
委託契約と労働契約の差はどこですか?
今日は「委託契約と労働契約の差はどこですか?」を
解説します。
会社は労働契約を締結すると、社員の働き方に対し、
守らなければならないことが多くあります。
具体的には
〇 労働時間
→ 特に残業時間の上限についてなど
〇 賃金の支払い
→ 支払いの計算期間、支払い時期、残業等の割増率など
〇 休日、休暇、休憩時間
などの多くを労働法のルールの中で守らないといけないのです。
特に、働き方改革法で中小企業にも残業規制が適用となった
今年から、多くのご相談が顧問先を中心に寄せられています。
多くは
「残業時間が多いので、委託契約で外注として仕事をしてもらいた
というご要望が多いのです。
しかし、契約のタイトルを「業務委託契約」に変更すれば良い、
ということではありません。
業務委託契約は雇用契約と異なり、「使用者」と「労働者」
というような主従の関係にない独立した事業者間の契約である
ということです。
では、雇用契約のポイントは何なのでしょうか?
雇用契約における「労働者」であるか、
契約の形式のいかんにかかわらず、
実質的な「使用従属性」をもって判断しなければならないのです。
会社と従業員の契約に「使用従属性」が認められれば、
契約のタイトルは別として「労働者」として労働法上の
適用があるのです。
この「使用従属性」が認められやすくなる
具体的な要素をみてみましょう。
〇 仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
〇 業務遂行上の指揮監督の程度が強い
〇 勤務場所・勤務時間が拘束されている
〇 報酬の労務対償性がある
→ 報酬が、仕事の成果ではなく働いたことそのものに
対するものである場合や、報酬が時間給や日給によって
定められているような場合を指します
〇 機械・器具が会社負担によって用意されている
〇 報酬の額が一般従業員と同一である
〇 専属性がある
→ 「その会社の仕事しかしない」というような場合を指します
〇 就業規則・服務規律の適用がある
〇 給与所得として源泉徴収されている
〇 退職金制度、福利厚生制度の適用を受けることができる
これらの項目に該当すればするほど「使用従属性」が認められ、
契約が「業務委託」でも、労働者として判断される可能性が
高くなるのです。
逆に言えば、上記の項目に該当しない場合は「使用従属性」が
認められず、「業務委託」と判断されることになるのです。
これに関する裁判があります。
<岡地事件 東京地裁 令和2年1月15日>
〇 Aは商品先物取引業の外務員として、
会社と「登録外務員雇用契約」を締結し勤務していた。
〇 外務員が取り扱った委託者に関し、未収金が発生し、
それが完済されなければ外務員が弁済しなければならなかった。
〇 外務員は身元保証金として、毎月の報酬の支給総額の10%を
積み立てることとなっていた。
→ このお金は未収入金に充当されることとなっていた
〇 Aは契約が終了した時点で約397万円の保証積立金があり、
未収金が約189万円あったので、会社はこれを除いた金額を
返還した。
〇 Aはこれを受け、「契約は雇用契約と主張」し、
未収金の約189万円の返還を求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。
〇 Aの請求を棄却する。
→ 会社の主張が認められた
→ Aは「委託契約」であり、雇用契約ではないので、
労働者ではない
この裁判のポイントをみてみましょう。
〇 歩合外務員の指揮監督について
歩合外務員には上下関係はなく、組織体系もとられていなかった。
Aはインターネット上に個人で開設したサイトで営業しており、
自身の裁量で営業活動を展開していたが、制限等はなかった。
よって、業務遂行指揮命令は、極めて弱いと判断されたのです。
〇 勤務場所、勤務時間の拘束性
歩合外務員の出退勤時刻及び休憩時刻の定めはなく、
場所的拘束もなかったと判断されました。
〇 報酬の労務対償性
欠勤控除等もなく、売上に一部連動されていたので、
報酬の労務対償性が強いとは評価できない。
〇 社員外務員との相違
社員外務員と歩合外務員の採用について、区分されており、
就業規則、報酬体系、配属、上下関係の有無などについても
差異を設けていて、明確に区分して管理を行っていた。
以上のように雇用と委託の違いは明白であったと結論づけたのです
しかし、契約書のタイトルが「登録外務員雇用契約書」と
なっていました。
ただ、実態を紐解いてみれば、指揮命令を前提としない契約なので
労働者性は認められないとされたのです。
このように労働契約か?業務委託か?は「契約の形式」だけで
判断されず、「実態」で判断されます。
そして、上記の箇条書きのような部分が大きなポイントとなるので
グレーゾーンで、業務委託で動いてもらっている人がいる会社は
「使用従属性」が認められるのか?否か?を検討して下さい。
業務委託契約なのに、
〇 時間の拘束を行っている
〇 同じような業務だから、社員と同等の報酬
〇 会社からの依頼に対して拒否することができない
〇 他の業務を行う事を禁じている
〇 会社の備品を使用させている
などの場合、労働者と判断される可能性が高くなります。
だから、業務委託契約にする際には、
次の条件を満たすように注意して下さい。
〇 仕事の依頼や指示に対する承諾、拒否の自由を与える。
〇 業務の遂行方法は本人に任せる。
