皆さん、こんにちは。
この前研究室の先輩と男の筋肉の話になりました。
どうも演劇学研究室の人は振り切れている人が多いようでいろんな方が在籍しているのですが、このブログでも紹介したドウェイン・ジョンソンの『セントラル・インテリジェンス』などを紹介してなんとか食らいつきました。
ドウェイン・ジョンソン、なんであんなにいるだけで面白いんでしょうか。
さて、今回は筋肉は出ませんがヒーロー達は沢山出る。そんな映画の感想を書いていきます。
取り上げるのはこちらの作品
劇場短編仮面ライダーセイバー
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劇場版仮面ライダーゼロワン
日曜朝9時からテレビ朝日系列で放送されている『仮面ライダーシリーズ』の劇場版最新作。
今年8月に終了した『仮面ライダーゼロワン』の初の単独映画と、現在放送中の『仮面ライダーセイバー』の短編映画の2本立てというこれまでに無い形の映画となります。
12月18日から全国の映画館で公開。
今回は東映系列の映画館である、梅田ブルク7にて鑑賞して参りました。
・真の敵はコロナ……。色々あった今年の特撮事情
今回のライダー映画、まあライダーシリーズをご存知の方なら今更言うほどの事でもないと思いますが、ちょっと入り組んだ事情があっての公開となっています。
その原因となっているのが、今年最も重大な出来事となってしまった新型コロナウイルスの蔓延。
エンタメ界隈にも多大な影響を及ぼしたこのウイルスですが、番組放送と並行して制作するスタイルの東映特撮に対してもその影響は絶大。
5月中旬以降一時期ニチアサの新作放映自体がストップし、過去の放送作品の総集編に新規音声を入れてなんとか繋ぐ方式が取られました。
『仮面ライダーゼロワン』は約3クール分あった本編のおさらいをメインに、放送話数が1クールにも満たなかった『魔進戦隊キラメイジャー』は本編放送前に上映されたエピソード0や、放送に入りきらなかった「蔵出し映像」まで引っ張り出しての初期エピソードのおさらいと、この頃の放送内容はかなり制作サイドの苦労が垣間見えましたが、一番支障が出たのは例年夏に公開されていた劇場版の製作。
今年も「戦隊+ライダー」の形式で7月公開のアナウンスが出ていたもののそれは実現せず、ゼロワンは本編終了後に映画を公開する事が決定、戦隊も今年公開された『スーパー戦隊MOVIEパーティー』の方式で『キラメイジャー』と、前年の『リュウソウジャー』、そして来年の戦隊のお披露目を行う事が決定されました。
(ちなみに来年の戦隊、もうビジュアルが出ていますが……どうなるんでしょうね、アレ)
そんなわけで公開時期もズレ込んでしまった今回の映画。例年行われていたライダー同士のクロスオーバー作品もスキップされ、最終的には現行+終了シリーズの単体作品2本立てという異例の方式で公開が行われることとなりました。
現状だと先日最終回を迎えた『ウルトラマンZ』も例年春に公開されている劇場版のアナウンスが今のところ無いという状況です。あちらもシリーズ構成の吹原幸太さんが逝去されたり、本編撮影が途中でストップしたりといったこともあって、今年はどこの特撮作品も大変ですね……。
『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』
柴崎貴行監督、福田卓郎脚本と本編のメインスタッフとキャスト陣が勢揃いで作られた、『仮面ライダーセイバー』初の劇場用作品。
『救急戦隊ゴーゴーファイブ』『仮面ライダーアマゾンズ』『仮面ライダージオウ ファイナルステージ』など、東映作品で多くの出演実績を誇る谷口賢志がバハト/仮面ライダーファルシオンとして参戦。
・ストーリー:アクションの比率、1:99!とにかくアクション全振りムービー
ただでさえ本編がコロナの影響を受けまくっている中で作られることとなったこの劇場短編。なんとその尺は、エンディング映像も含めて全部で20分!
