Jリーグ・移籍情報(その1)
最近は、Jリーグ以外のサッカーの話題がいろいろ出ていますね。ACLの1次リーグの対戦チーム=グループ分けが発表されたり、高校サッカーでは鹿児島城西(鹿児島)のFW大迫勇也が4試合連続して2得点ずつ入れたり、全日本大学サッカー選手権大会は11日に国立競技場で中央大学(関東第4代表)対筑波大学で決勝を戦うことになったり・・・。そうそう、U20もカタールで国際親善試合をこれから戦いますね。
さて、Jリーグのオフ・シーズンは選手の移籍の情報が気になるところですが、今の段階で主なところをまとめてみました。
岡野雅行(36) 浦和 →サウスチャイナ(香港リーグ)?
チョ・ジェジン(27) →G大阪
朴東赫(29) →G大阪
高木和道(28) 清水 →G大阪
レアンドロ(23) 神戸 →G大阪
永井雄一郎(29) 浦和 →清水
鈴木秀人(34) 磐田 →C大阪
西沢明訓(32) 清水 →C大阪
那須大亮(27) 東京V→磐田?
矢島卓郎(24) 清水 →川崎
田中隼磨(26) マリノス→名古屋G
アレックス(25) 柏 →J千葉
和田拓三(27) 清水 →J千葉
中村北斗(23) 福岡 →F東京
大久保嘉人(26) 神戸 →ウォルフスブルク(ドイツ)
※未確定のものも含んでいます。
パトリシア・ブリッグス「裏切りの月に抱かれて」
わたしにとっては、この作家は全くの初めてでした。まぁ、本屋で立ち読みしていて人狼が出てきたりするのもたまにはいいかなと思って買ってしまったのですが・・・。この人ってロマンス作家だったのですねぇ。しかし、本作はそんなにロマンロマンしておらず、結構、人狼界の掟とかバンパイアとのかかわりなども楽しく読めました。
作家のパトリシア・ブリッグスは、1965年生まれ。モンタナ州立大学で歴史学・ドイツ語の学位を取得。シカゴに住む。1993年長編ファンタジー”Masques”で作家デビューした。作品としては、5番目の「ドラゴンと愚者」が有名である・・・ようだ。
本作(2006年)の続編もすでに、「Blood Bound」(2007年)、「Iron Kissed」(2008年)の2作がアメリカで刊行されている。以降も続くらしい。
ファンタジーが好きな人にはこういうのもいいかもしれない。
(ハヤカワ文庫FT-2008年4月発行)
天皇杯・決勝
1月1日は恒例のサッカー天皇杯の決勝がありました。
今年も、Jリーグの優勝または残留をかけた試合と4回戦辺りで日程が過密となったチームが多くいろいろ物議を醸しだしましたが、まぁ、ある意味順当な決勝戦の顔合わせだったのかもしれませんね。
90分を終えて0-0とお互いに譲らず、延長後半も残り4分というところで途中出場の播戸がゴール前で粘って決勝点をあげG大阪が18年ぶりに優勝しました。
この試合では、お互いがフェアプレーに徹しており「汚いプレー」がほとんどなかったことが印象に残ったものの、特に後半からは両チームともスピードがなく、いまいち攻撃に迫力がなかったことが寂しかった。
結果として、ACLに出るのにふさわしいチームが勝ったということはいえるでしょうが、あのマンUと3-5という試合をしたチームとは思えないほどの試合内容には少なからずがっかりしました。
(二川の欠場、遠藤など中心選手の不調=けががあったにしてもです)
エピローグ
ボクとレイナは、真壁先生の家にいた。そう、地球に帰ることを許されて、カトムスから昨日帰ってきたばかりだ。
「イツァム・ナーに直接会えるなんていうのは、めったにないことだわね。地球人では初めてだと思うわ」
「うん。そうだったみたいですね。結局、ジュリアの功績やシン・ジーの力があったから全員が自由にしてもいいって言われたんです」
「あなたの行動力もイツァム・ナーからすれば結構珍しく感じられたと思うよ、ぬうむ」とレイナことタメ子が言う。
「う~ん。それはほめられたということにしておくけれど、ボクなんかほとんど何もしなかったよ」
