私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

息子が生まれ、やがて自閉症と診断されてから、はじめはなんとか治す方法はないかとむさぼるように読み、やがてようやく障害を受け容れ、これからは自閉症のままで幸せに生きていく道を探しながら・・・これまで巡りあった本の数々です。


後に続く方が、書店で手に取ってみたときの参考材料の一つにでもなれば、そんな思いで紹介します。著者名での検索は、右のテーマ欄から探してみてください。

書名別検索は『書名順索引』 からどうぞ。


今息子哲平が就労して、安定して暮らしているのも、これらの本からいただいたたくさんのアドバイスのおかげも少なからずあったと思っています。

『 「TEACCHのこれまで」と 「これからのTEACCH」 』


西島 衛治:編著 ウェルビーイング出版 定価:1650円(税込)(2026.8)

 

                            私のお薦め度:★★☆☆☆

副題も「TEACCHの未来像を探る」とあり、てっきりTEACCHプログラムを実践されておられる先生が書かれた本と思い購入いたしました。それにしても、いつもの「近隣の講演会等」で紹介している各地のTEACCHプログラム研究会の講師等では、あまり聞いたことのない著者の方だな・・・・
とページを開きました。
最初に、ご本人の立場の紹介があるかと思ったのですが、いきなり本題に入り、こんな風に始まります。

はじめに
TEACCHは「Treatment and Education of Autistlc and related Communication―handicapped CHildren(自開症(自閉症スペクトラム障害)および関連するコミュニケーション障害をもつ子どもの治療と教育)」の略ですが、972年
(※注)にノースカロライナ大学チャペルヒル校で正式なプログラムとして発足しました。後に医師の佐々木正美先生が、日本に初めて紹介されて久しい。
しかし、教育界との見解には違いがみられたが、今日では、様々なかたちで「構造化」が取り入れられている。ここでは、TEACCHの未来像を探求していきたい。

                                      (※注) 1972年の誤植だと思います・・・

・・・どうも、期待していた本とは違うようなので、編著者の西島衛治先生について検索してみました。

すると、現在は九州看護福祉大学の名誉教授で、博士(工学)で一級建築士、合わせて学校心理士、認定心理士、障害者雇用管理サポーターなども務められている、建築・福祉・教育を一人で合体させて研究されておられる方のようです。

ですから本書は、従来のTEACCHプログラムを実践されている先生方が書かれた解説本とは違い、TEACCHの外側から、客観的にTEACCHプログラムのこれまでの歴史や流れ、これから目指そうとする方向などを、“客観的に”に捉えようとしている本だと思います。


歴史については、まず“本家”として故エリック・ショプラー氏から始まり、「自閉症の文化(culture of autism)」や「構造化された指導(Structured Teaching)」などの解説、CARS(小児自閉症評定尺度)やPEP(心理教育プロフィール)などの評価ツールの紹介、そしてゲーリー・メジボフ氏から現在のディレクターであるローラ・クリンガー女史に至るまでの変遷について解説されています。


また、日本における流れについても、「日本導入史」として故 佐々木正美先生によるTEACCHの日本への紹介・導入から、ノースカロライナへの視察研修、川崎医療福祉大学エクステンションセンター内のTEACCH部の設立(現在の社会連携センターTEACCH Autism Program)、TEACCHプログラム研究会の全国展開などが紹介されています。ここまでが「TEACCHのこれまで」といえるのでしょう。

初めてTEACCHに触れられるかたには、わかりやすい歴史の入門編ですね。

一方で、外部からみた立場としては、学会からのTEACCHに対する過小的(?)評価についてもも取り上げられていました。

13の研究(自閉症のある172名を対象)のメタ分析
では、知覚・運動・言語・認知スキルヘの効果は小さく、コミュニケーションや日常生活動作、運動機能への効果は無視できる程度から小さい範囲でしたが、社会的行動と不適応行動については中~大の改善がみられました(ただしさらなる追試が必要)。
支持する証拠は範囲が限定的だとしばしば批判され、多くの研究が少人数のサンプルで厳密な実験計画を欠くため、一般化可能性に疑間が残るとされています。
このため、応用行動分析(ABA)などと比べると「確立されたエビデンスに基づく実践」というより「有望な実践(emerging/promising practice)」と位置づけられることが多く、この点は理解しておくとよいでしょう。


これなどは、TEACCH擁護派の私などから言わせていただくと、子育てにおいて何を重視するか、というアプローチの違いのように思えます。

もともとTEACCHでは知覚・言語・認知スキルや日常生活動作、運動機能などの能力を高めて、定型発達者に近づけるのを目的とするのではなく、「自閉症の文化」を尊重し、“自閉症のままで”不適応行動を減らし、社会的行動の質を高めようとしているからだと思います。「厳密な実験計画」で結果を出すより、日々の暮らしが「中から大の改善」が得られるのなら、親としては嬉しいですね。

また、こんな専門家の方からの評価だけでなく、一般の学校や施設の方からも、誤解によるTEACCH批判、構造化への批判を耳にすることもあります。それに対しての、反論も紹介されています。

川崎医療福祉大学の諏訪利明らは、「構造化」という言葉をあえて使わず「ストラクチャードティーチング」と表記する論文(発達障害研究,2023)を発表しました。その理由は、方法論としての構造化が一人歩きした結果、構造化に対してさまざまな誤解を招いている現状を整理したいから、と明言しています。
その趣旨は、構造化を「絵カードを貼る」「ついたてを置く」といった手法の当てはめとして表面的に捉えてしまう誤解への警鐘です。
本来のTEACCHでは、支援は「自閉症の理解」から始まり、ASD特有の認知特性=「ユニークな学習スタイル」(脳機能の違いを“文化の違い”のように捉える)に合わせて情報提供する、という順序が本質です。ASDの人を変えるのではなく、一人ひとりの学習スタイルに合わせるという考え方に立っています。
言い換えると、構造化は目的ではなく、個別評価(アセスメント)に基づいて本人の理解を支えるための手段にすぎません。評価を欠いた画一的な「型としての構造化」は、TEACCHの理念から外れる、というのが日本の指導的立場からの一貫したメッセージです。実際、TEACCHプログラム研究会東京支部などでも近年は「評価から考える構造化」がテーマに掲げられています。


こんな風に、TEACCHについて、いろんな角度から紹介されている本書ですが、「みなさんにお薦め・・・・」とは、“今のところ” 残念ながら言えないのが私の感想です。
と、言うのも本書は2026年8月24日初版となっているのですが、特に後半に近づくにつれ、書籍として未整理な部分、アラが目立ってしまっています。締切が近づき、あわてて出版されたためか、途中からは、突然フォントや行間がかわっていたり、妙な注釈がはいったり・・・・結びの部分にいたっては・・・・

5個のファイルを表示しました,4個のコマンドを実行しました,フアイルを作成しました・4ノート
全6ページのWord文書に整えました。序・三部(各節に小見出しを立て、第三節の三つの論点は太字ラベルで区別)・「収斂」・主要参照文献という構成で、A4・明朝体本文+ゴシツク見出し、ページ番号付きです。末尾に、分析は対話に基づくものであること、ベイズ流SCEDが発展途上の領域である旨の注記を添えています。 
  (原文のまま)

こんな出版社の担当者に宛てた、著者からのメールの一部のような文がそのまま掲載されていたり、またその指示の通り、それまでの文章が、「明朝体本文+ゴシック見出し、ページ番号付き」で、そのまま論文の形で再度掲載されていたりします。

要するに、書籍として出版、販売するには、残念ながら未完成な1冊となっています。

題名に惹かれる方もいらっしゃると思いますが(私のように)、みなさんにお薦めするのは、体裁を整えてからの「第2版」から、とさせていただくのが無難なようですね。

                     (「育てる会会報 341号」(2026.9)より)
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目次

  はじめに

TEACCHの起源と発展の経緯

  誕生の背景(1960年代)
  州全体プログラムヘ(1972年)
  診断・評価ツールの整備
  中核概念:「自閉症の文化」と構造化

エビデンスをめぐる評価

現在の動向

  本家(ノースカロライナ大学)
  専門職資格制度
  日本での展開
  実践現場での位置づけ


① 日本導入史 - 佐々木正美とTEACCH研究会

  出会いと導入(1980年代)
  継続的な視察研修
  制度化と拠点形成

② エビデンス論争 -「有望だが証拠は弱い」というジレンマ

  批判側の論拠
  擁護側の論拠と最近の動き
  論争の要点整理

③ 特定技法 - 「構造化(Structered Teaching)」の中身と誤解

  構造化の5要素
  「構造化の一人歩き」という重要な問題提起・.

全体の見取り図

Ⅰ. 諏訪利明・川崎医療福祉大学グループの論考
     -「構造化」から「ストラクチャードティーチング」へ

  論文の位置づけ
  なぜ「構造化」という言葉を避けるのか - 内実の議論
  コアパリューの拡張 - 公正さ(equity)と通常学級

Ⅱ. ABAとの理論的対比
     - 「先行事象へのアプローチ」という共通性と、哲学の相違

  出発点の違い - 認知障害説と行動理論
  ABC分析の枠組みとの関係
  ジェネラリストvsスペシャリストという組織論的相違

Ⅲ. 評価ツール ― PEP-3とTTAP、そして就労移行(CSAW/T-STEP)

  診断・幼児~学齢期:CARS2とPEP-3
  移行期:TTAP(学校から成人生活へ)
  就労現場でのアセスメント:CSAWというOJT思想
  T-STEP(高機能ASDの高校~就労移行)

全体の統合的理解

Ⅰ. 梅永雄二による就労支援研究 ― ハードスキルからソフトスキルヘ

  問題意識の核心:離職理由の9割がソフトスキル
  TTAPとBWAP2の使い分け ― 相補的な二つのツール
  就労支援者の専門性という論点
  特別支援学校のキャリア教育への応用

Ⅱ. Viruēs-Orttegaら(2013)メタ分析 ― 効果量の不均―性をどう読むか
 
  領城別の効果量
  不均―性をどう解釈するか ― 「社会的行動で中~大、コミュニケーションで小」の意味
  方法論的限界とASATの評価
  競合モデルとの比較 ― EIBIとの対比

Ⅲ. ローラ・クリンガー体制以降の理論的変化

  組織名の変更が象徴するもの
  クリンガーの理論的貢献 ― 「暗黙的学習(implicit learning)」
  ストラクチャードティーチングの再定義 ― 「先行事象システム(Antecedent System)」
   「生涯にわたるストラクチャードティーチング」 ― 成人期・高齢期への展開
  T―STEP ― 高機能ASDの就労移行という新展開

全体の統合 ― 三つのテーマが描く一つの弧

Ⅰ. クリンガーらの暗黙的学習理論 ― その認知科学的基盤と、それをめぐる激しい論争

  出発点:プロトタイプ形成の障害(2001年)
  理論的な精緻化:「暗黙的学習障害仮説」(2007年)
  ここからが論争 ― 「むしろ暗黙的学習は保たれている」という反証
  メタ分析による決着と、微妙なニュアンス
  この論争がTEACCHにとって持つ意味

