
● SI・GE・KI 的
椎名林檎のニューアルバム『禁じ手』のレビュー。他アーティスト作品への客演/他プロデューサーとの共作のみを収録し、自作曲封印という "禁じ手" の縛りのもとで産み出されたアルバムだ。コンセプト的には2013年発表『浮き名』(コラボレーションベストアルバム)の続編である。
[収録曲]
01. 「至宝」 三宅純と椎名林檎
02. 「苦渋」 伊秩弘将と椎名林檎
03. 「芒に月」 伊澤一葉と椎名林檎
04. 「覚め醒め」 BIGYUKIと椎名林檎
05. 「W●RK」 ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
06. 「SI・GE・KI」 向井秀徳と椎名林檎
07. 「2○45」 ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
08. 「秘め初め」 BIGYUKIと椎名林檎
09. 「松に鶴」 伊澤一葉と椎名林檎
10. 「愛楽」 加藤ミリヤと椎名林檎
11. 「憂世」 三宅純と椎名林檎
※注:ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ(millennium parade)
まず、椎名林檎のこれまでの作品を簡単に振り返ろう。
総括すると、鍵盤やストリングスも入ったジャジーでオシャレな音楽性だが、(初期は特に)オシャレさは背景に退きがちで、性的も含めた実存が鳴っている。オルタナティブなロックサウンドの焦燥と葛藤の中、今、一瞬だけ抱き合うような刹那の甘やかさ。その甘やかさを求めるようにして、僕は何度も彼女の曲を聴いてしまう。
J-POPや邦ロックとして聴いても、「邦」が外れたロックとして聴いても聴きごたえがある。充実したソングライティングも尖った姿勢も芸術家(「アーティスト」とは彼女のことだ)のそれであり、簡単に消費されない表現の強度がある。ソロも東京事変時代も手練れの楽器隊が彼女を支え、ハイクオリティな作品を生み出している。
また、音楽性はキャッチーなだけではない。一枚のアルバムの中の多様性はもちろん、実験的な楽曲が多いアルバム(最近のバンドでいうとKing Gnu 常田大希が主宰するミレニアムパレードばりの実験性。ミレパとは本作『禁じ手』でもコラボしている。ちなみに、常田さんと椎名さんには交流があり、エイトジャムでお二人仲良さそうに出演していて微笑ましかった)から、聴きやすい王道の楽曲の多いアルバムまで、ディスコグラフィーがバラエティに富んでいる。また、作を重ねるごとに、よりアッパーで絢爛な作品になっていくことも特徴だろうか。
僕は初期の椎名林檎さんを推している。『無罪モラトリアム』('99)と『勝訴ストリップ』('00)。僕にとってこの二つのアルバムが質的に二強だ。決して懐古主義なわけではない。でも、この二枚の良さは突出していると思う。オルタナティブでありつつ、J-POP的な「うた」としてのポップの美しさと求心力/推進力がある。
👆代表曲のひとつ「丸の内サディスティック」。この曲のコード進行から「丸サ進行」という言葉が生まれたほど、J-POPや後のシティ・ポップへの影響力の大きい曲。(世界的にはGrover Washington, Jr.の曲から「Just The Two of Us進行」と呼ばれる。)
2014年発表『日出処』の日本愛な意匠には本当に驚いた。収録曲「NIPPON」も含めて、その日本推しが左派やリベラルからは批判されているが、よーよー個人的にはそこまで咎められるべきには思えない。左派も右派も自分たちの思うように表現したらええ。表現の自由とは、自分の好まない表現にも寛容になることなのだから。
さて、冒頭で述べたように、本作『禁じ手』は自作曲を収録することを禁じ手としてやっておらず、外部のアーティストが作った曲を歌い、全編コラボレーション曲で成り立つアルバムとなっている。まさにジャズというジャンルが、過去から現在まで様々なミュージジシャンを客演に迎えて鳴らされている音楽であるように、このアルバムで椎名さんは様々なミュージシャンの接結点であるかのように音楽を鳴らしている。
これまでの彼女のキャリアで数多あるコラボ曲の中で印象に残っているのは、スピッツファンの僕的には草野マサムネとのデュエット曲「灰色の瞳」。ザクザクとした攻撃的でオルタナティブなギターサウンドの上で、ソリッドな林檎さんの歌声と、柔らかな草野さんの歌声が生き生きと脈打っている。
あと、コラボ曲ではなくカバーだが、「yer blues」のカバーにおける椎名さんの歌唱もパンチが効いていてシビれる。ビートルズの原曲は露骨で切迫した生々しさがあってあまり聴かないが、椎名版「yer blues」はソリッドな心地よさがあってずっと聴いていられる。
この二曲が収録されている『唄ひ手冥利』は、まさに唄ひ手である椎名さんの歌唱の極みが味わえる。歌で曲を乗りこなす、その様はロボットアニメの主人公パイロットがロボットを乗りこなすように自在であり、自由に満ちている。
本作『禁じ手』について見ていこう。
アルバム構成は曲順で真ん中の曲#06「SI・GE・KI」(向井秀徳と椎名林檎)をセンターにして、コラボ相手が線対称のように並んでいる。これと関連するのか、ジャケットのイラストも線対称だ。こんなところからも美意識を感じ取れる。(例外的に前から二番目の伊秩弘将と、後ろから二番目の加藤ミリヤが違ったりするのも揺らぎがあって面白い。)
曲単位でいうと、向井秀徳とのコラボ曲#6「SI・GE・KI」が目(耳)を引く。この音楽と言葉のスリルよ! いつもの独特のザ・向井秀徳の曲なのだが、椎名さんの歌唱もその世界観に寄せてフィットしている。本作は英詞やフランス語歌詞、スペイン語歌詞の曲も収録しているが、外国語だからかするりと耳から耳へ抜けていってしまう。そのぶん、このコラボ曲は日本語、それもザ・向井節の日本語がフックになっている。(#1「至宝」のフランス語歌詞、#9 「松に鶴」のスペイン語歌詞は椎名さんが自分で書いたという。椎名さん、語学もできるんだ、すごい…)
加藤ミリヤとのコラボ曲である#10「愛楽」も良かった。椎名さんとミリヤさんの歌声の重なる様が美しくて、他に何もいらないという気にさせる。ミリヤさんというと清水翔太とコラボしたり、J-POP畑な方である印象があるからコラボは意外だった。だけど、確かな実力者だから起用したのだろう。
どの曲も音がモダン。ロックやジャズはもちろん、ヒップホップや電子音楽の最先端の音が鳴っている。サブカル的で親しみやすい出自とは対照的にハイカルチャー的な美意識が横溢する、曲の世界観とサウンドに舌鼓(耳鼓)する。この音の中でさまよって漂っているだけで気持ちよい。客演や共作だからこそ際立つ唄い手としての力量と、モダンで刺激的な玄人のサウンド、両面から楽しめる一枚です。
Score 7.9/10.0
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