フツウと違う 少数派のキミへ  ~ニューロダイバーシティのすすめ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

鈴木 慶太:著  ユリカ:マンガ  合同出版  定価:2200円+税 (2023.7)

 

           私のお薦め度:★★★★☆

 

近頃、よくマスコミや講演会などで耳にする横文字に“ニューロダイバシティ”という言葉がありますね。

ニューロ(=脳の)、ダイバシティ(=多様性)というふうに訳して、「発達障害をもつ人は脳のタイプが違っているマイノリティ(少数派)な種族というだけなので、お互いその多様性を認め合って暮らしていこう」、という趣旨で使われることが多いです。


本書は、そんな自分の特性に気づきはじめた中学生の海(うみ)くんを主人公にした物語をマンガにして、それに著者の鈴木慶太氏が解説をしていくという形をとっています。

マンガを読んだだけでも、本書の伝えたいことは響いてきますから、最初にマンガだけ読んで、興味のあるところの解説を読むというやり方もアリだと思います。

著者の鈴木氏は元NHKのアナウンサーで、NHKを退社してMBA取得のため渡米留学する3日前に3歳だった息子さんが発達障害の診断を受けた・・・という、この業界でも希有な体験の持ち主の方です。

その留学では、発達障害の特性を活かして利益をあげているビジネスケースを学び、日本に帰って就労支援サービスの「Kaien」を立ち上げ、多くの発達障害のある人を一般企業就労へと結びつけてこられたそうです。

ですから、本書でも発達障害をマイナスと捉えるのではなく、その強みをうまく活かしていこうという明るい本になっています。もちろん題名にある通り、“フツウ”とは違って少数派の子ども達ですので、悩んだり傷ついたりすることもあります。


マンガの最初で、海くんと、ちょっと変った自由人の寅雄おじさん(母の弟)との会話です。
二人とも人間の写真には興味がなくて、人の写っていない路地裏の写真や昆虫の写真が好きだそうです。


「世の中の多数派は旅に行くと観光地をバックに家族や友達と記念写真を撮るよね でも、記念写真には興味がない少数派もいるんだ」(寅雄)
「ぼく きっと少数派だ ふだんから集団行動が苦手だし友だちもいない・・・」(海)
「少数派は決して悪いことじゃない  集団が好きなタイプもいれば ひとりで行動する方が楽なタイプもいる  良い悪いの話ではなくどちらでもいいことなんだ」(寅雄)
「そうかなあ・・・ みんなになじめない自分はダメなやつだと思ってた」(海)
「世の中は多数派の都合のいいようにできているから少数派は苦労する  だからといって決して悲観することはないんだよ」(寅雄)

寅雄おじさんのように、こんな風に言ってくれる大人が周りにいればずいぶん助かると思うのですが、
まだまだ世の中は“フツウ”が“良い”と思っている人が多数派ですね。
物語のネタバレになるかも知れませんが、海くんも寅雄おじさんも、そして知り合ったND(ニューロダイバース=脳の特性の強い個性的な人≒発達障害をもつ人)の子どもたちも、みんな苦労しながら自分の道を探していくことになります。
それでも、著者の鈴木氏は、NDとしての強みを活かせば、やがて道は開けてくると説きます。

SLD(学習障害)であることを公表しているハリウッドスターのトム・クルーズは、文字を読むのが苦手で、台本を読むことが難しいらしい。

そこで台本をほかの人に読んでもらい、聴きながらイメージを膨らませる方法をとり、他人とはちがう演技で人々を魅了している。彼は苦手なことから目を背けず、対策を立てることで、少数派の特性をマイナスからプラスに変えたんじゃないかな。
だから、たとえ、君がマイノリティだったとしても、決して悲観しなくてもいいんだ。不便だけど、自分の苦手なことや困りことの対策を考え、強みを磨いていけば、自分らしい暮らし方や、自分の力を活かす働き方を見つけることかできるんだ。
           

それでは、AS(自閉スペクトラム)の強みってなんでしょう。
真面目なこと、素直なこと、わかったことはキチンと最後までやること、嘘をつけないこと、裏表がないこと・・・いっぱいありそうですね。


また、障害者の就労支援をされている立場からすると、将来を考えるとき Will(自分がしたいこと)、Can(自分ができること)、Should(まわりに求められていること)の3つのキーワードで考えることを勧められています。
ASDの人の場合、自分の状態を客観的にみる「メタ認知」が弱い人が多いと言われています。そのためおこることの一つがグルグル思考なんですが・・・

夜寝る前に、過去の失敗や気がかりなことなどを思い出して、あれこれ考え続け眠れなくなる人もいるんじゃないかな?

