港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!! -4ページ目

傷病休職中のトライアル出勤で気をつけること

今回は「傷病休職中のトライアル出勤で気をつけること」を解説します。

 

「トライアル出勤」は「試し出勤」とも言われ、ケガや病気で休職している社員から復職の申請がなされた場合に、復職できるか否かを判断するために試験的に出勤してもらうものです。

 

病気やケガなどで長期間職場を離れていた社員で、職場復帰が可能と考えられる程度に回復し、元の職場に一定期間継続して試験的に出勤することができるかを会社が見極める期間なのです。

 

最近、特に多い精神疾患の社員についてこのリハビリ出勤で復職を見極めようとする動きがあります。

 

リハビリ出勤を制度化している会社は多くなく、運用としてこれを実施している会社が多いのです。

 

特にうつ病などの精神疾患で長期間休職した場合、本人が復帰できると考え、主治医も「復職可能」と診断しても、実際に勤務すると継続の勤務が難しい場合が少なくないのです。

 

しかし、リハビリ出勤を実施することにより、継続的に勤務できるか否かが明らかになることが多いのです。

 

リハビリ出勤により継続的に勤務できると判断されれば、会社は医師の診断も踏まえて復職を発令できます。

 

一方、継続的に勤務することが困難であると判断されれば、休職を継続することとなります。

 

さらに、本人は「復職できる」と考えていたが、リハビリ出勤を行った結果、本人自ら復職ができないと自覚して、退職となったケースは少なくないのです。

 

実際に、休職の期間満了による退職等の事例が労使間のトラブルとなるケースは多くあります。

 

しかし、リハビリ出勤を実施して本人が「復職は無理だ」と判断した場合、トラブルにはならないのです。

 

私のクライアントで、精神疾患の復職で、会社とトラブルになりかけた社員が、病状がぶり返して、再び休職となり、その後、リハビリ出勤を実施ました。

 

そして、自ら「復職はできないので、退職させてください」と意思表示を行ったのです。

 

自身が納得されたので、その後、何のトラブルにもならずに退職となったのです。

 

このようにリハビリ出勤は、メリットもありますが、運用で気を付けなければならない点も多いのです。

 

それは、リハビリ出勤中の賃金の取扱いについてです。

 

そのためにはリハビリ出勤で「何をさせるのか」をはっきりさせることが重要です。

 

リハビリ出勤の目的は「復職可能か否か?」ということですが、

 

〇会社に来られるのか?

 

〇所定労働時間を耐えられるのか?

 

〇業務についてこられるのか?

 

など、検証することは人それぞれです。

 

 

会社や事務所に「来られるか否か?」を検証するのであれば、お試し通勤を実施するなどして判断します。

 

この場合だと、賃金は発生しません。

 

また、所定労働時間を耐えられるのか?であれば、出社してもらい、会議室等で読書等をしてもらい、様子を見ることになります。

 

これも業務ではないので、賃金は発生しません。

 

しかし、簡易な業務等を任せた場合は「労働」の意味合いが含まれ、賃金が発生する可能性が高くなるのです。

 

この点を注意してください。

 

マタニティー・ハラスメントにならないためには?

今回は「マタニティー・ハラスメントにならないためには?」を解説します。

 

「マタハラ(マタニティーハラスメン)」に関しては、育児介護休業法で禁止されているので注意が必要です。

 

マタハラとは職場において、妊娠している、または出産した女性に対して行われるハラスメントです。

 

妊娠、出産に伴う就業制限や育児休暇により業務上の支障をきたすという理由で精神的・肉体的いやがらせをおこなうことです。

 

妊娠したことを理由に降格を行った企業に対して業務上特段の理由がない限り、「原則として男女雇用機会均等法に当たる」という最高裁判所の判例もあります。

 

これに関する裁判があります。

 

<コメット歯科クリニック事件 岐阜地裁 平成30年1月26日>

 

〇Aは歯科技工士として期間の定めのない雇用契約で採用された。

 

〇数年勤務して、産休、育児休業を取って復帰した。

 

〇クリニックから「以前より不利益な労働条件が提示された」が、Aはこれに同意しなかった。

 

