G大阪対アデレード
クラブ・ワールド・カップに去年の浦和に続いてG大阪が登場しました。対戦相手はアジア・チャンピョンズ・リーグ(ACL)で決勝の相手だったオーストラリアのアデレード。11月のホーム・アンド・アウェイの決勝戦では計5-0でG大阪が2戦とも勝ちましたが、いざ本番となるとどうなるのかわからないのがサッカーの面白いところ。
G大阪は、二川が戻ってベストメンバーで臨んだが、序盤はアデレードの活発な攻撃にもっぱら守備を強いられる。そんな中前半20分佐々木がアクシデントによって交代、播戸が投入された。その3分後、二川のパスをゴール前で播戸が頭で落としたところをずーっと走り込んでいた遠藤がGKの股の間を抜いたシュートを決める。その後は再びアデレードに押し込まれる場面もあったが、前半を1-0で折り返した。
さて後半は、早い段階で遠藤のミドルシュートなどがあり、アデレードのバックラインが下がってほぼ完璧なG大阪のリズムで試合が進んで行ったが、30分を過ぎたあたりからアデレードの攻撃が再び活性化して追い込まれる場面が増えてきた。二川も負傷で交代するというアクシデントがあって、終盤、特にロス・タイムではひやりとする場面も多かったが、結局そのまま逃げ切ってG大阪が次にコマを進めることになった。
12月18日のマンチェスター・ユナイテッド(マンU)との対戦が楽しみです。そうそう、マンUのクリスティアーノ・ロナウドのけが(腰)は大したことがなく、前節のプレミア・リーグにはフル出場したそうです。
第3部 ルクノーの悩み(3)
ボクとマクシンがルームに向かって歩いていると、ジュリアからマクシンに連絡があった。
「今オーラン=ガバドから紹介されたスリナグっていう医療科学班の人から連絡があったのよ」
「そうか、イコロドの詳しい事情が聞けるんじゃな」
「そうなの。治療法について意見があれば聞きたいともいわれたの。だからこれからシンと一緒に研究所に行くことにしたわ」
「そうか。わしらは屋敷まで行って今帰るところじゃよ。20時ころに連絡をもらえる予定なんじゃが、どうなるかわからんよ」
「わたしもどうなるのかわからないけれど、とにかくシンがいてくれるから心配はないわ」
「そうじゃな。わかったわ。また何かあったら連絡しておくれ」
◇ ◇ ◇ ◇
ジュリアはシン・ジーに言われて、あまり遠くないのに移動カプセルで医療科学研究所に向かった。すぐ行くといっておいたので、入口に出迎えがきていた。
「ジュリアさんですね。オーラン=ガバドから協力するように言われました」
「スリナグ博士ですね。ありがとうございます」
「ああっ、すまない、自己紹介を忘れとった。博士はいらんよ。スリナグでいいよ。わたしもジュリアと呼ばせてもらうよ」なかなかとっつきやすい相手だった。
「さっそくですが、イコロドで起こっていることの詳しい情報を教えていただけますか?」
「では、わたしの研究室に行こう」
スリナグの研究室は、7階建ての建物のうちの最上階にあった。
大きな壁一面の最新機器の表示モジュールでイコロドの地図が平面ビデオで映し出された。
「ここのあたり、つまり北部のアンパヤという村で新型ウィルス、フラバスは発生したんだ。3週間前に連絡があったときはすでに広い範囲に広がっていたと思われるんだ。アンパヤ村は人口約22万人だが、多分全員だめだろう」
「ウィルスの正体は分かっているんですか?」
「正確には分かっていないが、多分、イコロドにしかはえていない植物のアマノキの種子から発生したものだと考えているんだ」
シン・ジーには退屈な時間だったが、約2時間にわたってジュリアは真剣に話を聞き、わからない点については次々と質問していった。ひととおりの説明を受けて、意見を求められたジュリアは、
「アマノキの種子がウィルスの発生源だとすると、周辺温度を28度以上にすると拡大は防げるかもしれません」
「それはまた、どうしてかな?」
「わたしのところで実物にお目にかかったことはないんですが、毒性を、持つ植物としてアマノキは、摂氏20度以上で活動が極端に鈍くなり、28度で枯れるという信頼できるレポートがあります」
