港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!! -6ページ目

働き方改革で「準備しなくてはいけない」こと

いまでも「働き方改革」についてのお問い合わせが多数、寄せられています。

 

働き方改革とは、「一億総活躍社会」を実現するため、非正規雇用労働者の処遇改善や長時間労働の是正など、労働制度の抜本的な改革を行うものです。
 

政府が働き方改革を進める目的は、労働者が働きやすい環境を整備することで、低迷する日本経済を立て直すことにあります。

 

「働き方改革」とは、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに着手する改革です。
 

働き方改革を行う目的は、一人ひとりの意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する働き方改革を進めていくことです。

 

そして、ワーク・ライフ・バランスの実現、生産性の向上を図っていくことです。
 

 

日本の労働環境には、長時間労働、「正規」「非正規」という2つの働き方の不合理な処遇の差、子育てや介護等との両立、副業・兼業など働き方の多様化など様々な課題があるのです。

 

さらに、労働生産性の向上を阻む多くの問題が存在します。

 

 

まずは、労働力人口の減少です。

 

人口減少社会に突入した日本では、それに伴い、労働力人口の減少が問題になっています。

 

そして、人口推計をみる限り、今後も人口減少が大幅に改善することは見込まれず、労働力人口を確保するためにはさらなる「働き方改革」が必要となるのです。
 

また、日本では欧州諸国と比較して労働時間が長く、過労死という言葉が英語辞書に(KAROUSHI)掲載されるほど、長時間労働やストレスにより自殺、死亡する労働者が増えています。

 

労働基準法では、使用者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めていますが、労使協定(36協定)で事実上、無制限に働かせることができてしまいます。
 

日本ではかつて「企業戦士」「モーレツ社員」という言葉が流行したように、サラリーマンは企業のためにすべてを犠牲にして労働することが美徳とされてきた企業文化があります。

 

これに対し、欧州連合(EU)では「7日ごとの平均労働時間が、時間外労働を含めて48時間を超えない」こととされており、週8時間の残業しか許されません。

 

このため、日本や韓国、アメリカなどはEU諸国に比べると長時間労働の割合が高くなっています。 

 

「働き方改革」では、この長時間労働の是正を行うため、EU諸国のように時間外労働の上限を定め、罰則を設ける法改正を検討しています。
 

そして、来年4月から法律の改正も含めて「働き方改革」を取り組む必要が大企業だけではなく、中小企業各社にもあるのです。

 

そのために「何を準備すればよいのか?」具体的な方法は何なのか?」という質問が多いのです。

 

具体的には「有給休暇取得義務化5日」となるので、対応は今から始めないと間に合わないのです。

 

また、「時間外労働上限規制時代に求められる労働時間管理」の具体的方法を検討するためにシステムの導入を検討する会社も増えています。

 

さらに、「健康確保措置」などを導入するにあたって、何が会社として重要なのか?を協議する必要もあるのです。

 

 

この時間は労働時間になるのでしょうか?

今回は「この時間は労働時間になるのでしょうか?」を解説します。

 

「労働時間はどこからでしょうか?」労働時間とは業務を行っている時間ですが、業務を行うための待機している手待時間なども労働時間としてカウントしなければなりません。 

 

では、待機(手待)時間とはどんな時間で、なぜ、労働時間なのでしょうか?

 

 

実際に業務に従事している場合、業務について実際に作業を行うことはもちろんですが、ある作業が終わった後に、次の作業ができる状態になるまでの間、作業をせずに待機することがあります。

 

この作業と作業の間の待機時間は、実際の作業を行っていません。

 

しかし、休憩時間のようにまったく労働から解放された自由時間というわけでもありません。

 

仮に、待機(手待)時間は作業をしていないので労働時間とはいえないと解することになると、その時間は休憩時間として扱われてしまいノーワークノーペイの原則でその時間だけ控除しなければなりません。

 

ですから、残業代等の割増賃金額もその分だけ減額されてしまう場合が出てきます。

 

そして、この待機(手待)時間が労働時間に該当するのかどうかが問題となってきます。

 

