映画感想:Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編(ネタバレ注意)
皆さん、こんにちは。ゴールデンウィークを直撃した緊急事態宣言による一部都府県での劇場閉館。この理不尽な仕打ちに耐えられなかったのか他地域では普通に新作映画が公開されるという事態が巻き起こっており、解禁後は少し前に公開されていた作品を追うだけで精いっぱいという日々が続いております、たいらーです。本来なら大型連休向けに色々と大作・アカデミー賞受賞作などが続々と入ってきていたため、これがまた厄介。フラストレーションを浄化するためにも、取りあえずアクション映画などに的を絞って消化していっている次第でございます。さて、今回は久々の単独での感想記事です。取り上げるのは、大ヒットゲームアプリのアニメ化作品、劇場版Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-後編 Paladin;Agateram2004年から続く長寿作品『Fate』シリーズのアニメプロジェクト最新作。現在も配信中のゲーム『Fate/Grand Order』にて2016年夏に公開、シリーズの生みの親である奈須きのこが筆を執り、今なお根強い人気を誇る「第一部」の六章にあたる「神聖円卓領域キャメロット」の前後編による劇場用長編アニメが遂に完結。特異点に居城を構える「獅子王」を倒すため、反旗を翻した円卓の騎士「ベディヴィエール」と人理保障機関「カルデア」が立ち上がる。スタジオは『攻殻機動隊』『PSYCHO-PASS』など数々の有名シリーズを手掛けるProduction I.G。監督は荒井和人と、前編とは異なる制作スタッフが名を連ねる。・「FGOをアニメ化する」ということ昨年公開された前編も感想記事を書いている本作。『映画感想:Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編』皆さん、こんにちは。とうとう年の瀬。いかがお過ごしでしょうか。今年度は忘年会新年会も開けないなんて話もありますが、なんか変な余興やらされるとかじゃなく仲間内で…ameblo.jpゼロワン最終回の時に「お仕事五番勝負」の件に触れた記事へのアクセスがものすごく伸びてた前例があるので「まさか……」と思っていたら、後編の公開日にやはりこちらもかなりのアクセスをいただいていました。かなりメタクソに言ってる記憶があったし実際読み返したら言っていたので、前編が好きだという方は読まない方がいいです(なんならこの記事自体も……)。さて、まずこの映画の感想を述べる前に触れておきたいのが、「そもそも論」としての『FGO』という作品を映像化することのハードルの高さについてです。ゲームはなんやかんやありつつも6周年を迎えそうで、「第一部」終章にあたるシナリオも劇場公開が決定している『FGO』ですが、そもそもこの作品、原作は「プレイヤー(=カルデアのマスター)の視点から描かれるアドベンチャーパート」がシナリオの軸であり、ライターも特異点やイベントごとに異なるいわば「プロのリレー小説方式」によって成り立っているのが実態です。要するにカルデア目線で物語を描くなら連綿と続くシリーズものとして語っていけばいいのですが、ここで問題なのが各シナリオで舞台となる「特異点」側の物語自体が、それぞれ完全に独立したものになっているということ。カルデアが介入するということは、その特異点内では召喚されたサーヴァントやその場所の支配者によって既に何かしらの異常が起きているというのがセオリーであり、地域も時代もバラバラの各特異点における出来事や人、時には神などを描いて、完結まで導いていかなければならなくなります。ところが『FGO』の場合、その特性故にボリュームもキャラクター数も膨大になってしまうため、メディアミックスの際には「特異点ごとに独立した個別のタイトルとして製作する」というスタイルを選ばざるを得ないのが実情。