私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

息子が生まれ、やがて自閉症と診断されてから、はじめはなんとか治す方法はないかとむさぼるように読み、やがてようやく障害を受け容れ、これからは自閉症のままで幸せに生きていく道を探しながら・・・これまで巡りあった本の数々です。


後に続く方が、書店で手に取ってみたときの参考材料の一つにでもなれば、そんな思いで紹介します。著者名での検索は、右のテーマ欄から探してみてください。

書名別検索は『書名順索引』 からどうぞ。


今息子哲平が就労して、安定して暮らしているのも、これらの本からいただいたたくさんのアドバイスのおかげも少なからずあったと思っています。

バリー・M・プリザント、トム・フィールズ-マイヤー:著
長崎 勤:監訳  福村出版  定価:3000円 + 税(2018.7)


               私のお薦め度:★★★★☆


本書の原題は『 UNIQUELY HUMAN 』といいます。
つまり、自閉症を持つ人を「自閉症」という障害の視点から考えるのではなく、一人の「ユニークな人」として、丸ごと肯定して捉えようという、もう一つの見方です。


筆者のバリー・M・プリザント博士はSCERTS(サーツ)モデルの開発者のお一人で、45年に渡り多くの自閉症児・者の支援にあたられてこられた先生です。
SCERTSモデルについては、初めて耳にされる方もあるとは思いますが、社会コミュニケーション(Social Communication)、情動調整(Emotional Regulation)、交流型支援(Transactional Support)の頭文字をとったもので、自閉症スペクトラム障害のある人たちの社会コミュニケーションや情動調整の能力を支援するための包括的なアプローチです。
本書はそのSCERTSモデルの考え方を、具体的に紹介する一冊となっています。


自閉症を治癒されるべき疾患として描写する代わりに、『ユニークリー・ヒューマン』では人間のユニークなあり様として提示している。自閉症児者を不完全なものとして直しを必要としている対象のように描くよりもむしろ、ユニークな方法で学習したり関係性を発達させていく人物として描いている。

自閉症の人々をより「普通」に見えるようにすることに焦点を当てるアプローチがある一方で、『ユニークリー・ヒューマン』は、自閉症の人々が自分らしくあることの価値を認めている。「普通」になることではなく 自分自身 になることを支援するための枠組みを支持している。


その言葉は、吉田友子先生の『あなたがあなたであるために』を思い出させてくれます。
自閉症をもつ人を、人として尊重し敬意を払って接することで見えてくるもう一つの見方があるということですね。


従来の見方、私たちがよく使うアセスメントでの評価、もしかしたらそれは自閉症のもつ欠陥のチェックリストによる行動評価法になっていないでしょうか。

もしそうだとしたら、そのリストで“問題”と評価されるのは「普通」とは違った行動、解決すべき課題であり、そうなると「普通」に近づけるのが最適な援助とされてしまいます。


なぜレイチェルは手をひらひらさせるのか? それはレイチェルが自閉症であるからである。

なぜレイチェルは自閉症と診断されたのか? それはレイチェルが手をひらひらさせるからである。
このアプローチに従うことは、欠陥の総和として子どもを特徴づけることを意味する。

 
そうなると、ここでのアプローチの成功とは、手をヒラヒラさせるのをやめさせる方法を見つける、あるいは手をヒラヒラさせるのではなく、もっと「普通」に見えるような行動に置き換えること、となってしまいます。そうではなくて、クレーン現象やエコラリア、常同行動、パニック(本書ではメルトダウンと表現)などの行動には、その子なりの意味があり、相手を尊重して「なぜ?」と問いかけることでより理解を深めることができるというアプローチです。
その行動は、コミュニケーションをとろうという意思かもしれないし、今の環境から逃げ出したいというSOSのサインかもしれないし、ただ気持ちを落ち着かせたいためにジャンプを繰り返しているのかもしれません。


SCERTSモデルとは、特に難しい行動を要求しているわけではありません。


もし、音に過敏な子どもがいたら、親は音を低減するためにイヤーマフを与えることができる。
しばしば、子どもは親が繰り返し答えた後でさえ、「今日の午後公園に行く? 今日の午後公園に行く?」というように一つの質問を繰り返すことがある。そんなときに、直接答える代わりに、親は「忘れないように、その答えを書いて、日めくりカレンダーに貼っておこう」と言うこともできる。

それは短期的には、子どもの関心事を認め、子どもを落ち着かせて安心させるのを助けるだけでなく、将来的には自分自身の調整を保つための方略のモデルを提供している。


相手をより深く理解し、コミュニケーションを使って、気持ちを落ち着かせる支援を行っていこうというやり方
ですから、私たちがこれまで行ってきたアプローチと変わりはないとも言えるでしょう。


ただし情動調整については、こんな例もあげられています。


しかし一部のセラピストたちは自閉症のある子どもに情動を教えようとするときに、うれしい、わくわくしている、悲しい、怒っている、びっくりしている、戸惑っている、といった表情の画像を見せて区別させるやり方を勧める。ロス・ブラックバーン(注:第2部に登場する“真のエキスパート”の一人)は私に向かって、この方法の問題点を指摘した。
「長い間、みんなは私に、うれしい顔としかめっ面の絵を区別させて、情動を教えようとしました」と、ロスは言った。
「唯一の問題は、人はこんな顔をしないということです」


そうした先生たちは、情動を教えているのではない。教えているのは画像認識である。そして先生たちは明らかに子どもに、自分の情動を表したり、なぜそれを感じているのかを理解したりすることを教えてはいないのである。
より効果的な方法は、うれしい、ばかばかしい、目がくらむ、不安だ、といった感情を表す言葉を、本人が体験している瞬間に伝えることである。


こんな風に解説されています。

支援者として表情の絵カードなどを使って子どもたちに感情を教えようとする場合、気をつけておいた方がいい見方ですね。


他にもさまざまな、“もうひとつの見方”が紹介されていますが、なにしろ読みやすく、分かりやすいのは、それぞれに具体的な子どもたちのエピソードが添えられ納得させられるからでしょう。これまで何千人という本人や家族を支援してこられたプリザント博士が、その中から印象に残った子どもたちの姿ですから、これに勝るお話しはないですね。


こうして、紹介された「第1部 自閉症を理解する」ですが、「第2部 自閉症と生きる」では、“エキスパート”と紹介されたアスペルガーの当事者、さきほど登場したロス・ブラックバーン、マイケル・ジョン・カーリー、スティーブン・ショア、3氏のお話や、カナータイプのご家族4家のお話しなど、トータルとしての視点も描かれています。共感することも多く、また子育てへのヒントもたくさん得られると思います。


ただ訳者は、ニキ・リンコさんのようなプロの翻訳家ではなく、大学や支援学校の先生などSCERTSモデルの研究者の方々があたられています。
そのため、正確にSCERTSモデルを紹介することを第一義的に目的とするため、厳密に定義された言葉や訳語を使われていたり、ところどころに引用文のようなゴシック体の太字など(おそらく原文通りでしょうが)が使われているため、最初は少し堅いように感じられるかもしれません。
その場合は物語的に読める第2部から先に読み始めて、後から解説的な第1部に取りかかった方が読みやすいかもしれませんね。


日本でのSCERTSモデルの入門書としてお薦めしたい一冊です。

          (「育てる会会報 248号 」(2018.12)より)


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目次


    日本の読者の皆様へ
    まえがき


  イントロダクション 自閉症のもうひとつの見方


第Ⅰ部 自閉症を理解する


  第1章 「なぜ」と問う

    調整不全という困難
    対処方略と調整行動
    調整の要素としての人
    行動を理解することの重要性
    どのように大人は調整不全を引き起こし得るのか
    耳を傾けることの力と信頼を築くこと


  第2章 耳を傾けること

    エコラリアに対する見方を変える
    エコラリアを理解するようになった経緯
    コミュニケーションの代替手段
    家族特有の言語
    学習方略としてのエコラリア
    耳を傾けることはコミュニケーションを促す


  第3章 熱中

    熱中を足場にする
    熱中を呼び起こすもの
    洗車場の王様と注目に値する情熱の物語
    つながりを築くために興味を生かす
    人に対する熱中
    熱中がトラブルの原因になるとき
    「時と場所」を教えること
    強みを築くこと


  第4章 信頼、おそれ、コントロール

    信頼の障害
    身体への信頼
    世界への信頼
    人々への信頼
    おそれの役割
    子どもがおそれを克服するのを助ける
    コントロール おそれと不安に対する自然な反応
    どのように子どもはコントロールを働かせようとするのか
    関係性におけるコントロール
    信頼を築く


  第5章 情動的記憶

    情動的記憶の影響
    いかに記憶が行動を説明するか
    あらゆることが引き金になり得る
    PSTDから得られる教訓
    どのように情動的記憶が問題かどうかを見分けるか?
    情動的記憶への対処の支援
    肯定的な情動的記憶を創出する


  第6章 社会的な理解

    社会的ルールを学ぶことの困難
    社会的状況を読むことの難しさ
    社会的ルールを教えることの限界
    ルールに従うというのは紛らわしいことでもある
    直接的であることの重要性
    誠実さが最善の策とは限らない
    誤解のストレス
    社会的理解と学校
    情動を理解する
    誤った情動の教え方
    社会性を教えるということ、そのゴールはどこなのか
    暗黙の了解のもつ役割


第Ⅱ部 自閉症と生きる


  第7章 「イットをつかむ」ために必要なこと

    実践における「イット・ファクター」
    「イットをつかんでいる」先生
    イットのない人との遭遇
      ★イットのない人は「欠陥チェックリスト」思考をする
      ★イットのない人は子どもよりも計画に注意を払う
      ★イットのない人は子どもの可能性ではなく、子どもの評判に注目する
      ★イットのない人は支援するよりもコントロールしようとする
      ★イットのない人は親の希望や夢に無関心である
    自分の役割を知ることの重要性


  第8章 仲間から得られる知恵

    親はエキスパートである
    自分の感性を信じ、直感に従うこと
    コミュニティを見つけること
    楽観的であること
    信じるものをもつこと
    自分の気持ちを受け入れて表現すること
    攻撃的でなく、適切に主張すること (その違いを知ること)
    価値ある戦いを選ぶこと
    ユーモアを見出すこと
    敬意を求めること
    エネルギーをどこに向けるか


  第9章 真のエキスパート

    ロス・ブラックバーン 「人付き合いはしない」
    マイケル・ジョン・カーリー 「私たちは自分たちに何ができるのかを聞き知る必要がある」
    スティーブン・ショア 「彼らは私を受け止めてくれた」


  第10章 長期的な視点

    ランドール家の人々 「チャンスを与えられれば、アンディはそれによって進むのです」
    コレイア家の人々 「マットはいかに生きるかについて教えてくれます」
    ドミング家の人々 「私たちは直感に従うべきです」
    カナ家の人々 「実現させるために前面に立たなければならないのです」


  第11章 英気を養う

    回復という疑問
    家族が違えば、夢も異なる
    スモールステップ、視点の切り替え
    楽しみ・喜びと自己感、それとも学業の成功?
    自己決定の重要さ


  第12章 多くの人が寄せる質問

      ★高機能自閉症か低機能自閉症かどう識別するの? アスペルガー障害についてはどうか?
      ★自閉症のある子どもを助けるための好機は5歳で終わると聞いたことがある。

                その後ではおそすぎるのか?
      ★自閉症のある人の中には、多動のように見える人もいれば、無気力なように見える人も


いる。

                それをどう説明する?
      ★自閉症のある子どもを助けるためにできる最も重要なことは何か?
      ★人懐っこい子どもも、まだ自閉症をもっている?
      ★子どもが人前で奇妙な行動を示しているとき、知らない人からの刺さるような視線に

                耐えるのがひどくストレスである。どうすべき?
      ★子どもに自閉症があると伝えるのに最適な時はいつか?
      ★自閉症のある子どもに「自己刺激」をさせることは間違いか?
      ★通常のクラス、固定式の特別教育のクラス、あるいは私立学校、自閉症のある子ども

                が学ぶのによりよいのは?
      ★セラピーが多すぎるというようなことはあるか?
      ★自閉症のある子どもを教えようとする気のない、準備不足の先生やセラピストに

                どう対処したらよいか?
      ★話すことに支障のある多くの子どもは、代わりにiPadや他の機器、あるいは絵画

                シンボルシステムやサイン言語などのローテクの選択肢を使ってコミュニケ―ションを学ぶ。

               それは話すことを学ぶのを妨げないのか?
      ★きょうだいは自閉症のある子どもの人生においてどんな役割を果たすべきか?
      ★自閉症は離婚につながるのか?