〇 契約している仕事以外を依頼しない。
〇 業務を行う場合、時間の拘束をしない。
〇 報酬の計算は業務内容や成果物に対して設定する。
→ 時間給や日給といった時間をベースにする報酬としない。
〇 本人が所有する機械、器具を使用してもらう。
仮に、労働者と判断されると
〇 健康保険、厚生年金、雇用保険等の保険料の負担
〇 残業代等の支払い
〇 年次有給休暇の付与
〇 解雇予告の手続き
〇 健康診断の実施
〇 最低賃金の適用
などが必要となり、経済的な負担が大きくなる場合があります。
また、「偽装請負」と判断されると
遡って社会保険料等の徴収がされる場合もあるのです。
コスト削減や人員調整のために業務委託契約の活用は有効です。
しかし、実態が「社員と同様」であれば、契約の形式に関わらず、
「外注費」ではなく、「給与」と判断されるのです。
ここは十分にご注意ください。
固定残業の有効性について
今回は「固定残業の有効性について」を解説します。
コロナ禍の影響が色濃く残っている状況で、
働き方改革も進んでいます。
感染者が多い都市部では、労働基準監督署の調査もまだまだです。
しかし、地方では、「働き方改革法の改正点」を中心に
たっぷり時間をかけて実施されているところもあるのです。
改正点で、特に調べられているのは
〇 残業時間の量
〇 36協定の運用
〇 有給休暇の状況
等に力を入れて調査が実施されていました。
その中で、残業時間、残業手当については、
事細かく調査が実施されたのです。
そこで、多くの会社が、残業手当の支払いで、
固定残業で支払っているケースが見受けられます。
しかし、固定残業での支払いに不安を抱えている社長が
少なくありません。
なぜなら、固定残業代の要件を満たして、
法的に認められるケースがあやふやだからです。
一般的には、以下が要件とされています。
〇 固定残業制度を採用することが労働契約の内容と
なっていること
〇 通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分が
明確に区別されていること
〇 労働基準法の計算方法による額がその額を上回るときは
その差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていること
これに関する裁判があります。
<PMKメディカルラボ事件 東京地裁 平成30年4月18日>
〇 甲社および乙社は、主にエステティック技術の施術等の美容業を
提供する、同一人が代表者の協力関係にある株式会社である。
〇 従業員Aらは甲社に入社し、労働契約を締結して後、
乙社に出向し、その後、転籍した。
→ 特殊勤務手当及び技術手当が、残業に対する対価として
支給されることとなっていた
〇 その後、Aらは乙社を退職した。
〇 Aらは「固定残業は無効」と主張し、
加入していた労働組合を通じて、未払残業代の支払いを求めた。
〇 しかし、甲社はこれに応じなかったため、Aらは訴訟を起した。
そして、裁判所は以下の判断をしました。
〇 固定残業に関する規定が、労働契約の内容として
合意されていたことを裏付ける証拠が存在しない。
〇 甲社の就業規則によると、各手当は
「いずれも時間外手当に対応するものである」ことが明示され、
通常の賃金とも区分されていた。
〇 しかし、規定された就業規則が周知されていなかった。
〇 以上により、Aらの主張が通り、会社は敗訴した。
この裁判を詳しくみていきましょう。
固定残業に含まれる手当が以下となります。
〇 特殊勤務手当(3万円):従業員が業務の都合によって
休憩時間を規定通りにとれない場合、または清掃や後片付け、
あるいは開店準備や閉店締め作業など、通常勤務時間外に
通常業務の補足的な仕事を行わなければならない場合
→ 時間外労働手当として特殊勤務手当を支給する。
この手当に該当する時間外労働時間は23時間とする。
〇 技術手当(1万円):特殊勤務の項目に該当する時間外労働手当
および深夜勤務手当の加算額の合計額が、特殊勤務手当の支給額を
超える場合に支給する。
→ この手当に該当する時間外労働は7時間とする。
〇 役職手当:従業員の勤務態度、勤務成績に応じて昇格した場合は、
役職に応じて役職手当を支給する。
→ 役職手当は、殊勤務手当項ならびに技術手当項に規定された
時間外労働時間を超えて時間外労働が生じた場合、
その不足した時間外労働手当を補填する目的で支給される。
→ 役職手当で補填される時間外労15時間とする。
事例の裁判の主な争点は、時間外労働時間に対する対価として
特殊勤務手当、技術手当および役職手当を支払うことが、
Aらと甲社らとの間の労働契約の内容となっていたということです
また、固定残業代の有効性争われたのです。
そして、裁判は以下のようにして、Aらの請求を認容されたのです
〇 労働契約の合意内容について
・乙社の入社説明会でAらに交付した書面に特殊勤務手当及び
技術手当が、時間外労働に対する対価として支給されることを
窺わせる記載が一切ないこと。
・乙社の入社時、Aらの労働条件に関する書面は
一切作成されていないこと。
・乙社が、ホームページの採用情報の給与欄に、固定残業代の
説明をするようになったのは、Aらが退職後であること。
・固定残業代に関する規定が、労働契約の内容として
合意されていたことを裏付ける的確な証拠は存在しない。
〇 就業規則や賃金規程の周知について
