立石 美津子:著 第三文明社 定価:1400円+税(2024.1)
私のお薦め度:★★★☆☆
「立石流子育て」でお馴染みの立石美津子さんによる最新本です。
以前、小児科・小児外科医の松永正訓氏の「発達障害に生まれて ~自閉症児と母の17年~」で紹介されていた、立石「勇太(仮名)」くん、本書ではそれから6年後の23歳になったそうです。
その立石さんの息子さん、松永先生の本では未成年だったので勇ちゃん、勇太君と呼ばれていましたが、23歳になり、いよいよ就学~就労~自立の道を進まれたので「育ててわかった」として、自閉症児の子育ての道しるべとして、後に続くお母さんたちに向けて書かれています。
と、言っても、特に難しい理論だてという訳ではなく、これまで育てる会のセミナーでも聴いているとおり、障害特性に配慮しながら、本人に無理をさせない子育てということになると思います。
幼児期、聴覚過敏のある息子は公衆トイレの「ジェットタオル」の音を怖がり、外出の際はとても困りました。そのため、当時通っていた療育施設では、ジェットタオルの音に慣れる訓練を受けていました。
しかし、練習の効果はなく、息子は逆に療育施設のトイレに行かなくなってしまったのです。
そのことを、当時通院していた「都立梅が丘病院」の主治医に相談すると、「そんなことをしていると、お子さんは二次障害を起こして、この病院に入院することになりますよ! 今すぐそんな練習はやめなさい。お母さんがジェットタオルの設置されていないトイレを探して、そこを使えば済むことです」と叱られました。
病院には“定型発達児と同じことができるように”と親が無理難題を子どもに強いた結果、不登校やうつ病、リストカットなど深刻な二次障害を起こしている子どもが大勢入院していて、200床以上あったベッドは満員でした。
その後は医師に言われた通り、ジェットタオルがない公衆トイレを使うようにしました。すると息子は安心したのか、私と一緒の時は公衆トイレに入れるようになりました。
これは、先の「発達障害に生まれて」にも紹介のあったエピソードなのですが、いまだに小学校などで聴覚過敏のある自閉症児がいても、運動会でピストルを鳴らし「我慢しなさい!」なんて指導があるのを聞きます。合理的配慮はどこに行ったのでしょうね。
小学校といえばこんな考えも紹介されていました。
「障害児がいる学校では足を引っ張られてしまう」と、支援級がある小学校を嫌がる親御さんもいます。けれども、社会はさまざまな人で構成されています。机上の学習で「思いやりの心を持ちなさい」と言葉だけで教えても、うまくはいきません。
知的障害のある子と定型発達の子に同じ勉強を教えるなど、全部を一緒にすることについては甚だ疑間を感じていますが、学校内で触れ合う機会があり、違いを当たり前のように経験するのは大切なこと。障害のある子にとってはどうかわかりませんが、少なくとも定型発達の子どもたちにとっては、教育上で必要なことではないでしょうか。
これと同じ話を、以前、故・大江健三郎先生のセミナーでお聴きしたことがあります。
でも、他の定型発達の子のためになるから・・・だけで進路を選ぶのは、わが子のため、一度しかないわが子の人生にとってはプラスにはならないでしょう。
そこまで他人の子の将来のため、世間に理解者を増やしたいだけに、わが子をそんな環境に差し出す義理も責任も・・・ないですよね。
ただ、そのあたりについては筆者も同じ思いのようです。
障害のある子とない子が共に学ぶインクルーシブ教育の考えは、本当に素晴らしいものです。
しかし、これが拡大解釈されて、教育現場でさまざまなタイプの子を一緒にするのは、果たして子どもたちのためになるのでしょうか。私は一人一人に適した教育環境で学ばせることが、将来の幸せや成長、自立につながるのではないかと感じています。
就学時健診で行政から、特別支援学校や支援級を勧められても、今は親の希望が最優先されるので、通常学級に重い知的障害の子がいたり、支援級に排せつの自立ができていない子がいたりするケースがあります。担任はこの環境で、保護者から「うちの子に合った指導をしてほしい」と要求され、指導が困難になり、疲弊している現状が少なくありません。
言葉だけでいくら「インクルーシブ教育」の利点を唱えられても、そこに適切な配慮や支援がなければ、困るのは本人や担任ということになってしまいます。
特別支援学校などの日本の分離教育には、欧米など教育先進国からの批判も耳にしますが、その改善のためにはやはり先進国なみの予算や制度が必要になってくるように思います。
日本ではようやく40人学級から35人に引き下げられましたが、それでも35人の中に1人の自閉症児がいたら、その子と残りの34人に、それぞれともに適切な教育を行なうことは、1人の担任にとって相当ハードなものであるのは想像がつきます。
まずは、予算をとって支援員、それも障害に理解のある支援員をつけることから始めてほしいですね。