「ふーん。だがな、イコロドは寒冷地帯で最高気温を17度までで押さえているんだよ。10度も上昇させるといろいろな機能に支障が出ると思うんだが・・・」
「人工的な機能といっても、28度程度であれば人の生命にかかわることはないと思います。もし、感染が止まれば、原因が確定したことになるし、それで次の手も打てるでしょう」
◇ ◇ ◇ ◇
オーラン=ガバドは、あしたのイコロドに関する緊急首脳会議を控えて、第2部長官のニゴーヒ、第3部長官のエタワそして医療科学班責任者ラフォルと打ち合わせを行っていた。内務部では、対応策の決定をしばらく伸ばしたかったが、ナシク一族からは早く解決しろといわれており、あした最終決定をすべく会議が開かれる。
ティガディが会議室に入り、ラフォルに緊急の連絡が入ったことを伝えた。しばらく席をはずすことを断り、ラフォルは会議室を出た。しばらくして戻ると、「いまわたしの部下からちょっとした朗報が入った。イコロドのフラバスの第1次感染を止められるかもしれない」
「やったわね。お手柄よ。で、その方法は?」とオーラン=ガバドは聞いた。
「いや、喜ぶのはまだ早い。第1次感染がもし止まったとしても、すでに人の体内に入り込んでいるウィルスまではこの方法では対応できない。つまり、人から人へと感染するものに対しては別の防御策を講じる必要がある。実行するにはマイナス面もあるし・・・」
「みんなに説明して」
◇ ◇ ◇ ◇
ボクとマクシンはルームに戻ってから時間があったので壁面モジュールの32チャンネルを見ていたが、2人とも36時間周期に馴れていないせいか、いつの間にか眠ってしまた。
ふと目が覚めると、マクシンはもう起きていてケータイを操作していた。ボクは、まだ眠い目をこすりながら聞いた。
「ねぇマクシン、何をやっているの?」
マクシンはびっくりした様子であわててケータイを隠し、「い、いや。何もしとらんぞ」
「いまケータイをいじっていたじゃない」
「み、見とったんか。マナー違反じゃぞ」なんだかマクシンは必要以上に興奮しているみたいだ。
「ごめんよ。別に見ていたわけじゃなくて、目が覚めたらマクシンが一生懸命操作しているのが見えただけなんだよ」
「ふん、それならいいが」
「ねぇ、誰かと連絡をとっていたの?」聞かなければよかったのかもしれない。
「ばかもんが。人のプライバシーっちゅうもんがあるじゃろうが」いったん静まったマクシンをふただぴ怒らせてしまったようだ。
「わ、わかったよ。そんなに怒らないでよ」
怒ったそぶりを見せながらも、マクシンは教えてくれた。
「さっきな、あのルクノーからメールがきていたんじゃよ。内容は、やはりもう一度20時に来てくれないかというもんでな」
「ひょっとするとレイナを連れてきてくれるのかなぁ」
「人の話は最後まで聞きなさい。それでじゃ、わしもレイナに会えるのかどうかと返信したんじゃよ。すると今な、もう一度メールがきて、もう一度わしに会いたいっちゅうんじゃ」
「なにそれ?」
よくわからないながらも、「これから行く」~「待っている」というやり取りのあと、ボクたちは再びイツァム・ナーの屋敷に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
スリナグの研究室では、スタッフ会議が開かれジュリアの提案について検討が繰り返された結果、医療科学班責任者のラフォルに緊急連絡ということになり、その線で進めるよう指示をもらった。
今もスタッフ会議が開かれており、アマノキの種子が発生源であることを前提に、今後の対応について検討されていた。議長も務めたスリナグが言う、
「われわれの推定では、イコロドの全人口4億2千万人のうち半数はすでに死亡、感染者も1億を軽く超えていると見ている。問題は、どうやって感染を防ぐのか、と感染していない者たちをどうやって助けるかということだ。リアン、君の意見はどうだね」と自分の右隣りの女性に向かって聞いた。
「原因が特定されれば、あとは何時間という単純に時間の問題ね。温度耐性を破ったウィルスに対する特効薬の開発と大量生産、それだけでなくて、どうやって処方していくかの問題もあるけどね」
「まぁ、われわれが解決しなければならないのは、開発の分野だな。大量生産と処方については内務部、軍事部が全面的に協力体制を取らないといけないだろう」
「そうね。そのへんは、ラフォルからオーラン=ガバドに言ってもらうしかないわね」
「よし。じゃあ、これからは全員が特効薬の開発に全力を傾けることにしよう」
会議が終わりかけたときに、自分の専門外だとそれまで発言を控えていたジュリアが「ちょっと待ってください」といった。「わたしの専門は植物学ですから的外れな意見かもしれませんが、植物の種子がウィルスの発生源であるとすれば、人に影響を及ぼすというのは、呼吸器系の細胞に対する攻撃だと思われます。そうだとすれば、イオン系物質の投与で細胞を再生できる・・・かもしれません」
「それはどういうことだね?」とスリナグ。リアンや他のスタッフもジュリアに注目している。
「ええ。実は、クイロンにある紅色クリカエデという植物に液状イオン化レジデスを与えて枯れさせたことがあるんです。しかし、そのうちの数ケースで再生したものがありました。そのときはどうして再生したのかわからなかったんですが、今から考えると・・・」
ジュリアの推論は、専門的なものであったが要約すると以下のようなことである。
紅色クリカエデが死、つまり枯れたあとは同植物内のイオン系物質が減少していくが、植物体温が高い場合、外周に残留する液状イオン化レジデスを取り入れ自分の体質に合ったイオン系物質Oct7に変えていく。このOct7がトリイ酵素を大量に作り出す。さらに、トリイ酵素が活性化し、iPS細胞を再生していくという循環になる。こういった作用が安定して行なわれた場合「死から復活」する可能性がある。
「この理論が人にも当てはまるかどうかは分かりませんが、もし当てはまるとすれば、死亡からあまり時間がたっていない死体に対しても有効かもしれません」
「なるほど。しかし、問題は液状イオン化レジデスあるいはそれに代わるものが何であるのかを特定し、人のiPS細胞を再生させるような物質があるかどうかを確認しなくてはならないな。それに、与える条件がどんなものかがわからないといけないな。リアン、君のチームで試してみてくれないか?」
「そうね。可能性は感じるわ。わたしもiPS細胞の再生については肯定派なので、やってみる価値はあると思う。でも、紅色クリカエデについては、逆にわたしの知識が不足しているわ。ニゴーヒ第2部長官に言って誰かにサンプルを持ってきてもらう必要があるわね」
◇ ◇ ◇ ◇
イツァム・ナーの屋敷の前では、ルクノーが待っていた。マクシンがさっそく切り出した。
「で、レイナはどこじゃな」
「もちろん調べました。しかし、いまはお会いになることはできません」
「何をいっとるんじゃ!なら何でをわしらを呼びつけたんじゃ」
「はい、連絡しましたとおりわたくしがマクシンに少し興味を持ったためでございます。ホルス様までお呼びした覚えはございません」
「わしに興味があるっちゅうのはどんなことじゃ」
「はい、わたくしはこう見えてもナシク一族のはしくれでございます。このお屋敷の使用人の中でもわたくしが最も尊敬される立場におります。が、しかし、非ナシク一族の方からあなた様のような扱いを受けたのが初めてでございまして、少しきずついておりました」
「なんじゃ、結局わしに文句があるっちゅうのか」
「いえいえ、とんでもございません。ただただ、今までに味わってもみなかった『心が動く』というものを経験しているようですので、その確認をしたかったのです」
なんだか、よくわからない展開になってきた。カトムス星の人って親子や男女の愛情や感動なんていう感覚がないって聞いていたけれど、それに近い感覚なのかな?そういえば、ナシクの「一族」っていうのもおかしな話だし、一族の長といわれているイツァム・ナーは子どもと一緒にこの屋敷にいるということだった。
「で?その確認とやらはできたんか」冷たくマクシンは言い放った。
「なんとなく、でございましょうか」といたって冷静なルクノー。「できましたら、明日もう一度おいでいただけると嬉しいのですが」
「何をばかなこといっとるんじゃ。そんなことよりレイナを出しなさい」
「では、明日11時にここでお待ち申し上げております」と、マクシンとボクの存在を無視したように、ルクノーはくるりと向きを変えて、門に向って歩き出した。
マクシンは、バッグからパラライザ・ガンを取り出してルクノーに向けたが、ボクがなんとか思いとどめた。
「シャクにさわる奴じゃ」
◇ ◇ ◇ ◇
ルクノーは悩んでいた。マクシンに会ってからというもの心の落着きがなくなっている。今もどうにか平静さをたもっていられたが、限界に近いようだ。だが、限界を超えるということがどういうことなのかもわからない。ただ言えることは、マクシンを憎いとは考えていないことだ。明日もう一度来るように伝えたが、今夜は眠れそうにない。
どうせ眠れないのならと、ルクノーはジャファナのことについて情報を集めた。自然に地球に関しても興味がわいてきた。水と緑が豊かな太陽系の惑星となっているが、ここベルガオンにも人工ではあるものの自然はある。山やどこまでも続く海はないが、環境はドーム内であれば完全にコントロールされ不便さはまったくない。
しかし、126歳となった今ルクノーの心に新しい感覚が芽生え始めていた。
ブログネタ:使っている歯磨き粉は?
ブログネタ:使っている歯磨き粉は? 参加中
わたしゃ、かなり前からオレンジ色のゾウのマスコットでお馴染みの佐藤製薬が発売(開発などはドイツのマダウス社)している『アセス』を使ってる。日本での発売は1978年ということだけれど、多分そのころから使い出して、一度も浮気をしたことがないね。
『アセス』が四半世紀以上も歯肉炎・歯ソーノーロー治療薬市場でトップシェアを続けてきているなんてこともこの記事を書くためにサイト検索して知ったことだけど、まぁわたしにゃあまり関係ないな。200gで定価 2,205円と高いけれど、これも他を買わないから「こんなもんだ」と思ってたし・・・。
で、どうして『アセス』にしたかという理由がちょっと変っている。
当時(30年位前)毎月買っていた音楽雑誌「ミュージック・マガジン」――ひょっとしたらその頃はまだ「ニュー・ミュージック・マガジン」だったかもしれない――の記事にこれはいい歯磨き粉だと出ていたからだ。音楽雑誌なのになぜ歯磨き粉の記事が?と思ったが、結構この雑誌、音楽以外のことについてもするどいところがあった。・・・今は買っていないのでよくわからないが。とにかく今はこれしか考えられない。
「変わらぬ哀しみは」(ペレケーノス)
ジョージ・P・ペレケーノス著「変わらぬ哀しみは」(ハヤカワ文庫)を読んだ。
2001年の「曇りなき正義」以降の主役を務めている黒人探偵デレク・ストレンジの若きころの物語であるということで期待もあった。
物語は、1950年代のころの黒人差別、街のギャング、ベトナム戦争、ソウルミュージックなどを背景に父母のまっすぐな生き様に強く影響をうけたデレクの10代の生き様が描かれたと思うと、一気に約10年後の1968年(キング牧師が殺害された年)に舞台を移す。警察官になったばかりのデレクの周りで起こるいくつかの事件がこの物語を重いものにしている。詩的であるともいえる表現が精緻で過不足ない。深く印象に残る作品だった。

2004年に発表されたT・ジェファーソン・パーカー「カリフォルニア・ガール」と似たようなシチュエーションであるが、ペレケーノスの作品はより暗い内面を表現したもので、暴力描写や麻薬・酒に溺れる登場人物などがリアルである。が、それでいて主人公のデレクはあくまでも正義を貫くタイプであるのが救いであるし、将来に対する希望が見えるものになっている。
ちなみに、ワシントン・サーガなど他の作品に出てくる人物もちょい役で出てきるなど読者に対するサービス(?)も。そういうのを見つけたときにこの作品が一層印象深いものになると思います。
1957年にワシントンで生まれたペレケーノスはギリシャ系アメリカ人である。生まれたワシントンのことを深く愛していることがよくわかる。ジェームズ・クラムリー亡き後は、薫り高きハードボイルドを受け継ぐのはやはりこの人だろうか。
【主な作品(全部ハヤカワで出版)】
1992年「硝煙に消える」(A Firing Offense)デビュー作
1993年「友と別れた」(Nick's Trip)
1994年「野獣よ牙を研げ」(Shoedog)
1996年「俺たちの日」(The Big Blowdown)「ミステリチャンネル闘うベストテン」第1位
1997年「愚か者の誇り」(King Suckerman)
1998年「明日への契り」(The Sweet Forever)
2000年「生への帰還」(Shame the Devil)
2001年「曇りなき正義」(Right as Rain)
2002年「終わりなき孤独」(Hell to Pay)
2003年「魂よ眠れ」(Soul Circus)
2004年「変わらぬ哀しみは」(Hard Revolution)
2005年「ドラマ・シティ」(Drama City)アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞ノミネート
※1992~2000年→ワシントン・サーガ(私立探偵ニック・ステファノス・シリーズを含む)
2001~2004年→デレク・ストレンジ・シリーズ
第3部 ルクノーの悩み(2)
次の朝は10時に起きたけれど、1日36時間というのにはなかなか慣れそうにない。約10時間が寝る時間で、それはそれでいいのだけれど、26時間も起きているのはつらい話だ。でも、そうともいってられないので、11時にマクシンとジュリアがボクたちのルームに入ってきたときには、元気よく言った。
「おはよう、マクシン、ジュリア。ボクたちは準備万端だよ。よければ内務第1部ってところへ行こうか?」
「そうじゃな、さっそく行ってみるか」
そのビルは旅行者が泊まることが多いらしくて、4人乗りの移動カプセルを貸してくれた。2人ずつ向かい合って座るもので、計器類は少しあるが、地球の車のようなハンドルはない。ジュリアが操作方法を知っていたので、運転(?)をまかせた。日本の4人乗りの小型車と同じくらいの大きさで「助手席」にはシン・ジーが座った。動き出すとスムースだが早いので、シンは驚いてずーっと流れていく外の景色に見入っていた。それを見てマクシンは、
「ふぉっふぉっふぉっ。かわいいもんじゃなぁ」と言ったが、シンの耳には入らなかったようだ。
内務部のすごく豪華なビルの前に降り立ったボクたちはさっそく中に入ろうとしたが、警備員みたいな人が集まってきて、マクシンの大きなバッグを指して、
「申し訳ないが、そのバッグはお帰りになるまで我々が預かります」という。
「爆弾とか危険物は入っておらんぞ」とマクシンは言ったが、ボクたちは誰もその言葉を信用しなかった。
「預かってもらいましょうよ」とジュリアが言ったので、マクシンは渋々ながらバッグを預けた。
内務第1部でジュリアの子どもと、レイナのことを聞いてみたが何もわからなかった。次に内務第3部に行ってマウンダというジュリアの子どもを引き取って行った人に会いに行くことになった。グリーンのスーツの人に面会を申し出た。
「わたしがマウンダです。珍しいですね。お見かけするにジャファナの方と、タヌールの方ですか?」と奥の方から出てきた少し体の大きい――それでもボクより少し背が低い――男の人が言った。
「そうじゃよ。わしゃ、ジャファナのマクシンじゃ。こちらが同じくホルス。そしてタヌールのシンじゃ。ところで、今日はこのクイロンのジュリアのことでちいっと聞きたいことがあって来たんじゃよ」
「そうですか。どんなご用件でしょうかな?」
「5年前にジュリアが産んだ子をあんたが引き取りに来たんじゃが、その後どうなったのか知りたいんじゃ」
「なんと、子どもの行くえを探しとるんですか?どうしてまたそんな意味のないことを・・・」
「あんたにゃ分らんじゃろうがな。まぁ、とにかく調べてくれんかのう」
その後ジュリアが日にちなどを説明するとちょっと待つように言われた。
しばらくして、他の人がボクたちを一つの部屋に案内してくれた。20分も待たされただろうか、ようやくマウンダが戻ってきた。しかし、その後ろには明るいグレーというかパールのように少し光ったスーツを着たマクシンと同じくらいの年齢の女の人ともう一人グリーンのスーツの男の人が一緒だった。
「お待たせしました。紹介しましょう。こちらが内務部の責任者オーラン=ガバドです。後ろにいるのはティガディ秘書官です」マウンダが言うと、紹介された女の人が前に出てきた。
「オーラン=ガバドです。ようこそ、ジュリア、マクシン、ホルス。そしてシン王子」
「ナンダ、ワカッテ イタノカ。内務部ノ 責任者ガ ワザワザ オ出マシ トハ、我々ハ ソンナニ 重要人物扱イヲ サレテ イルノカナ?」
「シン王子、目的はベオハンからも聞いております。しかし、なぜあなたがご一緒なのかが理解できません」
「コノ星ノ 者ニハ ワカラナイ ダロウガ、ジュリアニハ 身内ガ イロイロト 世話ニ ナッタシ、ジュリアノ 希望ヲ カナエル 手伝イヲ シタカッタ モノデナ」
「なるほど。我々にはジュリアの気持ちを、つまり親が子供に会いたいという気持ちを理解することができません」オーラン=ガバドやこの星の人たちにとって親子の情っていうものは本当にないようだ。「親子の関係というのは単なる産む/産んでもらうだけの関係で、生まれた直後に親子は離れ、一生会うことはありません。これは、親子兄弟の間のみにくい争いを避けることと生産性を減じないために必要な措置です」
「ソウカ。他ノ星ノ コトニマデ 意見ヲ 言ウ ツモリハナイ。シカシ、ジュリアノ 子ドモ、ソシテ ジャファナノ レイナニ ダケハ 会ウツモリダ。手配シテ クレルナ」
「わかりました。2時間程度いただければ、ご滞在のルームに情報をお持ちいたします」
うん。話がどんどんうまく進んでいる。
「しかし、条件があります」とオーラン=ガバド。
「ナンダ」受けるのはあくまでシン・ジーだ。ここでは、「3役」よりも格上ということらしい。
「クイロンのタヌール兵士20名を退去、つまりカルワールの居住区まで戻していただきます」
「ソレハ構ワナイ。タダ、ワレワレハ ドームヲ 超エテ 通話ガ デキナイ。ソノ準備ヲ シテクレ」
「わかりました」そして、うしろの秘書官に向かって「ティガディ、ベオハンに繋いで」
秘書官は自分のケータイを操作して、みんなの真ん中のテーブルの上に置いた。やがて、小さな立体ホロ映像が出てきた。
「ベオハン、わたしです」
「おや、オーラン=ガバド。今度はなんでしょうか?」
「あなたが送ってきた4人の者と今話をしているところです。シン王子がそこにいるタヌール兵に伝えることがありますから、タヌールの責任者を出してください」
しばらく、向こうでやり取りがあったあと一人のタヌール人が現れた。
「シン様、何カ ゴ用件ガ アルトカ・・・」
「ウン。モウ 心配ハ ナイカラ、全員 カルワールニ 戻ッテクレ」
「イヤ、シカシ シン様ガ ココニ オ戻リニ ナルマデハ・・・」
「イインダ。直チニ戻ルンダ。ワカッタナ」
「ハイ。ソコマデ オッシャル ナラ」
シン・ジーは今度はオーラン=ガバドに向かって言う。
「コレデ イイカ」
「ありがとうございます。それではこちらもジュリアの子とジャファナのレイナについて調べて、ご連絡を差し上げます」
首脳陣が手配してくれるんだからもう解決したも同然だと思い、ボクたちはマクシンのバッグを返してもらい、移動カプセルでルームに戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
1時間後、執務室に戻ったオーラン=ガバドは、ティガディから報告を受け取った。
「ボス、ジュリアの子はナザレスという名前でイコロドに送られています。レイナはイツァム・ナーの屋敷におります。やっかいなことです」
「ナザレスは無事なの?」
「寄宿舎までは把握しておりますが、停止している機能が多く、安否は不明です」
「なんてこと・・・。レイナは、お屋敷で何をやっているの?」
「こちらも詳細は不明ですが、家事かと思われます。過去にレイナのような事例がないのでそれ以上の推測は不可能です」
「まぁ、いいわ。しかし、王子が絡んでいるだけに面倒なことになってくるかもしれないわ。あすの緊急首脳会議までは事件を起こさないようにしないと・・・。ホルスは地球人だったわよね?」
「はいそうです。ところでボス、イコロドのことはあの4人に言うつもりですか?」
「あなたならどうする?」
ティガディには、オーラン=ガバドがまれに対応に迷ったときにこのように、質問をそのまま返してくることを理解していた。
「わたしなら、言うかも知れませんね。あの4人かなり入れ込んでたようですから、下手なウソをいうと後で高いツケを払うことになるかもしれませんからね」
◇ ◇ ◇ ◇
ボクたち4人は、1時間ほど街中をドライブしたあとでルームでオーラン=ガバドからの連絡を待つことにした。移動カプセルを降りるときにシン・ジーは名残り惜しそうだった。たぶん、地球に来たら自動車も気に入るんじゃないかな。
ルームに戻って1時間くらいして、オーラン=ガバドから連絡がきた。
「まず、わかったことを言うわね」壁面コンソール上に実物大に立体ホログラムとして写った彼女はまるで本当にそこにいるようだった。
「お願いしますわ」とマクシンが応じた。
「ジュリアの子どもは、ナザレスという名前よ」
「どこにいるんですか、そのナザレスは?」とジュリアが聞いた。
「そこが問題なのよ。イコロドのバランゴーダにいるんだけれど、今はイコロドとの行き来ができないのよ」
「どういうことですか?」
「いい、落ち着いて聞いてくれる。・・・・」
オーラン=ガバドの説明は、こういうことだった。
3週間前に、第2種エリア、イコロドで植物が発生源とみられる超感染性新型ウィルス、フラバスが発生した。人に感染するようになってから研究が始まり、空気で感染することがわかった。しかし、急激に発生した新種のウィルスでいまのところ薬がない。感染力も強く、人に感染すると30から40時間ほどで症状が出、さらに2日から5日に死亡に至る強力なものである。
イコロドの全人口4億2千万人のうち半数はすでに死亡したとされているが、正確な数字ではない。学者によっては90%が死亡していると推測するものもいる。確認されている生存者は、感染者がおらず、外気を完全にシャットアウトしている公共施設やルームのあるビル内で約300個所、30万人程度である。ジュリアの子ナザレスはその中に入っていない。
「我々だって手をこまねいているわけではないのよ。医療科学班では、係がこの3週間ルームにも帰らず研究を続けているのよ。ジュリア、まだ解決策は出ていないけれど今はそれを待つしかないのよ」
「・・・。せっかく場所がわかったのに、会えないなんて・・・」ジュリアは声が詰まりがちに言った。
「ホルス、次はレイナについてよ。でも、その前にあなたたちに言っておくことがあるわ」
ボクはなんだか不安になってきた。
「いま話したイコロドのこととホルスが地球人であること、そしてシン・ジーがタヌールの王子だということは他の者に言ってはだめよ」
オーラン=ガバドはボクが地球人だということも知っていたんだ。いろいろなことがわかってるようだけれど、基本的には受け入れてくれているようで安心した。
「レイナは、ベルガオンにいるわ。といっても、距離は近いけれど会える可能性は少ないわね」
ほっとした直後にボクは思わず「どうして?」と聞いた。
「この星を掌(つかさど)っているのはナシク一族だということは知っているわね。そのナシクの最高権威者イツァム・ナーと子どもたちが住んでいる屋敷にいるわ。そこでメイドとして働いているというのがわたしの推測だけれど、屋敷の中のことはわたしにもわからないわ」
「でも、あなたの口ぞえがあれば、簡単に会えるんじゃないですか?」
「それは望みすぎというものよ。あなたの星と違ってここでは最高権威者の血族に対しては望みを言うこと自体が難しいのよ。それはわたしも例外ではないわ」