Ⅱ. 市川ら(2013)のRCT ― 日本発、TEACCHベースSSTの詳細

  研究デザイン
  アウトカム指標と結果 ― 4つの効果量
  「誰に効くか」という重要な発見
  パイロツトとしての正しい位置づけ

Ⅲ. アジア圏でのTEACCH文化的適応 ― 「文化は違いを生むか?」という問い

  文化的緊張の核心 ― 「親の役割」というボトルネック
  実証的エビデンス ― それでも「効く」
  メタ分析が示す「国による効果の違い」 ― 文化差の定量的証拠
  「適応か、そのまま導入か」という根本問題
  日本の位置づけ ― 諏訪の議論との接続

全体の統合 ― 三つのテーマが照らす一つの構造

Ⅰ. Tsang et al.(2007) ― 香港版TEACCHの適応と、「文化は違いを生むか?」への逆説的な答え

  研究デザイン
  何を「適応」したのか ― 評価ツールの現地化
  逆説的な結果 ― 「文化は違いを生まなかった」
  なぜこの「文化差の小ささ」が重要なのか
  ただし残つた課題 ― 一般化可能性の限界

Ⅱ. 中枢性統合(weak centra1 coherence)理論とTEACCH構造化の関係

  理論の内容 ― 「木を見て森を見ず」
  理論の精緻化 ― 「欠陥」から「認知スタィル」へ
  TEACCH構造化との直接的な関係
  日本での受容 ― 「中枢性統合の弱さ」として

Ⅲ. 日本独自の実践理論 ― 水野敦之の「氷山モデル」とフレームワーク

  出発点の問題意識 ― 「支援の一貫性」
  「氷山モデル」とは何か
  なぜ「相互作用」が肝心なのか
  ABAとの統合 ― ABC分析の活用
  フォーマル/インフオーマル・アセスメントの位置づけ
  協働のツールとして
  「特性かるた」などへの展開

全体の統合 ― 理論・実証・文化・実践の四層構造

I. 実行機能理論とTEACCHスケジュール ― もう一つの認知理論的支柱

  理論の起源 ― 前頭葉損傷とのアナロジー
  実行機能の内実 ― 三つの中核ドメイン
  TEACCHスケジュール・ワークシステムとの直接的関係
  Ozonoffとショプラーの制度的つながり ― 「代償の環境」という思想
  理論の留保 ― 特異性の問題

Ⅱ. 日本の強度行動障害支援者養成研修におけるTEACCH/氷山モデルの制度的位置づけ

  研修制度の概要
  「特性×環境の相互作用」という国の公式見解
  研修カリキュラムにおける構造化と氷山モデル
  制度の担い手 ― のぞみの園と国リハ
  制度的位置づけの意義 ― TEACCHの「日本化」の到達点

Ⅲ. ニューロダイバーシティ運動とTEACCHの「自開症の文化」概念の再評価

  TEACCHの「自閉症の文化」概念とは
  ニューロダイバーシティ運動の主張
  親和性 ― TEACCHの「先見性」
  緊張 ―「正常化」批判との距離
  再評価の現在地 ― 「支援ニーズの全域」への視点

全体の統合 ― 認知理論・制度・思想の三層が描く現在

I. TEACCHと当事者研究(綾屋紗月・熊谷晋一郎)の対話可能性

  当事者研究とは何か ― 「一人一研究」の方法論
  「まとめあげ困難仮説」 ― 当事者研究が生んだ理論
  TEACCHの認知理論との驚くべき符合
  構造化の意味の、当事者からの照射
  対話における緊張 ― 「社会モデル」からの問い
  対話可能性の総括

Ⅱ. 成人期・高齢期の自閉症支援におけるTEACCH ― 「生涯支援」という原点

  「生涯支援」はTEACCHの創設思想そのもの
  成人期支援の具体 ― 就労と自立課題
  高齢期支援と、Klingerのエイジング研究
  日本での高齢期支援の制度的基盤
  高齢期支援における理論的課題

Ⅲ. 単一事例実験デザイン(SCED) ― 構造化のエビデンスを個別に検証する方法論

  SCEDとは何か ― 「本人が本人の対照群になる」
  因果推論の論理 ― 「ベースライン・ロジック」
  主要なデザイン ― 反転法と多層ベースライン法
  品質基準 ― What Works Clearinghouse(WWC)標準
  TEACCH/構造化のエビデンスにとつての含意

全体の統合 ― 三つの主題が描く「個への回帰」

  一・ ソーシヤル・マジョリティ研究とTEACCHの異文化通訳モデル
  二・ SCEDデータを統合する新しい統計手法
  三. 日本のTEACCH公認専門職認証制度
  三者の収触


ソーシャル・マジョリティ研究:コミュニケーシ∃ン学の共同創造


「個への回帰」を支える三つの柱
 
  序

―.  ソーシャル・マジョリティ研究とTEACCHの異文化通訳モデル

  環を閉じる ― 双方向の翻訳へ
  生産的な摩擦 ― 誰の文化を代表するのか

二.  SCEDデータを統合する新しい統計手法

  非重複指標の系譜
  ベイズ流アプローチという層
  「個への回帰」との結びつき

三.  日本のTEACCH公認専門職認証制度

  事実関係 ― 認証はどこが発行するのか。`
  三つの分析的論点
  収敏 三者はいかにして一点で出会うか

 引用文献
 参考文献
 

『 自閉スペクトラムの人の社会的カモフラージュとメンタルヘルス 』

大島 郁葉:編著  田村 真樹・管 思清・佐藤 奈緒・和田 惠:著
本田 秀夫 監修  金子書房  定価:1800円 + 税 (2026.8)


               私のお薦め度:★★★★☆

自閉スペクトラム症の人が、自分の障害を“隠して”社会の中で生きていこうとする社会的カモフラージュについては、近年話題になることも多く、その弊害についても議論されるようになってきました。
育てる会の会報の中でも、このお薦め本コーナーの前にある「ちゃーちゃん日記(あるASDの女の子の話)」の中でも取り上げられることがありますね。

もちろん障害の有無に関係なく、だれでも初対面の方と会う時や、就職などの面接の際には、少しでも自分を良くみせたいと、普段とは違う自分を演じることがあります。
相手に好印象を与えたいと、少し真面目な顔をしたり、快活にハキハキ答えたり、丁寧な言葉遣いをしたり、と・・・いわゆるヨソユキな顔で印象操作を自然にやってしまいます。
でも、似てるようでも、それとASDの人の社会的カモフラージュは大きく違います。

一般的に「印象管理(impression management)」と呼ばれる行動は、誰もがある程度は行うものである。たとえば,初対面の場で礼儀正しく振る舞ったり、自分の魅力を強調したりすることは、多くの人が無意識のうちに行っている。しかし自閉スペクトラムの人が行う社会的カモフラージュは、単なる印象管理や印象操作とは異なり、 もっと切実で深刻な背景に基づいていることが研究によって明らかになっている。つまり、それは単なる「印象をよく見せる」ための技術ではなく,「差別されないため」「排除されないため」「自分の存在を脅かされないため」の、生存戦略に近いものである。(大島 郁葉)

高機能な自閉スペクトラム(注:本書では、このシリーズ「こころの発達インサイト」を監修されておられる本田秀夫先生が使用される“障害”よりも“状態”を意味する「自閉スペクトラム(AS)」の表現を使われているので、以下は私もASと表記します)、ASの人にとっては、この社会から排除されないための手段であるのですね。
それは学校生活や社会生活において、マイノリティであるゆえにとってしまう、とらざるをえなかったライフハックといえるでしょう。

ですから、ASの人の社会的カモフラージュは、一概に批難されるものではなく、定型発達者中心の社会の中で生きていくために、周りを観察しながら、必死に身につけたものなのですね。
もしかすると、4:1と言われるASの男女差も、幼い頃には女の子の方が“おしゃま”で社会的な意識が高いため、早めに社会的カモフラージュを身につけているため大きくなっているためかもしれません。
もっと女の子の率は高いのかもしれませんね。

それはさておき、短期的にはいじめや仲間はずれを防ぐためには有効とされる社会的カモフラージュなのですが、ある意味自分を偽って生活しているわけですから、長期的にみるとどうしてもひずみがでてきてしまいます。

社会的カモフラージュには一見すると適応的な側面もある。通学や就労といった社会的参加の機会を拡げ、対人関係における摩擦を回避する上では有効に働くこともあるだろう。しかし、その背後には大きな心理的コストが伴う。というのも、定型的なふるまいを演じ続けることは,自らの自閉特性を抑圧し、「本来の自分」を常に演出の背後に隠すということを意味する。それは長期的に見ると、 自己のアイデンティティの拡散や喪失、慢性的な疲労感、不安、抑うつといった精神的負担を引き起こすことが報告されている(Hull et al.,2019; Livingston et al.,2019)。(大島 郁葉)

先日、参加した社会的カモフラージュに関するセミナーの中でも、登壇した初老のAS当事者の方が「長年そうしていたので、今となっては、カモフラージュしていない本当の自分の姿がわからない」というような発言をされていましたが、アイデンティティの喪失に繋がるということでしょう。

では、そんなデメリットのある社会的カモフラージュをしなくてもいい状態を実現させるためには・・・という「第3章 自閉スペクトラムの人が社会的カモフラージュから解放される道へ」なのですが、この章、正確に研究成果を伝えようとされているためか、研究論文の直訳や解釈が続き、専門的な用語も頻繁に出てくるため、残念ながら、私の読解力では、みなさんに上手く要約して伝えられません。

と、いうことで、「第4章 自閉スペクトラムの人が社会的カモフラージュをしなくてもよくなるために」に跳ばさせてもらいます。そこでは・・・

自閉スペクトラムの人が社会的カモフラージュをしなくてもよくなるのは、どのような時だろうか。それは、「ふつう」とされる価値観や振るまいに無理やり自分を合わせる必要がなく、 自分のありのままの姿で受け人れられ、尊重されるという確かな安心感が得られたときである。
それは単なる「知識として理解されている」という状態を超えて、「そのままでいても損をしない」「不利益を受けない」「人間関係が壊れない」と心から実感できる状態を意味する。

社会的カモフラージュは、周囲の期待に応えようとする適応戦略の一つである。人との摩擦を減らし、場の空気に馴染み、拒絶されないために行う自衛の工夫である。だが、それは決して「楽な選択」ではない。
むしろ長期的に続ければ、慢性的な疲労や不安、 自己否定感、 さらにはアイデンテイテイの喪失へとつながりうる。人に合わせ続けることで、 自分自身の感じ方や欲求がわからなくなり、「本当の自分がどこにいるのかわからない」と感じる人も少なくない。これは、多くの当事者が口にする「カモフラージュの代償」である。
このような状況を変えるには、「自閉スペクトラムの人が変わるべき」という考え方を見直し、「社会の側こそ変わらなければならない」という視点への転換が求められる。これまで社会は、「空気を読むこと」「みんなと同じであること」「自己主張しすぎないこと」を善とし、マイノリテイの側に適応を強いてきた。しかし、これからはマジョリティ側こそが、「その人がその人らしくいるために、何ができるか」を問い、環境や制度を変えていく責任がある。 (大島 郁葉)


と結論づけられています。すなわち今解決するためのボールはマジョリティ側に預けられています。
しかし、これが難しい。今日(8/24)の山陽新聞の記事にも、こんな日本財団の調査が載っていました。

