2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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30位から11位までの記事はご覧になりましたか? 精魂込めて各アルバムにコメントを書いているのでぜひご覧くださいね!
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位

こうやって2010年代ベストアルバム記事を書いていると、10年代の音楽も10年代の音楽ならではの良さがあり、豊かなシーンが形成されていたように思う。

それでは、お待たせしました。
ベスト10のカウントダウンです!


 【10位】YAOAY(a.k.a,笹口騒音)『名曲の描き方』(2019年)



一曲目の「名曲の描き方」を聴くだけで日常の喧騒をシャットダウンできる。静けさの深淵に通じる世界へ連れて行ってくれる。日常と世界を鋭い批評眼とユーモアで切り取り、笹口さんの表現論にも繋がる奥の深い作品だ。YAOAY名義の三作品では、この作品が一番コンパクトに笹口さんの言いたいことが詰まっていると思うので本作品を推します。

笹口さんソロの音楽的な魅力は、幅広い曲想を描き分けるソングライティングの巧みさ、綺麗にファルセットがかかったボーカル、歌詞から情景を浮かび上がらせる力があるギターとピアノの美しい響きにある。あなたもぜひ笹口さんのソロ作品を聴いてみて!

来年は笹口さん率いるうみのて、太平洋不知火楽団、NEW OLYMPIX、笹口騒音オーケストラの4バンドが音源を発表する笹口イヤー! 僕もとても楽しみにしています。

【9位】中村一義『対音楽』(2012年)

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3,080円
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2010年代の中村一義では、『海賊盤』よりも『対音楽』を推します。バンド"海賊"による軽快な演奏も良かったけれども、一人でベートーベンの音楽と向き合って作った『対音楽』の濃密さには負けると思う。

前作の傑作『世界のフラワーロード』(2009年)は、中村一義の生まれ育った街(小岩のフラワーロード)を舞台として、父の暴力や家庭の崩壊を受けて苦しかった中村一義の子供時代を振り返って祝福するアルバムだった。それに対して、『対音楽』は一枚のアルバムを通して、ベートーベンの濃密な人生を追体験できるアルバムとなっている。

このサブスクの時代にあって、コンセプチュアルなアルバムこそ、アルバム全曲が聴かれるために必要な仕掛けではないかと思う。サブスクでは通常一曲ずつ聴くけれども、コンセプトアルバムなら全曲聴いてみようかという気になるからね。

【8位】NEW OLYMPIX『2020』(2016年)

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2,100円
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笹口騒音さん率いるバンドの一つ。「踊っているのはお前じゃなくて 踊らされているのがお前だよ」(「NO MUSIC. NO DANCE)などの辛辣な歌詞は、嘘と欺瞞にあふれた世界のリアルを暴く。バンドの演奏も一つのスタイルを確立していて録音芸術の何たるかを教えてくれる。

この混沌を極めた音は、90年代後半のRadiohead『OK Computer』やMassive Attack『Mezzanine』の暗く閉じた音像を現在にアップデートし、さらに未来の先鋭的な音楽を幻視させる音に聴こえる。本作に収められているのは、暗いのに明るい、閉じているのに開いている、不思議な矛盾をはらんだ楽曲群だ。

オルタナティブロックが好きな方はぜひ聴いてみてくださいね! 上に掲げた「NO MUSIC. NO DANCE」の動画はドラマの逃げ恥などをパロっていて笑えるので、くすりと笑いたい方もぜひ動画をクリック! 僕の2010年代ベストMVです。

【7位】くるり『THE PIER』(2014年)

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2,044円
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2010年代のくるりのアルバムから選ぶのなら、『THE PIER』一択だと思う。『坩堝の電圧』(2012年)はカオスにとっ散らかっていて五回目聴くぐらいまでは感激するけど、それ以降はやはり混沌よりも美しいくるりを求めてしまいたくなるから。その他2つのソングオリエンテッドなアルバムは、くるりの音楽に対するラディカルな姿勢が乏しいように思う。

今までエレクトロ・UK、USロック・ジャズ・クラシックなどを音楽のエッセンスとして取り入れてきたくるり。『THE PIER』では中東、東欧に伝わる伝統音楽を取り入れ、シターラ、ギターラ、サズなど民族楽器をふんだんに使っている。くるりの音楽は節操がないくらい、音楽に対して貪欲だ。そして、視線は常に日本と世界を向いている、音楽家としてあるべきミュージシャンだと思う。

【6位】SEKAI NO OWARI『Tree』(2015年)

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2,431円
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歌ものセカオワの最高峰アルバム、それが『Tree』。ヒットシングルが惜しみなく収録されているし、どの曲もポップでキャッチーな歌ものの名曲だ。

