とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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👇一押し記事👇
【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位

それでは、一緒に音楽の旅へ!
⚫︎音楽映画として傑作!

観てきました! 話題の映画です。

映画の概要について言うと…

映画「Michael/マイケル」
日本でも社会現象になった大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』('18)製作陣による、マイケル・ジャクソンの伝記映画。マイケルを演じるのは、彼の実の甥であるジャファー・ジャクソンだ。気になる劇中のマイケルの歌声は、マイケルとジャファーの声をブレンドする方法をとっているという。



マイケルのアルバムに関しては、名刺がわりの代表作で名盤とされる『Thriller』と、代表作だけど評価が低い『BAD』を時々聴くといった程度で、そこまで熱心なリスナーでなかった。

しかし、この映画は良かった。目の保養にも耳の保養にもなった。

マイケル・ジャクソンで触れておくべきことはたくさんあるけど、僕はまずリズム感について書いていきたい。歌唱もダンスもそうだけど、彼のリズム感は半端ない。ろーりんぐ・よーよー誌の選ぶ「リズム感史上最強アーティスト」第一位はあなたのものだ。ムーン・ウォーク、ゼログラビティ…。ダンサーとしてのイノベーター(発明王)ぶりも魅力的。





↑音楽番組「エイトジャム」でも、マイケルのリズム感が取り上げられました!

そんな彼についての音楽映画として、とても楽しめた。マイケルを演じたジャファー・ジャクソンの身体と精神には、マイケルと同様に稲妻のような強烈なリズム感が宿っており、ダンスの一つ一つの所作にもリズムの電流を感じ取れた。

マイケルの子供時代(兄弟もあわせて「ジャクソン5」)の成功が最初に描かれる。父親が指導する辛い練習の日々を乗り越えた上での初めてのライブや、モータウンとの契約のきっかけになったライブなど、熱い展開が心を弾ませる。

縦軸にマイケルをアーティストとして育ててきた父親との確執を描きながらストーリーは進む。金と地位しか考えてなさそうな父親を役者の方が好演していた。僕はこの父親が言う「人生は勝ちか負けか」みたいな世界観では生きていないので、父親に考えを強制(矯正)されるマイケルの抱える辛さにエンパシーを覚えた。

MTVで「スリラー」のミュージックビデオを流すときも、それまでのMTVでは白人のアーティストしか流してこなかったから一悶着あったようだ。そういったエピソードの一つ一つが発見があって面白かった。

ただ、人間ドラマが全般的に深みもひねりもなかった気もするんだよな。マイケルについて描くなら、もっと深掘りすべきテーマがあるのではないかと思う。

だが、一緒に観た母はすごく良かったと言っていた。去年、僕と観た『国宝』のように、これから流行るかも、と。『とかげ日記』(このブログ)読者には、よーよーなんかよりも、自分の目を信じてほしい。

刺激的な重低音が胸と腹に響く、音楽映画として傑作でした!(伝記映画としてはうーん、だけど。)

映画の最後に『彼の物語は続く』とあるので、『マイケル2』にも期待大です。本作で描ききれなかった彼の闇と光が描かれるのかな。

Score 7.9/10.0

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👦🏻ポール・マッカートニー『The Boys of Dungeon Lane』感想&レビュー
↑劇中に出てきたプロデューサー(?)の白人の方、どことなくポールに顔が似ているんだよなー。

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●いまなお第一線

御年83歳(!)、言わずと知れたビートルズの元メンバー"ポール・マッカートニー"の新譜『The Boys of Dungeon Lane』(邦題:ダンジョン・レインの少年たち)をレビューします。