・就業規則、賃金規程等が所定の場所(本社)にあり、
いつでも本社内で閲覧ができ、要請があれば各店舗に
郵送できる状態にあることを確認した。
・本社以外の、他の従業員に対して、
要請があれば各店舗に郵送できる状態にある旨を周知していたと
推認することはできない。
このように、固定残業制度が認められないと結論づけたのでした。
様々な名目で支給された定額残業代が労基法37条の割増賃金の
支払いとして有効と認められるか否かは、定額残業分の手当ないし
金額が割増賃金に該当することが明示されていることが条件です。
第2に通常の労働時間の賃金と割増賃金に当たる部分が
明確に区分されていることが合意されていることが必要です。
事例の裁判で、就業規則は固定残業に対する明示がなされていて、
通常の賃金とも区分されていて、規定された時間外労働時間を
超えた場合、その不足した時間外手当を補填するとなっていました
従って、有効要件は具備していたのですが、
労働契約の内容として合意されていたか否かが争われたのです。
時間外手当を含む賃金について、会社は就業規則に委ねるのが
通常ですが、就業規則を周知しないと、その効力は及ばないのです
また、労働契約の内容について、できる限り書面により確認する
と定められています。
よって、会社が労働条件に関する書面を作成していなかったなら、
労働条件の説明と同意が不十分であったと認定されてしまいます。
固定残業代について、問題となりそうな箇所があるのであれば、
会社としては、労働条件の説明と同意、
そして書面化ということが必須であるので注意が必要となるのです
1つ一つのポイントを押さえて、実行することがトラブル防止の
第一歩となるのです。
定年後再雇用で、定年時と同じ業務を希望したら・・・
今回は「定年後再雇用で、定年時と同じ業務を希望したら・・・」
を解説します。
2021年4月より、中小企業でも「同一労働同一賃金」の
制度がスタートしております。
その関係で、社員とパート社員の処遇のご相談について、
多くの相談が寄せられています。
皆さんの会社はいかがでしょうか?
そして、定年前と定年後の処遇のご相談も多いです。
先日、以下のご相談を受けました。
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定年を迎える社員がいて、再雇用を検討しています。
そして、本人から「定年前と同じ仕事をさせてもらう権利が
あるのでは?」と言われました。
賃金についての合意はできたのですが、業務内容について、
同じ業務をさせなければならないのでしょうか?
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会社は65歳まで社員が働けるようにする義務があります。
しかし、再雇用で定年前と同じ業務内容や勤務条件に
することまで法的に求められていません。
再雇用制度では60歳で一旦退職して、
再び同じ会社やグループ会社に再雇用することになります。
新たな労働条件に同意して働く制度です。
ご相談頂いた会社の社員の方は、
雇用延長により「作業内容が継続するイメージで考えていたのでは
と考えられます。
再雇用制度では、定年退職して新たな労働契約を結び雇用関係が
スタートします。
賃金や業務内容など労働条件が変わるのが一般的です。
しかし、働き方改革で「同一労働同一賃金」がスタートし、
法律の理解が足りないのか、定年前後の賃金や業務内容で、
トラブルが増えております。
定年後の再雇用での給与水準については、
同一労働同一賃金の制度がスタートされ、
判例等で概略がみえてきました。
しかし、定年後にどのような業務に就いてもらうかは、
各企業によって大きく異なります。
そして、多くの企業では「定年前とさほど変わりがない」
という声も多いです。
そのため、現場では「どのような業務を任せたらいいのか?」
という声もあるのです。
これに関する裁判があります。
<アルパイン事件 東京地裁 令和元年5月21日>
〇 Aは音響機械器具の製造販売等を目的とする会社で、
音響機器の開発業務を行っていた。
〇 Aは定年をむかえるにあたり、再雇用を希望し、
業務は定年前と同じ音響機器の開発業務でした。
〇 定年後再雇用に関し、会社側と従業員側は労使協定を
締結していた。
〇 労使協定には、「本人の意向を踏まえ再雇用希望者の知識、
技能、ノウハウ又は組織のニーズに応じて、職務及び労働条件を
設定し、契約開始の6カ月前までに提示する」となっていた。
〇 なお、再雇用先にはグループ会社も含むこととし、
本社以外で就労する場合の労働条件等は各社の基準による
となっていた。
〇 Aは、本社の100%子会社との間で、定年後に引き続き
雇用することを約する契約を締結した。
〇 会社はAに対し、雇用契約を子会社とし、勤務先会社を本社、
勤務部署を人事総務部、職務内容を労政チーム内業務等、
定年再雇用の条件を提示した。
〇 Aは会社対し、定年再雇用の条件につき、勤務部署として
サウンド設計部を希望すると伝え、契約期間・年間総労働日数
始終業時間・給与は了承すると回答した。
〇 さらに、勤務部署をサウンド設計部とし、職務内容も従前と
同内容で定年再雇用してもらいたいとし、会社が提示した条件を
拒否した。
〇 さらに、会社が提示した条件を拒否する旨通知した。
〇 Aはその後定年となり、退職金の支払いを受けた。
〇 Aは定年後も音響機器の開発業務を希望した.
