港区の社会保険労務士 内海正人の成功人材活用術!!
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契約社員に休職制度を適用させないといけませんか?

今回は「契約社員に休職制度を適用させないといけませんか?」を解説します。

 

休職制度とは、業務外でのケガや病気(私傷病)で、一定期間仕事を休んで療養が必要な場合に、会社が労働義務を免除する制度となっています。

 

休職制度は「必ず定めなければならない」と法律で決められているものではありません。

 

よって、会社ごとに休職期間が設定されています。

 

就業年数によって休職期間に差を設けている企業が多いようです。

 

しかし、「休職制度は会社が自由に決められる」のでしょうか? 特に働き方改革で、「正規社員と非正規社員の処遇差をなくそう」ということを実施しなければなりません。

 

これに関する裁判があります。

 

<日本郵便(休職)事件 東京高裁 平成30年10月25日>

 

〇時給契約の期間雇用契約社員Aは約8年8ヵ月就労後、傷病で出社できず、6ヶ月後に雇止めとなった。

 

〇Aは「雇止めの無効」「ペイバック等の支払い」を求めて裁判を起こした。

 

〇原審(東京地裁 平成29年9月11日)は、時給契約の期間雇用契約社員の職務は、正社員と職務内容の違い、雇用の期間が異なる等の理由で、不合理な労働条件の相違ではないとした。

 

→法人側の主張が通ったが、その後、別の裁判、日本郵便(東京)事件で正社員と期間社員の病気休暇の相違が違反と判断された。

 

〇Aはこの判断に納得せず、控訴した。

 

そして、東京高裁は以下の判断を下しました。

 

〇不合理な労働条件の相違ではないとし、本件控訴の理由がないと棄却となった。

 

裁判の大きな争点は病気休暇と休職制度についてです。

 

前提となる労働条件は以下となっています。

 

〇正社員には勤続年数に応じて90日又は180日以内の有給休暇と最大3ヵ月の休職制度が認められる

 

〇時給制契約社員は無給の10日間の病気休暇しか認められない

 

この労働条件の相違が労働契約法20条(同一労働の正社員と非正規社員の労働条件に差をつけてはいけない)違反を主張されたのです。

 

原審では「時給制契約社員を含む期間雇用社員の職務内容や、職務内容の変更範囲や配置の変更範囲について相違が大きい」「正社員等には長期雇用の確保から休職制度を設けている」となっています。

 

この2点を挙げ、不合理な労働条件の相違とは認められないとしたのです。

 

そして、高裁では更に詳細な事実認定を行ったのです。

 

それは、正社員の中でも時給契約社員に近い一般職と比較し、業務内容、スキル、責任の範囲等を比べたのです。

 

その結果、業務内容については、大きな差異はないが、期待される習熟度やスキルについては違いがあり、責任の程度も異なることが認められました。

 

更に、一般職は転居を伴わない転勤があるが、時給制契約社員は、特定された職場及び職務内容での勤務なので、労働条件に関し一定の相違があると認められました。

 

さらに、時給制契約社員も傷病手当金の受給ができ、金銭補てんの治療が可能なので格差が不合理ではないとされました。

 

残業管理を徹底しないと・・・

今回は「残業管理を徹底しないと・・・」を解説します。

 

働き方改革関連法の目玉といわれる「残業時間の規制」は大企業、中小企業で、スタートする時期が異なります。

 

大企業は2019年4月からスタートしましたが、中小企業は2020年4月からスタートでした。

 

但し、なかなか浸透していない部分もあるので、再度復習です。

 

残業規制は以下となります。

 

【残業時間の規制】

 

〇残業時間の上限は、原則として月45時間、年360時間 臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

 

〇臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、

 

・年720時間以内

 

・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)

 

・月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。

 

〇原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで

となっております。

 

残業が常態化している会社は、厳しい規制となるでしょう。

 

しかし、この規制を守らないと刑事罰の適用となるのです。

 

この罰則は「事業主に30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が科せられる」という厳しいものとなっております。