→会社は「パートタイム勤務にするように」と言ってきた。

 

〇その後、Aの第2子の妊娠が発覚したため、産休及び育休が欲しいと申し出た。

 

〇管理者はAに対し、仕事外しを命じ、他の職員にその旨を指示した。

 

〇そして、管理者は朝礼でAを否認するような発言をした。

 

〇その後、Aは体調不良で早退し、休職状態となった。

 

〇就業規則に「休職満了が6ヵ月」となっていたので、6か月後に「一般退職」として、Aに通知した。

 

〇Aは「退職無効」「ハラスメント行為の損害賠償」を求めて裁判を起こした。

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇Aの精神障害発症は院長らの言動によって精神的負荷を負った結果として、業務起因性が認められ労基法19条1項により、退

職が無効と判断されました。

 

〇ハラスメントによる不法行為が認められ、損害賠償が認められました。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。Aが産休及び育休の後にはパートタイム勤務になる旨の噂の出所については分からないと回答したことはあったが、クリニック側らの名誉を傷つけるような反抗的な態度であったということはできない。

 

また、Aにショックを与えてクリニックの従業員間の信頼関係を損なう行為であったと評価することもできない。

 

本件懲戒処分は、そもそもクリニック側が処分の基礎とした懲戒事由が存在するとは認められないとしました。

 

この裁判からみえてくるものとして、産休、育休を理由に従業員の処遇を変えるのはNGです。

 

当たり前といえば当たり前ですが、現在は育児介護休業法で「マタハラは禁止」されています。

 

そのため、産休、育休については法律で厳しく守られています。

 

だから、労働条件を動かすことが難しいのです。

 

第2定年を定めよう

今回は「第2定年を定めよう」を解説します。

 

 

人手不足で、多くの会社が悩んでいます。

 

現在、失業率はバブル期より低くなっています。 

 

そして、「採用したいが、応募する人さえいないので、困っています」という声を多くの企業からお聞きします。

 

この人手不足の解消を行うため、どうしたらよいか?多くの会社で頭を悩ませていますが、50代の人材を契約社員として、採用しこの難局を乗り切ろうというクライアントもいます。

 

そして、定年についてのご質問をお受けしました。

 

「当社では人手不足解消のため、50代の方を契約社員として積極的に採用することになりました。

 

当社の規定では定年が60歳となっていますが、就業規則の変更などが必要となりますか?」この会社では50代の方を有期雇用の契約社員として、採用する方針とのことです。

 

ここで、気を付けなければならないことがあります。それは「無期転換ルール」との関係についてです。

 

無期転換ルールとは

 

〇同一の使用者(会社等)で

 

〇有期労働契約が通算5年を超えて

 

〇反復更新されたとき

 

〇労働者の申し込みで

 

有期雇用契約が無期雇用契約に転換する制度です。

 

この無期転換ルールの適用については、定年後の継続雇用の従業員とそれ以外の従業員とで取り扱いが異なります。

 

これは「定年後再雇用者」とそれ以外の有期契約労働者でルールが異なるということです。 

 

定年後、継続雇用で有期労働契約を結んだ従業員の場合、有期労働契約が通算5年を超えて反復更新される場合、一定の要件※のもとで無期転換ルールの適用がありません。

 

しかし、継続雇用ではなく、有期雇用契約を結んだ従業員の場合、定年を超えて反復更新される場合、継続雇用者の特例が適用されず、無期転換ルールの対象となるのです。

 

このような労働者については、定年を超えた年齢になってから無期転換が行われるため、「定年」が適用されないのです。

 

そのため、会社側は従業員が定年を超えた年齢になって無期転換 した場合、心身の状況に耐えられない等の解雇事由が認められない限り、雇用し続けなければならないのです。

 

こうなると、雇用の活性化や業務の循環などへのリスクが高まってしまうと考えられます。

 

そこで、高齢の労働者を新規に採用し、有期契約で雇用する場合、定年を超えた年齢の従業員による無期転換が行われる可能性があるときは、第2定年を定めることが必要になります。

 

これは、法的は紛争のリスクを軽減するためにも必要ですし、年齢という客観的な基準があった方が働く側も「見えている」ので、トラブルにはなりにくいでしょう。

 

第2定年を定めるには就業規則等で記載しないといけません。

 

ただし、すでに64歳の社員がいる場合などで、第2定年規定を作成し、適用させて直ちに退職を促すような行為などはトラブルの火種となります。

 

このような社員に対し、経過措置等を設けて、十分な配慮を行う必要があるでしょう。

 

社員の職種変更は可能ですか?