『就活で障害伝えず 76%  ASD、精神疾患 不採用を懸念』 伝えなかった理由の最多は「開示して不採用になったことがある 66%、不採用を危惧。 就労経験のある人が障害の診断を職場に伝えたかの質問には、最多は「誰にも伝えていない」38%、理由は「差別・偏見が怖い」。

日本でのマジョリティ側のASへの理解は、まだまだ・・・・のようです。

残念ながら、わが国は自閉スペクトラムの人に対する社会的スティグマ(偏見・烙印)が世界的に見ても強い国であることが知られている。染木らが日米の大学生に対して行った研究では、 日本の学生が自開スペクトラムの人に対して持つスティグマは、米国の学生と比べ有意に強かった(Someki et aL., 2018)。また日本や英国、米国、ベルギー、南アフリカなど8カ国を国際比較した研究でも、 日本は自閉スペクトラムの人に対する外的な受容が最も低いことが示されている(Keatinget aL., 2024)。

一般的に日本はグループ内の調和を重視する集団主義文化の国であるとされ、個人の独立性や独自性を重視する個人主義文化の国々と比べて社会的マイノリティに対するスティグマが強いとされる。
日本において社会的スティグマに対する介入は、他国と比べても重要であると言えるだろう。(田村 真樹)


確かに日本では、“みんなと同じ”が美徳され、“出る杭は打たれる”、“どこの馬の骨”などと自分たちとは違う者を排除する傾向があるように思えます。

ここでそれを解決する手段としては、本書で提唱されている「オールマイノリティな社会」という考え方は興味深いですね。
この世に、完璧な人間はまずいないように、すべての面においてマジョリティに属する人もまずいなくて、誰もがある面でマイノリティとなる社会であると認識するという考えです。たとえば私は「男性」・「正規雇用」・「父親」などではマジョリティに属するかもしれませんが、「後期高齢者」・「メタボ」・「前立腺肥大」などでは弱者、マイノリティな存在になりますね。このように、自分のマイノリティを意識することで、相手のマイノリティな部分も、「特性」「多様性」として尊重できる社会です。

「お互い様」の社会になれば、社会的カモフラージュをしなくても、お互い生きやすい社会になりそうな気がします。
そして、そうなることを願って、本書を今月のお薦め本とさせていただきます。

                     (「育てる会 会報 340号」2026.8 より)
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目次

  「シリーズ こころの発達インサイト」の刊行にあたって   本田 秀夫

CONTENTS


第1章 自閉スペクトラムにおける社会的カモフラージユとは何か
                     大島 郁葉

第2章 自閉スペクトラムの人における社会的カモフラージュがメンタルヘルスに与える影響
                            田村 真樹

第3章 自閉スペクトラムの人が社会的カモフラージユから解放される道ヘ
                     管 思清

【エッセイ 1】     
    当事者の立場から考える社会的カモフラージュ
      社会的カモフラージュについて思うこと
                     佐藤 奈緒

【エッセイ 2】

    当事者の立場から考える社会的カモフラージュ
      社会的カモフラージュは必要なのか?
                     和田 恵

第4章 自閉スペクトラムの人が社会的カモフラージュをしなくてもよくなるために
      ~オールマイノリティな社会をめざして
                     大島 郁葉

 

『 ハグなんて とんでもない! 』


エイミー・グリエルモ、ジャクリーン・トゥルビル 文  ジゼル・ポター 絵   さくまゆみこ 訳 
子どもの未来社  定価:1800円+税 (2026.6)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

表紙のウエスタンシャツを見て、お気づきの方も多いと思いますが 『 自閉スペクトラム症の動物学者 テンプル・グランディン 』 女史の伝記絵本です。


伝記と言えば、生涯に成し遂げた業績を紹介するものが多く、またこの業界(発達障害や自閉スペクトラム症・・・界隈)がマイナーなこともあり、自伝を除いて“伝記”なるものが書かれるのは珍しいですね。


本書のテンプル・グランディン博士、世界で最も著名な当事者のお一人であるのは間違いないのですが、取り上げられるのは、その功績・・・牛を落ち着かせるための締め付け機(スクイーズ・シュート)からヒントを得て自分が落ち着くための締め付け機「ハグするマシン」を設計・製作したり、また牛たちを虐待をすることなくスムーズに誘導させる家畜施設の設計など・・・よりも、高機能自閉症の特性を活かした生き方にあると言えるでしょう。現在はコロラド州立大学の教授となり、アメリカやカナダでは、半数以上の肉牛が博士の設計した施設で処理されているそうです。
一方で、女史を主人公にした映画「テンプル・グランディン ~ 自閉症とともに」や、オリバー・サックスの「火星の人類学者」では、そのユニークさが前面に出て、多くの人とは違った感覚、感性、文化の中で生きてこられたことを表現されています。本書もその一冊となります。

本書で登場するテンプル・グランディンはまだ少女時代です。

ほかの子は、かなしかったり、さびしかったり、こわかったりすると、だっこやハグでなぐさめてもらいます。
「ありがとう」や「うれしい」という気もちを、ハグであらわす人もいます。
まるでクッキーをあげるみたいに、かんたんにね。 
だれかが両手をひろげるのは、たいてい、ぎゅっとハグしてもらいたいときです。

テンプルだって、なぐさめてもらいたいときが、ありました。
でも、ハグされると、世界一チクチクするくつしたのなかに、すっぽり入れられたような気がするのです。
だから、だれかがハグしようとすると、テンプルは、けとばしたり、さけんだりして、にげるのでした。

                                                                  
自閉スペクトラム症の子が、みんなそうだとは限りませんが、確かに多くのお母さん達が経験しているのではないでしょうか。我が家でも、幼い頃から抱っこするのは難しかったですね。身体を反り返らしてピタッとするのを嫌がっていたような気がします。・・・診断を受ける前でしたのでうろ覚えですが・・・
ちょうど今、我が家の猫も抱かれるのを嫌がって、すぐに逃げ出します。猫と一緒にするのは、息子に失礼な話ですが、まあ生まれつきの体質だと思って、半ば諦めています・・・

そんなテンプルさん、ハグだけでなく、学校では周りのクラスメイトからは変わった子だと思われていました。

送風機のブーンという音を、テンプルは歯医者さんのドリルのように感じました。
学校の食堂は、さわがしいし、くさいし、話し声がジェット機のエンジンみたいにひびきました。
ベルがジリジリ鳴ると、キツツキに頭をつつかれているような気がしました。


そうした音からのがれるために、テンプルは校庭のブランコに避難しました。

日本でも、当事者の小道モコさんが、「学校はジャングルのようでした」と表現されておましたが、ASDをもつ人にとっては、学校は厳しいものがあるのでしょうね。
そしてこれを解決する方法は、「ハグなんて、とんでもない!」と逃げ出した本人に、少しでも慣れるようにと無理強いすることではなく・・・なにしろ、本人は世界一チクチクする靴下に入れられているように感じているのですから・・・、周りの多数派である先生やクラスメイトが、本人の感覚を知って、環境に配慮してあげる、しかないように思えます。

本書の中では、初めに書いたように、テンプルさんは牛の診察や治療の際に、牛を落ち着かせるため両側から挟み込む締め付け機を見て、これなら自分もハグされるように気持ちを落ち着かせることができると考え、得意の設計図を描き、針金や滑車、ヒモ、古い椅子のクッションなどを集めてきて「ハグするマシン」を発明したわけです。

テンプルは、おばさんに立ち会ってもらい、自分でつくった装置のなかに入って、ひもを引っぱりました。
すると、横の板が動いて、テンプルのからだを両側からぴたっとおさえました。
テンプルは、にっこりしました。
さわがしい音が消え、空気はさわやかになり、明るい日ざしも、ここちよく感じられます。


童話だったら、ここで「メデタシ、メデタシ」となって物語は終わるのですが、ASDの子どもたちが誰でもテンプルさんのような才能を持っているわけでもないし、加圧装置が有効な子どもばかりとは限りませんね。
要は、その子に合った、無理をさせないで落ち着ける場所や環境を作ってあげることが大切で、そしてそれは周りの大人達の課せられた課題なのでしょう。そう思って今月のお薦め本とさせていただきました。

なお、本書のタイトルは『ハグなんてとんでもない!』なのですが、本書の結びの言葉を紹介します。

でも、しだいに、このマシンを使わなくても、おちつけるようになり、そのうち、なくてもだいじょうぶになりました。
やがて、このマシンはこわれてしまいました。
だったら、どうすれば元気がもらえるか、テンプルにはもうわかっていました。

『そう、それには、ハグがいちばん!』


「今では、わたしもハグができるようになったのですよ」 ―― テンプル・グランディン

                   (「育てる会 会報 339号」2026.7 より)

 

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目次

 

『 ハグなんて とんでもない!』

 

  作者あとがき ・・・・・・・・A.G.とJ.T.

 

  解説 ・・・・・・・・・・・・・・・和田 真 (神経生理学者:順天堂大学 客員准教授)

『 自閉スペクトラムの子の育て方のコツがわかる本 』

本田秀夫・日戸由刈・萬木はるか 監修  講談社  定価:1500円+税 (2026.5)

 

          私のお薦め度:★★★★★

先月号で紹介した「わが子に障害があるとわかったとき まず読む本」は、ある一家での障害(自閉症と軽度の知的障害)がわかった時から成人までの成長に寄り添った支援のお話でしたが、本書では、幼児期・学童期に焦点を絞ったASD児の子育て入門本と言えるでしょう。

親の会などで、初めて告知を受けたばかりのお母さんや支援をされている方から「最初に読むとしたら、どんな本がいいでしょう?」と聞かれることもあります。

昔、自閉症がまだまだ世の中に理解されていない頃には、「自閉症の治療教育プログラム」(E.ショプラー)、「自閉症のトータルケア」(佐々木正美)、「自閉症の特性理解と支援」(藤岡宏)などなどの、自閉症の特性理解やTEACCHプログラムのような有効な支援の方法が書かれた本などをお薦めしていたのですが、今のお母さん達は自閉症についての情報も豊富で、療育についても勉強されていらっしゃるようですね。
そこで新しい“最初にお薦めする本”が本書です。
ここでは、療育技術のノウハウより前にある子育ての“心構え”を“育て方のコツ”として書かれています。

『自信をつけ、意欲のエネルギ一を蓄える重要な時期という認識を』


自閉スペクトラムの子の支援において、思春期より前に適切なサポートが行われているかどうかは、とても重要です。
幼児期から小学校の中学年頃までは、自信をつけ、意欲のエネルギーをしっかり蓄える時期。この時期に、エネルギーを蓄えることができたら、思春期以降に多少の困難があっても乗り越えることができるのです。つまり、思春期より前のサポートが、思春期以降に起こりうる二次的な障害を防ぐカギとなっているのです。


ここからは、その具体的なコツに入っていきます。各ページごとにイラスト付きで「育て方のコツ」や「ここがポイント」、「たとえば」、「ここに注意!」、「こんなふうに考えよう!」などと簡潔にわかりやすくアドバイスをしてくれています。

たとえば、「心得3 「守りやすいルール」で枠組みをつくる」
を例にあげると・・・


『スーパーマーケットの「イラスト」(本文)』 
「さわらないで」を「お豆腐とって」にするだけで、禁止のルールがお手伝いに変わる


『ここがポイント』 本当に大事なルールだけにしぼる
厳しいルールで子どもの行動を制限しても、守れないばかりか、それをとりしまる細かいルールが増えるばかりです。本当に大事なルールだけにしぼって、そのルールを共有することが大切です。


