今が全てだったから

未来なんて

本当に来ると思わなかったから

 

舞い上がり

息詰まり

移り気激しい一瞬一瞬を

抱きしめるよりほかはなかった

 

僕は生きていくだろう

過去の自分への

引け目も義務感もいつか忘れて

 

あの頃

窓際からうらめしく眺めた

フェンスの向こうで

冷たい廊下を温もらせる

差し込む光が誘いかける

逃げ込んだ部屋から

出ていこうとする足

 

泣きじゃくるほど

欲しがっていた自由を前に

再び溢れそうになる

この感情は何?

 

心の蕾は開いてゆく

自信などまるでなくても

胸に生じた震えを

陽射しが溶かして

 

僕の気配を消し去った部屋に

まだ残る思い出の景色

最後に閉めた窓から

かすかに見える春を覗く

春になれば

きっと分かる

縮こまった体が

守ろうとしていたものが

 

春になれば

きっと分かる

凍り付いた土が

隠し持っていた芽が

 

春になれば

きっと分かる

風に揺れる枝の

こぼしたかった色が

 

春になれば

きっと分かる

目を覚ました熊の

蓄えていた反動が

 

春になれば

春になれば

湧き上がる命と

香り立つ空

 

木枯らしの中で

秘めていたものを

春一番の向こうで

見せ合いっこしよう

救いを求めて祈るように

取りつかれたように眠る

そんな時が必要で

 

生活必需品でもない

おやつを一つ買うことで

満たされていく帰り道

 

長年連れ添った骨よりも

後から付いてきた贅肉の方が

自分らしくもある

透明よりも

透き通った

空の青

 

淀みは解かれ

葉のない木々に

開かれて

 

見えない明日まで
見えてきそうな
素肌の午後

 

淡い日差しが

浮かび上がらせる

雪山の白

 

寒空と太陽の間の

儚い安らぎの中で

輝きは息づく

入り組んだ街だから
ただ単純に
濡れていたくて

誰も近寄れないくらい
びしゃびしゃに
濡れていたくて

春の気配を
打ち消すような
重たい雨に

 

半端な憂鬱が

別の何かに変わるまで

濡らしたくて

 

ぼやけた魂が

路面に染み出るほど

濡らしたくて

 

黒さも白さも

全部一緒くたに

洗い流されたくて

「分かってるよ」と

言いたくなる

北風がその存在を

窓越しに知らせてくる

 

布団を一枚

重ねて寝る

閉ざしても冷たさは

どこからか上り込んでくる

 

時計の針が

0時に近づく

責められてはしないのに

何か弁解したくなる

 

涙が一滴

瞼を溢れる

閉ざされた瞳が

なおも語ろうとして

 

降ったそばから

紛れていく

この雪は多分

積もりはしない

登り切った坂を

振り返ってみた

延々と続く緑の並木

上り坂の始まりは

もう遠い過去のよう

 

下り坂を見下ろしてみた

色違いの屋根の間から

街の営みが見える

吸い込まれたくなるほどの

海のきらめきが広がっている

 

帰る必要もないのに焦って

急ぐ必要もないのに突っ走って

疲労や徒労にまみれた汗

湿った服では拭いきれなくて

吹く風にもしばし手伝ってもらう

 

駆け降りるのはもったいない

この景色がご褒美なら

止められるまで存分に頂きたい

意外と長いこの下り坂を

大切に大切に下っていきたい

もう戻らないと思っていた

苦い思い出の街を行く

ついでだからと

自分に言い聞かせて

 

道の途中で幾度も見かける

自分の心の残像

無視してもまた

横切ってもまた

 

なんとなく選んできた道の

延長線上にいたはずなのに

2回乗り継げば戻れてしまう

あそこはよく行ったラーメン屋

 

とっくにつぶれたビデオ屋

持ちこたえているなカメラ屋

まだまだ威勢のいい八百屋

あっ、あの店は―― うん、まあいいや

 

妙に老いて見える駅舎から

電車に乗り込み息をつく

あいつに出くわさなかったことに

ほっとしてまた少し苦くなる

空に忍び込んだ

風がそそのかす

眠りについたはずの雪が

息を吹き返す

 

沈黙の額縁を

一瞬で砕いて

解き放たれたように

空を飛ぶ

 

命ある者には

死の景色でも

景色にとっては

待ち受けていた躍動

 

さっきまで饒舌だった

過去と未来はどこに

冬でも姿を見せていた

雀や鹿たちはどこに

 

近いのか遠いのか

無なのか幻か

空が強く霞んで

今がいつかも分からない