今回は「社員の職種変更は可能ですか?」を解説します。

 

営業職から事務職への人事異動、事務職から企画職への人事異動など、社員は辞令で職種の変更となる場合があります。

 

ここで、ご質問が多いのが、「勝手に職種を変更しても可能ですか?」ということです。

 

今までの業務から、業務内容が変わるということは、従業員にとってとても不安なものです。

 

しかし、会社の組織を考えると、組織の活性化、不正予防等、人事異動は様々な効果が認められます。

 

単に「業務を変わりたくない」「異動したくない」というのでは組織の秩序を乱すことになり、これを許すと組織の統制が取れなくなってしまいます。

 

これに関する裁判があります。

 

<相鉄ホールディングス事件 横浜地裁 平成30年4月19日>

 

〇バスの運転士として採用された社員が、ホールディング会社に就職し、バス会社に在籍出向していた。

 

→採用時の条件として、大型二種免許が必須であった

 

→社員はバス運転業務と車両整備業務を行っていた

 

〇社員は会社から在籍出向を解除され、清掃業務等への従事を命じられた。

 

〇社員は、「労働契約等に違反している」とし、権利濫用を主張し、裁判をおこした。

 

→社員は「バス運転士等以外の業務に勤務する義務がない労働契約」を主張した

 

そして裁判所は、以下の判断をしたのです。

 

〇会社と社員との間で結ばれた労働契約は「職種限定の合意」があったとまでは認められない。

 

〇会社において従前にも同様の異動実績があった。

 

〇会社の就業規則で「業務上、必要な場合は転勤、配置転換を命じる」と規定されている。

 

以上により会社の主張が通ったのです。

 

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

『会社と社員との間で結ばれた労働契約は「職種限定の合意」があったとまでは認められない。』

 

上記の判断についてですが、採用時に「バス運転士を募集」となっていましたが、採用後に配転を予定しているか否かは別の問題と考えられます。

 

そして、バス運転士の職種の専門性が高度であることを裏付けるものとはいえないと判断したので、単に大型二種免許の保有条件の採用について、「職種限定の合意は認められない」としたのです。

 

『会社において従前にも同様の異動実績があった。』上記の件については、実績もあり、「バス運転士ができなくなったときのみに変更」と社員側は主張しましたが、「労使慣行を有していた」とは認められないと判断されたのです。

 

『会社の就業規則で「業務上、必要な場合は転勤、配置転換を命じる」と規定されている。』この件について、就業規則に明記され、「配置転換を命じることができる」と規定されていることにより、規定通りの運用がなされたと判断されたのです。

 

 

つまり、職種を変える異動を有効にするには、正社員として採用し、就業規則に条項を明記することが大切なのです。

 

そして、トラブルになりそうなときには異動実績も付け加え 異動の経緯を話すことが重要でしょう。

 

試用期間中の解雇が有効になる要件とは?

今回は「試用期間中の解雇が有効になる要件とは?」を解説します。

 

試用期間は、採用した社員の能力を観察し、選別する機会としてこの期間があります。

 

そして、転職が当たり前となった現在、中途採用で、幹部候補を採用するケースがあります。

 

この場合、「こんなはずじゃなかった・・・」「期待はずれだった・・・」等の意見をよく聞きます。この場合こそ、試用期間が「採用した社員の能力を観察し、選別する機会」として機能しなければいけないのです。

 

これに関する裁判があります。

 

<ラフマ・ミレー事件 東京地裁 平成30年6月20日>

 

〇会社はアウトドア用品、スポーツ関連の製品のデザイン、製造販売および輸出入を業とする会社で、雇用された社員はGM(ゼネラルマネージャー)として雇用された。

 