『ここに注意!』 厳しいルールはNG。「過剰適応」で子どもを追い詰める
自閉スペクトラムの特性をもつ子どもは、親や先生から「やりましょう」と言われたことは、「無理をしてもやるべき」と考える傾向があります。
自分を押し殺し、場に合った行動をとり続ける状態を「過剰適応」といいます。
過剰適応が続いて我慢が限界になると、今まで元気に見えていた子どもが、急にエネルギー切れを起こし、抑うつ状態や不登校といった二次的な障害が引き起こされます。


こんな風に偏食やトイレ、あいさつなど、場面ごとに子育てのヒントやアドバイスがあり、読みやすい説明となっています。
それではもう一つだけ、あいさつについての『育て方のコツ』を紹介いたします。

あいさつは無理に教えなくていい
自閉スペクトラムの子にとって、「あいさつ」は無意味なものにうつります。無理に教えるのはやめましょう。大人の様子を見て、徐々に身につけていけばよいのです。
大人になるまでに身につけばいい、くらいの感覚で接しよう。


スマホでのInstagramやX、TikTokなどに慣れた若い方にとっては、長い文章だけの解説よりも、この本のように、文字よりもイラストで伝える本の方が手にとっていただきやすいと思います。

もちろん要所要所には「本田先生からのアドバイス」や「Column(コラム)」のページもあり、詳しい解説もあり、しっかり読んでいただきたいページもあります。
「視覚的構造化は「命令カード」ではない」の言葉から始まるColumnのページです。

やってはいけない「視覚的構造化」ルール


視覚的な手がかりは、自閉スペクトラムの子どもにとって、理解を助ける有効な方法です。
しかし、使い方を間違えると、子どもを操る道具になりかねないので注意が必要です。視覚的構造化は、親が子どもを思いどおりに動かすための「命令カード」ではないのです。
「スーパー、ドラッグストア、お姉ちゃんのお迎え……」などと、絵カードや写真を見せて、親の都合につき合わせるケースも見受けられます。しかし、これでは、子どものルーティンは崩れ、子どものストレスはたまるばかりです。
視覚的構造化の本来の目的は、子どもが状況を理解し、自分で判断できるようにすることです。「行く」「行かない」を決める経験は、自律への第一歩です。
絵カードや写真は、その判断を助ける「手がかり」であり、親の意図を押しつける道具ではないことを親自身がしっかり理解する必要があります。


思えば30年以上前にも、こんな誤解をして絵カードを使っている支援者の方、学校の先生もいらっしゃいましたね。 今月号の会報(育てる会会報 338号)の「ぐんぐんだより」にあるように、これからの流れを本人に視覚的に分かりやすくするためならいいのですが、集団生活の進行に合わせさせるために、とか、ルールを守らせるためにとか・・・30年経っても、あえて「やってはいけない」こと、としてこんなことを書かなければ伝わらないのが現実でしょうか。


昨年、発達障害支援講座をお願いした菊池省三先生の近著の「足型をはめられた子どもたち」の中でも、授業中に足をバタバタさせないためにと、全員の机の下に足型が描かれていた話がありました。

同じ足型でも、発達障害の子どもに“立つ位置が分かりやすいように”と置いてあげることもありますね。
似て非なるもの、ですね。要は一人ひとりに合わせて、本人の暮らしが楽になるようにと・・・その違いが学校や支援現場で、当たり前に分かるようには、まだまだ頑張らねばいけませんね、ということで今月のお薦め本といたします。

そういえば、最初に書いた、“以前にお薦めしていた本”の中に、こんな本もありました。
「わが子が発達障害と診断されたら」(佐々木正美:編著 諏訪利明・日戸由刈:著)、当時の「育てる会会報 166号」(2012.3)でも紹介したお薦め本です。

本書の著者でもある日戸由刈さんも第3章の「家族と専門職、両方の立場から」を担当されています。今、読み返しても良い本ですので、改めて時代を超えて、こちらもお薦めいたします。

(「育てる会会報 338号」(2026.6.) より)

 

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目次

 

  まえがき

  
  先輩パパ・ママのエビソード 1
    自閉スペクトラムを指摘されるのでは・・・・・・
    不安な気持ちでいっぱいでした

  先輩パパ・ママのエビソード 2
    もしも診断されたら・・・・・・
    この子の将来を決定づけてしまうのではと不安でした

  本田先生からのメッセージ
    「育ち方」を受け入れ、育て方を「ギアチェンジ」する


1 自開スペクトラムの子はどんなことで困るのか

  そもそも自閉スペクトラムとは ― 「自分の世界にハマリやすい」特性の持ち主
  対人関係が独特。 一方的だったり、受動的だったりする
  「自分のやり方」「ぺ―ス」に強いこだわりがある
  「感覚過敏」「感覚鈍麻」といった特性も
  記憶力にすぐれているが、想像することは苦手

  何よりも注意したいのは「二次的な障害」
  必要なスキルを育てるためには、無理のないサポートを

  コラム 周囲の理解と環境が、カギになる

2  自開スペクトラムの子と向き合うための5つの心得

  「自己決定力」と「相談力」をバランスよくのばしたい

  心得1 「視覚的構造化」がとても有効
  心得2 OKラインを見直してみよう
  心得3 「守りやすいルール」で枠組みをつくる
  心得4 子どもの「好き」をいっしょに感じよう
  心得5 子どもの「安全基地」になれれば、それだけでいい

  コラム やってはいけない「視覚的構造化」のルール

3 「自己決定力」の芽を育てるコツ
  マンガ    :自己決定力ってなに? どうすれば身につくの?
  初めの一歩  :子どもの特性を理解することから始めよう
  得意・不得意 :できるかな? 状況を見定めてサポートする  
  ルーティン  :生活の基盤となるルーティンをしっかりつくる
  生活リズム  :休みの日も、できるだけペースを崩さない
  希望を聞く  :どっちがいい? まずは二択で子どもに選ばせる
  提案して合意 :提案したら、必ず子どもの気持ちを確認する
  体調の変化  :いつもと様子が違ったら「休む」を提案してみる
  偏食・トイレ :見通しと工夫でサポートが楽になる
  メルトダウン :メルトダウンを起こしても、対策があれば安心
  身じたく   :サポートと工夫で「できること」が増えていく
  お出かけ   :子どもが楽しめそうなものや場所を探ってみよう
  お手伝い   :「できた!」で子どもの「やりたい!」をのばす
  あいさつ   :「ありがとう」や「どうぞ」は、まずは見せるだけでいい
  片づけ    :片づけやすい工夫でやる気をサポートする
  習い事    :「始める」「やめる」は子どもの気持ちを第一に


  コラム 「過干渉」が自己決定力の芽を摘んでしまう

4「相談力」の芽を育てるコツ

  マンガ     :相談力ってなに? どうすれば身につくの?
  変わるのは誰? :まずは大人が変わろう
  ニーズ     :子どもの潜在的な二―ズをくみとる
  成功体験    :「できた!」が自信につながる
  宿題      :ひとりで15~30分が限度
  我が家ルール  :いちばん困っていることに的をしぼって決める
  ほうれんそう  :子どもの報告を楽しく聞く
  こだわり    :生活に役立つスキルとして残す
  親のメンタルケア:子育てに熱心な親ほど心が疲れやすい
  支援制度    :親子で積極的に利用しよう

  コラム 幼児期・学童期の自信は、かけがえのない財産になる

 

『 わが子に障害があるとわかったとき まず読む本』

  藤井 渉:著  ゆむい:マンガ  KADOKAWA 定価:1800円+税 (2026.5)

         私のお薦め度:★★★★☆

育てる会の以前からの会員の方からは、“いまさら”と言われそうなタイトルですが、育てる会には新しく入られた会員の方もいらっしゃいますし、本書も後半になると「福祉を使いこなす」、「地域で暮らす」、「働き、暮らしを楽しむ」など成年向けのアドバイスもあるので、今月のお薦め本とさせていただきます。

本書の著者は日本福祉大学教授の藤井渉先生で、各章の冒頭ではある一家の長男、蒼(あおい)君の誕生から成長、大人になるまでに遭遇する様々な場面での葛藤(マンガ)と、それを乗り越えていくための利用できる制度や支援など(藤井先生の解説)で構成されています。

「はじめに」の冒頭にある藤井先生の言葉です。

生まれてきてくれたすべての子が、周りの人たちから愛され、気持ちを大事にされる世の中であってほしい。それは、誰もが願うことだと思います。でも、ずっとそばにいる親御さんの気持ちは、いつも「日向」にいられるわけではありません。時には「日陰」にいるように感じられる日もあるでしょう。
本書は、たとえ今、日陰にいるように感じていたとしても、その先には必ず日向が続いていることを知っていただき、そこへ向かう一歩のためのお守りになればと思い、作りました。


本書のタイトルの中にある「障害が“わかった”とき」という言葉から推察されるように、本書のモデル蒼くんは、産まれたときには分からなかった自閉症と軽度の知的障がいを持っています。
もちろん、障害の種別はいろいろあり、肢体不自由やダウン症のように、産まれた時から覚悟されている親御さんもいらっしゃるのですが、子育ての中ではじめて気づく自閉症のように、途中から“障害があるとわかり” 混乱、葛藤の中で子育てし、やがて受容されてきた親の方にとっては、すなおに共感できるストーリーだと思います。

いま、たくさんの葛藤を抱えながらも、日向へと歩みを進められたご家族がたくさんいらっしゃいます。その方たちに共通しているのは、「私たちを理解し、応援してくれる人は、実はたくさんいるんだ」という気づきと実感です。
わが子に障害があるとわかったとき、 一番陥りやすいのが孤立です。孤立してしまうと、この応援してくれる人の存在に気づいたり、大切なつながりを得たりする機会が失われてしまいます。
本書を通して、私たちが一番お伝えしたいこと。それは、「あなたは一人ではない」ということです。私を含め、あなたを理解し、応援したいと思っている人間は、ここに、そして社会に、たくさんいます。


本書の中でも、たびたび触れられているのが、孤立を防ぐために役に立つという親の会です。
30年近く前、育てる会ができたとき、5人のお母さんの「この指とまれ!」のよびかけに、あっという間に岡山県下から100人近くの自閉症児を持つお母さんたちが集まりました。
それまで学校や地域の中で“孤立”されていたのだと思います。
そして、育てる会が続いてきたのも、間違いなく同じ想いの仲間がここにいる、という安心感があったためだと思えます。

健診で指摘され、聞いたこともかかったこともない診療科へ行く不安。
SNSで障害について検索しては、ネガティブな言葉に心を揺さぶられる焦り。
病院の待合室で、ほかのお子さんと無意識に比べてしまう自己嫌悪。
遠くの専門病院への通院や入院で、世間から切り離されたような孤独感。
そうした気持ちになるのも無理はないかもしれません。

