私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

息子が生まれ、やがて自閉症と診断されてから、はじめはなんとか治す方法はないかとむさぼるように読み、やがてようやく障害を受け容れ、これからは自閉症のままで幸せに生きていく道を探しながら・・・これまで巡りあった本の数々です。


後に続く方が、書店で手に取ってみたときの参考材料の一つにでもなれば、そんな思いで紹介します。著者名での検索は、右のテーマ欄から探してみてください。

書名別検索は『書名順索引』 からどうぞ。


今息子哲平が就労して、安定して暮らしているのも、これらの本からいただいたたくさんのアドバイスのおかげも少なからずあったと思っています。


テーマ:

本田 秀夫:著  星和書店  定価:1800円+税 (2017.12)

 

          私のお薦め度:★★★★★

 

「子どもから大人までの 発達障害の臨床経験から」と副題にあるように、著者の本田秀夫先生は児童精神科医として横浜市で発達障害児の早期発見・早期療育とその後のフォローアップを20年以上も続けられ、その後は山梨や長野県で、今度は二次障害が発生した後から診断に訪れた人の臨床にあたられてきました。

つまり、支援を受けながら成長した自閉スペクトラム症者を縦断的に診断に当たられた経験と、あまり支援を受けないで二次障害を起こした人たちを横断的に診断するという臨床経験を積まれてこられた先生です。
 

その本田先生、自閉スペクトラム(AS)と自閉スペクトラム症(ASD)との関係について分類・解説されています。

つまりASの中には、ASとしての特性を持ちながらも社会の中で自分の居場所を作ってそれなりに普通に暮らしている「非障害自閉スペクトラム」の人がたくさんいる一方で、中核的ないわゆる狭義のASD群以外にも、成人期に初めて診断されるような「併存群」と呼ぶべき一群がいると言われています。もちろんその中の一部は、本来のASD群だと言えると思いますが、それ以外の人は「非障害自閉スペクトラム」と同程度のASの特性を持ちながら、二次障害を起こすか起こさないかで区分されるということになります。

 

さあ、ここからが、いかに二次障害を起こさせないで子育てしていくか、という親や支援者の課題に入っていきます。
本田先生は、経験から自閉スペクトラム症の育ち方(育て方)を4つのタイプに分類しておられます。

 

1.特性特異的教育タイプ これは個々の発達特性に応じて必要な課題を適切に与えられて育っているタイプです。本人が興味をもって取り組める手法をちゃんと与えられています。そして、少しの努力で短期間に達成可能な目標を設定してもらい、それをクリアすることによって達成感を得るということをこまめに繰り返しています。また、他の人に気軽に相談できる環境も提供されています。
このような特性特異的教育タイプの環境で育った人は、真面目で安定した性格になりますし、得意領域がきちんと伸びます。

 

2.放任タイプ 放任タイプは、発達特性に対する理解が全く得られないという環境です。通常良しとされる子育て・教育環境は、自閉スペクトラムの子にとって、必ずしも恵まれた環境とは言えません。一般の子どもにはそれでよくても、変異である自閉スペクトラムの子には、それは適切ではないということがあるわけです。
このような放任タイプの環境で育った人は、不安が強く、他の人への猜疑心が強くなります。情緒不安定で、他罰的、攻撃的になります。さまざまな精神症状が併発しやすくなりますし、将来について無関心で、見通しが持てなくなります。

 

3.過剰訓練タイプ 過剰訓練タイプは、発達特性があるということに、親をはじめとした周りの人たちが気づいているにもかかわらず、その存在を否定して、本人が苦手なことを克服させるために過重な課題を与え続けるという環境です。逆に、本人が好きなことや得意なことはあまり認めません。
このような過剰訓練タイプの環境で育った人というのは、大人になるとストレスがかかることをことさらに避けるようになりますし、無気力、無関心になります。

 

4.自主性過尊重タイプ これは、支援者が本人のストレスを軽減することだけを重視するという環境です。自閉スペクトラムの子は得意な能力もあったりしますので、得意な能力を伸ばそうという発想があるのはいいことなのですが、苦手なことは一切やらないでいるとこのタイプになります。
このような自主性過尊重タイプの環境で育った人は、好きなこと以外はまったくやりません。仕事も「やってやる」という傲慢な態度が身についてしまいます。

 

みなさん、いかがでしょう。二次障害を防ぐためには、特性特異的教育タイプが良いことは当然お分かりのことと思いますが、ともすれば過剰訓練タイプになってしまったり、本人の選択だけを優先した自主性過尊重タイプに流されそうになってしまうこともあるかもしれません。すべてに「~~タイプの環境で育った人は・・・」とあるように、どのような環境を作るのかは周りの大人たちの役割ですね。


また、マスコミを騒がす事件の背景には、放任タイプの環境で、小さい頃から適切な支援を受けられなくて二次障害を発生させてしまった親や支援者の責任であるようにも思えます。

それを防ぐには、やはり本田先生が横浜で実践してきたような早期発見・早期療育が欠かせないと思います。

でも、その早期発見にはリスクがあることも述べられています。

 

自閉スペクトラム症は、何といっても早期発見が極めて大切です。その意義としては、家族に適切な目標設定ができれば、本人のメンタルヘルスを守りつつ、社会参加を促せるということが挙げられます。それによって、家族のメンタルヘルスも守られることになります。
一方、リスクとしては、家族が早くに子どもの問題に気づくことによって、もし過剰な訓練を助長するようなことがあると、本人に二次的な精神的変調を誘発する恐れがあります。また、それによって、家族のメンタルヘルス自身も悪化する恐れがあります。
したがって、早期発見をするときには、どのような方針で早期発見を行って、家族に支援をしていくかという方向づけが非常に重要になってきます。

 

つまり、早期発見は、それ単独ではリスクがあるため、その告知は適切な早期療育、そして家族支援があることを前提と
したものでなくてはいけないということですね。
私たちの会でも、そのために特性に応じた早期療育の場を作り、都合で療育に通えない方のためには親の会として、同じ仲間の会として支えていきたいと思っています。

 

他にも、本書では、先生の長年の経験からの「こだわり」保存の法則や、感情の特徴、記憶の特徴など、興味深い知見がたくさんあります。


例えば感情の特徴

感情の特徴として、予定調和をこよなく愛するということがあります。これは当然、こだわるということの裏返しになります。自分の中で決めていた予定がその通りに進むということに最も満足を覚えます。反面、想定外の事態によって感情が激しく揺さぶられます。

 

これなど、みなさん頷くことが多いのではないでしょうか。

 

最後に、余談になるかもしれませんが、私の全く知らなかった自閉スペクトラム症という用語について・・・


スペクトラムという言葉は、「連続的/離散的を問わず、多様に見えるものの、同じ仲間とみなせる集合体」という意味になります。
もともとの科学の用語のスペクトラムというのは、光の分光のように、ひとつのものに見えるものの中に、よく見るとさまざまな成分が含まれているという概念です。これを連続体と訳す人がいます。しかし、スペクトラムという概念そのものの中には、離散(非連続)スペクトラムという概念も存在します。
ですから、「さまざまな要素が入っているが、基本的に同じ仲間と見なせるグループ」というのが、スペクトラムの本来の意味になります。


私も当たり前のように「スペクトラム=連続体」と訳して使っていました。ただ、一般の人には連続体と言った方が分かってもらいやすい面もあるので、これからは本来の意味も理解したうえで、使い分けしていこうと思います (^_^;)

 

 また、講義のDVDも付録でついていますので、活字がちょっと苦手という方にもお勧めの一冊となっています。

このDVD、本書の内容をほぼその通りに解説していただいています。そのため、時間も4時間以上という長丁場ですが、本書をレジュメとして使えるので、実際の講演を聴いているような臨場感・・・途中、言い間違えた訂正などもそのまま入っていますのので、思わずクスッとするようなDVDに仕上がっています。

の付録のDVDだけでも、十分コストパフォーマンスに値する一冊だと思います (^^♪

 

            (「育てる会会報 242号」 2018.6)

-------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------

目次

 

  まえがき

 

第1章 自閉スペクトラム症とは?

 

    自閉スペクトラム症
    DSM-5の診断基準
    「臨機応変な対人関係が苦手」
    Aくん:3歳の男の子
    Bくん:6歳の男の子
    Cさん:小学4年生の女の子
    Dくん:小学4年生の男の子
    Eさん:中学1年生の女の子
    Fさん:大学4年生の男性
    Gさん:社会人1年生の男性
    Hさん:中年男性
    こだわりが強い
    こだわりの対象
    I さん:20歳代の男性
    絶対に興味を持たないこと
    「こだわり」保存の法則
    認知が発達すると「こだわり」も発達する
    知的な遅れのない子どものこだわり
    Jさん:18歳男性
    感覚の特徴
    感情の特徴
    苦手な認知機能
    記憶の特徴

 

第2章 自閉症から自閉スペクトラム症へ

 

    「自閉」という言葉の由来
    レオ・カナーによる子どもにおける「自閉」の報告
    カナーの功績
    自閉症の再定義と概念拡大
    対人的相互反応の異常:3つのタイプ
    アスペルガー症候群
    自閉スペクトラム(Autism Spectrum)
    精神医学で用いられる国際的診断基準
    国際的診断分類における「自閉症」の扱いの比較
    広汎性発達障害
    「自閉性障害」の診断基準
    自閉スペクトラム症
    自閉スペクトラム症:ポイント
    「スペクトラム」とは
    自閉スペクトラムと類型分類するとき
    自閉スペクトラム症と臨床診断するとき
    有病率の「増加」
    はじめての疫学調査と「神話」の形成
    自閉症に関する二重の概念拡大
    自閉症の診断基準と有病率との関係
    わが国のデータ
    自閉スペクトラム症と発達特性
    ADHDと自閉スペクトラム症との関係
    自閉症の特性の一部は、他の発達障害の併存で目立ちにくくなる

 

第3章 社会生活で問題になること

 

    発達の「異常」とは?
    「やらない」異常
    「やる」異常
    目に見えない異常
    どんな異常が気になる?

 

第4章 自閉スペクトラム特有の感じ方、考え方

 

    Kさん:5歳の女の子
    小学校の「算数」って難しい
    外来診察室にて
    休みの日に
    「みんな一緒」のほうが絶対に楽しいのか?
    症状の軽さと社会適応の良さとは必ずしも比例しない
    Lさん:小学6年生の女の子

 

第5章 自閉スペクトラムの人にみられやすい「二次障害」

 

    自閉スペクトラムの人に併存しやすい精神障害
    自閉スペクトラムの特性があると、環境による精神的変調をきたしやすい
    環境による精神的変調の鍵概念
    身体症状
    うつ
    こだわりの変化
    不安、恐怖
    強迫観念、強迫行為
    逆説的高望み
    PTSD様症状
    自閉スペクトラムの人に特有なフラッシュバックの様式
    いじめ被害
    不登校
    ひきこもり
    他者への攻撃性、暴力
    Mくん:小学4年生の男の子
    解離
    二次障害を生じやすい環境

 

第6章 生来性の「変異」として理解できる自閉スペクトラム

 

    高機能自閉スペクトラムに至る幼児期からの4つの道筋
    自閉スペクトラム特有の症状と経過の研究の必要性
    今後の精神医学的課題
    Nさん(男性):3歳0カ月のとき
    Nさん:12歳のとき
    Nさん:20歳代半ば
    Oさん:20歳代の女性
    非障害自閉スペクトラム
    乳幼児期の対人・コミュニケーション
    Pさん:5歳の女の子
    発達に伴う変化:対人・コミュニケーション
    過剰なストレスやトラウマを回避できた自閉スペクトラムの成人期の対人・コミュニケーション
    自閉スペクトラムの人の発達の縦断的な変化
    特性特異的教育タイプ
    放任タイプ
    過剰訓練タイプ
    自主性過尊重タイプ

 

第7章 支援の考え方:幼児期~思春期

 

    無理な要求が二次障害を引き起こす
    発達障害の人たちへの支援における最重要課題は、二次障害への対応
    発達障害の人たちへの療育 ― 葛藤の構造 ―
    発達心理学の進歩が招いた混乱
    近年の発達心理学からわかってきたこと
    みにくいアヒルの子
    発達の最近接領域(ヴィゴツキー)
    5歳で挨拶ができないと問題か?
    教育界にしばしばみられる「幻想」
    ある小学校の『入学のしおり』から
    支援の専門性とは?
    発達リハビリテーション
    物心つく前の特訓は
    成長の鍵は、思春期にあり
    思春期よりも前に取り組みたいこと
    保護的に構造化された環境
    課題は、多くてもひとつ。優先順位を考える
    完璧を目指さない
    興味がないと全くやる気がおきない
    無駄な失敗の予防
    Qさん:3歳の女の子
    社会参加可能性を測る目安
    自律スキルとソーシャルスキルの両立の鍵は「合意」
    構造化は合意のはじまり
    幼児期や中~重度知的障害を伴う場合
    街で見かける視覚的構造化の例
    軽度知的障害~高機能例の学童期
    成人期こそ、視覚的構造化が最も必要
    自閉スペクトラムの人にとって自律とは?
    家庭:それは最小単位の社会
    幼稚園・保育所:それは同世代との集団生活のはじまり
    褒めるときはメリハリをつけて
    褒めることは一貫性が必要
    自閉スペクトラムの幼児へのソーシャルスキルの教え方:やるべきこと、やってはいけないこと
    駄々っ子に耳を傾けて
    自律を育てるために
    意欲を育てるコツ
    バーチャルづくしの生活に、未来はない
    ゲームにはまりやすい子どもに対する方針
    思春期以降は、「試行錯誤する本人、それを支える家族」
    思春期以降の支援方針
    試行錯誤とは?
    どっちの後悔のほうがつらい?
    試行錯誤の良否は、失敗したときにわかる
    気をつけたいパターン
    試行錯誤:定期的に方針の見直しを
    親の「子離れ」と「黒子への転身」
    成人期の社会適応を予測する因子