しかもアニメ化に関しては、チュートリアルにあたる「序章」を年末特番のいちプログラムとして製作・放映した後は、「第一部」七章にあたる『絶対魔獣戦線 バビロニア』を2クールのTVシリーズで→六章にあたる『キャメロット』を前後編の映画で→終章『冠位時間神殿 ソロモン』を劇場特別上映というかなりチグハグな展開になってしまっており、こうなるとそれぞれ完全に別個の作品として見るしかなくなってくるのです。こうなると各タイトルにおけるシナリオ構築にも当然影響が出てきます。それぞれにおいて舞台となる「特異点」側と、そこに介入する「カルデア」側の巧妙な「両手打ち」が必要になってくるからです。「両手打ち」とは、脚本家、戯曲家のブレイク・スナイダー氏が『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』という本で命名した手法で、いわゆるバディ・ムービーにおける手法のこと。10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 SAVE THE CATの法則Amazon(アマゾン)1,980円「協力し合う者たち双方に抱える問題があり、お互いが出会うことによって成長・変化してそれらを解決していく」という物語のスタイルで、大抵の『FGO』のシナリオは、「聖杯を回収したい(が、大抵は戦力が足りない)」カルデアと、「打ち倒したい敵がいる(が、自分達だけでは勝てない)」特異点側の利害の一致と心の変化によって進行していきます。特に六章以降はカルデア側にとっても話が動き出す重大なポイントが多いため、映像化するとなるとある程度彼らにもカメラが当たることになる以上ここは逃がれられない要素でもあり、かと言って特異点側の物語を疎かにはできないという、非常に高度なバランス感覚が必要になってきます。そしてこの「両手打ち」問題が如実に現れたのが、映画という限られた尺で物語を描かなければならないこの『キャメロット』、特に前編だと思います。前編で描かれたのは、カルデア組とベディヴィエールが難民達の村を守り抜き、アーチャーのサーヴァント、アーラシュが身を挺して聖槍の一撃を相殺するところまで。ここに至るまで主人公・藤丸立香達は難民達を守りはしたものの、状況としてはキャメロット陣営に比べて終始圧倒的に不利。つまり一般的なエンタメ作品のような、「勝利によるカタルシス」を出しにくい場面が続くわけで、原作でも五章から続くマシュの生い立ちにまつわる話、ここに来て同行してくれたダ・ウィンチちゃんの大見せ場、円卓の騎士の本格登場などと「シリーズものとしての要素」を次々と出していくことで繋いでいます。しかし、前述の通り「独立した作品」として見ることになると、これらの「シリーズものとしての要素」はそれ自体では効力を発揮しにくいため、やはり舞台となる特異点やカルデアとの関係性に絡めとる形で個々のキャラクターの立ち位置を確立させていかなければなりません。そうすると、かえって視点を置くべきベディやカルデア組のスタンス・心情を掘り下げることでそれぞれのキャラを(敵対者にせよ協力者にせよ)より印象的に見えるようにしていく必要が生ずるのですが、この前編はその掘り下げが中途半端であるために、「あらすじはキャメロットを概ねなぞっているのに全体の印象がぼんやりしている」ように感じられるという原作モノとして一番ダメなパターンの映像化になってしまっていました(具体例は前編感想記事で詳しく触れています)。2か月後には『ソロモン』が公開されているわけですが、正直これもシリーズものとしての『FGO』ならではの面白さの集大成のようなシナリオなのでどうなるかな……という気持ちが強いです。本筋そのものは意外とシンプルなのでそこの面白さを出してくれればまた違ってくるのかもしれませんが、ひょっとしたらサーヴァントが集結する二幕目のお楽しみ(になるであろう)パートが一番盛り上がらない歪な映画になるかもしれないという危惧がちょっとあります。・今回の主役はベディヴィエール!ベディヴィエールです!!!!!……と、長々と語ってしまいましたが今回の映画の話に移りましょう。前編が色々と不満だらけなことは分かったと思いますが、制作スタッフも変わって原作のストーリー的にもあとは他勢力の協力を取り付けて聖都へ殴りこむ!という分かりやすい構造なだけあって流石に前編よりは盛り上がるだろうと思っていた後編。