タイムカードの打刻時刻が労働時間の基本でしょうか?
今回は「タイムカードの打刻時刻が労働時間の基本でしょうか?」を解説します。
先日、顧客から「元従業員がタイムカードの端数を計算して未払い残業を支払えと言われたのですが、これは支払わないといけないのでしょうか?」とご相談を受けました。
この手のご相談は時々あります。
そんな時、まずお伝えするのは「残業の管理はどのようになっていますか?」と聞きます。
そもそも労働時間の定義は「労働者が雇用主の指揮命令下で働く時間」を指して、賃金計算の基準となります。
就業規則や雇用契約書の記載にかかわらず、客観的に見て「雇用主の指揮命令下にある」と判断されれば労働時間とみなされ、企業には賃金の支払い義務が発生します。
労働基準法では上記のようになっており、事業場に来て、打刻した時間が労働時間とはならないのです。
とはいえ、タイムカードのみでしか、残業等の管理をしていない場合は、打刻時刻が労働時間とみなされる可能性があります。
さらに労働時間のカウントは「1分単位」と考えられるケースもあるので、ご相談のように「1日、数分の時間を合計して未払い残業代を請求される」となったときに対抗できる管理を行わないと請求通りに支払わざるを得ない場合もあるでしょう。
これに関する裁判があります。
<オリエンタルモーター(割増賃金)事件 東京高裁 平成25年11月21日>
〇会社では、始業・終業時刻の合図はチャイムによって行われ、従業員が会社構内への入退場の際には、必ずICカードにより入退場時刻を記録していた。
〇終業時刻後に会社の設備を使って資格取得のための勉強その他の自己啓発活動をする場合は、活動を終えて会社構内から退出する際に退場時刻を記録することになっていた。
〇時間外勤務または休日勤務は、課長以上の管理職が従業員に、指示内容や指示時刻などを記載した指示書に署名して交付する方法により指示し、管理運用されていた。
〇Aは、平成22年7月から12月まで、常時1時間ないし5時間程度の残業をしていたとして、未払賃金および付加金の支払いなどを求めて提訴した。
〇1審判決(長野地裁松本支部 平成25年5月24日)は未払賃金および付加金の支払請求の一部を認めた。
〇会社は敗訴部分を不服として控訴した。
そして、高裁は次の判断を下しました。
〇ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちにAが時間外労働をしたと認められない。
この裁判を詳しくみていきましょう。
労働時間に該当するか否かは、「使用者の指揮命令下に置かれているか否かにより客観的に定まるものであって、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為などを事業所内において行うことを義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」としています。
残業についても丁寧な管理が必要となるのです。
固定残業制度について
今回は「固定残業制度について」を解説します。
固定残業制度は、企業が従業員の給与にあらかじめ一定時間分の残業代を含める制度です。
この制度には、企業と従業員の両方にメリットと手当があります。
まず制度をみてみましょう。
固定残業制度では、従業員の給与に一定時間分の残業代があらかじめ含まれています。
なお、定められた時間を超える残業が発生した場合は、別途残業代を支払う必要があります。
次に企業のメリットについてです。
〇人件費の予測性向上: 残業代が固定化されるため、給与額の大幅な変動を抑えられ、人件費の把握が容易になります。
〇生産性向上の可能性: 従業員が残業を減らすという意識があり、業務効率化につながる可能性があります。
〇採用時のアピール: 固定残業代を含めた給与額を示唆できるため、求職者へのアピール度が向上する可能性があります。
さらに従業員のメリットもみてみましょう。
〇収入の安定: 残業の現状に沿って、一定レベルの給与が保証されます。
〇ライフバランスの改善: 残業を減らすという意識があり、プライベートの時間を確保しやすくなる可能性があります。
さらに固定残業代の計算方法を見てみましょう。
固定残業代の計算方法には、主に2種類あります。
〇手当型:基本給とは別に固定残業代を計算します。計算式:1時間当たりの賃金 × 固定残業時間 × 割増率(1.25)
〇基本給組み込み型:基本給に固定残業代を含めます。計算式:基本給 ÷ {月平均所定労働時間 + (固定残業時間 × 1.25)} × 固定残業時間 × 1.25
そして、導入時の注意点についてです。
〇通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別する必要があります。
〇固定残業時間を超えた場合の追加支払いを忘れませんように。
固定残業代制度は、正しく運用されれば企業と従業員の双方にメリットをもたらす可能性がありますが、労働法規を遵守し、従業員の権利を守ることが重要です。
そして、固定残業代制度を導入する際には、以下の点に注意する必要があります。
〇明確な区別: 固定残業代を基本給や他の手当と明確に区別して設定する必要があります。
〇金額と時間数の確実性: 固定残業代の金額と、それが何時間分の残業代に相当するか明確に示さなければなりません。
〇超過分の支払い: 固定残業時間を超えた分の残業代は別途考慮する必要があります。
また、固定残業代の内容(金額と時間数)を明確に記載する必要があります。
さらに、個別の労働契約書にも固定残業代の内容を記載しましょう。
そして、毎月の給与明細書にも固定残業代の内容を明記することが肝心です。
従業員に固定残業代制度の仕組みや正しく理解してもらって、十分な説明を実行しましょう。
この部分がとても重要となるので、企業側は丁寧な説明を心がけ、時間をかけ理解の促進に努めましょう。
社会保険加入条件の4分の3基準とは?
