『 「TEACCHのこれまで」と 「これからのTEACCH」 』
西島 衛治:編著 ウェルビーイング出版 定価:1650円(税込)(2026.8)
私のお薦め度:★★☆☆☆
副題も「TEACCHの未来像を探る」とあり、てっきりTEACCHプログラムを実践されておられる先生が書かれた本と思い購入いたしました。それにしても、いつもの「近隣の講演会等」で紹介している各地のTEACCHプログラム研究会の講師等では、あまり聞いたことのない著者の方だな・・・・
とページを開きました。
最初に、ご本人の立場の紹介があるかと思ったのですが、いきなり本題に入り、こんな風に始まります。
はじめに
TEACCHは「Treatment and Education of Autistlc and related Communication―handicapped CHildren(自開症(自閉症スペクトラム障害)および関連するコミュニケーション障害をもつ子どもの治療と教育)」の略ですが、972年(※注)にノースカロライナ大学チャペルヒル校で正式なプログラムとして発足しました。後に医師の佐々木正美先生が、日本に初めて紹介されて久しい。
しかし、教育界との見解には違いがみられたが、今日では、様々なかたちで「構造化」が取り入れられている。ここでは、TEACCHの未来像を探求していきたい。
(※注) 1972年の誤植だと思います・・・
・・・どうも、期待していた本とは違うようなので、編著者の西島衛治先生について検索してみました。
すると、現在は九州看護福祉大学の名誉教授で、博士(工学)で一級建築士、合わせて学校心理士、認定心理士、障害者雇用管理サポーターなども務められている、建築・福祉・教育を一人で合体させて研究されておられる方のようです。
ですから本書は、従来のTEACCHプログラムを実践されている先生方が書かれた解説本とは違い、TEACCHの外側から、客観的にTEACCHプログラムのこれまでの歴史や流れ、これから目指そうとする方向などを、“客観的に”に捉えようとしている本だと思います。
歴史については、まず“本家”として故エリック・ショプラー氏から始まり、「自閉症の文化(culture of autism)」や「構造化された指導(Structured Teaching)」などの解説、CARS(小児自閉症評定尺度)やPEP(心理教育プロフィール)などの評価ツールの紹介、そしてゲーリー・メジボフ氏から現在のディレクターであるローラ・クリンガー女史に至るまでの変遷について解説されています。
また、日本における流れについても、「日本導入史」として故 佐々木正美先生によるTEACCHの日本への紹介・導入から、ノースカロライナへの視察研修、川崎医療福祉大学エクステンションセンター内のTEACCH部の設立(現在の社会連携センターTEACCH Autism Program)、TEACCHプログラム研究会の全国展開などが紹介されています。ここまでが「TEACCHのこれまで」といえるのでしょう。
初めてTEACCHに触れられるかたには、わかりやすい歴史の入門編ですね。
一方で、外部からみた立場としては、学会からのTEACCHに対する過小的(?)評価についてもも取り上げられていました。
13の研究(自閉症のある172名を対象)のメタ分析
では、知覚・運動・言語・認知スキルヘの効果は小さく、コミュニケーションや日常生活動作、運動機能への効果は無視できる程度から小さい範囲でしたが、社会的行動と不適応行動については中~大の改善がみられました(ただしさらなる追試が必要)。
支持する証拠は範囲が限定的だとしばしば批判され、多くの研究が少人数のサンプルで厳密な実験計画を欠くため、一般化可能性に疑間が残るとされています。
このため、応用行動分析(ABA)などと比べると「確立されたエビデンスに基づく実践」というより「有望な実践(emerging/promising practice)」と位置づけられることが多く、この点は理解しておくとよいでしょう。
これなどは、TEACCH擁護派の私などから言わせていただくと、子育てにおいて何を重視するか、というアプローチの違いのように思えます。
