
●若手ではイチ推し
23才にして人の心の機微や宇宙の核心の真実をすべて知ってしまっているような早熟のシンガーソングライター"崎山蒼志"のメジャー4thアルバム『good life, good people』のレビュー。
【収録曲】
01 悪魔
02 人生ゲーム album remix (prod. 原口沙輔)
03 ending routine feat. 原口沙輔
04 ダイアリー
05 eden feat. かもめ児童合唱団
06 ghost feat. 諭吉佳作/men
07 eden inter
08 SOS
09 買ったばかりのものは
10 泡沫
11 人生ゲーム
👆アルバム全曲クロスフェード
僕が彼の音楽を知ることになったのは、2018年のこと。彼の弾き語り動画がバズっていて聴いてみたら、あふれ出る魅力と実力に驚いた。大森靖子や笹口騒音のような、むき出しの魂を歌う弾き語リスト。空間を支配する力が大森靖子さんと匹敵するレベルだったし、笹口騒音さん(うみのてetc)とも並ぶリリカルなオリジナリティがあった。
そのあともちょくちょく彼の活動を追っていて、いずれするとは思っていたけどメジャーデビューは嬉しかった。そして、彼の音楽の名刺代わりである「燈」('23←通常は"ともしび"と読む漢字だが、この曲の場合は"あかり"と読む)と「嘘じゃない」('21)は掛け値なしの名曲。両者共にアニメタイアップだが、それが彼の大衆性を引き出した。どんな人の心にも届く切実さは間口が広いし、それゆえにたくさんの人に刺さる求心力がある。メジャーのフィールドでも十二分に戦えると思った。
👆「嘘じゃない」
個人的に好きなのは「In Your Eyes」('23)という曲だ。穏やかなダウナーの直球が心地よい。間口は狭く、人を選ぶ曲だ。あるいは、曲が人を選んでいるのか。どんな人でもみんな、何かしら選ばれている曲がある。僕もこの曲に選ばれて光栄だ。
彼の音楽を耳をすまして聴いてみる。ファルセットが孕(はら)んでいる素敵な謎を、語尾がカスれる歌声に歌唱への真摯さを、それらの尊さを噛み締めているだけで高揚してくる。
日本のR&B界で宇多田ヒカルの後に藤井風が出てきたように、日本のインディーロック界でくるりの後に崎山蒼志が出てきたといったら言い過ぎだろうか。歌ものでありつつ、幅広い射程の音楽性という点ではくるりに次ぐ存在だと思う。
インディー志向の凡百のアーティストはダイナミズムを忘れがちだ。また、メジャー志向の凡百のアーティストは細部への美意識を忘れがちだ。その中でも崎山さんの音楽はどちらも忘れていない。先ほど述べたように、くるりと共通する魅力を感じる。
神聖かまってちゃんの"の子"が歌ったように、「最近の曲なんかもうクソみたいな曲だらけさ!」。今の音楽シーン(いつの時代でも?)は、死んだ音楽、死んだ表現の墓場に思える。その中にあって崎山さんの音楽はカタルシス半端ない王道も鳴らしつつ、トんじゃうくらいヤバいブツ的な実験的冒険曲を鳴らしている。面白いリズムアプローチを取り入れるなど、音楽を創作する姿勢は貪欲だ。
二者のどちらが価値が高いかというものではないが、スポーツ的(身体性)な美しさと精神性の美しさの両極の発露について言えば、精神性の美しさに比重が大きいだろう。そのあたりも、僕が彼の音楽を好きな理由だ。簡単には言い表せない思想が音楽として鳴っている。
さて、本作『good life, good people』の収録曲を見て(聴いて)いこう。
#1「悪魔」。冒頭を聴いて素朴なフォークだと思いきや(背後のチカチカいうSEが不穏だが)、曲名は「悪魔」。自分の心の中にいる悪魔を認めることは、自分の心をありのままに認めることだ。その認めぶりが崎山さんらしく優しくて泣きそうになる。本作のジャケットのイラストも悪魔を可愛らしく書いたものだと思う。
#2「人生ゲーム album remix (prod. 原口沙輔)」。
リード曲で先行して聴けた「人生ゲーム」を大胆にリミックス。(原曲はアルバム最後に収録されている。)凝ったブレイクビーツ的な、レベルが高い解体と再構成がなされており、かなり匠(巧み)で玄人な作り。
#3「ending routine feat. 原口沙輔」。
若き22才の俊英"原口沙輔"によるビートがビビッド。ブレイクビーツ風な数学的グルーヴが底流にある良曲だ。(崎山と原口の邂逅。天才は天才を引き寄せるのだろうか。)ルーティンから逃げ出すために、彼(ら)には音楽と芸術がある。
歌詞はこの2人が大好きなYMOの「Perspective」からインスピレーションを得ているという。歌詞だけではなく、音楽性も影響を感じ取れる。ヒット曲に象徴されるきらびやかな側面のYMOというより、メンバーである3人の天才が思い思いに演奏したディープでドープな側面のYMOの音楽性を引き継いでいると思う。
#4「ダイアリー」。
カフェミュージックのような落ち着きで始まったり、途中でジャングルっぽい高速ビートになったり、若干アッパーで清新なサビの盛り上がりだったり、展開もディテールも音楽性的にとても凝っている。ニセ崎山さんがたくさんでてくるMVも必見!