今回は「社会保険加入条件の4分の3基準とは?」を解説いたします。
次のご相談がありました。
「1年契約の更新時期を迎えた契約社員から、副業をしたいので労働条件を見直してほしいという要望がありました。社会保険から抜けたいと話しています。そこで、社会保険の加入条件を再検討することになったのですが、所定労働日数について、そもそもお盆や年末年始などは休みだから社会保険の加入に必要な「4分の3条件」を満たさないはずだといいますが、適用除外ということになるのでしょうか?」
社会保険の加入条件は次となっています。
社会保険の加入条件は、雇用形態や勤務先の規模によって異なりますが主な条件は以下の通りです。
〇75歳未満の正社員、会社の代表者、役員
〇70歳未満で、週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が継続雇用者の4分の3以上の者
上記の条件を満たせば社会保険への加入が義務付けられています。
今回のご質問について、この「週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が継続雇用者の4分の3以上の者」に当たるかどうかがポイントとなります。
では具体的にはどのように判断すればよいのでしょうか?
契約更新に当たって労働条件を明示する際に、休日や休暇は書面等により明示が必要な事項です。
本人の希望を考慮して所定労働日や所定労働時間を決めることもあり得ますが、労働契約は労使の合意に基づき締結すべきものです(労契法3条)。
社会保険の適用除外となるのは、週の所定労働時間「または」月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3未満のときです(健保法3条1項9号)。
被保険者となるためには、時間と日数の両方の要件を満たす必要があります。
いわゆる「4分の3基準」の考え方を示した通知では、所定労働時間や日数は、原則として、就業規則や雇用契約書等により「通常の週および月」に勤務すべき条件を確認するとしています。
通常の週とは、祝祭日、年末年始の休日、夏季休暇等の特別休日を含まない週をいう、としています。
前の通知では、カッコ書きで週休日その他おおむね1カ月以内の期間を周期として規則的に与えられる休日「以外の休日」を含まない週の時間数および日数が基準になるとしています。
例えば、8月や12月など特定の月に休日が多めに設定されているからといって、直ちに4分の3基準を下回るとまではいえないでしょう。
ちなみにパート・アルバイトの加入条件は以下となります。
〇従業員数51人以上の事業所に勤務(2024年10月から51人以上に変更済み)
・週の所定労働時間20時間以上
・2ヶ月を超える雇用の安心がある
・学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
・月間の余裕が8.8万円を超える(年収約106万円以上)
2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大され、従業員数が「101人以上」の事業所から「51人以上」に変更されましたのでご注意ください。
在宅勤務からの出社で、途中にけがをしたら通勤災害なのでしょうか?