最近では「待機(手待)時間は労働時間である」ということが一人歩きしているようにも見えます。

 

そこで、これに関する裁判があります。

 

<南海バス事件 大阪高裁 平成29年9月26日>

 

〇バスの運転手が運行スケジュールで終点バスターミナルへの到着時刻から次の運行開始時刻が待機時間に当たると主張。

 

〇待機時間は労働時間なので、この間の時間外賃金等の支払いを求めて、裁判をおこした。

 

〇裁判は控訴された。

 

そして、高裁では以下の判断が下されたのです。

 

〇本件は運行スケジュールで次の運行時刻が明確なので、待機時間は労働時間と認められない(会社側の主張が認められた)。

 

※その後、最高裁で上告不受理となった。

 

この裁判では、バスの降車、乗車の準備については、労働時間として認められています。

 

しかし、それ以外の待機時間は労働時間では無いと判断されたのです。

 

これは、

 

〇バスターミナルに設置されていた詰所は多くの乗務員が休憩で使用していた。

 

〇休憩中はバスを離れて自動販売機等に飲み物を買いに行くことも認められていた。

 

〇乗務員がバスから離れることができるようバスには施錠可能なケースや運転台ボックスが設置されていた。

 

〇乗務員は休憩中に乗客対応を断ることが認められていた。

 

などで待機時間は「労働からの解放が保障されている」と判断され、労働時間とは認められないと結論付けたのです。

 

但し、

 

〇指示があるまで待機

 

〇次の仕事まで休憩

 

と言うような指示をだすと、危険です。

 

なぜなら、「労働から解放されていない」と判断される可能性が高いからです。

 

 

第258 正社員とパート社員で、通勤手当の差があるのは違法ですか?

今回は「正社員とパート社員で、通勤手当の差があるのは違法ですか?」を解説します。 

 

働き方改革で「同一労働同一賃金」の制度が導入されるとのことで、いろいろな会社が「何をすれば良いのですか?」と問い合わせが来ています。

 

では、同一労働同一賃金についてみてみましょう。

 

ガイドラインは、パート社員などの非正規雇用労働者と、正規雇用労働者との間に生じた不合理な格差の改善を目指すものです。

近年、日本では労働者全体に占める非正規雇用労働者の割合が上昇しています。

 

 

このような中、労働者の雇用形態を問わず均等、均衡な待遇とし、同一労働同一賃金を実現するために政府はガイドラインを策定しました。

 

平成30年6月29日に働き方改革関連法が成立し、同一労働同一賃金に関係する「パートタイム、有期雇用労働法」や「労働者派遣法」などは、2020年4月1日から施行予定となります。

 

ただし、中小企業の「パートタイム、有期雇用労働法」の適用は2021年4月1日からとなっています。

 

法改正により、中小企業は「2021年4月からなので、それまでに準備をすれば良い」と考えられがちですが、現在、正社員とパート社員等の賃金格差について多くの裁判が存在するのです。

 

特に、全体の格差を問うものや手当、個別で争うもの等、様々な裁判が見受けられます。

 

そんな中、通勤手当で差があるケースをよく見かけます。通勤手当についても「同一労働同一賃金」の考え方が適用されるので、もし、社員とパート等で手当に差がある場合は、是正しないと違法とされる可能性が高くなるのです。

 

 

これに関する裁判があります。

 

<九水運輸商事事件 福岡地裁小倉支部 平成30年2月1日>

 

〇卸売市場で働くパート社員4人が、正社員と同じ作業をしているのに通勤手当と皆勤手当に格差があるのは労働契約法に違反す

ると主張した。(正社員、通勤手当1万円、パート社員5千円)

 

〇パート社員4人は未払い賃金等計120万円の支払いを求めた。

 

そして、裁判所は以下の判断を下しました。

 

〇職務の差異を踏まえても交通費の補てんの性質から相違は不合理と判断。

 

→パート社員は正社員と比べて通勤時間が短い、距離が短いと言った特別の事情もなかった

 

〇会社側の主張が通らなかった。

 

この裁判で、この会社の正社員もパート社員も卸売市場で働き、パート社員は正社員と同じ作業をしているとのことであった。

 