    参考となる情報の案内
    SCERTSモデルについて
    謝辞
    著者について
    訳者あとがき
    索引

小栗 正幸:著  講談社 定価:1300円 + 税 (2017.11)


          私のお薦め度:★★★★★


来年、平成31年3月23日(土)に育てる会で講演をお願いしている小栗正幸先生の著書です。


先日の会報245号で『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』も紹介させていただいたのですが、本書は講談社の「健康ライブラリー イラスト版」のシリーズの1冊ですので、とてもわかりやすく、またすぐに今日からでも役に立つ1冊となっています。


ただし、本書の場合は、発達障害だけにとどまらず、支援・指導のむずかしい子全般に焦点をあてたアドバイス集となっています。

もっとも小栗先生がコラムで、『「むずかしい子」への対応は、「普通の子」にも有効』と書かれているように、発達障害をもたないきょうだい児の子育てにも活かせると思いますので、広くお薦めさせていただきます。


これまで、自閉症児の子育てにおいては、環境を本人に分かりやすく整え、コミュニケーションもお互いが分かる形で伝え合い、本人の特性を配慮して強みを伸ばしていくというTEACCHプログラムなどを基本とした療育をお勧めしてきました。
いわば、予防的に、二次障害や問題行動に陥らせないという方法です。もちろんそれでうまくいけば、それに越したことはないと思うのですが、周りがいくら気をつけていても引きこもりや不登校になってしまったり、暴言・暴力など加害行動を起こしてしまうケースもあると思います。
そんな時、彼らや彼女たちを抜け出させるための「魔法の言葉」集です。


よく聞く言葉に、「問題行動が起こったとき、本当に困っているのは、教師や保護者ではなく、本人です」というのがあります。中には「困り感」という表現まであります。

思わず納得してしまう言葉ですが、これまで宮川医療少年院の院長など、問題行動を起こしてしまった本人の支援にあたられてきた小栗先生によると、少し違ってきます。


子どもは段階をふみながら徐々に育っていきます。周囲を困らせ続ける子どもは、成長していく過程のどこかでつまずき、育ちに「ゆがみ」がみられる子でもあります。
しかし、育ちの過程の途中にいる子どもには、柔軟性があります。周囲を困らせるふるまいがあれば、その都度、周りの大人が適切な対応をしていくことで、育てのゆがみは修正され、望ましい方向へと進んでいける可能性が高まります。

とくに子ども自身が、目の前の状況に「困っている」場合には、支援・指導を素直に受け入れ、行動は変わっていくと期待できます。

問題は、子ども自身が「とくに困っていない」という場合です。
ただ、タイプが違う以上、支援のしかたは違って当然です。

同じような対応で、同じ反応が返ってくるものと期待すること自体が、無理な話なのです。


つまり、子ども自身が「何とかしたい」と「困っている子」ならいろいろ対応する方法もあるのですが、問題はうまくいかない状況があっても、本人が「困っている」と思っていない子には、これまで常識と考えている支援が通用しない、むしろ逆効果になることさえあるということです。


たとえば、間違っていることに「こんなふうにも考えられるよね?」「イヤ、そうかな?」というふうに教え正しい道に導こうとする反論や説諭では、本人は攻撃された、否定されたと反発して暴言・暴力をエスカレートさせてしまうこともあります。また、子どもの気持ちを受け止めて「それは苦しいね」「なるほどね」とかじっくり耳を傾ける傾聴や受容の方法では、やっぱり私はだめなんだと余計に落ち込ませてしまうこともあるそうです。

もちろん、説諭や受容は「困っている子」には有効な方法の一つなので、要は相手の見極めですね。


小栗先生は支援が難しい子には、大きな視点から自分を客観的に見る「メタ認知」が育っていないのではと考えられています。「あなた」と「私」が捉える世界は違っていることの理解が難しいということです。

そしてその要因として考えられるのは、発達障害、失敗体験、虐待の3つに大別され、その3つの要因が重なって複雑に絡み合うことも少なくないそうです。
そう考えてみると、私たちの子どもはみんな発達障害を持っており、虐待はないにしろ、成功体験を積み重ねることが難しい一面もあるので、間違いなく本書の「支援・指導のむずかしい子」に該当してしまうかもしれませんね。


さて、ここからが本題の「魔法の言葉」の紹介や使い方にはいっていくのですが、著作権の問題もありますので、詳しくは本書を買っていただくか(正会員の方は貸し出しもOKです)、来年のセミナーに来ていただくか、にしていただいて、ここでは簡単な紹介にとどめさせていただきます。


まず、魔法の言葉の基本は、「的外し」(的外れではありません!)と「肯定」のフィードバックだそうです。


【的外しの魔法】 訴えの内容から、あえて少し的を外したフィードバックをおこなうと、話し合えるポイントが見出しやすくなる
【肯定の魔法】 頭ごなしに否定しない。受け止めるだけでなく、肯定できる点を見つけて、ポジティブなフィードバックをくり返すうちに、子どもが発信する内容は変わってくる

 
具体的な魔法の言葉については、とりあえず「目次」だけでも紹介しておきますので、実際にこの魔法を使ってみようと思われる方は、本書を手に取ってお読みください。

(※ 詳しい目次は、下に載せています)


「困っていたんだね」・・・汎用性の高い的外しの魔法
「あなたもわかっているように」・・・ものわかりをよくする魔法
(他者批判をする子に)「そこに気がつくきみはすごい!」・・・視点を変える魔法
(虚言癖がある子に)「あ、きみ○○に興味があるの?」・・・ウソを終わらせる魔法


また各ページには、「魔法の言葉」と対比して、子どもたちをより悪い状態に追い込んでしまうかもしれない「呪いの言葉」についてもイラスト付きで載っています。その中には、私たちが普段つい使ってしまいがちな言葉も多いです。要注意ですね。


たとえば、暴言・暴力が多い子への「気づき」を促す魔法

「がまんしていることが多いよね」に関する「呪いの言葉」と「魔法の言葉」の例です。


【反抗的な態度を誘う 呪いの言葉】
  「そういう口のきき方はないだろう」
  「なんだ、その態度は!」「いい加減にしなさい」
  「そういうことを言ってはダメ!」


【気づきを促す 魔法の言葉】
  「(悪態をつかれたら)また心にもないことを!」
  「ねえ、あなたはふだん、がまんしていることが多いように私には見えるのだけど、違うかな?」
  「そういうときは、大声を出したりする前に、私にこっそり教えてよ?」


本書には、他にも加害行為に対する毅然とした対処法や、「非行のある子の保護者」や「愛情がもてないという保護者」「クレーム多い保護者」などへの魔法の言葉も載っていますので、先生方にもお勧め一冊だと思います。


本書を読んで、ますます来年の小栗先生の講演会が楽しみになりました。


        (「育てる会会報 247号 」(2018.11)より)

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目次


   【まえがき】


   【悩んでいませんか?】 学校生活で起きやすい子どもの困ったふるまい


1 「話せばわかる」が通じない!


   【みんなの悩み】 支援・指導が行き詰まるパターンはいろいろ
   【支援・指導が必要な子①】 周囲を困らせる子には2つのタイプがある
   【支援・指導が必要な子②】 「困っていない子」の支援・指導はむずかしい  
   【なぜ話しが通じない?①】 支援・指導のしにくさの裏に「メタ認知」の不調あり
   【なぜ話しが通じない?②】 「メタ認知」を獲得しにくくする3つの要因
   【なぜ話しが通じない?③】 「説諭」「受容」は、困っていない子には逆効果
   【どうすればいい??】 困っていない子にこそ必要な「対話」でのやりとり


   コラム 支援・指導に発達障害の診断は必ずしも必要ない


2 子どもに伝わる! 魔法の言葉


   【子どもとの対話の基本】 「的外し」と「肯定」のフィードバックで魔法がかかる!
   【対話のきっかけをつくる】 困っていたんだね ― 汎用性の高い的外しの魔法
   【メッセージを伝えやすくする】 あなたもわかっているように ― ものわかりをよくする魔法
   【暴言・暴力が多い子に】 がまんしていることが多いよね ― 「気づき」を促す魔法
   【他者批判をする子に】 そこに気がつくきみはすごい! ― 視点を変える魔法
   【でたらめを言う子に】 よくそんなこと!ある意味うらやましいよ ― 皮肉の魔法
   【虚言壁がある子に】 あ、きみ○○に興味があるの? ― ウソを終わらせる魔法
   【「死にたい」という訴えに】 相談してくれて、うれしいよ ― 安全圏に導く魔法


   コラム 「むずかしい子」への対応は「普通の子」にも有効


3 困った場面でこそ「言葉の力」が重要


   【教室全体が騒がしいとき】 静かにしろ!・・・って言うと思った? ― 笑いを活用
   【加害行為】 理由ではなく事実を聞いています ― わかりやすい対応を
   【いじめ】 あなたのしていることは犯罪です ― 加害性を見逃さない
   【パニック】 ここにいたの?探してたんだよ ― 「モードの切り替え」を
   【盗癖が疑われる子に】 だれも疑いたくはないけれど ― 犯人探しより今後の抑止を
   【SNSトラブル】 「親のせい」にしてもいいよ? ― 第三者の介入が必要
   【不登校①】 自分の考えをもつのは大切だ ― 「こだわり」にこだわらない
   【不登校②】 きみの話は楽しいね! ― 好きなことを突破口に
   【対人トラブルの訴え】 だれも「みんな」とはうまくいかない ― 大前提への疑いを
   【恋愛・性非行①】 恋ってやつはけっこう面倒くさい ― 「なぜ?」につなぐ誘い水
   【恋愛・性非行②】 「秘め事」って言葉を知ってる? ― 本気の対話を始めよう


   コラム 本人の「がんばり」は期待しないほうがいい


4 「これから」につながる支援・指導のために


   【支援・指導の目標①】 「当たり前のこと」でつまずかないようにする
   【支援・指導の目標②】 究極の目標は「自分で生きていける力」を養うこと
   【発達障害がある場合①】 「感じる」と「わかる」のバランスの悪さを理解しよう
   【発達障害がある場合②】 「反省してない!」と非難しても解決しない
   【望ましい方向へ進むために①】 「損得」を考える練習が「これから」につながる
   【望ましい方向へ進むために②】 「お手伝い」「頼みごと」をどんどん取り入れる
   【学業不振への対応①】 学校生活では学力をつける取り組みが不可欠
   【学業不振への対応②】 まずは「学力アップ」より「やる気アップ」を!


   コラム 「勉強はできる子」でも支援が必要なことも


5 保護者との対話がうまくいく魔法の言葉


   【保護者との対話の基本①】 「親のせい」にしない。「子どもが変われば親も変わる」
   【保護者との対話の基本②】 「さわやかな自己主張」のスキルが対話力を上げる
   【クレームの多い保護者に】 教えてほしいのですが ― 「苦情」から「対話」へ
   【暴力的な保護者に】 お子さんのためとはいえ、つらいでしょう ― 利害の一致を導く
   【「愛情がもてない」という保護者に】 そこまで心配だったのですね ― 「承認」が力になる 
   【非行のある子の保護者に】 がんばりすぎなくてもいいのでは? ― 緊張をやわらげる


   コラム 一致しない点が多くとも理解し合うことはできる

  ~不思議な息子が教えてくれる楽しい暮らし方~


岡野 ゆかり:著  GAKKEN 定価:1200円 + 税  (2018.9)


        私のお薦め度:★★★☆☆


先日、地元の山陽新聞でも紹介された岡山県在住の“こうちゃんママ”こと、岡野ゆかりさんのエッセイと4コマまんがで描かれた自閉症児“こうちゃん”の子育て記録です。


自閉症児を育てている、また育ててきた親たちにとっては、「あ~、あるある」「あった、あった」というエピソード満載の一冊です。


4コマまんがの良いところは、結構シリアスな話でも深刻にならずに伝えられることでしょう。普通なら、自閉症児の子育て、その最中は大変なことが多く、後になってからようやく笑い話になることが多いと思いますが、まんがだと描いている傍から伝える方も、伝えられる方も楽しくなってきますね。
まんがでデフォルメされることで、客観的に面白エピソードになるのかもしれませんね。
本書でも、エピソードの4コマまんがの隣に「ママのひと言」が添えられていますが、まんがになると、“あるある”と心穏やかにに感じられることが多いですね。


たとえば


『保育園は天国?』 
“ママのひと言” 3歳を過ぎたこうちゃんは多動が激しく、あちこち走り回るので、私は疲れきっていました。そんな時、障がい児受け入れのある保育園に入園できました。最初の1~2か月は私もつき添いましたが、少しずつ長く預けられるようになり、本当に助かりました。
母親もひとりになれる時間って大切ですね。ここで定型発達の子たちと接したおかげで、こうちゃんの遅れを受け入れられるようになりました。


これがまんがになると、入園して1ヵ月して、保育園の先生に「お母さん、1時間だけ置いていってください」とこうちゃんを預かってくれて、「神様がくれた1時間だった」と後を追いかけて走らないで買い物できる、幸せを満喫しているこうちゃんママがほのぼのと描かれています。

まんがに書かれた「ジーン」が、“そうそう”と伝わってきますね。


他にも、同じ障害児を育てる者同士でしか共感できない思いも伝わってきます。


『障がい児の親の幸せ』
“4コマまんが”


健常児の親御さんは 「○○ちゃんピアノ始めたって」
          「え?! うちも習わせなくちゃ!
          「△△塾に入れたら成績が上がったらしいわ」
          「何としても□□中学に入らなきゃ!」
     ・・・こんな苦労がある
でも障害児の親は・・・
   「昨日ついにお母さんって呼んでくれたの」
   「うれしかったでしょう」
  その子の成長をゆっくり待てる幸せがある