今回は「在宅勤務からの出社で、途中にけがをしたら通勤災害なのでしょうか?」を解説いたします。
先日次の質問がありました。
「午前中は在宅勤務、午後から出社予定の従業員が、出社する途中にケガをしたとき、通勤災害となるのでしょうか?」
在宅勤務の場合の労災認定において、
(1)業務遂行性と
(2)業務起因性の基準により、
保険給付が認められるかどうかが判断されることになります。
では、それぞれの基準について、在宅勤務の場合に当てはめて考えてみましょう。
(1)業務遂行性との関係
在宅勤務の場合は、従業員は事業場外で勤務を行っている状態にあります。
そのため、労働者は事業主の物理的な管理下にはありません。
しかし、事業主の物理的な管理下にはなくても、労働契約に基づく義務として労働を提供していることには変わりません。
そして、在宅勤務でも「労働者は事業主の指揮命令下にある」と評価できる場合、その状態はオフィスでの勤務と同列に扱われるべきということで、その時間帯に発生した負傷等については原則として業務遂行性が認められます。
(2)業務起因性との関係
事業主の指揮命令下で傷病等が発生したとしても、これが業務に起因していなければ労働災害とは認められません。
業務に起因するかどうか?相当因果関係があるかどうか?については、業務をおこなうにあたっての危険性などを個別具体的に判断することになります。そのため、業務起因性の有無について一概に示すことは難しいといえます。
ご質問のケースの場合は、「出勤予定し通勤した場合」に該当すると考えられます。
通勤とは、従業員が就業に関して、
① 住居と就業場所との間の往復
② 就業場所から他の就業場所への移動
③ ①の往復に先行し、または後続する住居間の移動
そして、業務の性質を有するものを除きます。
在宅勤務中は、事業場における従業員と同様、業務上災害として労災保険給付の対象となります。
ただし、私的行為、業務以外が原因であるものは認められません(令3・3・25基発0325第2号等)。
この通達で、たとえば、在宅勤務中の従業員に対して、会社が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、会社が従業員に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当するとしています。
いずれにしても、当初から出勤が予定されていれば通勤と言えるでしょう。
そして、労災として認定されやすいケースは以下となります。
〇上司からの指示で仕事用の書類を自宅のシュレッダーにかけていた際、指を切った
〇就業時間中にトイレに行こうとした際、転倒して怪我を負った(トイレに行くことは生理現象で私的行為ではない)。
〇在宅勤務になってデスクワークの時間が増えて、酷い腰痛を患った。
厚生労働省は「腰痛の労災認定」の基準を定めて、これを満たしている場合には労災認定が受けられます。
36協定の有効期間について
今回は「36協定の有効期間について」を解説いたします。
先日、次の質問がありました。
「時間外・休日労働(36)協定の有効期間が、1年よりも短いケースでも受理されるのでしょうか。対象期間と有効期間は1年固定とばかり思っていたのですが、有効期間の考え方に変更があったということなのでしょうか?」
法定時間外労働や法定休日労働(残業、休日出勤等)は、その例外として、労働基準法第36条の規定により「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」を締結し、管轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です。
また、「36協定を1度提出すれば、それ以降は36協定を提出しなくても残業させてもよい」と誤解をされている会社もあるかもしれませんが、36協定には1年間の有効期間があり、毎年、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
特に、1月や4月を起算日として、1年間の有効期間を定めている場合が多いため、残業がある会社は、一度、自社の36協定の有効期間を確認し、有効期間が切れている場合は、速やかに36協定届を届け出てください。
届け出た36協定は、就業規則やその他の労使協定と同様に、常時、各作業場の見やすい場所へ備え付ける、書面を交付する等の方法により、労働者に周知する必要があります。
36協定の「対象期間」は、法36条の規定により時間外・休日労働させることができる期間をいい、1年間に限られます。なぜなら、時間外・休日労働の上限が年単位で規制され、特別条項の発動回数も年単位で考える必要があります。
これに対して「有効期間」は、労使協定が効力を有する期間を指します。
期間は1年間が望ましいとされています。
そして「働き方改革」より前の36協定では「1日を超える一定期間」の延長限度を定める必要がありました。
36協定の締結当事者が労働組合の場合には、労働組合の要望等に応じて有効期間を3カ月等とすることがありました。
しかし、時間外労働の上限規制が労基法に規定され、対象期間が1年に固定されました。
有効期間も1年とする必要があるのか、それとも3カ月間として良いのかを示した行政解釈があります。
「対象期間(1年間)の起算日を固定したうえで行う」なら、協定の有効期間を3カ月ずつ4回に分けることも可能としています。
平成30年通達がいう原則1年の例外として、対象期間を特定したうえで、1カ月の延長時間を3カ月ごとに見直す方法も許容されるのです。
時間外・休日労働協定の適正化に係る指導について(令6・1・12基発0112第1号)でも、協定内容の見直しの機会をより多く設けることを目的にしていること等が確認できた場合は、有効期間が1年でなくても、労働基準監督署の窓口で指導等はしないとしています。
また、36協定締結後は、従業員に労働時間に関する取り決めの周知を徹底しましょう。
上限を超えないように注意することが大切です。
管理監督者にあたる?あたらない?