そして、多くの者が自家用車で通勤しているという点で、両者の相違はなかった。

 

通勤時間や通勤距離もほぼ同じで特別の事情はなかったのです。

 

そして、通勤手当の金額を決めるにあたり通勤経路などを調査したこともなく、通勤手当として、正社員1万円、パート社員5千円として、支給していたのです。

 

 

通勤手当については、職務内容の差異等を踏まえることでは無く、通勤に対する補てんするものと考えらます。

 

よって、パート社員と正社員との通勤は変わらず、通勤手当の差異は違法と判断されたのです。

 

 

固定残業制度で残業時間が不明の場合、残業代として認められるか?

今回は「固定残業制度で残業時間が不明の場合、残業代として認められるか?」を解説します。

 

固定残業制度を導入している会社は増えています。

 

しかし、要件を押さえれば法的にはOKとなりません。

 

では、ポイントとして何を押さえておかなければいけないのか、ここで整理してみましょう。

 

〇明確区分性(通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業の賃金が明確に区分されていること)

 

〇対価要件(割増賃金の対価として支払われていること)

 

〇差額支払の合意(定額部分を超える割増賃金の差額を支払う合意)

 

これらのポイントが裁判でも問題視されて、これらの要件が無ければ固定残業制度そのものが認められない可能性が高くなってしまうと言われています。

 

また、基本給に組み込まれているもの、手当として別支給されているものがあります。 

 

特に基本給等に固定残業代が組み込まれているものは、明確に区分されていることが必要とされています。

 

このため、労働基準監督署の調査等では、

 

〇固定残業に該当する労働時間

 

〇固定残業に該当する賃金

 

の両方が明確になっていないと固定残業制度そのものが認められない可能性が高くなるのです。

 

 

これに関連する最高裁の判例で、医療法人社団Y事件(平成29年7月7日)では、医療法人と医師との間の雇用契約にて、時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意があっても、割増賃金を支払ったことにはならないとされました。 

 

理由は年俸(1,700万円)の区分性でした。

 

したがって、高い給与を払っていても管理監督者ではない限り、基本給部分と残業代部分を区分しておかないと、労働時間と残業代の対応がわからず、労働時間の抑制機能が働かないことになります。

 

最高裁は区分性ということをもって、残業代の未払いを認めたのです。

 

では、残業時間の記載がないと、固定残業制度が認められないのでしょうか?

 

これに関する裁判があります。

 

<泉レストラン事件 東京高裁 平成30年5月24日>

 

〇会社は固定残業制度を導入していた。

 

→基本給、業務手当、資格手当の各3割を固定残業代として支給

 

〇元社員が「時間外労働数が不明で割増賃金が支払われていない」と主張し、裁判となった。

 

そして、裁判は高裁まで行き、高裁の判断は以下となったのです。

 

〇固定残業制度では対応する時間数を特定する必要はない。

 

〇手当の性質に照らして7割相当を通常の賃金としても不合理なところはない

 

この裁判では雇用契約書上に明記された時間外勤務手当額については、時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てる趣旨であることが明確であったのです。

 

よって、通常の労働時間に対応する賃金との区分も明確であるから、いわゆる定額手当制の固定残業代として有効と判断されたのです。

 

労災で休業中の社員が定年をむかえたら・・・

今回は「労災で休業中の社員が定年をむかえたら・・・」を解説します。

 

先日、次のご相談がありました。

 

「当社には、労災で休業中の社員がいますが、もうすぐ定年年齢となります。労働基準法では、業務災害で休んでいる人は解雇制限が適用され、その者の解雇を禁止しているということですが、この場合、定年退職となり社員も定年退職として扱えないのですか?」

 

定年退職となる社員が労災(業務災害)で休んでいる場合の取扱いについてのご相談です。

 

まずは、定年について整理してみましょう。

 

定年制とは、就業規則等において、あらかじめ定めた年齢に達したことによって労働契約が終了することを言います。

 

そして、就業規則において、「定年により退職する」と定められているでしょう。

 

この場合、会社の意思表示を要せずに、当然に労働契約は終了となります。

 