「そんなことはないんじゃないかな。人と人をつなぐ役というのも大切だと思うよ。あなたがいなければ、シン・ジーとヒパ・ジーはあえなかったかも知れない。そうすると、ジュリアの再生治療も存在すらしなかっただろうし。第1にあなたが強引に話を進めなければ、母も冒険には加わらなかったんじゃないかしら」先生はそういってくれたが、本当のところはどうなんだろうか。
「そうだ、昨日母から連絡があって、新婚旅行をするらしいのよ」
「へぇー、ナシク一族以外は結婚とか親子の同居とかできないと思っていたんだけれどね」
レイナつまりタメ子が話に加わった。「ルクノーって、実はナシクの中でも相当の実力者の家系なのよ。イツァム・ナーほどではないにしても、昔、各エリアのドーム建設のときにかなり大きな影響を与えたみたいなの。ルクノーの子どもは、内務部と軍事部の重要なポストにいるし、全員が自由になれたのもルクノーのおかげかもしれないわよ」
「へぇー、そうだったんだ。だったらマクシン、いや先生のお母さんも安心だね」
◇ ◇ ◇ ◇
タメ子は、どうやったのか詳しくはわからないが、東京の会社にOLとして働き始めた。1週間以上も行方不明になっていたボクは、当然会社をクビになってしまった。まぁ、しばらく休んでまた就職活動をしよう。カトムスから帰ってだいたい2週間後の土曜日。タメ子が僕のうちに遊びにきた。
「ねぇ、これから隣町の山荘に行くんだけれど、一緒に行こうよ」会うなりそういってきた。もちろん、ボクはすぐOKを出した。
バスで山道をトコトコ1時間半。バス停から、山道を30分もかけてたどり着いた山荘は、深い山の合間にあって、近くにはこの山荘以外全く人気がなかった。
玄関を開けて「こんにちはー」と大きな声で言うと、なななんと、奥からひょっこりマクシンが出てきた。
「ホルス、久し振りじゃのう」
「マクシン!また会えるなんて、嬉しいよ」
「わしだけじゃないぞ。ルクノーやジュリアもきているぞ。それに外を見てごらん」
言われたとおり今きたところを振り返ると、小さな虎ヒパ・ジーもいた。
「兄ハ 国ノ 仕事ガ アルノデ 来ラレ マセン デシタ。モウ一度 会イタイト イッテイマシタヨ」
マクシンとルクノーの新婚旅行の一環で、地球に行くのなら一緒に行きたいとジュリア、ヒパ・ジーが言ったそうだ。
夕食には酒も出たが、ルクノーやジュリアは全く初めてで、とてもおいしがっていた。ヒパは未成年だから飲ませなかったけれど、ノン・アルコールでもタヌールにはない甘くておいしい味だととても喜んでいた。
食事も、久しぶりだからとマクシンがレイナを手伝わせて大活躍をした。ちょっと味付けが濃いような気がしたけれど、カトムスでのあまり印象に残らない料理よりも何倍もおいしかった。
料理が出てきてから1時間もするとルクノーが立ち上がってみんなに言った。
「地球に新婚旅行に行こうとマクシンから言われたときは悩みました。しかし、3日前にこちらに来て、いろいろ見させてもらいましたところ、活気がありとてもわたくしにはいいところだと思いました。時差ボケがなければ、しょっちゅう来てもいいですけどね」
「いっそのことここに住んじゃえば?」ボクは聞いてみた。
「いやいや、一箇所に住むなんてもったいなくてできません。お屋敷の仕事も辞めましたので、これからは死ぬまでいろいろなところへ2人で出かけたいんですよ」
「ええっ。お屋敷の仕事を辞めちゃって、いまはどこに住んでいるの?」
「イツァム・ナー様のお屋敷内のわたくしの部屋は変りませんよ。自由に出入りできますからな。まぁ、とにかく、今日は本当によくきてくれました。マクシンがこのメンバーで一度ゆっくり話したいと申すのでお集まりいただきましたが、お部屋に行くまでゆっくりお話いたしましょう」
マクシンが続いた。「ジュリア、みんなに報告することがあるじゃろう」
指摘されたジュリアが少し恥ずかしげに言った。
「はい、ではイコロドのその後の話をしましょう」