この不安を、誰にも言えずに、おひとりで抱え込んでしまっているかもしれません。
「誰かに話したほうがいい」と頭ではわかっていても、実際に今の気持ちを打ち明けるのは、とても勇気がいることだと思います。話せる相手が見つからなかったり、どう話していいかわからなかったりして、余計に苦しくなってしまうこともあるかもしれません。
ただ、もし余力があれば、今は正しい知識を詰め込むことよりも、同じような悩みを持つ誰かと言葉を交わす時間を、大切にしてみていただければと思います。解決策は見つからなくても、「気持ちをわかってもらえた」と感じるだけで、張り詰めた心が少しだけ緩むことがあります。
そのために、「親の会」という選択肢があります。


これからも「親の会」、育てる会をおおいに利用していただければと思っています。
お母さんたちの座談会や支援ツールの勉強会もありますし、高機能のお子さんをお持ちの方には「OHAの会」があります。知的障がいを伴うお子さんをお持ちの方にも、新しい会を現在企画中ですでので少々お待ちください。

それはともあれ、本書では実務的なアドバイスや、利用できる福祉サービスなどもたくさん紹介されています。
それも、公のものではなく、親の立場にたったものばかりです。

たとえば、「認定調査の罠を突破する」では、各種の福祉サービスを利用する際に受けなければいけない認定調査についてこんな風に解説されています。

18歳以上になって、サービスを利用するためには、市町村による「障害支援区分」の認定調査を受ける必要があります。これは、どのくらい支援が必要かを「区分1~6(数字が大きいほど支援が必要)」で判定する、非常に重要な調査です。
この調査には、大きな罠が潜んでいます。それは、「親(家族)が、がんばればがんばるほど、障害が軽く(=支援が少なく)判定されてしまう」という矛盾です。

たとえば…… あなたが毎日、歯ブラシを置く場所や声かけなど細やかな工夫を重ね、習慣づけた結果、お子さんが「歯磨きができる」ようになっていたとします。調査員の前でそれを見せると、単に「歯磨き=できる」とチェックされ、支援の必要度が「低い」と判定されてしまいます。

なぜ、こんな矛盾が起きるのか。それはこの「区分」という仕組みが、本人のためというより、国の「予算コントロール(給付の抑制)」、つまり 「あなたにサービスを使う資格があるか」といった目線でサービス利用をふるい落とすために作られたからです。


これは気を付けていなければいけない「罠」ですね。そしてこの罠を突破するための方法も本書に書かれていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

また、ここでは18歳以上となっていますが、児童発達支援や放課後等デイサービスを利用する際にも、利用日数や個別サポート加算の判定などを決定する保護者への聞き取りでも同じですので、「ふるい落とされない」よう注意しておきたいですね。


そして、著者が指摘されているように、いよいよ20歳になっての障害基礎年金の申請の際にも同じ罠がしかけられていますので、より注意してください。

申請書には「食事」「入浴」「金銭管理」「外出」といった日常生活の状況を細かく記入します。
このとき、親御さんのがんばりや工夫(例:毎日声かけをし、環境を整えている)によって、「できている」部分だけを書いてしまうと、審査する人に「支援は不要だ」と誤解され、障害が軽く評価されてしまう危険性があるのです。
年金の受給は権利です。その権利を正しく行使するため、支援が必要なありのままの姿を、申請書に(場合によっては別紙に) しっかり記入することが重要です。


他にも、本書では様々なサービスや制度が紹介されています。

ただ、藤井先生が最初に注意されているように、障害福祉サービスはそれぞれの自治体(市町村)によって “驚くほど” 差があるのが実状です。制度はあっても、実際に利用できる事業所が少なかったり(なかったり)、運営のされ方も違っています。都会と地方、地方であっても中核都市とそれ以外の市町村、田舎へ行くほど福祉財源、資源も少なくなっていきますね。
本書に書かれているサービスや制度が、日本中どこでも実現できるよう親として頑張っていきましょう。

                   (「育てる会 会報 337号」(2026.5) より)

 

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目次

  はじめに

第1章 夫婦間トラブルにどう対処?

  Q1:夫が話を聞いてくれず非協力的です。どうすればいいでしょうか?
  Q2:子どもに障害があるかもしれないと医師から告げられました。
     夫や(義)両親にどう伝えたら良いか悩んでいます。
  Q3:障害の悩みについて、相談に乗ってくれるところって、どこ?

第2章 障害があることが分かったら

  Q1:わが子の障害が受け入れられない、どうすれば?
  Q2:みんなはどうやって生活を成り立たせているの?
  Q3:障害があることがわかったとき、どんな福祉サービスが利用できるの?
  Q4:言葉がなかなか出ず、集団生活(保育園など)も不安です。
     親として、何かできることはありますか?
  Q5:保育園で周りの子どもや先生に迷惑をかけないか心配です。
  Q6:子どもの障害で、これからお金がどれくらいかかるか不安です。
     どんな支援があるのでしょうか?
  Q7:「うまく座れない」「歩くのが大変そう」。子どもの生活を助ける便利な道具はありますか?

第3章 学校へ通い始める

  Q1:もうすぐ小学校。どんな学びの場があり、どう選べばいいのですか?
  Q2:就学先を地域の小学校にするか特別支援学校にするか、悩んでいます。
     わが子にとって、どちらが幸せなのでしょうか?
  Q3:地域の小学校に行かせたい。でも、「学校に拒否されたら」と思うと不安です。
     どんなことに気をつければよいですか?
  Q4:小学校に入学したら、放課後はどこで過ごせばいいですか?
     地域の学童には入れないのでしょうか?
  Q5:学校の先生とのコミュニケーションで悩んでいます。どうすればよいでしょうか?
  Q6:中学の次、進学先が不安です。特別支援学校の高等部以外に、高校や大学という
     道はあるのでしょうか?

第4章 福祉を使いこなす

  Q1:障害のある人や家庭はどうやって地域生活を成り立たせているの?
  Q2:福祉のパンフレットは専門用語だらけで、何をどう選べばいいか
     さっぱりわかりません! とにかくわかりやすく説明して!
  Q3:実際にサービスを利用するには、どうすれば良いの?

第5章 地域で暮らす

  Q1:子どもが家を出て一人暮らしをしたいと言ってくる。本当に大丈夫なの?
  Q2:グループホームという言葉をよく聞きます。これはどんな暮らし方になるの?
  Q3:子どもにお付き合いをしている人ができたそう。とても喜ばしいことだけど、
     親としては結婚・出産のことなど、将来のことを思うと少し不安になることもあります。
     どう考えたら良いの?
  Q4:子どもが18歳(20歳)になります。「サービス代(親の負担)」と
     「本人の収入(年金)」はどうなるのでしょうか?
  Q5:娘に知的障害があり、もし自分が世話できなくなったとき、年金やお金の管理、
     契約などが心配です。どうすれば良いでしょうか?
  Q6:障害があることで、お店や学校、職場などで差別をされてしまうのではないかと、
     とても不安です。

第6章 働き、暮らしを楽しむ

  Q1:学校を卒業した後、働くなんて、本当にできるのでしょうか?
  Q2:会社は法律で障害者を雇うことが必要と聞いたことがあります。
     どういう事情があるのですか?
  Q3:福祉的就労を選ぶかもしれません。「A型」と「B型(作業所)」の違いと、
     工賃が安いB型を選ぶことの意味が知りたいです。
  Q4:スポーツを楽しみたい。近所で気軽に参加できるクラブやサークルはありますか?
  Q5:スポーツ以外で楽しめることはありますか? 
     絵を描いたり、ものづくり(小物づくり)をしたりするのが好きです。
  Q6:旅行を楽しみたい! 車いすユーザーですが、移動や宿泊先が不安です。
     どうすればいいですか?

『 まちがいだらけ』  ~「ちがい」を「まちがい」にしない世界へ~

     HIROTO:絵  しょうじあいか:脚本・文  絵本屋だっこ  定価:1200円+税

 

       私のお薦め度:★★★★☆

今月は、少し気分を変えて絵本の紹介です。
白黒の印刷だとちょっと表現が伝わらないかも知れませんが(注:私たちの育てる会会報は白黒印刷なんです m(_ _)m )、とってもカラフルな絵本です。


絵を描いているのは、札幌生まれの『HIROTO』くん。ASD(自閉スペクトラム症)やADHDの特性のある、現在15歳の高校生アーティストです。
そのHIROTOくんが生みだしたキャラクターたちを主人公にして物語を創っているのが、絵本作家の『しょうじあいか』さん。ご自身が重度障がいや発達特性のある子どものお母さん、今は『絵本から障害理解を広める活動』を自ら立ち上げたNPOにて行なわれているそうです。

“絵”や“カラフル”を、言葉や白黒印刷で表現するのは難しいので、申し訳ないですが、アマゾンに載っていた本の紹介「あらすじ」で紹介させていただきます。

 私もこの「あらすじ」を読んで、早速注文しました。 

発売日は今月の4月2日、できたてホヤホヤの絵本です。

ここは、カラフルなキノコが広がる森。
そこに暮らすシェリーカールにゃんこたちは、みんな同じ色、同じ模様。

ある日、森にやってきたのは――
鉄板のからだをもつにゃんこ。
魚のヒレがついたにゃんこ。
ボロボロのロボットにゃんこ。
積み木みたいなにゃんこ・・・・・。

「なんだか、まちがいだらけじゃないか」

はじめは戸惑っていたにゃんこたち。
けれど、たくさんの“ちがい”に出会ううちに、気づきます。

まちがいだらけだと思ったけど――
本当に、そうだったのかな?

ちがうって、わくわくする。
自分の色も、みんなの色も、どれもすてき。

「ちがい」を「まちがい」にしない世界へ。
多様性をやさしく伝える、カラフルで力強い絵本です。


蛇足になるかもしれませんが、私からも少し説明を加えると、カラフルなキノコの森なのに、そこに暮らす「シェリーカールにゃんこ」(HIROTOくんの命名)たちは、みんな同じ顔に同じ身体、同じ色をしたにゃんこたちです。

森のカラフルなキノコを見ても「正しいのは何色なんだろう? まちがいだらけだなあ」なんて考えたりしています。


みんなが同じなのが一番安心できる・・・なんて考えがちな学校や社会みたいですね。
そこへ海からやってきたのが少し変わった「テッパンカールにゃんこ」と「ギョルトカールにゃんこ」の二人組。

「シェリーカールにゃんこ」たちの第一印象は、「まちがいだらけで、変わってて気持ち悪い」・・・・
 

自分たちとは違うものは、まず排除したがるのは人間だけでなくにゃんこたちの世界でも同じなのかもしれません。動物の群れでも同じですし、もっと言えば私の飼っていたメダカの水槽でも,新参者のメダカはいじめられていましたから、もしかすると生物界の生存本能に由来するのかもしれませんね。

 

次の日現れたのは、脚がバネで積み木でできた「キッズルームカールにゃんこ」、もうここまでくると大人たちはあきれるだけ、一方で子どもたちは喜んで一緒に遊びます。
そしてさらに次の日、ドヤドヤとやってきたのが、たくさんの一人ひとり違ったにゃんこたちです。
みんなHIROTOくんの創ったにゃんこで、本の後半は図鑑になっていて一人ひとり紹介されています。

『おんせんカールにゃんこ』 街で祖なのお風呂に温泉を沸かすにゃんこ
『半ヤシの木カールにゃんこ』 半分がヤシの木でできている 無限にココナッツができる
『貯金箱カールにゃんこ』 入れたお金が倍になる貯金箱のカールにゃんこ
『ハリボテカールにゃんこ』 段ボールでできた張りぼてのカールにゃんこ  ・・・・・ などなど