“ママのひと言” 障がい児の親は戦友同士のような感覚があるかもしれません。親同士、一緒に
いるだけで救われた気持ちになり、うつになりそうな毎日からどれだけ助けられ、幸せをおすそ分けしてもらえたかわかりません。


これなど、ペアレント・メンターの研修などでよく言われる「専門家にはできない、親同士にしかできない共感性」なのでしょう。よく障害児を育てている夫婦の関係を戦友と例えることがありますが、こうちゃんママの言う通り広く障害児の親同士、みんなが“同志”なのかもしれませんね。


これまでお薦め本でとりあげていたのは、いわゆる専門書、自閉症への正しい理解や自閉症児の子育ての指針となるような本、また療育のためのヒントやアドバイスがもらえるような本が多かったのですが、たまには肩の力の抜けるような、こんな楽しい、共感をもらえるような本もいいですね。


もちろん、こうちゃんママも楽しいだけでなく、将来のことも真剣に考えられています。
今はこうちゃんも22歳、身長183cm、体重137kgの堂々たる体格の青年になられたそうです。


こうちゃんは機嫌のいい日は頑張って働き、仕事が正確で丁寧だとほめられて、地元のテレビの取材を受けたこともありました。でも機嫌の悪い日は、よく問題を起こしました。怒って投げたリモコンがテレビに当たってテレビが壊れたり。女の子の高い声に耐えかねて、その子が持っていたiPodを奪って投げつけたり。言葉で思いが伝えられず、テーブルをひっくり返したり。本人は働くといったらパンを焼いたり配達をしたり、機械の組み立て作業をしたり・・・と想像していたようで、実際の作業(生活支援センターでの作業)とのギャップにも戸惑いがあったようです。


今考えたら、職員の方にはずいぶん苦労をかけていたと思います。学校では二人の生徒にひとりの先生がついてくれましたし、広い校庭などストレスを解消できる環境もありましたけど、作業所はそうはいきません。毎年、高等部から新しい卒業生が入ってくるのですが、どうも2年目からうまくいかなくなった気がします。そこで、友人の紹介で別の施設に移ることにしました。半年以上おとなしく通っていましたが、何か気に入らないことが増えたのか、物をひっくり返すようになり、まわりが怖がるのでそこも辞めざるを得なくなりました。


やはり、共感はとても大切で忘れてはいけないものだとは思いますが、その根っこには将来を見通して、幼いころから地道に療育を行っていくことが障害のあるなしに関わらず、親としての役目があるのですね。こうちゃんママが述懐しておられるように、「毎日笑顔で穏やかに過ごせるように」することや、また自分の思いを適切な方法で伝える手段を身につけさせてあげることも大切ですね。そんな親のかたの助けに少しでもなれば、と、ぐんぐんでは療育に支援ツールやPECSなども取り入れています。


なにしろ、どんなに小さくて可愛いわが子も、やがては大きくなって社会に出て、親よりもずっと長生きしていくものですね。
健常児なら、成人したら自己責任!と言うこともできるかもしれませんが、自閉症を持ってこれからも生きていくわが子たちには、そっと社会に出ていくための後押しぐらいはしてやりたいと思っています。
ただし、そっと後押しして手を離したあと、無事に親亡き後も生涯幸せに暮らしていけるかどうかは・・・先に逝くものとしては、世の中を信じて託すほかはありませんが (*^_^;)


本書の最後の『幸せな子とは?』に綴られている“ママのひと言”です。


親が亡き後、こうちゃんが自立して生きていくにはどうしたらいいか、いつも悩んでいます。
理想としては、昔の長屋みたいな、見守り合える障がい者グループホームがあればいいなあと思います。現在、こうちゃんは気分が不安定で作業所に週2日しか通えていませんので、自分たちで作業所を立ち上げられたら、とも思います。


こうちゃんもまだ22歳、こうちゃんや自閉症の方に合った働き場所や暮らす場所を早くみんなで作って、こうちゃんが安心して過ごせるようになれることを祈っています。


文章で4コマまんがの楽しい世界を紹介することは難しいですが、日々子育てに頑張っておられるお母さん方にも、たまにはクスッと笑ってほしいと本書をお薦めします。


        (「育てる会会報 246号 」(2018.10)より)


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目次


  まえがき 自閉症の息子「こうちゃん」のこと

  こうちゃんファミリー紹介


自閉くん4コママンガ ① 自閉くん、あばれる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 幼年期 ①
                       幼年期 ②

  こうちゃんママが考えた自閉くん子育てアイデア集 ①


自閉くん4コママンガ ② 自閉くん、こだわる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 少年期 ①
                       少年期 ②

  こうちゃんママが考えた自閉くん子育てアイデア集 ②


自閉くん4コママンガ ③ 自閉くん、大人になる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 青年期 ①
                       青年期 ②

  あとがき 自閉くんが気づかせてくれたこと

小栗 正幸:著  ぎょうせい  定価:1905円+税 (2010.3)


       私のお薦め度:★★★★☆


今月は、来年3月に講演をお願いしている小栗正幸先生の本を紹介します。


小栗先生については、セミナーのチラシ等で改めて紹介させていただきますが、思春期から青年期の逸脱行動への対応を専門とされ、宮川医療少年院の院長も勤められていた方です。
その小栗先生が最初に書かれています。


本書は発達障害に関する解説書ではない。発達障害というより、二次障害に焦点を当てており、それも思春期への対応を中心に述べている。
さらに、二次障害についても、精神症状を軸にした(内在化した)二次障害ではなく、行動面の問題を軸にした(外在化した)二次障害を取り扱っている。


本書のタイトルに二次障害予防のシナリオとあるように、ここで取り上げられているのは二次障害に対する具体的予防の話です。そして最初にことわられている通り、発達障害児へのいじめなどによるうつ状態によるひきこもりなどの内在化ではなく、非行や反抗、粗暴性などとして現れる外在化した二次障害への予防と対応です。
この問題については、育てる会では意識してあまり触れないようにしてきた課題でもあります。それは、今でも猟奇的事件においてマスコミ等でアスペルガー症候群などがセンセーショナルに取り上げられるケースがあり、自閉症に対して家族や周囲の方がマイナスなイメージを持つことを心配したからです。

もちろん、それに対して反論していくことはできますが、それよりも育てる会としては、そうならないように、本人の周りの環境を整えたり、お互いがコミュニケーションできるようにして、自閉症を持ったままでも自分を肯定的にとらえて育ってくれることを優先してきたからです。


それでも、いわゆる非行少年の中に一定程度発達障害の子どもたちが含まれるのも事実です。ある調査では、一つの少年鑑別所に入所した子どものうち、広汎性発達障害を持つ者は3.4%で、ADHDを持つ者との合計で9%ほどだったそうです。多いようにも思いますが、今では、発達障害を持つ児童の割合は普通学校でも10%ほどといわれていますので、多すぎることもないとも言えるでしょう。


そして、小栗先生は非行少年が非行化するプロセスと発達障害を持つ子が二次障害を発症するプロセスは驚くほど似ており、非行化のメカニズムを知れば二次障害のメカニズムがわかり、二次障害のメカニズムが明確になれば、予防の手立てや指導の方法も具体化できる、とおっしゃられます。


それを聞けば、私たちもこれまでのTEACCHプログラムなどの勉強と並行して、二次障害による不適応行動に対してもおそれずに向き合っていった方がいいのかもしれませんね。
もちろん、子ども達が二次障害に陥らずに、自信をもって成長してくれればそれに越したことはないのですが、二次障害を起こしそうになったとき、また起こしてしまったとき、それに対する対処法を知っていれば慌てないで対応できると、小栗先生の講演会を企画し、本書を紹介する次第です。


非行化と二次障害のメカニズムについては、本書の第3章と第4章を通して詳しく述べられています。
その中で専門機関との関わりについても触れられています。


そもそも非行少年については、専門機関への受診歴のある子ども自体が少数派である。仮に専門機関へ受診し、そこで発達障害を指摘されている場合でも、それは子どもに親を困らせるる行動が出現した後での受診である場合がほとんどなのだ。


さらに少数派になるが、実は幼児期から発達障害に気づかれている非行少年もいないことはない。しかしながら、そうした場合であっても、継続的な支援の機会に恵まれた子どもはほとんどいないのである。
それには、前項で触れた保護者の否認が大なり小なり関与しているものだが、ときにはもう少し複雑な家庭内の事情が絡んでいることもある。例えば、母親は問題に気づいても、父親が頑としてそれを否定し、結局支援を受ける機会を逸してしまった事例を私はたくさん見てきた。これがあると、救いようのないストレスを一身に被ってしまうのが母親である。その結果として、子どもが実質的な被害者になってしまうのは、余りにも明らかであろう。


なお、百歩譲って早期からの支援に恵まれた子どもがいたとしても、その後に何らかの理由で支援を中断していることが多い。そうした支援中断の主な理由は、思春期になった子どもが、支援の場へ通うことを嫌がるようになったとか、子どもが高校や大学に進学したり、就職したりして、保護者が安心したのか、せっかく受けてきた支援を途中で中断してしまうといったものがほとんどである。
ともかく、せっかく受けてきた支援を中断し、その後非行化したような事例については、残念という以外に適当な言葉が見当たらないのである。


発達障害を持った子どもたちが非行化したり二次障害を起こさないためには、早期発見・早期療育とともに、生涯にわたる継続した支援が必要であるということですね。
本当に、マスコミなどで事件を知るたびに、幼児期から学童期への療育に関わるものとしては悔やまれる思いがあります。
とは言え、私たちに支援できる子どもたちには限りがあります。育てる会の会員の方や、ぐんぐんに通ってくる間の子どもたちにしか関わっていけません。
私たちにできることは、少しでも多くの方に支援の大切さを知って欲しくて、こうして講演会を企画したり、本書を紹介したりと地道な方法しかないですね。


小栗先生は法務省に所属する心理学の専門家(法務技官)として、現場で発達障害児を含む少年たちの支援にあたってこられました。
その専門家として本書の最初のシナリオです。


私が受理する相談には、発達障害のある子どもの盗癖に関するものがかなり含まれている。保護者も、教師も、ときには専門家までもが、「この子には盗癖があって・・・」と困っておられる。しかし私は「それは盗んだのではなく、無断借用したのと違いますか?」と問い返すことがある。
要するに、友達が素敵なものを持っている。自分も欲しいと思った。それを勝手に持ち帰った。この行動を「盗み」と見るか「無断借用」と見るかの問題だ。


つまり、同じように見てしまいがちの行動が、「盗み」なのか「借用行動のエラー」なのかによって、その後の対応や支援が大きく違ってくるということです。
もし借用行動のエラーだとすると、対応は道徳的・心理学的・社会学的からのアプローチではなく、これまで自然には学んでこれなかった正しい借用行動の学習ということになるわけです。
こんな風に専門家の視点からの支援のシナリオが描かれています。


そして支援者がシナリオとして取り組んでいかなければならないのは、まず学習支援、そして生活支援、最後に自己制御の力を育てる支援の3領域であると述べられています。


また本書の最後には、保護者支援についても書かれています。


また、別のお母さんは、「私は子どもに愛情を感じることができない」と語られた。その子どもには広汎性発達障害があった。しかし、子どもへの接し方をだれもお母さんに教えていなかった。子育てをしようとしても、うまくいかない経験ばかりを積み重ねると、母親は無力感と自責の念にさいなまれる。これは愛情の問題ではなく、「学習性子育て無気力症候群」とでも呼べる状態である。
なすべきことは子育てへの動機付けだ。動機付け戦略については繰り返し述べてきたとおりであるが、要するに「愛情」をキーワードにすると見えにくくなるものが、子育てスキルとか、コミュニケーション・スキルに視点を変換すると、その日からやらなければならないことが「いっぱい具体的に見えてくる」ということである。そのヒントは、本書をここまでお読みいただいた読者であればおわかりだろう。


しっかり本書からヒントをえて、二次障害に陥らないような子育てに活かしていただきたいと思っています。


小栗先生には、もっと簡単に、そしてすぐにとりくめるように、わかりやすくイラスト入りで書かれた「支援・指導のむずかしい子を支える 魔法の言葉」(講談社)という著書もありますので、こちらもまた改めて会報で紹介させていただきたいと思っています。

          (「育てる会会報 245号 」(2018.9)より)

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目次


  はじめに


第1章 発達障害児の思春期


  育ちのニーズ
  容貌
  恋心
  正論
  不安


第2章 発達障害と二次障害


  困った行動
  連続性
  隠ぺい性
  メッセージ性
  周囲の反撃
  誤解
  失礼な言辞
  距離感
  他者認知
  安定性
  その他の症状
  二次障害の本態


第3章 非行少年


  外見
  男性
  経済的余裕
  価値感
  不適切な養育
  学業不振
  大人の真似事
  背水の陣
  親に頼らない自分
  ファンタジー
  高校進学
  変化
  少女
  早すぎる自立
  非行少年の本質
  
第4章 二次障害としての非行化


  頻度
  非行化事例
  実態把握の遅れ
  複雑な理由


第5章 二次障害の予防


  学習支援
  生活支援
  自己制御


第6章 実際場面での指導


  指導する場所
  個別指導
  ほめ方
  無気力
  こだわり
  約束指導
  禁止事項
  保護者支援


  おわりに



中邑 賢龍・近藤 武夫:監修 講談社 定価:1200円+税 (2012.9)