第8章 こだわりへの対応

    対応すべきこだわり
    放っておいてよいこだわり
    こだわりへの対応:ドラマチック編
    こだわりへの対応:賢明編
    こだわりへの対応:無難編
    こだわりに対する「マーフィーの法則」
    こだわりは、本来「価値中立的」
    「こだわり保存の法則」に活路あり!
    こだわりの活用例
    興味の特徴への配慮
    パニックへの対応
    パニック:はじめの数回は
    パニック:繰り返すうちに
    学習効果でパニックは悪化する!
    パニックが増える要因

 

第9章 早期発見と家族の支援

 

    早期発見の意義とリスク
    早期発見・早期支援の意義
    1歳半健診を起点とした育児支援活動の例(横浜市の場合)
    抽出・絞り込みは「育児支援活動」の一環で
    自閉スペクトラム症の人は、学んだことを汎化させるのが難しい
    親は、子育てに苦悩する存在でもある
    親のジレンマ
    親の心理:気づきの時期
    家族支援のスタートは、早いほどよい
    家族支援のスタート
    早期に診断告知された親
    通院していても告知されていない親
    医師に「大丈夫」と言われると
    家族への診断告知:伝えるべきこと
    発達障害かもしれない、と思ったとき
    期限を区切ったフォローアップ
    発達障害専門機関の家族支援プログラムの例
    ピア・カウンセリング
    メンタリング

 

第10章 集団生活における配慮

 

    集団生活で見られる問題
    集団管理の発想と個別性への配慮
    インクルージョンとは?
    インクルージョンに関するよくある誤解
    インクルージョンの理念と教育
    「合理的配慮」
    集団化と個別の配慮の両立は難しい
    わが国の特別支援教育が抱える価値構造
    医療とわが国の学校教育の比較
    教育における障害への配慮の分類
    無配慮の例
    低負荷型配慮の例
    特異的治療型配慮の例
    発達障害の子どもへの配慮は?
    発達障害の子どもへの低負荷型配慮
    発達障害の子どもへの特異的治療型配慮
    「無理しなくていい」と言われたら?
    特別な配慮、理想的には?
    コミュニティケア促進の新たなキーワード

 

第11章 支援の考え方:青年期~成人期

 

    青年期~成人期:支援の基本
    自閉スペクトラム特性に合わせた環境調整
    自閉スペクトラムの人たちと接する際のコツ
    高校・大学進学で陥りやすい「幻想」
    進路選択の目安
    Rさん:高校2年生の男性
    本人の相談意欲形成の第一歩
    成人期の自閉スペクトラムの人たちへの支援:接し方のポイント

 

第12章 「二次障害」が出てしまったら

 

    Sさん:大学3年生の男性
    「症状」はバロメーターにすぎない
    まずは休養と相談
    薬物療法
    対策:ふたつの道
    ストレスによる精神的変調への対応
    「学校に行きたくない」・・・・・・どうしよう?
    登校しぶり:視点のずれ
    不登校になってしまったら? ― やってはいけないこと ―
    不登校になってしまったら? ― やっておきたいこと ―
    「うつ」のある自閉スペクトラムの人への接し方

 

第13章 就労・職業生活の支援

 

    就労支援を要する発達障害の人
    T さん:大学4年生の男性
    Uさん:大学4年生の女性
    Vさん:大学4年生の男性
    わが国の教育システムの問題点
    高学歴社会の闇
    発達障害のある高校生・大学生の困難さ
    課題は、多くてもひとつ
    社会参加可能性を測る目安
    発達障害者の就労に特有の問題
    会社は学校とは違う
    社風と特性とのマッチング
    市場原理の導入
    発達障害者の就労を促進するには
    「お互いさま」の風土づくり
    啓発
    大義名分探し
    障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス
    支援つき試行錯誤
    発達障害者の就労・職業生活支援
    後悔しない人生とは
    支援者の役割

 

  あとがき

 

  付録DVD「自閉スペクトラム症の理解と支援 ― 子どもから大人まで ―


テーマ:

山根 ひろ子:著  本の種出版 定価:2200円 + 税 (2018.4)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

 

毎月の会報の「私のお薦め本コーナー」に続く「近隣の講演会等のご案内」に興味を持って見ていただいている方は、よく
ご存知のことと思います。神戸で5回連続の「自閉症学習会」を上期・下期と年2回に分けて長年続けていただいている山根弘子先生の著書です。

 

“ 支援教室「ほっと」の実践録 ”と副題にあるように、山根先生が知的障害の養護学校を定年退職されてから、ASD(自閉スペクトラム症)児のための、支援教室「ほっと」(灘の「のびやかスペースあーち」と、須磨の「すまいるほっと」)で療育にあたられます。

 

退職後の人生を、ASDの子どもたちのために捧げたいと思ったのは、養護学校で出会った子どもたちの魅力に取りつかれたからですが、一方で、力及ばず守ってあげられなかった生徒たちへの、罪滅ぼしの気持ちもわずかながらあったのです。

 

それは、当時の養護学校(現在の特別支援学校)で行われていた“教育”がASDの特性に全く配慮されない、旧態依然とした体制だったためでしょう。

 

また、学習発表会が近づいた頃のことです。

主役に選ばれたEさんが舞台での練習をいやがっていました。3人の担任のうちの一人が無理やり練習に連れ出そうとしたところ、彼女はトイレに逃げ込み、中から鍵をかけて籠城してしまいました。すると、その担任はホースでドアの下から放水し、トイレから引きずり出したのです。足を靴ごとびしょ濡れにされて泣きながら出てきたというのです。体罰以外の何ものでもありません。

私はそれをあとから聞き、当該担任に抗議しましたが、「担任以外が口をはさまないで!」と聞き入れませんでっした。そんなひどい虐待がトラウマとなって、高等部に進んだのち、Eさんはとうとう不登校になってしまいました。この責任は誰がとるのでしょうか。

 

親以外にも、子どもたちの味方になって怒ってくれる先生がいてくださったことは救いですが、本当に責任は誰がとるのでしょうか・・・そんな慙愧たる思いを抱いたまま退職された山根先生、“自由の身になって”始められた「ほっと」での療育は、当然ながら一人ひとりの子どもたちの特性に配慮して、子どもたちや親の想いに寄り添ったものでした。


参考にしたと言われる理念や理論は、TEACCHを理念の柱として、PECSやソーシャルストーリー、コミック会話、英国自閉症協会でのSPELLなど、今私たちがぐんぐんでの療育にとりいれているものとほぼ同じようなものだったそうです。岡山でぐんぐんを始める10年以上も前から、神戸の地ではASD児たちのための実践が始まっていたのですね。

 

なかでも、本文の事例でもたくさん紹介されている「わかるストーリー」は、ソーシャルストーリーを基本にして、目の前の子どもの困っていることに合わせて、本人が理解できるようなことばで工夫されて作られ、参考になることが多いです。
例えば、2つ年下の妹の泣く声が苦手で、「うるさい!」とどなったり、叩いたりしてしまう直哉くんに作られた「わかるストーリー」です。

 

○ 小さい子はなぜ泣くの?
あやちゃんは、2さいの かわいい いもうとです。ぼくは ときどき ほんを よんであげたり、いっしょに あそんであげたり することがあります。そんなとき あやちゃんは うれしそうに しています。
でも、2さいぐらいの ちいさい こどもは ねむたくなると きげんが わるくなって、ないたりするものです。
ぼくは 4さいだから、ねむたくても がまんします。だれでも おおきくなると なかなくなるものです。だから ぼくは あやちゃんが おおきくなるまでは ないても、おこらずに がまんしようと おもいます。

 

これを読むと、怒ることが少なくなりました。そして、本を読んでやったり、・・(中略)・・優しい態度を見せたり、いっしょにままごとをして遊んだりするようになりました。肯定的なアプローチによって、驚くほど素直に納得してくれるのをお母さんは実感しました。

 

こんな風に、文字に書いたり、絵で伝えるなど、視覚的に優位な特性に配慮すれば、それこそ“魔法のように”改善することも多い子どもたちです。

でも、それゆえ学校などでは、子どもたちを動かすカード、指示するツールとして使おうとしてしまうことも多いようです。

 

まだ時計がわからない段階では、とりあえず、視覚的にわかりやすいタイムタイマーなどを使って、「ピピッ」と鳴ったら終わりであることを教えたらどうでしょう、とも言いました。すると、「タイマーも使ってみたけど効果がありません。運動場で遊んでいるとき、タイマーが鳴っても彼は遊びを終わらせることができませんでしたから」とのこと。
どうやら、先生はタイマーを純の行動を規制するために使おうとしていたようでした。タイマーを使うとしたら、タイマーが鳴ったら授業が終わって、休憩時間になることから始めてほしいのです。楽しみな活動の開始時間を知るという、本人にとって知りたい情報を伝えるツールとして、まずは使ってもらうとよかったのに。

同じようにタイマーを使っても、使う目的や、支援者のスタンスによって、その意味が変わってくるのです。支援者は常にASDの子どもの視点で、どんな支援をすれば納得できるか、安心して楽に過ごせるかを、考え続けなくてはと思います。

 

さすがに、学校においては、子どもたちへの虐待と思われるような指導は減ってきたと信じたいですが、まだまだ視覚支援や構造化など、間違って便利な道具として使おうとすることもあるようですね。

 

それはさておき、他にも、「役立ちアイテム」として手順書や支援ツール、SST線画など、いろいろ紹介されていますので、アイデアやヒントがもらえる1冊だと言えるでしょう。


山根先生は理論家や研究職ではなく、元教師の方ですから、本書も体系的に理論を組み立てていくのではなく、登場する子どもたち、一人ひとりに合った方法を工夫して実践されています。その意味では、我が子と向き合って子育てしているお母さんには役立つことが多い本だと言えるでしょう。

もちろん、相手は手強い(?)ASD児たちですので、全てがすんなり行くわけではなく、一つ解決したら別の問題がでてきたり、うまくいっていると思っていたら、いつのまにか元に戻っていたり・・・と、試行錯誤しながらの日々が続きます。
それでも、適切に対応していけば、らせん階段を登るように子どもたちは必ず成長していきます、そんな希望が感じられる一冊となっています。

 

残念ながら、一緒に支援教室を支えられてきたご主人が病気になられ、2014年には支援教室を閉じられたそうです。善意のボランティアの方たちの協力により運営される活動では、やはり中心になる方が抜けられると、どんなに有意義な活動であっても継続が難しくなるということなのでしょうか。私たちも、ぐんぐんの療育がずっと続いていくよう法人としての運営を次の方たちにしっかりと引き継いでいかなければいけませんね。

 

そんな山根先生、現在は「児童発達支援センター六甲ふくろうの家」で個別療育教室を担当されるかたわら、各地で講演活動をされていらっしゃいます。
今月号の「近隣の講演会等のご案内」の中にも6月に行われる山根先生の勉強会の案内がありますので、本書を読まれて興味をもたれた方は、ぜひ一度足をお運びください。

 

            (「育てる会会報 241号」 2018.5より)

------------------------------------------------

 

 

------------------------------------------------

目次

 

  はじめに

 

  序章1 私とASD、そして療育
  序章2 支援教室「ほっと」へようこそ!

 

    コラム 「ほっと」が参考にした理念・理論
          TEACCH
          NAS など

 

本章 かがやけ! ASDキッズ

 

  1. 直哉 ○ 利発な「困ったチャン」 
  2. 翔真 ○ 「英語なら任せて!」
  3. 舞   ○ ママはサポートの達人
  4. 賢太郎 ○ 姿勢はなおるときがくる!
  5. 道夫 ○ マイルールに縛られるつらさ
  6. 高司 ○ キャンプで目覚めた楽しみ
  7. 英治 ○ 「一番でなきゃイヤだ!」
  8. 雄太 ○ 通り過ぎない嵐はない!
  9. 絵里 ○ 「読んでガッテン!」
  10. 涼太 ○ この世は不安でいっぱい!
  11. 雅彦 ○ あまのじゃくにはわけがある!
  12. 千尋 ○ ファンタジーの世界に遊ぶ
  13. 純  ○ 練習は苦手でも、本番はバッチリ!
  14. 吉紀 ○ スケジュールは命綱
  15. 大輔・伸二 ○ おばあちゃんのグッジョブ!

 

    コラム 療育の視点
      「わかるストーリー」の書き方
      気持ちの5段階表
      ハグの効果
      スケジュールとごほうび ①
      スケジュールとごほうび ②
      自立への準備は幼少期から
      サポートブック
      ルールのあるゲーム
      ごほうび・トークン
      「ごほうびのフェードアウト」で思い出すこと
      カームダウンエリア
      抽象的な言葉は理解しにくい
      擬態語・擬音語の効果
      ASDと時系列の混乱
      時計と文字
      エコラリア
      子どもハーネス
      視覚的コミュニケーション 

 

  付録 「ほっと」のオリジナル教材

  おわりに

  参考文献


テーマ:

藤原 美保:著  健康ジャーナル社 定価:1500円+税 (2018.3)

 

          私のお薦め度:★★★☆☆

 

育てる会では、日々電話相談を行っていて、そちらの方はお母さんからの相談が多いため、同じ母親のペアレントメンターが電話を受けることが多いのですが、それ以外にもこの年になると私も相談を受けることがあります。
しかし、私はもともとただの父親ですので、自分の子育てについては話せても、経験したことのないことについては、どう答えてあげればいいのか戸惑ってしまいます。その最たるものが女の子のお母さんからの相談です。


「学校の成績や学習指導よりも前に、教えておきたい「大切なこと」がここにあります。発達障害の女の子たちは「性の被害者」になりがちです。残念なことに、法律は彼女たちを守ってくれません。彼女たちを守るために必要な知識やルールをわかりやすくまとめました。ご家族の幸せのために、ぜひご活用ください」と帯にある本です。
「彼女たちを守るために必要な知識やルール」に疎い者ですので、私もぜひ知っておきたいと本書を手にとりました。

 

作者の藤原 美保氏は、エアロビクスやヨガなどのフィットネスのインストラクターとして、発達障害のお子さんの運動指導に関わったあと、名古屋で女の子向けのレッスンを提供する放課後等デイサービスを立ちあげたという、ちょっと変わった経歴の持ち主です。

福祉の専門家ではなく、また保護者でもない、株式会社スプレンドーレの代表の方ですから、これまでの発達障害や育児の専門書とは少々違った視点からのアドバイスとなっています。