治療特効薬が開発されて4~5日後には、イコロドのすべての地域で罹患者の治療が始まり、ごくわずかな例外を除いて、治療が功を奏して、そのさらに1週間後にはフラバス終結宣言が出された。再生治療に関しては、79,482,220人が対象となり、再生したのが、30,529,120人、率にすると38.4%となった。イコロドの全人口は、4億2千万人から2億3千万人に激減したが、逆にいえば、スリナグ、リアンらの医療科学班とジュリアの努力の結果、2億3千万人が救われたともいえる。
「かなり多くの犠牲者を出しましたが、思ったより短期間で無事に解決しました」
「ジュリア、それだけじゃなかろう」
「ああっ、はい。イコロドは完全にフラバスの脅威に打ち勝つことができました」
「おいおい、あんたのことを報告せんかい。ヒパもまだ知らんのじゃろう」
「そうですね。あのあとイツァム・ナーに呼ばれたんですが、望みを言えというんです。そこで、イコロドで暮らしたいと言ったところ、今後このようなことがあっては困るから、イコロドに大規模な生物研究所を作る、ついてはわたしに所長やれというのよ」
「スゴイジャ ナイノ」とヒパ・ジー。
「ええ、それだけでなくてね、イコロドのカンディでは、希望するものには親子、兄弟、夫婦の同居を認めるようにしたいがどう思うか、って聞かれたのよ」
「へぇ、それでなんて答えたの?」これはボクだ。
「当然、『大賛成です』よ。研究所の完成と、同居プロセス試用システムの完成に3ケ月かかるんで、わたしはその間お休みをもらったの。地球で1ケ月過ごして、次はタヌールに行くのよ」
「ヤッター! ジュリア、ワタシガ タヌールノ 案内ヲ スルワヨ」うきうきしてヒパが言う。
「お願いね」
「コホン」わざとらしい咳はマクシンだ。「まだまだあるじゃろう」
「実は、夫婦の第1号にわたしとカウスがなる予定なの」
ここでマクシンだけでなく、ルクノーも口笛を吹いて冷やかしはじめた。
「やめてよ2人とも」顔を赤くしてジュリアが言った。
盛り上がっているときにケータイに着信があった。それもボクのだけでなくみんなのケータイにいっせいにだ。
マクシンの赤いケータイ、ルクノーは藍色、ヒパ・ジーのは橙色、紫の鮮やかなジュリアのケータイ、レイナのは青だった。そしてボクのは緑だ。テーブルにみんなが置くと立体表示モジュールが光り始めた。もちろんかけてきたのはシン・ジーだ。
「セッカク ミンナガ 集マルト イウノニ 家庭教師ガ ダメダト イウンダ」
「シン・ジー、君は王様になるんだからたくさん勉強しないとね」ボクが言うと、
「フン、ホルスノ 何倍モ 勉強シテルンダ。トコロデ ヒパ、ソノ オイシソウナ 料理ハ 忘レズニ 持ッテキテ クレヨ」
完全に1日24時間制に戻りきったボク以外は、みんな全然テンションが下がらずに、いつしかあたりは明るくなってきた。
◇ ◇ ◇ ◇
帰りのバスで、タメ子に聞いた。
「ボクたちは、これからどうなるのかなぁ?」
「何いってるのよ。今は自分のやりたいことを一生懸命やればいいじゃない。あしたがどうなるかなんて誰にもわからないわよ」
「そうだね。あしたがどんな色になるかなんて誰にもわからないし、変えられるのも僕たちだけなんだね」
――――――― 完 ―――――――
【登場人物の紹介】
ぬうむ=ホルス 主人公
加賀美 小学校の同級生
川本 小学校の同級生
為我井=タメ子=レイナ
小学校の同級生。実は「空き地」管理役の一人
真壁先生 小学校の担任。「空き地」管理役の一人
山崎光一郎 町会議員。「空き地」管理役の一人
真鍋先生のおばあちゃん=マクシン
元「空き地」管理役の一人。カトムス星のジャファナ在住
コスギ ジャファナの長
シン・ジー タヌール人
バルサク カルワールの長
ライシンズ バルサクの部下
ジュリア カトムス星第1種エリア、クイロンのパナイク生物研究所の研究員
ライポル 同クイロンに住むジュリアの定められた相手
アキン パナイク生物研究所のリーダー。ジュリアの上司
