港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!! -2ページ目

パワーハラスメント防止は法律としてスタートしています

今回は「パワーハラスメント防止は法律としてスタートしています」を解説します。

 

職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が2019年5月29日参院本会議で可決、成立しました。

 

これまで明確な定義がなかったパワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」などと明記されたのです。

 

企業に相談窓口の設置など新たに「防止措置を義務付ける」としました。

 

 

そして、職場におけるパワーハラスメントとは、次の3つの要素をすべて満たすものとなっています。

 

〇優越的な関係を背景とした

 

〇業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

 

〇就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)

 

この定義においては以下を明確しています。

 

○ 上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること

 

○業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には 該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること

 

そして、職場のパワーハラスメントについて、裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、次の6類型を典型例として整理しました。

 

なお、これらは職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要があります。

 

1.身体的な攻撃 → 暴行・傷害

 

2.精神的な攻撃 → 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言

 

3.人間関係からの切り離し → 隔離・仲間外し・無視

 

4.過大な要求 → 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害

 

5.過小な要求 → 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

 

6.個の侵害 → 私的なことに過度に立ち入ること

 

 

このパワハラについて防止措置義務を定めた部分の法律は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という長い名前の法律で、なじみのない法律です。

 

略して、「労働施策総合推進法」と呼ばれることもあります。

 

今後、パワハラについては、この法律を根拠として、様々な展開がなされることになります。

 

パワハラ問題でも、紛争解決のための調停が使えるようになったことも大きな改正点です。

 

労働者個人と使用者との間の紛争である個別労使紛争においては、行政機関の手続としては、現在、労働局で助言・指導が行われたり、「あっせん」という紛争解決手続が行われています。

 

これは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」を根拠に行われているのですが、これの特例が定められました。

 

まずは、「ハラスメントを知る」ことから全社的に始めましょう。

従業員同士の喧嘩で、会社に責任が及ぶのでしょうか?

今回は「従業員同士の喧嘩で、会社に責任が及ぶのでしょうか?」を解説します。

 

会社は従業員に対し「安全配慮義務」があります。

 

この安全配慮義務とは、従業員が安全で健康に働けるように配慮することで、労働契約法の第5条に定められています。

 

会社が安全配慮義務を怠ったことで、従業員に損害が生じてしまった場合、安全配慮義務違反となります。

 

しかし、職場での事件、事故について、「すべて」安全配慮義務が及ぶのでしょうか?

 

仮に従業員同士の「喧嘩」などのトラブルで、社内で発生した場合は会社の責任が「及ぶのか?及ばないのか?」ご相談をお受けすることもありました。

 

参考となる裁判があります。

 

<Y社事件 横浜地裁川崎支部 平成30年11月22日>

 

〇訪問介護をおこなう会社にAは友人の紹介で入社した。

 

〇Aは訪問介護スタッフとして働きはじめた。

 

〇訪問介護先に設置してある通信機器がつながらないと苦情が入り、先輩社員BとCがコンセントを確認して通信が回復した。

 

〇すると、Aが通信装置の使い方がわからず、うろうろしている様子が映し出された。

 

〇Bは、Aに対し、通信装置の操作方法を教えようとしたが、Aは「トラブルの原因はBがコンセントを確認しなかったのが原因

である」とし、両者の雰囲気は険悪となった。

 

〇その後、Aはこの件の報告書を作成しようとしており、責任はBにあるのでは?というようなニュアンスであった。

 

〇その報告書の作成している画面をBがのぞいたことでBはAに激高し、手を挙げた。  

 

〇AはBの暴行で12等級の後遺症等を負い、Bは罰金10万円の略式命令が下された。

 

〇その後、Aは会社に対し、使用者責任と安全配慮義務違反に基づき、損害賠償金約1,100万円を求めて裁判を起こした。

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇本件暴行による損害について、会社は損害責任を負わないとしました。

 

この結果によると、会社には「使用者責任も安全配慮義務も問題なし」というのが司法の判断となります。

 

