五月の中旬に2週間ほど、恒例の春の遠征に行ってきた。春に遠征に出るのは2年ぶりとなるが、諸事情により関東までのハーフ遠征となった。

 

今回の遠征では、7種の未釣魚を狙い、そのうち2魚種(コウライギギカラドンコ)を釣ることができた。この他にたなご釣りも実績ポイントを巡りながら楽しんだほか、その他の魚種もいくつか釣れたのでまとめてみた。

 

なお、半分の旅程のため魚種数が少なかったので、いつもは分けているたなご篇とその他の魚篇を合わせて報告することにした。

 

北陸の用水路で釣れたヌマチチブ

 

北陸の川で釣れたタイリクバラタナゴのオス

 

北陸のミナミアカヒレタビラスポットを2年ぶりに訪れたが、浅くなっており小さなヤリタナゴしか釣れないので、少し上流のプールの流れ出し付近を探ると、ミナアカのオス2尾とメス1尾が来てくれ、健在なことがわかって安心した。


中部地方日本海側の良型ヤリタナゴのスポットを2年ぶりに訪れたが、今回も良型が入れ食いで釣れた一方、前回釣れたビワヒガイは混じらなかった。

 

同スポットから釣れたヨシノボリ属

 

北関東の初タナゴスポットを実に3年半ぶりに再訪して釣ったオス3尾とメス1尾(下の写真は左右反転)。ゴツンコ仕掛け使用。初物を釣ってから8年半余りになるが、全く環境が変わっておらずタナゴが健在なことに畏敬の念すら感じる。

 

同ポイントで釣れたカワムツ

 

同スポットで釣れた良型でうっすらと婚姻色が乗っているモツゴ

 

北関東の那珂川水系で釣れたウグイ

 

霞ヶ浦でのオオタナゴの2時間弱の釣果。いつものスポットには春の乗っ込み時期ということでへら師が数人陣取っていたので、ここで2年前に初めて釣った時の手前のスポットでやってみたが、朝マヅメを逃したこともあってかなりのスローペースだった。春用のマイスポット開拓の必要性を感じた。

 

コウライギギ狙いの外道として釣れたフナ類

 

カラドンコ狙いの外道として釣れたタモロコ

 

埼玉県の荒川水系の用水路でスレで釣れたカマツカ。国内外来種。

 

長野県内の天竜川水系の用水路から釣ったドンコ。これも国内外来種。

 

愛知県内の源流域で釣れたタカハヤ

 

北陸を復路でも訪れ、秋にはヤリタナゴがよく釣れる水路でやってみたが、やはり田植えの濁りと増水でメス1尾しか釣れなかった。

 

北陸の別の川でヤリタナゴ狙いの外道として釣れたオイカワ

 

記録的不漁の中、琵琶湖北湖のビーチで一尾だけ釣れたコアユ。湖畔仕掛けでの記念すべき初物となったが、アタリに反応して釣ったのではなく仕掛けの回収時に掛かっていたもの。この釣りも奥が深いことがわかったので、次回以降は色々と改良してその日のベストパターンを見つけるようにしたい。

コウライギギを足掛け2年かけてようやく仕留めた翌日、同じ利根川水系の某小河川に移動。狙いはここから採集記録のある国外外来種、カラドンコだった。

 

川の堤に駐車し、2キロほど上流の堰の下流の流れ込みで始めた。

 

使ったのはひなた六尺の脈仕掛けで、ワカサギ用の1.5グラムオモリにハリス0.4号約5センチで秋田狐3号を付け、エサはフレンドというキヂを1センチほどにカットしたものを通し刺しにして使った。

 

アシ際、壁の下、石周りなどを丹念に探るが、釣れたのはタモロコだけだった。対岸の流れ込みや流入水路の升、堰の上下流も探ったが、ダメだった。

 

こんなはずではと思ったが、長野県内にもう一ヶ所、候補の水路があったので(これは勘違いで、実際には国内外来種のドンコだったことを、釣って確かめた)、この小河川は諦めて次の未釣魚種に移ろうと思い、Googleマップを開いた。

 

そこでようやく、カラドンコはすでに本流の利根川にまで分布が広がってはいるものの、この小河川で実際に確認されたのは、もっと上流部だったことを思い出した。ずいぶん前に調べたのですっかり忘れてしまっていた。

 

そこで、上流部へ三本の橋分移動し、そこから探りながら遡上することにした。

 

だが、遡上する必要はなくなった。最初のポイントの、堰の下流のブロック底の間に挟まっていた大石の下にエサを入れ、間を置いて出そうとすると出ない。さらに引っ張ると、ブルブルと魚の感触が伝わり、黒い魚が暴れながら出てきた。

 

ドンコ属だとわかり、さらに背びれを見ると間隔が狭い!カラドンコだった!

 

初めて釣ったカラドンコ。体の中には誰かの仕掛けの一部が残っており、赤いハリはすでに肛門から外に出ていて臀びれに掛かっている状態だった。

 

初カラドンコの俯瞰

 

初カラドンコの腹側

 

初カラドンコの正面

 

初カラドンコの第一背びれと第二背びれ。両背びれの間隔は非常に狭く、ドンコと見分ける有力なポイントの一つとなっている。

 

第二背びれが第一背びれに近接しているため、胸びれ後端は第二背びれの起点を越えていた。カラドンコではドンコとは違って胸びれが第二背びれに達するのが一般的とのこと。

 

ドンコにはなくカラドンコにのみ見られるという、眼窩上部後方の感覚管の開口部は、おそらく赤い矢印で示したこれらだろう。

 

初カラドンコの別影

 

カラドンコは利根川水系から2010年以降見つかっている、中国大陸原産のドンコ属の国外外来種で、学名はOdontobutis potamophilaで英名は正式にはまだないようだ。

 

国内在来種のドンコやイシドンコと見分ける上での最も簡単なポイントは、二つの背びれの間隔で、カラドンコでは非常に狭い。ただし、ドンコでも狭い個体が存在するため、念のため、カラドンコにのみ見られる眼窩上部後方の感覚管を確認するのが無難だろう。

 

国内への侵入経路は不明だが、他魚種の養殖下、もしくは飼育下にあった個体が起源である可能性があると考察されている。

 

今回、ちょっと苦戦はしたものの、初挑戦で釣れたのはラッキーだった。もう狙うことはないと思うが、偶然釣れるほど増えないことを祈りたい。

二年ぶりに春の遠征に行ってきた。ただし諸事情により東北以北へは行かなかった。

 

遠征1週間目となった5月中旬のこの日、私は利根川水系の某沼にいた。狙いは中国大陸原産の国外外来種で特定外来生物の、コウライギギだった。

 

平日だというのにヘラ師などで賑わっていた水上を避け、しばらく歩いて誰もいないスポットに釣り座を構えた。実績スポットからは半キロほど西だったが、大丈夫だろうと鷹を括って始めた。

 

ぶっ込み仕掛けのリール竿2本、オモリベタウキ仕掛けの18尺延べ竿1本、それに岸のすぐ前を探るための脈仕掛け六尺竿1本の計4本の竿を使った。ハリは袖4号ハリス0.8号で、エサはスーパー太虫熊太郎ミミズ1匹を半分以下にカットしたものを縫い刺しにして使った。

 

開始から半時間ほど経った頃、正面に投げていた1号ナツメ型中通しオモリのぶっ込みリール竿にアタリ!早速来たかと思い巻いてみると、残念、フナ類だった。

 

その後も釣れるのはフナ類ばっかり。2時間弱で計5尾が上がったが、やがてフナ類さえも来なくなり、「またダメか」といったムードが漂い始めた。2023年春の他所での挑戦以来これで四度目だ。

 

そんな中、アリゲーターガーにも使ったほどの硬いベイトタックルのせいでうまくキャスト出来ず、結果的に左の岸近くにぶっ込んでいた仕掛けのラインが少し張られているような気がした。エサ交換も兼ねて巻いてみると、魚の手応え!

 

水面近くを滑りながらローリングしている魚体は、これまでのフナ類のような銀色ではなく、黒と黄色。コウライギギだ!ついに来た!

 

ごぼう抜きし、思わず「釣れたー!」と、対岸にも聞こえそうな声でつぶやいていた。

 

時刻は午後3時半過ぎで、天気は晴れだった。

 

初めて釣ったコウライギギ、全長約18.5センチ。抱卵中のメスで、左右の卵巣には卵がびっしりと詰まっていた。下のギギと比べて、抱卵中であることを差し引いても体高があり、また、体側後半にある明色の帯による口の字のような模様がより顕著に目立つのが特徴。

 

参考:ギギ、全長17センチ弱(球磨川産)

 

初コウライギギの背びれ(解凍後)

 

初コウライギギの俯瞰

 

初コウライギギの腹側

 

初コウライギギの正面。ヒゲはギギと同じく4対8本。

 

初コウライギギの上顎の前後の歯帯

 

初コウライギギの生きた状態の右胸びれ。その棘の後縁の鋸歯は容易に見える一方、前縁の鋸歯は軟組織に覆われているため肉眼で透かし見るのは難しいが、触るとギザギザが感じられた。なお、左側では感じられなかったが、これは骨組織が鋸歯の間の溝で発達して浅くしていた(下の写真左)せいだと考えられる。

 

初コウライギギの左右の胸びれの棘(6日間汲み置き水道水に浸けて軟組織を除去したものを上方から撮影)

 

初コウライギギとギギ(球磨川産)の右胸びれの棘の比較(6日間以上汲み置き水道水に浸けて軟組織を除去したもの)。既報の通り、コウライギギの棘の前縁の鋸状の歯は規則的に、かつやや外側を向いて並んでいるのに対して、ギギのそれは不規則かつコウライギギに比べて短く、また外側を向いていない。

なお、今回の初物では右胸びれの棘の前縁は生きている状態で触ってもギザギザが指で感じられたが、左では感じられなかった。一方、ギギではどちらも感じられない。したがって、左右どちらかでもギザギザが感じられたらコウライギギの可能性が高い。

 

コウライギギの下尾骨の位置と標準体長測定点。コウライギギの下尾骨は上の写真のような形をしており、その後端が標準体長の末端に当たるので、上記の2枚の写真をサイズを合わせて重ね合わせると、解剖せずに体長を測定する場合の後端は、赤色の線で示した位置ということになる。

 

コウライギギはギギと同じくギバチ属で、学名Tachysurus fulvidraco、英名yellow catfish, yellowhead catfish またはKorean bullhead。

 

中国大陸原産だが、霞ヶ浦では2008年12月から採捕記録があり(小野川河口)、これは国内初公式記録でもある。侵入経路に関しては不明だが、飼育下にあったものが起源だと考えられている。

 

日本在来種のギギとの相違点は、以下の通り:

- コウライギギでは縦横に帯状に走るやや黄色の体色が暗色域をいくつかに分けるような模様がある

- コウライギギでは尾びれの上葉と下葉の中央を走る黒色帯がある

- コウライギギでは胸びれ棘鋸歯が棘前縁のほぼ全面にやや外に向いて密生し(軟組織を除去せずに目視で確認するのは難しい)、触るとギザギザを感じる可能性が高いのに対し、ギギでは感じられない

- コウライギギの脊椎骨数は43−46に対してギギは47−50で重複しない。このため、コウライギギの方が寸詰まりな印象を受ける。

- 頭長を比べた場合、コウライギギの方が平均して約15%長いため、同じ体長同士で並べるとコウライギギの方が頭が大きい

- 水から出した時に、ギギではギーギーと音を出すこともあるのに対して、コウライギギは音を出さない

 

分布に関しては、2012年3月29日受付の論文では霞ヶ浦以外ではまだ確認されていないとしているが、その後分布を広げており、13年経った2025年5月現在では、ネット上の情報、写真や映像を見る限り、利根川水系と荒川水系の広い範囲で釣られたり網で採られたりしている。

 

環境省は2016年10月1日付けで本種を特定外来生物に指定した。これにより、日本国内への輸入が原則禁止となり、また、日本国内で捕獲した場合の生きたままの移動等も禁止となっている。