もともとTEACCHでは知覚・言語・認知スキルや日常生活動作、運動機能などの能力を高めて、定型発達者に近づけるのを目的とするのではなく、「自閉症の文化」を尊重し、“自閉症のままで”不適応行動を減らし、社会的行動の質を高めようとしているからだと思います。「厳密な実験計画」で結果を出すより、日々の暮らしが「中から大の改善」が得られるのなら、親としては嬉しいですね。
また、こんな専門家の方からの評価だけでなく、一般の学校や施設の方からも、誤解によるTEACCH批判、構造化への批判を耳にすることもあります。それに対しての、反論も紹介されています。
川崎医療福祉大学の諏訪利明らは、「構造化」という言葉をあえて使わず「ストラクチャードティーチング」と表記する論文(発達障害研究,2023)を発表しました。その理由は、方法論としての構造化が一人歩きした結果、構造化に対してさまざまな誤解を招いている現状を整理したいから、と明言しています。
その趣旨は、構造化を「絵カードを貼る」「ついたてを置く」といった手法の当てはめとして表面的に捉えてしまう誤解への警鐘です。
本来のTEACCHでは、支援は「自閉症の理解」から始まり、ASD特有の認知特性=「ユニークな学習スタイル」(脳機能の違いを“文化の違い”のように捉える)に合わせて情報提供する、という順序が本質です。ASDの人を変えるのではなく、一人ひとりの学習スタイルに合わせるという考え方に立っています。
言い換えると、構造化は目的ではなく、個別評価(アセスメント)に基づいて本人の理解を支えるための手段にすぎません。評価を欠いた画一的な「型としての構造化」は、TEACCHの理念から外れる、というのが日本の指導的立場からの一貫したメッセージです。実際、TEACCHプログラム研究会東京支部などでも近年は「評価から考える構造化」がテーマに掲げられています。
こんな風に、TEACCHについて、いろんな角度から紹介されている本書ですが、「みなさんにお薦め・・・・」とは、“今のところ” 残念ながら言えないのが私の感想です。
と、言うのも本書は2026年8月24日初版となっているのですが、特に後半に近づくにつれ、書籍として未整理な部分、アラが目立ってしまっています。締切が近づき、あわてて出版されたためか、途中からは、突然フォントや行間がかわっていたり、妙な注釈がはいったり・・・・結びの部分にいたっては・・・・
5個のファイルを表示しました,4個のコマンドを実行しました,フアイルを作成しました・4ノート
全6ページのWord文書に整えました。序・三部(各節に小見出しを立て、第三節の三つの論点は太字ラベルで区別)・「収斂」・主要参照文献という構成で、A4・明朝体本文+ゴシツク見出し、ページ番号付きです。末尾に、分析は対話に基づくものであること、ベイズ流SCEDが発展途上の領域である旨の注記を添えています。 (原文のまま)
こんな出版社の担当者に宛てた、著者からのメールの一部のような文がそのまま掲載されていたり、またその指示の通り、それまでの文章が、「明朝体本文+ゴシック見出し、ページ番号付き」で、そのまま論文の形で再度掲載されていたりします。
要するに、書籍として出版、販売するには、残念ながら未完成な1冊となっています。
題名に惹かれる方もいらっしゃると思いますが(私のように)、みなさんにお薦めするのは、体裁を整えてからの「第2版」から、とさせていただくのが無難なようですね。
(「育てる会会報 341号」(2026.9)より)
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目次
はじめに
TEACCHの起源と発展の経緯
誕生の背景(1960年代)
州全体プログラムヘ(1972年)
診断・評価ツールの整備
中核概念:「自閉症の文化」と構造化
エビデンスをめぐる評価
現在の動向
本家(ノースカロライナ大学)
専門職資格制度
日本での展開
実践現場での位置づけ
① 日本導入史 - 佐々木正美とTEACCH研究会
出会いと導入(1980年代)
継続的な視察研修
制度化と拠点形成
② エビデンス論争 -「有望だが証拠は弱い」というジレンマ
批判側の論拠
擁護側の論拠と最近の動き
論争の要点整理
③ 特定技法 - 「構造化(Structered Teaching)」の中身と誤解
構造化の5要素
「構造化の一人歩き」という重要な問題提起・.