しかし、単純な事務作業を提示され屈辱感を受けたとして裁判を起
会社に損害賠償等を求めた。
そして、裁判所は以下の判断を下しました。
〇 高年法は労働者が希望する条件で継続雇用等を
義務付けていないと判断した。
〇 本件は、賃金額には同意しており、勤務場所、職務内容も
「客観的にみて不合理」とはいえないと判断した。
〇 継続雇用を拒否した理由は主観的なものにとどまるとした。
この裁判を詳しくみてみましょう。
Aは、サウンド設計部における業務ではなく事務の職務内容に
係る業務を担当させられることは自尊心を著しく傷つけられ
屈辱感を覚えることを理由として会社からの申込みを拒みました。
しかし、裁判所は、その理由は主観的なものと判断されています。
そして、定年後に雇用契約が成立しなかったのは、
会社がAに対して定年再雇用を拒んだからではなく、
会社の申込みを承諾せず、拒否した結果と判断されました。
よって、会社がAに対して申し込んだ定年再雇用に係る
勤務場所及び職務内容が客観的に見て不合理であったとは
認めらません。
よって、定年再雇用契約が成立しなかったことにつき、
「会社に違法な行為があったと認める余地はない」としたのです。
今回は、高年齢者雇用安定法(高年法)9条に基づく
高年齢者雇用確保措置についての判断がポイントとなりました。
高年法9条1項に定める継続雇用制度には、
定年後に新たな有期雇用契約を締結する定年再雇用制度も
含まれています。
そして、高年法には、継続雇用制度の具体的内容を定める
規定もありません。
それゆえ、使用者には定年退職者の希望に合致した労働条件での
雇用や、定年前と同一職務〈職種〉、同一処遇での雇用を
義務付けるものではないことは明らかです。
定年後再雇用時に、会社の合理的な裁量の範囲内の条件を提示し、
労働者との間で労働条件等についての合意が得られず、
継続雇用に至らなかったとしても、法違反がではありません。
今回の事例は上記のことが明らかとなったものです。
また、別の裁判で、業務内容が問われたものがあります。
トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁 平成28年9月28日)では、
事務職の定年退職者に対し、清掃等の単純労務作業に従事させる
取扱いをしました。
これについて、
〇 無年金・無収入の期間の発生を防ぐとの趣旨に照らし
到底容認できないような低額の給与水準であるか否か
〇 社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ
難いような職務内容を提示する等実質的に継続雇用の機会を
与えたとは認められない場合
上記では高年法の趣旨に反するとの規範を立て、
不法行為の成立を認めたものもあります。
しかし、「定年退職者が同意することがないと客観的に
判断されるなどの特段の事情がない限り、使用者の裁量の範囲内
と解すべきである」としています。
定年後の再雇用について、どんな仕事に就いてもらうかは、
会社の裁量ということになります。
ただし、「誰がみても、これはひどい異動先」」であったら、
問題ですが・・・。
定年後再雇用について、注意があります。
それは、年次有給休暇についてです。
年次有給休暇は定年前の有給休暇を引継ぐので、
ゼロリセットにはなりません。
継続するので、ここは忘れないようにしてください。
日本は高齢化がどんどん進んでいます。
会社も同じです。
皆さんの会社はいかがでしょうか?
少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、
経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者が
その能力を十分に発揮できるように法改正がありました。
高年齢者雇用安定法の一部が改正され、
令和3年4月1日から施行されています。
70歳まで働ける環境になると再雇用者は増えていきますので、
こうした人たちがやる気を失っては困ります。
今後は、総合的な対策が必須となってくるのでしょう。
中小企業も対象に!パワハラ防止法が義務化されました
今日は「中小企業も対象に!パワハラ防止法が義務化されました」を解説します。
2020年6月、パワーハラスメントの防止に関する法律
(改正労働施策総合推進法)が施行されました。
そして、中小企業は2022年4月にその対象となったのです。
つまり、ハラスメントの防止・対策を行なうことが
中小企業においても義務化されているのです。
パワハラは、
〇 優越的な関係を背景とした言動
〇 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
〇 労働者の就業環境が害されるもの
上記の3要素をすべて満たす行為を言います。
中小企業は、パワハラ防止に向け方針などの明確化および周知・啓発、
相談など適切に対応するために必要な体制の整備、
トラブルへの迅速かつ適切な対応などを行わなくてはならないのです。
では、中身を見ていきましょう。
パワハラ防止法で中小企業に課せられる義務の内容とは、
どんな内容でしょうか?
