱(音楽や料理)が少しずつ失われてしまって。抜け殻状態と化しておりました。

 

自分の愛する楽器が近くにないこともあるのかもしれません。帰ってきて久しぶりに触れたもうすぐ100歳のおじいさんは、すっきり、くっきり、けれども味わい深い、例えるならば、本当においしい玉露のような、素晴らしい音で、私はピアノを弾くことが好きだったことを思い出させてくれました。ありがたや。

 

さて、私が不在の間、このピアノで練習をしてくれている師匠が聴いてほしいものがあるのだ!とやってきて、数週間後に弾くリサイタルの中の一曲を弾いてくれました。それは、ラフマニノフのコレリのテーマによる変奏曲でした。

 

弾き始めるまで何を弾くのか教えてくれなかった師匠。最初のDの音を聴いただけで、ドキューンと心拍数が上がり、そこから天国と奈落の底の間を行ったり来たり、曲が終わったころにはほとんど心筋梗塞のような状態になってしまった私。

 

これがロシア人の弾くラフマニノフ。生の音楽の持つエネルギー。

乾いた心にドシャーと台風並みに栄養と水分が送られた瞬間でした。

 

「3か月前の別のリサイタルでこれを弾いたんだけど、あまり評判が良くなくてね。君の意見を聞きたかったんだ。」

と師匠。

 

「完璧だと思いますけど??私は心臓をわしづかみにされて上から下まで行ったり来たりで、死にそうです。」

と私。

 

「君は特殊な体質なんだろうね、やっぱり。はああ。」

と師匠。

 

「。。。」

私。

 

ラフマニノフ狂の私は、天国から奈落の底へ落とされるその瞬間が耐えられないほど好きで、だからその落差が特に大きいホロヴィッツのラフマニノフをこよなく愛しているのであります。ピアノの弦が切れるほどの大音量から、天使の奏でる夢の世界を行ったり来たりするところに、ラフマニノフの凄さはあるって信じています。(つまり私ってMだったのか?)

 

※私の好きなタイプの演奏のヴィデオを貼り付けたかったのですが、なぜかできませんでした。ご興味があれば、以下でYOUTUBEで検索していただければと思います。この方のペダルの使い方や、パーツに関する理解は、私が感じるものとは違いますが、天国から奈落の底へのふり幅の大きさは見事だと思います。やっぱりラフマニノフは心臓が痛くならなくちゃいけません。

Rachmaninov - Variations on a theme by Corelli op.42 - Andrei Korobeinikov