〇GMの業務としては雇用契約に以下の項目が定められていた。

 

・中長期的な業務計画

 

・財務の予算管理

 

・会社の運営管理(損益に対する全責任を含む)

 

・年間の業務目標、予算、課題を準備、実行および達成すること

 

〇会社は、試用期間で雇用された社員の資質、能力等、適格性の有無に関する事項について、十分に把握するため、観察等を行い、最終的決定を行うものとしていた。

 

〇該当の社員はGM業務をこなすには資質、能力とも欠けており、上司の指導を経た後も、商品発注に関する理解は不十分であった。

 

〇会社の5か年計画のガイドラインが、フランスの親会社から示されたが、この社員が策定したプランはガイドラインから逸脱するものであった。

 

〇この社員に対する会社の判断は、「GMとして職責を果たしていない」とし、試用期間中で解雇としました。

 

〇社員はこれを不服とし、裁判に訴えたのです。

 

そして、裁判所は以下の判断をしました。

 

〇解雇は有効

 

→会社側の主張が通った

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

なぜ、「会社の主張が通ったのか?」と考えた場合、雇用契約がポイントとなっていることが分かります。

 

まず、GMでの採用について、社員の職責が明確であったことがあげられます。

 

契約では「中長期的な業務計画」「財務の予算管理」「会社の運営管理」「年間の業務目標、予算、課題を準備、実行および達成すること」とその職責が明確だったのです。

 

さらに、試用期間の趣旨、目的も雇用契約に付されており、その内容は「社員の資質、能力等、適格性の有無に関する事項について調査、観察に基づく最終的決定を試用期間中に行う」としたのです。

 

よって、この契約に基づいて解雇するのは要件である「客観的に合理的な理由が存在する」「社会通念上も相当である」が存在するとしました。

 

そして、職務能力が欠けるとして解雇を有効としたのです。

 

幹部候補生や役職者の中途採用の場合、「職責」も明示して、資質、能力等とリンクさせる必要があるでしょう。

 

残業手当の計算方法について

今回は「残業手当の計算方法について」を解説します。

 

法定労働時間を超えたら、時間外割増賃金を支払わなければならないことは法律で定められております。

 

当たり前のことですが、これは労働基準法第37条に定められており、「何をいまさら」とお感じになるでしょう。

 

具体的な計算方法については、労働基準法施行規則19条で定められており、時間単価の計算方法を規定しています。

 

よって、年俸でも月給でも時間単価を計算して割増率を掛けて算出された割増賃金を支払わなければなりません。

 

また、基本給の他に役職手当等の名称で手当を支給されている場合も基本給にプラスして時間単価の計算に含めないといけません。

 

例えば、基本給32万円、役職手当5万円、家族手当3万円で、年間所定労働時間2,080時間(1日8時間、年間所定労働日数260時間)で計算してみましょう。

 

32万円(基本給)+5万円(役職手当)×12月÷2,080時間→2,134.6円(時間単価)

 

そして、残業時間が30時間とすると計算式は以下となります。

 

2,134.6円(時間単価)×30時間×1.25(割増率)→80,048円(残業手当総額)

 

労働基準法では、上記以上の割増賃金を支払わなければならないことになっているのです。

 

上記の計算で「家族手当」が算定の基礎となっていないのは労働基準法37条および同法施行規則21条は次の手当について時間単価の算定の基礎に算入しなくてもよいと規定されています。

 

ここで、上記の計算式通りに計算しないのか?とのご質問をお受けすることがあります。

 

しかし、あくまでも「労働基準法37条の規定で計算される額」以上の金額を支払えば、問題ないといえます。

 

これに関する裁判が以下です。

 

<国際自動車事件 最高裁 平成29年2月28日> 

 

〇会社は賃金規則上、形式的には時間外手当が支給されていた。

 

→発生した時間外手当分、歩合給を減額して合算しており実質的に時間外手当が支払われていないとされる。

 

→残業代がいくらになっても合計支払額が変わらない

 

〇同社運転手14名はこのような賃金体系は労基法に違反し無効であるとして提訴した。

 