カウス パナイク生物研究所の研究員。ジュリアの同僚
ヒパ・ジー タヌール人。ベオハンの元ペット。シンの妹
ベオハン クイロンの長
トルニス ベオハンの警護隊長
ネクルト 警護隊員
「ナシク一族」
イツァム・ナー 一族の長
チャク イツァム・ナーの長男
クルカン 〃 二男
ルクノー 屋敷の執事・ナシク族
「内務部」
オーラン=ガバド 内務部責任者(女)
ティガディ 秘書(男)
バラバンキ 第1部長官(男)ナ族(ベルガオン担当)
ニゴーヒ 第2 〃(女) (第1、2種エリア担当)
エタワ 第3 〃(男)ナ族(移動トンネル担当)
マウンダ エタワの部下(男)
コモニス 第4部長官(女)ナ族(特殊エリア担当)
ラフォル 医療科学班責任者(男)ナ族
スリナグ ラフォルの部下(男)
リアン 〃 (女)
チャンパー リアンのチームの研究者
タイ・ミアナ 〃
ムルタン ラフォルの部下(男)
「軍事部」
ワッディナー 統括副長(男)ナ族
「外務部」
ジャイプル 外務部責任者(男)ナ族
ナザレス ジュリアの子(男)
【地名(カトムス星)の紹介】
特殊エリア(3)ジャファナ←→地球
カルワール←→タヌール星
第1種エリア(3)クイロン(パナイクが首都、ナルマダ川、シャードル村)
第2種エリア(3)イコロド(カンディが首都、バランゴーダ、アンパヤ)
第3種エリア(1)ベルガオン
第3部 ルクノーの悩み(6)
緊急首脳会議からすでに1日たった。内務部本部ビルのイコロド対策本部となっている会議室では、内務部首脳陣、つまりオーラン=ガバドと第1から第4部長官のバラバンキ、ニゴーヒ、エタワ、コモニス、医療科学班責任者のラフォルの6人とそれぞれの秘書官が集まっている。ほとんどが大きな壁の一画に映し出されたイコロドの5箇所での再生医療活動を見つめている。
ティガディがケータイを取り出した。会議机を離れて出入り口付近で話をした後、オーラン=ガバドに小さな声で話しかけた。「シン王子とホルスそしてレイナが来ています。中に入れて欲しいそうですが、どういたしますか?」
「レイナを連れ出したっていうの?しょうがないわね。今行くから、22会議室に通しておいて」
「ジュリアの様子を見たいとのことですが」
「構わないから、映像を見せて上げて」
「それでホルス、どうやってレイナを連れ出してきたの?」ラフォルたちに指示を与えてから、オーラン=ガバドは22会議室に入るなり、そういった。
「こんにちは。実は・・・」ボクは、隠してもわかっちゃうだろうと思っていたので、実際にあったことをオーラン=ガバドに説明した。
「なんてことよ!クルカンの許可なしで連れてきちゃったっていうこと?むちゃくちゃね」
「でも、本人の意思に反して閉じ込めておくことなんてできないですよ」ボクは毅然としていたかどうかはわからないが言った。
「よりによって、こんなときにこんなお客が来るとは思わなかったわ」
「オーラン、シカシ 我々ガ 来ナケレバ 死体再生ナンテ イウ 切リ札ハ 手ニ 入ラナカッタ ダロウ」落ち着いてシン・ジーが指摘した。
痛いところを突かれたという反応を隠しもせずにため息をつきながら、オーラン=ガバドはボクたちの座っている近くにあった椅子に座った。
「ホルス、レイナを連れて地球へ行きたいっていうんでしょ」
「そうです。その前にジュリアが子どもと再会するのを見届けます」
「さっきジュリアは、ナザレスを見つけてバランゴーダの病院に戻ったところよ」
「生きていたんですか?」
「いいえ。他の子どもと同様に多分死後10日はたっているようよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「再生率が落ちてきてるよ。リアン、そっちはどう?」とカンディの病院に残ったタイ・ミアナからバランゴーダの病院にいるリアンのケータイに連絡があった。
