梅崎 正直:著 中央公論新社 定価:1600円+税 (2021.8)
私のお薦め度:★★★☆☆
そういえば、最近あまり “子育て体験談” 的な本を紹介していませんでしたね。
息子が成人し、グループホームで親離れに向けた生活を始めてくれたおかげで、今は親亡き後の暮らしの方に私の関心が向いていたせいでしょうか。
でも、今、子育ての最中にいる方にとっては、時には “役にたつ” 本ばかりでなく、ホッと共感できるような本もありがたいですね。
そんな訳で、今月は親、父親の書いた本の紹介です。
著者の梅崎正直氏は、読売新聞社の医療・健康・介護サイト「ヨミドクター」の編集長で、息子さんは本書の発刊された2021年で28歳といいますから、私の息子よりは若干年下、でもほぼ一緒の時期に子育てしてきた世代です。
知的に重度な自閉症も同じなので、勝手に共感を持ちながら読ませていただきました。
障害のある子どもを育てていると、不幸だとか、かわいそうだとか、そんなふうに思われることがある。通常の子育てと違って、確かにしんどい面はあるけれど、だからと言って不運・不幸と思ったことは不思議とない(思うヒマもなかったのかもしれない)。
とりわけ苛酷でも、理想的でもない、いたってフツーな日々を過ごしているわが家のストーリーが、こうして本になることは自分でも意外だが、同じ障害の子を持つ若い親たちの目に触れ、少しでも安心してもらえるなら何より幸せだ。(「まえがき」より)
このあたりも、まさに一緒ですね。
以前私も、息子の子育てについて「自閉症児の子育ては大変だけど、苦労と思ったことはない」などと気楽なことを言って、妻に「あなたは楽なところだけ取って、本当に大変なところは全部私がやっている !」とこっぴどく言い負かされたことがありました。
確かに24時間見ていた母親の労力、気苦労とは比べられないのでしょうね。
でも巻末にある、筆者と小児外科医の松永正訓先生の対談の中に、こんなくだりがありました。
「障害児を授かってどう生きていくか」
梅崎 松永さんの連載の最後にインタビューさせてもらったときに、障害のある子の親たちからお手紙などをもらうことも多いということをお聞きしました。松永さんから見て、障害のある子を長く育てて来た親たちに共通することってあるんでしょうか。
松永 そういう人生を歩んできて、大変は大変なんですよ。だけど、「不幸ではなかった」とみなさん言いますよね。いろんなことがあったけど、やり遂げられた「プライド」のようなものを仄かに感じます。
口に出して言う人はいないけれど、「この人は人生をちゃんとていねいに、深く生きてきたんだな」と。
障害児を授かって、これからどう生きていくか、人間ってそれを自由に決めていいと思うんですね。悲しく、つらく、暗い人生を歩んでいる人もいます。でも、そうじゃない人生を選ぶこともできる。それは、子どもに障害があってもなくても同じだと思うんです。
そうですよね。せっかくの一度しかない人生、親も子も、できれば明るく、ていねいに生きていきたいですね。
松永先生の「子どもに障害があってもなくても」という言葉のように、どうせなら幸せを感じながら・・・できれば気楽に暮らせることを願っています。
本書に返ると、アルアルと共通する所も多い息子と洋介くんです。
単語を覚えて、しゃべっていたのに、2語文に進むことはなく、いつのまにか発語がなくなり退行していったり、偏食に悩まされ、常にふりかけを持ち歩いたり・・・ちなみに洋介くんは鮭のふりかけ、我が家は“ゆかり”のふりかけでしたね。
千葉と茨城を結ぶ幹線道路のセンターラインの上をひたすらラインに沿って歩いていて、たまたま親切なドライバーに保護された、などという話は、まさに我が家のエピソードと見間違うほどでした。
もちろん、筆者の梅崎氏は「ヨミドクター」の編集長をされているので、私などよりは貴重な体験も多いです。
その中で、私の印象に残った話です。
2011年の東日本大震災の際、福島の原発事故により、千葉県の施設に避難してきた知的障害児・者施設の300名ほどの入所者を取材していた梅崎氏・・・
重度知的障害の人が大半で、スタッフに引率され、それぞれの部屋に入った。60代以上と思われる高齢の人もいた。スタッフは荷物の整理に忙殺され、入所者たちは暗い部屋の二段ベッドにそれぞれ腰かけて、呆然と宙を見つめていた。
騒然として落ち着かない空気の中、狭い廊下の突き当たりにある小窓から、 一人でずっと外を見ている男性を見つけた。小柄で、頭髪はすでに白く、70歳近くに見えた。なにげないふりをして近づくと、小さな声が聞こえた。
「ママ、パパ・・・・・・・」
それを聞いたとたん、僕はぎゅっと胸を締めつけられた。予期せぬ災害と事故によって故郷から遠く離され、彼が探しているママとパパはまだ健在なのだろうか。生きていたとしても、この災害で無事だったのだろうか。