〇1審、2審は労働基準法37条の趣旨に反し無効とし社員側が勝訴した。

 

そして、裁判は最高裁までいき、結論は以下となりました。

 

〇無効とまでは言えず審理不十分として差し戻した(会社の主張が通り、勝訴した)。

 

この裁判の判断は、「最高裁は残業分を歩合給から控除する通常の賃金分の算定方法は 無効とまでは言えない」としたのです。

 

そして、「通常の賃金と割増部分を明確に判別できるか?否か」「できる場合に労働基準法所定の割増額を下回らないか」この点がポイントとなっています。

 

つまり、時間外割増賃金を計算するにあたり、労働基準法37条の計算された額を下回らない額の割増賃金を支払えば、「違法ではない」としたのです。

 

就業規則は周知しないと、効力が発生しません

 

 

 

今回は「就業規則は周知しないと、効力が発生しません」を解説します。

 

皆さんの会社は就業規則を社員に周知していますか。

 

就業規則を作成しても、社員に周知していないと、その効果は法的には発揮されないのです。

 

特に、労働条件の処遇や賃金に関しては、周知し、説明をすることが重要です。

 

よくあるトラブルとして「残業は基本給に含まれている」、「残業代は営業手当として支払っている」などが多いです。

 

 

そして、従業員側からは「聞いていない」、「こじつけだ・・・」という声を実際に聞いたことがあります。

 

そして、会社側は「説明したはずだ・・・」となり、平行線をたどりトラブルへと発展していくのです。

 

賃金規定、労働契約書に記載があり、本人のサインでもあれば 話は変わってくるのですが、まずは、規定、契約書に書き込むことが大切です。     

 

これに関する裁判があります。

 

<PMKメディカルラボ事件 東京地裁 平成30年4月18日>

 

○エステに転籍した社員が未払い残業を求めた

 

→賃金規定で、特殊手当23時間分、技術手当7時間分等と定めが記載されていた

 

○転籍した社員は労働組合を通じて、「固定残業の話は聞いていない」として支払いを求めた

 

○会社側は支払いに応じなかったため、社員は裁判所に訴えた

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

○賃金規定が周知されていない

 

○入社説明会で交付した書面に「手当が時間外労働に対する対価」として支給される記載が一切なかった

 

○各店舗に閲覧できる就業規則等がなかった

→本社から各店に郵送可能な承諾書はあった

 

○固定残業制度の周知がないため制度は無効

 

→会社側の主張は退けられた

 

この裁判を詳しくみてみましょう。

 

本件の争点は

 

○時間外労働時間の対価として、特殊勤務手当、技術手当、役職手当を支払うことが労働契約の内容として認められるか?

 

○この固定残業制度は有効か? 

 

という点です。

 

そして、判決のポイントとして労働契約の内容として「認められるか?」という点は以下で認められないと判断されたのです。

 

○時間外労働の対価が各種手当とする記載が一切ないし、説明もなかった

 

○労働条件に関する書面が一切作成されていない

 

○労働契約の内容として合意されていたことを裏付ける証拠が存在しない

 

 

本件、就業規則は「時間外労働時間の対価」「固定残業制度は有効」と2つの条件をクリアしており、制度としては認められると判断されています。

 

しかし、そもそもの契約内容が「認められない」ということなので、制度が問題なくても、その運用されることへの説明、承認など何もない状態なので、これはそもそも無効という判断となったのです。

 

復職の判断基準が難しい・・・

今回は「復職の判断基準が難しい・・・」を解説します。

 

復職に関しては、ケガ、病気で判断に迷うことがあります。

 

このような場合、どのような対応をしたらよいか?ご相談を受けることがあります。

 

病気やケガが治る時期がわからないと休職期間満了で退職となる可能性が高くなります。

 

そこで、診断書を何とかして「復職可能」と記載してもらうように主治医に頼むことはよくあります。

 

これに関する裁判があります。

 

<名港陸運事件 名古屋地裁 平成30年1月31日>

 

〇社員Aはトレーラードライバーと定めて期間を定めずに雇用され労務を提供してきた。

 

