第177話/楽園くん21
G10にはめられて危機的な状況にある中田。
すぐハブに連絡をとって金を返せという親友のキミノリは、中田のために店の裏帳簿を丑島に売り、金を得ようとする。
だけれどそれは店を裏切ると同時にハブにも反旗を翻すことになる。脱税の手引きをしているのはハブだろうし、なにしろ最終的な管理者なのだから。中田はそれを心配する。
対してキミノリは、「お前のコトが好きだからかな」と応える(ここでさりげなくゲイ疑惑も否定される)。
ふたりの関係は二年前ルームシェアのサイトで知り合ってはじまった、わりと新しいものらしい。
むかしは…というほどおおむかしではないのかもしれない、キミノリも、中田のように女の子を金持ちに紹介したり、人脈を金に換えることで調子にのっていたのだった。
しかしあるときそのむなしさに気づく。(オサレ皇帝のひとりでもある、パラダイス・ギャラクシアン店長のキクチを前にしたとき中田は「キミノリと似てる」といっていたが、あれは同じ種類の生き方をしている者特有の相を中田が感じとったということなんだろう)。
気づいたときには、しかしもう抜け出せなくなっていた。ちょっと前、泥酔して全身ぐしょ濡れのキミノリを中田が背負っていくエピソードがあったが、あれもそうしたつながりのある人間に呼び出されたあとだったのだ。そして、このときの気持ちをキミノリははっきりと覚えていた。
「俺さ…
あの時、お前に救われたンだぜ…」
「ドツボにハマったお前を
今度は俺が救ってやるよ」
中田の無心の、気まぐれの優しさは、このようにして自覚なしにひとりの人間を救っていたのである。優しさとは、ひとを救うということは、そもそもそういうものなのかもしれない。存在と何気ない言動が他人に影響を与えるということは、日常のふとした局面によくあるものなのだ。
もうじぶんは終わったとあきらめモードの中田を、キミノリは力強く「大丈夫だ」とはげます。
中田にとって「もう後戻りはできない」ということの自覚は、なによりパピコという女の子の、ひとりの人間の人生を壊してしまったというところにあった。じぶんのやってきたことを、これまでのような刹那的把握ではない、ひとりの人間の人生を通して、通時的に知ったときに、この感覚が中田のなかに強烈にあらわれてきたのだった。
しかしキミノリはいう。
「今度はパピコを救ってやれよ
楽園を追放されてもアダムはイブと暮らしたンだろ。
キン隠しの葉っぱがファッションにまで進化した訳だし…
一からやり直せるさ」
すばらしき救いの連鎖。
そんなにくちでいうほど上手くいくかどうかはわからない。
しかし最初に重要なのは希望をもって志向することである。
とにかくキミノリは裏帳簿を準備するため、中田と別れてたぶんじぶんの店に向かっていく。涙ぐむ中田のもとにノブさんから電話。ノブさんには中田は脅迫の相手であって、ある意味金づるだ。だが中田はハブの名前を出してこれをぶっちぎる。
続けて中田の携帯電話を震わせるのはハブである。
中田は“相談”ということで、ゴトにだまされて店を開けないということを告白する。キミノリとの約束は夜の十一時であって、それ以降でないと金は用意できない。それまで待ってくれと嘆願する中田の背後には、怒りをあらわにしたおそろしい表情のハブがすでに迫っている。ウシジマシリーズでもここまで怒っているひとを見たことはあまりない。アライjr.にからかわれたときの範馬勇次郎くらい怒っている。
続いて、楽園くん冒頭の、風呂場での拷問の描写にうつる。ふつうに読めばさきほどの歩道橋で中田は拉致され、自宅につれてこられたということになりそうだ。風呂場でのハブは中田がキミノリに「最強の靴」としてプレゼントした例の13万の靴を履いている。このことで僕はてっきりキミノリもなんらかの被害を蒙り、ハブに靴を奪われたということなのかと考えていたのだが、特にもらってすぐキミノリがこれを履いたということはないようなので、家に乗り込んだハブがなんとなく高そうな靴を見つけて奪ったというところなんだろう。おもえばハブが中田に運び屋からプッシャーになるようすすめられたとき、意味はわからなかったがハブの履いているスリッパが脱げ落ちている描写があった。あれは室内だったので、直接の関係はまったくないのだが、ハブはサイズのしっくりくる靴を探していたのかも?