      私のお薦め度:★★★☆☆

  
先日、講演会で、幼い頃から映像を通して知っている、自閉症のお子さんが成長して、今もことばはないけれどスマホを使ってコミュニケーションがとれるようになって楽しそうに暮らしている姿を拝見しました。

遅ればせながら、息子にもスマホを使わせてみようかと思い(いまだに、父子ともガラケーです)、少し前に出版された本ですが、育てる会の図書の本棚から本書を探し出して手に取りました。


本書の目的は、最初に書いてあるように・・・、


最初に誤解しないでほしいことがあります。この本は、役立つツールを列挙して、その使い方を説明した、解説書ではないということです。この本に載っているのは、ツールの使い方ではありません。なぜツールを使うのかという理念です。
なぜツールを使うのでしょうか。それは、ツールの利用が、子どもの将来をつくることになるからです。大事な掲示物をケータイのカメラで撮影する。パソコンで情報を検索しながら作文をする。先生の話を聞いたら、要点をすぐに録音する。どれも、身につけておけば一生役立つ技術です。


・・・ということです。


ツールという意味では、本書にもいくつかソフトも紹介されていますが、アプリはそれこそ日進月歩ですし、機器についても本書を監修されたお二人が書かれた別の図書「タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育」(明治図書)にあるように、学校でもあまり成果の上げられなかったパソコン教育に変って、今はタブレットPCが主流の時代になっているようです。
ですから、監修の中邑先生の書かれているように本書から汲み取っていただきたいのは、その「理念」ということになります。


また、本書の書かれた年代(2012年刊)からは、少しは改善されてきたとはいえ、まだ学校で発達障害を持つ子どもたちが、障害をカバーするため一人だけテクノロジーの機器(パソコン、デジタルカメラ、スマホ、ボイスレコーダー、イヤーマフ等)を普通学級で授業中に使うことは禁止されることが多いと聞きました。
学校や先生がその考え方だと、もし保護者からの強い要望があり、機器の使用が“特別に”認められたとしても、クラスで「一人だけ、ズルい」と思われ、下手をするといじめの対象になるかもしれませんね。まずは教師が、障害の特性を正しく理解して、他の子どもたちに説明しないと、「一人だけパソコンで作文を書いていて、ラクしてズルい」と言われてしまいそうです。その理解があってこその、特別支援教育だと思います。


ただし、ここで忘れていけないのは、鉄則「学習の本質的部分は変えない」ことだと念押しされています。


テクノロジーが、学習の本質的な目標をそこなわないように、注意してください。

たとえば作文の本質は、テーマにそって、自分の考えがほかの人に伝わるように文章をつくることだと
すると、文章をキーボードで打ちこんでも、本質的な部分は変わりません。
いっぽう、漢字を覚えて書く課題でキーボードを使うことは、学習の本質をとらえていないといえます。※ ただしこの場合も、漢字を書き出すという課題が、その子の学習目標に対して本質的かどうかを検討する必要はあります。


もちろん最初は普通の方法で頑張ってみるのですが、他のいろいろな方法を試してみても、どうしても苦手な部分が残ることがあるのが障害で、その能力の代替手段としてのテクノロジーです。


支援ツールをどこまで 活用するか悩んだときには、土俵をイメージしてください。土俵にのることが学習のスタートラインだと考え、そこまで支援するのがひとつの方法です。
学ぶ機会を均等にすることが支援だと考えると、本人の努力だけでは土俵にのぼれない、つまり、学習することが難しい子を放置するのは、支援不足であり、間接的な差別です。


日本語では 「同じ土俵にのせる」 ですが、英語ではこうなります。


Level the playing field!
競技場(プレイング・フィールド)を平らにする(レベル)こと、つまり誰もが同じ土俵にのることを、支援の目標にしていく。


いい表現ですね。


そんな助けとなるIT機器ですが、それは発達障害を持たない子どもたちにとっても同じかもしれません。みんなが、パソコンをいろんな授業でも活用できればいいと思うのですが、今の学校ではパソコンは学校の備品で、その授業だけしか使えないところが多いようですね。
そんな環境の中では、ツールは家庭で用意することを勧められています。


学校になにもかも用意してもらおうとしていると、なかなか環境が整わず、子どもを支援するのが遅れがちです。
  予算がない:テクノロジーによる支援が教育制度に組み込まれていないため、

          予算が用意しにくい
  公平性に悩む:学校で購入したものを一部の子どもたちだけが使うとなると、

            公平性に関する悩みが生じる
  管理が難しい:パソコンやタブレットなどの機器は、安全管理に手間がかかる。

           その担当者がいない
ツールは家庭で用意し、学校にはその使用許可を求めるようにしましょう。


要は、些細(?)なことで、学校側との交渉に余分な労力は使わないで、その分一日でも早く子どもたちがITを使える環境にしてあげましょう、ということですね。


最後に、テクノロジーを使い始めてから、親の方が陥りやすい注意点を紹介します。


「せっかくあるのだから使わなきゃ」と思うと、テクノロジーの利用が義務になってしまい、非合理的です。

使いたいときに、必要なだけ活用しましょう。
テクノロジーが、子どもの生活支援に役立つのは確かです。
しかし、その効果に過度の期待をかけ、「使えば状態がよくなるはず」「もっと使わなきゃ」と意識しはじめると危険です。子どもの生活を支援することよりも、テクノロジーを使うこと自体が目的になってしまいます。
子どもにケータイやパソコンの操作方法を熱心に教え、使用を強制すると、それはもう支援ではなく訓練になってしまいます。テクノロジーの利用は、あくまで支援策のひとつ。支援が必要なときに必要なだけ使うようにしましょう。


この本は、佐々木正美先生の「自閉症のすべてがわかる本」などと同じ「講談社の健康ライブラリー イラスト版」シリーズの1冊ですので、見開きページにイラストや図で子どもたちにもわかりやすいように説明されています。親子で機器の使い方についていっしょに考えたり、約束したりしていくのに適した1冊だと思います。


        (「育てる会会報 244号 」(2018.8) より)

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タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育 学習につまずきのある子どもたちの可能性を引き出し、未.../明治図書出版
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バリアフリー・コンフリクト: 争われる身体と共生のゆくえ/東京大学出版会
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目次


  まえがき


    【支援とは】 いっさいの支援を認めない授業や試験は本当にフェアか
    【支援とは】 ケータイ・パソコンなどのテクノロジー活用がはじまった
    【支援とは】 いま、「合理的配慮」にもとづく支援が求められている


1 テクノロジーを使って夢を広げよう!


    【なにを使う?】 すぐに使えて簡単な「アルテク」を活用する
    【誰が使う?】 診断がなくても、いま困難がある子は使う
    ▼コラム 診断より支援を先にする「RTIモデル」とは
    【誰が使う?】 小学1年生になればパソコンは十分使える
    【どのように使う?】 夢をかなえるために必要だと思ったら使う
    【どのように使う?】 読み書きが苦手なら、別の方法で学んでみる
    【どのように使う?】 義務だと考えず、使いたいときだけ使えばいい
    ●本人の気持ち 「なにもかもがんばらなくてもいいんだ!」
    ●コラム これからの支援 「AT」「AAC」「ICT」はどう違う?


2 子どもたちはかっこいいものを使いたい


    【読むためのツール】 紙にもパソコンにもカラーフィルタをかける
    【読むためのツール】 音声読み上げソフトのレベルはかなり高い
    【読むためのツール】 スキャナと読み上げソフトをセットで使う
    ▼コラム デジタル教科書は音声読み上げソフトにどこまで対応している?
    【書くためのツール】 テキスト入力専用の機器を持ち歩く
    【書くためのツール】 デジタルノートに書きとり、整理する
    【聞くためのツール】 ノイズキャンセリングヘッドホンで授業に出る
    ▼コラム 動画配信やネット通話で遠隔授業ができる?
    【記憶のためのツール】 覚えないでボイスレコーダーやカメラを使う
    ●本人の気持ち 「使いたいから、学校に困難を伝えることにした」
    【教師にできること】 テクノロジー反対の先生とじっくり話し合う
    ●コラム これからの支援 最新の支援技術を発表するイベント「ATAC」


3 ツールの利用で人生が変わった子どもたち


    ●最新のとりくみ 「読み書きラボ・ココロ」での交流
    【実例(日本)】 タブレットを使ったら、抵抗なく字が書けた
    【実例(日本)】 各種ソフトとメールで自分の意見が言えた
    【実例(日本)】 「障害」に対する考え方・人生観が変わった
    【実例(アメリカ)】 LDの日本人女性が国家資格をとった
    ●コラム これからの支援 日本の障害学生支援はアメリカの30分の1


4 ケータイ・パソコンは特別扱いになるのか


    【よくある質問】 ケータイのネット接続やゲームが問題になるのでは?
    【よくある質問】 パソコンを使うと、読み書きの力が落ちるのでは?
    【よくある質問】 ひとりだけ道具を使うのは特別扱いなのでは?
    【支援の考え方】 全員を同じ土俵にのせるのが支援のひとつの方法
    【支援の考え方】 本人・家族と学校で「合理的配慮」をつくっていく
    ●コラム これからの支援 S.E.N.Sは研修会で支援技術を学んでいる


5ツール利用が当たり前になる社会をめざして


    【これからの課題】 ツールは充実しているが、制度面が整っていない
    【これからの課題】 いまの教育観のなかで、どこまで活用できるのか
    ▼コラム 子どもたちの生活にビジネス書が役立つ?
    【これからの課題】 入学試験への配慮はまだはじまったばかり
    ▼コラム 文字入力機能を正当に使うためのソフト 「Lime」
    ●本人の気持ち 「入試のときに使えないものがあることがわかった」
    【これからの課題】 ツール利用に関する相談先がまだ少ない
    ●最新のとりくみ 進学・就労移行支援プロジェクト 「DO-IT Japan」
    ●コラム これからの支援 日本も障害者権利条約にもとづく体制へ

中田 洋二郎:著  GAKKEN  定価:1600円+税(2018.3)


     私のお薦め度:★★★★☆


書名は少し地味で、すでに知っているような内容かな・・・と、思われる方もおられるかもしれません。
副題も「問題解決のために支援者と家族が知っておきたいこと」と、いたって真面目で、最近はたくさん出版されている発達障害関係の書籍の中では目立たない一冊になってしまいそうです。


ところが本書は、44年も福祉施設などの現場で発達障害を持つ本人や家族の支援を続けてこられ、現在は立正大学心理学部教授の中田洋二郎先生が支援者や家族のために書き下ろされた本なので、これまで常識とされてきた障害観とは一味違ったものになっています。


例えば、よく障害の受容の際に説明される「ショック→否認→悲しみと怒り→適応→再起」で表される段階的な説明、実際にはこのような過程をたどる保護者は少なく、むしろ慢性的悲哀(悲嘆)、子どもの障害を知った時と同じ苦しみを感じながらも日々子育てをしている親の方が多いと述べられています。


また、障害児の誕生にショックを受ける親の心理を「期待した子どもの死」と表現する学説、支援者が納得しがちな説については、こう反論されています。


わたしたちはこのように期待した健康な子どもの「死」であるとたとえられることによって、障害のある子の親の悲しみや苦しみが死別の際の悲哀と同じものであると理解する。しかし「期待した子どもの死」として説明することは正しくない。
なぜなら、障害があろうともそこには子どもの誕生という事実があり、保護者は悲嘆にくれながらも、そこにいる「我が子を育てなければ」という責任と「無事に育ってほしい」という思いが芽生えている。


また、そうして生まれた子どもが生きていく中で、親の思いが変わっていくことを、長年の支援の体験の中から綴られています。少し長くなりますが紹介したいと思います。


たとえばある母親は子どもが障害児施設に通うようになったときのことを、「我が子の障害を受け入れることができたのは、その施設の先生が屈託なく我が子に接しているのを見たときだった。そのとき初めてこの子も生きていていいと思った」と話し、また、養護学校に行くことを拒んでいたほかの母親は、「養護学校に見学に行ったとき、うちの娘と同じような子どもたちに、先生が普通の笑顔で話しかけるのを見て、この子をここにいさせたいと思った。そのときわたしは、本当に子どもがこの世にいてもいいんだと思えた」と語った。


これらのエピソードの背景には、障害のある子どもの誕生と生存を社会から否定されているという親の思いがある。しかしその思いは支援者と子どもの自然な交流を目の当たりにすることで薄らいでいく。
障害のある子どもの誕生は周囲から祝福されないことが多い。保護者の喪失感はその周囲との関係に結びついているのではないだろうか。つまり、子どもが周囲から認められない、受け入れられない存在であると感じるとき、それはいわば社会的な生命を失ったという感覚なのであろう。そして支援者が子どもを自然に受け入れる態度が、子どもの生命にいぶきを与えてくれるように保護者には感じられるといえる。