【収録曲】
1. As You Lie There(アズ・ユー・ライ・ゼア)
2. Lost Horizon(ロスト・ホライズン)
3. Days We Left Behind(デイズ・ウィ・レフト・ビハインド)
4. Ripples in a Pond(リップルズ・イン・ア・ポンド)
5. Mountain Top(マウンテン・トップ)
6. Down South(ダウン・サウス)
7. We Two(ウィ・トゥー)
8. Come Inside(カム・インサイド)
9. Never Know(ネヴァー・ノウ)
10. Home To Us(ホーム・トゥ・アス)
11. Life Can Be Hard(ライフ・キャン・ビー・ハード)
12. First Star of the Night(ファースト・スター・オブ・ザ・ナイト)
13. Salesman Saint(セールスマン・セイント)
14. Momma Gets By(ママ・ゲッツ・バイ)

もちろん例外もあるが、最近リアルタイムの洋楽ロックはおおむねつまらない。こう言うと大上段で角がたつかもしれない。老害とまで言われるもしれない。だが、僕の偽らざる実感である。海外で大流行しているトラップを含めたヒップホップや、巨大なホールを鉄板で踊らせるEDMへと、創造性/将来性あふれる音楽人材が奪われたのも理由の一つだろう。今や、ギター、ベース、ドラムという古典的な楽器がなくても、打ち込みの機材さえあれば音楽を作り、発表し、人気を得れる時代なのである。しかし、トラップもEDMも僕はハマれなかった。

初めて聴く洋楽曲でも、2010年代以降にリリースされた曲の大半よりも60年代〜00年代の曲の方が良く聴こえる。僕がよく聴いている2つのラジオ番組であるスピッツ草野正宗さんの『ロック大陸漫遊記』(毎週の生きる楽しみ)と、山下達郎の『サンデーソングブック』(達郎さんの少し意地悪な話しぶりが魅力的)ではオールディーズや時代的に今よりも少し前の曲がかかるが、初聴でも心地良く音楽にのれる僕がいる。

そんな僕にとって、ビートルズは大興奮な大好物である。音楽としても、表現としても、まったく古びていない。むしろ、今の耳で聴いても新しい。ロックを芸術にまで進化(深化)させたのは、彼らの功績に寄るところが大きい。こんな話をしていたら、若者たちはブラウザを閉じてしまうかもしれない(この言い方も古い)が、そんな若者たちにこそビートルズを聴いてほしい。芸術とはタイムレス(時代を超越している)なのだから。

ビートルズの音楽は、レコードだとしたらすり切れるほど聴いた。ポールとジョンでは、生き様的にはジョンの方が好きなのだが、曲単位だと好きなのはポール曲の方が数的に多いかもしれない。(この2人による曲はどれもレノン=マッカートニー名義だが、リードボーカルを歌っているのがどちらかによって、ジョン・レノンとポール・マッカートニーのどちらが主導して曲を作ったのか分かります。)

と、ここでビートルズのポール主導曲マイベスト10を作ってみた。3位から1位までカウントダウンしたあとに、10位から1位までのリストを掲載しよう。

ビートルズのポール曲マイベスト3🍎
【3位】マジカル・ミステリー・ツアー


マイベスト上位にする方は少ないと思うけど、程よくサイケでメロディもサウンドも豪快な僕好みの名曲なので紹介します。「テレビCMみたいに派手にしよう」とはポールの目論見だが、様になっている。

ビートルズのポール曲マイベスト3🍎
【2位】Let It Be


「イエスタデイ」と同じく、夢を元にしてできた曲(音楽の神様のお告げ?)。哀愁と諦念を伴いつつ、なるようになるさと楽観的に歌う信念が美しい。鍵盤の麗しい響きと極上(完璧)のメロディを歌唱するポールに心洗われる。

ビートルズのポール曲マイベスト3🍎
【1位】イエスタデイ


ポールによるビートルズ初のソロナンバー。趣深いストリングス四重奏のアレンジはジョージの提案。この後ろ髪を引かれる想い…。タイトルからして哀しい…。描かれる光景が演者とリスナーを深く結びつける好例だ。

