新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

大晦日は2020年の映画ベストをランキング記事に書いて投稿しましたが、今後ワーストや個人的に賞を与えたい映画を紹介する「私の○○映画大賞」をやりたいと思います。

 

さて、今回は新年初の映画感想です。

昨年観た作品になりますが、どうしても色々と感想を綴っておきたいので記事にします。

 

取り上げるのは、大ヒットした絵本を原作として製作されたこの作品―――

 

 

 

『えんとつ町のプペル』

 

 

漫才コンビ・キングコングの西野亮廣が製作した同名絵本を、同氏が原作・脚本・製作総指揮を行う形でアニメ映画化。

アニメーション制作は『鉄コン筋クリート』『海獣の子供』などを手掛けたSTUDIO4℃、監督は同スタジオで『ハーモニー』を過去に担当した廣田裕介。

常に煙突から出る煙で空が覆われた町をに、煙の向こう側にある星を見ようとする少年・ルビッチと、突如町に現れたごみ人間・プペルの交流を描く。

ルビッチ役を芦田愛菜、プペル役を窪田正孝が務め、その他の登場人物も実力派俳優・芸能人が担当。

 

2020年12月28日、TOHOシネマズ梅田で鑑賞しました。

 

 

・あくまで1本の作品として

コンビ揃って何かと話題になることの多いキングコング。

その中でもある意味一番一般的に話題となったのが、ツッコミ担当の西野亮廣が製作した(個人制作ではなく分業体制で作り上げた)という原作絵本、『えんとつ町のプペル』。

絵本としては大ヒットしたという経緯を持ちつつ、内容を無料公開した件について色々と騒動があったとも言われています。

それに関して思うこともあるのですが、今回はそこに関しては面倒なので一旦お口をチャックします。

1つの作品としてこの原作が商業的に成功し、絵本以上に資本や人が動く長編アニメーション映画の製作にこぎ着けたというのは実際凄いことなのでしょう。

 

それと同じ話で、映画に関してもTwitterなんかを見てると色々と目につくものがありますがそこは気にしない方向で行きます。

あくまで自分が作品を観て何を感じたか、その気持ちに忠実に書いていくのがやはり感想として正直で良いと思います。

あくまで良いところがあったら良い、悪いところがあったら悪いと言う。このスタンスを今年も貫きたいです。

 

 

さて、その上でこの『えんとつ町のプペル』

感想を正直に一言で申しますと―――

 

 

 

 

 

 

「怖い」

 

 

これに尽きます。

 

 

 

 

 

・映像・演技のレベルは間違いなく超高水準

何が「怖い」のか、という点は一旦置いておいて、まず本作の良かったところについて触れます(この書き方がもうアレですが)。

 

まず良かったのはアニメーション的なルックの部分。

「えんとつ町」は町のいたるところに煙突が立っており、現代で言うと高層ビルが立ち並ぶ都会のように空間の高低差がきわめてはっきりとしている舞台設定。

太陽の光もあまり届かず、夜になると人工の光が町を照らし昼間でもどこか景色が薄ぼけた雰囲気のスチームパンク感なども含めて、その空間を表現する映像の出来はなかなかの見栄え。

ゴミ山の廃棄物からできた文字通りの「ゴミ人間」であるプペルは序盤で町に降り立ってからのちょっとモンスター映画風味の演出といいちょっと浮いた存在でありつつも、童話風にデフォルメされた人間キャラ達とも程良く調和のとれたナイスデザインだと思います。

そしてそのキャラクター達に声を当てる役者さんのキャスティングや芝居、これも文句なしに良いものでした。

主演2人、特に芦田愛菜に関しては声優経験も既に場数を多く踏んでいることもあって垢抜けていましたし、窪田正孝も演技力に関しては折り紙付き。

脇役に至るまでキャラに適した人が割り当てられており、野間口徹、小池栄子辺りは気付かない人も多かったのではないでしょうか(僕は気付きませんでした)。

その中でも驚いたのが、絵本では登場しないというキャラクター・スコップを演じたのがオリエンタルラジオの藤森慎吾という点。

「めっちゃ話が長い」という分かりやすい三枚目キャラではあるのですが、長台詞を任されても違和感が無いようキッチリとこなしてみせたのは本人の芸の成せる業と言っていいでしょう。素直に感服いたしました。

いわゆる本職の声優でない「芸能人吹き替え」というのは定期的に話題になるところではありますが、やはり近年はかなり改善されてきているというか、作り手側も意識的にキャスティングのやり方を見直してきている印象はありますね。

 

ともあれアニメ、普通の映画がカメラワークと役者の演技が良ければそれなりに見られるように、ある意味「アニメとしてのルック」と「良い声優の演技」が揃えば、内容は一旦置いておいても観られるものにはなるというのは一種の真理でもあります。

そういう意味ではこの作品かなりちゃんとしているので、そこはひとまず安心して大丈夫です。

 

 