 

ご相談のケースでは、就業規則に定年制度の定めがあり、年齢に達したら「定年退職となる」と定められていました。

 

この場合、年齢到達で定年退職となります。

 

しかし、労災(業務災害)との絡みを整理しないといけません。

 

労働基準法では「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、原則として解雇してはなりません(労基法19条1項)」となっています。

 

したがって、労災認定を受けた労働者が療養のため休業する期間及びその後30日間については、原則として解雇してはいけません。

 

これは、業務上の傷病の治療を安心して行うようにということを目的として、規制しているのです。

 

労基法で解雇制限が設けられている中、労働者が労災による休業中に定年に達した場合には、どのように取り扱うべきでしょうか?

 

定年退職は労働者が定年年齢に達したので労働契約が終了するということで、法的な判断は「解雇」とは異なります。

 

したがって労基法における解雇制限も受けないのです。裁判例で以下があります。

 

 

<朝日製鋼所事件 大阪地裁岸和田支部 昭和36年9月11日>

 

〇定年制について「使用者が労働者との契約を一方的に解約する解雇とはその性質を異にするものと解される」となっています。

 

〇定年制による労働契約の終了が労働基準法19条1項によって制限されることはないと判断されています。

 

同じように行政通達(昭和26年8月9日 基収第3388号)にも以下の通りです。

 

就業規則に定めた定年制が労働者の定年に達した翌日を以ってその雇用契約が自動的に終了する旨を定めたことが明らかであり、且つ従来この規定この規定に基づいて定年した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっていて、

 

それが従業員にも徹底している限り解雇の問題は生ぜず、したがってまた法19条の問題も生じない。

 

このように、整理していくと「なるほど」と考えられますが、自己都合退職、解雇、定年等は混同しがちな部分でもあります。

 

1つひとつ原因等を考えれば問題はありませんが、仮に、定年後継続雇用の問題も絡めていくともっと複雑になってしまうでしょう。

 

現場に行く移動時間は労働時間でしょうか?

第254 現場に行く移動時間は労働時間でしょうか?

今回は「現場に行く移動時間は労働時間でしょうか?」を解説します。

 

建設業の方を中心に現場までの移動時間について、ご質問をお受けすることが多いです。

 

果たして、移動時間が労働時間になるのか?ならないのか?を考えてみましょう。

 

所定労働時間内であれば、原則として指揮命令下に置かれていると言えます。

 

しかし、所定労働時間外ではどのように考えれば良いのでしょうか?

 

まずは、時間外で「指揮命令下に置かれている」という要件を整理して考えないといけないのです。

 

〇業務遂行の義務付け

 

〇場所的拘束が有るか?無いか?

 

〇行為自体の業務性

 

以上のことを柱として指揮命令下に置かれているか?いないか?を検討し、労働時間に該当するのか?しないのか?を判断します。

 

 

移動時間についても所定労働時間外の移動時間であれば、指揮命令下に置かれた時間かどうかが問題となります。

 

まず、現場に直行する場合を考えてみましょう。

 

建設現場に直行する場合は、始業時の労務提供の場所が建設現場ということになるので、建設現場までの移動時間は、通勤時間と同じと考えられ、労働時間には該当しません。

 

通勤時間は労務提供の履行の準備行為であって、使用者の指揮命令下に入っていないので、労務提供以前の段階に過ぎないのです。

 

よって、労働時間には該当しないのです。

 

では、会社への立ち寄りの場合はどのように考えれば良いのでしょうか?