なぜ、このような結果になったのか?この裁判の争点は「暴行は会社の事業の執行について行われたものか」ということです。

 

従業員の暴行が、会社の事業の執行についてされたかどうかは、この暴行が業務と密接な関連を有すると認められるかどうかによって判断されます。

 

今回のケースで、Bの業務上のミスを指摘したり、報告したりすることがAの担当業務であったか検討しました。

 

すると、Aの業務はオペレーション業務で、指導や教育については含まれずトラブルの報告も上司にしたわけはなかったのです。

 

そして、Aが主張する装置確認のミスそのものについてBがミスをおかしたとは考えられないのです。

 

よって、本件は業務として行われたことで、トラブルに発展したわけではなく、個人的な感情の対立、衝突にあるといえます。 

 

このように、事件、事故となった原因が「業務に起因」するか?しないのか?で会社の責任が大きく異なってきます。

 

休職期間が満了後、復職できない場合の対応について

 

今回は「休職期間が満了後、復職できない場合の対応について」を解説します。

 

社員の方が休職していて、満了の期間が迫っている場合の対応についてのご相談は多いです。

 

特に、精神疾患の場合は判断が難しく、また、「再発の可能性が高い」ので主治医の診断のみで判断できない場合も多くあるのです。 

 

復職に関する労務管理で一番心配なことは、「復職後の精神疾患の再発のリスク」についてです。

 

うつ病などの精神疾患の症状が再発してしまうと、「職場の人間関係の悪化」「休職を繰り返すことによる業務への悪影響」「会社責任として労災請求される」「 不当解雇などでの訴訟リスク」など、様々なトラブルに発展することもあります。

 

もし、「休職期間満了しても、厳しい」となった場合は「退職」となるのです。

 

これに関する裁判があります。

 

<東京電力パワーグリッド事件 東京地裁 平成29年11月30日>

 

〇社員Aは技術系社員として入社した。

 

〇現場部署に配属されるも記憶定着度が低く、手順の判断も弱かった。

 

〇Aは異動となり、社外折衝が少ない部署となったのですが、業務手順が理解できず、仕事で納期に間に合わない等が発覚した。

 

〇Aは産業医と面談し、人前で緊張するのが気になるので、産業医のすすめでクリニックに通院するようになった。

 

〇Aは心身の状況が悪化し、半分位しか出勤できなくなり療養休暇取得後、休職となった。

 

〇Aは「リハビリプログラム」への通所を開始したが、出席率が復帰可能な数値に足りず、休職に至る過程への自己分析も不足し

ている等から復職可能な状態にないと判断される。

 

→産業医面談で、Aは休職の原因が「逆流性食道炎である」と説明し、精神疾患の認識が欠如している

 

〇Aは主治医より、就労可能との意見書及び診断書を提出し、復職を申し入れた。

 

〇会社のメンタル専門医はAの病識の欠如が甚だしく、振り返りが不十分として復職不可とする意見書を提出し、産業医も、復職不可とする意見書を提出した。

 

〇Aは休職期間満了で退職となったため裁判を起こした。

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇休職事由は消滅しておらず、退職は有効である(会社側の主張が通った)。

 

この裁判では「休職の事由が消滅したか否か?」がポイントとなります。

 

Aの健康状態について、休職不良の原因が消化器系の疾患ではなく、精神疾患であるにもかかわらず、対人関係のリハビリプログラムの状況が悪かったのか確認されています。

 

また、休職期間満了時においても、休職の原因は精神疾患ではなく消化器系の疾患であると、自己認識に固執し、休職の原因となった病識が欠如していました。

 

そのため、自己のストレスの対処法について、十分な考察ができていないと判断されたのです。

 

また、他の部署への異動も厳しいと判断されています。

 

復職について、主治医の判断と産業医の判断が分かれても会社が総合的医判断し、結論を出すことがポイントです。

 

雇用契約と請負契約の違いについて

今回は「雇用契約と請負契約の違いについて」を解説します。 

 