「普通学級に通いたいなら、お母さんついてきて・・・」 日本はまだまだのようです。
もちろん、本書で初めて教えられるアイデアや指針もたくさんあります。
例えば、買い物の際、お金の計算ができなくても、財布を出して「ここから取ってください」と頼むことはできても、自分の気持ちのコントロールを人に頼むことはできません。自分で自分の心をコントロールできるようにするすべを学ぶこと、身につけていくことが大切・・・・などは新しい視点でした。
障害のある子を持つお母さんに、子育ての方針を聞くと、「人に迷惑をかけない子に」「一人で何でもできる子に」と答える人がいます。でも、私はそうは思いません。
何でも一人でできるようになることが自立ではありません。人はできないことも多いですから、できないことはできる人に頼ればいいのです。そして、「ありがとう」と言える子に育てればよいのだと思います。
また、子どもに「人に迷惑をかけてはいけません!」と言い続けると、困った時に助けを求められない人になってしまうかもしれません。迷惑をかけたら「ごめんなさい」と言えればよいのです。そして、できない時やわからない時は、人に助けを求めればいいのです。
障がい児を育てていて、私がホッとする言葉の一つに「おたがいさま」という言葉があります。
迷惑をかけていても、かけられていても、「おたがいさま」と感じ合えるのは居心地がいいですね。
息子も大きくなり、もう立石さんチより大きい36歳、一回りほど上ですが、いまだに育てる会のキッズルームやクリスマス会が大好きです。小さい子にまじって迷惑をおかけすることもあると思いますが、「おたがいさま」と、笑って受け入れてくれる育てる会があって良かったです。
最後に、本書に対する読み方のアドバイスを一つ・・・本書では立石さんは息子さんのこと、「息子」とか「△△君」と表現されていますが、仮名でもいいから、例えば「勇太くん」としていただいた方が身近に感じられたのでは、と思います。
「息子」ではどうしても一般論的になり(そちらを望んで執筆されたのかもしれませんが・・・)、感情移入は難しくなってしまいました。
そこで、私からのアドバイス、まだお読みでなければ、幼い頃からの「勇太くん」の子育てのエピソードやヒントが満載の「発達障害に生まれて」と一緒に読まれることをお薦めしたいと思います。
さらに共感できると思います。
(「育てる会 会報 319号」2024.11 より)
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目次
まえがき
第1章 発達障害の子の特徴 ― 自閉症の息子の体験から
オウム返しだっていい
「人に迷惑がかかるでしよ」は通じない
初めての言葉は「まだ、食べる!」だった
「芋虫を食べなさい」と言われたら・・・・・・
定型発達児と自閉症児との違い 0から2歳児編
定型発達児と自閉症児との違い 2歳児編
遠足や運動会を拒否する自閉症の子どもたち
自閉症の息子へのいじめ
自閉症の子の友だち関係
第2章 障害と向き含う心構え
安心をあなたの手に? 出生前診断ではわからない障害
支援制度を利用して賢く子育てを
診断名を付ける意味
きようだいに障害児がいると結婚の妨げになる?
自閉症の子を23年育てて思うこと
孫自慢にうんざり?! 比べる病を卒業できない
オウム返しより「う・ん」と言ってほしい
第3章 子育てで気をつけたいこと
大切なのはSOSを出せるようになること
横行する発達障害ビジネスに気をつけて!
ダブルバインドしていませんか?
時には「他力本願」のしつけだっていい
自傷やパニックを起こした時の対処法
わが子が爪をむしった理由とは?
言葉をオウム返しすることは傾聴につながる
療育はほどほどに! 子どもの二次障害
第4章 学校選びのポイント
学校選びは親の意向が最優先される
発達障害の子の幼稚園・保育園選び
「とりあえず」で、通常学級に入れて大丈夫?
子どもを「通常学級」に入れる時に気をつけること
通常学級ではこんな難しい算数を学んでいる!
おとなしい子ほど気をつけて!
第5章 大人になってからの向き合い方
病院難民に? 障害年金の落とし穴
学んでほしいのは “感情のコントロール”
親の最大の願いは・・・・・・逆算してわかること
発達障害の人が障害者雇用の際に必要なもの
目先だけを見ないで! 8050問題
第6章 発達障害の理解を広めるために
励ましの言葉が相手を傷つけているかも?
気づいているのに言えない保育士のためらい
何もかも一緒がインクルーシブ教育ではない
わが子の障害をなぜ受容できないのか
子どもを苦しめる「熱心な無理解者」
心をえぐられるような言葉の暴カ
「うちの子は、それ系だから」!? 発達障害って決めつけないで
決まった枠組みで子どもを評価する教師たち
異性の子とのお風呂 いつまで一緒に入る?