これは心がホッとするようなエピソードですが、一方で津久井やまゆり園事件において、いまだに被害者が匿名でしか報道されないという事実があります。

加害者の行為や主張はとうてい許されるものではありませんが、いまだに社会の中にも「障害のある子どもの誕生と生存を社会から否定されている」の風潮があることを被害者の家族が気遣っているためでしょう。障害への理解は徐々に進んできているとはいえ、まだまだ課題は多いといえると思います。


そしてまた、一見受容できているように見える保護者の中にも、先に述べたような慢性的悲哀による葛藤が隠されていることを、支援する側は忘れてはいけないと注意されています。
これは、著者の中田先生が、1995年ですから、もう20年以上も前に考えられた障害の認識の「螺旋形モデル」によりわかりやすく説明されています。


以上のような考えのもとに、保護者の障害の認識を両面の色の違うリボンを巻き取って縮めたり螺旋に伸ばしたりしたときの状態に例えてみた。リボンの表が白で裏が黒だとし、白は障害を認める気持ちを表し、黒は障害を否定する気持ちを表すとする。リボンを巻き取ってそれを外側から見ると、表の白、すなわち障害を認めている状態しか見えない。巻き取られたリボンが何かのきっかけで上下に伸び、表の白と同じように裏の黒すなわち障害を否定する状態が見えると、障害を否定している姿が表れる。


その何かのきっかけの一つが、慢性的悲哀の表面化であり、その時初めて支援者は保護者の内面の障害を否定する気持ちや、障害が治ってほしいという願いに気づくと言われています。


この螺旋形モデルに込められたもう一つの比喩、「螺旋階段を登る人の姿が見え隠れする状態」、段階的モデルのように順序だって障害受容するのではなく、肯定と否定を繰り返し、気持ちが揺れ動きながら、それでも螺旋階段を登るように少しずつ受容に向かう過程は、これまでの会報の巻頭文で代表が書かれている実体験の中でも証明されていると思います。


また、コミュニケーションや社会性の弱さと並び、自閉症の特性の一つとされる想像力の発達の遅れについても、こんな注意を促されています。


本来この年齢の子ども(注:幼児期)は自己否定的になることから発達的に守られている。なぜなら空想の世界で子どもはいつでも万能感を取り戻せるからである。

この時期の子どもの遊びはごっこ遊びが中心となり、子ども向けのテレビドラマやアニメの主人公になりきって空想の世界で思いのままに自由で力強い自分でいられる。そうやって現実の世界での自分の非力さを解消し心の傷つきを癒している。


しかし発達に特異性のある子どもの場合、想像力の発達が遅れるためにごっこ遊びは貧弱なものとなるか、あるいは衝動性のコントロールの発達が遅いためにごっこ遊びの攻撃性は度を越した乱暴となって大人から叱られる原因となる。

いずれにしても彼らの場合、ごっこ遊びが現実からの逃避や心の癒しとしては機能しない。そのため発達の特異性のある子どもは、幼児期から自己否定的になっている可能性がある。

子どもたちが自己否定的になることを防ぐために、わたしたちは彼らに早くから自信を与え、「生きていてもいい」という感覚がもてるように、具体的な支援を提供しなければならない。それは子どもの心の成長を支えるうえで重要な課題である。


これなどは、あまり深くは気が付かなかった特性の表れではないでしょうか。確かに、ごっこ遊びはしないと感じることはありましたが、それは特性の一つ・・・と、普通に納得して、それで終わりとしていたように思います。
幼児期から、子どもたちが自己肯定感を持てるよう、意図的に支援を働きかけなければいけないと感じさせられた指摘でした。


それでは、最後に中田先生が指導されているペアレント・トレーニングにおけるヒントの一つの紹介です。


ほめるとは一般に、「よくやったね」と感心したり、「頑張ろうね」と励ましたり、「ありがとう」と感謝したりすることである。しかしペアレント・トレーニングでは、ほめることを「子どもにできていることを知らせること」、「そのことに保護者が気がついていることを伝えること」と考えている。


たとえば、幼い子どもの着替えをほめるとしよう。一般的には、着替えが終わったときに、「お着替えができてえらかったね」などと伝える。ペアレント・トレーニングでは、子どもが着替え始めたら保護者は側にいて、子どもの様子を観察し、「おズボンはけたね、今度は上着だね」、「ボタンかけするのね。ボタンの穴、見つかったかな」、「見つかったね。うまくボタンが入ったね」と、子どもの行動をことばにして伝える。
この実況中継のようなことばかけは、ボタンかけが今の課題になっている幼児にその努力をあと押しし、その行動を続けさせる。そして親に見守られている感覚と、「できている自分」を自覚する機会を与える。幼い子どもの成長を促すには、「具体的に、タイミングよく、できている行動を伝える」のがよい。
このようにして子どもが自分のできている行動に気づき、子どもが少しずつ努力したり我慢したりしている様子が見えてくると、保護者は親としての喜びを感じる、そして保護者の自信回復が大きく進む。


“ 実況中継のようなことばかけ”に混乱しないタイプの発達障害児の保護者の方には、親の自信回復にもつながるとても適切なアドバイスだと思います。

謙譲が美徳とされる日本で育ったためか、褒めることが苦手なお母さんたちは、何でもいいから褒めようとしますが・・・実際に、ペアレント・トレーニングの講習会でも闇雲に相手の褒める所を探すロールプレイもあったりします・・・肝心なのは、できている行動を具体的に伝えることなのですね。


他にも、本書には「障害と個性」の考え方や、「障害告知」の際に注意すること、「きょうだいへの支援」など、それぞれこれまであたり前、常識と思っていたこととは少し違う、支援者・保護者として知っておきたい視点や具体的支援がたくさん込められています。


最初に書いたように書名は地味ですが、ぜひ一度手に取っていただきたい一冊です。


                 (「育てる会会報 243号 」(2018.7)より)


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目次


序章 保護者支援と家族支援

  1 保護者を支援することから始める
  2 家族の主体性を支援する


第1章 障害受容と障害告知

  1 喪失感からの回復と支援
  2 繰り返される悲哀と克服
  3 螺旋に進む障害の認識と受容
  4 障害告知と発達支援


第2章 発達障害の診断と理解

  1 診断と支援のあり方
  2 スペクトラムとしての発達障害


第3章 現在の発達障害と障害の認識

  1 知的障害を伴わない発達障害の特徴
  2 発達障害における障害と個性


第4章 親子関係と子どもの心の成長

  1 愛着形成の困難さと親子関係
  2 発達の特異性と子どもの心の成長
  3 思春期の自己形成と親子関係のひずみ


第5章 保護者支援とペアレント・トレーニング

  1 子どもを支える保護者を支援するために
  2 ペアレント・トレーニングからのヒント


第6章 本人ときょうだいへの支援

  1 本人の自己理解と障害認識の支援
  2 発達支援のための個別の指導計画
  3 本人への支援のまとめ
  4 きょうだいへの支援


  関連文献

  あとがき


本田 秀夫:著  星和書店  定価:1800円+税 (2017.12)

 

          私のお薦め度:★★★★★

 

「子どもから大人までの 発達障害の臨床経験から」と副題にあるように、著者の本田秀夫先生は児童精神科医として横浜市で発達障害児の早期発見・早期療育とその後のフォローアップを20年以上も続けられ、その後は山梨や長野県で、今度は二次障害が発生した後から診断に訪れた人の臨床にあたられてきました。

つまり、支援を受けながら成長した自閉スペクトラム症者を縦断的に診断に当たられた経験と、あまり支援を受けないで二次障害を起こした人たちを横断的に診断するという臨床経験を積まれてこられた先生です。
 

その本田先生、自閉スペクトラム(AS)と自閉スペクトラム症(ASD)との関係について分類・解説されています。

つまりASの中には、ASとしての特性を持ちながらも社会の中で自分の居場所を作ってそれなりに普通に暮らしている「非障害自閉スペクトラム」の人がたくさんいる一方で、中核的ないわゆる狭義のASD群以外にも、成人期に初めて診断されるような「併存群」と呼ぶべき一群がいると言われています。もちろんその中の一部は、本来のASD群だと言えると思いますが、それ以外の人は「非障害自閉スペクトラム」と同程度のASの特性を持ちながら、二次障害を起こすか起こさないかで区分されるということになります。

 

さあ、ここからが、いかに二次障害を起こさせないで子育てしていくか、という親や支援者の課題に入っていきます。
本田先生は、経験から自閉スペクトラム症の育ち方(育て方)を4つのタイプに分類しておられます。

 

1.特性特異的教育タイプ これは個々の発達特性に応じて必要な課題を適切に与えられて育っているタイプです。本人が興味をもって取り組める手法をちゃんと与えられています。そして、少しの努力で短期間に達成可能な目標を設定してもらい、それをクリアすることによって達成感を得るということをこまめに繰り返しています。また、他の人に気軽に相談できる環境も提供されています。
このような特性特異的教育タイプの環境で育った人は、真面目で安定した性格になりますし、得意領域がきちんと伸びます。

 

2.放任タイプ 放任タイプは、発達特性に対する理解が全く得られないという環境です。通常良しとされる子育て・教育環境は、自閉スペクトラムの子にとって、必ずしも恵まれた環境とは言えません。一般の子どもにはそれでよくても、変異である自閉スペクトラムの子には、それは適切ではないということがあるわけです。
このような放任タイプの環境で育った人は、不安が強く、他の人への猜疑心が強くなります。情緒不安定で、他罰的、攻撃的になります。さまざまな精神症状が併発しやすくなりますし、将来について無関心で、見通しが持てなくなります。

 

3.過剰訓練タイプ 過剰訓練タイプは、発達特性があるということに、親をはじめとした周りの人たちが気づいているにもかかわらず、その存在を否定して、本人が苦手なことを克服させるために過重な課題を与え続けるという環境です。逆に、本人が好きなことや得意なことはあまり認めません。
このような過剰訓練タイプの環境で育った人というのは、大人になるとストレスがかかることをことさらに避けるようになりますし、無気力、無関心になります。

 

4.自主性過尊重タイプ これは、支援者が本人のストレスを軽減することだけを重視するという環境です。自閉スペクトラムの子は得意な能力もあったりしますので、得意な能力を伸ばそうという発想があるのはいいことなのですが、苦手なことは一切やらないでいるとこのタイプになります。
このような自主性過尊重タイプの環境で育った人は、好きなこと以外はまったくやりません。仕事も「やってやる」という傲慢な態度が身についてしまいます。

 

みなさん、いかがでしょう。二次障害を防ぐためには、特性特異的教育タイプが良いことは当然お分かりのことと思いますが、ともすれば過剰訓練タイプになってしまったり、本人の選択だけを優先した自主性過尊重タイプに流されそうになってしまうこともあるかもしれません。すべてに「~~タイプの環境で育った人は・・・」とあるように、どのような環境を作るのかは周りの大人たちの役割ですね。


また、マスコミを騒がす事件の背景には、放任タイプの環境で、小さい頃から適切な支援を受けられなくて二次障害を発生させてしまった親や支援者の責任であるようにも思えます。

それを防ぐには、やはり本田先生が横浜で実践してきたような早期発見・早期療育が欠かせないと思います。

でも、その早期発見にはリスクがあることも述べられています。

 

自閉スペクトラム症は、何といっても早期発見が極めて大切です。その意義としては、家族に適切な目標設定ができれば、本人のメンタルヘルスを守りつつ、社会参加を促せるということが挙げられます。それによって、家族のメンタルヘルスも守られることになります。
一方、リスクとしては、家族が早くに子どもの問題に気づくことによって、もし過剰な訓練を助長するようなことがあると、本人に二次的な精神的変調を誘発する恐れがあります。また、それによって、家族のメンタルヘルス自身も悪化する恐れがあります。
したがって、早期発見をするときには、どのような方針で早期発見を行って、家族に支援をしていくかという方向づけが非常に重要になってきます。

 

つまり、早期発見は、それ単独ではリスクがあるため、その告知は適切な早期療育、そして家族支援があることを前提と
したものでなくてはいけないということですね。
私たちの会でも、そのために特性に応じた早期療育の場を作り、都合で療育に通えない方のためには親の会として、同じ仲間の会として支えていきたいと思っています。

 

他にも、本書では、先生の長年の経験からの「こだわり」保存の法則や、感情の特徴、記憶の特徴など、興味深い知見がたくさんあります。


例えば感情の特徴

感情の特徴として、予定調和をこよなく愛するということがあります。これは当然、こだわるということの裏返しになります。自分の中で決めていた予定がその通りに進むということに最も満足を覚えます。反面、想定外の事態によって感情が激しく揺さぶられます。

 

これなど、みなさん頷くことが多いのではないでしょうか。

 

最後に、余談になるかもしれませんが、私の全く知らなかった自閉スペクトラム症という用語について・・・


スペクトラムという言葉は、「連続的/離散的を問わず、多様に見えるものの、同じ仲間とみなせる集合体」という意味になります。
もともとの科学の用語のスペクトラムというのは、光の分光のように、ひとつのものに見えるものの中に、よく見るとさまざまな成分が含まれているという概念です。これを連続体と訳す人がいます。しかし、スペクトラムという概念そのものの中には、離散(非連続)スペクトラムという概念も存在します。
ですから、「さまざまな要素が入っているが、基本的に同じ仲間と見なせるグループ」というのが、スペクトラムの本来の意味になります。


私も当たり前のように「スペクトラム=連続体」と訳して使っていました。ただ、一般の人には連続体と言った方が分かってもらいやすい面もあるので、これからは本来の意味も理解したうえで、使い分けしていこうと思います (^_^;)

 

 また、講義のDVDも付録でついていますので、活字がちょっと苦手という方にもお勧めの一冊となっています。

このDVD、本書の内容をほぼその通りに解説していただいています。そのため、時間も4時間以上という長丁場ですが、本書をレジュメとして使えるので、実際の講演を聴いているような臨場感・・・途中、言い間違えた訂正などもそのまま入っていますのので、思わずクスッとするようなDVDに仕上がっています。

の付録のDVDだけでも、十分コストパフォーマンスに値する一冊だと思います (^^♪

 

            (「育てる会会報 242号」 2018.6)

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目次

 

  まえがき

 

第1章 自閉スペクトラム症とは?