まず雇用契約ですが、契約を結んで就労する場合には、会社と従業員との間に指揮命令権などが発生することになります。

 

そして、労働関係の法令における「労働者」に該当することになり、そのため、労働関係の法令による保護を受けて業務を行うこととなるのです。

 

それに対し、請負契約では会社と請負人との間に指揮命令権などが発生しません。

 

これにより、労働関係の法令における「労働者」に該当せず、労働関係の法令による保護を受けることができなくなります。

 

雇用契約で人を使えば、厳しい労働関連法の保護が適用され、会社の負担が大きくなります。

 

しかし、請負契約なら、労働関連法の保護が適用されず、また、結果で仕事を判断されるだけなので、事業主にとっては「使い勝手がいい」と考えらえます。

 

 

労働基準法等の規制を免れるために、偽装するため、このような請負契約が使われている場合があります。

 

しかし、契約の名目にかかわらず、また、受注者自身が雇用契約でないことについて納得して、委任契約書や請負契約書が締結されたとしても、労働者かどうかは、あくまで、実質的に判断されます。

 

この労働者か?否か?の判断要素ですが、以下に掲げるもので判断します。

 

【労働者と判断されやすい要素】

 

1. 指揮監督下の労働といえるか

 

・受注者に仕事の依頼・業務従事の指示などに対する諾否の自由がない

 

・会社が受注者に業務の具体的内容及び遂行方法に関する指示を行っている

 

・会社が、受注者の業務の進捗状況等を管理し、受注者に逐次報告させること等により把握している

 

・勤務場所・勤務時間を定めている

 

・業務の代替性がある

 

2. 報酬が労務の対価で設定されているか

 

・報酬が時間給を基礎として計算されるなど、労働の結果による報酬の格差が少ない

 

・欠勤時に欠勤分の報酬が控除される

 

・残業時に通常の報酬以外の手当が支給される

 

3. 事業者性がないといえるか


・会社が業務に必要な機械・器具等を所有し、受注者に貸し出している


・受注者が独自の商号を使用していない

 

・受注者が業務遂行上の損害に対する責任を負わない

 

・他社の業務に従事することが禁じられていたり、従事することが困難である

 

・報酬に固定的部分があったり、業務の配分等により事実上固定給となっている、その額も生計を維持し得る程度のものであるなど、生活保障的要素が強い

 

・労働保険の適用対象としている、退職金制度を適用している、福利厚生制度を適用している

 

 

この判断は形式的に契約書が「請負契約」となっていても、「すべて」実態で判断されてしまうのです。

 

特に、個人に発注している業務に関しては、実質は雇用契約と判断されかねないものが多く、問題となった場合に予想外の多大なリスクを負うことになります。

 

就業規則の周知

今回は「就業規則の周知」について解説いたします。

 

就業規則の周知は、会社にとって非常に重要です。

 

以下は、効果的な就業規則の周知に関する一般的なアプローチとなります。

 

〇印刷: 就業規則を印刷し、従業員が参照できる形で配布します。従業員が就業規則を理解しやすくするために、明確で簡潔な言葉を使い、必要な場合には図や例を含めることが重要です。

 

〇トレーニング: 全ての新規従業員に対して、入社時に就業規則を読んで理解することを義務付けます。新規従業員トレーニングの一環として、就業規則の内容や重要なポイントについて従業員に説明します。

 

〇定期的な再確認: 就業規則の内容や変更点を定期的に再確認し、従業員に周知します。変更があった場合は、変更内容を明確に伝えるために従業員に通知します。

 

〇コミュニケーション: 従業員に対して、就業規則に関する質問や疑義を解決するためのコミュニケーションチャネルを提供します。従業員が就業規則に関する疑問や懸念を遠慮なく提起できる環境を整えます。

 

〇罰則と執行: 就業規則に違反した場合の罰則や処罰の明確な方針を示し、違反があった場合には厳格に執行します。一貫した執行により、従業員は就業規則を守ることの重要性を理解し、遵守するよう促されます。

 