 

「友だちとうまくコミュニケーションが取れるようになってほしい」と、保護者は必ずいいます。しかし、それができないのが発達障害です。残念ながら、「全盲の人に見えるようになってほしい」というのと同じぐらいの無理難題だと思います。
そもそも「友だち」ってなんでしょう。友だちとは、「同等の相手として交遊できる人」のことといってよいかと思います。
社会では、ある程度の基本的なルールをもとにした共通認識があって、それに準じることによって「同等」という概念が生まれます。ということは、共通のルールの下で活動できない場合には「同等」にはならないということです。
つまり、「共通意識が育っていないと友だちという関係は成り立たない」のです。

 

それでも、「発達障害の子ども同士なら友だちとして適当ではないか」と思われるかもしれません。しかし、そもそもコミュニケーションが難しい子どもたちです。女の子の数も少ないし、ほとんど難しいと考えていいでしょう。
「わが子のことを理解してくれる優しい友だちがほしい」と保護者の皆さんは考えます。それと同時に、「うちの子は障害があるから少し大目に見てほしい」とも思っているはずです。そう思っているのは、じつは自分だけではありません。発達障害を持つ子どもの親すべてがそう思っているのです。
では、「ほかの子を理解してあげよう、大目に見てあげよう」と思って支援級や支援学校に入ってくる人がいるでしょうか。おそらくいないはずです。つまり、みんなが「してほしい人」なんです。

 

かなり辛口なコメントですが、「それはそうだ」と納得もさせられる意見ではないでしょうか。

障害児の子育てをしていると、どうしても障害を理由とした“甘え”の気持ちがでてしまうこともありますね。反省です。
育てる会では、女の子のグループ「クローバーの会」や、男の子の友達作りの会「はやぶさの会」があります。

佐賀には有名な「アインシュタインクラブ」があります。それらがうまくいっているのは、親たちや支援者が子どもたちとうまく関わり、少なくとも小さい頃には仲介役としてコミュニケーションの交通整理をしているおかげなのでしょう。
確かに学校や療育機関で、「自然に」友だちができるのを期待するのは無理がありそうです。

 

発達障害の子育ては大変です。共働きの家庭では両親ともに忙しいため、わが子を預けたくなる気持ちも理解できます。しかし、子育ては外注できても、子育ての責任は外注できません。子どもの責任は親がとるしかないのです。
保育園、学校、放課後等デイサービスなどは18歳まで利用できます。
しかし、それ以降は預け先がなくなるので、就労できなければ家にひきこもることもあります。そのときに対応するのは家族です。
また他害がひどい場合、その矛先が家族に向けられることも少なくありません。18歳以降になると、児童相談所や保健所などの行政機関は条件が整わないとなかなか対応してくれませんし、精神科病院などの医療機関へ相談しても、入院を断られるケースがあるということも知っておきましょう。

「幼いから仕方がない」などと問題を先送りにするのではなく、早い段階で相談機関と連携を取りながら対応を学んでおくことが必要です。

 

これなどは、放課後等デイサービスを利用している保護者の立場ではなく、それを運営している側からの気遣いでしょう。
親は子どものことを一番理解し、幸せを願っているのは間違いないのですが、それゆえ目の前のわが子のことだけで精いっぱいになって、客観的に将来を見通した対応ができにくいこともあると思います。
少々辛口であっても、それをはっきりと伝えていくことも支援者としての役割の一つなんでしょうね。
「子育ては外注できても、子育ての責任は外注できません」 逆に言うと、責任が取れないからこそ、保護者の方に幼い頃からしっかり子育てについて学んでほしいという、支援者側からの切実な思いなのでしょう。

 

また、他にも、ちょっと変わった経歴の藤原氏ならではの見方がたくさんある本で、読んでいて新鮮でした。

 

発達障害の子を育てるにあたり、その保護者や支援者に対してよくいわれるのが、「ほかの子と比べないで」という言葉です。
それは確かにその通りではあるのですが、発達障害の診断というのは、そもそも「ほかの子との比較」(一定の閾値における基準)によってなされるものですから、比較するなといわれることに矛盾を感じます。

 

「そのままでいいんだよ」 ― なんて慈愛に満ちた言葉でしょう。でも私はこの言葉を聞くと、「なんて無責任なのだろう」と、少々悲しい気持ちになるのです。「そのまま」でよいのはその子の存在だけであって、行動は変えてゆく必要があるからです。
社会生活を営む上で、問題行動は(将来的には法に触れる可能性がある行動も含めて)変えていかなければいけません。発達障害の子は、イメージすることやコミュニケーションが苦手です。ごく自然にさまざまな常識を身につけていくことが困難なので、きちんと手を貸してあげることが必要です。

 

などなど、ここまでは、男の子、女の子に関係なく、発達障害児の子育てへのアドバイスが続きます。
そして、いよいよ「第5章 女の子に必要な「学び」」に入っていきます。
振り返ってみると、ここまでに「47のルール」のうち、もう半分以上の29まで使われていましたね (^_^.) 


ちなみに、通常この種の本では節の最初にルールが提示されて、その後に内容を解説していくという技法をとるのが一般的ですが、本書では節の終わりにそれまで述べた内容を要約して、「ルール」として挙げています。

確かにこの書き方の方が、ルールとして納得できやすくなっていると思います。さて、その女の子に必要な学びです。

 

性産業には発達障害や軽度知的障害の女性が多い、ということが、最近のニュースやネット情報からわかってきました。それは、彼女たちが十分な性教育をうけていないという現実とイメージ力の弱さから、性産業にはどんなリスクがあるかを判断できないからだと考えます。

 

知的レベルの高い女の子の中にも、「別に減るもんじゃないし」とか「自分の身体なのだから」と、リスクに対して判断ができないことと自己評価の低さも手伝い、思春期以降に自分の心と身体を傷つける行為を平気で行う子がいるというのが現状です。
女性の場合、誰とでもセックスすることは「自傷行為」として考える必要があると思っています。
人としての尊厳を失うケースも少なくなく、自傷行為としては命の危険をともなうものになります。

また、自分の社会的信用や評価を下げてしまうだけでなく、知らず知らずのうちに精神を病み、社会復帰できなくなる子も多くいます。女性が「性の尊厳」を失うことは命に関わるのです。
  【 ルール35 大人への相談は大切なサバイバル・スキル 】より

 

やはり、男の子の、まして父親にとっては手をだしにくい、アドバイスの難しいセンシティブで深刻な問題ですね。

 

本書でもこのルール35の最後には、こうまとめられています。

 

こうしたディスカッションを何度も重ねた結果、重大事になるかもしれなかったことを未然に防ぐことができました。
大人の判断を求めることは、彼女たちにとっての一種の「サバイバル・スキル」です。性の相談は友だちや同世代ではなく、同性の信頼できる大人に相談するのだということを常々教え、練習を重ねてきたことが役に立ったというひとつの例です。 

 

このお薦め本コーナー、いつもはみなさんにお薦めしているのですが、今回は特に「女の子」をもつ、「同性」のお母さんや支援者の方に、一度は読んでおいていただきたいとお薦めしたい一冊でした。

 

         (「育てる会会報 240号」 2018.4 より)

 

--------------------------------------------

 

 

 

--------------------------------------------

 

目次

 

  はじめに

 

第1章 ◎ 診断は支援のための第一歩 - 医療機関・専門家との付き合い方

 

  発達障害にとっての診断とは
  子どもの「感覚」を把握することが大切
  医療機関を上手に活用するには
  問題は多面的に捉えるようにする
  子どもと一緒に相談に行ったときに気をつけること
   「ちょっとゆっくりなお子さんです」の本当の意味
  IQはすべてをあらわす数値ではありません 
  専門家、誰に何を聞いたらいいの?
  「受け入れて」の意味

 

第2章 ◎ 親の行動もわが子の未来を左右する ― 親としての心構え

 

  問題行動は「しつけ」が原因?
  うちの子の本当の姿はどれ?
  褒めるのも叱るのもどちらも大事
  怒りの感情をどうやって理解させるか
   ● コラム「様子をみましょう」や「大丈夫」の真意
  子どもがネットを利用するときの注意点
  誰もが手探り、不安になるのは当然のこと
  覚悟するのは「死」ではなく「生きること」

 

第3章 ◎ 社会から愛されるために必要なこと ― 日常生活での支援と療育

 

  問題行動の芽は早いうちにつむ
  ○○療法にご用心!
  わが子がパニックを起こしたら
  親のいうことを聞かない子ども、子どもに向き合えない親
  マイナス発言をする子への対応
   ● コラム TPOを教える
  「障害」という言葉について
  発達障害の子の「自己肯定感」について
  人間の成長には「不自由さ」も必要

 

第4章 ◎ 選択肢が多いほどよい学校選び ― 健やかな生活を送るために

 

  学校はどうやって決めたらよいか
   ● コラム 女の子は学ぶことが多い
  子どもの成績に振りまわされないで
  友だちは絶対に必要ですか?
  友だちではなく仲間を作ろう
  うちの子に一番合う教材は何?

 

第5章 ◎ 女の子に必要な「学び」 ― 思春期と性教育

 

  性教育のスタート前に教えておきたいこと
  基本的な生活習慣を整えることから始める
  ルールは何のためにあるのか
   ● コラム スモールステップ
  身だしなみや食事のマナー
   ● コラム 身だしなみが苦手なのはなぜ?
  身体への意識を高めるための工夫
  思春期からでは身につきにくい性教育
  健やかな社会生活を送るために
  性交渉の「同意」は発達障害の女性にとっては不公平
  男の子と女の子の違い
  交際・結婚・出産 ― わが子へのアドバイス
   ● コラム 友だちよりもサポーター
  早めに見つけたい、信頼できる産婦人科

 

第6章 ◎ 療育支援Q&A ― 知ることで深まるわが子への理解と支援

 

  [相談] 何度注意してもやめてくれません
  [相談] スモールステップの方法を知りたい
  [相談] プライドが高くて注意するとパニックになります
   ● コラム 自己中心性
  [相談] 親のいうことをききません
   ● コラム 学校を休むときのルール
  [相談] 新しい場所や新しいことが苦手です
  [相談] なんでもすぐに触りに行きます
  [相談] マイナス行動が身につきやすいのはなぜ
   ● コラム ふざけてばかりいる子

 

  対談 「スペクトラムに生きる時代のこどもたちとともに」

 

  おしまいに


テーマ:

宮尾 益知:監修 (株)ドコモ・プラスハーティ:協力  河出書房新社 定価:1400円 (2018.2)

 

        私のお薦め度:★★★☆☆

 

 

みなさんも「特例子会社」については、名前は聞いたことがあると思います。また、昨年11月には18歳の春を目指すクラブで、ベネッセグループの特例子会社の「ベネッセビジネスメイト」を見学させていただいたので、参加された方は様子もお分かりだと思います(会報235号)。


今、倉敷や福山で障害者の大量解雇で問題となっている就労継続支援A型事業所、その中でも「悪しきA型」と呼ばれている事業所は、「障害者は金になる」と儲けを目的として、いっせいに参入してきた営利企業を認可したためと言われます。では、同じ営利を目的とする親会社が設立・運営する特例子会社には、なぜこんな問題がおこらないのでしょうか?


一つには、親会社が経営規模の大きい、いわゆる大企業といわれる会社で、子会社も安定した経営になっているからでしょう。また、それ以上に障害のある人も安心して働けるようにという社会貢献の経営理念があるからこそのように思えます。もちろん、営利企業ですから、できるだけ利益がでるように、それも「悪しきA型」のように行政からの補助金目当てではないので、いかに働き方を工夫して効率を上げていくかを模索しながらの運営です。

 

さて、それらを踏まえての本書の登場です。「発達障害者の自立・就労を支援する本:ドコモが実践する発達障害者・知的障害者の理解と対応策」と副題がついています。
本書のコミック部分はNTTドコモグループの特例子会社の株式会社ドコモ・プラスハーティの社内で実際に使われているものだそうです。ストーリー仕立てでわかりやすく、時にユーモアを交えて「コミック」として楽しく読めるようになっています。


「職場全体で発達障害の特性を知る」とあるように、職場の方みんなが私たち保護者や支援者が読むような専門書を読んでくれるわけではありません。また、上司や指導員の方が勉強熱心だとしても、会社に異動はつきものです。それまで理解してくれた方が異動になったとたん、会社に行きづらくなったというのもよく聞く話です。職場全員の方に知ってもらうためには、この本のようなコミックが適しているのでしょう。


また、本書はそのコミック以外にも解説として、発達障害の特性に関する簡単な説明や、職場で起こりそうなトラブルやその対応策、社員を成長させる良い「叱り方」や「ほめ方」、逆に混乱させたり、逆効果になる「叱り方」「ほめ方」、また上手な指示の出し方なども、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動性障害)、知的障害などに分けて、イラスト付きで具体的に網羅されています。その意味では、「特例子会社」だけでなく、普通の会社に一般就労されている方、また発達障害を持つ人と一緒に働かれている方にとって、すぐに役立つような一冊だと思います。

 

ASDの社員を成長させる「叱り方」
  □ 注意する前に本人の言い分を聞いて、ミスの原因を一緒に考える姿勢を持つ
  □ 本人に求める仕事のレベルを明確にする
  □ 叱る時は、短く具体的な言葉で叱る
  □ ミスをしたら時間を空けずにその場で注意する
  □ 叱った後は、しっかりフォローする
注意したり叱っても改善が見られない場合は、叱り方を変えて行動の変化を確認します。

 

それにしても、特例子会社の中では、ここまで特性に配慮した運営を行っている会社があるのですね。ドコモ・プラスハーティは、私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトと同じく、グループ企業のビル清掃などを行っているそうです。

 

清掃した部分は検査装置(ルミテスター)で測定し、清掃の品質管理を行っています。清掃後のテーブルなどに残った有機物の数を見るもので、名刺大の範囲を綿棒で拭き取って測定します。まな板なら500程度の数値で問題なしとされるところ、目標値を100未満に設定し、それを実現しているそうです。
「ここまで厳しくするのは、障害者が清掃しているのだから、この程度だろうなどと思われないようにするためです。さらに、品質の高さを数値で示すことができ、自分たちが清掃するオフィスで働く人たちの健康に役立っているのだという意識を障害者の従業員たちに持たせることが重要だと考えているからです」 
それが仕事へのやりがいや誇り、自分への自信につながっていくことを期待していると、岡本担当部長は力を込めて語っています。 (「ドコモ・プラスハーティ 潜入ルポ」より)