全体の見取り図
Ⅰ. 諏訪利明・川崎医療福祉大学グループの論考
-「構造化」から「ストラクチャードティーチング」へ
論文の位置づけ
なぜ「構造化」という言葉を避けるのか - 内実の議論
コアパリューの拡張 - 公正さ(equity)と通常学級
Ⅱ. ABAとの理論的対比
- 「先行事象へのアプローチ」という共通性と、哲学の相違
出発点の違い - 認知障害説と行動理論
ABC分析の枠組みとの関係
ジェネラリストvsスペシャリストという組織論的相違
Ⅲ. 評価ツール ― PEP-3とTTAP、そして就労移行(CSAW/T-STEP)
診断・幼児~学齢期:CARS2とPEP-3
移行期:TTAP(学校から成人生活へ)
就労現場でのアセスメント:CSAWというOJT思想
T-STEP(高機能ASDの高校~就労移行)
全体の統合的理解
Ⅰ. 梅永雄二による就労支援研究 ― ハードスキルからソフトスキルヘ
問題意識の核心:離職理由の9割がソフトスキル
TTAPとBWAP2の使い分け ― 相補的な二つのツール
就労支援者の専門性という論点
特別支援学校のキャリア教育への応用
Ⅱ. Viruēs-Orttegaら(2013)メタ分析 ― 効果量の不均―性をどう読むか
領城別の効果量
不均―性をどう解釈するか ― 「社会的行動で中~大、コミュニケーションで小」の意味
方法論的限界とASATの評価
競合モデルとの比較 ― EIBIとの対比
Ⅲ. ローラ・クリンガー体制以降の理論的変化
組織名の変更が象徴するもの
クリンガーの理論的貢献 ― 「暗黙的学習(implicit learning)」
ストラクチャードティーチングの再定義 ― 「先行事象システム(Antecedent System)」
「生涯にわたるストラクチャードティーチング」 ― 成人期・高齢期への展開
T―STEP ― 高機能ASDの就労移行という新展開
全体の統合 ― 三つのテーマが描く一つの弧
Ⅰ. クリンガーらの暗黙的学習理論 ― その認知科学的基盤と、それをめぐる激しい論争
出発点:プロトタイプ形成の障害(2001年)
理論的な精緻化:「暗黙的学習障害仮説」(2007年)
ここからが論争 ― 「むしろ暗黙的学習は保たれている」という反証
メタ分析による決着と、微妙なニュアンス
この論争がTEACCHにとって持つ意味
Ⅱ. 市川ら(2013)のRCT ― 日本発、TEACCHベースSSTの詳細
研究デザイン
アウトカム指標と結果 ― 4つの効果量
「誰に効くか」という重要な発見
パイロツトとしての正しい位置づけ
Ⅲ. アジア圏でのTEACCH文化的適応 ― 「文化は違いを生むか?」という問い
文化的緊張の核心 ― 「親の役割」というボトルネック
実証的エビデンス ― それでも「効く」
メタ分析が示す「国による効果の違い」 ― 文化差の定量的証拠
「適応か、そのまま導入か」という根本問題
日本の位置づけ ― 諏訪の議論との接続
全体の統合 ― 三つのテーマが照らす一つの構造
Ⅰ. Tsang et al.(2007) ― 香港版TEACCHの適応と、「文化は違いを生むか?」への逆説的な答え
研究デザイン
何を「適応」したのか ― 評価ツールの現地化
逆説的な結果 ― 「文化は違いを生まなかった」
なぜこの「文化差の小ささ」が重要なのか
ただし残つた課題 ― 一般化可能性の限界
Ⅱ. 中枢性統合(weak centra1 coherence)理論とTEACCH構造化の関係
理論の内容 ― 「木を見て森を見ず」
理論の精緻化 ― 「欠陥」から「認知スタィル」へ
TEACCH構造化との直接的な関係
日本での受容 ― 「中枢性統合の弱さ」として