今回は「管理監督者にあたる?あたらない?」を解説いたします。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
そして、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日に関する規制の適用を受けません。
さらに、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されるのが管理監督者となります。
管理監督者とは、企業の中で相応の地位と権限が与えられ、労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場と評価することができる従業員のことをいいます。
労働基準法第41条2号では「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」と定義しています。
労働基準法で定められた労働時間、休日等に関する規制が適用されないことも特徴です。
では、管理監督者と認められる条件を見ていきましょう。
一般的に会社ではマネジメントを行う人を管理職と呼びますが、「管理職=管理監督者ではありません」。
管理監督者に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様などの実態に基づいて判断します。
厚生労働省の資料では、以下4つの判断基準に基づき総合的に判断する必要があることが述べられています。
(1)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な職務内容」を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な職務内容」を有していなければ、管理監督者とは言えません。
(2)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない「重要な責任と権限」を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあると定義するためには、経営者から「重要な責任と権限」を委ねられている必要があります。
「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するだけだったりする者は、管理監督者とは言えません。
(3)現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者とは言えません。
(4)賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること
管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。
従業員が管理監督者に該当するかどうか、上記を参考にして判断してください。
そして、「管理監督者」に該当しない場合は、法的には一般従業員と同様の扱いとなりますので、割増賃金の支給を行う必要があるのです。
割増賃金の計算の基礎に含める手当について
今回は「割増賃金の計算の基礎に含める手当について」を解説いたします。
先日、次のご相談をお受けしました。
「賃金制度の見直しをすることになり、割増賃金の計算に含めるもの・含めないものを改めて理解しておきたいと思います。基準などを教えてください。また、別居手当や子女教育手当について、どのような性質のものが該当するかなどを示した資料はあるでしょうか。」
割増賃金とは、残業や休日出勤など、イレギュラーな勤務が行われた場合に支払わなければならないものです。
そして割増賃金を算定する際に必要になるのが、「1時間あたりの賃金」です。
割増賃金は、従業員の適切な働き方を守るための重要な規定であり、負担分の対価として必ず支給しなければなりません。
正しく設定しておかなければ違法になってしまう上に、より良い労働環境をつくるためにも非常に重要な要素です。
割増賃金の計算の基礎となるのは、「通常の労働時間または労働日の賃金」です。
割増賃金を支払うべき労働(時間外・休日・深夜の労働)が深夜でない所定労働時間中に行われた場合に支払われる賃金を指すとしています。
ここから除外できる賃金を、労働基準法37条5項と労基則21条で挙げています。
家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金の7種類です。
制限的に列挙されているものであり、これらの手当に該当しない「通常の労働時間または労働日の賃金」はすべて割増賃金の基礎となる賃金に算入しなければならないとしています。
また、名称にかかわらず実質によって取り扱います(昭22・9・13発基17号)。
