
ラッパーのアフロ(MOROHA←活動休止中, 天々高々)のソロデビュー作『無職覚醒』のレビュー。このタイトルはウェブサイト「小説家になろう」の人気小説『無職転生 -異世界行ったら本気だす -』と掛けているのだろうか。アフロは異世界に行ってなくてもいつでも本気だけど。
【収録曲】
01. ギンギラ 作詞:アフロ 作曲:池永正二 (あらかじめ決められた恋人たちへ)
02. サンパチ 作詞:アフロ 作曲:ヒグチアイ
03. 花と木刀 作詞:アフロ 作曲:Nob(MY FIRST STORY)
04. checkered fire feat.澁谷逆太郎 作詞 アフロ、澁谷逆太郎 作曲 澁谷逆太郎 編曲 George (Mop of Head)
05. ムーンリバー 作詞 アフロ 作曲 ビートさとし (skillkills)
06. 呼吸の間 作詞 アフロ 作曲 TOSHIKI HAYASHI (%C) コーラス ヒグチアイ
07. 牛乳パン feat.澁谷逆太郎 作詞 アフロ、澁谷逆太郎 作曲 澁谷逆太郎
08. 津田寛治 作詞 アフロ 作曲 GuruConnect (skillkills)
09. 俺たちのダンス feat.JEVA 作詞 アフロ、JEVA 作曲 GuruConnect (skillkills)
10. POETRY DREAM 作詞 アフロ 作曲 観音クリエイション
11. ワンツー 作詞 アフロ 作曲 ヒグチアイ
12. じんせい 作詞 アフロ 作曲 Yusuke Saint Laurent
MOROHA時代は3年に一度程度のアルバムのリリース頻度だったため、ヒグチアイと組んで「天々高々」名義で出したアルバム『祝祭日』から3ヶ月も経っていないうちのリリースで驚いた。しかし、リリック的にも音楽的にもとても充実しているアルバムである。
本作をレビューするかどうか、少し迷った。彼の作品は一作ごとにヘヴィ級のインパクトを放ち、前述の「天々高々」名義のアルバムもまた、天まで届くような明るい希望と共に、ずしりと胸に響く尊い意味性を宿していた。あの作品ですらまだ十分に咀嚼しきれていないのに、新譜まで取り上げれば、さすがに受け止める側の感覚が飽和してしまうのではないか――そんな思いがあった。
しかし、じっくり聴き込むほどに、「これはブログで取り上げずにはいられない」と感じた。それほど完成度が高く、新たな感覚を呼び覚ましてくれる一作だ。アフロさんのキャリアを振り返っても、ここまでリリックと音楽性が自由闊達で、緩急自在に表現された作品はないだろう。
MOROHA時代は、がむしゃらなエネルギーで支持を集めたアフロ。熱を帯びたリリックと、UKの卓越したアコースティックギターを武器に、一点突破の快作を生み出し続けてきた。ソロとなった本作でも、その生命力は少しも衰えていない。だが一方で、チルアウトな楽曲や、陽気なグルーヴでリスナーの気分を高揚させる楽曲も並び、その表現は実に豊か。アルバムを通して、多彩な表情を軽やかに描き分けている。
それでは、全曲聴いていこう。
01. ギンギラ
ハンドクラップが鳴り響くなか、アフロはストイックにリリックを刻んでいく。中盤から熱を帯びるバックサウンドは、往年の歌謡曲を思わせるような熱血ぶり。熱意そのものを宿したボーカルはリバーブをまとって空間を乱反射し、楽曲の熱量をさらに押し上げる。ギンギラギンなアドレナリン全開の幕開けに、アルバムへの期待は否応なく高まっていく。
02. サンパチ
冒頭から鳴り響く、湘南乃風「純恋歌」を思わせるピアノリフが印象的な一曲。主人公は、お笑い芸人を目指して青春を懸ける一人の青年だ。本作の物語の主人公は必ずしもアフロ本人ではない。それでも、そのひたむきな背中には、何事にも全力で向き合ってきたアフロの姿が自然と重なって見えてくる。
03. 花と木刀
地方都市──たとえばサイタマ──で生きるラッパーの景色を切り取ったような一曲。タイトルからは、ルース・ベネディクトの『菊と刀』も連想される。「誠実さや礼儀正しさ(菊)」と「好戦的で残忍な面(刀)」という、一見すると相反する日本人の気質。その構図が、本作にもどこか重なって見えてくる。仲間の死という状況を前にしてこの曲で描かれているのは、ヤンキーという存在が抱える二面性なのかもしれない。