ビートルズのポール曲マイベスト10🍎
1.イエスタデイ
2.Let It Be
3.マジカル・ミステリー・ツアー
4.ヘイ・ジュード
5.ブラックバード
6.ハロー・グッドバイ
7.Here, There and Everywhere
8.ペニーレイン
9.Eleanor Rigby
10.ヘルタースケルター

歌詞の言葉が過不足なく届く(≒想いがたしかに伝わる)のは、名曲の証の一つだけど、これら10曲はそんな名曲ばかりだ。初期の曲がごっそり抜け落ちてしまったが、好みなのでしょうがない。上記マイベスト10だと、一番古い曲でも、『Help!』(1965年)収録の「イエスタデイ」だ。同じアルバム収録の「夢の人」を入れるかは迷った。


ここで、ビートルズ後のポールの歩みをざっと振り返っていこう。

ビートルズ解散後、ポールは全楽器を1人で演奏した手作り感の強いソロデビューアルバム『McCartney(邦題:ポール・マッカートニー)』を1970年に発表。

時系列が前後するが、ポールは1967年、写真家だったリンダ・ルイーズ・イーストマンとナイトクラブで運命的な出会いをし、1969年に結婚する。ジョンにとってのヨーコのように、ポールの歴史を語る上でリンダの存在は欠かせない。そのリンダが共作者としてクレジットされている『RAM』を1971年にリリース。

同じ年の1971年、マッカートニー夫妻、元ムーディー・ブルースのデニー・レイン、デニー・シーウェルの4人でウイングスを結成。リンダが3人目の娘を産み、天使という言葉から連想して「ウイングス」(翼)というバンド名をポールが思いついたのが名の由来だ。結成理由については、無名の新人バンドとしてビートルズのプレッシャーから離れ、あくまでバンドの一員として活動したいからだったとされる。同年、ウイングス名義でアルバム『ウイングス・ワイルド・ライフ』を発売。

1973年発表の「007 死ぬのは奴らだ (Live and Let Die)」は、言わずと知れた同名映画の主題歌。ほかのポール作品には馴染みがなくとも、この曲だけは知っているという人は多いだろう。後年、スティーヴィー・ワンダーとの共演で生まれた「Ebony and Ivory」と並び、ポールの代表曲として広く浸透している一曲ではないだろうか。同年の暮れに傑作とされるアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』をリリース。1977年にはシングル「夢の旅人」が大ヒット。ビートルズ「シー・ラブズ・ユー」による国内売上記録を塗り替える。このあたりが、ウイングスの全盛期だろう。



1980年に起きた2つの出来事は、彼にとっては悪夢だったに違いない。1つ目は、ウイングスとしてツアーで日本に来た時に空港の手荷物検査で大麻が見つかり、9日間勾留し、日本公演が中止になったこと。これに関連して、熱狂的ファンの29歳男性がポールを救出するため、マイアミ空港から東京に行く便を偽物の銃でハイジャックしようとして射殺されたという惨事も起きている。2つ目はジョンが狂信的ファンに自宅前で射殺されたこと。これはポールにとってかなりショッキングな出来事だったようだ。

1998年にはリンダが乳がんで亡くなり、最愛の人を失う。しかし、これらの困難を乗り越えてポールは進んでいく。00年代以降にもグラミー賞を複数回受賞していたり、2020年にはリリースしたアルバムがソロ名義では31年ぶりに全英アルバムチャートで第一位を獲得していたり、現在も第一線で活動しているのがすごい。彼は持ち前の楽観性により困難に打ち克つ音楽を作り続け、今もなお多くのリスナーたちを勇気づけている。

僕はというと、ビートルズ後のポールについては熱心なリスナーではなかった。「Jet」「Band On The Run」「My Love」など、胸のすく名曲や沁みる名歌もあるが、ビートルズほど夢中になれなかった。