そんな一人ひとり違ったカールにゃんんこを見ていた、こちらは同じ模様の「シェリーカールにゃんこ」たち。
「まちがいだらけじゃなかった。わくわくだらけだったんだ」
そして、今まで同じ模様、同じ色だったにゃんこたちが、森のカラフルなキノコを食べて、いろんな色になって楽しく遊びましたってさ・・・めでたし、めでたし。

もちろん、現実社会は絵本のように簡単ではありません。それでも、この絵本が読者の心に響くように、思いは広がっていくかもしれません。そう信じたいですね。

 

先ほど書いたように「自分たちと違うモノを排除しようとする」のが生きていくための生存本能だとすると、

違ったモノを受け入れることができるのは、人間だけにできる(あるいは、人間と“カールにゃんこ”たちだけにできる)優しさなのかも知れません。この寛容さを大切にしたいですね。


「あとがき」にあったHIROTOくんのお母さんからのメッセージです。

どうして うまくいかないのだろうと、一緒に立ち止まったことも何度もあります。
それでも、彼が描く絵を見ていると、
「あなたには、あなたの歩き方があるんだよ」
そう教えられてきたのは、私のほうでした。

彼の描く世界は、驚くほどまっすぐで、自由です。
この物語が、どこかで悩んでいる誰かに、「あなた色のままで、歩いていけますように」とそっと届きますように。


またこの本の使い方も、いろいろと紹介されています。


・多様性やインクルーシブ教育について考える場面に
・発達特性や障がい理解をやさしく伝える場面に
・学校や保育園での読み聞かせに
・家庭で親子一緒に読む時間に


どんな場面で使うのか、それは読者のみなさんにお任せしますが・・・、でもやっぱり最初は親子で一緒に読んでいただきたいと願っての、お薦めの一冊です。
 

             (「育てる会会報 336号」(2026.4) より)

 

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目次

 

『まちがいだらけ』

 

ひろと HIROTO 【プロフィール・経歴】

 

あとがき HIROTOの母より

 

脚本提供:しょうじあいかより

 

インクルーシブ絵本作家 しょうじあいか

 

HOROTO にゃんこ図鑑

  

 

 

 

 

『 発達障害の私だからこそ、成功できた 』

     似鳥 昭雄:著  祥伝社  定価:1600円+税 (2026.3)

 

          私のお薦め度:★★★★☆

先月号で紹介した『ザ・パターン・シーカー』は「自閉症がいかに人類の発明を促したか」というテーマで、自閉症のもつポジティブな部分にスポットを当てて書かれていましたが、今月もそれに引き続き、74歳で
発達障害と診断された“成功”者の方の自伝です。
著者名を見てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズでお馴染みの、家具のニトリ、ニトリホールディング会長の似鳥昭雄氏です。

私は74歳の時、あるきっかけから「発達障害」の診断を受けました。ショックや驚きはなく、その診断はしっくりくるものでした。
「なるほど、だから自分は周りと違っていたんだ」
これまでの長い人生における、困難の答え合わせができた気分でした。(「序章」より)


こんな独白から始まる本書です。
すでにニトリの創業者として1店舗から店舗網を拡大し続け、現在は「国内外でグループ3000店舗、売上高3兆円」という目標に向けて頑張られているところです。

そんな似鳥会長、ある日偶然、テレビのADHD(注意欠陥多動症)の解説を見ていて、自分にそっくりと気づかれたそうです。

「似鳥さんは発達障害です」と病院の先生に言われた私は、納得しながら心のどこかでホッとしていました。
子どもの頃、名前を漢字で書けなかったのも、学校の成績が最低だったのも、先生から「落ち着きがない」「人の話が聞けない」「努力が足りない」と怒られたのも、両親から忘れ物や落とし物をするたびに叩かれていたのも、同級生たちの次から次へと変わる話題についていけずにいじめられたのも全部、発達障害の特性があったから。そのことをやっと、知ることができたのですから。
なるほど。だから自分は、周りと違っていたのか。
74歳になって、子どもの頃、若い頃、そして今も抱えている困難の答え合わせができた。だから、「なるほど」としっくりきたのでした。

自分に発達障害があることを、私はまず妻の百百代に、次に家族に、会社の仲間にも伝えました。妻と、長年私を支えてくれている秘書の反応はほぼ同じ。「本当に!?」ではなく、「やっぱりね……」という顔をしていました。忘れ物は多いし、人の話を開いていないし、思いつきで行動するし、手間のかかる人だと思われていたのでしょう
。

テレビを見てから、数日後、病院で先生から「正真正銘、ADHDです」と太鼓判を押された似鳥会長ですが、その後発達障害について調べていると、自分にはADHDだけでなくASD(自閉スペクトラム症)やLD(限局性学習障害)などの発達障害の特性もあることに気づかされたそうです。


ASDの特性の一つであるコミュニケーションの苦手さにより、これまで初対面の人との会話がうまくできなくて営業面 でつまづいて対人恐怖症になったこともあるそうです。
一方でASDの「物事を突き詰める力」をうまく発揮することにより、ニトリを成長させることもできたということです。

LDに関してはその特性を知り、「ああ~、それで私はクラスでただ1人、自分の名前を漢字で書けなかったのか!」と腹落ちしました。小学6年生になるまで、私は自分の名前を漢字で書けなかった。当時は親も先生も「書字障害」なんて知りません。
「ただただ頭が悪くて、努力不足なんだ」と自分を責めていました。


そんな会長ですから、74歳にして初めて自分の特性に名前があることを知り、腹落ちされたわけですね。
奇しくも私も、現在74歳。

息子に診断名がつかなければ、私もこの歳まで、自分の特性に名前があることに気づかなかったかもしれません。ハイ、結構私もASDの特性が強いですし、妻もADHDと診断されるかもしれないですね。
まだまだ一般社会では、発達障害についての関心はメジャーではないのかもしれません。

さて、書名の『発達障害の私だからこそ、成功できた』に戻って、なぜ「だからこそ」の話です。

それに大きな仕事を進める上では、私たちの特性がプラスに働くこともたくさんあります。例えば、「こうと思ったら、やつてみちゃうところ」です。
学校の勉強がよくできた頭がいい人ほど、何か思いつくのと同時に「できない理由」や「大変そうな展開」も思い浮かべてしまって、なかなか行動に移せません。石橋を叩いて渡るというか、慎重とぃうか、臆病というか。

でも、私はすぐにやっちゃうんですね。浮かんだアイデアは試しちゃうし、まずは取り組んじゃう。仮に出鼻を挫かれるようなトラブルが起きても、「なぜだろう?」と試行錯誤を繰り返して、とにかく前進しょうとします。そういう勇気があるのです。
考えてみてください。いいアイデア、いい発想、いい計画があっても、取り組まなければ成功しませんよね? それは失敗と同じじゃないですか? 
実際に行動に移す前だから失敗していないように見えるけど、何もしなかった分、ワクワクするような成功もないんじゃないかなと思います。
私からは、頭のいい人ほど「やらない失敗」が多いように見えます。だけど、仲間になったら頭のいい人たちはそれぞれの得意な分野で力を発揮して、私を助けてくれました。


ここで、ADHDの特性の一つである「すぐにやっちゃう」ことが成功に繋がることと同時に、仲間の大切さも述べられています。

発達障害は障害というだけあって、弱みであることも間違いないです。
それをカバーするのが仲間の存在です。似鳥会長の場合、その最大の存在が奥様、百百代さんであり、そして家族や会社の仲間であったわけです。


「自分の弱点を認めたら、それを補ってくれる仲間を集めて、あとは任せる」 それが成功の秘訣だったわけですね。
本書では、、発達障害の診断を受けてから、改めてこれまでの人生を振り返っての話や、奥様や秘書の方など周りの方からのエピソード話など、結構大変だったけど、明るく振り返っての人生が綴られているので、読み終わって元気のでる本だと思い、お薦め本とさせていただきました。

それでは、最後に似鳥会長から“あなた”へのメッセージです。

私は自分が診断を受けた時、「そうだったのか」と納得しました。
でも、それを知ったからといって何か特別なことが変わったわけではありません。ただ自分自身をより理解できるようになっただけです。
大切なのは「診断名」ではなく、自分自身を知り、長所を伸ばし、短所と上手に付き合っていくことなのです。診断を「制限」と感じるのではなく、自分自身をより理解し、自分に合った生き方を見つける「きっかけ」にしてほしいと思います。

そして、何よりも大事なのは明るさです。
人生には苦しいことやつらいことがたくさんあります。発達障害の特性があると、そうした困難に直面する機会も増えるかもしれませ。でも、明るく前向きな姿勢でいると、不思議と助けてくれる人が現れるものです。私はいつも、誰に会っても笑顔でいることを心がけてきました。
落ち込んでいる時こそ笑顔を。困難にぶつかった時こそ前向きに。そうすることで、自分の心も軽くなりますし、周りの人も協力してくれるようになります。
私は「明るくいる。それで乗り切る。すると運が向いてくる」と信じています。明るく積極的にいようとしていれば、苦しい時に救いの手が伸びてくる。これは私の実感です。

 

            (「育てる会会報 335号」(2026.3)  より)
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目次

序章 74歳、発達障害であることがわかった

  ショックはなく、ただただしっくりきた
  3つの特性が見事に当てはまった!
  ADHD、ASD、LDという種類
  だから、自分は周りと違っていた
  自分の特性を言うか、言わないか
  発達障害の人が持つ可能性

第1章 ほんとうに、発達障害はできないことばかり?