ネガティブな思考にとらわれる状態=グルグル思考は専門的には「反芻思考」と呼ばれているんだ。多数派もグルグル思考にとらわれることはあるかもしれないけれど、ASD系の人はグルグル思考にはまりやすく、いやな記憶を思い返してしまうことが知られている。
子どものころの失敗を思い出して、「やるんじゃなかった」と後悔し、その場にいるかのようにつらくなり、その経験を毎晩のように思い出して苦しむ人もいる。


そこから抜け出せないのが、メタ認知の弱さなんですが、同じ事が自分の将来・就労を考えるときにもあてはまりそうですね。Will(やりたいこと)は分かっていても、Can(自分ができること)やShould(周りが望んでいること)が客観的に見えてないケースもあるのではないでしょうか。もしそれが特性からくるものだとしたら、それを気づかせてあげるのも周りの大人の役目でしょう。もちろん、信頼関係が前提で、親が出来れば一番いいのでしょうが・・・。
本書でも、「困ったら大人をフルに活用しよう」として、いざというときに頼りになりそうな大人をキープして、ストックしておくことをアドバイスしています。さて、私は誰かにキープされているのでしょうか。

最後に寅雄おじさんと、NDクラブの愛先生からのメッセージです。


「人生は速さを競うレースじゃない。山登りのように、もし、一番になれなくても、景色を楽しんだり、草花を観察したり、自分のペースで、人生を楽しむ方がいいんだよ」(寅雄)


「ひとりで過ごすことは、決して恥ずかしいことじゃない。自分が心から「一緒にいたい」と思う人がいないなら、無理して友だちをつくる必要なんかない。おひとり様行動を楽しんで! 」(愛)

 

                       (「育てる会 会報 310号」 2026.2 より)

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

目次

 

  はじめに
  登場人物紹介

第1章 世界は少数派(マイノリティ)でできている!

  1 世界は少数派でできている!
  2 実は、とっても身近なマイノリティ
  3 少数派の強みを活かすストレングスモデル

 「先輩」からのエール  市川拓司さん(小説家)

第2章 ニューロダイバースのための自分研究
     あなたはどんな少数派? その①

  1 ニューロダイバース(ND)を知ってますか?
  2 ものの管理が苦手な少数派
  3 落ち着きがなく、じっとしていられない少数派
  4 計画が立てられない少数派
  5 勘違いしやすい少数派
  6 不器用でスルーできない少数派
  7 変化が苦手な少数派
  8 パニックになりやすい少数派
  9 ネガティブなことばかり考えてしまう少数派
  10 空気が読めない少数派

 「先輩」からのエール  小島慶子さん(タレント・エツセイスト)

第3章 ニューロダイバースのための自分研究
     あなたはどんな少数派? その②

  1 なかなか調子が出ない少数派
  2 感覚が人とちがう少数派
  3 体のコントロールが苦手な少数派
  4 疲れやすい少数派
  5 ぐっすり眠れない少数派
  6  スムーズにことばが出ない少数派
  7  読み書きが苦手な少数派

 「先輩」からのエール  借金玉さん(ライター)

第4章 マイノリティの処世術
     必要なサポートを受けるには?

  1  NDのサバイバルに必要な含理的配慮とは?
  2 対策を考えるためまずは原因を分析しよう
  3 親とじょうずにつきあおう
  4 信頼できる大人を味方につけよう
  5 福祉サービスを活用しよう

 「先輩」からのエール  武田双雲さん(書道家)

第5章 少数派の未来
     自分の将来をデザインする

  1 自分の道を探そう
  2 義務教育が終わったら、どうする?
  3 忘れちゃならない受験対策
  4 働く準備をしよう
  5 障害者手帳を取得するメリツト
  6 自分自身を理解しよう

 「先輩」からのエール  寅雄さん(自由人)

第6章 少数派の未来
     自分の人生を生きよう

  1 自分の道を進むために
  2 得意なことを探すチカラ
  3 じょうずにまわりを頼るチカラ 
  4 マイぺースで進むチカラ
  5 しなやかに立ち直るチカラ(レジリエンス)
  6 共に生きるチカラ 

  エピローグ
  少数派のキミにおすすめの本や映像作品 
  フツウと違う少数派のキミヘ

  さくいん