正味15分程度と本編の1話分以下の尺で展開されるその内容は、本編で活躍する6人のライダーと、敵役であるファルシオンが出だしからひたすら戦いまくるだけでほぼ完結するという恐るべき割り切り具合。
ロケ地もよく見ると岩船山や最初に子供が出てきた公園付近が多くかなり限定されており、下手したら今年の夏に制作・公開された『がんばれいわ!ロボコン』より撮影期間短かったのでは?と思ってしまうほど。
ただアクション要素に関しては本編に登場するアイテムやギミックを間断なく、テンポよく扱ってくるのでかなり迫力があり、ある意味そのリズム感を楽しめる類の作品かもしれません。
テンポが良すぎてファルシオンが1回倒されてから復活するまでもやたら短くてびっくりしましたが。
あと谷口賢志さんは今回生身での出番はほぼありませんでしたが、ようやく「変身」が言えたのと相変わらずすさまじいアフレコでしたね。言動の支離滅裂感も含めてこの人やっぱり鷹山仁なのでは。
反面ストーリーと呼ぶべきものはほぼありませんが、「当たり前にある日常を守る戦士」として「仮面ライダー」を定義してそこを貫かせたヒーローものとしての明快さ、それに励まされつつ日々を送る人々の存在を描いてみせたのはなかなか好感が持てました。
特に子供との交流エピソードはやはり王道の良さがありますね。
最近『仮面ライダーBLACK』で子供との交流回を腐るほど見たせいかよりそんな気持ちになりました。
『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』
『仮面ライダーゼロワン』初の単独映画化作品。
世界の破滅を目論み人々を襲う謎の集団に、人間とAIの「仮面ライダー」達が立ち向かう。
杉原輝昭監督、脚本は高橋悠也とこちらもTVシリーズのメインスタッフ、メインキャストが勢揃い。
ゲストとして、エス/仮面ライダーエデン役に伊藤英明が起用されたことでも話題となりました。
・タイムリミットは60分⁉ノンストップアクションムービー!
前述の通りコロナの影響で、恒例の「夏映画」を飛ばされてしまった『ゼロワン』。その結果生まれた本作は色々と異例尽くしの作品となりました。
まず明確に本編終了後に初めて単独映画が作られたのがシリーズ全体を通しても初めての事。放送期間中に「本編後」という時系列設定で作られた映画はいくつかありましたが、制作順も本編後というのがまず異例。
過去には平成ライダー第1作『仮面ライダークウガ』が本編後に映画の企画が持ち上がり頓挫した事もあって本当に貴重な出来事で、今までと少し毛色が違う面もあります。
上映尺も60分前後が常態化していた夏の映画に対し、今回は80分とドラマ的にも少し余裕のある設計になっています。
そして今回繰り広げられるのは、敵が仕掛けた60分という時間の中で巻き起こるリアルタイム・サスペンス!
エスが擁する量産型ライダー・アバドン軍団が人々を襲う中、本編の仮面ライダー達が一丸となって事件に挑む様が描かれます。
そんな状況のためこちらはこちらで開幕から絶え間ないアクションシーンの連続。
最初から本編の主人公・飛電或人の変身する仮面ライダーゼロツーとエデンの壮絶な戦いが繰り広げられ、その後も仮面ライダーバルキリー/刃唯阿が指揮を執る特殊部隊A.I.M.Sや、仮面ライダーバルカンとして戦う不破諫、ヒューマギアである迅・滅達がアバドン軍団と戦っていく様が次々と映し出されていきます。
本作のまずとても良かった点として、このアクションシーンの凄まじい迫力とクオリティが挙げられます。
過去作で多くのライダーのスーツアクターを務めた渡辺淳さんがアクション監督に就任し、『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』のメイン監督を務めた杉原輝昭さんの起用などもあってTVシリーズの頃からアクションの質が非常に高かった『ゼロワン』。今回はそのレベルが確実に二、三段は上がっていました。
バルキリーのバイクアクションなんかはカメラワークも凄かったですが、いつもの撮影所をこういう風に使うかと東映特撮に馴染みのある人ほど感心させられる場面になっていたと思います。