大まかな感想としては……Fateのアニメシリーズ史上でもトップクラスの快作が来た!そう素直に喜べるレベルの良作でした。まず本作、冒頭15分(マシュ対ランスロット戦まで)がFGO原作アプリにて期間限定配信されましたが、この段階でもう映画としてのクオリティが前編と段違い。冒頭のオープニングシーンからベディヴィエールの目線で始まり、「これが誰の映画であるか」がその後のやり取りでも一目瞭然。戦闘シーンもピラミッドの壁面という傾斜のある空間で、高低差を演出に組み込む形で構成されていて、マシュが述べる決意の言葉が戦いを見ているベディヴィエールにも響いてくるカットがある。前編でげんなりした身としてはこれだけ映画的な見せ方がしっかりしている冒頭にまず感動せざるを得ないわけですが、原作からカットされている部分をさり気なく「正味90分の尺内に物語を収めるためのアレンジ」として活かしているのも感心したところ。デザイナーベイビーとしてのマシュの運命に関してカットしたのは僕はあまり納得いっていませんがこれも「自分の体に宿る英霊の名前が分からない」という本人の葛藤に一本化する形で分かりやすくなっていましたし、オジマンディアスの「首」の件も本作では無い代わりに「世界を救うか、民を守るか」の二択を迫られる本人の心情の問題として彼のドラマを描く形に整理し直されている。ベディヴィエールが主役として立っているからこそ、この辺りの改変・省略も許せるものになっている点で、これは大きな進歩です。荒井監督、公開当日にTwitterで本作の好評の声に喜んでいたようですが、本当にいい仕事をなさったと思います。(ツイートは「バリキオス」と検索して遡っていただければ閲覧できます)・まさにこれが見たかった!怒涛の円卓超人対決!そして本作、この無料で見られるマシュ対ランスロット戦の後、原作シナリオの最大の山場でもある聖都への突撃に移るわけですが、ここからの・トリスタンVS呪腕、静謐のハサン・アグラヴェインVSランスロット・モードレッドVS玄奘三蔵・ガウェインVS山の翁、VSベディヴィエール&マシュ&藤丸と4つの場面に分かれてそれぞれで展開される戦闘シーンの連続には文句なしに燃えました。今回どうも戦闘シーンごとにコンテ演出を分けるという施策がとられていたようで、中でもその違いがはっきり出ているのがゲームでは省略気味だったアグラヴェインVSランスロット戦。アグラヴェイン自体が未だにゲームで実装されておらず謎が多いキャラということもあって注目度が高かったこのシーンですが、画風自体も他とまるで異なっており、宗教画のような抽象化の成されたレイアウトもあって本当に1つの作品で違うアニメを見てるような驚きに満ちた場面に仕上がっていました。トリスタン戦は原作から百貌のハサンの存在がカットされた代わりに、弓と音で戦うトリスタンに対してハサンたちが短剣でワイヤーを張り巡らせて対抗するという三次元的な見せ方にこだわっていて、前編では敵地でほぼ動けなかった盲目のトリスタンが自らのホームでぐりぐりと動き回ることもあってなかなか楽しいシーンになっていました。ガウェイン戦も山の翁との戦闘では奈須きのこ氏のブログ上で語られた特異点内での円卓の騎士の過去(通称6章/Zero)が回想で語り直されるというファンサービスと掘り下げがなされた後、「太陽の騎士」が持つ超耐久を存分に発揮したベディヴィエール戦にもつれ込むというアレンジが絶妙で、ベディヴィエールの宝具口上もゲーム演出と同様の「デッドエンドアガートラム」になっていたのに燃えました。ところでサポート役として城に置いてあった槍を平然とガウェインまで投げつける藤丸、お前そんなことできたのか……。そして対戦カードで唸らされたのが、原作には一切ないモードレッドVS玄奘三蔵戦。生い立ちからして闇の深いモードレッドに高僧である三蔵ちゃんをあてがい、ピラミッドの上で戦わせるという構図、更に本作オリジナルの演出で魅せる三蔵ちゃんの宝具「五行山 釈迦如来掌(ゲームでは仏陀のオーラを身に纏い敵を山にぶっ飛ばす技)」の美しさと「こう来たか~!」と膝を打つような展開の連続にはひょっとしたら一番心が動いたかもしれません。