 

    自閉スペクトラム症
    DSM-5の診断基準
    「臨機応変な対人関係が苦手」
    Aくん:3歳の男の子
    Bくん:6歳の男の子
    Cさん:小学4年生の女の子
    Dくん:小学4年生の男の子
    Eさん:中学1年生の女の子
    Fさん:大学4年生の男性
    Gさん:社会人1年生の男性
    Hさん:中年男性
    こだわりが強い
    こだわりの対象
    I さん:20歳代の男性
    絶対に興味を持たないこと
    「こだわり」保存の法則
    認知が発達すると「こだわり」も発達する
    知的な遅れのない子どものこだわり
    Jさん:18歳男性
    感覚の特徴
    感情の特徴
    苦手な認知機能
    記憶の特徴

 

第2章 自閉症から自閉スペクトラム症へ

 

    「自閉」という言葉の由来
    レオ・カナーによる子どもにおける「自閉」の報告
    カナーの功績
    自閉症の再定義と概念拡大
    対人的相互反応の異常:3つのタイプ
    アスペルガー症候群
    自閉スペクトラム(Autism Spectrum)
    精神医学で用いられる国際的診断基準
    国際的診断分類における「自閉症」の扱いの比較
    広汎性発達障害
    「自閉性障害」の診断基準
    自閉スペクトラム症
    自閉スペクトラム症:ポイント
    「スペクトラム」とは
    自閉スペクトラムと類型分類するとき
    自閉スペクトラム症と臨床診断するとき
    有病率の「増加」
    はじめての疫学調査と「神話」の形成
    自閉症に関する二重の概念拡大
    自閉症の診断基準と有病率との関係
    わが国のデータ
    自閉スペクトラム症と発達特性
    ADHDと自閉スペクトラム症との関係
    自閉症の特性の一部は、他の発達障害の併存で目立ちにくくなる

 

第3章 社会生活で問題になること

 

    発達の「異常」とは?
    「やらない」異常
    「やる」異常
    目に見えない異常
    どんな異常が気になる?

 

第4章 自閉スペクトラム特有の感じ方、考え方

 

    Kさん:5歳の女の子
    小学校の「算数」って難しい
    外来診察室にて
    休みの日に
    「みんな一緒」のほうが絶対に楽しいのか?
    症状の軽さと社会適応の良さとは必ずしも比例しない
    Lさん:小学6年生の女の子

 

第5章 自閉スペクトラムの人にみられやすい「二次障害」

 

    自閉スペクトラムの人に併存しやすい精神障害
    自閉スペクトラムの特性があると、環境による精神的変調をきたしやすい
    環境による精神的変調の鍵概念
    身体症状
    うつ
    こだわりの変化
    不安、恐怖
    強迫観念、強迫行為
    逆説的高望み
    PTSD様症状
    自閉スペクトラムの人に特有なフラッシュバックの様式
    いじめ被害
    不登校
    ひきこもり
    他者への攻撃性、暴力
    Mくん:小学4年生の男の子
    解離
    二次障害を生じやすい環境

 

第6章 生来性の「変異」として理解できる自閉スペクトラム

 

    高機能自閉スペクトラムに至る幼児期からの4つの道筋
    自閉スペクトラム特有の症状と経過の研究の必要性
    今後の精神医学的課題
    Nさん(男性):3歳0カ月のとき
    Nさん:12歳のとき
    Nさん:20歳代半ば
    Oさん:20歳代の女性
    非障害自閉スペクトラム
    乳幼児期の対人・コミュニケーション
    Pさん:5歳の女の子
    発達に伴う変化:対人・コミュニケーション
    過剰なストレスやトラウマを回避できた自閉スペクトラムの成人期の対人・コミュニケーション
    自閉スペクトラムの人の発達の縦断的な変化
    特性特異的教育タイプ
    放任タイプ
    過剰訓練タイプ
    自主性過尊重タイプ

 

第7章 支援の考え方:幼児期~思春期

 

    無理な要求が二次障害を引き起こす
    発達障害の人たちへの支援における最重要課題は、二次障害への対応
    発達障害の人たちへの療育 ― 葛藤の構造 ―
    発達心理学の進歩が招いた混乱
    近年の発達心理学からわかってきたこと
    みにくいアヒルの子
    発達の最近接領域(ヴィゴツキー)
    5歳で挨拶ができないと問題か?
    教育界にしばしばみられる「幻想」
    ある小学校の『入学のしおり』から
    支援の専門性とは?
    発達リハビリテーション
    物心つく前の特訓は
    成長の鍵は、思春期にあり
    思春期よりも前に取り組みたいこと
    保護的に構造化された環境
    課題は、多くてもひとつ。優先順位を考える
    完璧を目指さない
    興味がないと全くやる気がおきない
    無駄な失敗の予防
    Qさん:3歳の女の子
    社会参加可能性を測る目安
    自律スキルとソーシャルスキルの両立の鍵は「合意」
    構造化は合意のはじまり
    幼児期や中~重度知的障害を伴う場合
    街で見かける視覚的構造化の例
    軽度知的障害~高機能例の学童期
    成人期こそ、視覚的構造化が最も必要
    自閉スペクトラムの人にとって自律とは?
    家庭:それは最小単位の社会
    幼稚園・保育所:それは同世代との集団生活のはじまり
    褒めるときはメリハリをつけて
    褒めることは一貫性が必要
    自閉スペクトラムの幼児へのソーシャルスキルの教え方:やるべきこと、やってはいけないこと
    駄々っ子に耳を傾けて
    自律を育てるために
    意欲を育てるコツ
    バーチャルづくしの生活に、未来はない
    ゲームにはまりやすい子どもに対する方針
    思春期以降は、「試行錯誤する本人、それを支える家族」
    思春期以降の支援方針
    試行錯誤とは?
    どっちの後悔のほうがつらい?
    試行錯誤の良否は、失敗したときにわかる
    気をつけたいパターン
    試行錯誤:定期的に方針の見直しを
    親の「子離れ」と「黒子への転身」
    成人期の社会適応を予測する因子


第8章 こだわりへの対応

    対応すべきこだわり
    放っておいてよいこだわり
    こだわりへの対応:ドラマチック編
    こだわりへの対応:賢明編
    こだわりへの対応:無難編
    こだわりに対する「マーフィーの法則」
    こだわりは、本来「価値中立的」
    「こだわり保存の法則」に活路あり!
    こだわりの活用例
    興味の特徴への配慮
    パニックへの対応
    パニック:はじめの数回は
    パニック:繰り返すうちに
    学習効果でパニックは悪化する!
    パニックが増える要因

 

第9章 早期発見と家族の支援

 

    早期発見の意義とリスク
    早期発見・早期支援の意義
    1歳半健診を起点とした育児支援活動の例(横浜市の場合)
    抽出・絞り込みは「育児支援活動」の一環で
    自閉スペクトラム症の人は、学んだことを汎化させるのが難しい
    親は、子育てに苦悩する存在でもある
    親のジレンマ
    親の心理:気づきの時期
    家族支援のスタートは、早いほどよい
    家族支援のスタート
    早期に診断告知された親
    通院していても告知されていない親
    医師に「大丈夫」と言われると
    家族への診断告知:伝えるべきこと
    発達障害かもしれない、と思ったとき
    期限を区切ったフォローアップ
    発達障害専門機関の家族支援プログラムの例
    ピア・カウンセリング
    メンタリング

 

第10章 集団生活における配慮

 

    集団生活で見られる問題
    集団管理の発想と個別性への配慮
    インクルージョンとは?
    インクルージョンに関するよくある誤解
    インクルージョンの理念と教育
    「合理的配慮」
    集団化と個別の配慮の両立は難しい
    わが国の特別支援教育が抱える価値構造
    医療とわが国の学校教育の比較
    教育における障害への配慮の分類
    無配慮の例
    低負荷型配慮の例
    特異的治療型配慮の例
    発達障害の子どもへの配慮は?
    発達障害の子どもへの低負荷型配慮
    発達障害の子どもへの特異的治療型配慮
    「無理しなくていい」と言われたら?
    特別な配慮、理想的には?
    コミュニティケア促進の新たなキーワード

 

第11章 支援の考え方:青年期~成人期

 

    青年期~成人期:支援の基本
    自閉スペクトラム特性に合わせた環境調整
    自閉スペクトラムの人たちと接する際のコツ
    高校・大学進学で陥りやすい「幻想」
    進路選択の目安
    Rさん:高校2年生の男性
    本人の相談意欲形成の第一歩
    成人期の自閉スペクトラムの人たちへの支援:接し方のポイント

 

第12章 「二次障害」が出てしまったら

 

    Sさん:大学3年生の男性
    「症状」はバロメーターにすぎない
    まずは休養と相談
    薬物療法
    対策:ふたつの道
    ストレスによる精神的変調への対応
    「学校に行きたくない」・・・・・・どうしよう?
    登校しぶり:視点のずれ
    不登校になってしまったら? ― やってはいけないこと ―
    不登校になってしまったら? ― やっておきたいこと ―
    「うつ」のある自閉スペクトラムの人への接し方

 

第13章 就労・職業生活の支援

 

    就労支援を要する発達障害の人
    T さん:大学4年生の男性
    Uさん:大学4年生の女性
    Vさん:大学4年生の男性
    わが国の教育システムの問題点
    高学歴社会の闇
    発達障害のある高校生・大学生の困難さ
    課題は、多くてもひとつ
    社会参加可能性を測る目安
    発達障害者の就労に特有の問題
    会社は学校とは違う
    社風と特性とのマッチング
    市場原理の導入
    発達障害者の就労を促進するには
    「お互いさま」の風土づくり
    啓発
    大義名分探し
    障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス
    支援つき試行錯誤
    発達障害者の就労・職業生活支援
    後悔しない人生とは
    支援者の役割

 

  あとがき

 

  付録DVD「自閉スペクトラム症の理解と支援 ― 子どもから大人まで ―

山根 ひろ子:著  本の種出版 定価:2200円 + 税 (2018.4)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

 

毎月の会報の「私のお薦め本コーナー」に続く「近隣の講演会等のご案内」に興味を持って見ていただいている方は、よく
ご存知のことと思います。神戸で5回連続の「自閉症学習会」を上期・下期と年2回に分けて長年続けていただいている山根弘子先生の著書です。

 

“ 支援教室「ほっと」の実践録 ”と副題にあるように、山根先生が知的障害の養護学校を定年退職されてから、ASD(自閉スペクトラム症)児のための、支援教室「ほっと」(灘の「のびやかスペースあーち」と、須磨の「すまいるほっと」)で療育にあたられます。

 

退職後の人生を、ASDの子どもたちのために捧げたいと思ったのは、養護学校で出会った子どもたちの魅力に取りつかれたからですが、一方で、力及ばず守ってあげられなかった生徒たちへの、罪滅ぼしの気持ちもわずかながらあったのです。

 

それは、当時の養護学校(現在の特別支援学校)で行われていた“教育”がASDの特性に全く配慮されない、旧態依然とした体制だったためでしょう。

 

また、学習発表会が近づいた頃のことです。

主役に選ばれたEさんが舞台での練習をいやがっていました。3人の担任のうちの一人が無理やり練習に連れ出そうとしたところ、彼女はトイレに逃げ込み、中から鍵をかけて籠城してしまいました。すると、その担任はホースでドアの下から放水し、トイレから引きずり出したのです。足を靴ごとびしょ濡れにされて泣きながら出てきたというのです。体罰以外の何ものでもありません。

私はそれをあとから聞き、当該担任に抗議しましたが、「担任以外が口をはさまないで!」と聞き入れませんでっした。そんなひどい虐待がトラウマとなって、高等部に進んだのち、Eさんはとうとう不登校になってしまいました。この責任は誰がとるのでしょうか。

 

親以外にも、子どもたちの味方になって怒ってくれる先生がいてくださったことは救いですが、本当に責任は誰がとるのでしょうか・・・そんな慙愧たる思いを抱いたまま退職された山根先生、“自由の身になって”始められた「ほっと」での療育は、当然ながら一人ひとりの子どもたちの特性に配慮して、子どもたちや親の想いに寄り添ったものでした。