そんな僕だが、この新作の感想を以下に書いていこう。

リード曲の#3「Days We Left Behind」。イントロのアコギの優しく深い響きと、そこからの年輪を重ねた歌声。侘びた風情もあるが、音楽は枯れていない。そして、創作への意欲も枯れていない。深呼吸を促すような、彼の中で熟成されて完成された穏やかなまどろみの音楽にいつまでも浸っていたい。



同じくリード曲の#10「Home To Us」。リンゴ・スターがドラムとボーカルを担当。この歌心のあるスネアの響きや、衰えを見せない渋い美声のボーカルは、ビートルズを普段から聴いている僕にとっても心のふるさと(ホーム)だなという感傷に浸らせる。(4月下旬にリンゴもカントリー音楽の新譜『ロング・ロング・ロード』をリリースしているので、気になる方は聴いてほしい。)



事前にこの2曲を聴き、良盤になる予感がしていた。その予感は当たっていた。

開幕の#1「As You Lie There」からしてパンチが効いている。冒頭の語りと歌を聴いて穏やかな歌ものなのかなと思っていると、その後ギターが暴れだし、シャウトし始めてギアを上げるサプライズ。クイーンの曲のようなプログレ的な展開が面白い、アイデアと滋味に富んだ楽曲だ。



その後も歌ものの旨みの要諦を知りつくしているからこその素晴らしい歌が続く。王道で聴き入る箇所も、邪道っぽい飛び道具の箇所もあるし、ポップで包んだ逡巡だったりストレートでアッパーなロックソングだったり、表現にメリハリがついていて飽きさせない。

本作にはこのようにバラエティ豊かな楽曲が詰まっているが、自分を振り返る内省的な表現が本作の核となって貫かれている。タイトルに「少年」とあるようにポールは自身の少年時代を歌っているのだ。「ダンジョン・レイン」とは、ポールが少年時代を過ごしていた街リヴァプールにある道路名だ。

また、適度に老いた歌声の音色は、地声の場合、一周回ってフランツ・フェルディナントみたいにしゃがれ気味に聴こえてカッコいい。地声ではないミックスボイス(地声とファルセットの間の歌声)のときも、歌声が聴覚のスイートスポットを甘やかに刺激して楽しい。

しかし、虚心坦懐に聴かせていただいたが、心を鷲掴みするようなロック性も、心弾ませるポップ性も、過去の彼ほど豊かには感じられない。それは、上記したビートルズのポール曲マイベスト10に迫るほどの名曲が解散後のポールの作品にはないことからも一目瞭然だ。

また、ビートルズ解散後、メンバーそれぞれが違う道を歩んだが、ビートルズ作品に勝るアルバムは無いと思っている。(アルバム単位ではなく曲単位でいったら、ジョン・レノンの一部の曲の切実さはビートルズ曲を超えてくるものもあるけど。)奇跡という言葉を安易に使いたくはないけど、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの才能と熱意あふれるメンバー4人がバンドを組み、名曲を作り続けた10年間は奇跡なのではないかと思う。

結論に入ろう。そう、過去の曲のように有無を言わさずリスナーを無我夢中にさせるというよりも、今の彼の曲を楽しむには井戸から恵みの水をくみ取ろうとする傾聴の姿勢が必要だ。だが、本作には脈々と彼に息づいているミュージシャンシップを感じる。人生100年時代、円熟の境地を感じさせる今の彼の音楽をこれからも聴かせてほしい。

Score 9.0/10.0


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●晴れやかな祝祭日のように

ラッパーのアフロ(MOROHA←活動休止中)とSSWのヒグチアイによるユニット「天々高々」。今回は彼らのデビューアルバムである『祝祭日』をレビューします。

MOROHAやヒグチアイ名義ではできなかった、陽キャに振りきれた音楽が鳴っています。でも、ところどころにウェルメイドな闇や音楽の深淵に宿る孤独もあって、陰キャ(僕も陰キャです)の方も楽しめると思います。