 

他にも、昼食後に公文式学習を取り入れたり、身体機能改善のためのヨガも行っているそうです。


「障害が重い人の中には体の動かし方が不器用だったり特徴的な歩き方をする人もいて、作業中の転倒が懸念でした。そのリスクを減らすために、体幹を強化できるヨガを始めました。ヨガには呼吸法も入っており、深く呼吸をすることで体や精神のストレスを発散できる効果もあります。」(同)

 

私たちもヨガではありませんが、自閉症児・者の体の動かし方には気になるところもあり、次回の総会記念セミナーでは理学療法士の藤井直基先生をお招きして、体の使い方について指導していただくことにしています。

思いは同じですね・・・余談でした。

 

こうした努力で、プラスハーティでは雇用を始めた2012年からの5年間で、入社した65名のうち、退職したのは1名だけという高い定着率となっているとのことです。
そんな恵まれた環境の特例子会社ですが、平成29年6月現在で、全国で464社、岡山ではまだ6社だけだそうです(私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトは、親会社は岡山ですが、会社設立は多摩市のため岡山にはカウントされていません)。


まだまだ特例子会社自体で働かれている方の数は少ないため、本書は一般就労されている方や、就労継続支援A型、B型、就労移行支援などの福祉的就労されている現場で、発達障害の方にも役立てていただきたい一冊となっています。

 

             (育てる会会報 239号」 2018.3より)

-------------------------------------------------

 

 

発達障害の基礎知識 発達障害の基礎知識
1,728円
Amazon

 

 

-----------------------------------------

目次

 

  はじめに

 

第1章 発達障害があっても働ける職場

 

   コミック episode 1 長所を上手に伸ばして働ける会社


     解説編 徐々に増えている発達障害者の雇用
             障害者が働きやすい特例子会社

 

    対談 第1回 発達障害の人たちのために新たな枠組みの職場が求められている
         宮尾 益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
         岡本 孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

 

      ドコモ・プラスハーティ潜入ルポ
         ① 障害者が働くNTTドコモグループの子会社
         ② 障害があってもプロとしての清掃業務をするために
         ③ 障害をサポートするジョブコーチが社内にいる強み
         ④ 長く働いてもらうために勤務時間内に学習時間を設ける

 

第2章 職場全体で発達障害の特性を知る

 

   コミック episode 2 一人ひとりの特性を見極めて “次” へ

 

     解説編 発達障害は主に三つに分類される
           ASD=(自閉症スペクトラム/アスペルガー症候群)の基本的な特性
           ADHD(注意欠如/多動性障害)/LDの基本的な特性

 

       Special colomn 特例子会社社員 英 太郎のひとり言 ①
                             英 太郎のひとり言 ②

 

第3章 職場内のトラブルを防ぐ

 

   コミック episode 3 特性に合わせた指示や注意が社員を伸ばす

 

     解説編 職場での主なトラブル ASD編
           職場での主なトラブル ADHD編
           社員を成長させる「叱り方」、「ほめ方」
           逆効果になってしまう「叱り方」、「ほめ方」

 

    対談 第2回 「うちは、いい会社だよ」といってはいけない 
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

第4章 仕事のトラブルを防ぐ指示の出し方

 

   コミック episode 4 それぞれの特性に合わせて指示の仕方を変える

 

     解説編 上手な指示の出し方 ASD編
           上手な指示の出し方 知的障害者編

 

    対談 第3回 身体のさまざまな領域が伸びる環境作り 
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

第5章 あいまいな表現は、伝わらない

 

   コミック episode 5 知的な遅れがなくても特性がある社員への対応

 

     解説編 特性のある人との会話での注意点

 

第6章 長く勤められるように会社がすべきこと

 

   コミック episode 6 理解のある上司がいれば大丈夫

 

     解説編 特性があっても居心地の良い職場をつくる

 

    対談 第4回 障害者雇用で会社は、より強くなる
         宮尾 益知 × 岡本 孝伸

 

 付録 特例子会社一覧/東京版
     奥付/参考文献

 

 

 


テーマ:

栗原 類:著 酒井 だんごむし:画 KADOKAWA 定価:1200円+税 (2017.12)

 

      私のお薦め度:★★★★☆

        

以前、会報でも紹介させていただいた、モデルでタレントの栗原 類 氏の自伝「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」の本が、マンガ化されて、よりイメージしやすくなって再登場です。
「はじめに」の中で、類くん(本書の中で主治医の高橋先生が「類くん」と呼んでいますので、失礼かもしれませんが、私も「類くん」と紹介させていただきます)も書いています。

 

昨年10月に、自伝的なエッセイを出版し、多くの反響をいただきました。その中には「イラストや短い文章だともっとよかった」という声もありました。
発達障害を持つ方の中には、机にじっと座ったり、活字を追うのが苦手な方もおられます。
そんな方々にも、お子さまにも、ぜひ手に取っていただきたいと考え、僕がどんな障害を持ち、どんな壁にぶち当たり、どんな思いで乗り越えてきたのか、生い立ちから道をみつけるまでをストーリーマンガにしてわかりやすくし、僕が羽ばたけた理由を、なるべく短い文章でまとめました。

 

マンガは、酒井だんごむしさんが、類くんのイメージ通りに描写していて、画風もかっての「光とともに・・・」を思い出させるようなさわやかな感じで、なつかしさを覚えました。「タレント本」と言っては失礼なのですが、テレビや舞台で顔を拝見している方の本はイメージしやすいという利点があります。ましてそれが、まんがで表現されていると、講演会の中で映像を使っていただいた時のように、目の前に映像として映し出され、理解と共感が一挙に進んでいきます。

 

その意味では、前著の「輝ける場所」が保護者の方や同年齢の仲間に向けて書かれていたように感じられたのに対し、本書の「羽ばたけた理由」の方は、もう少し若い方、後に続く後輩に向けても読んでもらいたい、とうメッセージを感じました。
自分の失敗、弱みを正直に書いたあと、それを悲観しないで工夫していった姿が心をうちます。遅刻したとき、忘れ物をしたとき、道に迷って約束の時間に遅れそうになったとき・・・

 

また、もし出先で道に迷ってしまっても、母と連絡が取れる時には、GPSで自分の居場所を母にリアルタイムに知らせることができます。そして、母が僕のGPS情報を見ながら、電話で「次の角を左だよ」「その先、まっすぐ100mくらい直進」などと、道案内してもらうことも可能です。空間認知が苦手な僕は、今も方向音痴のままですが、地図アプリが使えるようになって、道に迷うことがかなり減りました。

 

前の「輝ける場所」でも、お母さんの泉さんの、特性を配慮しながら自己肯定感を大切にする子育てには感心したのですが、成長した類くんにもサポートは続いているようですね。
こんな風にスマホやタブレットをうまく使いながら、発達障害の弱さをカバーして暮らしているそうです。ちなみに、小学生の頃の頃の類くんの初めてのお使いでは電子マネーを使っていたそうですので、さすがですね。

 

そんな類くんからのメッセージです。

 

視力の弱い子がメガネをかけるのは当たり前で、聴力の弱い子が補聴器をつけることを許されるのに、字を読んだり書いたりするのが苦手な子たちが、電子辞書やタブレットを使うことを許してもらえないのは残念です。
文字を書くのが苦手なら、タイピングをうまくできるようになり、電子ツールを使うことで学習できるのなら、それを認めてほしいです。決して、楽をしたいとか怠けているわけではありません。特別扱いを求めているわけでもありません。ただ、皆と同じように学習できる機会を与えてほしいと思います。

 

障害者差別解消法はできましたが、一人ひとりに配慮した対応には、まだまだ「みんな一緒」という学校の教育方針が壁になっているようですね。でも声をあげていけば、いつか類くんの思いも聞き届けられる学校になることを願っています。

 

本書は、各章ごとにストーリーマンガで、これまでのエピソードを紹介したあと、類くんがその出来事について自分の気持ちを紹介し、そのあとお母さんの泉さんや主治医の高橋先生が、解説や補足で障害との関連や、サポートへの思いを書かれています。それぞれ1ページ~2ページぐらいの短さにまとめられているので、中学生ぐらいのお子さんなら十分一人で理解できると思います。ぜひ学校の図書館にも置いていただきたい1冊です。

 

前著も読んで感じたのですが、類くんが「輝ける場所」を見つけることができたのは、お母さんをはじめ周りから“大切に”育てられたからなのでしょう。

もちろん発達障害には社会性に弱さがあるため、小学校・中学校時代にはいじめにあって不登校になったり、高校受験に失敗したり、つまずきや挫折も経験してきました。それでも、そんなときも“大切に”見守る家族や主治医の存在があったからまっすぐに育つことができたのでしょう。

 

発達障害のひとつとして、「空気が読めない」ことがよく例に出されます。
実際、僕は他の人の気持ちをおしはかる能力が低いし、それが人間関係における壁になることもあります。
社会で生きて仕事をしていくには、人間関係は避けて通ることはできないこと。人の気持ちをおしはかることが苦手な僕が、
人間関係を円滑にするために、大切にしていることは「自分がやられたらイヤなことは、絶対に人にはしない」という基本的
なことです。

 

人の気持ちをおしはかることは苦手でも、自分にとってイヤなことはわかりますね。
そしてそれを子育ての中心にして貫かれたお母さん、泉さんの思いが、類くんが、今 大きく羽ばたけた理由なのでしょう。
これから羽ばたこうとしている子ども達やお母さんにお薦めの一冊です。

        (「育てる会 238号」 2018.2 より)

 

-------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------

 

目次

 

はじめに

 

  SPOTLIGHT 2015~2017 最近の活躍
  MEMORIES  1994~2017 成長の記録

  主な登場人物の紹介

  プロローグ

 

第1話 小1での留年、8歳で発達障害と認定されるまで

 

  ・ ADDの僕が抱える問題 ① 「感覚過敏」
  ・ ADDの僕が抱える問題 ② 「注意力散漫」「短期記憶障害」「空気が読めない」
  ・ 小1での留年、「発達障害」と認定されるまで
  ・ 自身の「発達障害」を知ったきっかけは、大好きな映画
  ・ 「普通になれ」ではなく、必要なことを教えてくれた母
  ・ ゆっくりでもいいから、できることを増やす
  ・ 「発達障害」への配慮が進む、アメリカの小学校
  ・ 「コメディ番組」との出会いから夢が芽生える

 

第2話 「好きになれるもの」を育んだ、NYでの小学生時代

 

  ・ 疲れやすい「脳」を休ませる
  ・ 相談できる場所をみつける
  ・ 発達障害の子どもは側頭葉から実体験で学ぶ
  ・ 生活リズムや食生活を整えることで脳の暴走を抑える

 

第3話 「他者との葛藤」から学んだ、日本での小学5年~中学時代

 

  ・ 自分なりの「リラックス法」を持つ
  ・ 学校以外での「成功体験」が心の支えに
  ・ 短い言葉でわかりやすく具体的に伝えてもらう
  ・ 「他者との葛藤」で「心の体力」がついた
  ・ 症状に合う薬を飲むという方法もある
  ・ 好きなこと、のめりこめるものをみつける

 

第4話 高校時代から、「目指す道」をみつけるまで

 

  ・ 初めて自分から意識してできた「友だち作り」
  ・ 自立への道 ① 遅刻しない方法
  ・ スマホを活用する ① スケジュール管理
  ・ スマホを活用する ② 地図や電子マネー
  ・ 学校でもスマホやタブレットが使える社会に
  ・ 「向いていること」より、「自分ががんばれること」を探す
  ・ 好きだからがんばれる「適職」をみつける
  ・ 日本でも進む「発達障害者理解」のムーブメント

 

第5話 そして現在まで。役者として、羽ばたける日々

 

  ・ 理解してもらうよう根気よく周囲に働きかける
  ・ 自分がされたらイヤなことは絶対に人にしない
  ・ 空気を読めないなら、スキルで対応する
  ・ コミュニケーション方法を具体的に学ぶ
  ・ 自立への道 ② プチひとり暮らしを体験する
  ・ 人生は短距離走ではなくマラソン

 

おわりに

 

 〔 巻末資料 〕 発達障害の支援環境 (2017年12月現在)
   ・ 乳幼児期
   ・ 就学前
   ・ 就学後
   ・ 中高生の受験対策
   ・ 就労サポート


テーマ:
梅永 雄二、スマートキッズ療育チーム:監修  唯学書房  定価:2200円+税 (2017.1) 
 
           私のお薦め度:★★★☆☆     
 
発達障害を持つ子どもたちが、将来「やってみたい!」と思う職業を目指すためのガイドブックです。自閉症の特性の一つとして、コミュニケーションや社会性のつまずきとならんで、想像力の弱さというものがあります。つまり、目に見えないもののイメージをつかむことが苦手だということです・・・そのために、イラスト付きの本書の登場です。

紹介されているお仕事は、全部で48種類。農家や漁師から始まって航空管制官まで、多岐に亘っています。もっとも本書によると、日本には約3万種の職種があり、412万を越す企業があるそうなので、ごくごく一部の紹介ということになるのでしょう。
 
進路を決める際に最も大切なのは本人の意志です。ただ、多くの発達障害のある児童生徒は、進路に際して明確な意思を持っているとはいえません。それは、進路に関する情報を所有していないからです。
キャリアとは経歴(その人が経験してきた学業・職業・地位などの事柄)のことです。厚生労働省によれば「時間的持続性ないしは継続性を持った概念」とされています。したがって、キャリア教育には就労だけでなく、その前段階での大学や専門学校も含まれます。そう考えると、就職だけでなく進路選択においても本人の意思を確認する必要があります。
 