〇Aは、病院で胃癌を宣告され、胃の全摘出手術を受けた。

 

〇会社はAに対し、私傷病休職に付することを通知し、休職命令を発した。

 

〇Aは病院に検査目的で入院した後、症状に特に変化がなかったため、退院した。

 

〇主治医は、診断書を作成し、それには病名を「胃癌術後」とし、「向後22日間安静加療を要す。以降仕事に復帰可能です」と記載されていた。

 

〇そして、Aは取締役と面談し、「産業医が休職満了時まで、復職できるといえば、休職命令を解除できる」といった。

 

〇これを受け、産業医は「術後1年も経過していれば、症状は安定しているので就労はできると思う」と取締役に述べた。

 

〇Aは労働組合を通じて会社に職場復帰の時期、所属部署、業務について説明するよう求めた書面を送付した。

 

〇会社は休職期間満了通知をAに送付した。

 

〇それには「復帰は不可能」と結論を出し、休職期間満了日をもって退職と通知した。

 

〇会社は「業務遂行可能性について医師が100%の保障まで、できない」として復帰不可を判断したのでAは本訴を行った。

 

そして、裁判所の判断が以下となったのです。

 

〇主治医の診断書(復職可能)は有力な資料となる

 

→主治医は「本人の強い希望で復職に沿って可能と記載」

 

〇主治医の診断書のみならず、産業医や会社の指定医等の再受診を命じなかった会社の対応は手続きの相当性を欠く。

 

〇休職事由は消滅していたと考えられる。

 

→会社側の主張が通らなかった

 

この事件では休職満了時にAが治癒していたか?が争点となりました。

 

治癒の根拠となるべき主治医の診断書がAの希望により作成されたとのことで、治癒している証明が「意図的」と考えられ、会社はそれで休職満了で退職という判断に踏み切りました。

 

しかし、実際は休職満了時前に治癒していると主治医も裁判で発言し、また、会社もAに対し、産業医や会社指定医の再受診命令も出さずに、そのまま休職期間満了で退職としてしまったのです。

 

会社は、従業員の休職期間について、満了となりそうな場合、本人とコミュニケーションを密にして、症状などの検証を徹底的に行うべきなのです。

 

復職を決めるのは医師の診断書が重要ですが・・・

今回は「復職を決めるのは医師の診断書が重要ですが・・・」を解説します。

 

精神疾患で休職している社員がいる場合、復職のタイミング、もしくは退職のタイミングが難しいとご相談を受けることが多くあります。

 

復職や退職については、就業規則等にルール化してあることが前提で、これに基づいた判断が基本となっています。

 

その際、会社側の判断で行うことをおすすめします。

 

時々、「休職となった事由が解消されれば、復職とする」との記載がある就業規則がありますが、これだと、精神疾患等で、判断が難しい場合の対応が厳しいかもしれません。

 

なぜなら、精神疾患は、いくら医師でも主観的な判断を下してしまう可能性が高いからです。         

 

これに関する裁判があります。

 

<コンチネンタル・オートモーティブ事件 東京高裁 平成29年11月15日>

 

〇社員は適用障害となり休職した。

 

→会社の規定で休職期間は12ヶ月であった

 

〇社員は12ヶ月経過する直前に主治医の「復帰可能」と書かれた診断書を提出し、復帰が可能と主張した。

 

→休職期間満了までに復職できなければ、退職と就業規則に定められていた

 

 

〇会社は「期間満了直前に勤務可能」と記載された診断書は信用できないと考え、復職を認めなかった。

 

→会社の代理人は主治医と直接面談して「頼まれて書いた」と確認

 

〇その後、新たな診断書が提出され、そこにも「復帰可能」との記載があった。

 

〇会社は休職期間満了で自然退職の通知を出した。

 

〇社員は退職無効を訴え、裁判を起こした。

 

○地裁では、「復職を不可とした会社の判断は正当」とした。

 

そして、高裁の判断は以下となりました。

 

〇会社の就業規則は以下となっていて、有効に機能していた。

 

〇社員は休職期間満了で退職となることを避けたい為に、主治医に頼んで「復職可能」と書いてもらったことを認めている。

 

