
●魔法に魅せられて
2014年メジャーデビューのシンガーソングライター"吉澤嘉代子"の6枚目のニューアルバム『幽霊家族』のレビュー。
収録内容
【CD】
01. Into the dream
02. あの家はもうない
03. おとうと
04. わたしの犬
05. ピーマン
06. 幽霊
07. うさぎのひかり
08. ほおづき
09. たそかれ
10. 時の子
11. メモリー
12. Out of the dream
吉澤嘉代子さんのお名前はおそらく、Xで相互フォローしているふじもとさんという方の文章で初めて知ったのだと思う。
今回、吉澤さんが新譜を出すと聞いて興味を持ち、彼女の過去の代表曲を聴いてみた。そしたらね、すごく良かったのです、はいー。(©️やす子)
まず、「月曜日戦争」('17)から。
月と戦いというと、「セーラームーン」を思い出す。吉澤さんの代表曲であり、現代の魔女(セーラームーン)が奏でる魔法の歌。どことなくレトロな空気が漂っている。流れるようにキャッチーだが、「うた」としての一本の太く強い軸がある。
次に、「残ってる」('17)。
性愛のあり方が素敵に描写されている。サザン桑田佳祐もラジオでほめていたのは、彼がこの曲の乙女なエロスに反応しただけではなく、歌謡曲的なメロディの重みを、ポップなバラードの軽みの中で鳴らしているところに共感したからではないか。
そうやって見ていくと、ふじもとさんがイチオシのサザンと吉澤嘉代子に共通するところが見えてくる。
そして、「泣き虫ジュゴン」('13)
心を丸ごと持っていかれるような痛切なバラード。くるり「ハローグッバイ」のように着水して音楽の深くまで潜水していくようなイントロ。深海(≒濃密な音楽)を泳ぐジュゴンが目の前に見えるようなこのイメージの喚起力は凄まじい。
上記の3曲のような超名曲もあるホームランヒッターだが、その他の曲も良い歌だらけで、アベレージヒッターとしても充分。
(アベレージヒッターとは、野球でコンスタントに平均以上の高い打率を記録する打者(巧打者)のこと by Google調べ。)
小文字のインディー的な繊細さとサウンドの実験性(というよりは遊び心?)と大文字のポップ的な大胆さと明るさ、彼女の音楽が孕(はら)むどの音楽性も大好物だ。
彼女の曲には、シリアスさよりは"やわらかさ"を感じる。曲名にも、やわらかな平仮名が多用されているし、松本隆から"カネコアヤノ" まで、やわらかな日本語歌詞のロック/ポップスの系譜を感じるのだ。
『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』のようなジブリ映画に通じる、ほんのりとして可愛らしい霊性が漂い、自在に歌と音楽を操る姿はまるで愛らしい魔法使いだ。声の表情やたたずまいなど、いちいちキュート。笹口騒音オーケストラの西山小雨さんのような可憐な可愛らしさに満ちていて、可燃な僕は恋に燃えてしまう。

👆西山小雨さん。(問題がありましたら削除しますので、関係者の方はご連絡をお願いします。)
ポップの中に情感がこもっている聴きごたえは、あいみょんと共振するものを感じる。温かいハグのように確かに温度がある。「うた」と「音楽」がさりげなくエモく響く音楽性は、ふくろうずにも通じるはずだ。
さて、本作『幽霊家族』について見て(聴いて)いこう。
まずアルバムタイトル。ありふれているが温度のある言葉である「家族」に「幽霊」という言葉を組み合わせるところが、少し不思議な個性の吉澤さんらしい。
一曲目がプロローグ的な#1 「Into the dream」で、最後の曲がエピローグ的な#12「Out of the dream」。これはつまり、このアルバムに収録されている曲の舞台は夢の中ということ。魔法的な夢の中で心地よく過ごせます。アルバムがこのようにコンセプチュアルであるところも好きだ。
#2「あの家はもうない」。記憶をたどり、レトロスペクティブなエモーションあふれる、よーよーオススメ曲。吉澤さんのフィクションなのかノンフィクションなのか、どちらでも良いのだが、歌詞も情感もディテールをもって迫ってくる。そして、僕らリスナーは眠りの世界(フィクションとノンフィクションの交差点)へとすべり落ちていく。(©️スピッツ)
#3「おとうと」。ディストーション気味のベースの荒ぶるアタック音がモラトリアムの焦燥を呼び込み、力強く励ますサビの歌唱がおおらかに胸を打つ。
#4「わたしの犬」。クラシカルなピアノがユーモラスで親しみやすい小品の絶品。本作『幽霊家族』は「家族」と「記憶」をテーマとしているが、ペットも家族だよね。(僕も愛犬が旅立ったときは悲しくて寂しかった。)
#5「ピーマン」。ピーマンといえば、子供の嫌いな食べ物の代表格的な存在。ピーマンを含めた(ボスはグリーンピース)嫌いな食べ物を羅列して歌う終わり方が、土臭い生活の皮膚感覚を面白おかしく刺激する、一息つける曲。
#6「幽霊」では、エフェクトを効かせたギターが納涼的に涼やかでまぶしい。子どもの頃に友達だったのは、実は自分にしか見えない「幽霊」だった。ちょい怖な話だけど、幽霊への温かな優しさに胸キュンする。
#7「うさぎのひかり」は、中盤以降にホーンセクションの荘厳さによってスケールが大きくなっていくのが特徴的だ。それと共に開けていくサウンドスケープが絶景の美しさで堪能できる。よーよーイチオシのアーティスト"ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)"も編曲に関わっているだけあって、音楽的に非常に洗練されている。この曲には、直に触れられるような肉体性がある。それと同時に、知性を含めた精神性も感じ取れる。宇宙の裏側で飛び跳ねるうさぎのまばゆさ(≒ひかり)のように人知れず、しかし命が脈づく確かさで音楽が鳴らされている。
#8「ほおづき」は安っぽい野暮な打ち込みとは違う、人の血が通っていてアーティスティックな打ち込みが鳴っている。
#9「たそかれ」の勇壮なストリングスを聴いているだけで気持ちが1センチ前向きなる。
#10「時の子」は、切実なピアノバラード。柔らかい手つきでリスナーを刺してくる、歌にもピアノにも説得力がある。
#11「メモリー」。メロディも音楽の作り込みも完成度が高い。前景でむせびなくホーンセクションも、背景の分厚いストリングスも音楽的で感激する大団円。エピローグの#12「Out of the dream」へ続いていく。
本作はまさに夢の中で出会うアソート。切実だったり、ユーモラスだったり、シュールだったり、ちょい怖だったり、勇壮だったり、いろいろなチョコレートの詰め合わせ的アルバム。
個人的にサイエンス・フィクションのバンドといえば、"うみのて"だが、本作を聴了した後、ファンタジーなシンガーソングライターといえば"吉澤嘉代子"になった。もっと彼女のぬくもった魔法に触れていたい。歌声の残り香とメロディの湿り気の魔力が、知らない場所へ自分を連れていく。
Score 9.4/ 10.0
🐼オマケ🐼
笹口騒音オーケストラ「TOMMOROWLAND」
👆文中に出てきた西山小雨さんがアコーディオンをつとめる笹口騒音オーケストラの曲。2017年のライブ映像だけど、僕がすごく好きな動画。素敵が詰まっている。
ダニーバグ「退屈ハイウェイ」
👆こんなに良い曲を書くのに売れないのが信じられない。ザ・ロックンロールキラーチューン!
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