 

このため、「残業を減らすにはどうしたら良いのか?」「労働時間のカウントそのものをどのように考えたらよいのか?」「残業管理をどのようにしたら良いのか?」などのご相談が多くありました。

 

 

この中でも「残業の管理」についてのご相談が多く、特に「社員が勝手に残業している場合、タイムカード時間でカウントしなくてはいけませんか?」ということが多かったです。

 

もし、あなたの会社が労働時間の管理をタイムカードのみで行っている場合、終了の打刻時間が残業となる場合は、その時刻を基準として残業代の支払いを行わないと違法となる可能性があります。

 

そのため、残業の管理については「残業時間」と「残業する業務の内容」の管理を実施することをおすすめします。

 

具体的な方法は「残業承認制」とし、残業時間と残業する業務内容を検証し、承認するということになります。

 

これに関する裁判があります。

 

<ヒロセ電機事件 東京地裁 平成25年5月22日>

 

〇従業員が未払い残業を主張し、裁判を起こした(会社は時間外勤務命令書等で管理していたが、従業員は入退館記録表によるべきと主張した)。

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇時間外勤務命令書により、残業時間をカウントする(会社の主張が通った)。

 

会社の就業規則には「時間外勤務は直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めない」と明記がありました。

 

そして、時間外勤務命令書について、従業員が「内容を確認して確認印を押していた」という運用とされていたのです。

 

これにより、時間外勤務は所属長からの指示で、本人の希望も踏まえて個別、具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたと判断されたのです。

 

残業の事前承認制が徹底して運用されていれば、入退社時刻のみやタイムカードのみでの管理より優先されるとしたのです。

 

整理解雇が有効になるには、何をすれば良いですか?

今回は「整理解雇が有効になるには、何をすれば良いですか?」を解説します。

 

「社員を解雇させたい」「社員を辞めさせたい」「不採算事業部を切り離したい」というご相談が多く、ご相談の中身は多様なものとなっております。

 

このような状況下で、事業縮小で「整理解雇」を実施したいというご相談をお受けしました。

 

整理解雇とは事業の継続が思わしくないことを理由に組織の再構築(リストラ)を行なわれなければならないのですが、その中の人員整理を行うことで、事業の維持継続を図ることです。

 

一般に普通解雇や懲戒解雇は、従業員側にその理由がある状況ですが、整理解雇は会社側の事情にもとづくものなのです。

 

そのため、整理解雇を実施するのは次の4つの要件を具備しないと、有効とならないとされています。

 

では「整理解雇の4つの要件」をみてみましょう。

 

1、人員整理の必要性: 余剰人員の整理解雇を行うには、削減をしなければ経営を維持できないという、企業経営上の高度な必要性が認められなければならないのです。

 

人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、会社の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとなっています。

 

2、解雇回避努力義務の履行:期間の定めのない雇用契約においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求されます。

 

例えば、役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断される必要があります。

 

3、被解雇者選定の合理性:解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公正でなければならないのです。

 

例えば勤務成績を人選基準とする場合、基準の客観性・合理性が問題となるのです。

 

4、手続の妥当性:整理解雇については、労働者に帰責性がないことから、使用者は信義則上労働者・労働組合と協議し説明する義務を負います。

 

特に手続の妥当性が非常に重視されているのです。

 

例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても無効とされるケースも多いのです。

 

整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされます。

 

しかし、最近の裁判では4つの要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多いのです。

 

 

4つの要件をすべて満たさなくても解雇が認められている裁判も多く、4つの要件が確立される根拠となった過去の判例には大企業のものが多く、中小企業の実情に即しているとはいえなかったのです。

 

多くの中小企業では、「配置転換したくても職場がない」「一時帰休させるほどの企業体力がない」など、大企業のように段階的な雇用調整を行う余裕がないのですが、裁判所の判断は、中小企業にもできるだけ大企業と同様の努力をしてもらう作用を期待しています。

 

厳しい叱責と長時間労働が結びついたら・・・

今回は「厳しい叱責と長時間労働が結びついたら・・・」を解説します。

 