#5「eden feat. かもめ児童合唱団」。
「かもめ児童合唱団」と聞いて、はてどこかで聞き覚えのある名前だなと思っていたら、坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)とのコラボシングル「あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団」で知ったのだった。他にもZAZEN BOYSと関わりがあったり、何かと邦楽シーンと関わりのある児童合唱団のようだ。
なお、この曲では崎山さんは歌っていない。手練れの児童合唱団の歌声が無垢に響き、崎山さんの音楽に対する真摯な姿勢と共鳴する良曲となっている。
#6「ghost feat. 諭吉佳作/men」。
2019年に彼が発表した「むげん・ (with 諭吉佳作/men)」以来となる諭吉佳作/menとのタッグ曲。諭吉佳作/menというアーティスト名からは性別が分からないが、22歳の女性のシンガーソングライターで中学の頃から崎山と交友関係があるという。先ほども同じことを書いたが、天才は天才を引き寄せる梁山泊的な何かだろうか。少年が漫画家になるまでとなった後を描いた名作漫画『バクマン。』に迫るクリエイティブの邂逅に心が熱くなる。
箸休めにするほどヤワな表現ではない29秒の小品の#7「eden inter」を挟んで次の曲へ。不安じみた実験的な曲風にムンクの叫びを観たときと同じ感覚を覚える。

👆「よーよーの叫び」
#8「SOS」。
テレビをつければ、またはXを開けば、戦争の話題にあふれている最近。その世相を捉えた反戦歌のように僕は聴こえる。戦争のむごさを直接に描写するのではなく、緊張関係が雪解けになったときの平和の柔らかい魅力を描くことで戦争に抗おうとする、ささやかでありつつ渾身の曲だ。光よ、我が地に、彼の地に。
#9「買ったばかりのものは」。
内省の曲。アコギによる室内楽のような味わいで痛切。大昔、第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスは、苦しい状況においても「善き人」として生きる精神的実践として『自省録』を書いたがそれを思い起こした。
#10「泡沫」。
この歌には平穏の日々の尊さを感じるのだ。平穏だけど、静かにドラマチック。36.5℃の体温を感じ取れる。体温があるということは、この曲には心臓(ハート)があるのだ。伊藤ハルトシさんによる落ち着いて美しいチェロが、尊さの感覚をマシマシにしている。よーよーオススメ曲。
#11「人生ゲーム」。
#2でアレンジされた原曲。Mega Shinnosuke、紫 今と組んで作られた、最先端のグッドミュージック。洗練の一方でリアリティの生々しさの一端を感じられる。冒頭のアコギの切れ味よ! アコギがリズム楽器でもあることを再確認させる。曲名由来と思われる背後でピコピコいっているチップチューン的要素も自然に曲に溶け込んで素晴らしい。
以上、全曲を見て(聴いて)きたが、アルバムタイトルであるgood lifeでgood peopleな「良き(善き)生活、良き(善き)人々」のバイブスだけではなく、それとは相容れない、欲望に素直で邪悪な悪魔も受け入れようとする懐の深い全11曲。この屈託が表現に深みを与えている。
ただ、本音を言えば、「燈」や「嘘じゃない」級にパンチが効いていてキャッチーな間口が広い曲をもう1, 2曲欲しかった。何回か繰り返し聴いたが、一番僕の心に響くのは#10「泡沫」かな。
でも、彼の個性は本物だと思う。順調にキャリアを積んでいってほしい。蒼い志の向かうまま、音楽を自由に紡いでいてくれたら嬉しい。そして、「In Your Eyes」のような、ある一人(この場合は僕)に特別に刺さり、心の対話が始まるような無二の曲をこれからも作ってほしい。
Score 8.8/10.0
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