港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!!
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退職勧奨を拒否した後の注意点

今回は「退職勧奨を拒否した後の注意点」を解説します。

 

退職勧奨とは、会社が従業員を退職させるために退職を勧めてくることです。

 

最終的に会社をやめるかどうかの判断は、従業員が判断するので、退職勧奨は解雇とは法的な意味合いは異なりますが、後々トラブルにも発展しかねません。

 

よって、多くの会社は解雇というカードを切らずに「退職勧奨」を実施するのです。退職勧奨に応じるか否かは、従業員本人の自由で、たまに拒否される従業員もいます。

 

そんなとき、「どのように対応したらいいのか?」とご相談をお受けすることがあります。

 

この場合、「既存の部署で、今までの業務を担当させてください」と話しますが、その後の対応も含めて、会社はいろいろ考えてしまうようです。

 

これに関する裁判があります。

 

<フジクラ事件 平成31年3月28日>

 

〇会社は社員Aに対し、「早期退職優遇制度」を利用して退職するようにすすめてきた。

 

〇Aは会社の退職勧奨を拒んだ。

 

〇会社はAを含む退職勧奨を拒んだ社員を人事・総務部分室に配転し、「出向先を探す」指示・命令を出した。

 

〇Aはこれに従わなかった。

 

〇会社はAに対し、年1回の人事評価で7段階中最低となった(月給が大幅減額)。

 

〇その後、Aは人材開発室に配転する命令を下した。

 

〇Aは「うつ病ないし適用障害」を理由に21日間欠勤をしたため、医師の診断書を求めたが、拒否された。

 

〇会社はAに、質問事項への回答を求めたが、これも拒否された。

 

〇会社はAを解雇とし、Aは配転命令や解雇無効を訴え、裁判を起こした。

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇解雇は無効、減額分の差額支払が認められた。

 

詳細は、会社の退職勧奨を拒んだ社員全員を人事・総務分室に異動させ、ほとんどの社員を人事評価で7段階中最低のD評価としたのです。

 

このことで、「人事評価の正当性に疑問が残る」としたのです。

 

さらに、人事に係る指示に違反したこと、欠勤の状況について 解雇事由を基礎づけると言えるものではないと判断したのです。

 

以上により、裁判所は解雇無効、差額支払いを命じたのです。

 

 

退職勧奨を拒否した者への対応は難しいと考えられることが多いです。

 

特に解雇の要件を満たしていない場合、退職勧奨で「辞めていただく」ことを選択する会社は多いでしょう。

 

しかし、退職勧奨は「退職を従業員にお願いする」だけで、受けるも、断るも従業員次第となります。

 

だから、拒否した社員の取り扱いについても事前に想定しておかないといけないのです。

 

特に人事評価について、「退職勧奨を拒否したから評価を下げた」は通用しないということが、事例の裁判からもみられます。

 

退職勧奨の前でも厳正な評価を実施し、「勤務態度が悪い」、「パフォーマンスが低い」等であれば、その都度、対応を検討しなければなりません。

 

非正規社員にも賞与が必要になります?

今回は「非正規社員にも賞与が必要になります? 」を解説します。

 

同一労働・同一賃金の対応についてご質問の多い「賞与」について解説いたします。

 

「パート社員にも賞与?」と感じられる方が多いと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?

 

今まで、契約社員、パート社員等は「時給」で、賞与や退職金は「当然に支払わない」と考えられてきました。

 

しかし、非正規社員と正社員との「差」を禁じた労働契約法ができ、さらに2020年4月からはパート・有期労働法で、強制力を持った形で法改正がスタートしています。

 

それに先駆けて、正社員と非正規社員の処遇の差が「違法」ではないかという裁判が多く出てきたのです。

 

特に賞与については支払いの判断が下されたものがあります。

 

<大阪医科薬科大学事件 大阪高裁 平成31年2月15日>

 

〇有期アルバイト職員が、正職員との差額賃金(賞与含む)を請求した(基本給の差額、賞与の差額等で1,038万円を請求)

 