以上の手順を踏むことで、従業員が就業規則を理解し、遵守することが期待される状況を整えることができます。

 

個別に締結する労働契約では詳細な労働条件は定めずに、就業規則で統一的な労働条件を設定することが働くルールをスムーズに運営できます。

 

労働契約法7条は、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合でも、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充し、労働契約の内容を確定する(平24・8・10基発0810第2号)としています。

 

合理的な内容の就業規則を周知していれば足り、本人が実際に読んだかどうかは関係がありません。

 

周知の方法は労基法に基づく3つの方法に限られません。

 

一方で、労契法とは別に、使用者は、労基法に基づき就業規則等を周知する義務を負います(労基法106条)。

 

労基法の周知は、3つの方法(労基則52条の2)に限られています。

 

労働者の請求があった場合に見せる方法でも備え付けているものと解して良いかについて、これまでの行政解釈(平11・3・31基発169号)では、「労働者が必要なときに容易に確認できる状態にあること」が必要としていました。

 

令和6年4月から、労働条件の明示に関するルールが変更されました。

 

労働契約関係の明確化等に関する行政解釈(令5・10・12基発1012第2号)で、周知の要件に追加がありました。

 

具体的には、使用者は、就業規則を備え付けている場所等を労働者に示すこと等により、就業規則を労働者が必要なときに容易に確認できる状態にする必要があるとしています。

 

厚生労働省のモデル労働条件通知書には、「就業規則を確認できる場所や方法」を記載する欄が設けられました。労働局が示す例として、社内イントラネットに掲載、共有フォルダに格納する等の方法が挙げられています。

 

 

障害者雇用と労災認定の関係とは?

今回は「障害者雇用と労災認定の関係とは?」を解説します。

 

令和6年4月から障害者の法定雇用率が引き上げになりました。

 

民間企業で、2.5%に変更となっております。 

 

昨年の法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない民間企業の事業主の範囲が、従業員40人以上に変わったのです。

 

このように、障害者雇用について、法的に該当する企業は本格的に取り組まないといけないのです。

 

障害者がごく普通に地域で暮らし、共生できる社会の実現をするために法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があるのです。

 

現実的には法定雇用率を満たすことが難しい企業も多数あります。

 

しかし、頑張って採用活動を行っている企業も本当に多くあるのです。そんな中、障害者を雇用した後、労働者の障害という状況について、「どのようなケアが必要なのか?」とご相談をお受けすることがあり、ケースバイケースとは言え、参考となる裁判例がありました。

 

<国・厚木労基署長(ソニー)事件 東京高裁 平成30年2月22日>

 

〇Aは身体障害者等級6級で、脳原性上肢障害であった。

 

〇Aは適用障害となり、自殺した。

 

〇遺族は「上司によるパワハラ」「退職強要」「配置転換」「長時間労働」等でうつ病を発症し、自殺したと主張した。

 

〇Aの自殺について、遺族は労災申請を行ったが、労基署長は遺族補償給付等を支給しない処分を下した。

 

〇これを不服とし、遺族は国に対し、処分の取り消しを求めた。

 

〇第一審は、Aの精神障害発症と業務起因性を認めなかった。

 

〇第一審の判断に遺族は不服であり、控訴した。

 

そして、高裁の判断は以下となったのです。

 

〇Aのうつ病の発症と自殺について、業務起因性を認めることはできない。

 

→遺族の主張が通らなかった

 

この裁判を詳しくみてみましょう。

 

まず、労災保険法に基づく保険給付についてです。

 

支給される前提として、「客観的に業務に内在する危険性が実現したことに対する給付」ということです。

 

つまり、危険なことが起こる可能性があり、起きてしまったことが給付の対象ということなのです。

 

労働者の障害という事実を「業務に内在する危険とみなすことはできない」というのがこの裁判の判断であり、また、「障害の事実を考慮に入れる」こともできないとしたのです。

 

障害を持つ労働者に、障害によって業務が軽減されていたときは、その軽減されていた業務に内在するリスクが「実現」したときに労災の対象となる可能性があるのです。

 

労災認定については、一般的な労働者が日常業務を行うにあたり、その危険性を一般的にどのように受け止めるかという観点から 判断されるべきなのです。

 

被災労働者本人を基準として判断するものではないということが明確になったのです。

 

 

定年後再雇用の給与についてご質問はありますか?