三蔵ちゃんの宝具のアニメ特有の絵の演出で抽象的な事柄に説得力を持たせるという見せ方、バビロニアのTVシリーズでカットされた武蔵坊弁慶の宝具「五百羅漢補陀落渡海(敵を強制的に成仏させる技)」に期待していたものでもあったため、ある意味それさえも補完するようなものになっていたので僕自身も成仏したような気分になりました。場面を分けてとはいえ戦闘シーンが何分も続くのですが、それもオジマンディアスによる援軍、それぞれの幕引きの丁寧さ、キャ。ごとのドラマの進展や掘り下げなどが挟まれるため適度に飽きないよう構成が計算されており、クライマックスが映画のほぼ半分を占めるリメイク版『十三人の刺客』や、戦闘シーンが約1時間続く『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも匹敵する丁寧さで全体が組みあがっていたと思います。・短いながらも密度で勝負。圧巻のクオリティで魅せる獅子王戦それぞれの騎士との戦いが終わった後、待っているのは今回の特異点のラスボス、騎士王「アルトリア・ペンドラゴン」の肉体を借り、顕現した「獅子王」こと、女神ロンゴミニアドとの対決。騎士達の戦闘が物量的にも時間的にもすさまじいものをぶつけられたこともあり、ここで見劣りすると全体の印象も尻すぼみなものになってしまうのではないかという危惧がありましたが……、そんな心配はこの「分かってる」スタッフ陣の前では杞憂に終わりました。このラスボス戦、体感時間としてはそんなに長くないのが「逆にいい」。「命が限られたものであるからこそ生き抜こうとする」という思想的な対立はマシュの掘り下げを一部カットしているため原作からやや後退気味でこの辺は尺の都合を感じずにはいられなかったものの、その分絵の密度がそれまでのシーンの5倍ぐらい濃く、ここですべてを見せきることで変に後を引かない作りにしていたのが好印象。中でもこのシナリオの肝となるベディヴィエールが「アガートラム」を解禁するカットからの一連の流れは会心の出来。ここに至るまでの彼の心情の深掘ぶりと、その場面ならではの舞台立て、背景美術の美しさによって「これが彼の旅の果て……」と感情を揺り動かされる映像が現出していて、ここを見るためだけでもいいから「原作のキャメロットが好きな人はぜひ後編を観に行ってくれ!」とお勧めしたくなるクオリティでした。坂本真綾さんが作詞、ベディヴィエール役の宮野真守粋さんが歌うエンディング曲も素晴らしい曲でしたが、今回なんとエンドクレジット後に映像があり、そこに持ってくる場面の選び方も「粋」の一言。【Amazon.co.jp限定】「透明」(『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編Paladin; Agateram』主題歌)(メガジャケ付き)Amazon(アマゾン)1,430円新規向けかファン向けか中途半端な出来だった前編に比べ、今回は原作ファンであればあるほど垂涎の出来、アレンジも加えつつ原作の見どころをアニメーションとして楽しめるようにガッツリ作ってあるという点で、作品としては大勝利と言っていいでしょう。緊急事態宣言の影響や、前編の評価も響いてか興行的にはかなり苦戦しているとのことですが、これこそたくさんの人に届いてほしい、そしてちゃんと評価されてほしい1本です。気になっているという方はぜひ観に行ってください!おすすめです!……さて、単独記事になるとやはり長くなってしまいますね。今回はアニメシリーズ全体の話もしたので余計に長くなったかと思います。FGOアニメ、元がソーシャルゲームということもあり、ただの映像化作品とはまた少し違った文脈で作られていると感じていたのですが、それをやっとまとまった文章として形にできました。シナリオの勉強をやってみた成果と言うべきか、なんでも学んでみるものですね。それでは今回はここまで。次はまた「映画感想こぼれ話」になるかと思います。流石に兵庫県はもう映画館休止にならないと思うので(インド株とかは怖いですしその名目でまた閉められるかもしれませんが)、来週は『るろうに剣心 最終章The Beginning』を劇場で拝みたいです。『The Final』はもう見ましたが、有村架純の雪代巴がドストライクすぎた……。それではまたお会いしましょう。ここまでのお相手は、たいらーでした。