参考にしたと言われる理念や理論は、TEACCHを理念の柱として、PECSやソーシャルストーリー、コミック会話、英国自閉症協会でのSPELLなど、今私たちがぐんぐんでの療育にとりいれているものとほぼ同じようなものだったそうです。岡山でぐんぐんを始める10年以上も前から、神戸の地ではASD児たちのための実践が始まっていたのですね。

 

なかでも、本文の事例でもたくさん紹介されている「わかるストーリー」は、ソーシャルストーリーを基本にして、目の前の子どもの困っていることに合わせて、本人が理解できるようなことばで工夫されて作られ、参考になることが多いです。
例えば、2つ年下の妹の泣く声が苦手で、「うるさい!」とどなったり、叩いたりしてしまう直哉くんに作られた「わかるストーリー」です。

 

○ 小さい子はなぜ泣くの?
あやちゃんは、2さいの かわいい いもうとです。ぼくは ときどき ほんを よんであげたり、いっしょに あそんであげたり することがあります。そんなとき あやちゃんは うれしそうに しています。
でも、2さいぐらいの ちいさい こどもは ねむたくなると きげんが わるくなって、ないたりするものです。
ぼくは 4さいだから、ねむたくても がまんします。だれでも おおきくなると なかなくなるものです。だから ぼくは あやちゃんが おおきくなるまでは ないても、おこらずに がまんしようと おもいます。

 

これを読むと、怒ることが少なくなりました。そして、本を読んでやったり、・・(中略)・・優しい態度を見せたり、いっしょにままごとをして遊んだりするようになりました。肯定的なアプローチによって、驚くほど素直に納得してくれるのをお母さんは実感しました。

 

こんな風に、文字に書いたり、絵で伝えるなど、視覚的に優位な特性に配慮すれば、それこそ“魔法のように”改善することも多い子どもたちです。

でも、それゆえ学校などでは、子どもたちを動かすカード、指示するツールとして使おうとしてしまうことも多いようです。

 

まだ時計がわからない段階では、とりあえず、視覚的にわかりやすいタイムタイマーなどを使って、「ピピッ」と鳴ったら終わりであることを教えたらどうでしょう、とも言いました。すると、「タイマーも使ってみたけど効果がありません。運動場で遊んでいるとき、タイマーが鳴っても彼は遊びを終わらせることができませんでしたから」とのこと。
どうやら、先生はタイマーを純の行動を規制するために使おうとしていたようでした。タイマーを使うとしたら、タイマーが鳴ったら授業が終わって、休憩時間になることから始めてほしいのです。楽しみな活動の開始時間を知るという、本人にとって知りたい情報を伝えるツールとして、まずは使ってもらうとよかったのに。

同じようにタイマーを使っても、使う目的や、支援者のスタンスによって、その意味が変わってくるのです。支援者は常にASDの子どもの視点で、どんな支援をすれば納得できるか、安心して楽に過ごせるかを、考え続けなくてはと思います。

 

さすがに、学校においては、子どもたちへの虐待と思われるような指導は減ってきたと信じたいですが、まだまだ視覚支援や構造化など、間違って便利な道具として使おうとすることもあるようですね。

 

それはさておき、他にも、「役立ちアイテム」として手順書や支援ツール、SST線画など、いろいろ紹介されていますので、アイデアやヒントがもらえる1冊だと言えるでしょう。


山根先生は理論家や研究職ではなく、元教師の方ですから、本書も体系的に理論を組み立てていくのではなく、登場する子どもたち、一人ひとりに合った方法を工夫して実践されています。その意味では、我が子と向き合って子育てしているお母さんには役立つことが多い本だと言えるでしょう。

もちろん、相手は手強い(?)ASD児たちですので、全てがすんなり行くわけではなく、一つ解決したら別の問題がでてきたり、うまくいっていると思っていたら、いつのまにか元に戻っていたり・・・と、試行錯誤しながらの日々が続きます。
それでも、適切に対応していけば、らせん階段を登るように子どもたちは必ず成長していきます、そんな希望が感じられる一冊となっています。

 

残念ながら、一緒に支援教室を支えられてきたご主人が病気になられ、2014年には支援教室を閉じられたそうです。善意のボランティアの方たちの協力により運営される活動では、やはり中心になる方が抜けられると、どんなに有意義な活動であっても継続が難しくなるということなのでしょうか。私たちも、ぐんぐんの療育がずっと続いていくよう法人としての運営を次の方たちにしっかりと引き継いでいかなければいけませんね。

 

そんな山根先生、現在は「児童発達支援センター六甲ふくろうの家」で個別療育教室を担当されるかたわら、各地で講演活動をされていらっしゃいます。
今月号の「近隣の講演会等のご案内」の中にも6月に行われる山根先生の勉強会の案内がありますので、本書を読まれて興味をもたれた方は、ぜひ一度足をお運びください。

 

            (「育てる会会報 241号」 2018.5より)

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目次

 

  はじめに

 

  序章1 私とASD、そして療育
  序章2 支援教室「ほっと」へようこそ!

 

    コラム 「ほっと」が参考にした理念・理論
          TEACCH
          NAS など

 

本章 かがやけ! ASDキッズ

 

  1. 直哉 ○ 利発な「困ったチャン」 
  2. 翔真 ○ 「英語なら任せて!」
  3. 舞   ○ ママはサポートの達人
  4. 賢太郎 ○ 姿勢はなおるときがくる!
  5. 道夫 ○ マイルールに縛られるつらさ
  6. 高司 ○ キャンプで目覚めた楽しみ
  7. 英治 ○ 「一番でなきゃイヤだ!」
  8. 雄太 ○ 通り過ぎない嵐はない!
  9. 絵里 ○ 「読んでガッテン!」
  10. 涼太 ○ この世は不安でいっぱい!
  11. 雅彦 ○ あまのじゃくにはわけがある!
  12. 千尋 ○ ファンタジーの世界に遊ぶ
  13. 純  ○ 練習は苦手でも、本番はバッチリ!
  14. 吉紀 ○ スケジュールは命綱
  15. 大輔・伸二 ○ おばあちゃんのグッジョブ!

 

    コラム 療育の視点
      「わかるストーリー」の書き方
      気持ちの5段階表
      ハグの効果
      スケジュールとごほうび ①
      スケジュールとごほうび ②
      自立への準備は幼少期から
      サポートブック
      ルールのあるゲーム
      ごほうび・トークン
      「ごほうびのフェードアウト」で思い出すこと
      カームダウンエリア
      抽象的な言葉は理解しにくい
      擬態語・擬音語の効果
      ASDと時系列の混乱
      時計と文字
      エコラリア
      子どもハーネス
      視覚的コミュニケーション 

 

  付録 「ほっと」のオリジナル教材

  おわりに

  参考文献

藤原 美保:著  健康ジャーナル社 定価:1500円+税 (2018.3)

 

          私のお薦め度:★★★☆☆

 

育てる会では、日々電話相談を行っていて、そちらの方はお母さんからの相談が多いため、同じ母親のペアレントメンターが電話を受けることが多いのですが、それ以外にもこの年になると私も相談を受けることがあります。
しかし、私はもともとただの父親ですので、自分の子育てについては話せても、経験したことのないことについては、どう答えてあげればいいのか戸惑ってしまいます。その最たるものが女の子のお母さんからの相談です。


「学校の成績や学習指導よりも前に、教えておきたい「大切なこと」がここにあります。発達障害の女の子たちは「性の被害者」になりがちです。残念なことに、法律は彼女たちを守ってくれません。彼女たちを守るために必要な知識やルールをわかりやすくまとめました。ご家族の幸せのために、ぜひご活用ください」と帯にある本です。
「彼女たちを守るために必要な知識やルール」に疎い者ですので、私もぜひ知っておきたいと本書を手にとりました。

 

作者の藤原 美保氏は、エアロビクスやヨガなどのフィットネスのインストラクターとして、発達障害のお子さんの運動指導に関わったあと、名古屋で女の子向けのレッスンを提供する放課後等デイサービスを立ちあげたという、ちょっと変わった経歴の持ち主です。

福祉の専門家ではなく、また保護者でもない、株式会社スプレンドーレの代表の方ですから、これまでの発達障害や育児の専門書とは少々違った視点からのアドバイスとなっています。

 

「友だちとうまくコミュニケーションが取れるようになってほしい」と、保護者は必ずいいます。しかし、それができないのが発達障害です。残念ながら、「全盲の人に見えるようになってほしい」というのと同じぐらいの無理難題だと思います。
そもそも「友だち」ってなんでしょう。友だちとは、「同等の相手として交遊できる人」のことといってよいかと思います。
社会では、ある程度の基本的なルールをもとにした共通認識があって、それに準じることによって「同等」という概念が生まれます。ということは、共通のルールの下で活動できない場合には「同等」にはならないということです。
つまり、「共通意識が育っていないと友だちという関係は成り立たない」のです。

 

それでも、「発達障害の子ども同士なら友だちとして適当ではないか」と思われるかもしれません。しかし、そもそもコミュニケーションが難しい子どもたちです。女の子の数も少ないし、ほとんど難しいと考えていいでしょう。
「わが子のことを理解してくれる優しい友だちがほしい」と保護者の皆さんは考えます。それと同時に、「うちの子は障害があるから少し大目に見てほしい」とも思っているはずです。そう思っているのは、じつは自分だけではありません。発達障害を持つ子どもの親すべてがそう思っているのです。
では、「ほかの子を理解してあげよう、大目に見てあげよう」と思って支援級や支援学校に入ってくる人がいるでしょうか。おそらくいないはずです。つまり、みんなが「してほしい人」なんです。

 

かなり辛口なコメントですが、「それはそうだ」と納得もさせられる意見ではないでしょうか。

障害児の子育てをしていると、どうしても障害を理由とした“甘え”の気持ちがでてしまうこともありますね。反省です。
育てる会では、女の子のグループ「クローバーの会」や、男の子の友達作りの会「はやぶさの会」があります。

佐賀には有名な「アインシュタインクラブ」があります。それらがうまくいっているのは、親たちや支援者が子どもたちとうまく関わり、少なくとも小さい頃には仲介役としてコミュニケーションの交通整理をしているおかげなのでしょう。
確かに学校や療育機関で、「自然に」友だちができるのを期待するのは無理がありそうです。

 

発達障害の子育ては大変です。共働きの家庭では両親ともに忙しいため、わが子を預けたくなる気持ちも理解できます。しかし、子育ては外注できても、子育ての責任は外注できません。子どもの責任は親がとるしかないのです。
保育園、学校、放課後等デイサービスなどは18歳まで利用できます。
しかし、それ以降は預け先がなくなるので、就労できなければ家にひきこもることもあります。そのときに対応するのは家族です。
また他害がひどい場合、その矛先が家族に向けられることも少なくありません。18歳以降になると、児童相談所や保健所などの行政機関は条件が整わないとなかなか対応してくれませんし、精神科病院などの医療機関へ相談しても、入院を断られるケースがあるということも知っておきましょう。

「幼いから仕方がない」などと問題を先送りにするのではなく、早い段階で相談機関と連携を取りながら対応を学んでおくことが必要です。

 

これなどは、放課後等デイサービスを利用している保護者の立場ではなく、それを運営している側からの気遣いでしょう。
親は子どものことを一番理解し、幸せを願っているのは間違いないのですが、それゆえ目の前のわが子のことだけで精いっぱいになって、客観的に将来を見通した対応ができにくいこともあると思います。
少々辛口であっても、それをはっきりと伝えていくことも支援者としての役割の一つなんでしょうね。
「子育ては外注できても、子育ての責任は外注できません」 逆に言うと、責任が取れないからこそ、保護者の方に幼い頃からしっかり子育てについて学んでほしいという、支援者側からの切実な思いなのでしょう。

 

また、他にも、ちょっと変わった経歴の藤原氏ならではの見方がたくさんある本で、読んでいて新鮮でした。

 

発達障害の子を育てるにあたり、その保護者や支援者に対してよくいわれるのが、「ほかの子と比べないで」という言葉です。
それは確かにその通りではあるのですが、発達障害の診断というのは、そもそも「ほかの子との比較」(一定の閾値における基準)によってなされるものですから、比較するなといわれることに矛盾を感じます。

 

「そのままでいいんだよ」 ― なんて慈愛に満ちた言葉でしょう。でも私はこの言葉を聞くと、「なんて無責任なのだろう」と、少々悲しい気持ちになるのです。「そのまま」でよいのはその子の存在だけであって、行動は変えてゆく必要があるからです。
社会生活を営む上で、問題行動は(将来的には法に触れる可能性がある行動も含めて)変えていかなければいけません。発達障害の子は、イメージすることやコミュニケーションが苦手です。ごく自然にさまざまな常識を身につけていくことが困難なので、きちんと手を貸してあげることが必要です。

 

などなど、ここまでは、男の子、女の子に関係なく、発達障害児の子育てへのアドバイスが続きます。
そして、いよいよ「第5章 女の子に必要な「学び」」に入っていきます。
振り返ってみると、ここまでに「47のルール」のうち、もう半分以上の29まで使われていましたね (^_^.) 