ここに書かれていることに加えて、よく問題になるのが、特に高機能なお子さんの場合、親や支援者から見て、あきらかに「向いてないんじゃないの~?」と思われる進路を選ぼうとする場合があることです。
もちろん、本書の帯にも『「できるお仕事」よりも「やってみたいお仕事」を探しませんか?』とあるように、基本は“本人の意思”なのですが、本人にとって自己認知が正しく行われているかが問題です。そして、そのために、まず本書では“ジョブマッチング”のために、本人の自己理解を促すところから始めています。

20世紀初頭の米国で、場当たり的な職探しをしては早期離職を繰り返す労働者の支援に従事してたパーソンズという社会運動家がいました。彼は、職を転々としてしまう原因はジョブマッチングが十分でないことが原因だと述べ、①自分を理解すること(自己理解)、②仕事を理解すること(職業理解)、③合理的な推論によるジョブマッチング、の3段階が必要だと訴えています。その根底には、人の特性にはそれぞれ差があり、職業にもさまざまな差があり、それぞれが求めるものに差があるという考え方に立っています。それをうまくマッチングさせることでよい職業人生を実現していきたいものです。
 
これは、発達障害児に限ったことではありませんが、最初に書いたようにココの部分が弱いために、遠回りをしてしまう自閉症の方が多いのも現実だと思います。
 
その自己理解のために本書では、アメリカの職業心理学者のホランド氏による、6つのパーソナリティ・タイプ(RIASEC)の分類法を使っています。
現実的タイプ、研究的タイプ、芸術的タイプ、社会的タイプ、企業的タイプ、慣習的タイプの6つです。それぞれのタイプの説明や、タイプ別の向いている職業は本書に詳しいので、興味のある方はお読みください。
タイプ別の適職診断のチェックリストもついていますので、ぜひお子さんといっしょにやってみていただきたいと思います。むしろ職業選択というよりも、そうして親子の会話が増え、一緒に自己理解を深めていくということの方が大切なようにも思えます。

また、タイプを考えていく際に、“どのタイプが優れている”というのではなく、“どのタイプにもそれぞれに向いた職業がある”と理解することは、定型児に比べて発達障害を持つ自分は劣っているのではなく、ただタイプが違っているだけ、ということを肯定できるための助けにもなると思います。
 
さて、そうして自分のタイプがある程度分かったあとは、いよいよ具体的な職業の検討です。
タイプ別に向いている職業、たとえば現実的タイプの場合、農家、大工、料理人、自動車整備士、清掃員、電車運転士・・・など、のイラストが並び、それぞれに職業に就くための具体的な方法が書かれています。

【電車運転士】
まず鉄道会社が主催している鉄道現業試験を受験し、内定をもらうことが必要です。しかし、鉄道会社からの求人情報は、まずは過去に採用実績のある高校に入るケースがほとんどです。会社によって規定の違いはありますが、鉄道会社に就職しても、すぐに運転士になれるわけではなく、下積みとして駅員で働くことになります。その後、社内の試験に合格すると車掌になることができます。そこで数年の経験を重ねた後、運転士の免許を取得するための国家試験を受けることができ、合格すれば運転士として働くことができます。
 
このように、現実的な職業に就くまでの必要項目が書かれた後、職業の特徴や、類似した職業の説明、その職業に求められる要素(人づきあい、自主性、体力など)の度合い、が記載されていて、自分に向いているか、あるいは能力的に可能かを考えるための足掛かりとなっています。巻末付録の「お仕事カード」は、切り離してトランプかカルタのように、好きな職業を選んで裏の解説を読むという、イメージづくりの手段として遊びのように使えるものだと思います。
 
とても役立つ本だと思いますが、あえて少し書かせていただくと、以前「アスペルガー症候群・高機能自閉症の人のハローワーク(テンプル・グランディン他 著:梅永雄二 監修)」の紹介の際にも書いたのですが、各職業を取り上げる際の「難易度」と「現実性」をもう少し考えて選んでほしかったな、ということです。
例えば、前著「ハローワーク」だと「生物学・医学分野の研究科学者」、本書だと「海洋学研究者」、少し子どもたちが目指すにはマイナーすぎる、難易度が高すぎるようにも思えます。
できれば職業につくための難易度というのも★マークのように示してほしかったですね。
また難易度という面では、本書の「お笑い芸人」や「声優」なども、特殊な才能を求められるため、職に就いて稼いでいけるのはほんの一握りのようにも思え、親としてはあまりお薦めしにくいようにも感じました。まあ芸人を目指すと言われたら、大抵の親は反対するかもしれませんが (^_^.)
 
そして、後半の職業選択の部分では、“発達障害の子どもたちのための”というよりは、“これから大人になるための君たちへの”といったほうがふさわしい1冊のようにも思えます。
発達障害の特性をこんな風に生かせば・・・といったアドバイスがあまりなく、「社会的なタイプの仕事」の分類などでは、もともと社会性に弱さを持つ特性なのが自閉症だったのでは・・・と疑問を持った部分もありました。

ただ、それも含めて、自分にはあまり向いてない職業だと分かってもらうことも有効なので、親子で一度は“一緒に”読まれることをお薦めする一冊です。
 
          (「育てる会会報 237号」 2018.1 より)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
目次
 
  まえがき
 
第1章 就職につながる進路選択
 
  1 なぜキャリア教育が必要か
         ~「苦手がある子」は卒業後・就職後に苦しむ
     就労と就労継続という2つの壁
     仕事に必要なスキルと仕事を続けるために必要なスキル
     ソーシャルスキル・ライフスキルの考え方
     大人になる前に気づいておきたいこと
 
  2 進路を決めるにはどうすればよい?
     本人の意思を確認する
     できること、苦手なことを確認する
     進学するメリット、デメリット
     就職するメリット、デメリット
 
  3 進学する場合の選択肢
     学齢期の進学の全体像
     特別支援学校の取り組みについて
     特別支援学校の具体的な取り組み
     自治体独自の取り組み
 
  4 サポート機関を活用しよう
     まずは学校が一番身近な相談相手
     仕事を探すときは
     就職や会社で困ったときの相談は
       ~自分に向いている仕事は?
         就職に向けて必要な準備は?
         会社に求める配慮は?~
     技術・技能を身につけたいときには
     何か困ったことがあれば
 
  5 いろいろな就労の形
     一般就労
     障害者雇用
     ジョブコーチ
     就労移行支援
     就労継続支援A型
     就労継続支援B型
 
  6 小中高生のうちから取り組みたいキャリア教育
     仕事とのマッチングを探るには十分な時間と十分な体験が必要
     小学生のうちにやっておきたいこと
     中学生のうちにやっておきたいこと
 
  7 就職先・進学先を選ぶにあたって
     本人が注意すべきこと
     周囲に伝えておくべきこと
 
第2章 自分のキャリアについて考えてみよう
 
  1 ジョブマッチングに必要なこと
     適切なジョブマッチングに必要なこと
     自分に合った仕事を選ぶ
     専門家と支援の必要性
     発達段階とキャリア
 
  2 仕事を理解する
     まずは仕事を知る
     発達障害と就労意識
     職業の種類
     産業の分類
     事業所を知る
     勤労観と職業観を育てる
 
  3 自己理解① 自分の興味・関心を理解する
     自分の興味・関心を理解する
     6つのパーソナリティ・タイプ
 
  4 自分の興味・関心から向いている仕事を考えてみよう
     興味・関心から見た適職判断
     適職の例
     興味・関心だけではない仕事選び「
  5 自己理解② 自分の特性を知る
     自己理解として大切なもう一つの視点
     職業選びのときに考えたい5つのポイント
     職場環境により異なる「その他の特性
 
第3章 お仕事図鑑
 
  ○ 現実的タイプの仕事(Rタイプ)
      農家/漁師/料理人/トリマー/自動車整備士/清掃員/電車運転士
  ○ 研究的タイプの仕事( I タイプ)
      医師/薬剤師/臨床検査技師/測量士/システムエンジニア/
      生産・品質管理技術者/アナリスト(証券アナリスト)/海洋学研究者
  ○ 芸術的タイプの仕事(Aタイプ)
      声優/カメラマン/お笑い芸人/ゲームクリエーター/イラストレーター/
      ファッションデザイナー/建築士(建築家)/小説家
  ○ 社会的タイプの仕事(Sタイプ)
      マッサージ師(あん摩マッサージ指圧師)/ウェイター・ウェイトレス/
      ヘルパー/看護師/保育士/警察官/美容師/テーマパークスタッフ
  ○ 企業的タイプの仕事(Eタイプ)
      ショップ店員/営業部員/カーディーラー/ソムリエ/コンシェルジュ/
      電話オペレーター/裁判官/スポーツ選手(チームスポーツ)
  ○ 慣習的タイプの仕事
      倉庫作業員/事務員/秘書/図書館職員/ライン作業員/車掌/
      宅配便配達員/航空管制官
 
第4章 当事者インタビュー
  
  Case1 高森さんのケース ― 障害者支援
  Case2 ナルヲさんのケース ― CADオペレーター/テクニカルイラスト作成
  Case3 高橋さんのケース ― 歯科技工士/エキストラ
  Case4 村上さんのケース ― 言語聴覚士

 付録 お仕事カード
 

テーマ:
明石 洋子:著 本の種出版 定価:1800円+税 (2017.11)
 
          私のお薦め度:★★★★☆
 
今年(2017年)、息子の徹之さんと一緒に「糸賀一雄記念賞」を受賞された明石洋子さんの久しぶりの著書です。
ぶどう社から出版された以前の「自閉症の息子と共に」の3部作、「ありのままの子育て」、「自立への子育て」、「お仕事がんばります」は、自閉症児を育てる親の方なら誰もが一度は手にとったことがあるのではないでしょうか。特に知的障害を伴うカナータイプの子どもを持つ親にとっては、まだ自閉症への理解も支援も乏しかった頃に、公務員として川崎市に一般枠で採用され、元気に働く徹之さんの姿はみんなの希望であり、目標でした。

育てる会でも平成17年から、徹之さんといっしょに何度も講演に来ていただき、自立に向けての話やきょうだい児の子育ての話などたくさんお聞かせいただきました。感謝です。
 
さて、本書ですが本の種出版社の 『発達障害の子の子育て相談 シリーズ』の第1期の1、トップバッターとして企画された、明石さんが先輩のお母さんとして、子育ての質問に一つずつ丁寧に答えていくという構成です。
まだ、「合理的配慮」ということばのなかった時代、それどころか「自閉症は母親の育て方のせい」などという誤解が大手をふって歩いていた頃、周りの方に働きかけ地域を耕してこられた明石さんです。その言葉には励まされることばかりです。今で言うペアレントメンターの大先輩ですね。

また、実際に徹之さんが公務員となり、25年が経った今も明るく元気に川崎市職員として働いておられる様子から、安心してアドバイスが受けられる次第です。

もちろん、明石さんも専門家ではないので、系統だった理論や指導法に基づく話ではないですが、一つ一つの悩みに、経験を元にしたアドバイスがつけられ、一言でいえば「助けになる本」と言えると思います。
帯にも「子育てを今より少し楽に、スムーズに」とあるように、楽になるヒント、気持ちのもち方が込められた本です。
 
前置きはこれぐらいにして、本題の内容ですが、時代が変わっても自閉症児の子育ての悩みは今も昔も変わらないですね。だからこそ、明石さんの相談の答えが今のお母さんたちの助けになるのでしょう。

「夫と子どもの祖父母が障害と認めず、受診に反対します」
「知的障害が重いのですが、施設に入れるしかないのでしょうか」
「障害のある子のせいで、きょうだいが不利益を被らないかと心配です」
「どんなに誘ってもトイレで排泄ができません」
 
“ 先輩、相談です。” と寄せられた質問は、自閉症児を育ててきたお母さんたち、みんなが一度は経験する悩みかもしれません。
 
「仲間が欲しい、悩みを聞いてほしい・・・」
子どものためならがんばれると、あちこちに話をつけ、頭を下げ、だいぶ強くなったつもりです。でも、近くには親の会のようなものがなく、孤軍奮闘は正直きついです。
仲間が欲しい、誰かに悩みをきいてほしい、と、ないものねだりもしたくなります。
 
そんな相談者(小3 男子、ASD +ADHD、特別支援学級在籍児の保護者)への明石さんからのアドバイスです。
 
「近くに会がなければ、つくればいい」
私たち親子がテレビに出るようになって、「近くに会がない。仲間がいない。仲間づくりはどうしたらできるか」との相談を受けるようになりました。
私は「欲しいものがなければ、自分でつくればいいじゃないの」と伝え、地域の人集めの講演会の講師を引き受けるなど、頼まれればその土地に行って、支援するようにしています。日本各地で会ができ、もう10年、20年と活発に活動し、法人格を取得して事業をするところも出てきました。「棚からぼた餅(棚ぼた)」は落ちてきません。仲間づくりは自分から。「この指とまれ」と、指を出すことからスタートです。
 
20年前に、私たちが育てる会を作ったときも同じ思いでした。棚からぼた餅を待っていても、その間に子どもたちはどんどん大きくなっていきます。「ぼた餅は落ちてこないと覚悟して、ないものはみんなで作っていきましょう」と岡山でも、「この指とまれ」と挙げた手に、県内からあっという間に多くのお母さんたちが集まってくれて育てる会ができました。
明石さんから直接支援をいただいたわけではありませんが、岡山と川崎、遠く離れた地でしたが、偶然にも全く同じフレーズをモットーにして頑張っていたのですね。
そして育てる会がようやく軌道にのり始めた平成17年には明石さんを岡山にお招きし、その精神とバイタリティーを見習ってここまできたようにも思います。
 
さて、そんな明石さんですが、相談を離れて「コラム」の欄では母としての思いも書かれていて、その暖かさに思わずクスッとしてしまいます。
 
この大人宣言(注:20歳の誕生日に出した「明石徹之は今日から大人です。てっちゃんと呼ばないでください。今日からお酒とタバコをのみます」との宣言)に続いて出したのが、グループホームを退去するにあたっての「結婚宣言」です。「本人の意思に寄り添う」はずの私は、この宣言には焦りましたね。
「お母さん、結婚がんばります」という息子に対し、講演会等では「徹之のお嫁さん募集中。どなたかお見合いしませんか? 前後15歳ほどを対象にしますので、ご紹介ください」と彼のスピーチに続けてお話ししていますが、「がんばってほしくないなぁ」という私の本音があります。「私の寂しさ」が彼の「人権侵害」をしているのです。
また、彼の自己決定にはプログラムを作って一つひとつ実践してきましたが、結婚に関しては相手のことも知らないと先に進みません。「結婚がんばります」は、二人の人となりや特性や結婚への理解度がわからないと、プログラムが作れません。
「応援してください」と言ってもなかなか実現しないので、彼は最後のフレーズを、たとえば慶応大学での講演会など若い学生さんの前では「応募してください」と変えて言ったのです。残念ながら、応募者は皆無でしたが・・・・・。
結婚は難しい。今、彼のまわりに独身の人が多くいますので、「結婚だけが人生ではない」と覚悟したかな? フレーズは「結婚は未定です」に変りました。
 
