副業・兼業に対する会社のリスクについて
今回は、「副業・兼業に対する会社のリスクについて」を解説します。
近年、副業や兼業に注目が集まっていますが、皆さんの会社では、従業員の副業や兼業を認めていますか?
皆さんの会社が副業・兼業を認めた場合、様々なリスクがあることも事実です。
たとえば、次のようなリスクがあります。
〇知的財産権の侵害
副業や兼業により、自社の製品やサービスと競合する可能性があります。
特に、従業員が自社の技術やノウハウを使用して、競合する製品やサービスを開発する場合、知的財産権の侵害になる可能性があります。
そうなれば、会社の信頼性やブランド価値が損なわれることもあります。
〇勤務意欲の低下
副業や兼業により、従業員が本業に対する熱意や責任感を失う場合があります。
また、本業に時間的余裕がなくなり、業務の遅れやミスが発生することがあります。
〇疲労やストレスの増加
兼業や副業による負荷が増加し、疲労やストレスが生じる可能性があります。
これにより、生産性やモチベーションが低下する可能性があります。
〇社外秘情報の漏洩
副業や兼業の関係上、従業員が競合他社と接触する場合、社外秘情報の漏洩リスクがあります。
例えば、顧客情報や製品の仕様などが漏えいした場合、会社の信頼性やビジネスチャンスが損なわれることがあります。
〇副業先のトラブル
副業の関係上、トラブルが発生した場合に、本人の勤務先として、皆さんの会社の名前が報道等されることがあります。
〇競合や利益相反の可能性
副業や兼業が皆さんの会社の業務と競合する場合、利益相反が生じる可能性があります。
これにより、従業員と皆さんの会社の信頼関係が損なわれる可能性があります。
〇法的な問題の可能性
副業や兼業に関して、皆さんの会社が労働法に違反する可能性があります。
以上が、副業や兼業に関するリスクの例ですが、メリットについても考えていきましょう。
〇スキルアップの促進
兼業や副業を通じて、従業員が新しいスキルや知識を習得することがあり得ます。
これが皆さんの会社にとっても有益になる可能性があります。
〇副業による収益の増加
従業員が副業を持つことで、収入源を複数持つことができます。
これにより、従業員の経済的な安定性が増すこともあり得ます。
〇 顧客獲得の可能性
副業が皆さんの会社の業務と「間接的に」関連している場合、顧客獲得の機会が増える可能性があります。
このようなメリットもありますが、デメリットにも十分な注意を払う必要があります。
中小企業には兼業・副業について、なじみが少ないかもしれません。
しかし、世の中の流れが、兼業、副業を推奨する方向となっています。
深夜業の健康診断で実施する基準はどこでしょうか?
今回は「深夜業の健康診断で実施する基準はどこでしょうか?」を解説します。
先日、顧問策から以下の質問がありました。
「当社は雇用するパート、アルバイトが午後10時以降の深夜帯に一部従事することがあります。
日勤が多く、深夜帯のみ働いているわけではありません。
深夜に従事した時間がわずかのときでも深夜業の健康診断は必要でしょうか?」
深夜の時間帯に業務が及ぶ場合、6カ月以内に1回必要になる健康診断があります。
常時、深夜帯の業務に及ぶのであれば、健康診断が6カ月以内に1回必要になるでしょう。
しかし、常にこの時間帯というわけではない場合、どの程度、深夜帯に業務を行うと6カ月以内に1回の健康診断が必要になるのかをみてみます。
深夜業がある会社には関係がありますので、確認していきましょう。
健康診断は、1年以内に1回定期に行うのが原則です。対象となるのは、「常時使用」する労働者となっています。
週の労働時間数が事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上あることなどが条件です。
有期雇用なら、1年(深夜業等は6カ月)以上使用されている(予定含む)ことも条件です。
深夜業含む特定の業務に「常時従事」する労働者に対しては、6カ月以内に1回必要になる健診があります。
対象となる業務には、深夜業のほか著しく暑熱な場所における業務や重量物の取扱い等重激な業務等が含まれます。
常時従事とは、常態として深夜業を1週1回以上または1カ月に4回以上行う業務をいうと解されています(昭23・10・1基発1456号)。
なお、危険有害業務に関する特殊健診(安衛法66条2項、安衛則22条)の「常時従事」の解釈はこれとは異なるため、管轄労基署等への確認が必要です。