〇地裁の判断は「すべての相違は不合理ではない」と判断された

 

〇裁判は上告されました。

 

そして、高裁は以下の判断を下したのです。

 

〇基本給について、不合理ではない(差があっても問題ない:異なる賃金制度のため)

 

〇賞与について、アルバイト職員について、年齢、成績、会社業績にも一切連動していないことからすれば、功労の趣旨での砕石に対する対価と認定。

 

〇賞与は正職員の60%は支払うべき  

 

以上となったのです。

 

また、賞与に関連する裁判が以下です。

 

<井関松山製造所事件 松山地裁 平成30年4月24日>

 

〇契約社員が「正社員との処遇差が違法ではないか?」と裁判を起こした

 

〇問題となる差異は賞与、家族手当、住宅手当等であった

 

〇賞与は正社員35万円から38万円で、契約社員は寸志5万円程度であった

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇賞与について、賃金後払い、功労報償、将来の労働に対する勤務奨励と複合的な性質である

 

〇正社員と契約社員では、業務責任が一定程度相違しており、また、配置変更範囲の相違があることや、寸志が支払われていたり、正社員登用制度があることから不合理ではない。

 

〇賞与の差異については違法ではないと判断された。

 

この2つの裁判をみてみると正社員と非正規社員の違いは、「長期雇用を前提として将来に中核的な責任を担うことが期待される正社員に対し、賞与を手厚く支給すること」は当然と考えらえます。

 

さらに、正社員の定着を図るための施策として一定の合理性があるという考え方です。

 

よって、賞与の格差が、「将来企業の中核を担う正社員定着のための施策」として合理的に説明がつく場合は、正社員と非正規社員の間に賞与の格差があっても問題ないでしょう。

 

とはいえ訴訟リスクを回避するためには非正規社員に「寸志」の賞与支給をおすすめします。

 

残業時間はどのように算定されるのでしょうか?

今回は「残業時間はどのように算定されるのでしょうか?」を解説します。

 

法改正により、残業時間の上限規制が厳しくなりました。

 

残業して、当たり前の職場だと、上記の規制を逸脱する可能性があります。

 

これに伴い、「残業時間を短くしないと・・・」ということで、多くの会社がこの問題に取り組んでいます。

 

そして、よくご相談があるのが、そもそも「労働時間の算定はいつからか?」というものです。

 

特に、「出勤簿で管理」している、「出退勤は手書きで管理」という状況では、「客観的なデータで管理しなさい」と労働基準監督署から指導が入ることは間違いありません。

 

しかし、過去の分で、残業の算出をするためにはどんな方法があるのでしょうか?

 

 

これに関する裁判があります。

 

<ジー・イー・エス事件 大阪地裁 平成31年2月28日>

 

〇製造部長だった元従業員が「自分は管理監督者に該当しない」と主張し、割増賃金を求め、裁判を起こした。

 

 そして、裁判所は以下の判断を下しました。

 

〇元従業員は、労務管理の権限を有していないので、管理監督者には当たらない。

 

〇未払い残業の支払いを命じた。

 

この裁判は「管理監督者か否か?」がポイントではあったのですが、業務の終了の認定が問題となったのです。

 

そこで、元従業員は「妻への帰宅メール」と「妻のメモ」で業務終了の時刻を主張しました。

 

ここを詳しくみてみましょう。仕事を終えて帰宅のため自動車に乗るまでのごく短時間の間に、妻に送信していたメールは…、配偶者に帰宅時間を知らせる趣旨のものであるといえると裁判所は認めたのです。

 

そして、メールの内容自体、これを受信する配偶者のみにその意味を理解させる目的で送信されたもので、ことさら虚偽の終業時刻を記録する意図で送信されたものではないとしました。

 

さらに、メールの送信時刻は人為的な操作を加えることができないものです。

 

よって、他に客観的証拠が見当たらないので、配偶者に対するメール送信時刻は、終業時刻認定の根拠として十分に信用できるとしたのです。

 