基準は解釈例規などで示されています。
例えば家族手当は、扶養家族数またはこれを基礎とする手当額を基準として算出した手当を指します(昭22・11・5基発231号)。
物価手当や生活手当などの名称でも、この基準で算出する部分については家族手当と扱い、除外賃金とできます。
一方、独身者にも支払っていたり、家族数に無関係に支給されたりしていると、その部分は家族手当に当たらず除外賃金とできません。
子女教育手当は、教育を要する子女の数という個人的事情により支給される場合に除外手当に当たるとしています。
別居手当は、配偶者ある労働者だけに対し勤務を理由とする別居という事実を条件として支給する手当などが該当します。
「別居手当・単身赴任手当」と単身赴任手当を並列して記載しているものもあります。
7種類以外の賃金は基本、基礎となる賃金に含めます。
たとえば、ある作業に就いた際に支給される特殊作業手当があり、その作業を割増賃金が発生する時間に行った場合、特殊作業手当は通常の労働時間または労働日の賃金に含まれます(昭23・11・23基発1681号)。
逆に、通常の労働時間または労働日の賃金に該当しないものは含めなくてもよく、勤務の一部または全部が深夜に行われる看護等の業務に対し支給する夜間看護手当は、算入しなくても差し支えないとされています(昭41・4・2基収1262号)。
採用選考時のSNS調査について
今回は「採用選考時のSNS調査について」を解説いたします。
先日、次のご相談がありました。
「採用選考の時に応募者のSNSの調査を実施したいと考えております。自社で行う場合、あらかじめ本人の同意を得ることは必要でしょうか?」
採用活動でSNSチェックが注目されるようになったのは、多くの社会人がSNSを利用しているという状況があるからです。
総務省の調査(令和4年情報通信白書)によると、20代から40代の70%以上がSNSの利用経験があり、20代と30代は半数以上がSNSを積極的に活用していることが分かりました。
SNSチェックを行う企業が増えている理由に、「候補者のさまざまな側面を知ったうえで採用したい」ことが挙げられます。
一般的な採用選考で得られる候補者の情報といえば、履歴書や職務経歴書といった選考書類の内容と、面接での受け答えが中心となります。
候補者は選考中、よく見せようと振る舞うため、選考書類や面接の内容は、候補者の日常の姿とは異なることもあるでしょう。
個人で情報等の発信が容易な時代となり、SNS等で自身の意見をストレートに発信できるのが簡単にできます。
これにより、インターネットで「個人がどのような意見を発信しているか?」「どのような人物なのか?」も情報がキャッチでるようになりました。
一方、個人情報保護法などで、プライベートの情報も保護されています。果たして、どの程度の情報に制限がかけられているのでしょうか?
個人情報を含む情報がインターネット等により公にされている場合、それらの情報を単に閲覧するにすぎない場合には「個人情報を取得」したとは解されません(個人情報保護委員会)。
一方で、情報を転記するなど個人情報を取得したと解し得る場合もあるとしています。
この場合、利用目的等の通知公表は必要となるでしょう。
職業安定法5条の4は求職者等の個人情報の取扱いに関して規定しています。
求職者等の個人情報をその業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、保管し、または使用しなければならないとしています。
また、職業紹介事業者等は、個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、または本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならないとしています。
厚生労働省の「募集・求人業務取扱要領」(令和3年4月)は、本人が不特定多数に公表している情報から収集する場合は、上記「等」に含み、適法かつ公正な手段としています。
ただし、この場合でも原則として収集してはならない情報があることには注意が必要です。
前掲告示では、職業紹介事業者等は、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、②思想および信条、③労働組合への加入状況を挙げています。
例外的に収集できる場合としては、特別な職務上の必要性があることその他業務の目的に必要に達成不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合としています。
SNSの調査にはこうした情報に触れるリスクがあることには留意しておく必要があるでしょう。
消化できない有給は、会社が買い取らなければならないのでしょうか?