04. checkered fire feat.澁谷逆太郎
長渕剛「とんぼ」の〈死にたいくらいに憧れた 花の都大東京〉という一節がふと脳裏をよぎった。東京という街が放つ眩い魅力と、その裏側にある空虚さ。その両方を鮮やかに描き切っている一曲だ。
クレジットにある「澁谷逆太郎」という名前が気になって調べてみると、ロックバンド「SUPER BEAVER(スーパービーバー)」のボーカリスト・渋谷龍太によるソロプロジェクトの名だという。
MOROHA「五文銭」の歌詞にもビーバーが出てくる。
ライバルの多さ それこそがスタミナ
パンパンの武道館で見せつけたビーバー
時代を掴みかけてるマイヘア
アフロにとってビーバーとマイヘア(My Hair is Bad)はライバルだし、同じく音楽を志す仲間なのだろう。
05. ムーンリバー
曲名の由来は、ヘンリー・マンシーニ作曲、映画『ティファニーで朝食を』(1961年)でオードリー・ヘプバーンが歌った名曲「Moon River」にあるのだろうか。そんな想像を誘うほど、本曲には月明かりに照らされた川のせせらぎを思わせる、穏やかで心地よいチルな空気が流れている。一方で、歌詞は一語一語がずしりと胸に響き、静かなサウンドとのコントラストが鮮やかだ。月の川を渡るように、夢の橋を渡るように、アフロの願いが穏やかに響く。
06. 呼吸の間
こちらもチルな一曲。都会的で洗練されたサウンドは、今やクラシックの風格すら漂うtofubeats「水星 feat.オノマトペ大臣」を個人的に彷彿とさせる。MOROHA時代のアフロを知る者なら、彼がこんな音楽性の曲をリリースする日が来るとは想像もしなかっただろう。
07. 牛乳パン
風変わりな曲名そのままに、サウンドもひねりの効いた仕上がりだ。
08. 津田寛治
曲名は実在の役者の名前から。2023年の映画『さよなら ほやマン』での共演を機に交流を深めたアフロと津田寛治。映画『津田寛治に撮休はない』(2026年)の熱狂的ファンとなったアフロは、頼まれたわけでもないのに衝動のまま「津田寛治」を書き上げた。僕は映画/ドラマに詳しくないのでこの役者の名前を知らなかったが、アフロの描き切った津田寛治はとても魅力的で奥行きのある人物に思える。
09. 俺たちのダンス feat.JEVA
ガチでクールなヒップホップを貫くスター的存在、skillkillsやJAVAとの共演に胸を躍らせるリスナーも多いはずだ。まさに「俺たちの時代の、俺たちのダンス」。その熱量は、ポピュラーなヒップホップアイコンnobodyknows+の「ココロオドル」が往時に放っていたあの高揚感をふと思い出させる。
10. POETRY DREAM
不可思議/wonderboy「Pellicule」への返歌。不可思議の曲のトラックを作っていた"観音クリエイション"がトラック作りで参加している。亡き不可思議のいる冥土へと架かる三途の川を渡るように、アフロの声と言葉が刹那の空白を貫いていく。この胸を締めつける響きは、きっと彼のもとにも届いている。
11. ワンツー
ボクシング漫画『あしたのジョー』のごとく、ストイックにワンツーを重ねていくような愚直に歌われる歌。
12. じんせい
洗練された打ち込みサウンドがモダン。音楽人生で刻んできた轍のなかで、アフロが自らに課し続けてきた誠実さが、ぎゅっと凝縮された一曲だ。夕焼けが美しいように、人生もまた美しい。
以上、全12曲。謙虚さと貪欲さを併せ持つ、いつものアフロでありながら、多彩な音楽性に挑み続ける表現者としての新たな一面ものぞかせる。リスナーの心に一歩踏み込む、赤裸々でありながら洗練された楽曲たちは、今日もきっと誰かの支えになっている。
#10「POETRY DREAM」では、宮沢賢治や茨木のり子を思わせるリリックが出てくるが、アフロの作詞は、そういったクラシカルな先人の名詩と肩を並べられるほどの表現力だと思う。昔からの鋭い刃のような切れ味は少しも鈍ることなく、今では相手をやさしく包み込む抱擁へと昇華されている。
この記事を通して言いたいのは、とにかく心震える良作だということ。これからの活躍も祈っていますよー。
Score 9.4/10.0
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