今回は「定年後再雇用の給与についてご質問はありますか?」を解説します。

 

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差がいろいろな場面で問題となっています。 

 

平成30年6月1日、最高裁で判断された長澤運輸事件では、定年前と定年後で同じ業務に従事している従業員の賃金減額が2割程度減額となった状態で、裁判では容認されています。

 

この判決後に「これが基準となりますか?」「もっと減額されているケースを知っていますが、違法ですか?」「定年前と後の給与水準の違いはどの程度認められるのですか?」等のご相談をお受けしており、現在も続いています。

 

確かに、定年後の働き方については個人毎に考え方も違い、一概に賃金だけの問題ではありません。

 

実際に定年後の再雇用契約について、契約の内容は双方の合意によって定められるのです。

 

だから、賃金が〇%ダウンだから合法、違法と言う話ではありません。

 

しかし、多くの社長から「何%ダウンなら法的にОKですか?」と質問をお受けします。

 

これに関する裁判があります。 

 

<日本ビューホテル事件 東京地裁 平成30年11月21日>

 

〇社員Aは支配人となり、55歳で役職定年、60歳で定年退職となった。

 

〇Aは定年後再雇用として会社の有期嘱託社員となった(その後、賃金は段々と下がっていった)。

 

〇賃金は定年前の約50%となった。

 

〇Aは、有期労働契約である嘱託・臨時社員の賃金額と無期労働契約である定年退職前の正社員の賃金額との相違は、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違であると主張した。

 

〇Aは労働契約法20条に違反するとして、会社に対し、不法行為による損害賠償請求として定年退職前後の賃金の差額相当額約688万円等の支払いを求めて、訴えを提起した。

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇Aの定年退職時の年俸の月額と嘱託社員及び臨時社員時の基本給及び時間給の月額との相違が不合理であると認めることはできない。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

労契法20条は、有期契約労働者と比較対照すべき無期契約労働者を限定しておらず、比較対照し、他の正社員の業務内容や賃金額等は、その他の事情として総合的に考慮するのが相当としたのです。

 

役職定年後かつ定年退職前のAの業務は、人事考課等に影響する 売上目標を課せられるという状況で営業活動業務に加え、非ラインの管理職として支配人等のラインの管理職を補佐する地位であった。

 

そして、顧客からのクレーム対応などの相応の責任を伴う業務もその内容となっていた。

 

一方で、定年退職後の業務は、営業活動業務のみに限定され、しかも売上目標が達成できない場合には人事考課等に影響するという人事上の負担が正社員よりも軽減されていたのです。

 

つまり、業務内容及びその責任の程度は大きく異なっていました。

 

さらに、託社員及び臨時社員については、配転の実績がなかったのです。

 

定年前後の賃金について、単に割合だけの問題ではなく、内容もポイントとなるのです。

 

ブラック企業とネットに書かれた場合、削除命令はできますか?

今回は「ブラック企業とネットに書かれた場合、削除命令はできますか?」を解説します。

 

 

今やネットの書き込みでメディアも報道するという状況で、企業の風評なども書き込みに左右される時代となりました。

 

ネット誹謗中傷記事を削除させるにはいくつかの方法があり、それぞれメリットデメリットがあります。

 

では、ネット誹謗中傷記事、投稿を削除させる3つの方法をご紹介します。

 

1.自分でもできる方法

 

2.弁護士に依頼する方法

 

3.専門業者に依頼する方法  

 

自分で行う場合は、費用等は押さえられますが、新たな「炎上」が考えられます。弁護士に依頼する場合は、費用がかかりますが、法的に効果が望めます。

 

専門業者に依頼する場合は、「送信防止措置依頼書」をサイト管理者や運営会社に送る方法があります。

 