一方、元従業員の妻の手帳に記録した時刻については、手帳の記録自体は「多くの期間について手書きでなされたもの」「労働時間を記録し始めたきっかけは特にない」「何らかのきっかけで労働時間を記録しておくことが大事だと知ったために記録を始めた旨述べていること」により、記載内容上の正確性が担保されておらず、内容の確認がなされていないので労働時間の認定に用いるに足る内容上の信用性があるということはできないとしたのです。

 

 

裁判における労働時間の認定は、「タイムカード」「ICカード」等の客観的な証拠がある場合はそれをもとに算出されます。

 

これがなければ「本人記載の日報」「本人のメモ」などは機械的正確性を欠くため、その信用性が吟味されます。

 

事例の裁判では、妻に帰宅を知らせるメールという目新しい事例ですが、証拠価値を肯定し、それに基づき終業時間を認定したものです。

 

今後はメール等の送信での時刻についても重要性が増してくるでしょう。

 

未払賃金の指摘をされても、払わないことはできるのか?

今回は「未払賃金の指摘をされても、払わないことはできるのか?」を解説します。

 

未払いの賃金の請求についてのご相談はよくあります。

 

最も多いのは「残業代の未払い」についてで、まだまだ法律にあった支払い方が出来ていない会社も多くあるのです。

 

そのため、労働基準監督署から調査が入り、勧告を受けて是正しないといけないので「助けてほしい」というご依頼も多くあるのです。

 

先日、こんな相談をお受けしました。

 

「労基署から指摘された賃金債権を従業員に放棄してもらえば、未払い賃金の支払いは止めることができますか?」とのお問い合わせです。

 

賃金債権の放棄は法的に可能ですが、ハードルはかなり高いと考えらえます。

 

社員による賃金債権の放棄が有効といえるためには、意思表示が社員の自由な意思に基づくものであると認められる必要があります。

 

これに関すもので、次の裁判があります。

 

<シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件 最高裁 昭和48年1月19日>

 

〇社員が在職中の経費の使用について会社が疑惑を抱いた。

 

〇これによる損害の一部の填補として退職金を放棄する旨の意思表示をした。

 

〇退職金の放棄の有効性が問われたのです。

 

そして、最高裁は以下の判断をしました。

 

〇退職した社員について、放棄の意思表示は有効であると判断した。

 

これに対して、逆の判断が下った裁判もあります。

 

<北海道国際航空事件 最高裁 平成15年12月18日>

 

〇会社の経営危機に際し経営状態を説明して課長以上の役職者に賃金の減額を通告した。

 

〇社員は遡っての賃金減額は違法である等と抗議した。

 

そして、最高裁は以下の判断をしたのです。

 

〇社員が減額された賃金を受け取っていたこと等からすれば減額された賃金を受け取った時点で賃金減額には同意したと認めた。

 

〇賃金減額同意まで既に発生していた賃金については、自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない。

 

〇すでに発生した賃金債権は放棄の要件を満たさないとし、放棄を無効とした。

 

 

この2つの裁判をみても、その判断は個別の要因が大きく影響します。

 

会社側からの威圧等によって「賃金債権の放棄が強いられる」ということがあるかもしれません。

 

このような場合に、賃金債権の放棄が許されるとすると、社員等の権利が著しく侵害されてしまいます。

 

 

会社の威圧によって、弱い立場の社員等が真意でなく賃金をもらう権利を放棄せざるを得なくなるということは少なくありません。

 

したがって、安易に「労働者の意思に基づく賃金債権の放棄」を強いて、未払い賃金等の放棄が有効であるとはいえません。

 

そこで、労働者の自由意思に基づくものであるのか、それとも会社側の威圧などによってなされたものであるのかという点については慎重な判断が必要となるのです。

 

契約社員に休職制度を適用させないといけませんか?