厳しい叱責はパワーハラスメントとして取り扱われることが多くなってきました。

 

しかし、「厳しく指導する」ことがパワハラではありません。

 

業務に関連することについての叱責や注意は「多少、荒い言葉」でもパワハラに認定されるケースは少ないでしょう。

 

しかし、長時間労働等の過重労働と結びついて、精神的に追い詰めたらパワハラの可能性が高くなるのです。

 

これに関する裁判があります。 

 

<岡山県貨物運送事件 仙台地裁 平成25年6月25日、仙台高裁 平成26年6月27日>

 

〇新入社員が連日の長時間残業(月100時間超)をしていた。

 

〇ミスが発生し、所長から厳しい叱責を受けていた。

 

〇ミスが直らないので、所長は「解雇の可能性」を示した。

 

〇その後、精神疾患を発症し、自殺した。

 

〇遺族は会社には安全配慮義務違反、所長には不法行為で裁判を起こした。

 

→約1億2千万円の損害賠償金額を請求

 

そして、第一審では以下となったのです。

 

〇自殺5か月前から月平均100時間程度か、これを超える恒常的な残業があり、自殺前3か月間は月平均129時間の残業だった。

 

〇所長による叱責や新入社員としての緊張や不安が心理的負荷を増加させた。

 

〇これにより適応障害を発症したが、その後も長時間の残業があった。

 

〇これらの結果、正常な認識、行為および抑制力が阻害された状態となり、自殺した。

 

〇会社は新入社員に長時間労働を強いた。

 

〇業務の負担や職場環境などに何らの配慮をすることなく、残業状態を漫然と放置。

 

〇所長には人員配置の権限があったとは認められない。

 

〇会社「のみ」に対し、合計約6,900万円の支払を命じた。

 

この結果を受け、遺族は「所長の責任」を追及すべく控訴したのです。

 

そして、第二審では以下の結果となったのです。

 

〇所長が新入社員に、勤務時間を実際より短く申告するよう強要した。

 

〇他の従業員の前で繰り返し「ばか野郎」と怒鳴りつけた。

 

〇その結果、長時間残業を強いられ、パワハラを受け自殺に至った。

 

〇所長のパワハラも認めた。

 

〇会社と所長の「両方」に約6,900万円の支払いを命じた。

 

第一審の結果は「会社の安全配慮義務違反」を認めましたが、所長のパワハラは認められませんでした。

 

しかし、第二審では所長のパワハラが認められ、所長に対しても支払い命令が出たのです。

 

この高裁の判決で、パワハラ認定のポイントとなったのが「継続的な叱責」です。

 

恒常的、日常的な発言、行為がパワハラとなるということです。

 

 

時間外労働時間がこれだけ多いと、それだけで労災と判断され、また、会社の安全配慮義務違反を認定される可能性が高くなるのです。

 

会社側としては、従業員の労働時間が過大になっていないか、常に配慮すべきです。

 

パワハラと精神疾患の関係について

今回は「パワハラと精神疾患の関係について」を解説します。

 

最近はパワハラ予防に対する意識が高くなってきましたが、会社ごとに温度差もあり、ほとんどの会社が「予防を意識している」というわけではありません。

 

現場で部下に「人権を毀損するような発言」を行い、知らず知らずに追い詰めてしまうことも実際にあるのです。

 

これに関する裁判があります。<サントリーホールディングス他事件 東京地裁 平成26年7月31日> 

 

〇Aは入社して9年で異動となり、上司Bの指示で営業物品購買金額低減のプロジェクトに従事したが、他の部署からAの勤務態度に問題ありと改善指導を要請された。

 

〇また、Aは指示通りの資料を提出しないこと等があった。

 

〇その後、購買予算と実績管理のシステムを開発することとなり、Aは主任となったが、「開発は無理です」と言い、Bが指導した。

 

〇それから、Aはミスなどが重なり、Bの指導の回数が増え、指導が厳しくなった。

 

〇Aは体調が悪く、病院で受診したところ、うつ病に罹患しており、「3ヵ月の自宅療養を要する」と診断書の交付を受けた。

 

〇Aは診断書を提出し、休職を願い出たが、Bから次のことを言われた。

 

「3ヵ月の休職は有給休暇を消化してほしい。 Aは隣の部署に異動予定であり、3ヵ月の休みを取るなら異動は白紙に戻さざるを得ないので、異動ができるか返事をするように」   

 

〇Aは異動を希望する旨を伝え、休職せずにBの下で勤務を再開した。

 

〇それから、Aは異動をしたが、精神状態は快方に向かわず、有給休暇を取得するなどしていたが、休職となった。

 

〇Aは社内の内部通報制度で、Bの行為はパワハラであるとし、Bの責任追及を求めた。

 

〇内部通報制度を担当するCは、Aとの間でやり取りをし、BはAに対してBの行為は悪意によるものでない以上、処分対象にはならないと伝えた。

 

〇Aはこれを不服とし、裁判を起こした。

 

→損害賠償額は約2,500万円

 

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

 

〇会社及びBはAに対し、300万円+遅延損害金を支払えと判断したのです。

 

〇そして、Bの行為は不法行為である。

 

〇会社はBを上司として任命しているので、使用者責任が成立する。

 

〇Cには違法行為は見られない。

 

以上としたのです。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

精神疾患の労災認定基準は、上司の叱責が精神疾患を発病させるほどの心理的負荷「強」に該当しないと認められません。

 

事例でBがAに対して人格否定的な発言で、業務範囲を逸脱していたのは認められますが、この点のみでは弱いと判断されています。

 

しかし、診断書を棚上げし、休職の申出を阻害する結果を生じさせたことで、不法行為と認められたのです。

 

他の事情と相まっての発病との間に因果関係が認められることがあるので、このようなことの無いように現場での運用を慎重に実施する必要があるのです。

 

仮眠時間は労働時間?

今回は「仮眠時間は労働時間?」を解説します。」

 

「仮眠時間は労働していないから、給料は発生しない」と考えている会社は多いです。

 

しかし、最高裁の判決で、「労働から解放されていなければ、労働基準法上の労働時間に当たる」との判断でした(大星ビル管理事件 最高裁 平成14年2月28日)。

 

 なぜ、仮眠時間が労働時間として認められたのか?というと、「待機している時間に仮眠をしてもいいが、突発事故に対応すること」となっていました。

 

このような状況で仮眠をしても「労働からの解放」とはならないので仮眠時間も「労働時間としてカウントする」と判断されたのです。

 

しかし、どこからどこまでが「労働からの解放」となるのでしょうか?これに関する裁判があります。

 

今回の事例は夜行バスの交代運転手の車内仮眠時間が「労働時間に該当するのか?」ということがポイントとなりました。

 

<K社事件 東京高裁 平成30年8月29日>

 

〇夜行バスの運転業務に従事する運転手らは、交代運転手としてバスに乗車している時間も労働時間と主張した。

 

〇会社に対して、未払い賃金等や遅延損害金を求め、裁判を起こした。

 

〇第一審では、交代運転手として車内にいた時間は、「労総時間ではない」と労働時間該当性を否定した。

 

〇裁判は控訴となったのです。

 

そして、高裁の判断が以下となったのです。

 

〇交代運転手として乗車していた時間は労働時間ではない。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

交代運転手での乗車時間は「労働時間ではない」と判断されたのですが、ポイントをみてみましょう。

 

まず、労働からの解放がなされているか?ということを考えた場合に運転手ら側からの意見が以下のように上がってきました。

 

(1)制服の着用義務

 

(2)仮眠場所が運転席の後ろのリクライニングシート

 

(3)道案内等の運転手の補助的な業務が発生するかもしれない

 

それぞれに対し、判断を下したのです。

 

(1)交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバスの車内であるのはやむを得ないし、制服の着用は、休憩時間中は上着を脱ぐことを許容し、可能な限り指揮命令下から解放されるように配慮していた。

 

(2)交代運転手は2人用リクライニングシートを1人で使用し、仮眠できる状態であり、飲食も可能であった(カーテンが設置されているものもあり)。

 

(3)カーナビがあるため道案内をしていたという主張を採用できない。

 

したがって、交代運転手といてバスに乗っている時間は、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとはいえず、労働基準法上の労働時間には、あたらないと判断しました。

 

最高裁の判決の仮眠時間は突発的な事態に対応することが前提で、その場所で仮眠をすることが要請されていました。

 

しかし、今回の事例では仮眠と業務は異なり、業務は「運転すること」と区別が明確なので結論が異なったのです。

 

出来高払制賃金から時間外手当相当を控除してもいいのですか?

今回は「出来高払制賃金から時間外手当相当を控除してもいいのですか?」を解説します。

 

出来高払制と時間外労働手当の調整を実施している会社がありました。

 

これに関する裁判があります。<Ⅹ事件 大阪地裁 平成31年3月20日>

 

○ 会社は貨物自動車運送事業等を行う企業で、 Aらは社員として集荷、配達業務を行っていた。

 

○ 賃金として、能率手当が支給されていたが、従事した業務結果から算出される出来高から、時間外手当に相当する金額を控除

していた。

 

○この運用は法律に違反していて、一部の賃金が未払いとなるとAらは主張し、裁判を起こしたのです。

 

そして、裁判は以下の判断を下したのです。

 

○Aらの請求を棄却する

 

→ 会社の主張が通った

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

この裁判の争点は「出来高払から時間外手当に相当する額を控除している点」となっています。

 

そして、

 

(1)時間外手当を現実に支払ったと言えるのか?

 

(2)通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されているのか?

 

(3)残業の計算方法が法定通りなのか?

 

(4)公序良俗に反するのか?がポイントとなったのです。

 

この(1)および(3)について、裁判所はAらに適用される賃金体系上、3種類(A、B、C)の時間外を踏まえて支給されていると認定しています。

 

時間外労働に関する時間外手当はA、Cで算出され、これとは別に 出来高によって算定される賃金対象額が時間外手当Aを上回る場合にのみ、超過差額を基準に能率手当が算出されるのです。

 

更に、能率手当を基礎賃金として、時間外手当Bが算出され、各従業員に時間外手当を含む賃金が支給されているのです。

 

このことを認定した上で、能率手当と控除対象である時間外手当Aは独立の賃金項目として支給されています。

 

能率手当を含めた基準内賃金を基礎に時間外手当が算出されているところ、現実的には時間外手当を払っていると判断したのです(1)。

 

そして、通常の賃金の定め方について、労基法で規制していないことを考えれば、他の法規制や公序良俗に反しない限り、賃金体系は労使の自治に委ねられるとしたのです。

 

さらに、能率手当は出来高払賃金ではありますが、その定め方を指定する法規制はなく、成果主義の観点から労働効率性を評価に取り入れて労働時間の長短で金額差が生る調整は不合理ではないと判断したのです。

 

このことは残業代の計算が法定通りに行われたと認定されたのです(3)。

 

また、本件賃金は、通常の賃金と時間外手当とは明確に区分されており、さらに、法定の残業計算を下回るものでもないとされたのです(2)。

 

公序良俗に反するのか?(4)というポイントについては、 本件賃金計算が法定の主旨に反するものでないので、違反ではないと判断したのです。

 

非効率的な時間外労働を少なくし生産性を向上させることは、会社の大きな課題となっています。

 

この裁判事例の能率手当の目的は、非効率時間外労働の抑制と、効率的な業務進行の奨励にあるのです。

管理監督者の基準とは?

今回は「管理監督者の基準とは?」を解説します。

 

管理監督者とは、労働条件や労務管理が経営者と同様な立場にある者のことですが、近年ではこの管理監督者の取り扱いを巡るトラブルが多発しています。

 

管理監督者とは、一般の労働者とは異なり、企業内で相応の地位と権限を与えられて業務内容の管理や業務を遂行するために監督を行う者のことです。

 

管理監督者に残業や休日出勤をさせ、その分の残業代や休日労働手当を支払わなかったとしても、休憩や休日を与えなかったとしても、労働基準法違反に問われないのです。

 

管理監督者について、一般の中小企業では、部長級、工場長級が該当するケースが多く見られ、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法上の規定が適用されないことを悪用した「名ばかり管理職」問題が挙げられます。

 

具体的には、企業が、法律上の管理監督者には該当しない従業員に対して名目上の肩書を与えることで、残業代や休日労働手当の支払いを逃れようとすることです。

 

これに関する裁判があります。

 

<日産自動車事件 横浜地裁 平成31年3月26日>

 

〇社員Aは課長級の管理職として、複数の部署でマーケティングを担当してした。

 

〇Aは商品決定会議にも出席し、製品原価と販売価格の基礎となる数字について約束を取り付ける権限を有していた。

 

〇Aは執務中に倒れ、脳幹出血で死亡した。

 

〇配偶者は、「Aは管理監督者ではないので、残業等の未払いの賃金を請求する」として裁判を起こした。

 

→未払いの残業代約520万円の支払い

 

そして、裁判は以下の判断を下したのです。

 

〇未払い賃金約357万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを命じる。

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

裁判所は管理監督者に該当する要件を次の3つとしました。

 

(1)当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限が付与されているのか?

 

(2)自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか?

 

(3)給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇か?

 

この点から考えると(1)について、「Aは商品決定会議にも出席し、製品原価と販売価格の基礎となる数字について約束を取り付ける権限を有していた」とのことですが、実際は、「上席者の補佐」に過ぎず、間接的であると判断され、経営者と一体の立場とは言えないと判断されました。

 

(2)については、欠勤控除等はされず、自己の裁量で労働時間が管理することが許容されていました。

 

更に、(3)の処遇についても年収が約1,237万円位で、部下よりも年収ベースで約244万円も高かったので、管理監督者にふさわしいと判断されたのです。

 

この裁判では実質的に経営者と一体的な立場にあると言えるだけの重要な職務と責任、権限が与えられているとは認められないとして、管理監督者に該当しないと判断されたのです。 

約社員でも退職金を支払わないといけません?

今回は「契約社員でも退職金を支払わないといけません?」を解説します。

 

「働き方改革関連法」の同一労働同一賃金の内容は「有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違に対し、不合理と認められるものではあってはならない」と定めています。

 

これは労働条件について「同じにしないといけない」ということではなく、「バランスが求められる」ということです。

 

労働条件について給与だけではなく、賞与、手当、退職金などの差についても考えないといけないのです。

 

特に、退職金は正社員だけの労働条件のところが多いですが、契約社員についても今後、支払わなければならないのでしょうか?

 

これに関する裁判があります。

 

<メトロコマース事件 東京高裁 平成31年2月20日>

 

○ 駅構内で物品販売等を業とする会社には、正社員と有期雇用の契約社員で業務を行っており、それぞれ異なる就業規則が適用されていた。

 

→正社員:無期雇用、月給制、職務に制限がない

 

→契約社員A:有期雇用、月給制、職務に制限がある

 

→契約社員B:有期雇用、時給制、職務に制限がある

 

○契約社員Bの4人は10年前後勤続しており、正社員とほぼ同一の業務をしていたにも関わらず、給与、賞与、手当、退職金などの処遇に差があり、これを違法として、裁判所に訴えた。

 

○第一審では、正社員全体と契約社員Bとを比較して「業務の内容及び、責任の程度に大きな相違あり」とし、請求された労働条件のうち、早出残業手当のみ合理性を認められた。

 

○この判断に、契約社員4人は控訴した。

 

そして、高裁は次の判断を下したのです。

 

○契約社員に「退職金制度がないこと自体、不合理ではない」とするが、勤続年数約10年の2人には退職金の「功労報償的な部分」を支給しないのは不合理と判断したのです。

 

→正社員の退職金の25%の支払いを命じた

 

 

この裁判を詳しくみていきましょう。

 

第一審では「早出残業手当」のみの相違が「不合理」と判断されたのですが、これは正社員全体と契約社員Bを比較しての判断となった結果です。

 

第二審は「売店業務に従事する正社員に限定して、比較を行ったのです。

 

その結果、「長期雇用を前提とした向き労働契約者に対しては福利厚生を手厚くするとし、有能な人材の確保、定着の為に退職金制度を設けるのは認められる」「短期雇用を前提とした有期契約労働者に、退職金制度を設けないこと自体は不合理に当たらない」と判断されたのです。

 

しかし、契約社員Aが平成28年4月に名称変更されたとともに、無期労働者となるとともに、退職金制度が設けられたのです。

 

このことを考慮すれば、契約社員Bについて、長年の勤続に対する功労報償の部分に該当する金額を、一切支給しないのは不合理であると判断したのでが、契約社員Aの処遇がなかったら結果は異なっていたかもしれません。

 

この結論がスタンダードになるとは思われませんが、トラブルを防ぐには「退職金支給の意味合い」を強化することが必要です。

 

雇止めの基準について

今回は「雇止めの基準について」を解説します。

 

定年で60歳を迎え、再雇用で会社に残ることが「当たり前」の時代となってきました。

 

それに伴って、トラブルも増えています。

 

具体的には「雇止め」の件が問題となっています。

 

そして、雇止めについては「雇止めの基準」についてのご相談が多いです。

 

ただ、ここで誤解が多いのでお伝えしますが、雇止め自体は違法ではありません。

 

契約期間満了で更新をしない「雇止め」は、原則として適法・有効です。

 

しかし、契約自体が実質的に無期雇用者と変わらないような場合や契約更新に合理的な期待が生じているような場合では、雇止めが例外的に無効と認められます。

 

例えば、長年にわたって問題なく契約が更新されており、業務内容も他の無期契約労働者や正社員と変わらない場合、無期雇用への転換を避けるためだけに雇止めをするのは無効となる可能性が高いでしょう。

 

まず、会社が雇止めを行う場合、以下の手続きが必要と言われています。

 

〇契約締結時の明示事項

 

〇雇い止めの予告

 

〇雇い止めの理由明示

 

〇契約期間についての配慮

 

この項目では、上記の各項目について分かりやすく解説します。

 

更新の有無や判断基準を契約書に記載してない「契約締結時の明示事項」は、更新の有無や判断基準を雇用契約書に記載することです。

 

会社は労働者を雇い入れる際に、更新について労働者にきちんと説明しなければなりません。

 

例えば、更新有無の明示は以下の記載をしましょう。

 

〇自動的に更新する

 

〇更新する場合があり得る

 

〇契約の更新はしない 

 

そして、判断の基準も明記しましょう。以下が参考例となっております。

 

〇契約期間満了時の業務量により判断する

 

〇労働者の勤務成績、態度により判断する

 

〇労働者の能力により判断する

 

〇会社の経営状況により判断する

 

〇従事している業務の進捗状況により判断する

 

さらに、1年以上働いている場合は「30日前までに解雇予告が必要」となります。

 

また、1年以上継続雇用されている、または、3回以上更新されて働いている労働者にも『雇止めの予告(解雇予告)』が必要です。

 

つまり、雇止め予告は、契約を解除する30日前までに労働者に伝えなければなりません。

 

そして、雇用契約について雇止めの予告をした場合に、労働者から雇止め理由の証明書を請求された場合は、会社は遅滞なく証明書を交付する必要があります。

 

また、労働期間や更新に関する配慮は会社の義務となっております。

 

会社は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及び労働者の希望に応じて、契約期間を長くするよう努めなければなりません。

 

期間が終了したからといって、簡単に契約を打ち切ることはできません。

 

会社は、1年を超えるような契約については契約期間等に配慮する義務があるのです。

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