 

まずは、会社への立ち寄りが任意の場合を考えてみましょう。

 

始業時の労務の提供場所が建設現場となっており、従業員が任意に会社に立ち寄る場合です。

 

この場合「立ち寄りを会社が命じていないこと」「会社から車両で移動した場合、運転手、移動時間等移動する従業員の間で決められていた」場合、通勤としての性質として、労働時間では無いと判断された裁判がありました(阿由葉工務店事件 東京地裁平成14年11月15日)。

 

では、会社への立ち寄りが義務付けられていた場合をみてみましょう。

 

この場合、会社からの立ち寄り後の移動時間は労働時間と判断されます。(総設事件 東京地裁 平成20年2月22日)

 

〇事務所に集合することが原則化しており、現場に直行する者はまれだった

 

〇事務所では、使用者と親方らによる番割りや留意事項等の業務の打合せが行われた。

 

つまり、会社への立ち寄りが黙示も含めて「命じられて」いれば、労働時間となるのは明らかなのです。

 

しかし、会社への立ち寄りが指示されているのか?それとも任意なのかは、微妙な場合も多いです。

 

対応策として現場に出勤する前に会社に立ち寄る必要がないのであれば、現場への移動を直行直帰が原則とし、通勤時間とすることで労働時間に該当しないようにすることが考えられます。

 

さらに、現場までの交通の手段がない従業員に対しては、会社への立ち寄りを任意とし、交通手段のある従業員にピックアップしてもらうと本人達の取り決めで、会社は関与しないようにします。

 

これで移動時間の労働時間性を改善できるのです。

 

辞めてもらいたい社員への対応について

今回は「辞めてもらいたい社員への対応について」を解説します。

 

先日、次のようなご相談がありました。

 

「辞めてもらいたいと考えている社員がいますが、どのようにして退職してもらえばよいでしょうか?」

 

同じような相談も多くあり、この話は多くの会社が頭を抱えています。

 

また、社長たちは、何となく「解雇が難しい」ことは承知していますが、リスクが大きいことも何となくわかっているのです。

 

解雇について、解雇権濫用法理が労働契約法16条に記載されています。これが以下となっています。

 

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 

また、 解雇は「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」の2つの要因が認められないと「解雇無効」となってしまうのです。

 

この要因のハードルはとても高く、裁判でも「解雇無効」の判断がよく出ているのも事実なのです。

 

もし、解雇が無効となったら、職場復帰をさせなければならないでしょう。

 

この場合、大きな争いを起こした社員を戻しても、双方の信頼が壊れている場合がほとんどです。

 

きちんと業務をこなしてくれるかも疑問です。

 

こうなると金銭での解決となり、多額の金額が要求されるケースも多くあります。

 

場合によっては、精神的負担が大きい等で慰謝料の話が出てくるかもしれません。

 

また、従業員側も再就職等への影響なども考えないといけません。

 

 

いずれにせよ、解雇等でこじれたら、お互いに不利益となる可能性が大きいのです。

 

そのため、会社は合意退職を原則として対応を考えます。

 

その手段として「退職勧奨」が多く用いられます。

 

退職勧奨とは「会社が従業員に対して、退職を促すこと」であり、単に「辞めて下さい」とお願いをしている状態です。

 

しかし、退職の合意を誘因しているという法律行為の性格も併せもっているので、退職勧奨を実施する場合はプロセスがとても重要なのです。

 

では、退職勧奨の流れをみていきましょう。

 

〇退職勧奨の準備

 

→退職勧奨の理由の整理

 

→退職条件(例:退職一時金の支給、有給買取、再就職支援等)

 

→勧奨の段取り等の決定

 

〇面談の実施

 

→従業員の自由な意思決定が妨げられないような状況、方法で実施する

 

→退職の強要とならないようにする

 

〇退職届、合意書の作成

 

→退職の意思確認を文書化する

 

→会社の承諾を明確にする(総務部長等)

 

〇合意退職

 

以上のような流れとなって退職となるのです。

 

 

ここで問題となるのが、勧奨のやり方です。

 

退職勧奨はあくまでも「退職の勧め」であって強引に実施するものではありません。

 

退職に追い込もうとして「焦って」実行しても、後々問題が発生しているケースをよく拝見します。

 

実施する場合は、計画的に確実に進めましょう。

 

あまり、強く迫ると退職強要とみられてしまう可能性があるからです。

 

定年後再雇用の給与額設定について

今回は「定年後再雇用の給与額設定について」を解説します。

 

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差がいろいろな場面で問題視されています。

 

平成30年6月1日、最高裁で判断された長澤運輸事件では、定年前と定年後の賃金減額が2割程度で、容認されています。

 