  苦手、不得意はそのまんま。でも、長所を伸ばせば、短所は隠れる
  特性は、普通の人には見えないものが見える特殊能力
  弱点は認めて、さらけ出して、誰かに任せる
  特性のある人を見守る側になった時、大事なこと
  苦手は直らない。だから長所を武器に変えていく

【 障害じゃない、個性がすごく強い人
    似鳥百百代さん×秘書Oさん×秘書Iさん コラム前編 】

   仕事での集中力はすごいけど
   1つのことに集中すると、他を忘れてしまう
   あけすけな明るさがうらやましい

第2章 不思議だった自分自身

  何でもかんでも忘れ物。名前が書けなかった小学生
  通信簿は1と2ばかり。でも絵は上手で、集中できた
  つらかった家の手伝いと「ニタリくん」
  続く地獄の日々。その中で見つけた活路「人とは違う道」
  自分の得意を見つけて、人生が上向いてきた!
  特性の裏表。つらくて泣いても、翌朝にはケロリ
  「できない」を「できる」にしたくて、ナンパ師に弟子入り
  家出、のち、人と話せないダメダメ営業マン
  失敗だらけ、職を転々。だからこそ訪れた転機
  発達障害の診断を受けたあとの暮らし

 【 数字へのこだわり、その理由とは?
    似鳥百百代さん×秘書Oさん×秘書Iさん コラム後編 】

   夢ばっかり語るけど働かない夫に訪れた転機
   ニトリ最大のピンチに交わした夫婦の会話
   「すぐにできないと言うな」、ブレないお客様目線
   特性のプラス面を感じる集中力と数字へのこだわり

第3章 「できないだらけ」との付き合い方

  持って生まれた特性を抱えたまま、どう生きていく?
  お客様と話せない!  いきなりぶつかつた「できない」の壁
  妻が私の苦手を担ってくれた
  苦手は頼れる仲間に任せるのが一番
  信じて任せた先にあった地獄と学び
  苦手は直らない。でも、慣れていくことはできる
  アメリカで芽生えた「ロマン」が自分を変えた
  交渉事は断られてからがスタート。お客様の喜ぶ顔が力に
  「人よりのろまで頭が悪い」と育てられた私と思師の出会い
  ロマンの実現に欠かせない、ビジョンという地図
  思いばかりが空回り、やっと掲げた30年計画
  ニトリ本州進出を前に、私の心は振り子のように揺れていた
  その「できない」は、「やってない」ではないか?
  特性と一緒に人生を歩んできた経営者なりの人の育て方
  かつての自分が重なる子どもたちと学ぶ「LEARN with NITORI」
  先回りして限界を決めないこと
  明るさと好奇心が壁を越える力になる

 【 一挙手一投足から目が離せない存在
         白井俊之社長インタビュー 】

   苦手も弱みもあけすけに全部を見せてしまう人
   本州進出日前、深夜に交わした会長とのやりとり
   「心配の8割は現実にならないんだ」
   誰もが努力を続ければ自分のようになれると僣じている

第4章 とにかくやっちやう。そういう勇気がある

  人が喜ぶ顔を見たい。それが私の原動カ
  札幌でサンバの王様に?!
  好きを極めていく。とにかくやってみる
  逆算の経営で喜ばれる商品を開発し、社員に還元する
  私の人生はサスペンス劇場

おわりに  「できること」を見つけていく、伸ばしていく


  巻末解説: ADHDが世界をつくる ― 岩波 明(精神科医、昭和医科大学特任教授)


『 ザ・パターン・シーカー 』

    サイモン・バロン=コーエン:著  篠田 理佐:訳  岡本 卓・和田 秀樹:監訳 

    化学同人  定価:2400円+税 (2022.11)

 

         私のお薦め度:★★★☆☆

今月のお薦め本、書名だけでは「自閉症と関係あるの?」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんね。
著者は、『自閉症入門 親のためのガイドブック~』『自閉症スペクトラム入門 ~脳・心理から教育・治療までの最新知識~』や『自閉症とマインド・ブラインドネス』など、このコーナーで何度も紹介したことのあるサイモン・バロン=コーエン博士です。
副題に「自閉症がいかに人類の発明を促したか」とあり、帯には「なぜ、人類だけが発明できるのか?」とあるように、“発明”に必要な要素と、その要素と“自閉症”との関係を解き明かそうとされているのが本書です。

本書で最初に登場するのは4歳のアルと2歳のジョナという2人の少年です。ともに言葉を話さず、他人に興味を示さず物事の中にあるパターン(規則性・法則性)を見つけることにこだわっていました。のちにアルはトーマス・エジソンの名で発明王と呼ばれるるようになり、一方の現代に生きるジョナは自閉症と診断され、いまだ一人の友だちを作るのにも難渋している若者として暮らしています。
そして二人に共通するのが「パターン・シーカー」という特性であり、日本語に訳せば「法則探求者」とでもいえるのでしょうか。

そして、筆者はこのパターン・シーカーの特性こそが発明に必須なものであり、地球上で人類のみが持つ能力である、との説を展開していきます。
その一部を抜粋して紹介してみましょう。

心理学者かつ自閉症研究者として私は35年間、ヒトのマインドを研究してきた。
私はこの本において、人間の発明についての新しい理論を紹介する。簡単に説明してみよう。

1.唯一、ヒトは脳に特殊なエンジンを持つ。これは、システムの最小定義である、if- and-thenパターンを探索するものだ。私は、脳に存在するこのエンジンを「システム化メカニズム」と呼ぶ。                       

2.システム化メカニズムは、7万年前~10万年前という人類の進化における特筆すべき時期に出来上がった。このとき、最初のヒトは、それまでの動物や現在のヒト以外の動物には成しえなかった方法で複雑な道具を作り始めた。        

3.システム化メカニズムの獲得によって、この惑星上でヒトだけが、科学、および技術を極めることができ、他のすべての種を凌駕することになった。
・・・・・
5.システム化メカニズムは、自閉症マインドでも、非常に高く調整されている。
・・・・・


この仮説の前提を証明するために、動物にはこのif- and-then(もしならば)システムが備わっていないのか、とか、過去のヒト科であるホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス、ホモ・ネアンデルターレンシスなどは“発明”という能力を獲得できなかった、とか、またホモ・サピエンス(現人類)がネアンデルタール人に取って変わることができ、ネアンデルタール人が絶滅したのは、このシステム化メカニズムによる認知革命が本格化してきた4万年前頃・・・・などという説は、実は「ああ、そうかもね」と斜め読みした部分でした。みなさんも、よほど知的探究心の深い方以外は、「ホンマでっか」でも構わないと思いました。バロン=コーエン博士には申し訳ないですが・・・・

なにより私が、この本を手にした一番の動機は、自閉症と人類の発明についてでした。自閉症というもののポジティブな面を知り、ソウソウと納得したかったから・・・みなさんもおそらくそうではないかと思います。


これについては、心の理論の第一人者であるバロン=コーエン博士は、まずヒトの脳を5つのタイプに分類することからら始められています。

使われているのはシステム化指数(SQ)と共感指数(EQ)の二つです。どちらの傾向が高いかによってタイプが分類されます。
すでにお気づきのように、SQの高い人は「木を見て森を見ず」のような細部まで注視するタイプで、EQの高い人は空気を読んだり、他人の心を容易に察知でいる人です。
ですから、まずSQの高いS型、EQの高いE型、そして両方を平均にもつB(バランス)型に分類されています。
そしてその端っこには極端に高いSやEの指数を持つエクストリームS型とエクストリームE型が含まれています。

ここまで書けば、もうお分かりですね。人類が他の種を凌駕するのに必要だったのは、if- and-thenシステムによる発明であり、そのパターン・シーカーはS型もしくはエクストリームS型の人の特性であり、また高機能自閉症の人もほとんどがエクストリームS型に分類されることでしょう。
ちなみに、S型、E型、B型の人の割合はそれぞれ約3分の1ずつ、そしてエクスリームS型は人類のわずか3%ほどといわれるのですから、「ザ・パターン・シーカー」≒「高機能自閉症」といえるのかもしれないですね。
なお、逆のパターンのエクストリームE型の脳タイプは逆に男性よりも女性に多く、女性の3%、男性のわずか1%、超共感型といわれるそうです。ある意味納得ですね。
気になる方は本書の巻末に「付録1 SQとEQでわかるあなたの脳タイプ」という質問と採点表がついていますので、自分の脳タイプをチェックされてみられては・・・・

それからの20年間、エジソンの発明は飛ぶ鳥を落とす勢いであった。
29歳で、カーボン・トランスミッターを発明。アレクサンダー・グラハム・ベルの発明した電話が使えるようになった。
32歳で、彼は商業化にむけて実用的な最初の電球を発明し、36歳で、生成・供給可能な商業実用的な最初のセントラル・システムを整備した。
43歳には、サイレント映画の先駆けとなった初期のフイルム投影機「バイタスコープ」を発明した。
他にも、最初の実用的なディクタフオン、謄写版、蓄電池を発明した。エジソンは疲れ知らずのハイパー・システマイザーだったのだ。有名な話だが、彼が自分の執拗な実験についてこう言ったといわれている。 

「私は失敗したのではなく、うまくいかない1万通りの方法を見つけただけです」

この発言は、システムの中ですべての変数を試すこと、そしてそれぞれの効果を追跡する必要性を完全に表している。これが、システム化のメカニズムの核心なのだ。
エジソンは、ハイパーシステマイジング・マインドという、たぐいまれな才能に恵まれていたが、彼の仕事への飽くなき執着と乏しい社会性は、私生活では困難を起こし続けた。彼は、他の誰かと親しい人間関係を築くことができなかったのだ。


もちろん、150年前のトーマス・“アル”・エジソンは自閉症という診断を受けていたわけではありません。そもそも、その頃には“自閉症”という言葉すら、まだなかった時代です。でも様々なエピソードからして、特性を持っていたのは間違いないといえるでしょうね。そして、ハイパー・システマイザーだったエジソンのたくさんの発明が人類の文化を一段階前に進めたことは間違いないでしょう。

また、自閉スペクトラム症(ASD)が劣っているのではなく、ただ多くの人と脳のタイプが違うだけ、というように、本書に登場するパターン・シーカーのS型やエクストリームS型の人だけが逆に“優れている”という訳でもなく、ただ違っているだけの話ですね。

システム化メカニズムは発明や実験能力を生み出し、一方で共感回路は、他人や自分の考えを振り返る力も培い、柔軟なコミュニケーシヨンを可能にした。これら二つの新しい認知モジュールが共に認知革命を牽引したのだ。多くの自閉症の人びとが心の理論に翻弄されながらも実験することのオ能には恵まれていた事実が示しているように、システム化メカニズムと共感回路はそれぞれ独立しているものの、言語と音楽(※)という二つのヒトに固有な発明に見られるように、明らかに相互作用している。
   ※音楽と発明についての詳しい考察は本書をお読みください

S型のヒトによってなされた発明は、E型の言語によるコミュニケーションにより共有され、初めて人類のモノになったということでしょう。
7万5千年前の宝石の発明者や4万年前の洞窟画家にも思いを馳ながら、今月のお薦め本といたします。

             (「育てる会会報 334号」(2026.2)より)

 

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目次

第1章 生まれながらのパターン・シーカー
       - アル(エジソン)の幼少時代

第2章 システム化メカニズム

第3章 5つの脳タイプ

第4章 発明家のマインド

第5章 ヒトの脳に起きた革命

第6章 システム・ブラインドネス
       - なぜサルはスケートボードをしないのか?