【収録曲】
1. やったぜべいべー-日曜日 ver.-
2. YG
3. がたんごとん-春うららver.-
4. 青春
5. びゅてぃほう
6. おわりなきおかわり
7. 30歳
8. なんども
9. ロマンス
10. 5959 -夏祭り ver.-


↑全曲トレーラー

最近のトピックとして、彼らの曲に対して小規模の炎上があったことを記憶している方もいるのではないか。その曲とは、「ロマンス」



フレッシュで切実な感性が僕の胸には刺さるけど、YouTubeのコメント欄で非難の嵐。有線でかかってきて嫌悪だとか、「好きだ」の連呼が「すき家」に聴こえて笑えてくるとか。悲しい…。

MOROHAの(今のところ)最後のアルバムでも、「罵声も歓声もありがたいねぇ」とアフロはラップしていたから(「チャンプロード」)、このくらいでヘコたれるとは到底思えないけどね。しっかり傷つくだろうけど、彼にはガッツがある。

アニメ映画『君の名は。』でもかかっていたRADWIMPSの「スパークル」のイントロのようなピアノリフで始まるこの曲「ロマンス」は、同じくアニメ映画である『ルックバック』主題歌「light song」(haruka nakamura & urara)のように尊い残り香を漂わせながら去っていく。この展開が独創的かつ清らかな切実さがあって泣けるのだ。この切実さはいつかの終わりを見据えた儚い衝動ゆえのものだと思う。

僕はかなりのMOROHAリスナー。今でもMOROHAの1stアルバムの一曲目「二文銭」を聴くと、ここから物語が始まっていくような気がしてくるのだ。そして、活動休止前の最後に彼らが残した曲「やめるなら今だ」を聴いて、物語の(いったんの)終わりに寂しく後ろ髪を引かれるのだ。彩りと情感に満ちたUKのアコースティックギターが哀しく響く。

MOROHAの活動休止理由は、「新しい曲を作るうえで引き出し(アイデア)を使い切ってしまった」というUKの申し出によるという。たしかにUKのアコースティックギターは革新的で、これまであらゆるアイデアを試してきたのは事実だ。だが、限界にきてまでも表現を極めようと努め、二人して疲弊して行き詰まったという理由もあるのではないか。充電期間を終えたらいつか復活してほしい。

アフロの新たな相方であるヒグチアイさんのことは存じ上げていた。ミーハー丸出しで申し訳ないが、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2のエンディングテーマに彼女の曲「悪魔の子」('22)が起用されていたからだ。『進撃の巨人』シリーズの主題歌には、僕がファンの神聖かまってちゃんも起用されていたから展開を追っていた。

まだ30代で若いけれども、ヒグチさんの歌声には、人生の酸いも甘いも知っているような成熟と達観を感じる。

そして、その二人による天々高々の無敵感よ! アフロによる懐に飛び込んでくる本音のラップ。ヒグチアイによる上品でエレガントなピアノと歌声。同じ長野県出身者で息の合った二人の個性を掛け算した清澄な音楽性が鳴っている。質的に違う二人の声と音楽が、化学反応によってアーティスティックに響く。

前述した一曲だけ聴いたアンチを、音楽と言葉の力でうならせてほしい。

#5「びゅてぃほう」は、その嚆矢の一曲になれるのではないか。リリカルで表現多彩なアフロのラップが街の表情を丁寧に活写してみせる。そして、サビでメロディを付けて「びゅてぃほう」と繰り返し歌う、ヒグチアイの歌声のリバーブに宿る深淵とその孤独よ。深夜の原宿の美しさを描いた曲は、僕は他に知らない。


本アルバムを聴いて最初に思ったのは、おお、バンドサウンドの上でアフロがラップしているよ!ということだった。MOROHA時代は伴奏はこだわりのアコギ一本だったし、天々高々の既発表曲の伴奏はピアノだけだったはずだ。