今回は「契約社員に休職制度を適用させないといけませんか?」を解説します。

 

休職制度とは、業務外でのケガや病気(私傷病)で、一定期間仕事を休んで療養が必要な場合に、会社が労働義務を免除する制度となっています。

 

休職制度は「必ず定めなければならない」と法律で決められているものではありません。

 

よって、会社ごとに休職期間が設定されています。

 

就業年数によって休職期間に差を設けている企業が多いようです。

 

しかし、「休職制度は会社が自由に決められる」のでしょうか? 特に働き方改革で、「正規社員と非正規社員の処遇差をなくそう」ということを実施しなければなりません。

 

これに関する裁判があります。

 

<日本郵便(休職)事件 東京高裁 平成30年10月25日>

 

〇時給契約の期間雇用契約社員Aは約8年8ヵ月就労後、傷病で出社できず、6ヶ月後に雇止めとなった。

 

〇Aは「雇止めの無効」「ペイバック等の支払い」を求めて裁判を起こした。

 

〇原審(東京地裁 平成29年9月11日)は、時給契約の期間雇用契約社員の職務は、正社員と職務内容の違い、雇用の期間が異なる等の理由で、不合理な労働条件の相違ではないとした。

 

→法人側の主張が通ったが、その後、別の裁判、日本郵便(東京)事件で正社員と期間社員の病気休暇の相違が違反と判断された。

 

〇Aはこの判断に納得せず、控訴した。

 

そして、東京高裁は以下の判断を下しました。

 

〇不合理な労働条件の相違ではないとし、本件控訴の理由がないと棄却となった。

 

裁判の大きな争点は病気休暇と休職制度についてです。

 

前提となる労働条件は以下となっています。

 

〇正社員には勤続年数に応じて90日又は180日以内の有給休暇と最大3ヵ月の休職制度が認められる

 

〇時給制契約社員は無給の10日間の病気休暇しか認められない

 

この労働条件の相違が労働契約法20条(同一労働の正社員と非正規社員の労働条件に差をつけてはいけない)違反を主張されたのです。

 

原審では「時給制契約社員を含む期間雇用社員の職務内容や、職務内容の変更範囲や配置の変更範囲について相違が大きい」「正社員等には長期雇用の確保から休職制度を設けている」となっています。

 

この2点を挙げ、不合理な労働条件の相違とは認められないとしたのです。

 

そして、高裁では更に詳細な事実認定を行ったのです。

 

それは、正社員の中でも時給契約社員に近い一般職と比較し、業務内容、スキル、責任の範囲等を比べたのです。

 

その結果、業務内容については、大きな差異はないが、期待される習熟度やスキルについては違いがあり、責任の程度も異なることが認められました。

 

更に、一般職は転居を伴わない転勤があるが、時給制契約社員は、特定された職場及び職務内容での勤務なので、労働条件に関し一定の相違があると認められました。

 

さらに、時給制契約社員も傷病手当金の受給ができ、金銭補てんの治療が可能なので格差が不合理ではないとされました。

 

残業管理を徹底しないと・・・

今回は「残業管理を徹底しないと・・・」を解説します。

 

働き方改革関連法の目玉といわれる「残業時間の規制」は大企業、中小企業で、スタートする時期が異なります。

 

大企業は2019年4月からスタートしましたが、中小企業は2020年4月からスタートでした。

 

但し、なかなか浸透していない部分もあるので、再度復習です。

 

残業規制は以下となります。

 

【残業時間の規制】

 

〇残業時間の上限は、原則として月45時間、年360時間 臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

 

〇臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、

 

・年720時間以内

 

・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)

 

・月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。

 

〇原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで

となっております。

 

残業が常態化している会社は、厳しい規制となるでしょう。

 

しかし、この規制を守らないと刑事罰の適用となるのです。

 

この罰則は「事業主に30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が科せられる」という厳しいものとなっております。

 

このため、「残業を減らすにはどうしたら良いのか?」「労働時間のカウントそのものをどのように考えたらよいのか?」「残業管理をどのようにしたら良いのか?」などのご相談が多くありました。

 

 

この中でも「残業の管理」についてのご相談が多く、特に「社員が勝手に残業している場合、タイムカード時間でカウントしなくてはいけませんか?」ということが多かったです。

 

もし、あなたの会社が労働時間の管理をタイムカードのみで行っている場合、終了の打刻時間が残業となる場合は、その時刻を基準として残業代の支払いを行わないと違法となる可能性があります。