いくつになっても、なかなか気持ちのうえで子離れができにくいのが障害児の子育てですね。
大先輩といえども、同じ親ですね、とホッとするエピソードです。
 
もちろん、一人ひとり大きく違うのも自閉症の障害特性の一つですから、本書のアドバイスが、そのままみんなにあてはまるかどうかは分かりません。

でも、目標を見失わないで子育てすることの大切さは同じだと思わせていただける本です。
本書のタイトル「思いを育てる、自立を助ける」将来の自立に向けて自己決定する力をつけていくにはどうすればいいか、それをアドバイスしてくれるお薦めの一冊です。
 
          (「育てる会会報 236号」 2017.12 より)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
目次
 
  はじめに
 
先輩、相談です。 ありのままに地域で生きる
 
  1 障害があるのに、実り多い人生をと願っていいのでしょうか
  2 夫と子どもの祖父母が障害と認めず、受診に反対します
  3 子どものためには自分の人生をあきらめるべき?
  4 ご近所に迷惑をかけてばかり。いっそ家に閉じ込めてしまいたい・・・
  5 知的障害が重いのですが、施設に入れるしかないのでしょうか
  6 本当に地域で幸せになれる? 何かよりどころとなるものが欲しい・・・
  7 親亡きあとの生活、たとえば住まいをどのように考えたらいいのでしょう
  8 強がりでなく 「ありのままでいい」と言える日が来るのでしょうか
  9 親も障害のことを熱心に学ぶべきでしょうね
 10 障害のある子のせいで、きょうだいが不利益を被らないかと心配です
 11 仲間が欲しい、悩みを聞いてほしい・・・
 12 よりよい人生を送らせるため、何を身につけさせればいい?
 13 地域で多くの人の理解を望むのは間違いでしょうか
 
   コラム
     ICF(国際生活機能分類)
    「僕は明石徹之。どうぞよろしく」
    医学モデルから社会モデルへ
    息子の「結婚宣言」と親の本心
    「障害者の権利宣言」がさせてくれた決心
 
先輩、相談です。 思いとスキルを育てる
 
 14 自分から人の輪に入ろうとはしないけど、人とかかわる心地よさを教えたい
 15 せめて、何が欲しいのか言わせたい・・・
 16 パニックは障害のせいで仕方ないのでしょうか
 17 ほめて育てろとよくいわれますが、できないところばかり目につきます
 18 どんなに誘ってもトイレで排泄ができません
 19 将来もさまざまに支援を受けていくし、トイレのしつけはそこそこでいい?
 20 「自分の体を清潔に保つ」を教えるにはどうしたら?
 21 性のしつけの一つ「人前で裸にならない」を教えるには?
 22 偏食がひどくなりました!
 23 食べられるものがごく少なく、給食が苦痛なようです
 24 「食事中は席を立たない」を教えたい
 25 毎日同じ服を着ています。将来TPOに合った服装ができるようにさせるには?
 26 お手伝いをさせるのは面倒だし、かわいそうにも思います・・・
 27 独り言など、その場にふさわしくない行動をやめさせるには?
 28 「なぜ」「どうして」がなかなか言えるようになりません
 29 父親を避けるので、子育てにかかわってもらうことができません
 30 下の子を物のように扱うのではないかと心配です
 31 つい、障害のあるこの子を優先してしまいます
 32 お金の価値がわからず、破いたり捨てたりしてしまいます
 33 一人で外出させることができる?
 34 どうしたらお金が得られるか、働くということを教えるには?
 
   コラム
    料理が算数の勉強にも!?
    食べる量をどう考えるか
    最初は怒鳴り込んできた店主が支援者に
 
  おわりに

テーマ:
對馬 陽一郎:著 林 寧哲:監修 翔泳社 定価:1600円+税 (2017.5)
 
          私のお薦め度:★★★★☆
 
自閉症関係の体験談や療育方法などの書籍をお薦めすることが多いこのコーナーですが、今月はいつもと少し変わってマニュアル本の紹介です。それも子育てではなく、社会に出て「働く」人のためのハウツー本です。

育てる会の18歳の春でも、自立に向けての支援ツールの制作を行っていますが、一般就労した場合、それも障害者枠でなく採用された場合や会社に入ってから発達障害の診断を受けた場合などには、支援の方法にも一工夫が要りそうです。
 
「仕事の締切りが守れない」「仕事に集中できない」「予定やスケジュールを忘れてしまう」「上手にメモが取れない」「大事なものをすぐになくしてしまう」「整理ができない」・・・
などなど、その背後には発達障害の特性が潜んでいるかもしれません。
 
本書は、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠陥(欠如)・多動性障害)、LD(学習障害)に絞って、それぞれの障害に応じた対策を紹介しています。
発達障害は、現在の医学ではまだ原因も分かりませんし、したがって治療の方法も解明されていないし、改善方法も確定はされていません。本書では、そんな本質的な解決は一旦置いといて、とりあえず今あるものを使って、困った状態を何とかしてみましょうという本です。
そのつもりで利用していただければ、ある意味とても助かる本だと言えるでしょう。
 
例えば「上手にメモが取れない」で困っているケースです。
 
発達障害の人のメモ帳を見せてもらうと、驚くほど整然と、きっちり書かれたものがある一方で、まさに自由帳のように順番も内容の種別もなく書き込まれたものもある。
ASDを持つ人の場合、特によく見かけるのが、1冊のメモ帳に1行のムダもなく、予定も連絡事項も仕事のやり方もぎっしりと書き込まれたメモ帳だ。タイトルも日付もなかったりするので、あとで読み返そうとすると頭から順に探していくしかない。
ADHDを持つ人の場合は、その辺にある紙の裏にメモしておいてなくしてしまうことが多い。また、「忘れないように」と何冊もメモ帳を用意していて、あとでどのメモ帳に書かれているのか忘れてしまうこともある。
 
このように最初は、困ったことの原因を障害別に解説しています。
そしていよいよ解決方法です。
 
まずメモ用紙は「1件1枚(1ページ)」と決めておく。もったいないなどと思ってはいけない。違う内容の情報がぎっしり詰まったメモ帳をあとで見返しても、どこに何が書かれているのかまったくわからないものだ。
そして、1番上には大きく日付とタイトルを書く。このタイトルこそ、メモの苦手な人の多くが書き落としているポイントだ。これが何のためのメモであるのかを表すタイトルは、あとで内容を見返すときの一番の頼りになる。よってタイトルは目立たせるため一番上に大きな字で書き、赤字にしたりラインを引いたりしておくと良い。
 
それでも、やはりメモを取こと自体が苦手だということも発生します。
 
ASDがあると、基本的に並行作業が苦手なことが多くなる。
メモは高度な並行作業だ。目で手本を見て、耳で説明を聞いて、頭でポイントを考えながら手で書く。一つ一つのことはできても、同時にしなければいけないとなると混乱が生まれる。その上、ASDの脳は説明もされていない「ポイント」を捉えるのがまったく苦手なのだ。
ADHDの場合は、一人の話に意識を集中し続けるのが難しい。ちょっと他のことに気をとられていると、気づいたら先輩の説明が終わっていたなどということにもなる。
また、LDの一つに、書字障害というものがある。文字がまったく書けない、漢字だけ書けない、鏡写しだったり部首の位置がちぐはぐだったりする。
 
こうなれば、いよいよ最後の解決方法です。
 
メモの取り方がわからない。それなら、いっそメモを取ることは諦めてしまう手もある。
言葉なら録音してしまおう。スマートフォンなら専用のアプリ、携帯電話にもレコーダーの機能を兼ね備えたものもあるが、音質を考えると専用のボイスレコーダーが望ましい。安いものなら3000円くらいで十分な機能のものが手に入る。ただし、録音が問題になる場合もあるので、事前に上司の許可は取っておこう。

会議でホワイトボードに板書された内容なら、デジタルカメラで撮影してしまえば一発だ。ただし、皆が話している最中に「バシャッ!」は止めておこう。会議が終わったタイミングに「自分が消しておきますよ」と言っておいて、撮影してから掃除。あるいは休憩時間などの合間に撮影。もし会議中に消されてしまいそうになったら、「すみません。撮影して良いですか?」と許可を得てから撮影するようにしよう。

メモを取ること一つでも、こんなに苦労するのですね。

最近は障害を持たない方でも、会議の席では、ボイスレコーダーやスマホ撮影を利用されている方も増えてきていますね。でも普段の会話の中でボイスレコーダーを使おうという発想は少ないですし、また本書のように丁寧にここまで書いておかないと、あまり周りを気にしないASDの方なら、勝手に録音してしまったり、「バシャッ」とやってしまいそうです。
 
他にも、「何度もメールを誤送信してしまう」人には、メール作成の順番を変えて、添付→件名→文面→宛先 の順に変える癖をアドバイスしたり、設定を変更して送信ボタンを押してからでも取消ができる方法を紹介してくれるなど、最新のスマホやパソコンを上手く使って苦手をカバーする方法を教えてくれています。
 
しょっちゅう忘れものをしてしまう人には、カバンに伸び縮みするタイプのキーチェーンをつけておくことを勧めています。
翌朝忘れてはいけないものは、このキーチェーンの先につけたダブルクリップなどにはさんで置く、使わないときはカバンにしまっておけば邪魔にもならないという方法です。 
また小さな鍵などにはMagicflyの「キーファインダー」の受信タグをつけておけばすぐに見つけられるという方法もあるそうです。
 
財布と鍵をつないでいる人や、キーケースと財布が一体化した商品を使っている人もいる。しかし、なくし癖のある人にとって小物と小物の組み合わせは危険だ。下手をすると、二重遭難に陥ってしまう。その点、かばんのような大きなもので毎日持ち歩くものなら、なくす可能性が低い。
キーチェーンは長めのものを使い、出歩くときはかばんの中に収納する。こうすれば目立たずに持ち歩くことができ、帰宅時にも苦労なく鍵を使うことができる。
 
また、他にも発達障害の人が使えそうなスマホ用のアプリなども多数紹介されています。
会社での仕事に限らず、普段の生活のなかでも使えそうなアドバイス、仕事の優先順位のつけ方、報告の仕方、雑談への加わり方などなど・・・も豊富ですので、ぜひ一読されて少しでも暮らしやすい生活を送るために活用していただきたい一冊です。
 
          (「育てる会会報 235号」 2017.11 より)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
目次
 
  はじめに
  本書の特長
  発達障害の種類
 
第1章  「先延ばし癖」を何とかしたい!
        - 先延ばし・集中力対策
 
 仕事の締切りが守れない
    【事例】   やらなければならない仕事をつい先送り。
           まだ時間があるさ・・・と思っているうちに、大変なことに
    【原因】   ADHDの先延ばし傾向
    【解決法】 時間間隔を自分に実感できるものに
    ● カウントダウン方式でタスク管理
 
 長期の仕事になかなか取り掛かれない
    【事例】   大事な仕事なのはわかっているのに、
           身体が拒絶してやる気がでない
    【原因】   段取り下手が先延ばし傾向を強化する
    【解決法】 まず手をつけることを決めて、それに集中する環境を作る
    ● 他人を巻き込んで締切りを設定し、自らを追い込む
 
 仕事に集中できない(聴覚編)
    【事例】   エアコンや車の音、周囲の雑談が気になって集中できない
    【原因】   周りの音がすべて意識に入ってくる聴覚過敏
    【解決法】 雑音カットの方法を考えよう
    ● 自分にあった耳栓を探そう
 
 仕事に集中できない(視覚編)
    【事例】   目が疲れやすいし、人の動きもいちいち気になる
    【原因】   気にしていないつもりでも、視界の中のムダな情報に惑わされている
    【解決法】 視覚的刺激の少ない環境を作ろう
    ● 目に入ってくる情報をシンプルに
 
 仕事に集中できない(ADHD編)
    【事例】   仕事に集中できず、携帯を見たりよそ見をしたりしてしまう
    【原因】   重要であっても好きでなければ集中し続けられない
    【解決法】 自分の気の散りやすさを飼いならし、ときには利用するやり方で
    ● 複数の仕事を用意して、飽きたら別の仕事に切替え
    ● 「ここまでやったら休憩」と決めて、細かい目標でモチベーション管理
    ● 職場がOKなら、音楽や手遊びも有効な方法
 
 仕事中、ついついネットを見てしまう
    【事例】   仕事中ついついネットで関係ないサイトに夢中になってしまう
    【原因】   ADHDの衝動性に、インターネットの誘惑の多さ
    【解決法】 ネットのない環境を作ろう
    ● ウィンドウズ10なら「機内モード」を活用
    ● 手書きも選択肢に入れてみよう
    ● テキスト打ちに特化した、仕事集中ツールの決定版「ポメラ」
 
第2章  「段取りができない」を何とかしたい!
        - スケジュール・業務管理・時間管理対策
 
 予定やスケジュールを忘れてしまう
    【事例】   その日やるべきことや予定をすぐ忘れてしまう
    【原因】   ASDの計画的遂行の困難、ADHDの集中持続の困難が
           スケジュール管理にも影響する
    【解決法】 「自分にベストのスケジュール帳」にこだわろう
    ● 手帳にこだわりを持つことで、スケジュールに意識を向ける
    ● おすすめのスケジュール帳タイプ
 
