『 重い自閉症の支援
~強度行動障害・問題行動への対応・予防~ 』
高橋みかわ:著 ぶどう社 定価:2200円+税 (2025.9)
私のお薦め度:★★★☆☆
東日本大震災のあと、育てる会でお願いして、東北から岡山まで講演にきていただいたこともある高橋 みかわさんの近著です。
その時の演題は「大震災 その備えと生きのびるために ~自閉っこ家族のサバイバルスキル~」というテーマで、非常事態に陥ったときに、自閉症をもつ我が子と家族が、どのように生きのびるか、切り抜けるかというお話でしたが、本著では日々の普段の暮らしの中で、強度行動障害の状態にある子どもと、いかに安定した暮らしを維持していくかというお話です。
著者の高橋さんが、最初に書かれているように、高機能な自閉症の方の情報や接し方、本人の体験談などの本やセミナーはよく目にするようになりましたが、知的に重度の方の情報は少ないですね。
しかし模倣力がない重い知的障害、さらに自閉症の特性が強く、自傷や他害がある自閉症児者の情報は、あまり見ることがありません。彼らが大人になり、地域社会で生活し、親なきあとも穏やかに、彼ららしく社会で生活している姿を見たり、その姿をイメージすることもなかなかできません。
その原因の1つに、支援の難しさがあるのだと思います。
自閉症の特性が強ければ強いほど、模倣力が乏しく、知的障害が重ければ重いほど、支援は難しい。さらには、支援のわずかな手順やタイミングのちがいが、本人の混乱を招き、自傷や他害行動や、支援者が「困つた」と思う行動を起こします。支援1つで豹変します。
まさに支援は、「1人に1つ」です。だからこそ、支援者全員で本人の情報と支援を共有し、いつどこにいても同じように一貫性のある支援が必要なのだと思います。
そうですね。知的に重度であればあるほど、“その子”の状態は一人ひとり大きく違い、“その子”に合わせた支援が必要になってきます。 そして“その子”にぴったりの話はどの本にも載っていないので、支援を考えるのは親や周りの支援者の方・・・と言っても、周りの支援者は“今”の状態しか知らないので、・・・結局は親が工夫していくしかないのかも知れません。
幸いにして我が家は、重度の知的障害でありながらも、幼い頃からTEACCHで環境を整えることの大切さを教えていただいたおかげで(本人に模倣力だけはあったせいかも知れませんが)、強度行動障害までに陥ることはなかったのですが、当時の先輩のお兄さん方は、確かにすごかったですね。
最近の療育現場でASDの子どもたちに接していて感じるのは、高機能な子どもたちが増えてきたこともあるのでしょうが、「以前のような強者(つわもの)を見かけることが少なくなった」という印象です。これには手前味噌ですが、私たちの取り組んでいるTEACCHやESDM、PECSのようなエビデンスのある療育も寄与しているようにも思えるのですが・・・
・・・それはさておき、本書に戻って、高橋さんチの“きら”くん(本書ではそう呼ばれています)、昔からの強者に違いなく、そんなきらくんをパニックやかんしゃくに陥らせることなく、安定した状態が続くように、と、経験から編み出されたのが本書です。
もちろん、簡単にいくわけもなく、試行錯誤、悪戦苦闘の末に生み出された対応法です。
「トイレがシェルター」と聞いて、強度行動障害の状態にある人と生活する人は、大きくうなずく。「まずい!」と思ったら一目散にトイレに向かう、そしてきっちり鍵を開める。わが子が落ち着くまでひたすら息をひそめる。誰も助けに来てくれない。
トイレでじっくり考える。「ごめんね」「怖い思いさせちゃったね」「混乱させちゃったね」でも、痛い思いは嫌なのよ。わが子とはいえ、憤怒のあなたは怖いのよ。様子をうかがう、「もう出ても大丈夫?」、 トイレのドアを少し開けて様子を確認する。
ある日、中学生の次男坊(きらの弟)と私は些細なことで大声の言い合いに。私は、高ぶった気持ちのままについつい強めにきらに声をかけた。「きら! おふろ! 」
きらが、ばっと起き上がり鬼の形相で私の胸に頭突き1発。「痛い!」「今の音、折れたかな?」
2発目を狙うきら。私は、必死にトイレに逃げ込んだ。追いかけるきら。しばら<、唸りながら大きく息を吐きながら、トイレのドアを開けようとしたり、うろうろしたりする。怖い。そして痛い。
きらの動きが収まったところでトイレから出て、きらの見えないところに避難。しばら<すると、きらは(ごめんなさい)ポーズをしながらひたすら頭を下げる。悲しそうな、不安そうな顔。
私は、きらの頭突きで両鎖骨肋骨骨折。はたから見たら、けがをした私は被害者。でも、ちがう……きらは怖かったんだよね。怖くて、訳がわからなくて、混乱した。その原因は私。被害者はきら。
そんな高橋さん、まず始めたのが、きらくんからのサインを拾って、それをグリーン(良い)、イエロー(いつもの状態)、レッド(悪い)にゾーン分けして、パニックが起こる前に見つけること。そしてそれを文字にして支援者と共有しておくこと。これで「原因が分からず、突然パニックになる・・・」なんてことがずいぶん減るはずです。原因が分からない、と思うのは、サインを見落としているだけ・・・