→その後に出されたものも、社員の強い懇願によるものと判明した

 

〇休職事由が消滅したとは考えらえない。

 

→実際の処方箋によると、抗うつ剤や睡眠導入剤の服用が認められ、医学的にはうつ病に近いと判断された。

 

〇社員の請求は退けられ、会社が勝訴した。

 

○その後、最高裁まで行ったが最高裁(平成30年5月31日)は

 

上告を棄却し、上告不受理とした。

 

この裁判の争点は「休職事由の消滅の有無」で、主治医の診断書の信ぴょう性が問われたものです。

 

結果として、会社の主張が通ったのですが、なぜ通ったのかというと、就業規則の運用通り、主治医へのヒアリングを実施し、会社としての判断を行ったからです。

 

単に、診断書を鵜呑みにするのではなく、いろいろな角度から検証した結果と言えるでしょう。

 

主治医の診断に疑問が残る場合は、本人に他の専門医の受診を求めましょう。

 

本人が本気で復職を考えていれば、受診拒否はできなくなるからです。

 

労働組合がセクハラを告発、名誉棄損になりますか?

今回は「労働組合がセクハラを告発、名誉棄損になりますか?」を解説します。

 

ある会社から相談がありました。

 

「労働組合がセクハラを告発した内容をホームページに掲載していますが、これは名誉棄損となるのでしょうか?」

 

労働組合が存在する会社は多くありませんが、外部のユニオンに社員が駆け込まれ、団体交渉を要求されることがあります。

 

賃金のアップ、賞与のアップ、昇給等での交渉がありますが、労使関係のトラブルの場合は厳しい交渉の場面もあります。

 

そんな中、セクハラの告発が労働組合のホームページに掲載されていたので、「名誉棄損で訴えられるか!」とのことでした。

 

これに関する裁判があります。

 

<Yユニオンほか事件 東京地裁 平成30年3月29日>

 

〇労働組合のホームページに「セクハラ発覚」「会社隠ぺい」との記事が掲載された。

 

→執行役員兼営業本部長が特約店を招いてハワイでセミナーを実施した際に代理店の女性の体に数回触るというセクハラ行為を行った

 

〇このことを「会社は隠ぺいした」と労働組合のホームページに掲載された。

 

→会社のコンプライアンス委員会では「セクハラに該当しない」と判断していた。

 

〇会社は「ホームページへの記載は名誉棄損に当たる」として500万円の損害賠償の支払いを求めた。

 

→執行役員兼営業本部長も共同不法行為に基づき、慰謝料500万円を求めて提訴した

 

 

そして、裁判では以下の判断が下ったのです。

 

〇セクハラは真実である。

 

→複数の目撃証言があった

 

〇セクハラが事実であれば、労働組合のホームページ記載は一般的な活動である。

 

〇不法行為は設立しない。

 

→会社側の主張が退けられた

 

そして、裁判は控訴され、高裁(平成30年10月4日)の判断は以下となったのです。

 

〇セクハラ行為はなかったと認定された。

 

→真実性はなかったが、真実と信じることの相当性があった。

 

〇労働組合の責任については1審同様「ない」と判断された。

 

この裁判からいえることは、会社側からすると組合側からみた一方的な批判や不穏当な表現、厳しい論調で会社を非難しているような場合、相当性を欠くのではないかと考えられます。

 

しかし、事実を述べている限り、あるいは事実でなくても事実相当性がある限りは、正当な組合活動として保護される傾向にあるのです。

 

今回取り上げた事例は「会社と労働組合との関係」だけではなく、情報が出たら、法的な判断よりも怖い状況になる可能性があるということです。

 

情報がいったん拡散すると真実は法的判断の前に風評として流れてしまいます。

 

深刻なものとなると、会社の商品、製品、活動、また、社員等への影響など計り知れないものとなってしまうのです。

 

ここで考えなければならないことは「情報は取り消せない」ということです。

 

つまり、法的な判断よりも恐ろしい部分があるということなのです。これからの時代、情報に対するリスクは色々な対策を取らないといけません。