最近、パイセンのNさんが急に鋏にハマり始めました。
で、よく質問を受けるんです。
なみさんその質問前も答えましたよ。
ということもあるですが、そういうと。
べしょうのブログを読んでも、ハサミの基礎がよくわからん!
と、逆ギレに近いご指導ご鞭撻を受けましたので、ツリークライミングの間に鋏のことをまとめようと思います。
鋏といっても偏りがありまして、私の専門科目は打刃物の植木鋏です。
鍛冶屋さんの植木鋏といったほうがわかりやすいでしょうか?
鍛冶屋さんの鋏とホームセンターの鋏は何が違うかというと、ざっくりいうと鋼と地金がくっついていると言う点が大きいかと思います。
正確に言うとホームセンターの鋏でも鋼と地金がくっついてる場合はあります。
ただ、例外を言い出すと簡単に説明することができなくなりますので、ここでは僕が8割行ってるなと思ったらいい切ります。ご了承下さい。
さて、ここで鋼と地金とは何かと言う話になります。
鉄といってもいろんな鉄があります。
鉄は科学でいうとFeですが、純粋な鉄はほぼなくて、何かしらが混ざったものになります。
代表的なのが、炭素鋼。
混ざったものは合金になるんですが、炭素鋼は合金にはカテゴライズされません。
合金鋼とは、鉄と炭素以外の合金元素を一定量以上含む鋼のことです。
鋼の五元素と呼ばれる炭素やケイ素、マンガン、リン、硫黄を規定量以上含む合金や、その他の元素を一定量以上含有する鋼のことを指します。
ステンレス鋼も合金鋼の一種であり、高張力鋼や工具鋼の一部も合金鋼に分類されます。
話を戻して炭素鋼にも硬いのと柔らかいものがピンからキリまであって、そのピンとキリをうまく合わして使うのが鍛冶屋さんの刃物です。
そのピンの硬い方を鋼。キリの柔らかいほうを地金といいます。
鋼は硬い鉄です。
刃物の正に刃の部分になるところでここが柔らかいと切れ味が出なかったり、すぐ切れなくなったりします。
地金は柔らかい鉄です。
刃物の刃ではない部分で、ここは硬くなくても刃物に影響しないため柔らかい鉄で焼きの入らない鉄をつかいます。
ちなみに科学的には炭素量が0-0.04%までのものを地金(鉄)、0.04-2.1%のものを鋼、2.1-6.7%のものは銑鉄(鋳物)といいます。
なぜここを地金にするのか。
2つあります。
一つは研ぎやすくなる。研ぐときに全て焼きの入った刃面だと時間がかなりかかりますが、柔らかい鉄をいれるとすぐ終わります。
もう一つは刃物全体に柔らかさが加わること。
地金を張り合わせてあることで、衝撃を加えてもポキンと折れることがなくなります。
日本刀も中に地金があってそのおかげで硬く折れないようになってます。まぁあれと同じです。
あと微調整にも良いです。
刃先から木の上から落としてしまって折れずとも少し刃先が曲がっても、金床の上で叩いたら
治ります。最高です。
さて、鍛冶屋さんの植木鋏は柔らかい鉄(地金)と硬い鉄(鋼)をくっつけた(鍛接)ものだといいました。
そしたらまたNパイセンがいうてくるんですよ。
白紙って何?
