従業員同士の喧嘩で、会社に責任が及ぶのでしょうか?
今回は「従業員同士の喧嘩で、会社に責任が及ぶのでしょうか?」を解説します。
会社は従業員に対し「安全配慮義務」があります。
この安全配慮義務とは、従業員が安全で健康に働けるように配慮することで、労働契約法の第5条に定められています。
会社が安全配慮義務を怠ったことで、従業員に損害が生じてしまった場合、安全配慮義務違反となります。
しかし、職場での事件、事故について、「すべて」安全配慮義務が及ぶのでしょうか?
仮に従業員同士の「喧嘩」などのトラブルで、社内で発生した場合は会社の責任が「及ぶのか?及ばないのか?」ご相談をお受けすることもありました。
参考となる裁判があります。
<Y社事件 横浜地裁川崎支部 平成30年11月22日>
〇訪問介護をおこなう会社にAは友人の紹介で入社した。
〇Aは訪問介護スタッフとして働きはじめた。
〇訪問介護先に設置してある通信機器がつながらないと苦情が入り、先輩社員BとCがコンセントを確認して通信が回復した。
〇すると、Aが通信装置の使い方がわからず、うろうろしている様子が映し出された。
〇Bは、Aに対し、通信装置の操作方法を教えようとしたが、Aは「トラブルの原因はBがコンセントを確認しなかったのが原因
である」とし、両者の雰囲気は険悪となった。
〇その後、Aはこの件の報告書を作成しようとしており、責任はBにあるのでは?というようなニュアンスであった。
〇その報告書の作成している画面をBがのぞいたことでBはAに激高し、手を挙げた。
〇AはBの暴行で12等級の後遺症等を負い、Bは罰金10万円の略式命令が下された。
〇その後、Aは会社に対し、使用者責任と安全配慮義務違反に基づき、損害賠償金約1,100万円を求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇本件暴行による損害について、会社は損害責任を負わないとしました。
この結果によると、会社には「使用者責任も安全配慮義務も問題なし」というのが司法の判断となります。
なぜ、このような結果になったのか?この裁判の争点は「暴行は会社の事業の執行について行われたものか」ということです。
従業員の暴行が、会社の事業の執行についてされたかどうかは、この暴行が業務と密接な関連を有すると認められるかどうかによって判断されます。
今回のケースで、Bの業務上のミスを指摘したり、報告したりすることがAの担当業務であったか検討しました。
すると、Aの業務はオペレーション業務で、指導や教育については含まれずトラブルの報告も上司にしたわけはなかったのです。
そして、Aが主張する装置確認のミスそのものについてBがミスをおかしたとは考えられないのです。
よって、本件は業務として行われたことで、トラブルに発展したわけではなく、個人的な感情の対立、衝突にあるといえます。
このように、事件、事故となった原因が「業務に起因」するか?しないのか?で会社の責任が大きく異なってきます。