そして、そのサインの出る原因を、自閉症自体の特性、重い知的障害からくるもの、そして周りと合わせる力の苦手さ、の3つの視点から分析することが必要だと言われています。
また、支援者間で支援の基準を一貫したものにするために、みんなで話し合ってそれぞれの場面での状態表を作っておくことも推奨されています。
対象を目、鼻息、声などの表情などや、歩行、食事、排便、手洗いなどの日常生活、拒否、要求、SOSなどのコミュニケーション、定同行動やこだわり、後頭部たたきなどの自閉傾向サインなどの項目別に、①落ち着いている状態、②少し崩れた状態、③大きく崩れた状態、④警戒警報の4区分に分類した表です。
本書では、例としてきらくんの状態表が4ページにわたり、57項目紹介されています。
各項目で4区分の記載ですから、状態の記載欄は200以上になります。
これを支援者の方々が複数人で話し合いながら作っていくのが支援を統一するための最良の道として、その会議のやり方までも具体的に紹介されていただいています。
されど、現実問題、昨今の人手不足の福祉現場でそんな時間を複数の支援者に求めるのは難しいかもしれませんね。実際に本書のきらくんの状態表も、お母さんの高橋さんが作って、支援者全員に共有してもらっているそうです。やはり最後はお母さんの出番でしょうか。
たとえば、“強いこだわり” や “常同行動の修正”を、きらくんの状態表から見つけたという例です。
きらのペツトボトルの飲み方の状態表
サイン:他人のペットボトルの残りを飲む
落ち着いている状態:
支援者が側にいれば、長時間他人のものが置いてあっても飲まない。
少し崩れた状態:
目についただけでも飲もうとする。支援者の禁止の指示を守れる。
大きく崩れた状態:
左記(上記)状態が強く、支援者が側にいて「禁止」の指示が入っても、飲み干す。
警戒警報発令:
支援者が側にいても、「禁止」の指示が入らず、目に入った瞬間に飲み干す。
強いこだわり:表を見ると、「落ち着いている状態」のときでさえも、支援者が側にいないと長時間放置されていれば他人のヘットボトルでも飲み干してしまいます。
→「ベットボトルの飲み干し」は、強いこだわりになります。
環境:状態が崩れていくと、飲み干す行動がエスカレートしていきます。「少し崩れた状態」では、指示で行動を止められます。「大きく崩れた状態」では、指示でいったん止められますが長くはもちません。「警戒警報」になると、指示も入らず見た瞬間に飲み干してしまい、「禁止」の指示で逆に自傷や他害の可能性もあります。
→この場合、行う環境整備は、「徹底してペットボトルが視野に入らないようにする」になります。
最初に書いたように、状態の表われ方が一人ひとり大きく違うのが、特に知的に重度のASDの人なので、本書に書かれている分類やそれに対応する支援も、当然ながらそのままでは使えるわけではありません。ここに書かれているのは、あくまで、きらくんで上手くいった、あるいは目指しているという支援のやり方です。
本書を読まれた保護者の方は、自分なりのわが子のサインの見つけ方や、その対応を自分で考えていかなければなりませんね。本書は、それにとりかかるための、考え方の道標、たとえるならばふもとの駐車場で見つけた「ここから登ります」という“登山口”の案内板のように感じました。
でも一人ひとり違うとしても、親として我が子の幸せを願う思い、それは同じですね。
苦しい状態にあるのに、自分が困っている原因もわからず、そこから抜け出す手立てもわからず苦しんでいるのなら、それに対する支援が必要です。その支援が、状態を整える支援です。
私は、きらに少しでも早く、少しでも長い時間を「落ち着いている状態」で過ごしてほしいです。
それは、障害の有無にかかわらず、生きる基本だと思います。
このように考えると、状態を整える支援は特別なものではなく、人が「落ち着いた状態」で過ごすという、当たり前の、生きるために必要な支援だと思います。
はじめに高橋さんが訴えているとおり、確かに書店を覗いてみても、重い自閉症の方への具体的な支援の本は少ないのが現実でしょう。
本書がそんな保護者の方の取り組み方への、数少ない参考の一冊となれば、と紹介させていただきました。
(「育てる会会報 331号」(2025.11) より)
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目次
はじめに
序章 親のフェードアウト
1部 強度行動障害・問題行動のための『支援の基本』
1章 3つの視点で 『支援の意味』が見えてくる
2章 合わせる力を意識すると 『本人の状態』が見えてくる
3章 サインを拾うと 『必要な支援』が見えてくる
4章 状態を共有すると 『支援の基準』が見えてくる
2部 強度行動障害・問題行動のための『支援のコツ』
5章 「風雲・自閉城」で支援の 『介入ポイント」が見えてくる
6章 問題行動への支援のコツ1 『立て直し支援』の基本
7章 「立て直し支援」介入・修正のポイント ~3つの視点から~
8章 問題行動への支援のコツ2 『予防支援』で問題行動を防ぐ
おわりに






















