マーチングバンド式のサウンドをポップスにしたのは、これまでも例があるのだろうけど、僕にとっては新鮮だった。楽しくも死や危険と隣り合わせにある危うい世界の魅力に取り憑かれ、今日も僕はセカオワを聴いている。

今の世の中は、SNSによって人々の本音が可視化され、様々な対立も起きている。そして、この世界は徐々に寛容でなくなってきている。中道は危機に瀕している。セカオワの「Dragon Night」は対立のどちらの側にも正義を認め、一夜だけ友達になれると歌う。そして、「コングラッチュレーション」と歌い、その一夜を祝福するのだ。

セカオワの「Dragon Night」が流行った2015年、人々の間で半ばふざけながら「ドラゲナイ」と言うのが流行ったのは、より深刻化していく対立へのアンサーソングだったのだ。これほどアクチュアルな歌が2010年代にあっただろうか。

【5位】毛皮のマリーズ『ティン・パン・アレイ』(2011年)



管弦楽器を大きくフィーチャーしたチェンバーポップの傑作。どの楽器のパートも美メロで響きが美しく、心に訴えかけてくる。これほど愛にあふれた作品は世界で数少ないと思う。細部にまで愛は張り巡らされ、とんでもなくウェルメイドなアルバムになっている。

大人という存在はそこまで頼れないということが社会で可視化され、大人や社会への反抗というロックの大きな物語はなくなった。ロックの主な三つの指標であるアウトサイド指標、リアル指標、アート指標のうち、アウトサイド指標とリアル指標はリアルな反抗ができなくなったことをきっかけに指標としての価値を落としている。それでもロックの思想に殉じようとした志磨遼平は、残るアート指標の美しさで、社会の美しくないものに抗おうとしたんですよ。そのリアルな美しさの反抗の記録がこのアルバムだ。


【4位】相対性理論『シンクロニシティーン』(2010年)



メンバー体制変更前の最後のアルバム。真部脩一さんがいた方が音楽全体に華があるという気がしてしまう。もちろん、真部さんと西浦さんがいなくなったアルバムも好きなんだけどね。だから、このアルバムは真部さんとやくしまるえつこという二人の音楽的な主導者がかち合って作られた最後のアルバムでそれゆえにとてもスリリングなんだ。

相対性理論を心を傾けて聴くと、心の中の憎悪がすっと消えていくような気がするのだ。世界にあふれる憎悪さえも薄めてくれる。それは、やくしまるさんがいつも仮装のファンタジーの中で本音の愛を歌っているからだと思う。

【3位】うみのて『21st CENTURY SOUNDTRACK』(2015年)



2010年代に現れた二人のロッカーの天才。それは神聖かまってちゃんの"の子"とうみのての笹口騒音。常識破りのエキセントリックな音楽性で、それまでのお行儀良いロックの様式を破壊していく。

本作は、エキセントリックな前作に比べ、「歌」の比重が大きくなっている。冒頭の「恋に至る病」のギターの音響の連なりにうみのて第1期の最後の叫びがこだまする。うみのて第1期は、笹口騒音さんと高野京介さんの二人のギタリストの個性のぶつかり合いがスリリングな音像を生んでいた。うみのては第2期として復活したが、うみのてでの高野さんのプレイはこの第1期でしか聴けない。

来年は笹口さんの4バンドが音源を出す笹口イヤー! うみのての音源が楽しみすぎる。新メンバーも若い才能が爆発していて、うみのての音楽をますます色鮮やかに染める。

【2位】ふくろうず『砂漠の流刑地』(2011年)

砂漠の流刑地砂漠の流刑地
2,100円
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人は心震わせて誰かを好きになることもできるし、誰かに寄り添ってもらって生きることもできる。ただ、一人一人の中にある心は「わたし」という牢獄に閉じ込められている囚人なのだ(小説家の高橋源一郎が言っていたことを僕なりに咀嚼して書いています)。自分の隣にいる、これもまた牢獄に閉じ込められている「わたし」と心を通じ合わせるために言葉がある。

ふくろうずの歌は牢獄に閉じ込められた「わたし」を音楽の中で解放する。あなたは一人だと歌いつつ、孤独を慰めてくれる音楽を僕はふくろうずの他に知らない。安易な慰めではなく、たぎるような熱さで人生を歌ったアルバムだからこそ、牢獄の底にいる僕までその音楽は手が届くのだ。時代は流れ、正しさは変わっても、このアルバムの愛は永遠だと思う。


【1位】神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010年)



神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」という曲は、ロックンロールは意味に回収されないことを歌った歌だ。この曲の主人公は駅前のTSUTAYAでビートルズとセックスピストルズを借りる。しかし、「何がいいんだか全然分かりません」。