 

そのため、残業の管理については「残業時間」と「残業する業務の内容」の管理を実施することをおすすめします。

 

具体的な方法は「残業承認制」とし、残業時間と残業する業務内容を検証し、承認するということになります。

 

これに関する裁判があります。

 

<ヒロセ電機事件 東京地裁 平成25年5月22日>

 

〇従業員が未払い残業を主張し、裁判を起こした(会社は時間外勤務命令書等で管理していたが、従業員は入退館記録表によるべきと主張した)。

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇時間外勤務命令書により、残業時間をカウントする(会社の主張が通った)。

 

会社の就業規則には「時間外勤務は直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めない」と明記がありました。

 

そして、時間外勤務命令書について、従業員が「内容を確認して確認印を押していた」という運用とされていたのです。

 

これにより、時間外勤務は所属長からの指示で、本人の希望も踏まえて個別、具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたと判断されたのです。

 

残業の事前承認制が徹底して運用されていれば、入退社時刻のみやタイムカードのみでの管理より優先されるとしたのです。

 

整理解雇が有効になるには、何をすれば良いですか?

今回は「整理解雇が有効になるには、何をすれば良いですか?」を解説します。

 

「社員を解雇させたい」「社員を辞めさせたい」「不採算事業部を切り離したい」というご相談が多く、ご相談の中身は多様なものとなっております。

 

このような状況下で、事業縮小で「整理解雇」を実施したいというご相談をお受けしました。

 

整理解雇とは事業の継続が思わしくないことを理由に組織の再構築(リストラ)を行なわれなければならないのですが、その中の人員整理を行うことで、事業の維持継続を図ることです。

 

一般に普通解雇や懲戒解雇は、従業員側にその理由がある状況ですが、整理解雇は会社側の事情にもとづくものなのです。

 

そのため、整理解雇を実施するのは次の4つの要件を具備しないと、有効とならないとされています。

 

では「整理解雇の4つの要件」をみてみましょう。

 

1、人員整理の必要性: 余剰人員の整理解雇を行うには、削減をしなければ経営を維持できないという、企業経営上の高度な必要性が認められなければならないのです。

 

人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、会社の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとなっています。

 

2、解雇回避努力義務の履行:期間の定めのない雇用契約においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求されます。

 

例えば、役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断される必要があります。

 

3、被解雇者選定の合理性:解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公正でなければならないのです。

 

例えば勤務成績を人選基準とする場合、基準の客観性・合理性が問題となるのです。

 

4、手続の妥当性:整理解雇については、労働者に帰責性がないことから、使用者は信義則上労働者・労働組合と協議し説明する義務を負います。

 

特に手続の妥当性が非常に重視されているのです。

 

例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても無効とされるケースも多いのです。

 

整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされます。

 

しかし、最近の裁判では4つの要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多いのです。

 

 

4つの要件をすべて満たさなくても解雇が認められている裁判も多く、4つの要件が確立される根拠となった過去の判例には大企業のものが多く、中小企業の実情に即しているとはいえなかったのです。

 

多くの中小企業では、「配置転換したくても職場がない」「一時帰休させるほどの企業体力がない」など、大企業のように段階的な雇用調整を行う余裕がないのですが、裁判所の判断は、中小企業にもできるだけ大企業と同様の努力をしてもらう作用を期待しています。

 

厳しい叱責と長時間労働が結びついたら・・・

今回は「厳しい叱責と長時間労働が結びついたら・・・」を解説します。

 

厳しい叱責はパワーハラスメントとして取り扱われることが多くなってきました。

 

しかし、「厳しく指導する」ことがパワハラではありません。

 

業務に関連することについての叱責や注意は「多少、荒い言葉」でもパワハラに認定されるケースは少ないでしょう。

 

しかし、長時間労働等の過重労働と結びついて、精神的に追い詰めたらパワハラの可能性が高くなるのです。

 

これに関する裁判があります。 

 

<岡山県貨物運送事件 仙台地裁 平成25年6月25日、仙台高裁 平成26年6月27日>

 