一曲目#1「やったぜべいべー-日曜日 ver.-」からして驚きと新鮮味があった。リズム隊を伴ったアフロのラップもいいじゃん! 冒頭のホーンの音色だけで明るくなれる名曲だ。



#3「がたんごとん-春うららver.-」も明度が高く鮮やかなバンドサウンドの良曲。ビビッドな光景が春の光とみずみずしい息吹を呼んでいる。ロックバンド"くるり"にいくつかある電車ソングのような素朴で温かな旅情に揺られながら、次の駅へ。


↑「がたんごとん」
(バンドサウンドが鳴っているアルバムバージョンではないですが、このバージョンも良いなぁ。)

#4「青春」。歌はヒグチアイだけで、アフロはラップしていない。サビのメロディに求心力があるし、これはこれで素晴らしく完成されている。クレジットを見て驚いた。アフロはハーモニカを吹けるんだね!(至極簡単なフレーズだけど、旨味のあるハーモニカ。)



# 7「30歳」もアフロのラップ無しだね。恋によって30歳の女性が17歳に戻るように、天々高々は相応の年齢でも、17歳のような若々しく張りのある演奏している。天々高々にとって、音楽は恋に類したものであり、生きる欲望なのだ。



最後の曲である#10「5959 -夏祭り ver.-」。5959とは、言うまでもなく飲料をゴクゴク飲むということだろう。生ビールのような喉ごし爽やかな後味が健気にエモーショナルで好きだ。



このレビュー本文末尾のScoreの高得点(9.3点)に驚く方もいるかもしれない。だが、研磨され、力強く美しい言葉には反応せざるを得ない。アフロのラップは韻の踏み方がリズミカルでテクニカル。そして、言葉と物語がタッグを組んだ強固な意味性が曲をドライブさせている。

僕は「音楽の人」と同等に「言葉の人」でもあるのだ(インスタやTikTokというよりはXだし、こうしてブログも書いているし)。唐突だが、元フリッパーズ・ギターでは、小山田圭吾よりも小沢健二が好きだ。小山田圭吾が伝えたいことは音楽一辺倒なのに対し、小沢健二は音楽の人であり、言葉の人。他にも同様に、良い言葉を持っているアーティストはそれだけで印象が良い。僕がファンである神聖かまってちゃんの"の子"も、うみのて等を率いる"笹口騒音"も、言葉の操り方が他のアーティストと比べて別格である。

今年初めに松永天馬(アーバンギャルド)の新譜にも高得点(9.1点)をつけた。松永さんも「言葉の人」。アフロも松永さんも良い言葉を持っており、力強い言葉でしっかりとメッセージを届けるのは両者に共通するが、イメージを乱反射させて周囲を煙に巻くような松永さんに対し、徹底して自己開示する愚直なアフロという違いがまず大きいだろうか。そして、その自己開示に対して、リスナーの僕は胸襟を開きながら聴き入ることができるのだ。誰かの本音を抉り取ってみせるフィクション(#8「なんども」のDV主人公のクズっぷりは酷くて聴いていられないと同時に、こういう人いそうというリアリティがあった)でも、アフロのライフログ的なノンフィクションでも、とても演者に近い親密な位置で聴くことができる。

MOROHAの5枚のオリジナルアルバムはどれも10曲入りだが、本作も10曲であることにMOROHAとの連続性を感じる。以前と同様、自信が感じられる10曲だ。MOROHA時代を漢字一字で「熱」と言うのなら、天々高々は「粋(いき)」だと思う。これからも粋でいて晴れやかな音楽、そう晴れの日の祝祭日のような音楽を届けてほしい。

アフロのラップのように、自由の号砲をぶっ放そう。ヒグチアイの歌声のように、刹那の粒度を上げていこう。意気軒昂な春風は吹いているが、迷いの風はここには吹いていない。活動をずっと続けてくれとは言わないけど、ハッピーエンドを約束してほしい。

Score 9.3/10.0

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