その後、夕暮れ時に部活の帰り道でまたビートルズとセックスピストルズを聴くと何かが以前と違う。「MD取っても、イヤホン取ってもなんでだ全然鳴り止まねぇっ」。「なんでだ」と言って鳴り止まない理由を分かっていない。

時が過ぎ、この曲の主人公はギターを持ち、それを掻き鳴らし、吐き出すように歌を歌い始める。近くや遠くにいる「君」に向かってギターを鳴らす。その時、「君」が曲の意味が分からずとも、「ロックンロールは鳴り止まないっ」と主人公は言う。

意味が分からなくても、ロックンロールは鳴り止まない。この曲にあるのは、熱だ。「ロックンロールは鳴り止まない」と歌う最後(「今!」)まで、時間が経つにつれて曲の体温は上昇していく。ロックンロールと同様、熱も意味に回収されない。皮肉家はちゃかすが(それも大切)、熱くなるのに意味などいるものか。の子が「do da」と歌うのは、意味のある言葉では熱を語ることはできないからだ。

TOWER RECORDで『友達を殺してまで。』がパワープッシュされていて、1曲目のこの曲を聴いてすぐに、僕はレジに直行した。意味に疲れた僕にとって、この曲は意味の世界を超えた何かがあった。理性ではそんなことを考えていなかったが、直感がそれを悟ったのだと思う。

中学生の時にスピッツに出会って音楽が大好きになった時期を第一次音徴(性徴ではなく"音"徴)とすると、社会人になって神聖かまってちゃんに出会って音楽ブログを書くようになるくらい音楽にのめり込むようになった時期は第二次音徴だろう。つまり、神聖かまってちゃんはスピッツに続いて二回目の音楽的な革命を僕の耳にもたらしたのだ。

神聖かまってちゃんに出会ってなかったら、『とかげ日記』(このブログ)もなかったし、音楽から離れていたかもしれないなー。今の自分と密接に繋がっている神聖かまってちゃん。彼らの音楽を愛することは、今の自分を愛することにも繋がる。僕とファンはほどけないアイデンティティーの鎖で神聖かまってちゃんと繋がっている。でも、の子は誰よりも自由に生きたいと願っているから、そんな鎖なんて引きはがして思いのままに音楽を紡いでいくのだろうな。

でも、僕らみたいなディープなファンでなくても、かまってちゃんの音楽は楽しめると思います。かまってちゃん初心者にはベストアルバムと『ツン×デレ』『英雄syndrome』あたりのポップなアルバムをオススメしますよ!

以上、ベストアルバム30枚、いかがでしたか?
気になった音源はぜひ聴いてみてくださいね!

2010年代ベストトラックもどうぞ!♫
2010年代ベストトラック(邦楽)30位→21位
2010年代ベストトラック(邦楽)20位→11位
2010年代ベストトラック(邦楽)10位→1位

2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→1位

【1位】神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010年)
【2位】ふくろうず『砂漠の流刑地』(2011年)
【3位】うみのて『21st CENTURY SOUNDTRACK』(2015年)
【4位】相対性理論『シンクロニシティーン』(2010年)
【5位】毛皮のマリーズ『ティン・パン・アレイ』(2011年)
【6位】SEKAI NO OWARI『Tree』(2015年)
【7位】くるり『THE PIER』(2014年)
【8位】NEW OLYMPIX『2020』(2016年)
【9位】中村一義『対音楽』(2012年)
【10位】YAOAY(a.k.a,笹口騒音)『名曲の描き方』(2019年)

【11位】フジファブリック『MUSIC』(2010年)
【12位】MOROHA『MOROHA Ⅳ』(2019年)
【13位】きのこ帝国『愛のゆくえ』(2016年)
【14位】転校生『転校生』(2012年)
【15位】GEZAN『Silence Will Speak』(2018年)
【16位】大森靖子『絶対少女』(2013年)
【17位】ゲスの極み乙女。『両成敗』(2016年)
【18位】SAFETY SHOES『RISING』(2011年)
【19位】羊文学『若者たちへ』(2018年)
【20位】リーガルリリー『the Telephone』(2018年)

【21位】銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』(2014年)
【22位】cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)
【23位】サカナクション『834.194』(2019年)
【24位】チャットモンチー『告白』(2010年)
【25位】マキシマムザホルモン『予襲復讐』(2013年)
【26位】amazarashi『爆弾の作り方』(2010年)
【27位】Official髭男dism『Traveler』(2019年)
【28位】andymori『ファンファーレと熱狂』(2010年)
【29位】笹口騒音オーケストラ『TOMORROWISLAND』(2016年)
【30位】RADWIMPS『人間開花』(2016年)