 約束の時間が守れない
    【事例】   わかっているのに時間が守れない?自分で自分がわからない
    【原因】   ADHDの衝動性と過集中
    【解決法】 自分の行動パターンを把握して、自分に自分で指示を出す
    ● グーグルカレンダーでスケジュールを一括管理
    ● ミニホワイトボードに予定や注意を記入し、常に目につくようにしておく
    ● 予定に +30分の自分用予備時間を入れておく
    ● カウントダウンタイマーで時間を管理する
 
 朝起きられない
    【事例】   就職で一人暮らしを始めた途端、
           起こしてくれる人がいなくて遅刻続き
    【原因】   発達障害に多い、睡眠障害。
           朝の眠さから意識を変えにくいのは、特性のせいも
    【解決法】 朝にゆっくり目覚められる余裕と工夫を入れよう
    ● 朝は目覚めのパターンを作る
 
 パソコンの並行作業で混乱してしまう
    【事例】   事務ではどうしても避けられない並行作業。
           どんどん散らかっていくデスクトップに大混乱!
    【原因】   ASDは、頭の中に棚をつくるのが苦手。
           ADHDは、誘惑の多さがNG
    【解決法】 仮想デスクトップで並行作業を視覚的に管理
    ● 仮想デスクトップで4つの画面を使い分けられる「Desktops」
 
 事務業務の段取りができない
    【事例】   イメージと違った事務の仕事
    【原因】   事務は “マルチタスク”と “コミュニケーション”のプロフェッショナル
    【解決法】 同僚の名前・居場所・仕事・顧客。
           情報整理がカギとなる
    ● 職場の情報を整理しておこう
    ● 報連相ボードを作る
    ● 依頼をメールでの一括管理にする
 
第3章  「ケアレスミス」を何とかしたい!
        - ケアレスミス対策
 
 パソコンの入力作業でミスが多い
    【事例】   資料の内容を入力するだけの単純作業。
           なのに、何度見直してもミスが出てしまう
    【原因】   ADHDの不注意、ASDの感覚過敏
    【解決法】 客観的に自分の入力データを確かめる方法を考えよう
    ● 入力データを声に出して読み上げる
    ● 紙のデータを写すなら、視点をサポートする方法を考えよう
    ● パソコンのデータを元に入力するなら、あえてウィンドウを狭くする
    ● エクセルからワードに。 デジタルからアナログに。 環境を移せば、客観性を生み出せる
    ● エクセルでアクティブな行や列を見やすくする
    ● オフィスの読み上げ機能を使う
    ● 読み上げる速さの変更
 
 メールが来ているのに気づかなかった!
    【事例】   大切な取引先からのメールを、まさかの1週間放置
    【原因】   メールはためればためるほど、処理しなくなっていく
    【解決法】 メールルールの設定で、大切なメールを見落とさない
    ● メールルールの設定で、特定のメールを目立たせる
 
 何度もメールを誤送信してしまう
    【事例】   宛先間違いに、敬称・添付メールの付け忘れ。
           メールのミスを頻発してしまう
    【原因】   ミスに気づかない不注意と、反射的に送信ボタンを押してしまう癖
    【解決法】 メール作成の手順を変える&とっさのやり直しができるように設定を変更
    ● メール作成の手順は、添付→件名→文面→宛先で
    ● 設定を変更して送信ボタンを押してからでも取消ができるようにする
    ● 「Right Inbox for Gmail」での予約送信を利用する
 
第4章  「物忘れ」を何とかしたい!
           - メモ取り編
 
 メモが書けない、何を書いたらいいかわからない。全部書いたら間に合わない
    【事例】   メモの取り方がわからない
    【原因】   言葉のコミュニケーションの苦手と、「大事なポイント」のズレ
    【解決法】 ポイントはその場で考えるのではなく、あらかじめ「用意」しておこう
    ● メモのフォーマットを決めておく
 
 上手にメモが取れない
    【事例】   メモをしていたはずの仕事の手順、どこに書かれているのか行方不明に
    【原因】   整理が苦手なASDとADHD、ノートにその傾向が出てくることも
    【解決法】 メモ帳の使い方にルールづけをしよう
    ● 仕事の手順などあとで見返すメモは必ずタイトルをつけて書く
    ● 日付のついたダイアリー式の手帳を活用する
    ● デジタル派なら Evernote を活用してメモを一括管理
 
 会議でメモが取れない
    【事例】   流れについていけず、メモが取れないまま終わった会議。
           一体何が決まったんだ?
    【原因】   ASDにとって複数人での会話は鬼門
    【解決法】 会議前にわかっていることを予習する
    ● 会議メモは、事前にわかっていることをまとめておく
 
 どんな方法を使っても、とにかくメモは無理
    【事例】   学生時代からノートが取れなかった。
           仕事でもメモが必要なんて・・・
    【原因】   並行作業が苦手なASD。集中が難しいADHD。
           書字障害の可能性大
    【解決法】 無理なく記録できる環境を整えよう
    ● 音声ならボイスレコーダーを活用しよう
    ● 目で見る内容ならデジタルカメラで撮影。
       スマホのカメラなら、さらに便利
 
 短期記憶が苦手で、データ入力の効率が悪い
    【事例】   資料を見ながら入力作業。
           簡単な仕事なのに、効率が悪くてうまくいかない
    【原因】   入力作業には、ワーキングメモリーが関わってくる
    【解決法】 資料と作業画面、両方がすぐ視界に入る環を作ろう
    ● デュアルモニター環境で、パソコン業務の効率も2倍になる
    ● スマホやタブレットをサブモニター化する
    ● データだけ見られれば良いなら、ドロップボックスやメールでもOK
 
 前日までは覚えていても忘れものをしてしまう
    【事例】   忘れ物が多い。
           前日用意していても、朝出るときには忘れてしまう
    【原因】   ADHDの脳は、「意識に置き続ける」ことが苦手
    【解決法】 自分が「絶対に気づく」ポイントを押さえる
    ● 忘れそうなものはすべて袋やかばんに入れて、玄関のノブにかけておく
    ● 必ず持っていくものとセットにしておく
    ● 朝イチの予定は、携帯電話やテレビにフセンを貼っておく
 
 仕事の覚えが悪いと言われてしまう
    【事例】   仕事がなかなか覚えられない
    【原因】   発達障害の人は、他人のペースで教わるのが苦手
    【解決法】 はじめから完璧は無理!
           繰り返す中でも着実な向上をしていこう
    ● 業務手順習得の基本
 
 大事なものをすぐになくしてしまう
    【事例】   鍵、定期、携帯・・・ 毎朝何かを探している生活
    【原因】   ADHDの不注意と整理の苦手
    【解決法】 道具を使って、「気をつけなくてもなくさない」工夫を
    ● 縦の置き場所なら散らかりにくい。
       鉄製ドアなら、マグネットで貼り付けてしまおう
    ● 持ち歩くかばんの分だけ合鍵を作り、キーチェーンでかばんと一体化
 
第5章  「片づけられない」を何とかしたい!
         - 仕事・情報・ものの整理
 
 仕事の優先順位がわからない
    【事例】   複数の仕事の優先順位がつけられない
    【原因】   優先順位をつける力は、スケジューリングする力にリンクしている
    【解決法】 それぞれの仕事の情報を一覧表に整理してみよう
    ● タスクの優先度の基本的なルールを把握する
    ● 自分の仕事時間の見込みをつけられるようにするため、データを作ろう
 
 紙の書類の整理がつかない
    【事例】   いつの間にかたまってしまった書類の束。
           整理しようとしてもうまくできない
    【原因】   手順を考えるのが苦手な発達障害
    【解決法】 分類は3種類だけ
    ● 3種類の分類で迷わず整理できる
    ● スマートフォンを使って、手軽に書類をスキャンする
 
 デスク・引き出しの整理ができない
    【事例】   文房具にパソコンの小物類、細かいものでグチャグチャの引き出し
    【原因】   「もの」が好きなASD、「もったいない」のADHD
    【解決法】 とりあえず見た目だけでもきれいにする
    ● クリアケースやジップロックを活用し、散らばるものはすべてまとめてしまおう
    ● 「きれいになった状態」を写真に撮っておく
 
 パソコンのファイル整理ができない
    【事例】   パソコンのファイルの整理ができない。
           気づけばデスクトップに大量のファイル
    【原因】   ファイルやフォルダ―の命名が得意でない
    【解決法】 ファイルやフォルダーの命名ルールを決めよう
    ● ファイルの命名は「日付_種類」で
    ● フォルダー分けは、明確・確実に分類できるものに
 
第6章  「職場・仕事の人付き合い」を何とかしたい!
          - 報連相・コミュニケーション
 
 報告って、何を言えばいい?
    【事例】   業務の報告をしたら、「何を言っているのかわからない」と言われてしまった
    【原因】   相手の求めるポイントがわからない
    【解決法】 業務の報告ポイントは、用件・結論・理由・対策案
    ● 詳細は省いて、4点のポイントを簡潔に。
       詳細は質問されたらで良い
 
 雑談の仕方がわからない
    【事例】   普通に話しているつもりなのに、なぜか相手を怒らせてしまう
    【原因】   思ったことを口にしてしまう衝動性
    【解決法】 いくつかのポイントを押さえて、聞き上手を目指す
    ● 基本的なスタンスとして、「相手が主役」を貫こう
    ● 無口キャラ、敬語キャラも悪くない
    ● 発言はしなくても、仕事中に雑談の輪ができていたら なるべく加わろう
 
 会議についていけない
    【事例】   会議で発言しても、周りに変な顔をされたり苦笑いされたり。
           何がいけないんだろう?
    【原因】   「今の話題」と「目的」に沿わないと、会議の発言は受け入れられない
    【解決法】 発言したいことは、まず一旦文字に書き出そう
    ● 反射的な発言や質問はNG。
       まず文字で書き出して、発言すべきかを考える
    ● 会議の議題や目的、出席者などを予習して、発言や質問も事前に考えておく
    ● パソコンで議事録を取っているなら、なるべく映写してもらう
 
 結果は出しているのに評価されない 
    【事例】   一生懸命仕事をしているのに、「サボっているでしょう」と言われてしまう
    【原因】   見た目と言葉、さりげないアピールがポイント
    【解決法】 仕事の中で、自然にアピールできるプロセスを入れよう
    ● 仕事の手順に “リアルタイムメモ” を入れる
    ● 予定の掲示と定期報告でさりげないアピール
 
 電話応対がうまくできない
    【事例】   新入社員で電話応対が必須だが、何を言ったらいいかわからなくなってしまう
    【原因】   ASDにとって苦手の集大成、電話応対
    【解決法】 手元に電話応対用シートを用意しておこう
    ● 電話応対の基本は引き継ぎ。パターンを覚えれば対応できる
  
 電話応対のメモが取れない
    【事例】   電話応対のメモがうまく取れない
    【原因】   電話とメモという並行作業
    【解決法】 電話応対の負担を減らすツール類を活用する
    ● 専用の電話メモを用意しよう
    ● ボイスレコーダーを使って、録音しながら電話応対
 
 相談ができない
    【事例】   相談することに躊躇してしまう
    【原因】   コミュニケーションの失敗体験が、相談を避ける思考につながる
    【解決法】 「相談は正しい」ことと認識する
    ● 相談は仕事に必要なコミュニケーションの1つ
    ● 相談すべきこととすべきでないこと、どう判断すればいいのか?
    ● 相談内容を文字に書き起こして、整理してみる
 
 報連相のタイミングがわからない
    【事例】   質問や報告、足りないと言われたり多すぎると言われたり。
           一体いつやればいいの?
    【原因】   報連相もコミュニケーションの1つ。
           発達障害のコミュニケーションへの苦手が出る
    【解決法】 1日1回、定期的に状況報告
    ● フォーマットを決めれば、文章にも悩まない

テーマ:
瑠璃 真依子:著 文芸社 定価:1200円+税 (2017.10)
 
          私のお薦め度:★★★★☆
 
5年前に発刊された「どろだんご」に続く瑠璃真依子さんの最新刊です。
瑠璃さんについては、もうみなさんよくご存知だと思います。
育てる会でも講演をお願いした、岡山に住む素適なお嬢さんです。

前著では25歳までの生い立ちと、障害を告知されるまでの苦しみや挫折、大学3年で発達障害と気づくまでの話が綴られています。
 
そして大学三年時、教育学部の授業で勉強した「発達障害」の特徴があまりにすべてを満たしていること、そして心理士の人の対応が発達障害の人への対応と同じことから、「あっ、私はこれだ、これだったんだ」とピンときました。(前著「どろだんご」より)
 
それまで「うつ病」、「拒食症」、「適応障害」、「解離性人格障害」など、さまざまな診断を受けても釈然としなかった疑問がはれた瞬間だったのでしょう。
 
そんな中、やはり私は教師になっていろいろ辛い思いをしている子どもたちを一人でも救いたいと思い、もう一度頑張ることを決めました。(同)
 
そうして、教師となり、やがて再びの挫折から、教師の職を辞め入院・退院を経て (この病休中に主治医から、正式(?)に「広汎性発達障害」の診断を告げられたそうです)、立ち直りに向け歩き始めたところまでが、前著「どろだんご」でした。
 
さて、それから5年後の本著です。
瑠璃さんの5年間、何があったのでしょう。
ご存知の方もあると思いますので、結論から言えば、理解ある今の御主人と知り合って愛し合い、結婚をしてお子さんも生まれ、瑠璃さんも母となる・・・と、いうことなのですが、書いてしまえば、極めて順調な5年間のようですが、やはりそう簡単に一本道ではいかないのが、発達障害の方の人生です。

感覚にも特異性があり、考え方や言葉の受けとり方にも独特のものがあります。
妊娠してからのお話しです。
 
安定期に入る手前、だいぶ悪阻(つわり)も落ち着き、今度は動きたい衝動に駆られていた。そこで先生に、「いつから運動してもいいですか?」と聞いてみると「安定期に入る五か月からは少しずつ体を動かしてもいいですよ」と言ってくれた。そこで安定期に入る五か月ぴったりの日、プールに行って一キロ泳いだ。すると家に帰ったら出血し、病院に運ばれることになった。

赤ちゃんは無事だったけれど、先生に「少しずつって言ったでしょ? 自分の体と相談してくださいね」と言われ、「私、自分の体が分からないのです。疲れているとかしんどいとか、そういう感覚がなくて・・・」と言ったら、「先生もあなたじゃないから分からないよ」と言われ、その通りだと思った。そして加減が分からない私の運動がしばらく禁止になった。