「では、直接ボクが話しに行きます」
「やめろとは言わないけれど、門前払いになることは間違いないわよ」
連絡が終わろうとしたときに、ジュリアが言った。
「あのう、医療科学班の方をご紹介いただけないでしょうか?わたしも生物学者ですから、具体的に知りたいのです」
「ふーん。このことは公表していないのよ。最後にもう一度念を押すつもりだったんだけど・・・。そうね、スリナグに言っておくわ。彼がOKを出せば直接彼から連絡させるわ。それでいいわね」
◇ ◇ ◇ ◇
オーラン=ガバドには行っても無駄だと言われたけれど、近くだったのでボクは連絡待ちのジュリアとシン・ジーを残してマクシンと2人で歩いてイツァム・ナーの屋敷に向かった。歩きながら、マクシンが話しかけてきた。
「のう、ホルスよ。ナシク一族とは争わんほうが身のためじゃぞ」
「うん、別に強引に押し込みのようなことをしようとは思ってないよ。とにかく、ここまで来ているんだからできることはしたいんだ」
ベルガオンは温度・湿度ともに快適だったが、20分以上歩いているうちに汗が出てきた。都市部分を抜けるとすぐに自然の豊かなところに出てきた。道路も歩行者向けの部分は、移動カプセルの通る場所から完全に隔離されているので安心して歩ける。
唐突にその大きな建物が目の前に現れた。ボクが行ったことのある建物で一番似ているものといえば東京ドームだろうか。巨大な緑の丸屋根に覆われている。門が見えたのでそちらに向かった。
「ふん、ブザーがないのう」
「ドアを叩いて『たのもおー』って言うんじゃないの?」
「ばかもんが」
結局ドアらしきものを見つけてドンとたたいて「おーい」と大声を上げたのはマクシンだった。それを3回繰り返した直後後ろから声をかけられてボクたちはびっくりした。
「なにか、用ですかな?」
振り返ると、マクシンよりも年上の黒のスーツを着た老人が立っていた。
「ここは、イツァム・ナー様の屋敷ですかのう?」とマクシン。
「そうでございます。わたくしは執事のルクノーと申します。ご用件を伺えますかな?」
「わしは、ジャファナのマクシン、ここにいるのはホルスです。実は、ジャファナのレイナがここにいると聞いて会いに来たんじゃが・・・」
「そうでしたか。はるばるご苦労様でした。しかし、ここのお屋敷には100人以上のスタッフがおりましてな、そのレイナという方がどこで、どういうスケジュールで動いているのか分かりません」
「調べて連絡してくれんかのう」
「どういたしましょうかな」とルクノーは考えていた。
「ぜひともお願いしますじゃ」と珍しくマクシンも慎重に応対している。
さんざんボクたちをじらしておいて結局ルクノーはこう言った。
「では、もう一度明日このくらいのお時間にここにおいでくださりますかな?それまでにわたしくでできることでしたらお調べしましょう」
「うーん、もっと早くならんかのう。わしらは、オーラン=ガバドさんにも行動を認められておるんじゃから、もうちっと早くしてもらえんかのう」やっと強引なマクシンの本性が見え始めた。
「おおおっ、そうでしたか。オーラン=ガバドに認められていらっしゃると。しかし、本日おいでになる来客のリストには載っていないようですな」とルクノーは平気な顔をして言った。
「あんた、石頭じゃな。いくら人が多いからって名前がわかっとるんじゃから探すことなんか簡単じゃろ。連絡してくれりゃあいいんじゃよ」
「しかしですなぁ」
「しかしもへったくれもないわい。そんな簡単なこともできんちゅうんかい」
「困りましたな。では、20時ころにもう一度おいでくださるというのはどうですかな?」
「ここまで来て、やっぱり駄目だっちゅうことにならないんなら、それでもいい。でも、わしのケータイに連絡を入れてくれんか。わしらは忙しいんじゃから」
ルクノーは渋々だったが認めて、胸のポケットから藍色のケータイを出した。マクシンのケータイとちょっとしたやり取りがあったらしいが、すぐに終わって、
「それでは20時ころにご連絡を差し上げます」と言って、ルクノーは門だと思っていた近くの壁に向かって歩いて行った。