とにかく、水のはられた浴槽から口だけだして呼吸している中田を、ハブが問い詰める。丑島はかなり近い距離からそれを黙(しじま)のうちに眺めている。
ハブは中田とゴトが最初からグルになってじぶんをはめようとしていたと考えている。だからゴトの場所も知っているものとし、正直にいえば殺しはしないという。中田はたまたまゴトが空港にいくらしいということを知ってはいる。
(嘘だ…
空港のコト話したら“G10”から2千万取り戻せない上に殺されるかも…)
「2千万取り戻せない」の主語は、続けて「殺されるかも」といっているのだからやはり中田だろうか。中田が2千万取り戻したいのはハブに渡したいからだろう。だとしたら丸投げしてもよさそうな気もするが、高飛びそのものの話をすればハブは事態の収拾のつけがたさを感じとり(また空港で顔すら知らないひとりの男を見つけ出すことの困難を想像し)、すべての責任を中田の帰し、オトシマエをつけさせるかもしれない。
ハブは拷問を続ける。金は友人が用意するということばを信じないのだ。金は払うといっているのだから一時でも解放すればいいものを、ハブはとにかくゴトの行方を知りたいのだ。ということは、問題はもはや金ではなくなってきているのかもしれない。
そうしたタイミングで、丑島もいうのである。「喋ったら二人とも終わりだぞ」と。
つづく。
丑島の真意はわからないが、しゃべったところで状況がよくなるということはなさそうだ。
中田としては、くわしいはなしをすることができない。
金は友人が用意してくれるということはたしかなのだが、それはハブの息がかかった店の裏帳簿を売ることで出てくるお金なのだから。
つまり、中田はハブに計画的に裏切ったと思い込まれているうえに、間接的にとはいえこれからげんに裏切ろうとしているのである。
丑島のいう「二人」というのは中田とキミノリのことなのだろうか。文脈的には「二人」といえばゴトと中田だ。少なくともハブはそう読み取るだろう。丑島がどこまで状況を把握しているかはわからない。丑島がちょうどハブの留守にしていた中田&キミノリ宅を訪れていたのは、「キミノリはどこだ」というあのセリフも含めて、約束をしていたか、なんらかの調査にきたということなのだろう。とはいえ、げんにキミノリはいないわけだから、無断で家に入って調べにきたというほうが正しそうだ。今週話の中田拷問の場面には別れたキミノリが店で裏帳簿を探っている描写があるが、これが拷問のものとおなじ時系列にあるものなら、約束というのはやはりなさそうだ。いずれにせよ、丑島はキミノリの売ろうとしている裏帳簿がハブの息がかかった店のものだと知っている。丑島がゴトの行方を知っていて、もうつかえることはできないと確信しているという可能性もある。そうするとハブは金を中田から、つまりキミノリから頂戴しなくてはならないが、それはくりかえすようにとても危険なことである。
しかしもしこの「二人」というのが「中田とキミノリ」のことだとするなら、ここで丑島は、ハブ的にはいまのところ伏せていた「キミノリ」という登場人物を出さなくてはならない。ハブは、そもそも中田とキミノリの関係を知っているのだろうか?知らないのだとしたら、丑島の発言もまたかなり危険なものだ。すると「二人」というのはそのまま「中田とゴト」ということなのだろうか…。
なんにしても、丑島には中田はまず金を取り立てねばならない相手なので、ここでハブにもっていかれては困る。結果として丑島は中田を助けることになるかもしれない。
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