数十年後、僕も妻もいなくなった世界で、洋介もママとパパを探すのだろうか・・・。
切ないですね。でもその光景を見てから梅崎氏の想いも変っていきます。
それまでは、韓国映画「マラソン」の主人公の母のセリフ 「私の夢は、息子より1日だけ長く生きること」 という言葉に共感を覚えていた筆者ですが、 その出会いにより
「これが現実なんだ。子どもは親より先まで生きていく。重い障害があっても、高齢期を迎えることができるなら、それは親のものでも誰のものでもない、洋介の人生だ。」
そう思えるようになられたそうです。
そして、そんな梅崎氏が思うのは、洋介くんのこれからの暮らしです。
地域のグループホームには空きがなく、洋介が通所する法人では、もう新設する余力がないという。めどが立たない中で、大規模な施設に入所する子もいるが、どうしても遠方になる。
保護者が資金を持ち寄ってグループホームを建てることも構想されるが、実際に共同生活をするとなると入居者同士の性別や相性も問題となって、資金を出した人が思惑通りに住めるとは限らない。
それに、何より重要なのは、「誰に運営を頼めばいいのか」「必要な人材は得られるのか」ということだ。最終的には「人」の問題となる。
確かに、私たちの育てる会で創ったグループホーム「ほっぷ 1」や「すてっぷ 1」を見学に来られる方々に、「親たちで協力しあえば、割と簡単に建てられますよ」とアドバイスはしていますが、問題はその後の運営なんですね。
育てる会グループホーム「ほっぷ1」「すてっぷ1」
幸いにして25年続けてきた育てる会には力を合わせてきた仲間や、頼りになるスタッフたちがいますが、それを1から創るとなると大変なのかもしれません。
梅崎氏も、倉敷市の “ぷれジョブ” を参考にして、これから「地域を育てる」ことに力を入れられるそうですので、岡山からもエールを贈りたいと思います。
今月は、特にお父さん方にお薦めしたい1冊です。
(「育てる会会報 311号」 2024.3 より)
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目次
まえがき
Ⅰ 波乱の航海
「個性ではない。障害です」医師の厳しい言葉に・・・
僕が初めて「自閉症」と向き合った日
どうして「ハイハイ」ができないの!?・・・
夫婦でお手本を見せた日々
そこに見える「二語文」の岸辺 でも手が届かない・・・
言葉の遅れに悩んだ頃
「来てもらっては困る」
と言われた幼稚園で・・・
父は何度でもプールサイドを走る・・・
3年通った水泳教室を退会させられた理由
本気のラブレターをもらってきた日・・・
「養護学校」の就学通知書に反して入った小学校で
脱走① 警察官に取り囲まれていた息子 いったい何が?・・・
「二度と会えないかも」と思った日のこと
脱走②「 バス通りのセンターラインを
子どもが歩いてる!」と小学校に電話が・・・
「生まれちゃったのね」
と言われた通夜の席
Ⅱ 洋介の世界
最重度ですが何か?・・・
「パンツの絆」でつながる父と子の話
真夜中、屋根の上に裸の子どもが・・・
謎多き「夜の生活」
「おしゃれボーイ」と呼ばれて・・・
服選びのジレンマ
10年続いた「ツバ飛ばし」は職人芸!?・・・
「こだわり」にどう向き合うか
僕が毎日遠くのスーパーに通ったわけ・・・
自閉症と偏食
混雑する電車や店舗で大騒 ジタバタ大の字で・・・
「パニツク」の思い出は親子の歴史だ!
多目的トイレ前の惨劇・・・
父は手で受け、弟は走った
わけあってマスクできません・・・
コロナと障害
Ⅲ 光のほうヘ
わが子を悪く言うようで・・・
葛藤する障害程度の調査 慣れてるつもりでも
「この子に障害がなかったら一緒にしたかったこと」
をすればいい・・・ 背中を押され山ヘ
自閉症の人には特別な才能がある?
息子が作った「最高傑作」は・・・
女の子に手を握られて・・・
けっこうモテた10代の頃
クリニック中が大歓声!
10年通って1本の虫歯を治すまで
元旦の朝の驚き・・・
ゆっくりでも前に進んでいるんだ
Ⅳ 共に育つ
「息子より一日だけ長く生きたい」と
思ったこともあるけど・・・・・・
弟が兄を追い越してしまうのが怖かった頃・・・
次男と僕のフクザツな話
10年間、障害のある兄のことを誰にも話せなかった・・・
Oさんの物語
苦節10年 やっと背中に触れた!・・・
愛犬がくれた「奇跡より大きなもの」
わが家の最後の大物
扇の要に座る長女の話
この子にしてこの母親あり・・・
妻のこと
洋介が取り戻してくれた
僕の人生
背後から現れた獅子舞の顔にびっくリ!
寅さんゆかりの店で大騒ぎ
いつまでも守る・・・の願いは叶わない
着実に近づく「親亡き後」
成人式では大人気 晴れ着の同級生から
飲み会に誘われ・・・きっと夢は叶うよ
対談 × 小児外科医・松永正訓さん
障害のある子の自立とは・・・
やがて来る「子離れの試練」
あとがき






