定年後再雇用の給与額設定について
今回は「定年後再雇用の給与額設定について」を解説します。
正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差がいろいろな場面で問題視されています。
平成30年6月1日、最高裁で判断された長澤運輸事件では、定年前と定年後の賃金減額が2割程度で、容認されています。
しかし、「もっと減額できるのではないか?」等のご質問も多く、定年後の働き方そのものが、定年前と異なる場合のご相談等もお受けしております。
確かに、定年後の働き方については個人毎に考え方も違い、一概に賃金だけの問題ではありません。
実際に定年後の再雇用契約について、契約の内容は双方の合意によって定められるのです。
だから、賃金が〇%ダウンだから合法、違法と言う話ではありません。
これに関する裁判があります。
<学究社事件 東京地裁立川支部 平成30年1月29日>
〇Aは進学塾を経営する会社で専任講師とし正社員として働いていた。
→定年前の年収は約650万円程度であった
〇Aは定年退職をむかえるに当たり、再雇用の契約を会社と行っていた。
→再雇用の給与は会社が決定する旨の就業規則が整備されていた
〇会社は定年後再雇用制度について、書面で説明を交付し、専務が説明を実施した。
〇会社はAに意向を尋ねたところ「検討する」とのことであった。
〇定年退職した後、Aとの間で再雇用契約について、会社から定年退職前の賃金の30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されました。
〇Aは定年後、再雇用契約にサインはしませんでしたが、1コマいくらというコマ給で働き始めました。
〇Aは定年退職の前後で仕事内容が変わっていないのに賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして労働契約法20条違反を訴え、裁判をおこした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇定年退職後に賃金が下がることは一般的にどの会社でも実施されていることでもある。
〇賃金が下がることが不合理ではない。
〇労働契約法20条違反ではないと判断されました(会社側が勝訴)。
この裁判を詳しくみていきましょう。定年退職前と定年退職後の違いですが、以下となっています。
〇定年前:授業以外にも、生徒、保護者への対応や研修が義務付けられていた。
〇定年退職後:基本的には授業のみを行い、生徒、保護者への対応は上司からの指示がある例外的な場合に限られていました。
このため、定年後継続雇用者の賃金を引き下げることが不合理ではないとし、労働契約法20条(不合理な取扱い)に違反するとは認められないとしたのです。
定年前の専任講師と時間講師では権利義務に相違があり、勤務内容についても時間講師は、原則授業のみを担当するものなのでした。
よって、その業務内容、責任の程度に差があることは明白で、これによって賃金に差があることは容認されたのです。