送信防止措置依頼書とは、権利を侵害する内容のネット投稿がある場合、投稿による情報発信を停止することをプロバイダやサイトの運営者に要求するための依頼です。

 

この方法は「プロバイダ責任制限法」という法律で認められています。

 

プロバイダ責任制限法では、名誉権やプライバシー権などの権利侵害を受けた被害者は、情報発信者に対して「送信防止措置」を求めることができるのです。

 

その権利を実現するために、プロバイダやサイトの運営者に対し、書面で削除請求を申し入れることができるのです。

 

これに関する裁判があります。

 

<プラネットシーアール事件 長崎地裁 平成30年12月7日>

 

〇働いていた社員Aが、上司によるパワーハラスメントなどで適応障害になった。

 

〇そして、休職を余儀なくされたなどとして、上司と会社に対して、未払いの賃金や損害賠償などを請求するため裁判所に訴えた。

 

〇損害賠償額はおよそ2,500万円。

 

〇この訴訟継続中にAはフェイスブックにハッシュタグをつけてパワハラ、長時間労働、賃金未払、不当解雇として公開した。

 

〇会社はフェイスブックページを完全に削除すること、Aに対し、懲戒処分を検討しているとし、弁明や謝罪があれば1週間以内

に提出することとした。

 

→ Aは「嫌がらせ目的である」と主張

 

〇裁判では、会社がAに出した文書が不法行為となるかも争われた。

 

そして、裁判所の判断は以下となったのです。

 

〇会社の責任を全面的に認めた。

 

〇そして、休職前の損害賠償約250万円を含む計約2,000万円の支払いを命じた。

 

〇フェイスブックページの記載について、会社がブラック企業と思われる記載で、社会的評価が低下するので、削除依頼、懲戒事由 に当たるとの主張は根拠を欠くものではないと判断された。フェイスブックページへの削除依頼や懲戒事由に該当するというのは「嫌がらせ行為」とは認められないと判断しました。

 

 (元)社員と会社がトラブルとなり、その内容等をSNS上に公開することはよくあることです。

 

そして、これにより会社側の社会的評価が低下されます。

 

削除依頼等に関してはこのような観点から理解されているのです。

 

アルバイトにも賞与を支給しないといけませんか?

今回は「アルバイトにも賞与を支給しないといけませんか?」を解説します。

 

働き方改革関連法がスタートしました。

 

その中で同一労働同一賃金の施行時期は大企業で2020年4月、中小企業で2021年4月ということですが、賃金ということで「今から準備を」という会社が少なくありません。

 

不合理な差は、「今のうちに解消する」という準備を行う会社が多くあるのです。

 

そこで、同一労働同一賃金についてみていきましょう。

 

多くの方から、「正社員とパート、アルバイトを同じ賃金水準にするのか?」「パート、アルバイトにも賞与を支給しないと違反なのか?」等のご質問が多いです。

 

まず、賃金水準を同じにしないといけない場合は、業務内容、責任の程度等が同じの場合です。

 

この場合は同じ待遇が求められます。

 

しかし、業務内容、責任の程度が異なる場合、内容に見合ったバランスの取れた待遇差が求められるのです。

 

これに関する裁判があります。

 

<学校法人 大阪医科薬科大学事件 大阪高裁 平成31年2月15日>

 

〇医科大学のアルバイト職員Aは有期雇用として働いていた。

 

〇Aは正職員とアルバイト職員との間での処遇差が労働契約法20条に違反するとして裁判を起こした。

 

〇相違の内容は基本給、賞与、休日、年休の日数、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置

 

〇不法行為に基づき、差額に相当する額約1,200万円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

 

〇大阪地裁は請求のいずれも棄却したが、Aは控訴した。

 

そして、高裁は以下の判断を行ったのです。

 

〇労働条件の処遇差は不合理と認められる。

 

→約109万円の損害に対する支払いと遅延利息の支払い命じられた

 

基本給は業務責任等の差があり、賃金水準に一定の相違が生じても問題ないと判断されたのです。

 