それは、
〇 ハラスメントに関する相談があった場合には、
必要な措置をとらなければならない
〇 相談者のプライバシーを守り、
相談された内容を元に不利益な取り扱いをしてはならない
ということです。
具体的にはハラスメントを防止するために、
1~4の措置を講ずべき義務となります。
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
4.1~3までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを
保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、
パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止
つまり、パワハラに対する「社内方針の明確化と周知・啓発」
「相談体制の整備」「被害を受けた労働者へのケア」や
「再発防止」について、適切な措置を取ることが求められているのです。
これだけの対応を今年の4月までに整備しないといけませんが、
まずは「パワハラ」を正確に理解する必要があります。
セクハラとパワハラは似たものと言われていますが、
大きな違いがあります。
それは、セクハラは被害を受けた者が「セクハラを受けた」と感じれば、
セクハラとなります。
しかし、パワハラは客観的な事実に基づいて、判断されるのです。
それは、上司の口調が厳しくて、部下が「パワハラ」と感じても
「業務指導の範囲内」であれば、パワハラに該当しないのです。
これに関する裁判があります。
<国・品川労基署長事件 東京地裁 令和元年8月19日>
〇 社員Aは上司から「パワーハラスメントを受けた」と主張した。
〇 これにより、抑うつ状態・適応障害を発病し休業に至ったと
主張した。
〇 そして、所轄の品川労働基準監督署長に対し、
労災法の休業補償給付の請求をした。
〇 しかし、労基署は、「業務が原因で発症したのではない」と判断し、
休業補償給付を支給しないと判断した。
〇 Aは、この決定に納得がいかず、不服申し立てをしたが、
労災保険審査官も不支給処分の審査請求について棄却の決定をした。
〇 そのため、Aは処分の取消しを求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇 Aが業務をできるようになるまで上司が根気強く指導する中で、
「あほ」など口調が厳しくなったが業務指導の範囲内であり、
仮に逸脱する部分があったとしても嫌がらせ等とはいえない。
〇 本件の疾病は、業務上の疾病には当たらず、
不支給処分は、いずれも適法であると判断した。
この裁判を詳しくみていきましょう。
上司である課長は、Aに対し、
〇 君の考えはどうなんだ?
〇 君がどうしたいっていうのはないの?
等と同じ質問を繰り返していた。
それとともに、「ふざけんなおまえ」、「あほ」と述べるなど、
時折、厳しい口調で指導していた事実は認められました。
しかし、Aが単純な計算を誤ったり、課長の話を聞かず、
要領を得ない回答を繰り返したりしたためでした。
そして、課長の指導の口調が厳しくなる場面があったのです。
そして、Aが自分で計算できるようになるまで、
根気強く指導がされていたことが認められ、
病気の発症は業務上の疾病には当たらないと判断されたのです。
パワハラの認定で、指導の範囲内か、または、逸脱して違法か、
の判断は微妙な問題です。
そして、個別具体的な裁判上の証拠調べの結果に
委ねられることが多いです。
しかし、パワハラの違法性は、セクハラと異なり「主観」ではなく、
指導での業務範囲の「大幅な逸脱が認められるか?」が要件となります。
特に「相手に対して、人格否定を行う」ことが、
パワハラと認められるポイントとなります。
この境界線を意識して、ハラスメント対策を行うが重要となりますので、
皆さんの会社でも対策を立てるときは、このことを意識しましょう。
健康診断の費用負担について
今日は、「健康診断の費用負担について」を解説します。
皆さんの会社では毎年「健康診断」を実施していますか?
健康診断は、会社に実施義務、従業員には受診義務が課せられています。
そして、通達(昭47・9・18基発602号)で、
「健康診断の費用については、法律で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然事業者が負担すべきものである」としています。
健康診断等の実施に当たって、費用負担をどうすみ分けるのか5つのパターンについてみてみましょう。
(1)定期健康診断における費用負担
定期健康診断は、労働安全衛生法66条1項、労働安全衛生規則44条によって実施が義務付けられています。
よって、定期健康診断の法定項目にかかる費用は、すべて会社側の負担とするのが基本です。
併せて、法定された有害な業務で働く労働者のための健康診断である特殊健康診断にかかる費用も、会社側の負担となります。
(2)雇入れ時の健康診断における費用負担
従業員の新規雇用で、健康診断を行う必要があります(安衛則43条)。
雇入れ時の健康診断は、入社後に健康診断を実施して、
会社負担とするケースと、診断書の提出を求めて、
本人負担とするケースがあります。
入社後に雇入れ時の健康診断を実施する場合、
費用は会社負担となります。
診断書の提出を求める場合は、
入社する従業員の負担とするケースもあるということです。
ただし、健康診断の実施は法律で義務付けられているので、
領収書等を徴求して会社負担とするのがのぞましいでしょう。
(3)定期健康診断に伴うオプション検査における費用負担
法定項目については、会社負担が基本ですが、
オプション検査を実施する場合は、従業員の個人負担となります。
胃カメラ・乳がん検査・子宮頸がん検査等のオプション検査の受診は、
法定されていないことから、受診費用は原則「個人負担」となります。
しかし、産業医が就業判定のために、
オプション検査の結果が必要とした場合等は会社負担とすべき
と考えます。
個人負担に関しては、安全衛生委員会等で労使の合意に基づき、
議事録に残したうえで規定化しておくことが望ましいでしょう。
(4)人間ドックにおける費用負担
人間ドックは検査項目が多岐にわたること等から、
定期健康診断として代用可能となっています。
その際、法定以外の項目は受診が必須ではないため、
費用は個人負担でも問題ありません。
ただ、自治体や健康保険組合等の独自の補助制度もあるため、
会社が一部負担する制度等を導入するケースもあります。
その際は、安全衛生委員会等で労使間にて負担に関する条件について
定義し議事録に残す、あるいは規定化しておくと、
公平な管理が可能となります。
(5)再検査における費用負担
定期健康診断の実施義務は企業にありますが、
再検査の受診勧奨は努力義務となっており、
従業員の受診義務も原則ありません。
しかし、企業には「安全配慮義務」(労契法5条)があります。
本人が受診義務はないとして再検査を受けない場合においても、
健康診断結果で健康上のリスクがある従業員が病を発症した場合、
企業側が何もしていなければ、安全配慮義務違反の可能性が大です。
さらに、産業医が再検査を条件に就労の可否を判断した場合は、
会社は安全配慮義務に基づき、費用負担したり、
再検査日に有給で休んでもらう等の配慮することが必要となります。
また、特殊健康診断で「有所見(異常あり)」となった場合は、
義務として再検査が必須となります。
この場合、費用は当然会社負担となります。
それから「健康診断の受診時間分の賃金はどうなる?」
という事もよくご質問をいただきます。
健康診断は、健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものです。
だから、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。
そのため、一般健診の受診時間の賃金は労使間の協議によって
定めるべきものでしょう。
厚労省の見解では、円滑な受診のためには、
「受診に要する時間の賃金を事業者が支払うことがのぞましい」
としています。
また、特殊健診に関しては「所定労働時間内に行う」
のを原則としています。
このように法律、通達で決まっていることがあるので、
皆さんの会社でも先にルールを決めておくが大切なのです。
事業場外みなし労働時間制の適用について
今回は「事業場外みなし労働時間制の適用について」を解説します。
皆さんの会社では、残業時間の管理をきちんと実施されていますか?