ライダーの各フォームの能力の活かし方も目を見張るものが多く、AI搭載のナノマシンでできていて再生できるエデンの能力は近未来らしくて良かった(要は体全体がアイアンマンのナノテクスーツみたいなやつ)ですし、ゼロワンのメタルクラスタフォームが小型のバッタをそこに潜り込ませて再生を妨害するといった活躍を与えられていたのも印象深いところ。
本編だと殆ど出番の無かったかやられ役だったA.I.M.Sがしっかり連携プレイでアバドン軍団を倒したり、幹部格のアバドンが二丁拳銃の反動で跳躍したりと味方以外の演出にも様々なアイデアが投入されており、ここの部分に関しては期待を持っていいです。
・メインキャラの描き方は◎
そして本作、嬉しい点として本編で歯痒い思いをした部分もちゃんとカバーできています。
それが「メインキャラ同士がしっかり連携を取って事件解決に臨む」という事。
所属組織がバラバラな事と、組織の枠を超えて共闘する事が殆ど無かったせいでメインキャラ達の人間関係や掘り下げがあまり進展しなかったという重大な問題を抱えていた『ゼロワン』本編。
しかし今回は各キャラクターが自らの役割をこなし、事件の謎を解明していくため非常に全体の展開がスピーディかつ、雰囲気も良好。
代表的なギャグシーンとして多くの人が挙げるであろう迅とバルカンの「ゴリラーー!」の場面なんかは劇場内が笑いに包まれていましたし、その後終盤で不破さんが迅に肩を貸して現れる場面なんかは歴戦の友みたいな空気が漂っていましたね。やっぱりyoutubeで一緒にゲームやった2人は違うな。
他に個人的に良かったと思ったのは、本編最終回で大きな話題となった秘書型ヒューマギアにしてヒロインである「イズ」の扱いについて。
終盤で自我が芽生えたにもかかわらず破壊され、修復不可能な状態から同型機をもう1体作って「元と同じ状態にする」という想像から斜め下の着地を見せた本編でしたが、今回の描写を見る限りでは2号機であるこのイズの尊厳は守られていたと思います。
復元不可だとわざわざ言っていたのに記憶を引き継ぐ場面とかそれどうなんだと思わされる部分もあるものの、ちゃんとそこにいる「イズ」の存在が尊重された或人の言動や役者さんの演技に好感が持てました。
それと或人役の高橋文哉さんはもう苦しむ演技が堂に入りすぎてますね……w
映画限定フォームのヘルライジングホッパーの暴れっぷりも短いながらなかなか楽しかったですし、ここが悲壮だからこそラストのイズとのゼロワン・ゼロツー揃い踏みもよりスカッとする名演になっていたと思います。
あと忘れてはいけないのが、伊藤英明さん演じるエスの存在。
どう考えても山崎鉱菜さん(TOHOシネマズの新作紹介でよく見る人)とは見た目の年齢が合わないだろというツッコミどころは置いておいて、このキャラクターはやはり伊藤英明さん力でかなり魅力がプラスされているように感じました。
若い頃は野村萬斎さんの『陰陽師』シリーズなどに出ていましたが、顔と佇まいがカッコよすぎるのでどう転んでも強そうにしか見えませんよね。
全体的に「これが観たかった!」という意見がTwitterなどでも見られるように、キャラクター達が活き活きと80分間動き回っていたのは間違いなくこの映画の白眉でしょう。
・こんな時代だからこそではある新設定、「シンクネット」
ビジュアル面の迫力、役者さんの演技、キャラクターの描写と、全体として尺に余裕がある事もあって高水準でまとまっているように見える本作。
ただ、設定周りについては個人的には苦い顔をしたくなる部分がかなりありました。
それが、ある意味本作の一番の肝である、後半に来て初めて明かされる「シンクネット」という「破滅願望者の集まる闇サイト」の存在。
教祖であるエスに先導されたアバドン軍団は実際にはこのシンクネットの登録者達で、ライダーとして変身しているのはナノマシンでできた彼らのアバターという設定。
エスの本当の目的はこの破滅願望者達をこの世から消し去り、善良な者達を破壊から免れさせるため電脳空間に避難させるというものでした。