「そうね。こっちは28%あたりよ。確かに落ちてるわ」とリアンが答える。「ベルガオンではムルタン・チームが再生治療に加わったから、そのうち率を上げる方法を見つけ出すかもしれないわ。それまでは、できるだけのことをやるしかないわ」
リアンの横では、ジュリアが不安そうにナザレスの遺体を入れた治療カプセルを見つめている。
「ジュリア、ナザレスは大丈夫よ。それより再生した患者への対応がちょっとうまくいっていないみたいなの。一般ルームに行ってくれない?」
「わかったわ」と言ってジュリアは立ち上がったものの、ナザレスの映像からなかなか目が離せない。
リアンは、正確な数値は知らなかったが、10歳以下の子どもの再生率が極めて低く、ここバランゴーダではいまのところ一人も再生していない。ナザレスもすでに治療を始めて1時間近く経つのにまったく生体反応を示さない。このままではジュリアにもよくないと思って、忙しいところへ行くように指示した。
◇ ◇ ◇ ◇
医療科学班の最上階のスリナグの部屋では、スリナグとチーム・リーダー格のスタッフが会議を開いていた。
内務部本部ビルのイコロド対策本部では、オーラン=ガバドをはじめとして内務部首脳陣がすでに3日連続で事態を見守っていた。
同じ内務部本部ビルの22会議室では、ホルス、レイナ、シン・ジーがイコロドの治療活動の状況を静かに見ていた。
バランゴーダの病院の一般ルームでジュリアは、軍事部特別派遣隊員と一緒になって再生した患者の手当てをしていた。
イツァム・ナーの屋敷のルクノーの部屋ではルクノーとマクシンがこれからのことについて話をしていた。
こうして、イツァム・ナーから与えられた「2日間」のうち1日半が過ぎたとき、医療科学班で最初の、いや2度目の歓喜の声があがった。新型ウィルス、フラバスに対する治療特効薬が完成したのだ。この知らせはただちにオーラン=ガバドに伝えられ、彼女は諸機関に対して医療科学班に最大の協力をするよう指令を出した。同時に、イツァム・ナーに直接ケータイで連絡をした。
報告を聞き終えると、イツァム・ナーは、「よくやった。わたしから各エリアの医療班にそちらに行くように要請する。おまえのチームは応援隊がついたらしっかり休ませておけ。3,000人いればいいな」といった。
「ありがとうございます。医療担当が3,000人いれば充分です。しかし、治療特効薬は現在生産中ですが、治療器具が不足すると思われますので、持参していただきたいことと、イコロドでの移動に軍事部の協力が必要になってきます」
「わかった、任せておけ。ところで、おまえのところにタヌールの王子がいるらしいな」
「は、はい。現在別室で、イコロドの医療活動を見ております」
「特殊エリアの長官はコモニスだったな?」
「はい、そうです」
「早急に、今後のスケジュールも併せて、これまでの経緯を報告させろ」
「わかりました。直ちに」そうオーラン=ガバドが答えると、一方的に通話は切れた。
オーラン=ガバドは、ラフォルに3,000人の受け入れ態勢と、不足が予想される機材のリスト・アップを命じた後、コモニスに「一難去って、また一難よ」と切り出した。コモニスは、ナシク一族では比較的イツァム・ナーの血族に近く、40歳代にして特殊エリア担当とはいえ内務部の長官という要職にある。
「オーラン、心配ないわよ。これからわたしもシン王子と話してみて、レポートを作るわ」と言って、さっそく22会議室に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
ジュリアは、再生治療に成功した200人ほどの、そしてさらに運ばれてくる再生したばかりの人の対応に追われていたが、心の中はナザレスのことでいっぱいだった。子どもの再生率が悪いことはなんとなくわかっていた。しかし、やっと会えたわが子と一言も話ができないなんて・・・。理屈にあわないが、なぜかナザレスに謝りたかった。