この相違は約2割程度でした。

 

しかし、正職員とアルバイト職員の賞与支給に関して、アルバイト職員に「全く支給しないということは不合理である」と判断されたのです。

 

契約職員は正職員の約80%を支払っていることからすれば、アルバイト職員の賞与の支払基準は60%を上回る設定が合理的と考えられるという結論になったのです。

 

その他、夏期冬期休暇、私傷病による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置等が不合理とみとめられ、支払い命令となったのです。

 

この大阪高裁の裁判結果について、報道各社が報じたのが、「アルバイトへのボーナス不支給は違法」「アルバイトに賞与を支払わなければならないのか」等でした。

 

裁判の詳細よりも「インパクト」のある情報を全面に出し、気を引いた形となっています。

 

しかし、「アルバイトにも賞与を払わないといけない」ということではなく、「職員、契約職員、アルバイト職員に対し、バランスの取れた待遇を行いましょう」という結論なのです。

 

報道に引っ張られて、無駄に不安に陥る必要はないので、注意しましょう。

 

 

指導とパワハラの境界について

今回は「指導とパワハラの境界について」を解説します。

 

パワハラ(パワーハラスメント)とは職場内で優位に立つ者が、相手の人格や尊厳を傷つける行為や言動を繰り返し行うなどして、相手に精神的な苦痛を与えることをいいます。

 

しかし、業務上、部下を指導することは必要なことなので、厳しい指導がすべてパワハラと判断されることはありません。

 

時には、部下に対して厳しい言葉をかけることは、上司として必要な場合も多々あります。

 

よって、即パワハラであると判断されることはありません。

 

 

パワハラと指導、教育の線引きはとても難しく、その時の状況に応じて慎重に判断せざるを得ません。

 

なかには「ミスを叱っただけだ」「能力不足の社員を、指導しただけだ」というつもりでも、パワハラだと申し出を受けることがあります。

 

だからといってパワハラだと指摘されることを恐れて指導ができなくなってしまっては、本末転倒といえます。

 

パワハラか?指導か?の境界線がわかる裁判があります。

 

<ゆうちょ銀行事件 徳島地裁 平成30年7月9日>

 

〇Aは貯金事務センターに異動となった。

 

〇Aは書類作成のミスが度重なり、上司らから強い口調の叱責を繰り返された。

 

〇Aは赴任後数か月で異動を希望し続けていた。

 

〇貯金事務センター赴任後の2年間で体重が15キロ減少していた。

 

〇係長Bは体調不良のAを気にかけていた。

 

→BはAが死にたがっていたことを知らされていた

 

〇Aは自宅で自殺し、遺族は「パワハラを受けて自殺した」と主張し、裁判を起こした。

 

そして、裁判所の判断は以下となったのです。

 

〇上司らのパワハラは確認できなかった。

 

→叱責等は業務上の指導の範囲を逸脱していなかった

 

→社会通念上違法というレベルではない

 

〇会社はAの体調不良を知るべき状態でもあり、また、一時的に担当業務を軽減したのみで、その他の対応はしなったため、安全配慮義務違反があった。

 

→損害賠償6,142万円が認められた

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

Aに対し、上司らは強い口調の叱責を繰り返していました。

 

そして、呼捨てにするなどして「指導」として相当性に疑問があると裁判所も判断しました。

 

しかし、部下の書類作成のミスを指摘し、その改善を求めることは上司の業務です。

 

叱責が結果的に日常的に継続したのはAが頻繁に書類作成上のミスを発生させたためだからです。

 

具体的な上司らの発言内容について、人格を非難したものまで及ぶとまではいえなかったのです。

 

以上から、叱責が業務上の指導の範囲を逸脱して、社会通念上違法なものではないと判断されたのです。

 

パワハラを法的に線引きすると被害者に対し、「身体的侵害」「名誉に対する侵害」「人格権などへの侵害」などに不法行為責任が生じるということですので、この部分をしっかりと理解しましょう。