働き方改革関連法の改正で、残業時間の上限規制ができました
そして、会社は、上限を超えて社員に残業させると、法律で、会社に対して罰則が適用されることとなったのです。
そこで、私どものところに、多くの会社から残業対策を求められたのです。
その1つが「事業場外みなし労働時間制」です。
「事業場外みなし労働時間制」とは、社員の業務が会社の外で行われるために会社が社員の労働時間を把握することが難しい場合
通常の労働時間は9時~18時までというように、始業や終業の時刻を就業規則などで定めなければなりません。
事業場外みなし労働時間制は、労働時間の管理の例外的な制度です
いったん導入すれば、あとは従業員がどのように働こうが、労働時間とみなした時間で働いたことになるからです。
まずは、あらかじめ決められた時間の決め方についてみていきましょう。
この時間は、1日単位で決める必要があり、決め方は労働基準法で定められています。
原則的には、所定労働時間働いたものとみなすことになっています
所定労働時間とは、就業規則等に記載された1日当たりの労働時間のことです。
例えば、就業規則などで、就業時間が9時~18時(休憩1時間)となっていれば、所定労働時間は8時間ということになります。
しかし、実態は9時間かかる仕事が対象というケースも考えられま
このような場合には、実際にかかると思われる時間(通常必要時間
通常必要時間は、会社が決めることもあれば、労働組合や社員の代表者との協定、いわゆる労使協定で決めることもあります。
いずれにしても、社員にとって納得できる時間を決めることが重要です。
もちろん、会社で一律に決める必要もなく、複数の職種で導入するのであれば、職種ごとに決められます。
さらには、月によって繁忙の差があれば、月ごとにみなし労働時間を定めることも可能です。
事業場外みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、決められた時間働いたものとみなす制度です。
この「みなす」という言葉が法律で出てきた場合には要注意です。
法律で「みなす」という言葉は非常に強い意味を持ちます。
法律上、「みなす」とは実態と異なっていても、みなされた通りに扱うということです。
ある日9時間働いても、みなし労働時間が8時間なら働いた時間は8時間として扱われるということです。
このよう労働時間管理の例外的な制度になりますので、導入するためにもいくつかのクリアすべき条件があります。
それは、次の2つの要件をクリアする必要があります。
(1)会社の外で業務に従事していること
(2)労働時間の算定が困難であること
(1)に要件の「会社の外」というのは、そのままなので分かりやすいかと思います。
(2)の「労働時間の算定が困難」という要件の判断が、導入の上でより重要です。
いくら会社の外での労働でも、時間管理ができる環境であれば、この制度は導入できないのです。
例えば、1日中外回りの営業でも、社内システムで訪問時間のスケジュールが確認できる環境や、営業管理ソフトなどで営業報告を行うといったことをしていれば、時間の把握は可能です
スマートフォンやタブレットが普及し、クラウドシステムなどでスケジュール管理が一般的になった今、労働時間の算定が困難という要件を満たすことが非常に困難です。
これに関する裁判があります。
<落合事件 東京地裁 平成27年9月18日>
〇 Aは外回り営業マンとして勤務していた。
〇 Aの働き方は事業場外みなし制だった。
〇 Aは退職後、「出退勤時刻の把握は可能」などとして割増賃金等を求めた。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇 「直行直帰が許されていないこと」、「事前の営業予定表や事後の日報で訪問先など業務内容を把握できること」から指揮命令を及ぼすことは可能であった。
〇 労働時間を算定し難いとはいえず、みなし制の適用はないとした。
この裁判を詳しくみていきましょう。
外回り営業の担当者Aは、
〇 直行直帰が許されていないため、所属長は出退勤の時刻を管理することが可能。
〇 出勤後に営業日報に訪問予定先や訪問時間、PR内容を記載した営業予定表を所属長に提出しており、所属長は営業担当者の一日の業務内容を把握することが可能。
〇 業務内容その内容の修正、変更を指示することも可能。
〇 帰社後、その日の訪問先や商談内容を営業日報の作成、提出又は口頭で報告することとされていた。
〇 所属長は予定表と異なる場合は更に詳細な報告を求めることが可能。
以上により、
〇 出退勤時刻を把握することが可能であり、
〇 営業予定表及び帰社後の報告を通じて外回り営業中の業務を把握することも可能。
〇 外回り中に対して具体的な指揮命令を及ぼすことが可能
となっていたのです。
よって、外回り営業への従事が「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは認められず、事業場外におけるみなし労働時間制の適用
事業場外みなし労働時間制ができたのが昭和62年(1987年)
以前は、システムの都合でどうしても労働時間が管理しきれない
という場合に導入が主だった制度です。
しかし、今は就業形態や仕事内容の都合で労働時間が管理できないといった場合にシフトしています。
いずれにせよ、みなさんの会社で新規に導入を
(1)会社の外で業務に従事していること
(2)労働時間の算定が困難であること
を意識しないといけません。
また、残業対策として安易に「事業場外みなし労働時間制」を入れると、事例の裁判のように否認されることもあります。
事業場外みなし労働時間制の意味を考えて導入しましょう。
事業所を閉鎖しても、解雇はできない?
今回は「事業所を閉鎖しても、解雇はできない?」を解説します。
長引くコロナ禍の影響で、事務所や店舗の閉鎖が多くなっています。
また、後継者不足のため、会社をたたむという話もよく聞きます。
会社をたたむ状況となったら、従業員はどうなるのでしょうか?
事業が終了となるので、全員解雇となるのでしょうが、
これは果たして「有効」となるのでしょうか?
まず、会社側の理由で「解雇」となると、
整理解雇の要件をクリアする必要があります。
(このメルマガでは、何度も取り上げてきましたが、
復習のためにもう一度整理します)
この要件は「整理解雇の4要件」と呼ばれ、
内容は以下となります。
(1) 人員整理の必要性
→ どうしても人員を整理しなければならない経営上の理由があること。
(2) 解雇回避努力義務の履行
→ 希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向、配置転換、
一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を
尽くしていること。
(3) 被解雇者選定の合理性
→ 解雇するための人選基準が評価者の主観に左右されず、
合理的かつ公平であること。
(4)解雇手続きの妥当性
→ 解雇の対象者および労働組合または労働者の過半数を代表する者と
十分に協議し、整理解雇について納得を得るための努力を尽くしていること。
この要件をみていると、かなり厳しいと感じます。
単に、「事業をたたむから、はい、解雇です」は通用しないという事です。
様々な解雇を回避する努力を行い、
役員自らも血を流し、従業員に納得いくように説明等を実施して、
はじめて要件がクリアされるのです。
そして、要件がクリアしないと「法的に有効」とはならないのです。
これに関する裁判があります。
<ネオユニット事件 札幌高裁 令和3年4月28日>
〇 会社は、指定就労継続支援事業所を運営していた。
〇 そして、施設を閉鎖し事業を終了して、
施設のスタッフ等を全員整理解雇しました。
〇 会社は、スタッフ等に対して、解雇予告通知書を交付し、
解雇及び施設閉鎖を告知しました。
〇 スタッフらに対しての説明の機会は説明会のみでした。
〇 スタッフらが解雇の無効を主張し、逸失利益や慰謝料の支払を求めた。
〇 1審判決は、整理解雇の4要件のうち、
人員削減の必要性については、事業廃止の必要性を問題とすべきで、
人員削減が認められる以上は整理解雇を選択することの必要性が認められ、
人選の合理性も別途検討する必要はないとして解雇を有効としました。
〇 1審判決に対して、スタッフ等が控訴しました。
そして、高等裁判所は以下の判断を下したのです。
〇 控訴審は、施設の閉鎖は不合理とはいえず、
人員削減の必要が認められるし、人選の合理性も認められるとしました。
〇 しかし、スタッフらに対する解雇は、解雇手続きが相当ではなく、
合意退職に応じてもらえるよう調整するなどの解雇回避のための努力が
尽くされたともいえないとして、解雇を無効とた。
〇 スタッフらに対する逸失利益(最大給与6か月分)や
慰謝料30万円の損害賠償を認めたのでした。
一般的に、整理解雇は
(ア)人員削減の必要性、
(イ)解雇回避措置、
(ウ)被解雇者の人選の合理性、
(エ)手続きの妥当性
の4要素を総合勘案してその有効性が判断されます。
1審判決では、施設の閉鎖の必要性が認められることで、
整理解雇という選択をする必要性が認めらました。
そして、解雇者の人選も別途検討する必要はなくなると判断されたのです。
解雇に関連する手続きも、事業廃止までの時間的制約の中で、
できる限りの努力を尽くしたと認められれば足りるとされました。
一方、高裁判決は、1審判決とほぼ同旨であったものの、
解雇回避措置等で会社の対応は不十分であるとして1審判決の判断を
変更するに至ったのです。
事業廃止による人員解雇が問題となった場合に、
整理解雇の4要素がどのように判断されるかについては、
裁判例の間でも相違があります。
事例において、会社社は事業閉鎖が問題となった施設の他にも、
塗装・リフォーム業も営んでおり、全面的な企業閉鎖ではなかったのです。
少なくとも企業は継続する以上、合意退職による解雇回避措置の努力、
解雇までの丁寧な手続きといった行動を尽くす余地があったと
認められたことが、判断に影響したのでしょう。
このように、会社の一部の閉鎖等の整理解雇は、
事情の説明等や解雇回避義務の徹底等、必ず押さえるポイントがあるので、
確実に抑えてください。
このポイントを外すと、事例の裁判のように、
しっぺ返しを食らうかもしれないのです。
パタニティ・ハラスメントとは?