チラッと映るこのシンクネットの信者たち、リアルだとネカフェに籠ったオタクっぽい男だったり、泣きじゃくる赤ん坊を放置してネットに没頭する太めの女性だったり(アバターはロリータを着た美女)と厭な方面にまあ生々しく、「同情し難い悪」として描かれます。
「悪意」というものを扱ってきた『ゼロワン』において、「どこにでもありふれた悪意」こそが真の敵であるという着地はある意味では一番自然な形の到達点でもあり、「リアル」「社会派」という見方も散見され、一義的に評価されている部分でもあります。
……ただしかし、僕はこれに関してはあまりいい顔をできないと思いました。
そう思ったのにはいくつかポイントがありますが、まず「世界にのさばっている破滅願望者が共同の闇サイトに登録して破壊活動を行う」という設定が開示されるタイミングが結構遅いというのあります。
エスやアバドンの設定はこの劇場版で急に出てきたもので、始まってからかなり長い間彼らがどういう存在かよく分からないまま進んでいきます。
ある意味その謎が後半に向けた興味の持続になりうる面もあるのですが、そこでいきなり手前に何の前振りも無いネット世論の話題を切り出されても話が急に飛躍したようにしか見えません。この辺りは構成の歪さを感じた部分です。
そしてこれはものすごく言っておきたいのが、唐突に出てきた「破滅願望者」って何だよ……!という部分。
「悪意」もそうなんですが『ゼロワン』という作品、劇中で扱われる「良からぬ事」がやたら抽象的な割に起こっている出来事は結局直接的な破壊行動という、妙な極端さがあります。
しかも本作、最終的にはエスは或人に説得されて恋人のいる電脳空間に向かい、アバドン軍団とその代表が変身した仮面ライダールシファーが最後の敵として立ちはだかるのですが、ラストバトルの相手である筈の彼らに全く魅力が無いのもかなりモチベーションが下がりました。
ライダー達の勢揃いや、イズのゼロツーと或人のゼロワンコンビの戦いなど味方側の見せ場は十分にあるので決して見応えが無いわけではないものの、敵が大して強くもなくキャラクターとしても「村人A」ぐらいの域を出てくれないので絶妙に盛り上がりにくい。
伊藤英明が魅力的に映りすぎてしまうというポイントを差し引いても、せめて代表的な信者のキャラ造形はもうちょっと描き込んでほしかったです。
ネット言論を扱った点と遠隔操作で戦えるライダーという設定はこの時代ならではという感じで面白いアイデアではあるのですが。
……あとこれは多くの人が指摘しているポイントですが、本作、事の発端を辿ると重大な問題点がやはり1つ浮かび上がってしまいます。
それが本編から続く「天津垓問題」。
天津垓/仮面ライダーサウザーが作品の主な敵である「アーク」に人間の悪意をラーニングさせたのに、その件の扱いが異常に軽いという問題です。
今回は終始味方として立ち回っているので気付きにくいですが、エスが今回の事件を起こしたきっかけも結局アークの仕業だと考えると、天津垓の扱いの軽さが異常に引き立ってしまう構造になってしまっています。
「悪意」云々の話も天津の存在のせいで異様に矮小化されている部分があり、『ゼロワン』のストーリー上の大きな問題が放置されたままというのはどこかのタイミングでどうにかしてあげてほしいところです(まさかAIBOとサウザー課でどうにかしたつもりか公式は)。
メインキャラ周りの描写とアクション、本編を踏まえて「これが見たかった」というツボは間違いなく押さえている本作。
そういう意味では好評な意見にも頷けるのですが、僕は「シンクネット」周りの設定がかなり受け入れ難く、同時に勿体なくも感じたという意味で全てを肯定することはできないなんとも言えない気持ちを味わうこととなりました。
ただ『ゼロワン』のキャラクターが好きという方は観に行って損は無い作品だと思います。
まだ観ていないという方もいらっしゃったら是非ご覧ください。
……というわけで今年も大詰めとなりましたが、あと1、2本は映画を観たいのとランキングを作りたいという思いがあります。
これを読んでくださった方、またお目にかかることがあったら是非クリックといいねをお願い致します。ほかならぬ筆者が喜びます。
それでは今回はここまで。
お相手は、たいらーでした。