・流れるようなご都合主義とそれっぽい展開で作られる「ドラマ」

映像的な作りは今年観た中でもいい方で、特に冒頭の町を一望するカットなどはかなり引き込まれるものがあった本作。

 

しかしながら肝心のストーリーに関しては、僕ははっきりとNO!を叩きつけたくなりました。

 

ストーリーは前述したように割とシンプルなものです。

まずこの「えんとつ町」は常に空が煙で覆われていて「星」が全く見えず、そんなものは存在しないとさえ言われています。

その中で「星」の存在を信じているのが、煙突掃除の仕事をしている少年・ルビッチ。

彼の父・ブルーノは紙芝居を通じて星の存在を人に伝えようとしたものの、町の人からは嘘つき呼ばわりされ、謎の失踪を遂げています。

ルビッチはそれでも「星」の存在を信じ、プペルとの出会いを通じて、それを世間の人に伝えようとするも、町の上層部は「外の世界など無い」とし、彼らを妨害しようとして……という筋書きです。

 

「父親が空にある「存在しないとされているもの」の話をして嘘つき扱い」「息子がその夢を追う」

僕はこの辺でスタジオジブリの『天空の城ラピュタ』を連想しましたし、もろに『ラピュタ』っぽいと思うシーンも出てきました。

しかしあくまで全体としては純粋な冒険譚、ボーイ・ミーツ・ガールの物語に収斂した『ラピュタ』に対し、本作はこの要素をかなり前面に、ある意味で思想的と言えるレベルで押し出しています。

それを象徴するのが、映画を観た人であれば誰もが印象に残るであろうルビッチの父・ブルーノの台詞と登場するタイミング。

かなり『じゃりン子チエ』のテツっぽいまさしく「オヤジ」という見た目のお父さんですが、このキャラが「下を見るから震えるんだ、上を見ろ」など教訓めいたことを言う場面がルビッチの回想として事ある毎に挟み込まれます。

そしてそれらがナレーションとして1つの形に結びつくのがクライマックスのプペルとルビッチが空に飛び立ち「星」を見せに行く場面。

「夢を見ても周りは叩いてくる、それでも信じ抜くことが大事」という言葉を信じた通りにルビッチは本懐を遂げ世界を変えてみせるという意味で、自己実現の物語として筋を通していることは分かります。その初志貫徹ぶりは良いです。

 

……ただこの回想シーンに出てくるブルーノ、見た目だけじゃなくて振る舞いもかなり『じゃりン子チエ』っぽく、「「夢」がどうこうとか置いておいて普通にダメ親だろこいつ!」としか思えませんでした。

例えば紙芝居の下り、周りの人が「こんなの見るな!」とルビッチの手を掴んだ時に「息子の夢を奪うな!」と言って喧嘩に発展するのですが、その言い分といい暴力を自分から振るいにいく点といい、はっきり言ってよき父親感より押しつけがましさの方を強く感じました。

あとこれは……と思ったのは帽子を取るために梯子を使ってルビッチが高い所を上る下り。

ここで前述の「上を見ろ」が出てくるのですが、ここでブルーノが何をしているかというと腕を組んでぼーっとしているだけ。

案の定この後ルビッチは落ちますし、「言ってないでお前が梯子を支えてやれよ!」とツッコまずにはいられませんでした。

しかも町から失踪した件に関しても、映画を最後までもやむを得ずそうしたというより、勝手に家族(病弱な妻とまだ幼い息子)をほったらかして町を出て行ったようにしか見えず、行動が全部自分勝手。

息子の名前も一回もちゃんと呼んであげませんし、とにかく「家族愛」が全く感じられませんでした。これを家族愛の描写だと思っているならむしろ描かない方が良いぐらいです。

根底に流れる精神がこれということは自ずと主人公にも若干感情移入し辛くなってくるのですが、最悪なのは「プペルの正体」についてまでこの父親が関わってきてしまうこと。

ルビッチとプペルの関係性はこの作品を大きく揺り動かす重要なポイントで、中盤まではルビッチの子供らしい自己都合による「友達」宣言から決裂を経て本当の意味で友達になっていく過程をそれなりに丁寧に見せているものの、仲直りの直後にプペルが実は父ちゃんだった⁉という余計などんでん返しを入れてきたせいで「友達関係」というのも有耶無耶にされてしまいます。

まずこの家族描写のせいでひたすらに「息子なら俺の気持ち、分かってくれるよな?」的な親のエゴが付きまとうような話になっており、「夢」というテーマがなんだか矮小化されているように感じられました。

 

 

あとこれは気にし過ぎなのかもしれませんが、全体の構成や場面繋ぎ、描写を踏まえて諸々に感化できないレベルの粗やご都合主義が見える部分がやたらと多く、それらがテーマ自体を更に胡散臭く見せてきています。