深夜業に関しては、従事した時間数自体は問いません。
午後10時以降午前5時の間に少しでも業務を行う者であれば、常時従事に含むと解されています。
これは東京労働局健康課からのコメントとなっております。
定期健診と深夜業含む特定業務の健診の対象者ですが、条文の文言はそれぞれ「常時使用」と「常時従事」で異なります。
深夜業に常時従事(短時間でも該当)すれば特定業務の健診の対象となり得るのか、それともそもそも週の労働時間数が関係してくるのかという問題があります。
通達では、4分の3条件の対象を「同法(安衛法)の一般健康診断を行うべき短時間・有期雇用労働者」としています。
一般健康診断の範囲に特定業務の健康診断を含めていて、常時使用が前提としています。
この点について、あやふやな解釈があるので、該当する企業については、1度整理をして、対応が不十分であれば、早急に改善することをおすすめします。
健康診断の実施は、従業員が安心して安全に業務を行うことの第一歩になります。
そのために、必ず、年に1回、もしくは半年に1回、必ず実施してください。
また、従業員の都合で健診が未受診となった場合でも、当該従業員に何かあったら、会社の安全配慮義務違反となる場合もあるのです。
人的資本経営とは?
今回は「人的資本経営とは?」を解説します。
最近よく聞く言葉に「人的資本経営」があります。このことについてみていきましょう。
経済産業省のHPでは『人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です』。
企業が投資する資本の中には「有形資本」と「無形資本」があり、人的資本は無形資本に分類されます。
具体的な要素は、従業員の能力や経験、意欲などについてです。
そして、日本で人的資本経営という言葉が使われるようになったきっかけは、海外での開示の義務化が大きいでしょう。
では、なぜ世界的に人的資本経営に注目が集まっているのでしょうか?
理由として、以下の2つが考えられます。
〇技術の進歩による市場の成熟
〇ステークホルダーの意識の変化
まずは、「技術の進歩による市場の成熟」のためです。
自動化が進んだ第3次産業革命を経て、世界の市場はAIやロボットが業務を最適化する第4次産業革命を迎えています。
テクノロジーを活用して市場が成熟していくと、企業は技術力だけで競合との差別化を図ることが難しくなっていきます。
そこで重要になるのが、イノベーションのアイデアを生み出せる人的資本です。
現在の技術ではAIやロボットは学習により最適解を導き出すことはできるものの、潜在的ニーズを探索して新たな意味づけをしたり、市場を破壊するような革新的なイノベーションを起こしたりといったクリエイティブな活動はできません。
均質化された市場の中で競合優位性を保つために、従業員が価値を発揮できる環境を整える「人的資本経営」が求められているのです。
次に、「ステークホルダーの意識の変化」です。
環境汚染や不当労働問題などの社会課題を受け、企業の持続可能性(サステナビリティ)を評価する投資家や消費者が増えています。
サステナビリティは下記の3つの観点から評価されます。
環境:森林伐採、海洋温泉、温室効果ガスなどの環境問題への取り組み
社会:ジェンダーや教育の格差に取り組み、社会の安定への貢献
経済:貧困問題や労働環境、セーフティネットなど社会保障の整備・拡充
上記のうち、「社会」に関する取り組みとして求められているのが「人的資本経営」です。
サステナビリティを重視して投資を行うことは「ESG投資」と呼ばれており、人的資本開示を進めるきっかけになっています。
投資家や消費者に対して適切な取り組みを行っている企業であることを示すために、人的資本経営を進める企業も多いでしょう。
日本では2023年1月に、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本に関する戦略や指標などの開示を求める内閣府令が公布されました。
また、アメリカではすでに義務化が進んでおり、グローバルにおける動きも加速しています。
このような国際、国内の背景があったので、人的資本経営の考え方が広まりつつあるのです。
人材を資本として捉え、中長期的な企業価値向上を図ることが人的資本経営の本質なのです。
月60時間を超える残業と休日出勤の関係は?