ちなみに、通常この種の本では節の最初にルールが提示されて、その後に内容を解説していくという技法をとるのが一般的ですが、本書では節の終わりにそれまで述べた内容を要約して、「ルール」として挙げています。

確かにこの書き方の方が、ルールとして納得できやすくなっていると思います。さて、その女の子に必要な学びです。

 

性産業には発達障害や軽度知的障害の女性が多い、ということが、最近のニュースやネット情報からわかってきました。それは、彼女たちが十分な性教育をうけていないという現実とイメージ力の弱さから、性産業にはどんなリスクがあるかを判断できないからだと考えます。

 

知的レベルの高い女の子の中にも、「別に減るもんじゃないし」とか「自分の身体なのだから」と、リスクに対して判断ができないことと自己評価の低さも手伝い、思春期以降に自分の心と身体を傷つける行為を平気で行う子がいるというのが現状です。
女性の場合、誰とでもセックスすることは「自傷行為」として考える必要があると思っています。
人としての尊厳を失うケースも少なくなく、自傷行為としては命の危険をともなうものになります。

また、自分の社会的信用や評価を下げてしまうだけでなく、知らず知らずのうちに精神を病み、社会復帰できなくなる子も多くいます。女性が「性の尊厳」を失うことは命に関わるのです。
  【 ルール35 大人への相談は大切なサバイバル・スキル 】より

 

やはり、男の子の、まして父親にとっては手をだしにくい、アドバイスの難しいセンシティブで深刻な問題ですね。

 

本書でもこのルール35の最後には、こうまとめられています。

 

こうしたディスカッションを何度も重ねた結果、重大事になるかもしれなかったことを未然に防ぐことができました。
大人の判断を求めることは、彼女たちにとっての一種の「サバイバル・スキル」です。性の相談は友だちや同世代ではなく、同性の信頼できる大人に相談するのだということを常々教え、練習を重ねてきたことが役に立ったというひとつの例です。 

 

このお薦め本コーナー、いつもはみなさんにお薦めしているのですが、今回は特に「女の子」をもつ、「同性」のお母さんや支援者の方に、一度は読んでおいていただきたいとお薦めしたい一冊でした。

 

         (「育てる会会報 240号」 2018.4 より)

 

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目次

 

  はじめに

 

第1章 ◎ 診断は支援のための第一歩 - 医療機関・専門家との付き合い方

 

  発達障害にとっての診断とは
  子どもの「感覚」を把握することが大切
  医療機関を上手に活用するには
  問題は多面的に捉えるようにする
  子どもと一緒に相談に行ったときに気をつけること
   「ちょっとゆっくりなお子さんです」の本当の意味
  IQはすべてをあらわす数値ではありません 
  専門家、誰に何を聞いたらいいの?
  「受け入れて」の意味

 

第2章 ◎ 親の行動もわが子の未来を左右する ― 親としての心構え

 

  問題行動は「しつけ」が原因?
  うちの子の本当の姿はどれ?
  褒めるのも叱るのもどちらも大事
  怒りの感情をどうやって理解させるか
   ● コラム「様子をみましょう」や「大丈夫」の真意
  子どもがネットを利用するときの注意点
  誰もが手探り、不安になるのは当然のこと
  覚悟するのは「死」ではなく「生きること」

 

第3章 ◎ 社会から愛されるために必要なこと ― 日常生活での支援と療育

 

  問題行動の芽は早いうちにつむ
  ○○療法にご用心!
  わが子がパニックを起こしたら
  親のいうことを聞かない子ども、子どもに向き合えない親
  マイナス発言をする子への対応
   ● コラム TPOを教える
  「障害」という言葉について
  発達障害の子の「自己肯定感」について
  人間の成長には「不自由さ」も必要

 

第4章 ◎ 選択肢が多いほどよい学校選び ― 健やかな生活を送るために

 

  学校はどうやって決めたらよいか
   ● コラム 女の子は学ぶことが多い
  子どもの成績に振りまわされないで
  友だちは絶対に必要ですか?
  友だちではなく仲間を作ろう
  うちの子に一番合う教材は何?

 

第5章 ◎ 女の子に必要な「学び」 ― 思春期と性教育

 

  性教育のスタート前に教えておきたいこと
  基本的な生活習慣を整えることから始める
  ルールは何のためにあるのか
   ● コラム スモールステップ
  身だしなみや食事のマナー
   ● コラム 身だしなみが苦手なのはなぜ?
  身体への意識を高めるための工夫
  思春期からでは身につきにくい性教育
  健やかな社会生活を送るために
  性交渉の「同意」は発達障害の女性にとっては不公平
  男の子と女の子の違い
  交際・結婚・出産 ― わが子へのアドバイス
   ● コラム 友だちよりもサポーター
  早めに見つけたい、信頼できる産婦人科

 

第6章 ◎ 療育支援Q&A ― 知ることで深まるわが子への理解と支援

 

  [相談] 何度注意してもやめてくれません
  [相談] スモールステップの方法を知りたい
  [相談] プライドが高くて注意するとパニックになります
   ● コラム 自己中心性
  [相談] 親のいうことをききません
   ● コラム 学校を休むときのルール
  [相談] 新しい場所や新しいことが苦手です
  [相談] なんでもすぐに触りに行きます
  [相談] マイナス行動が身につきやすいのはなぜ
   ● コラム ふざけてばかりいる子

 

  対談 「スペクトラムに生きる時代のこどもたちとともに」

 

  おしまいに

宮尾 益知:監修 (株)ドコモ・プラスハーティ:協力  河出書房新社 定価:1400円 (2018.2)

 

        私のお薦め度:★★★☆☆

 

 

みなさんも「特例子会社」については、名前は聞いたことがあると思います。また、昨年11月には18歳の春を目指すクラブで、ベネッセグループの特例子会社の「ベネッセビジネスメイト」を見学させていただいたので、参加された方は様子もお分かりだと思います(会報235号)。


今、倉敷や福山で障害者の大量解雇で問題となっている就労継続支援A型事業所、その中でも「悪しきA型」と呼ばれている事業所は、「障害者は金になる」と儲けを目的として、いっせいに参入してきた営利企業を認可したためと言われます。では、同じ営利を目的とする親会社が設立・運営する特例子会社には、なぜこんな問題がおこらないのでしょうか?


一つには、親会社が経営規模の大きい、いわゆる大企業といわれる会社で、子会社も安定した経営になっているからでしょう。また、それ以上に障害のある人も安心して働けるようにという社会貢献の経営理念があるからこそのように思えます。もちろん、営利企業ですから、できるだけ利益がでるように、それも「悪しきA型」のように行政からの補助金目当てではないので、いかに働き方を工夫して効率を上げていくかを模索しながらの運営です。

 

さて、それらを踏まえての本書の登場です。「発達障害者の自立・就労を支援する本:ドコモが実践する発達障害者・知的障害者の理解と対応策」と副題がついています。
本書のコミック部分はNTTドコモグループの特例子会社の株式会社ドコモ・プラスハーティの社内で実際に使われているものだそうです。ストーリー仕立てでわかりやすく、時にユーモアを交えて「コミック」として楽しく読めるようになっています。


「職場全体で発達障害の特性を知る」とあるように、職場の方みんなが私たち保護者や支援者が読むような専門書を読んでくれるわけではありません。また、上司や指導員の方が勉強熱心だとしても、会社に異動はつきものです。それまで理解してくれた方が異動になったとたん、会社に行きづらくなったというのもよく聞く話です。職場全員の方に知ってもらうためには、この本のようなコミックが適しているのでしょう。


また、本書はそのコミック以外にも解説として、発達障害の特性に関する簡単な説明や、職場で起こりそうなトラブルやその対応策、社員を成長させる良い「叱り方」や「ほめ方」、逆に混乱させたり、逆効果になる「叱り方」「ほめ方」、また上手な指示の出し方なども、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動性障害)、知的障害などに分けて、イラスト付きで具体的に網羅されています。その意味では、「特例子会社」だけでなく、普通の会社に一般就労されている方、また発達障害を持つ人と一緒に働かれている方にとって、すぐに役立つような一冊だと思います。

 

ASDの社員を成長させる「叱り方」
  □ 注意する前に本人の言い分を聞いて、ミスの原因を一緒に考える姿勢を持つ
  □ 本人に求める仕事のレベルを明確にする
  □ 叱る時は、短く具体的な言葉で叱る
  □ ミスをしたら時間を空けずにその場で注意する
  □ 叱った後は、しっかりフォローする
注意したり叱っても改善が見られない場合は、叱り方を変えて行動の変化を確認します。

 

それにしても、特例子会社の中では、ここまで特性に配慮した運営を行っている会社があるのですね。ドコモ・プラスハーティは、私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトと同じく、グループ企業のビル清掃などを行っているそうです。

 

清掃した部分は検査装置(ルミテスター)で測定し、清掃の品質管理を行っています。清掃後のテーブルなどに残った有機物の数を見るもので、名刺大の範囲を綿棒で拭き取って測定します。まな板なら500程度の数値で問題なしとされるところ、目標値を100未満に設定し、それを実現しているそうです。
「ここまで厳しくするのは、障害者が清掃しているのだから、この程度だろうなどと思われないようにするためです。さらに、品質の高さを数値で示すことができ、自分たちが清掃するオフィスで働く人たちの健康に役立っているのだという意識を障害者の従業員たちに持たせることが重要だと考えているからです」 
それが仕事へのやりがいや誇り、自分への自信につながっていくことを期待していると、岡本担当部長は力を込めて語っています。 (「ドコモ・プラスハーティ 潜入ルポ」より)

 

他にも、昼食後に公文式学習を取り入れたり、身体機能改善のためのヨガも行っているそうです。


「障害が重い人の中には体の動かし方が不器用だったり特徴的な歩き方をする人もいて、作業中の転倒が懸念でした。そのリスクを減らすために、体幹を強化できるヨガを始めました。ヨガには呼吸法も入っており、深く呼吸をすることで体や精神のストレスを発散できる効果もあります。」(同)

 

私たちもヨガではありませんが、自閉症児・者の体の動かし方には気になるところもあり、次回の総会記念セミナーでは理学療法士の藤井直基先生をお招きして、体の使い方について指導していただくことにしています。

思いは同じですね・・・余談でした。

 

こうした努力で、プラスハーティでは雇用を始めた2012年からの5年間で、入社した65名のうち、退職したのは1名だけという高い定着率となっているとのことです。
そんな恵まれた環境の特例子会社ですが、平成29年6月現在で、全国で464社、岡山ではまだ6社だけだそうです(私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトは、親会社は岡山ですが、会社設立は多摩市のため岡山にはカウントされていません)。


まだまだ特例子会社自体で働かれている方の数は少ないため、本書は一般就労されている方や、就労継続支援A型、B型、就労移行支援などの福祉的就労されている現場で、発達障害の方にも役立てていただきたい一冊となっています。

 

             (育てる会会報 239号」 2018.3より)

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発達障害の基礎知識 発達障害の基礎知識
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目次

 

  はじめに

 

第1章 発達障害があっても働ける職場

 

   コミック episode 1 長所を上手に伸ばして働ける会社


     解説編 徐々に増えている発達障害者の雇用
             障害者が働きやすい特例子会社

 

    対談 第1回 発達障害の人たちのために新たな枠組みの職場が求められている
         宮尾 益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
         岡本 孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

 

      ドコモ・プラスハーティ潜入ルポ
         ① 障害者が働くNTTドコモグループの子会社
         ② 障害があってもプロとしての清掃業務をするために
         ③ 障害をサポートするジョブコーチが社内にいる強み
         ④ 長く働いてもらうために勤務時間内に学習時間を設ける

 

第2章 職場全体で発達障害の特性を知る

 

   コミック episode 2 一人ひとりの特性を見極めて “次” へ

 

     解説編 発達障害は主に三つに分類される
           ASD=(自閉症スペクトラム/アスペルガー症候群)の基本的な特性
           ADHD(注意欠如/多動性障害)/LDの基本的な特性

 

       Special colomn 特例子会社社員 英 太郎のひとり言 ①
                             英 太郎のひとり言 ②

 

第3章 職場内のトラブルを防ぐ

 

   コミック episode 3 特性に合わせた指示や注意が社員を伸ばす

 

     解説編 職場での主なトラブル ASD編
           職場での主なトラブル ADHD編
           社員を成長させる「叱り方」、「ほめ方」
           逆効果になってしまう「叱り方」、「ほめ方」

 

    対談 第2回 「うちは、いい会社だよ」といってはいけない 
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

第4章 仕事のトラブルを防ぐ指示の出し方

 

   コミック episode 4 それぞれの特性に合わせて指示の仕方を変える

 

     解説編 上手な指示の出し方 ASD編
           上手な指示の出し方 知的障害者編

 

    対談 第3回 身体のさまざまな領域が伸びる環境作り 
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

第5章 あいまいな表現は、伝わらない

 

   コミック episode 5 知的な遅れがなくても特性がある社員への対応

 

     解説編 特性のある人との会話での注意点

 

第6章 長く勤められるように会社がすべきこと

 

   コミック episode 6 理解のある上司がいれば大丈夫

 

     解説編 特性があっても居心地の良い職場をつくる

 

    対談 第4回 障害者雇用で会社は、より強くなる
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

 付録 特例子会社一覧/東京版
     奥付/参考文献