えんとつ町の内部事情もディストピアもの「っぽい」要素はチラつかせている割に、「異端審問所」という明確に敵対する立場の人たちが公に実力を行使することもなくルビッチの味方側から当たり前のように反撃されたり、指名手配犯級の扱いの筈のプペルがルビッチの職場仲間からはなんか普通に受け入れられたりと全体的に話の都合が良く主張の強度が緩い。一応ルビッチの職場にスパイがいて親方を貶めたりするのですが、そもそも普通に所員が職場にでもガサ入れしてルビッチ本人を捕まえればいいのでは。

町の人が外に出る手段である「船」を怪物と勘違いしているというのは面白いものの、終盤に入って唐突に「「海」に対する恐怖を与えてきた」などとまで言い出すため、いちいち主語の大きさに対して説得力が薄い。

ただ展開の間を繋ぐためだけにいるようなキャラも何人かいるのですが、スコップに関しては「話の長い奴」というだけの特徴で異端審問会相手に時間を稼げてしまう(話が特別面白いわけでもない)、序盤ルビッチと出会った後どう別れて後半でどう再会したかも分からない、実は話の裏側を全部知ってると特に便利に使われており、まあこの辺もなんだか都合が良い辺りです。

それとかなり引っ掛かった描写として、ルビッチをはじめ煙突掃除を生業としている人達が命綱もしてないのは何か理由があるんでしょうか……。梯子の件といい高い所を舐めているようにしか思えませんでしたが、パンフレットを買えば何か書いてあるんでしょうか。

 

音楽も劇伴の出来は良いのですが、序盤で唐突に出てくるミュージカルシーンは展開はさておき「ミュージカルである」ことが後々何かに繋がるということも無かったり、「劇伴に合わせたモンタージュ的なシーン」や「歌に合わせた切ない感じのシーン」などそれっぽい場面が過去に見た作品を何か上回るほどの出来にも見えなかったりと「音楽を使えばいい感じになるでしょ?」と言われているようにしか思えない演出が多く辟易としました。

終盤の煙を吹っ飛ばす計画の準備の下りとか、ケイパーものの段取り的な一番盛り上がりそうな場面まで音楽とモンタージュで詳細を描かずやったのはもう無粋としか言いようがありません。

それか書き手にそこを描く技量が無くて誤魔化したかです。

 

世界観についても色々な理屈をこねくり回しているものの、結局どれも深くは掘り下げられないのもちょっと疑問があります。

経済については詳しくないのでそこには踏み込みませんが、「煙は外部に町の存在を気付かれないため」というのはかなり無理があるんじゃないでしょうか。

あの町それなりの規模の大きさだったと思うのですが、地域一帯が250年も煙で覆われてたら逆に怪しまれるのでは。

ディストピア感が薄いという点は置いておくにしても、銀行と軋轢を生みかねないから町を作ったという経緯を聞いておいて煙を晴らす作戦を実行するのも、それに絆されて町の首長の一存で特に何の問題も無く煙突が止められるのもなんというか話が上手すぎるという印象です(あれ、本当に社会的に必要ないのに焚いてたんですかね……)。

一番ルビッチに反抗していたジャイアンっぽい子が「実はルビッチたちと同じ夢を見ていた」というのも、ルビッチ本人とは結局碌に会話も交わさず心変わりして最後に味方面してくるのもなんだか同調的というか……同調圧力に反抗する話なんですよねこれ?

 

「夢」を叶えること、信じることのは決して否定しませんが、やり方やその過程の描き方がなんとも山も谷も無く、結局大した障害もあまり無いまま一人前に演説はしてくるという点で僕はルビッチが全く好きになれませんでした。

異端審問会がどうのより、ディティールがあるようで薄っぺらい「世界」に対する主張を100分繰り返してそれが周囲に当然のように受け入れられていくそのドラマの描き方そのものに息苦しさを感じ、「怖い」と感じてしまいました。

ラストの説教臭さは「夢」というテーマを扱った『ワンダーウーマン1984』ともある意味共通する部分ですが、『ワンダーウーマン1984』がちゃんと「無条件の欲望(夢)の肯定の危うさ」を誠実に描き出したのに対してこれはちょっとありえないぐらい内容が薄いです。

これは予算とか、実写かアニメかの違いかとかそんなことは関係ありません。

純粋に作劇と作り手の世界観の偏狭さの問題です。

この製作チームには次があるとしたらその辺りを見直して作ってほしいと思います。

 

 

……なんだか普通に愚痴の掃きだめのような感想になってしまいましたが、まあ僕は作品の中で言えば異端審問会側、取るに足らない存在ということなんでしょうね。

映像の出来、作画の出来に関しては紛れもなく良い作品ですし、退屈するかしないかで言えばクライマックスの延々ナレーションが重なるところ以外はどんな人でも普通に見て面白がれると思います。

東宝系など多くの映画館で現在上映中ですので、まだ正月休みが続くという方はこの機会にご覧になってもよいではないでしょうか。

個人的には普通に『鬼滅の刃』(4DXもやってます)か『ワンダーウーマン1984』などを観た方がもっと楽しめると思いますが。

 

 

今回の感想はここまでです。

次回は新年早々鑑賞した『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』の感想をお届けします。

お相手は、たいらーでした。