今回は「月60時間を超える残業と休日出勤の関係は?」を解説します。
労働基準法による時間外労働の上限は、原則として月45時間・年間360時間となっています。
ただし臨時的に特別な事情がある場合に限り、各種制約はありますが、上限を超えた時間外労働も認められています。
ちなみに労働基準法の制限を超過する場合は、36協定の特別条項を結んでいたとしても、次の条件は必ずクリアしなければなりません。
〇時間外労働の合計は年間720時間以内
〇時間外労働・休日出勤の合計は月100時間未満
〇休日出勤の合計平均は2~6ヶ月のすべてで月80時間以内
〇月45時間を超過した時間外労働は年間6ヶ月まで
さらに月45時間を超えるケースでは、割増賃金の比率については1.25倍を上回った設定が努力義務とされています。
加えて月60時間を超過した際には、1.5倍以上の割増率にした賃金を支払わなければなりません。
これは必須であり、今までは大手企業にのみ課せられていましたが、2023年4月1日からは中小企業にも適用されております。
そこでこんな質問がありました。
「時間外・休日労働(36)協定を締結します。当社は週休2日制ですが、4月以降、月60時間超の残業に対して5割増の割増賃金が必要となるため、あまり命じてこなかった休日労働で対応できないか検討しています。一方で、休日労働はすべて3割5分を支払えば、時間数に含めなくて良いのではないかという話があります。どのように考えれば良いのでしょうか。」
このご質問に対して、回答は以下となっています。
就業規則に休日に関する事項を定めなければなりませんが、具体的な日数や曜日などを特定する必要は必ずしもないとしています。
行政解釈も、法律必ずしも休日を特定すべきことを要求していないが、特定することが法の趣旨に沿うとすると書かれています。
逆に、所定労働日や所定労働日数も就業規則の記載事項および労働条件の明示事項に含まれていません。
時間外・休日労働させるうえで必要となる36協定に記載が必要になるのは、「労働させることができる法定休日の日数」等です。
1週1休または4週4休であることに留意することとしています。
週休2日制を採用していたり、そうでなくても週1日の休日の他に祝日等を休日としている場合ですが、36協定を締結しなければならない休日労働とは、「週1回の休日に労働をさせる場合」であり、週1回の休日のほかに使用者が休日と定めた日に労働させる場合は含まれていません。
月60時間超の時間外労働時間数の算定と法定休日の関係ですが、過去の法改正時に示された解釈では、労働条件を明示する観点と割増賃金の計算を簡便にする観点から、就業規則等で法定休日と所定休日の別を明確にしておくのが望ましく、法定休日が特定されている場合は、割増賃金計算の際には当該特定された休日を法定休日と取り扱い、月60時間の算定に含めないこととして差し支えないとしています。
デジタル給与の解禁について
今回は「デジタル給与の解禁について」を解説します。
デジタル給与は2023年4月1日から解禁されました。
厳密に言えば、2023年4月1日から資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができるようになったのです。
そして、一般事業者は許可が下りた資金移動業者の中から選択した上で、各企業にて労使協定を締結し、使用者に同意書を提出して利用可能になる流れとなります。
利用される同意書は「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」になります。
この同意書を持って、使用者と労働者の同意が認められます。
デジタル給与が解禁される背景には、「キャッシュレス決済の普及」と「デジタル給与に対する一定のニーズ」が挙げられます。
日本では、キャッシュレス決済の比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%まで上昇させることを目指し、キャッシュレス決済の推進を、経済産業省が主導して取り組んでいます。
経済産業省が発表した「2021年のキャッシュレス決済比率」によれば、2021年のキャッシュレス決済比率は、32.5%と過去最高を記録しています。
しかし、同じく経済産業省が発表した「キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性」によれば、世界各国のキャッシュレス決済比率と、日本のキャッシュレス決済比率を比較すると、主要各国では40%~60%台となっているため、日本はこれからさらなる普及が見込まれると言えるでしょう。
そこで、このデジタル給与について、詳しくみてみましょう。
まず、上限が決められています。デジタル給与では、上限額が100万円に定められています。
厚生労働省の「資金移動業者の口座への賃金支払について」においても、「口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること」となっています。
つまり、デジタル給与として受け取る口座が100万円以上となった場合、労働者の意思に関係なく、余剰の金額が別の銀行口座に送金されます。
たとえば「楽天ペイ」のスマホ決済アプリで受け取った金額が100万円以上となったため、楽天ペイに紐付けられた「楽天銀行」の口座へ、自動的に余剰金額が送金されるなどです。
資金移動業者は、こうした措置を速やかに行う仕組みが必要になります。
では、仕組みをみてみましょう。
デジタル給与の仕組みは、シンプルです。
まず使用者である会社は、デジタル給与を希望する労働者の給与計算を行います。
給与計算は、これまでの銀行振込を行う場合と変わりません。
給与が確定したら、労働者の資金移動業者のアカウントに対して、使用者の資金移動アカウントから支払いを行います。
使用者の多くが給与を銀行振り込みにしていると思いますが、外国人材を受け入れる場合は、外国人材が銀行口座を開設するなど、給与を支払うための取り組みが必要となります。
一方でデジタル給与の場合は、決済アプリに給与の支払いが可能となり、外国人材に銀行口座の開設を求めることなくスムーズな手続きができるため、外国人材の受け入れ促進にもつながると考えられます。
65歳以上の継続雇用について
今回は「65歳以上の継続雇用について」を解説します。
先日、次のようなご相談をお受けしました。
「工場で65歳以降も継続雇用する予定の者がいますが、危険なミスを繰り返しています。幸いにも大きな事故には至っていません。継続雇用の規定は『会社がとくに必要と認める者』という文言があり、これに当てはめることは可能でしょうか」
このようなご相談は最近増えてきました。この場合、65歳までと65歳以降は分けて考える必要があります。
65歳までの雇用確保措置を講じることは義務となっています(高年法9条)。
そして再雇用の対象者基準を設ける仕組みがありますが、効力を有するのは令和7年3月31日までの間となっています。
そして、令和4年4月1日からは、64歳以上の者を対象としてこの基準を適用することが可能です。
ただし、今からこうした仕組みを設けることはできません。
これに対して65歳以降の高年齢者就業確保措置は、70歳までの安定した雇用を確保するように努めるようにとなっています(法10条の2)。
65歳以上の継続雇用制度も選択肢の一つとなっていて、対象者の基準を定めることが可能です。
よくある例が、人事考課や出勤率、健康診断の結果などを判断要素とするものです。
一方で、厚生労働省が基準として「適当でない」としているのが、会社が必要と認めた者に限る、上司の推薦がある者に限るなどです。
これは事業主が恣意的に特定の高齢者を措置の対象から除外することができるなどとして、基準がないことに等しいためとみなされてしまうからです。
ご質問のケースでは、会社において「会社がとくに必要と認める者」をどのように規定しているかは確認が必要となります。
出勤率などと並べて、「すべての条件」を満たす者を継続雇用するとしているのではなく、「いずれかの条件」を満たす者としているのであれば、これ自体規定として問題があるわけではありません。
65歳までの雇用確保措置に関してですが、厚労省は「過去〇年間の人事考課が〇以上である者」という要件を満たしていても、さらに「会社が必要と認める者」という要件も満たす必要がある場合、結果的に事業主が恣意的に継続雇用を排除することも可能となるため、このような基準の組み合わせは、法の趣旨を考えて、適当ではないとしているのです。
継続雇用の対象とするときに、労働条件をどうするかは基本的には会社が決めることができます。
例えば、65歳以降はそれまでと比較して健康上の問題も懸念されるなどとして、労働契約の期間を短く設定したうえで、勤務成績を踏まえて都度契約内容を見直すこと自体、直ちに問題があるとはならないのです。
まずは、65歳までと65歳以降は分けて考えて65歳以降について、もう一度上記の基準を基に見直しをしてみることをおすすめします。
特に「会社が必要と認める者」という文言が入っていた場合、違法と判断される可能性が高くなります。
そして、この文言を削除するだけでなく、客観的な条件の整備を行いましょう。
パタニティ・ハラスメントとは?
今回は「パタニティ・ハラスメントとは?」を解説します。
パタニティハラスメント(以下「パタハラ」)とは、主に男性労働者が、育児のために「育児休業・子の看護休暇・時短勤務などの制度利用を希望したこと」「これらの制度を利用したこと」を理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受け、就業環境を害されることを言います。
マタハラ・パタハラは、妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメントを分かりやすく説明するための造語です。
妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメントについては、当初、女性が妊娠・出産時に受けるものが注目され、「母性」や「妊娠している状態」をあらわす「マタニティ」を使用した「マタニティハラスメント」という造語がこの領域でのハラスメントを説明する用語として一般的に認知されるようになりました。
その後、父親が育児休業制度等を利用することに対する嫌がらせが社会的に注目されたことから、男性の育児に対して行われるハラスメントが「パタニティ・ハラスメント」という造語で説明されるようになり、女性に対するものが「マタハラ」、男性に対するものが「パタハラ」と呼ばれるようになりました。
なお、このような造語の経緯から、「パタハラ」も含めた妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメント全体を「マタハラ」と呼ぶこともあります。
「妊娠・出産」自体は女性が行うことから、「マタハラ」は女性に対する“妊娠・出産・育児”に関連するハラスメント、「パタハラ」は男性に対する「育児」に関連するハラスメントとなります。
妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントに関する法令は、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の2種類ですが、
・男女雇用機会均等法は「女性労働者」に対しての「妊娠・出産」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」に関する規定
・育児介護休業法は男女を問わない「労働者」に対しての「育児・介護休業」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」「パタハラ」双方に関する規定となります。
具体例としては
〇「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休むなら辞めてもらうしかない」などと言う
〇時間外労働の免除を希望した部下に対して、「昇進はなくなるぞ」などと言う
〇「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休まれると困るから」などと言い取得を認めない
〇「育児休業を取得する」と聞いた後、「仕事が大変になるから育児休業は取得しないでほしい」などと迫る
〇 「うちの部署は忙しいから、育児休業は利用しないように」などと日頃から発言している
〇「育休をとる人には責任のある仕事を任せられない」などと言い、簡単な業務しか担当させない
皆さんの会社でも気を付けてください。
健康診断の費用負担について
今回は「健康診断の費用負担について」を解説します。
健康診断は、会社に実施義務、労働者には受診義務が課せられています。
「健康診断の費用については、法律で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然事業者が負担すべきものである」としています。
健康診断等の実施に当たって、費用負担をどうすみ分けるのか5つのパターンについて検討してみましょう。
1 定期健康診断における費用負担
定期健康診断は、労働安全衛生法66条1項、労働安全衛生規則44条によって実施が義務付けられています。
よって定期健康診断の法定項目にかかる費用は、すべて会社側の負担とするのが基本です。
併せて、特殊健康診断(法定された有害な業務で働く労働者のための健康診断)にかかる費用も、会社側の負担となります。
2 雇入れ時の健康診断における費用負担
従業員の新規雇用において、健康診断を行う必要があります(安衛則43条)。
雇入れ時の健康診断においては、入社後に健康診断を実施して会社負担とするケースと近時の診断書の提出を求めて、本人負担とするケースがあります。
入社後に雇入れ時の健康診断を実施する場合、費用は会社負担となります。
診断書の提出を求める場合は、入社する従業員の負担とするケースもあるということです。
しかしながら、当該健康診断の実施は法律で義務付けられていることから、領収書等を徴求して会社負担とするのが望ましいというのが一般の考え方です。
3 定期健康診断それに伴うオプション検査における費用負担
法定項目については、会社負担が基本ですが、オプション検査を実施する場合は、従業員の個人負担となる場合も考えられます。
胃カメラ・乳がん検査・子宮頸がん検査等のオプション検査の受診は、法定されていないことから、受診費用は原則「個人負担」となります。
しかし、産業医が就業判定のために、オプション検査の結果が必要とした場合等は会社負担とすべきと考えます。
個人負担に関しては、安全衛生委員会等で労使の合意に基づき議事録に残したうえで規定化しておくことが望ましいと考えます。
4 人間ドックにおける費用負担
人間ドックは検査項目が多岐にわたること等から、定期健康診断として代用可能となっています。
その際、法定以外の項目は受診が必須ではないため当該費用は個人負担でも問題ありません。
5 再検査における費用負担
定期健康診断の実施義務は企業にありますが、再検査の受診勧奨は努力義務となっており従業員の受診義務も原則ありません。
しかし、企業には「安全配慮義務」(労契法5条)があります。
本人が受診義務はないとして再検査を受けない場合においても、健康診断結果で健康上のリスクが認められていた従業員が病を発症した場合、企業側が健康上のリスクに配慮した措置(再検査受診の勧告や配置転換等)を講じていなければ安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
人事評価の不満が起きる要因について
今回は「人事評価の不満が起きる要因について」を解説します。
人事評価に不満が起きる要因として、「評価基準があいまい」であることが挙げられます。
人事評価の基準が公開されず不透明であったり、明確な基準がなかったりする場合、社員から評価に対する不満が出やすくなります。
たとえば、営業職で売上や成約件数等、数字として実績が表れる職種は明確な基準を設けやすいでしょう。
しかし、数字として実績が現れにくい職種やチームで取り組む場合、個人の実績を評価に反映しづらく評価があいまいになります。
評価があいまいであれば、自分の努力や成果が評価に反映されているかわからず、人事評価に対する不満も増してしまいます。
さらに、「評価にばらつきがある場合」も、人事評価への不満が高まりやすくなるでしょう。
具体的な例として、以下が挙げられます。
〇売上など定量的な成果だけが反映され、業務の過程が全く評価されない
〇成果を上げても、最終的に年功序列が優先される
上記のように、評価が一部分に偏ることで公平性が保たれず、社員からの不満を受けやすくなるでしょう。
最近は、成果主義の人事評価制度が広まっていますが、わかりやすい成果でないと評価されづらい傾向にあります。
目に見えた成果が挙げられなければ、どんなに頑張っても評価につながらない印象を与えてしまい、社員のモチベーション低下につながります。
自身の頑張りが評価に反映されなければ、社員の不満はより一層高まるでしょう。
そして、「フィードバックが不十分である」ことも挙げられます。
評価後のフィードバックがない場合、「なぜこの評価になったのか」が社員に伝わらず、評価への納得度が向上しません。
また、フォローがなければ、自身の成果がどのように評価につながったかわからず、努力する方向性を見失ってしまいます。
結果的に、適切なアクションを取れなくなるでしょう。
だから、評価後にフィードバックすることで、「どのような課題を解決すれば評価につながるか」が明確になり、前向きなアクションを促し生産性の向上につながります。
また、人事評価の不満を放置するとトラブルのリスクが高まり、労働環境に悪影響を与えることとなります。
主なものとして以下の3つが挙げられます。
〇人事評価への不満を放置するリスク
〇社員がやる気をなくし生産性が低下する
〇退職者が増加する
正当な評価が下されないと、社員は努力しても意味がないと感じてしまいます。
そして、評価が適切でなく報酬に満足しなければ、転職する社員が増えてしまいます。
仮に退職者が増えれば、社員が会社で積み上げた能力・スキルを失い、穴埋めは可能ですが、採用コストが増えてしまいます。
また、退職者が口コミサイトなどで悪い評判を記載してしまうと、企業イメージも悪化し新規採用が難しくなります。
人事評価への不満を放置すれば、企業にとって多くの損失につながるでしょう。
退職届の撤回は可能でしょうか?
今回は、「退職届の撤回は可能でしょうか?」を解説します。
従業員から退職届を受け取った後、「やはり撤回してほしい」と頼まれることがあります。
仕事で失敗したり、上司に怒られたりした「勢い」で退職を決めてしまい、後々後悔するのが主な原因です。
貴重な労働力とはいえ、一度退職を決めた労働者を再び雇うのは、リスクが大きいといえます。
「またすぐに辞めるのではないか」という心配もありますから。
だから、撤回に応じるかは慎重に判断する必要があります。一方、会社に退職を強要され、仕方なく退職届を出してしまったというケースも少なくありません。
では、従業員に退職届の撤回を求められた場合、会社は応じる義務があるのでしょうか。
それは、退職の方法が「辞職」なのか「合意解約」なのかによって、対応が変わります。
撤回の申し出が認められるケースもあるため、まずはどちらに該当するかを確認する必要があります。
〇辞職:労働者が一方的に労働契約を終了させること
〇合意解約:労働者が退職を申し出た後、会社が合意することで労働契約を終了すること
辞職とは、従業員の一方的な意思表示によって、労働契約を終了させることをいいます。
そして、雇用期間の定めがなければ、いつでも契約の解消を申し出ることができます(民法627条)。
また、辞職に使用者の同意・承諾はいらないので、退職届が提出された時点で退職の効力が発生することになります。
よって、会社の同意がない限り労働者は辞職の申し出を撤回できず、会社も基本的に撤回に応じる必要はありません。
このルールは、民法上の規定に基づいています。
一方の意思だけで契約を解消できるとき、意向がコロコロ変わると相手に不利益をもたらすおそれがあるため、一度行った意思表示は撤回できないのが基本です(民法540条)。
また、合意退職とは、労働者からの退職の申し出を、会社が承諾することで労働契約を終了させる方法をいいます。
この場合、退職の申し出は「お願い」に過ぎないので、会社が承諾しない限り退職の効力は発生しません。
また、会社が承諾の意思を示すまでは、退職の撤回も可能となります。
反対に、一度退職を承諾してしまえば、会社は撤回に応じる必要がありません。
なお、退職の撤回が信義則違反にあたる場合、承諾前でも撤回を拒否できる可能性があります。
辞職と合意退職どちらにあたるかは、事案ごとに個別に判断されます。
判断方法としては、申し出までの経緯を考慮するのが一般的です。
従業員の「雇用契約を終了したい」という意思が客観的に明らかな場合、辞職の意思表示とみなされます。
例えば、「どれだけ説得されても残るつもりはない」などと公言している場合、辞職と判断される可能性があります。
また、書面の書き方で判断する方法もあります。
「退職届」であれば辞職、「退職願」であれば合意退職の申込みという考え方です。
ただし、書類だけで決めるのは不合理なので、この方法はあまり良いとは言えません。
実務上では、退職に本人の強い意思がない限り、合意退職の申入れと判断するのが一般的です。