しかし、「もっと減額できるのではないか?」等のご質問も多く、定年後の働き方そのものが、定年前と異なる場合のご相談等もお受けしております。

 

 

確かに、定年後の働き方については個人毎に考え方も違い、一概に賃金だけの問題ではありません。

 

実際に定年後の再雇用契約について、契約の内容は双方の合意によって定められるのです。

 

だから、賃金が〇%ダウンだから合法、違法と言う話ではありません。

 

これに関する裁判があります。

 

<学究社事件 東京地裁立川支部 平成30年1月29日>

 

〇Aは進学塾を経営する会社で専任講師とし正社員として働いていた。

 

→定年前の年収は約650万円程度であった

 

〇Aは定年退職をむかえるに当たり、再雇用の契約を会社と行っていた。

 

→再雇用の給与は会社が決定する旨の就業規則が整備されていた

 

〇会社は定年後再雇用制度について、書面で説明を交付し、専務が説明を実施した。

 

〇会社はAに意向を尋ねたところ「検討する」とのことであった。

 

〇定年退職した後、Aとの間で再雇用契約について、会社から定年退職前の賃金の30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されました。

 

〇Aは定年後、再雇用契約にサインはしませんでしたが、1コマいくらというコマ給で働き始めました。

 

〇Aは定年退職の前後で仕事内容が変わっていないのに賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして労働契約法20条違反を訴え、裁判をおこした。

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇定年退職後に賃金が下がることは一般的にどの会社でも実施されていることでもある。

 

〇賃金が下がることが不合理ではない。

 

〇労働契約法20条違反ではないと判断されました(会社側が勝訴)。

 

 

この裁判を詳しくみていきましょう。定年退職前と定年退職後の違いですが、以下となっています。 

 

〇定年前:授業以外にも、生徒、保護者への対応や研修が義務付けられていた。

 

〇定年退職後:基本的には授業のみを行い、生徒、保護者への対応は上司からの指示がある例外的な場合に限られていました。

 

このため、定年後継続雇用者の賃金を引き下げることが不合理ではないとし、労働契約法20条(不合理な取扱い)に違反するとは認められないとしたのです。

 

定年前の専任講師と時間講師では権利義務に相違があり、勤務内容についても時間講師は、原則授業のみを担当するものなのでした。

 

よって、その業務内容、責任の程度に差があることは明白で、これによって賃金に差があることは容認されたのです。

 

定額残業制導入で注意するポイント

今回は「定額残業制導入で注意するポイント」を解説します。

 

働き方改革関連法がスタートしています。

 

過重労働防止や同一労働同一賃金が主な内容となっていますが、具体的には、労働時間の把握や管理が、よりはっきりしないと対策がとれなくなります。 

 

多くの社長がこれに危機感を持っておられるのでしょう。

 

労働時間や残業把握のためのご相談が多いです。

 

とりわけ、定額残業制度の導入にご相談もまだまだありますのでここで注意するポイントを整理したいと思います。

 

主な注意点として以下があります。

 

〇就業規則等に根拠規定を置く。

 

〇金額(〇万円)、割合(〇%)、時間(〇時間)で割増賃金に相当する部分を特定する。

 

〇時間外割増、休日割増、深夜割増などのいずれかを含むのか、あるいは全部なのかを明らかにする。

 

〇設定した時間等をオーバーした場合、差額支払の定めを置く。

 

以上が主なポイントとなりますが、実際、トラブル等になった時に検証されるのが設定した時間等をオーバーした差額支払についてなのです。

 

 

これに関する裁判があります。 

 

<アクティリンク事件 東京地裁 平成24年8月28日>

 

〇社員Aは主にアルバイト等のシフト管理業務を行っていた。

 

〇Aの給料は基本給と営業手当が支給されていて、営業手当は「残業手当 月30時間分に相当する」と賃金規定に規定されていた。

 

〇Aは懲戒解雇されたのを機に未払い賃金の請求(残業代の請求)を裁判所に訴えた。

 

→懲戒解雇についての争いはない

 

そして、裁判所の判断は以下となったのです。

 