Ⅲ. 日本独自の実践理論 ― 水野敦之の「氷山モデル」とフレームワーク
出発点の問題意識 ― 「支援の一貫性」
「氷山モデル」とは何か
なぜ「相互作用」が肝心なのか
ABAとの統合 ― ABC分析の活用
フォーマル/インフオーマル・アセスメントの位置づけ
協働のツールとして
「特性かるた」などへの展開
全体の統合 ― 理論・実証・文化・実践の四層構造
I. 実行機能理論とTEACCHスケジュール ― もう一つの認知理論的支柱
理論の起源 ― 前頭葉損傷とのアナロジー
実行機能の内実 ― 三つの中核ドメイン
TEACCHスケジュール・ワークシステムとの直接的関係
Ozonoffとショプラーの制度的つながり ― 「代償の環境」という思想
理論の留保 ― 特異性の問題
Ⅱ. 日本の強度行動障害支援者養成研修におけるTEACCH/氷山モデルの制度的位置づけ
研修制度の概要
「特性×環境の相互作用」という国の公式見解
研修カリキュラムにおける構造化と氷山モデル
制度の担い手 ― のぞみの園と国リハ
制度的位置づけの意義 ― TEACCHの「日本化」の到達点
Ⅲ. ニューロダイバーシティ運動とTEACCHの「自開症の文化」概念の再評価
TEACCHの「自閉症の文化」概念とは
ニューロダイバーシティ運動の主張
親和性 ― TEACCHの「先見性」
緊張 ―「正常化」批判との距離
再評価の現在地 ― 「支援ニーズの全域」への視点
全体の統合 ― 認知理論・制度・思想の三層が描く現在
I. TEACCHと当事者研究(綾屋紗月・熊谷晋一郎)の対話可能性
当事者研究とは何か ― 「一人一研究」の方法論
「まとめあげ困難仮説」 ― 当事者研究が生んだ理論
TEACCHの認知理論との驚くべき符合
構造化の意味の、当事者からの照射
対話における緊張 ― 「社会モデル」からの問い
対話可能性の総括
Ⅱ. 成人期・高齢期の自閉症支援におけるTEACCH ― 「生涯支援」という原点
「生涯支援」はTEACCHの創設思想そのもの
成人期支援の具体 ― 就労と自立課題
高齢期支援と、Klingerのエイジング研究
日本での高齢期支援の制度的基盤
高齢期支援における理論的課題
Ⅲ. 単一事例実験デザイン(SCED) ― 構造化のエビデンスを個別に検証する方法論
SCEDとは何か ― 「本人が本人の対照群になる」
因果推論の論理 ― 「ベースライン・ロジック」
主要なデザイン ― 反転法と多層ベースライン法
品質基準 ― What Works Clearinghouse(WWC)標準
TEACCH/構造化のエビデンスにとつての含意
全体の統合 ― 三つの主題が描く「個への回帰」
一・ ソーシヤル・マジョリティ研究とTEACCHの異文化通訳モデル
二・ SCEDデータを統合する新しい統計手法
三. 日本のTEACCH公認専門職認証制度
三者の収触
ソーシャル・マジョリティ研究:コミュニケーシ∃ン学の共同創造
「個への回帰」を支える三つの柱
序
―. ソーシャル・マジョリティ研究とTEACCHの異文化通訳モデル
環を閉じる ― 双方向の翻訳へ
生産的な摩擦 ― 誰の文化を代表するのか
二. SCEDデータを統合する新しい統計手法
非重複指標の系譜
ベイズ流アプローチという層
「個への回帰」との結びつき
三. 日本のTEACCH公認専門職認証制度
事実関係 ― 認証はどこが発行するのか。`
三つの分析的論点
収敏 三者はいかにして一点で出会うか
引用文献
参考文献



































