今回は、「パタニティ・ハラスメントとは?」を解説します。
パタニティ・ハラスメント(以下「パタハラ」)とは、主に男性労働者が、育児のために「育児休業・子の看護休暇・時短勤務などの制度利用を希望したこと」、「これらの制度を利用したこと」を理由として、同僚や上司などから嫌がらせなどを受け、就業環境を害されることを言います。
マタハラ・パタハラは、妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントを分かりやすく説明するための造語です。この領域で行われるハラスメントについては、当初、女性が妊娠・出産時に受けるものが注目され、「母性」や「妊娠している状態」を表す「マタニティ」を使用した「マタニティハラスメント」という造語が一般的に認知されるようになりました。
その後、父親が育児休業制度等を利用することに対する嫌がらせが社会的に注目されたことから、男性の育児に対して行われるハラスメントが「パタニティ・ハラスメント」という造語で説明されるようになり、女性に対するものが「マタハラ」、男性に対するものが「パタハラ」と呼ばれるようになりました。
なお、このような造語の経緯から、「パタハラ」も含めた妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメント全体を「マタハラ」と呼ぶこともあります。
妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントに関する法令は、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の2種類ですが、
・男女雇用機会均等法は「女性労働者」に対しての「妊娠・出産」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」に関する規定
・育児介護休業法は男女を問わない「労働者」に対しての「育児・介護休業」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」「パタハラ」双方に関する規定となります。
具体例としては
○ 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休むなら辞めてもらうしかない」などと言う
○ 時間外労働の免除を希望した部下に対して、「昇進はなくなるぞ」などと言う
○ 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休まれると困るから」などと言い取得を認めない
○ 「育児休業を取得する」と聞いた後、「仕事が大変になるから育児休業は取得しないでほしい」などと迫る
○ 「うちの部署は忙しいから、育児休業は利用しないように」などと日頃から発言している
○ 「育休をとる人には責任のある仕事を任せられない」などと言い、簡単な業務しか担当させない
上記の例は業務中、日々のコミュニケーションの中で、ふと発してしまう可能性の高いものばかりです。
ハラスメントの意識を認識していないと簡単に予防することは難しくなります。
皆さんの会社でも気を付けてください。
労務リスクと中小企業向け法改正について
【労務リスク】
そして、相変わらず、労務に関するリスクは、注目されてきています。
特にM&Aでは、買手企業が売手企業の持つリスクを確認する必要があり、
そのため、買収のリスクがどのくらい潜んでいるかという調査を買収前に行います。
これが、労務面の人事制度・就業規則の内容や運用実態を探る
労務デューデリジェンスも行う必要があります。
例えば、残業代の未払い賃金は表面化されていない隠れ債務です。
それを精査せずに買収したら、買手企業が残業代を支払う必要が出てきます。
残業代を支払うだけではなく、残業代を支払わないブラック企業としての風評が立てば、
企業価値を落とすリスクがあるので、買収前にきちんと調査する必要があるのです。
また、残業代の未払いは労使トラブルに発展する可能性もあります。
従業員から訴訟を起こされることになれば企業の財務内容に影響があるだけはなく、
対応する多大な会社の人的対応コストも発生します。
このようなリスクを避けるため、労務のトラブルやリスクが
ないかを調査する必要がありますし、
リスクがある場合は対処が許容範囲内か、
リスクも含めて売り手企業の価格は妥当かを
確認する必要があるのです。
これに対応するために、私たち社労士が、
労働法の専門家として対処するために、
まずはプラットホームを作らなければならないと考えております。
特に中小、零細企業のM&Aは見落とされがちです。
小さいなりの対応のやり方を考慮し、
柔軟な対応を可能とする方法が必要です。
【中小企業向け法改正】
そして、残業に関する中小企業向けの法改正情報があります。
2010年4月に施行された改正労働基準法では、
大企業は月60時間を超える時間外労働に対し
50%の割増賃金を支払うよう定められました。
中小企業については、猶予措置として通常の時間外労働と同等の
25%に据え置かれていますが、働き方改革関連法の成立に伴い、
猶予期間が終了し、2023年4月以降は中小企業も50%となります。
つまり、中小企業でも今年の4月から月60時間を超える残業が発生したら、
時間外労働に対し50%の割増賃金を支払うことが義務となったのです。
このように、労働法関連の変化は毎年行われています。
このことも踏まえて事業を運営することが、
経営には求められているのです。
少し前の時代は、労務や人事は後回しにする中小企業が多かったのですが、
今の時代は「そんなこと言っていられない」時代となったのです