それから八か月になるまで運動は我慢した。そして八か月から具体的に水泳八百メートルと決めてプールに行き、泳いだ。お腹が大きくなる十か月まで泳いだ。水着が入らなくて、最後は母のを借りてまで泳ぎに行った。
なかなか妊婦さんが十か月までクロールで泳いでいる姿はないらしくて、やっぱり私は変わっているのかもしれないと再認識した。
 
思わず笑ってしまいそうなエピソードですが、ご本人にとってはいたって真面目なお話しです。
身体を動かしているのが普通のADHDの人にとって、運動制限はすごいストレスで、瑠璃さんのように鬱になるケースまであるそうです。
他にも私たちが当たり前と思っていることでも、まだまだ気づかない発達障害の方の生きづらさはたくさんあると思います。
本書は当事者としての目線から、それを教えてくれる貴重な一冊であるのは間違いないと言えるでしょう。
 
【風邪を引いた母は嫌い】 
私は、昔から母が風邪を引いた姿を見るのが嫌だった。嫌というレベルではなく、動悸がしてパニックになって泣けるくらい嫌だった。
なぜ嫌かというと、いつもと違う状態を受け入れられないからだった。小さいころならまだしも、高校生になってもそれは同じだった。妹が風邪を引いても意地悪をしてしまうくらい嫌だった。母は「しんどいのに、お茶でも持ってきてくれないだろうか」と思っていたらしい。
 
お母さんの気持ちはわかりますね。発達障害と診断される前であれば、風邪を引いてしんどいのに、なぜ自分が娘に嫌われているのか全く分からなかったでしょう。
私たちにしても瑠璃さんから教えてもらえなかったら、その理由が「いつもと違う状態が許せない」という障害の特性からきているとは気づかなかったのではないでしょうか。
 
【フンフン攻撃】
私は、それまで人が話しかけてくれても、自分は聞いているつもりだったが、他の方を向いたり、違うことをしていたと思う。でもこの先生は「人の話を聞く = その人の方を向いてフンフンと頷く」と具体的に教えてくれたから、やっと私は、理解した。多分他の人は自然と身につけていくのかもしれないが、私はこうやって具体的に教えてくれないと分からない。二十歳過ぎてからでも人の話を聞くということを知ることができて本当によかった。
散々「人の話を聞け」とは言われてきたが、こういうことだったのかと初めて納得した。この教えてくれた先生には心から感謝している。だが実際に人の話を理解するには、やはり紙に書いて渡してほしい。
 
こんな風に瑠璃さんは、私たちにたくさんの事を教えてくれています。
瑠璃さん自身もこの“フンフン攻撃”で苦手だった面接試験をクリアし、岡山をはじめ三県での教員採用試験に全て合格できたそうです。
 
そして本書ではそれからの5年間、傍から見れば順調な歩みの蔭には、ご両親やご家族、そしてなによりご主人の理解と支援があったからこそ・・・ということを教えてくれます。
人はお互い助け合って生きている、と言われますが、発達障害など弱い部分、苦手なところのある人にとっては、余計それが大切だと実感させられた本です。
 
今お子さんを育てているご家族、特に女の子をお持ちの親御さんにとっては、理解ある男性に巡り合うことができて、必要な分だけの支援があれば、わが子たちも将来家庭を持ち、母親となることができるのだ、という明るい希望をもらえる一冊だと思います。

・・・男の子の場合には、家庭以外にも、職場での社会性やコミュニケーションも求められますので、ハードルはもう少し高いかもしれませんね。でも適切な支援や環境があれば乗り越えられる、というのは同じだと思います。
 
最後に瑠璃さんがそんなご主人との結婚を決められた時の話です。
 
【結婚】
プロポーズは付き合ってから半年で受けた。そのあと、両家に認めてもらうため、本当に二人でやっていけるかどうか一年という約束で同棲した。結婚を認めてもらうために二人で一生懸命頑張った。家事ができないので週二回家事支援を使って料理と掃除を手伝ってもらった。情緒不安定になったり、喧嘩もたくさんしたが、そのたびに地域生活支援センターに二人で行って仲介してもらいながら振り返り、原因を探ったり対策を考えたりした。
なぜ、彼との結婚を決めたのかは、後に書いているので読んでほしい。
 
さて、ここで問題です。瑠璃さんはなぜ結婚を決めたのでしょう。
それは、ぜひ本書を手に取って、ご自身で読んでいただきたいと思います。
本当に心に残るエピソードです。
私が本書をぜひともお薦め本に入れたかったお話しです。読み終わった貴方と、また本書について語りあいたいと思います。
 
          (「育てる会会報 234号」 2017.10 より)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
目次
 
1 序文
 
2 復職プログラム
 
3 教職退職後
    学習塾経営
    高等学校講師
    発達障害者当事者会
    講演活動
    結婚
    バスケットボール
    スポーツジム
    プール
    妊娠
    出産
    子育て
 
4 人との違い(私の障害の特性)
    自分の体の感覚
    じっとできない(ADHDの特性)
    集めることが好き
    見えないものへの不安感
    人の気持ちを汲み取ること
    大勢の場所や新しい環境
    見ているところ
    片づけができない
    同時にできない
    記憶とフラッシュバック
    コミュニケーションの取り方
 
5 発達障害の特性が現れた事件
    机ひっくり返し事件
    スカートめくり事件
    風邪を引いた母は嫌い
    おにぎり投げつけ事件
    サーモンいくら丼事件
    みんなでのお昼ごはん事件
    フンフン攻撃
    スポーツ飲料事件
    教室ずぶぬれ事件
    体育会は生徒が主役事件
    自殺未遂をしたときのこと
    大型ショッピングモール事件
    子どもの参観日
 
6 障害との付き合い方
   (1) できないことを認める
   (2) 苦手克服よりも得意を伸ばす
   (3) 自分の好きなことをする
   (4) 自分のできることをする
   (5) 無理はしない
   (6) 障害というより個性だと思う
   (7) 「助けて」が言えるようになる
   (8) 「ありがとう」と感謝する
 
7 現在受けているサポート
   (1) 生活面
        家事支援
        移動支援
        スケジュール管理と相談
   (2) 経済面
        障害基礎年金
        精神保健福祉手帳
        自立支援医療
 
8 家族について
    父
    母
    妹
    祖父母
    夫
    息子
 
9 終わりに
 
   あとがき
    
    
 

テーマ:
松本 敏治:著 福村出版 定価:1800円+税 (2017.4)
 
      私のお薦め度:★★★☆☆
 
ユニークな書名に惹かれて、思わず手にとりました。

「あのさぁ、自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」
本書のきっかけとなったのは、筆者(大学で発達障害の講義を持っていた松本先生)が、津軽地方で乳幼児健診にかかわっておられる臨床発達心理士の奥様のなにげないひとことだったそうです。

「いや、今日の健診で見た自閉症の子も、お母さんはバリバリの津軽弁なのに、本人は津軽弁しゃべんないのさ。やっぱ自閉症って津軽弁しゃべんねんじゃね」 
 
そう言われれば、我が家の息子も岡山弁はしゃべりませんね。
同じように、思いあたるご家庭も多いのではないでしょうか。

ただ、それはもしかすると噂の一つにすぎないのではないか? 何か科学的根拠はあるのだろうか?
そんな疑問を抱かれた松本先生はさすが研究者、調査と考察にとりかかります。
 
まずは、この噂がどのくらい広まっていて信じられているのか、それを明らかにしようとしました。このような都市伝説ならぬ「地方伝説」は、ちゃんとした説明をしていかねば、「津軽弁(方言)を話さない = 自閉症」という図式が定着してしまいます。先ほど述べたように特別支援教育や乳幼児健診などにかかわる専門家の人たちが、このような誤解から間違った情報を広げているとすると収拾がつきません。
 
ここから本書は、きわめて真面目な展開となります。
松本先生は、様々なデータをできるだけ収集し、いろいろな仮説をたてて検討を重ねていかれます。
 
研究がスタートした頃の2011年のシンポジウムで会場から出た意見だそうです。
「津軽弁や秋田弁などは、ただでさえ他地域の人間には聞き取りにくい。そのような特徴がASD(自閉スペクトラム症)の人の聞き取りを困難にしている可能性はないのか」

その例として、裁判員制度導入に関連して「津軽弁の供述を翻訳、青森県警が調書に導入」という新聞記事が紹介されています。

「わたげあたまささきたはんでふったいてまったじゃ」→「わ、たげ頭さきたはんで、ふったいてまったじゃ」→「私は大変頭にきたので、殴ってしっまったのです」
 
という意味になるそうですが、確かに他地域の人間には通訳がいりそうです。

でも、生まれたときから津軽弁の中で暮らしているASD児であれば、聞き取りでは意味理解はできるかもしれません。
 
そこで対象とするのは津軽弁だけでなく、各地の協力者を募ってそれぞれの方言とASDの関わりについてのデータ収集と研究に移っていきます。

最初に考えられた仮説の数々、詳しくは本書を読んでいただきたいので名前だけあげるとすれば、「音韻・プロソディ障害仮説」・「パラ言語理解障害仮説」・「終助詞意味理解不全仮説」・「メディア影響仮説」など、説明を読むとどれもありそうには思える仮説ですが、それだけでは完全に納得するまでにはいたりません。
 
そこで、松本先生が注目したのは、方言の持つ社会的機能です。
大人になれば、津軽弁も共通語も両方話せるようになるが、方言を使うかどうかは相手によって使い分けをしているということです。相手が他地域の人や上司、親しくない人には共通語で話し、仲間うちの親しい者同士は津軽弁で話しています。方言の持つ親近感や信頼感の機能でしょう。
社会性に障害を持つASD者にとっては特に苦手な分野ですね。これで大人のASDの方の方言不使用については、かなりの部分まで説明できると思います。
 
残りは、最初に戻って、まだそれほど互いの社会性を必要としていない、乳幼児健診に来るような幼い自閉症児たちも方言を話さないのはなぜかという疑問です。
ここで松本先生の奥様、今泉さん(仕事では旧姓を使われているそうです)の登場です。
 
今泉さんは、発達初期であれば津軽弁を話さない子どもをチェックすることでASDの特徴を見出すことができる場合もあると指摘しています。
たしかに、医療関係者や健診にかかわる人びとのあいだで、ASDは方言を話さないという印象があることを考えると、幼児期においてすでに、ASDの方言使用はみられないとも思えます。
つまり、定型発達(TD)の子どもは幼児期から周囲の話すことば(方言)を理解・産出している。一方、方言を話さない子どもの中にASDが存在することもありうるということのようです。
 
この印象は、その後の乳幼児健診にかかわっている津軽地域の保健師55名からの調査結果から、統計的には事実であると裏付けされました。そうであれば、確定診断には結びつかないとしても、健診の際のスクリーニングの要素の一としては使えそうですね。
でも、なぜASDの幼児の多くが方言を使わないのでしょう。
 
そこで松本先生が次に注目したのが、ASDの診断に使われる「ADI-R(自閉症診断面接)」の質問の中の自発的模倣の項目です。
 
その項目では、対象者が「家族の真似」をするかどうかを尋ねています。
興味深いことに、追加コメントとして「ここでは、人から教わったのではない、他者のさまざまな行動や動作、特徴などの自発的模倣に重点を置く。テレビや映画に出てくる人物の模倣は除外する」というのがあります。これはASD診断のための項目ですので、ASDは家族の真似をすることが困難ということを意味します。

しかし、コメントにはテレビや映画に出てくる人物の模倣は除外するとなっています。
つまり、ASDでもテレビや映画のキャラクターの真似はできるということを意味します。TDの子どもが家族の真似も、テレビ・映画のキャラクターの真似も可能であるのに対して、ASDでは家族の真似は困難でも、テレビ・映画のキャラクターの真似は可能だということになります。
 
つまり言語の習得においてTDは家族の使っている方言と、テレビ・映画画のキャラクターの共通語、両方の真似ができるのに対し、ASDは方言を使っている家族の真似が苦手なせいではないか・・・これが、松本先生の試論です。
もちろん、本書にはこれまで集められたデータや表がたくさん載せられていますので、それをご覧になって他の仮説を思いつかれる方もいらっしゃるでしょう。
また機会があればみなさんからもご意見をお聴きしたいと思っています。
 
ところで、本書を「お薦め本」に選ぶにあたって、この内容を療育を行っている「ぐんぐん」のスタッフに確認したところ、「バリバリの岡山弁を使っている子も多いよ」「方言も喋っているよ」と少し否定的でした。
でもよく聞いてみると、みんな高機能の子どもたちで、本書の考察とも一致していました。
 
つまり、かず君(重度のASD児)にみられたように障害の程度が重い場合には、周囲の人びとの会話からことばを学ぶことそのものに困難を抱えるのでしょう。一方、より軽度なASDの場合には、その障害は周囲からの言語習得(自然言語習得)を妨げるほどではなく、方言で話すことができる場合もあります。ただし、繰り返しになりますが、相手や状況そして心理的距離に応じた使いわけ(方言と共通語の使いわけ)が難しいのです。
 
なお、本書の内容は、最初に書いたようにいたって真面目な研究書です。題名と表紙のイラストだけに惹かれて「面白そう」と購入されると少し面食らうかもしれません。
また、すぐに療育に役立つノウハウ本でもありませんが、本書の副題 「自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く」 というテーマにはしっかり答えてくれている「面白い」1冊だと思います。
 
            (「育てる会会報 233号」 2017.9 より)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
目次
 
  発端
 
第1章 自閉症は津軽弁をしゃべんねっきゃ
第2章 北東北調査
第3章 全国調査
第4章 方言とは
第5章 解釈仮説の検証
第6章 方言の社会的機能説
第7章 ASD幼児の方言使用
第8章 ASDの言語的特徴と原因論
第9章 家族の真似とテレビの真似
第10章 ことばと社会的認知の関係
第11章 かず君の場合
第12章 社会的機能仮説再考
第13章 方言を話すASD
第14章 「行きます」
第15章 コミュニケーションと意図
 
  おわりに
 
  引用・参考文献
  謝辞
 

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス