未払賃金の指摘をされても、払わないことはできるのか? | 港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!!

未払賃金の指摘をされても、払わないことはできるのか?

今回は「未払賃金の指摘をされても、払わないことはできるのか?」を解説します。

 

未払いの賃金の請求についてのご相談はよくあります。

 

最も多いのは「残業代の未払い」についてで、まだまだ法律にあった支払い方が出来ていない会社も多くあるのです。

 

そのため、労働基準監督署から調査が入り、勧告を受けて是正しないといけないので「助けてほしい」というご依頼も多くあるのです。

 

先日、こんな相談をお受けしました。

 

「労基署から指摘された賃金債権を従業員に放棄してもらえば、未払い賃金の支払いは止めることができますか?」とのお問い合わせです。

 

賃金債権の放棄は法的に可能ですが、ハードルはかなり高いと考えらえます。

 

社員による賃金債権の放棄が有効といえるためには、意思表示が社員の自由な意思に基づくものであると認められる必要があります。

 

これに関すもので、次の裁判があります。

 

<シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件 最高裁 昭和48年1月19日>

 

〇社員が在職中の経費の使用について会社が疑惑を抱いた。

 

〇これによる損害の一部の填補として退職金を放棄する旨の意思表示をした。

 

〇退職金の放棄の有効性が問われたのです。

 

そして、最高裁は以下の判断をしました。

 

〇退職した社員について、放棄の意思表示は有効であると判断した。

 

これに対して、逆の判断が下った裁判もあります。

 

<北海道国際航空事件 最高裁 平成15年12月18日>

 

〇会社の経営危機に際し経営状態を説明して課長以上の役職者に賃金の減額を通告した。

 

〇社員は遡っての賃金減額は違法である等と抗議した。

 

そして、最高裁は以下の判断をしたのです。

 

〇社員が減額された賃金を受け取っていたこと等からすれば減額された賃金を受け取った時点で賃金減額には同意したと認めた。

 

〇賃金減額同意まで既に発生していた賃金については、自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない。

 

〇すでに発生した賃金債権は放棄の要件を満たさないとし、放棄を無効とした。

 

 

この2つの裁判をみても、その判断は個別の要因が大きく影響します。

 

会社側からの威圧等によって「賃金債権の放棄が強いられる」ということがあるかもしれません。

 

このような場合に、賃金債権の放棄が許されるとすると、社員等の権利が著しく侵害されてしまいます。

 

 

会社の威圧によって、弱い立場の社員等が真意でなく賃金をもらう権利を放棄せざるを得なくなるということは少なくありません。

 

したがって、安易に「労働者の意思に基づく賃金債権の放棄」を強いて、未払い賃金等の放棄が有効であるとはいえません。

 

そこで、労働者の自由意思に基づくものであるのか、それとも会社側の威圧などによってなされたものであるのかという点については慎重な判断が必要となるのです。