〇新入社員が連日の長時間残業(月100時間超)をしていた。

 

〇ミスが発生し、所長から厳しい叱責を受けていた。

 

〇ミスが直らないので、所長は「解雇の可能性」を示した。

 

〇その後、精神疾患を発症し、自殺した。

 

〇遺族は会社には安全配慮義務違反、所長には不法行為で裁判を起こした。

 

→約1億2千万円の損害賠償金額を請求

 

そして、第一審では以下となったのです。

 

〇自殺5か月前から月平均100時間程度か、これを超える恒常的な残業があり、自殺前3か月間は月平均129時間の残業だった。

 

〇所長による叱責や新入社員としての緊張や不安が心理的負荷を増加させた。

 

〇これにより適応障害を発症したが、その後も長時間の残業があった。

 

〇これらの結果、正常な認識、行為および抑制力が阻害された状態となり、自殺した。

 

〇会社は新入社員に長時間労働を強いた。

 

〇業務の負担や職場環境などに何らの配慮をすることなく、残業状態を漫然と放置。

 

〇所長には人員配置の権限があったとは認められない。

 

〇会社「のみ」に対し、合計約6,900万円の支払を命じた。

 

この結果を受け、遺族は「所長の責任」を追及すべく控訴したのです。

 

そして、第二審では以下の結果となったのです。

 

〇所長が新入社員に、勤務時間を実際より短く申告するよう強要した。

 

〇他の従業員の前で繰り返し「ばか野郎」と怒鳴りつけた。

 

〇その結果、長時間残業を強いられ、パワハラを受け自殺に至った。

 

〇所長のパワハラも認めた。

 

〇会社と所長の「両方」に約6,900万円の支払いを命じた。

 

第一審の結果は「会社の安全配慮義務違反」を認めましたが、所長のパワハラは認められませんでした。

 

しかし、第二審では所長のパワハラが認められ、所長に対しても支払い命令が出たのです。

 

この高裁の判決で、パワハラ認定のポイントとなったのが「継続的な叱責」です。

 

恒常的、日常的な発言、行為がパワハラとなるということです。

 

 

時間外労働時間がこれだけ多いと、それだけで労災と判断され、また、会社の安全配慮義務違反を認定される可能性が高くなるのです。

 

会社側としては、従業員の労働時間が過大になっていないか、常に配慮すべきです。

 

パワハラと精神疾患の関係について

今回は「パワハラと精神疾患の関係について」を解説します。

 

最近はパワハラ予防に対する意識が高くなってきましたが、会社ごとに温度差もあり、ほとんどの会社が「予防を意識している」というわけではありません。

 

現場で部下に「人権を毀損するような発言」を行い、知らず知らずに追い詰めてしまうことも実際にあるのです。

 

これに関する裁判があります。<サントリーホールディングス他事件 東京地裁 平成26年7月31日> 

 

〇Aは入社して9年で異動となり、上司Bの指示で営業物品購買金額低減のプロジェクトに従事したが、他の部署からAの勤務態度に問題ありと改善指導を要請された。

 

〇また、Aは指示通りの資料を提出しないこと等があった。

 

〇その後、購買予算と実績管理のシステムを開発することとなり、Aは主任となったが、「開発は無理です」と言い、Bが指導した。

 

〇それから、Aはミスなどが重なり、Bの指導の回数が増え、指導が厳しくなった。

 

〇Aは体調が悪く、病院で受診したところ、うつ病に罹患しており、「3ヵ月の自宅療養を要する」と診断書の交付を受けた。

 

〇Aは診断書を提出し、休職を願い出たが、Bから次のことを言われた。

 

「3ヵ月の休職は有給休暇を消化してほしい。 Aは隣の部署に異動予定であり、3ヵ月の休みを取るなら異動は白紙に戻さざるを得ないので、異動ができるか返事をするように」   

 

〇Aは異動を希望する旨を伝え、休職せずにBの下で勤務を再開した。

 