〇営業手当は営業実績として支払っているため、残業手当の見合い分では無い。

 

→会社は「営業手当は30時間分の残業代である」と主張

 

〇30時間を超える残業時間の時に差額を清算していた実態が無い。

 

〇営業手当は残業見合い分の手当ではない。

 

→会社側が敗訴となった

 

なぜこの結果になったのか詳細をみてみましょう。

 

会社は賃金規定に「営業手当は残業時間30時間見合い」と規定してあり、Aに支払った賃金のうち、営業手当は30時間分の固定残業代の為、残業代の算定基礎の入らないと主張しました。

 

しかし、裁判では勤怠管理等が詳細に調査され、会社で管理していた社員Aの出勤日数、出勤時間等の記載が実際の労働時間が反映されていたものではなかったのです。

 

そして、裁判所の判断は「会社は労働時間の管理を行った様子がない」「月30時間を超える時間外労働に対し、残業代の支払いを行っていない」となったのです。

 

 

以上のように、就業規則や賃金規定に「定額支給の残業手当」を記載しても実際の細かな運用で否認されることがあるのです。

 

定額残業制の重要なポイントとして、基本給等と固定残業部分が分かれていること、オーバー分の差額支払がなされていることが重要なのです。

 

中途入社の管理職を解雇するには?

今回は「中途入社の管理職を解雇するには?」を解説します。

 

先日、「幹部社員(管理職)を採用するにあたってのポイントを教えて下さい」とご相談がありました。

 

確かに、採用時の面接、筆記試験等を実施しても、その人のことがすべてわかる訳ではありません。

 

しかも、面接時間も限られているし、仮に筆記試験等を実施しても本当の業務能力まではわからないでしょう。

 

仮に、採用した幹部社員が期待していた業務をこなせなかった場合はどのように対応すれば良いのでしょうか?

 

これに関する裁判があります。

 

<×保険会社事件 東京地裁 平成30年2月2日>

 

〇学校法人を主たる顧客とする保険代理店で営業を強化するために営業部長を中途採用した。

 

〇学校法人を主たる顧客とするため、保護者からのクレームは慎重に対応すべきなのに営業部長は反対の対応を行った。

 

〇部長はガイダンスでも説明は不十分であった。

 

〇宛名書きにも十分な注意を払わなかった。

 

→1つひとつの事は小さなビジネス違反であったが、回数は意識が低くかった

 

〇部長は社内でも、自分の気持ちが害されたら周囲に当たったり、不快な気持ちを蔓延させていた。

 

〇会社からの指導で改善の兆しもみえてこない状況であった。

 

→業務能力の向上も見込めない

 

〇部長はメールを私用アドレスに転送する等、情報管理の意識も低い。

 

〇部長は会社の指示に従わないだけでなく、会社に取り返しのつかない損失を与えかねない態度であった。

 

〇会社は部長を解雇し、部長は「不当解雇」として裁判所に訴えた。

 

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

 

〇本件、解雇を有効である。

 

→会社側の主張が通り、勝訴した。

 

 

この部長が雇用時に予定された能力を有していないのは明らかです。

 

そして、これを改善しようともせず、勤務態度が不良であるということは解雇について「客観的、合理的な理由」があると言えます。

 

そして、解雇の要素として社会通念上相当と考えられるかという点についてです。

 

会社は従業員6名で、そのうち、社員5名から部長を辞めさせるように嘆願書が出ています。

 

このような状態で、これ以上勤務態度や能力の改善を待つ余裕が無かったと認められます。

 

つまり、裁判所は「社会通念上認められる」と判断されたのです。

 

この裁判で注目されるポイントとして、会社がどの程度、該当する従業員に対して、「勤務態度改善のため、能力向上の教育指導を実施するか」ということです。

 

新卒者や若年者であれば、教育指導は必須と考えられます。

 

中途採用の場合で、特に経験値が高く、それなりの処遇で採用する場合は、教育義務については軽減されていると判断され、どのよう業務を行ってもらい、どの程度の成果を期待するのか、明確にすることが大切なのです。

 

そしてどんな能力が必要なのかを明らかにしておくことが重要なのです。