簡単に言うと刃物用の鋼で日立金属が販売してる商品名です。
白紙、青紙、黄紙があります。
鋼はぱっと見では区别がつかないため工場で色紙が付けられたことからその紙の色が商品名になったそうです。
鋼=0.04-2.1%の炭素量です。
白紙はそのレンジの鋼です。
白紙にも1号、2号があって炭素量が違います。一号のほうが炭素量が高いです。
ただ炭素量が1%を超えてたりするので、欠けやすさもついてくるという素材です。
黄紙というのもあるのですが、安物と判断されがちですが、用途によって適してる炭素量も変わってくるので一概にはいえません。
鋸などは黄紙の方が適していると言われますが、高級品のイメージに乗っかって白紙使用がうたわれてたりもします。
こだわっていくと鋼や地金を突き詰めていったりもしますが、そんなに変化は無いというのが僕の結論です。
異論は認める。
こういうので、やっぱ青紙は切れるって言ったほうが通っぽい感じがしていいんですがねー。
しかし、僕は分かりせん。
鋼材で切れ味が変わるのか?というのは僕は疑問に思ってます。
切れるってのは刃先の仕上がり精度を上げていくことになると思うんですが、鋼材で刃先の精度の密度が変わるとは思えない。
砥石の番手を上げていけばそのばらつきは小さくはなっていきますが。
極端な話同じ人が研げば100均の包丁も数万の包丁も同じ鉄であれば同じ切れ味になると思ってます。
分子レベルの変化を促して均一な刃先をつくればいいんでしょうが。
青紙は白紙にクロムとタングステンを混ぜた合金鋼というやつですっごいかたくなります。
これも一号二号あるんですが、まぁ気にする人は気にしてください。
硬くてねばいので長切れしますが、その分研ぐのも大変です。
あと鋼マニアでよくあるのが玉鋼信仰。
僕も一瞬入会しましたが、すぐに間違いやと思って、裸足で山を駆け下りました。
やはり、製法などを見てもわかる通り、いまいち安定しない炭素量のせいでムラも凄いのでめっちゃ欠ける。
これは作って飾る日本刀向きやなと気づきました。
植木鋏は刃先にめっちゃ負担がかかるのでたぶんむかないですね。
刃と刃がぶつかるので衝撃負担もすごいと思います。
硬さよりも、ねばさ、靭性が求められる刃物だと思います。
で、鋼なんですが。
京都の鍛冶屋さんで使われる鋼は基本的にS50Cというもので、スチール(0.5%のカーボン)という意味です。
炭素量は低い感じもしますが、十分です。
S50Cと白紙一号を同じ人が研いで十個ぐらい刃物を無造作において分かるか?かなり難しいと思いますね。
そこに青とか黄色とかS45Cとか一号2号まぜてわかんのかー!と言ってやりたい。
当てたら僕が坊主にします。詫び状持って。。
話を戻すと、地金は炭素量の少ない鉄、0.04%以下です。
使われることが多いのはSS400というスチールストラクチャーという構造材の鉄。これはホームセンターでも売ってます。
ss400と書いてなくても大体鉄はss400です。
で、マニアになると地金にもこだわってきます。
地金もレア品は大体2つ。
チェーン地と和鉄。
チェーン地は昔のヨーロッパの鉄で港のチェーンとかに使われていたのでそうよばれています。
日本の港にも使われていて、争奪戦がくりひろげられて今はほとんどないです。
もっと柔らかいのが日本の寺などから出てきた和鉄。
これらは地金の模様もきれいなので装飾的な意味合いでも使えますが、どちらもレアなのでかなり高価になります。
そこで、また聞いてきます。
なんで硬くなるの?
これは はっ? としましたね。
僕も焼き入れはそうすると硬くなると思って思考停止してました。
なんでそうなるんやろう?と疑問におもって追及していくのは僕の得意ジャンルと思っていたんですが。
Nパイセンは僕より追及のレベルが上にあらせられます。
せっかくなので調べました。
炭素鋼の金属組織は柔らかい純鉄(フェライト)と硬い鉄と酸素の化合物(セメンタイト)でてきていて、普通の温度だと炭素がバラバラにあるんですが800度ぐらいにすると炭素が均一にちらばります。(オーステナイト)この状態から一気に冷やすと何故か鋼がかたくなります。(マルテンサイト)
この鋼を均一で硬い組織に変化させることを焼入れといいます。
簡単に言うとマルテンサイトになるってことです。
あえて簡単にいうと鋼の温度の低い状態はフェライトとかパーライトなどの柔らかいものがおおいんですが。
温度を上げていくと、オーステナイトとかセメンタイトとかいう硬いやつになってきます。
鋼は温度を上げていくと変身していく生物なんです。(変態というのが正しいです)
まぁ、簡単にいうと水もそうですよね。
0度以下なら氷で、100度からは気体になってその間は液体って感じ。
で、727度を超えたところからゆっくり冷やしていくと、鋼もゆっくりもとの柔らかい状態にもどるんですが。
急冷すると、戻る時間がなくてマルテンサイトという状態になります。
お着替えの時間がないような感じですね。
マルテンサイトになると。
①固溶強化,②転位強化,③細粒強化,さらに④析出強化の4つの強化素機構をすべて含んでいて、まぁ簡単に言うと硬くなるってことです。
個人的には①と③が効いてるなと思います。
硬くなって細かくなるって刃物としては最高です。
で、その硬い状態やと硬いだけの折れやすい状態なので、焼戻しをします。
200-300℃でしばらく温めると硬さと柔軟さを、あわせもった良い刃物ができます。
なぜそうするかというと化学の話になります。
焼き入れをするとマルテンサイト化するんですが。
そのすべてがなるわけではありません。
そこには残留オーステナイトとか残留応力とかがあってそれらを取り除く必要性が出てきます。
そのため焼き戻しをして質の均一化を目指します。
そうして、打刃物は刃物になっていきます。
また、Nパイセンからの質問がたまったらこのシリーズをやっていきたいと思いますl。