〇それから、Aは異動をしたが、精神状態は快方に向かわず、有給休暇を取得するなどしていたが、休職となった。

 

〇Aは社内の内部通報制度で、Bの行為はパワハラであるとし、Bの責任追及を求めた。

 

〇内部通報制度を担当するCは、Aとの間でやり取りをし、BはAに対してBの行為は悪意によるものでない以上、処分対象にはならないと伝えた。

 

〇Aはこれを不服とし、裁判を起こした。

 

→損害賠償額は約2,500万円

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇会社及びBはAに対し、300万円+遅延損害金を支払えと判断したのです。

 

〇そして、Bの行為は不法行為である。

 

〇会社はBを上司として任命しているので、使用者責任が成立する。

 

〇Cには違法行為は見られない。

 

以上としたのです。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

精神疾患の労災認定基準は、上司の叱責が精神疾患を発病させるほどの心理的負荷「強」に該当しないと認められません。

 

事例でBがAに対して人格否定的な発言で、業務範囲を逸脱していたのは認められますが、この点のみでは弱いと判断されています。

 

しかし、診断書を棚上げし、休職の申出を阻害する結果を生じさせたことで、不法行為と認められたのです。

 

他の事情と相まっての発病との間に因果関係が認められることがあるので、このようなことの無いように現場での運用を慎重に実施する必要があるのです。

 

仮眠時間は労働時間?

今回は「仮眠時間は労働時間?」を解説します。」

 

「仮眠時間は労働していないから、給料は発生しない」と考えている会社は多いです。

 

しかし、最高裁の判決で、「労働から解放されていなければ、労働基準法上の労働時間に当たる」との判断でした(大星ビル管理事件 最高裁 平成14年2月28日)。

 

 なぜ、仮眠時間が労働時間として認められたのか?というと、「待機している時間に仮眠をしてもいいが、突発事故に対応すること」となっていました。

 

このような状況で仮眠をしても「労働からの解放」とはならないので仮眠時間も「労働時間としてカウントする」と判断されたのです。

 

しかし、どこからどこまでが「労働からの解放」となるのでしょうか?これに関する裁判があります。

 

今回の事例は夜行バスの交代運転手の車内仮眠時間が「労働時間に該当するのか?」ということがポイントとなりました。

 

<K社事件 東京高裁 平成30年8月29日>

 

〇夜行バスの運転業務に従事する運転手らは、交代運転手としてバスに乗車している時間も労働時間と主張した。

 

〇会社に対して、未払い賃金等や遅延損害金を求め、裁判を起こした。

 

〇第一審では、交代運転手として車内にいた時間は、「労総時間ではない」と労働時間該当性を否定した。

 

〇裁判は控訴となったのです。

 

そして、高裁の判断が以下となったのです。

 

〇交代運転手として乗車していた時間は労働時間ではない。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

交代運転手での乗車時間は「労働時間ではない」と判断されたのですが、ポイントをみてみましょう。

 

まず、労働からの解放がなされているか?ということを考えた場合に運転手ら側からの意見が以下のように上がってきました。

 

(1)制服の着用義務

 

(2)仮眠場所が運転席の後ろのリクライニングシート

 

(3)道案内等の運転手の補助的な業務が発生するかもしれない

 

それぞれに対し、判断を下したのです。

 

(1)交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバスの車内であるのはやむを得ないし、制服の着用は、休憩時間中は上着を脱ぐことを許容し、可能な限り指揮命令下から解放されるように配慮していた。

 

(2)交代運転手は2人用リクライニングシートを1人で使用し、仮眠できる状態であり、飲食も可能であった(カーテンが設置されているものもあり)。

 

(3)カーナビがあるため道案内をしていたという主張を採用できない。

 

したがって、交代運転手といてバスに乗っている時間は、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとはいえず、労働基準法上の労働時間には、あたらないと判断しました。

 

最高裁の判決の仮眠時間は突発的な事態に対応することが前提で、その場所で仮眠をすることが要請されていました。

 

しかし、今回の事例では仮眠と業務は異なり、業務は「運転すること」と区別が明確なので結論が異なったのです。

 

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