「ジュリア、朗報よ」と切り出したリアンからの連絡でもすぐにナザレスが生き返ったんだと思ったが、「治療特効薬が完成したのよ。あと大量の医療応援チームを組織しているみたいだから、わたしたちもやっとお役ごめんというところみたいよ」と聞くとひどく落胆した。
「ナザレスはどう?生き返った?」ムダだとは思ったが、どうしても聞かずにはいられなかった。返ってきた言葉は、予想どおりだった。
「残念だけれど・・・。さっきスリナグから聞いたんだけど、10歳以下の再生率は7.2%で、しかも病院のようなそれなりの対応ができている場合でさえ、11%に過ぎないんだって」
「そうね。再生治療をもう5時間以上続けていても再生しないんだから・・・」
「子どもは体力がないからね・・・」リアンもこれ以上治療を続けても再生可能性がないことを知っていた。「ジュリア、もう少しそこで頑張ってよ。3時間くらいで交代がくるから。そしたらナザレスの遺体を火葬しようよ。わたしも立ち会うからさ」
「ありがとう。そうするわ」
◇ ◇ ◇ ◇
内務部本部ビルの22会議室でジュリアの子どもが生き返らないということを知ったボクたちもかなり雰囲気が沈んでいた。そんな中に、内務部第4部長官のコモニスという女の人が入ってきた。
「こんにちは、シン王子、ホルスそしてレイナ。イツァム・ナーから言われてあなたがこちらにおいでになった理由や今後のご予定をうかがいにきました」
「オーラン=ガバドニ 話シテアルガ、ジュリアノ 子ドモヲ 探スノヲ 手伝ウ タメダ」
「どうやら、見つかったようですが、この後のご予定は?」
「コチラヘ 戻ッテカラ 少シ 話ヲシタイ」
「イツァム・ナーに公式または非公式でお会いになるご予定は?」
「今回ハ チョットシタ 手違イデ 来テ シマッタンダ。父王カラ ノチホド 謝罪ノ 連絡ヲ 入レルガ、僕ハ ジュリアニ 会ッテカラ、タヌールニ 戻ル ツモリダ」
「わかりました。お2人はどうされますか?」
「うん。ボクたちもジュリアに会ってから地球に帰るよ」と今度はボクが答えた。
「レイナ、あなたが地球に行くには少し問題がありますね」コモニスには、というか内務部にはすでにレイナのことも伝わっているようだ。
「はい。わたしもそう思います。クルカン様のような方のために働くのはいやなことではありませんが、自由の中で育ってきたわたしにとって、ここは息苦しいです」そう答えたレイナに対して、コモニスは「しかし、クルカン様は許可するでしょうか?」と答えがわかっている質問をあえてした。
「ええ。難しいですね」
その後、10分ほど話を聞いたコモニスは、今の会話からレポートを作成しながら、イコロド対策本部に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
イツァム・ナー直々の指示ということもあって、医療応援チームの最初の約1,000人が治療特効薬30万人分とその他の機材と一緒に派遣されたのは治療特効薬の発見からわずかに2時間後であった。30分後にはバランゴーダの病院にも15人が派遣された。うち4人は再生治療担当で、ジュリアとリアンの交代要員であるとのことだったので、2人は帰る準備をした。
「帰る前にナザレスの火葬に付き合ってくれる?」とジュリア。
「もちろんよ。近くの火葬場でいい?」
「うん、もちろん」
特別派遣隊員から、5人がカンディの本部に戻るので同行したいと申し入れがあった。20人乗りの移動カプセルで機能している唯一の火葬場に向かった。火葬場は、非常に多くの死者を出したというのに、閑散としていた。ジュリアが声には出さなかったが、涙を流しながら作業を見ていると、そっと背中に腕を廻してくれたのはリアンだった。さらに、特別派遣隊員もジュリアを見てうなずいたり、肩を抱きしめてくれる人もいた。
「ありがとう。みんなの気持ちがすごくうれしい・・・」言葉にするとつかえがちになった。
「気が済んだらベルガオンに帰りましょう。あなたを待っている人たちがいるようよ」リアンの言葉で踏ん切りがついたようにジュリアははっきりと言った「そうね、帰りましょう」