今回は「消化できない有給休暇は、会社が買い取らなければならないのでしょうか?」について解説します。
従業員から、「繁忙につき消滅時効にかかる年次有給休暇について埋め合わせが欲しいとありました。買上げなどに応じてもよいのでしょうか?」という質問がありました。
年次有給休暇の法的効果は、所定労働日における労働義務の消滅とされています。
また、労働基準法39条5項は、年休を労働者の請求する時季に「与えなければならない」という規定です。このため、現実に所定労働日に休業せず、代わりに金銭を支給する場合は、年休を与えたことにはなりません。解釈例規(昭30・11・30基収4718号)
でも、年休の買上げを予約して請求可能な年休の日数を減少させたり与えなかったりすることは労働基準法39条に違反するとしています。
東京労働局の資料には、「在職中に従業員から消滅となる年休の買い取りを求められても、労働基準法ではそれを認めてはいません」と強い書き方をしているものもあります(東京労働局「素朴な疑問Q&A」)。
一方、従業員が年休を取得せず、その後に時効、退職等の理由で年休が消滅するような場合に、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは、事前の買上げと異なるのであって、必ずしも労働基準法39条に違反するものではないとしています。
ただし、このような取扱いによって年休の取得を抑制する効果を持つようになることは好ましくなく、むしろ、取得しやすい環境を整備することが重要ともしています。
つまり、年休の買上げは、消滅する場合まで禁止しているというわけではありませんが、望ましくない扱いであるといえます。
また退職時などは、在職中に有給休暇を消化しきれないこともあります。
そのような場合には、未消化の有給休暇を会社に買い取ってもらえる場合があります。
有給休暇の目的は「労働者が十分に休暇を取る」ことですので、その必要性がなくなった退職時の有給休暇を買い取ったとしても、労働者の権利は侵害されないと考えられています。
また、いわゆる失効した年休の積み立て制度など、消滅した年休を積み立てておき、介護などに利用できるようにすることは、本来給付が必要ないものについて休暇を付与する法定外年休として、法定年休の利用を妨げるものではありません。
法定外年休については、成立要件、法的効果は労使の取決めによるとされております。
しかし、法定年休に上乗せする形で法定年休と同じ規定のなかに定められており、要件や効果について特別の定めがされていない場合には、法定年休と同様の要件・効果が約定されたと考えられます。
但し、会社が法律で決められた日数以上の有給休暇を付与している場合、会社が「法定基準を上回っている部分の有給休暇」を買い取っても問題ないとされています。
以上の事柄を理解した上で、年休の買い取りについて会社でルール化し、運用することが重要です。
法定で定められているものか?そうでないものなのかを区分けし、運用しましょう。
職種限定合意と異なる配転命令は有効でしょうか?
今回は「職種限定合意と異なる配転命令は有効でしょうか?」を解説いたします。
まず、職種限定の合意があると認められるのはどのような場合かをみていきましょう。
「職種限定の合意」とは、労働契約において、会社と従業員との間で、従業員を一定の職種に限定して配置する旨の合意をいいます。
職種限定の合意がある場合、該当する従業員の合意がない限り、この者を他の職種へ配転することはできません。
では、どのような場合に職種限定の合意があると認められるのかについてみてみましょう。
まず、職種・部門限定社員や契約社員のように、定年までの長期雇用を予定せずに職種や所属部門を限定して雇用されている労働者については、職種限定の合意があると認められやすいと考えられます。
また、特殊な技術、技能、資格が必要な職種の場合も、使用者と労働者との間に明示又は黙示の職種限定の合意があったと認められやすいと考えられます。
他方で、労働契約書に記載されている「業務の内容」が、職種限定の合意があると認められるのかについては、通常、採用直後の当面の業務の内容として記載してあるものと考えられることから、労働契約書の「業務の内容」の明示のみをもって職種限定の合意があるとは認められにくいでしょう。
さらに、長期間同一の業務に従事していたような場合について、そのような労働実態のみをもって職種限定の合意があるとは認められにくいと考えます。
参考となる裁判があります。
<社会福祉法人 滋賀県社会福祉協議会事件 最高裁 令和6年4月26日>
〇社会福祉法人「滋賀県社会福祉協議会」が運営する施設の元職員の男性が、職種限定合意があったのに配置転換を命じたのは違法だとして同協議会に110万円の賠償を求めた。
〇裁判は最高裁まで進んだ。
〇最高裁は職種限定合意がある場合は同意のない配転を命じる権限はないとの判断を示したのです(命令を「適法」とした二審大阪高裁判決を破棄し、審理を差し戻した)。
労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないということが明確になったのです。
職種又は勤務地限定合意に関連して、現在、労働条件の明示を強化する傾向があるところです。令和6年4月1日以降に労働契約を締結する際には、会社は就業場所、業務の内容、就業場所及び業務の変更の範囲を明示することが義務付けられています。
労働条件通知書により、明示的な職種又は勤務地限定合意が認められやすくなれば、今後は、配転命令を自由に行うことはできなくなります。変更の範囲の記載については、慎重に検討したうえで記載内容を決定することが必要になってくるでしょう。
今後は「とりあえずの配属」ではなく、その後のキャリア等を考慮しないと、配置転換もままならなくなってしまいます。