◇ ◇ ◇ ◇
「ラフォル、再生治療の状況を報告して」とオーラン=ガバドが言った。
すかさず返事がある。「再生治療後、1日と18時間経過時点です。治療死体数は、78,937体。再生数26,207、率は33.2%に少しあがりました。10歳未満と110歳以上については相変わらず10%未満で変わりなし。再生後の状態についても検査上まったく問題ありません。最初の段階で再生した者のうち医療関係者は、すでに治療に協力しています」
「ムルタン・チームは休憩あけの人から順にイコロドに派遣して。リアンたちが戻ったら、15チームのうち10チームに再生治療のレクチャーをさせて。残りの5チームは、引き続き治療特効薬の研究ね」オーラン=ガバドは言った。
「そうですな。治療特効薬は開発できたんで、研究の中心を再生にあてるべきでしょうな。了解です、その旨は直ちに伝えます」
外務部責任者ジャイプルからオーラン=ガバドにあてて緊急連絡が入ったとティガディが伝えてきた。会議室壁面の表示モジュールの大部分をイコロドの状況が占めていたので、オーラン=ガバドはケータイで連絡を受け取ることにした。
「オーラン、わたしだ。このたびの大成功はわたしからもお祝いを言うよ」
「ありがとう。大成功といえるかどうかは別にして、素直にお礼の言葉を受け入れます」
「それはそうとして、実はたった今タヌールから連絡があってな、プリンセスを1週間ほど公式訪遊させたいというんだ。イコロド以外なら構わないかな?」
「こんなときに公式訪遊なの?わたしじゃ対応できないわよ」
「いや、君が出てくる必要はないさ。わたしのほうでほとんど対応できそうだからな。ただ、コモニス君と場合によっては何人かの協力を得たいんだ」
「そうなの。まぁ、それならいいわ。コモニスにはわたしから伝えておくから、具体的な支持は本人に直接言ってね」
「ありがとう。それでは、またいずれ」
ケータイを切った直後だった。イツァム・ナーからの連絡だ。
「はい、イツァム・ナー。オーラン=ガバドです」
「オーラン、シン王子、ホルス、レイナの3人を明日11時にわたしの屋敷に連れてきてくれ」
「はい。わかりました。伝えますが、本人たちが・・・」
「無理やりでも構わない。しかし、3人の立場を考えればこざるを得ないだろう。あとはお前の説得力次第だな」
◇ ◇ ◇ ◇
翌日11時。
シン王子、ホルス、レイナの3人は、オーラン=ガバドに言われたとおり、イツァム・ナーの屋敷にきていた。
門で出迎えたのは、ルクノーとマクシンだった。5人が指示された部屋に落ち着いてしばらくすると、ジュリアが現れた。
「つらい思いをしたんじゃろうな」最初に声をかけたのはマクシンだった。シン・ジーも「何モ 役ニ 立タナクテ 悪カッタナ」という。それぞれがお悔やみをいい、再生治療の成功に感嘆したことを伝えた。
「みんなありがとう。残念だったけれど、多くの人の役に立ててよかった」とジュリアは思ったよりも元気な声で言った。
円卓を囲んで6人がそれぞれベルガオンで起こったことを話していると、ドアが開き威厳のあるナシク族と思われる男の人が入ってきた。ルクノーがまず立ち上がり、「これはこれは、イツァム・ナー様。わたくしどもをお呼びいただきありがとうございます」という。そうか、この人がカトムスの最高権威者のイツァム・ナーか。ボクたちは自然と立ち上がってお辞儀をしていた。
「まぁ、みんな座ってくれ。改めて挨拶する。わたしがイツァム・ナーだ。君たちのことはいろいろ聞いておる。特に、シン王子とホルスのことはな」
「オ目ニ カカレテ 光栄デス」とシンもここでは丁重に挨拶をした。ボクもそうしなくちゃいけないのかなと思っているうちに再びドアが開いた。
「兄サン、ジュリア 久シブリ」といいながら入ってきたのは、なんとヒパ・ジーだった。「今回ハ 公式訪遊ヨ」
部屋に入ると、ジュリアのすぐ横にきた。
「それでは全員が揃ったところなので、これから今回のことについて処分を言う」