第7章 巨人の戦い
       - 言語 vs. システム化メカニズム

第8章 シリコンバレーの遺伝子を探る

第9章 未来の発明家を育てる


  謝辞
  訳者あとがき
  付録1 SQとEQでわかるあなたの脳タイプ
  付録2 AQでわかる自閉特徴の値
  原注と参考文献
  索引
  図・写真 提供
 

『 児童発達支援・放課後等デイサービスのための  発達障害支援の基本 』

   内山 登紀夫:著  日本評論社  定価:2500円+税 (2025.11)

                 私のお薦め度:★★★★☆

育てる会でも以前講演をお願いした、よこはま発達クリニック院長でTEACCHプログラム研究会の会長も務められている内山登紀夫先生の近著です。
タイトルの前に「児童発達支援・放課後等デイサービスのための」と付けられているように、この本のもとになっているのは、よこはま発達クリニックで主催された支援者や保護者を対象にした連続12回のリモート講義の内容です。

12回もの連続講義を行ったのは、発達障害を体系立てて理解する必要があると常日頃から感じていたからでもあります。発達障害についてのセミナーや講義を学校や専門家団体、行政機関などから依頼されることが多いですが、多くの場合、1時間や半日での依頼です。そのわずかな時間で、発達障害の概念から子どもや親の支援について説明するのは困難です。
特に、対象が児童発達支援や放課後等デイサービス、保育士や教師など、支援や教育を業務としている専門職の場合は、スキルや知識も一定の水準が要求されます。しかし、福祉や教育の業界では、スキルや知識よりも「愛情」や「熱意」が重視される傾向があるように感じます。
著者は発達障害の支援者には発達障害に関する一定の知識とスキルが絶対に必要だと考えています。発達障害は一見すると障害があるように見えないことも多く、知識やスキルがない支援者が「愛情と熱意」だけを武器にサポートすることは、大きなリスクを伴います。(「はじめに」より)

                 
それは、私たちが20年前から支援者の方に向けての連続10回の即実践講座や夜間連続講座を毎年続けてきたのと同じ思いです。
(ちなみに今年は井上雅彦先生と菊池省三先生、令和8年度は門眞一郎先生と諏訪利明先生に、それぞれ連続10回の講座をお願いしています) 

       
ですから、本書の内容も、初めて支援にあたるようになった方でも理解しやすいように、発達障害の特性の理解から支援の方法までを分かりやすく解説されていただいています。
児童発達支援や放課後等デイサービスで支援にあたられるのなら、初心者であっても最低限ここまでは理解して、身につけておいてほしいという知識やスキルの話です。

ただ日本の現実として、支援の目標はあってもHow(どのように)についての考察がないまま、どんどん事業所が増えていくことを内山先生も問題とされています。                         

障害児支援制度の問題点は、障害特性のアセスメントがなく、障害特性を考慮したノウハウがなくても児発管として機能してしまうことです。
ニユーロダイバーシティの時代でも「集団適応」や「訓練」が国の施策として生きています。「子どもは子どもらしく、みんなと一緒に遊ぶ」ことなど、多数派の価値観をもとにした目標が立てられますが、それを実現するための具体策がないままの個別支援計画になりがちです。目標はあっても、それを達成するための手段・工夫が必要との認識が乏しいです。


たしかに行政からの事業所の実地指導(現在は運営指導の名称)においても、人員配置や各種書類の整備等は細かく審査されますが、「障害特性のアセスメント」や「障害特性を考慮したノウハウ」などを問われることはありませんね。それが一番大切だと思うのですが・・・質を審査されることはありません。

また、自閉症支援のための研修についても問われることはありません。教員免許や保育士の資格を持っていれば、知識やノウハウを知らなくても採用当日から子どもたちの支援(?)にあたれるのです。

行政的には何の問題もないのです・・・・

一方で内山先生は、学校現場についても注文を付けられています。

学校教育にも問題点があります。一つは集団主義です。みんなで同じことをやるのが大事で、平等であるという思い込みは落とし穴です。体力はない子もある子もいますが、全員1.5km走ることを強要されるのはほんとうに平等なのでしようか。
また、お題目主義でもあります。「みんな仲良くしよう」「明るく振る舞おう」「みんな元気で明るい〇年△組」・・・・・しかし、みんなが元気で仲良くて明るいなんてことは実際にはありえません。明るくない、友達と仲良くできないと、自分はダメだと思ってしまう子どももいます。明るくなくても、友達と仲良くできなくても、ダメな子どもではありません。
学校では、我慢の教育になりやすい傾向があります。将来に備えて今頑張ろうと訓練的になってしまいます。もちろん、ある程度頑張ることも必要でしょうが、学校では子どもにとって動機のないこともしなければなりません。例えば、ピアノが好きで弾きたいという子どもは、多少つらくても一生懸命練習する動機があるでしょう。しかし、ピアノが嫌いな子に練習をさせるのは、その子がつらいだけで、決してプラスにはならないだろうと思います。


「ともだち、百人できるかな~~♪」 友だち100人できる小学1年生は、まずいないと思いますし、友だちの数が多いほどすばらしいわけでもないですし、そもそも“友だち”がいなくても一人でいる方が気楽な子はそれでいいと思います。
もっとも、友だちがほしいASDの子もいると思いますし、友だちの作り方が分からない子もいると思えるので、そんな時には周りからサポートしてあげればいいですね。
要は一つの価値観を押しつけないで、それぞれの自分の思いを認めてあげるのが多様性を尊重するニューロダイバシティなのでしょう。

そんなわけで、支援者としての基本的な“スキル”については、本書をご覧いただくとして、最後に“知識”として面白かった・・・と言うと失礼かもしれませんが、ウンウンと思わず納得した「愛の子育て」なるものを紹介させていただきます。

保健師、保育士、先生、他の保護者と話しているときに、言ってほしくない、保護者が傷つく言葉を紹介します。

   ◆ あいじょうかけてあげて
   ◆ いつも笑顔で接してあげて
   ◆ のばしてあげて(協調性、社会性、遊び、学力)
   ◆ こんな子、初めてみました(と、数人に伝えている先生もいる)
   ◆ こどもと話をしていますか? こどもと遊んでいますか?
   ◆ そだてかたに問題があるんじゃ

   ◆ だきしめてやってください

   ◆ てをかけてください

頭文字「あいのこそだて」と覚えてほしい、親御さんを傷つける呪いの言葉です。このような言葉は支援者との関係を悪くし、支援から遠ざける禁句だと思ってください。言っている本人は善意で、親御さんを傷つけようとしているわけではないけれど、聞いた親御さんは結果的に傷つきます。
このような言動はマイクロアグレッション(小さな敵意)と言われ、無意識的・日常的に行われる、差別的・排除的な言動や態度のことです。多くの場合、発言者に悪意はなくても、受け手にとっては傷つく経験となります。


間違えないでくださいね。幼稚園や保育園などで園長先生から聞いたことがあるかもしれませんが、これは「保護者が傷つく言葉、禁句集」ですよ。
もちろん発達障害児の療育現場においても、最初の「愛情をかける」ことは大切ですが、そのためにはそれを裏打ちする技術を伴ってこそ、という意味での禁句集です。


本当は、保育園などでも障害特性に配慮した保育を行なっていただけるのがベストなのですが(そのために私たちも「現場の先生のための即実践講座」などを開催しているわけですが・・・)、それはなかなか難しいことから、本書「児童発達支援・放課後等デイサービスのための 発達障害支援の基本」では禁句集として挙げられているわけです。

 

・・・もっともAS気質の私なんかは、頭文字が「あいのこそだて」ではなく、「あいのここそだて」になってますが・・・、などと些末なことに気になるタチなんですが (^^;)

蛇足はさておき、発達障害の療育に携わっている方、これから取り組もうとしている方には、ぜひ読んでおいていただきたい一冊です。お薦め本です。

                     (「育てる会 会報 333号」(2026.1)より)

 

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目次

  まえがき

第1章 発達障害とは何か
     ~ ニューロダイバシティの観点から

  はじめに 
  ニューロダイバシティとは
  アタッチメント(愛着)とは
  多様性の尊重
  神経発達症群とは
  知的発達症
  自閉スペクトラム症(ASD)
  注意欠如・多動症(ADHD)  
  学習障害
  発達性協調運動症
  社会モデルと個人(医学)モデル
  感覚の問題
  英国におりるニューロダイバシティ

第2章 自閉スペクトラム症の学習スタイル

  自閉スペクトラム症の学習スタイル
  暗黙的な学習
  聴党情報の処理
  注意
  「注意」の特性への配慮 
  弱い中枢性統合
  実行機能
  社会性の認知
  社会性の認知の苦手を補う
  英国の新しい理論
  感覚の問題
  ASDを理解することの意味

第3章 感覚問題の理解とサポート

  感覚刺激が多すぎる
  感覚刺激への反応
  感覚をめぐる困りごと
  異食 ― 食物でないものを食べる
  対策

第4章 コミュニケーションと交流のサポート

  定型発達のコミュニケーションの発達
  ASDのコミュニケーションの発達
  表出コミュニケーションへの特性の現れ方
  受容コミュニケーションヘの特性の現れ方
  非言語コミュニケーションヘの特性の現れ方
  社会的コミュニケーション障害の現れ方
  社会性と対人コミュニケーションは不可分
  コミュニケーションの支援
  受容的(理解)コミュニケーションのアセスメント
  コミュニケーションの指導の方法・工夫
  コミュニケーションを妨げるもの
  社会的状況でのコミュニケーションの指導方略
  大人のコミュニケーションの調整
  まとめ

第5章 療育の原則
     ~SPELL、TEACCHの考え方と支援方法

  発達障害の療育の原則
  SPELLとは
  TEACCHの構造化

第6章 いわゆる問題行動、懸念される行動の対応、
    愛着・トラウマとの関連

  行動の理解と問題行動の対応
  行動の機能分析
  自閉性疲弊と燃え尽き
  愛着とトラウマとの関係
  精神医学におけるアタッチメント障害
  発達障害の子どもはトラウマ体験をもちやすい
  虐待・愛着障害か、発達障害か
  養育者・支援者に求められるもの - アタッチメントの視点から
  ASDとトラウマ

第7章 思春期の課題と女子の特性

  思春期のASD・ADHDの子ども
  合理的配慮について
  思春期の支援の基本方針
  就学にあたって
  「平等」「差別」という落とし穴
  思春期の変化
  「授業に集中しない、落ち着きがない」子どもへの対応
  女子の特徴
  女子に向けた指導方略
  思春期の社会性/性の問題への対応
  ASDの女子といじめ
  ASDの女子とカモフラージュ

第8章 本人・家族への特性理解の支援

  本人・家族への「告知」
  「障害受容」という曖味な用語
  発達障害の理解の障壁
  保護者が傷つく言葉、禁句集
  発達障害で考慮すべきこと
  自分の特性を自分で理解する
  カミングアウト、第三者への説明
  当事者にとっての診断の意味

第9章 不安とストレスの対応

  ASDの人たちのストレッサー
  発達障害と合併しやすい精神疾患・身体疾患
  ASDと不安
  ASDと抑うつ症
  不安やうつをもつASDの人へのサポート
  治療・支援
  個別カウンセリング

第10章 医療と連携・薬物療法

  発達障害と医療
  発達障害の子どもの薬物療法
  問題行動への対応
  薬物療法の開始、中止、増量、減量の判断
  ASDに伴う身体的併存症
  睡眠障害
  精神科治療における薬物療法
  薬物療法を希望する人への注意事項

第11章 日本の障害児支援の仕組みと課題

  障害児支援ナービス制度
  計画相談支援・障害児相談支援の仕組み
  受給者証をめぐって
  医療とのかかわり
  調査から見えてきたこと
  相談支援と事業所のサービス
  現場での支援

第12章 将来の自立した生活に向けての支援

  成人期に困っていることから逆算して考える
  将来に備えて
  子どもをサポートするときの原則
  学校をどう考えるか
  合理的配慮と学校
  「統合教育」と特別支援教育
  排除・不登校
  エネルギーとキャパシティ
  学校におりるネガティブな体験
  本人中心のプラン
  10代へのアクションプラン
  保護者・支援者が自分自身を大切にする

 あとがき

 参考図書/推薦図書

『 私の歩んだ 児童精神医学の道 』

門 眞一郎:著  星和書店  定価:2700円+税 (2025.10)


             私のお薦め度:★★★★☆

これまで育てる会で講演会や連続講座などで大変お世話になっています門 眞一郎 先生の最新刊です。 
と、言ってもこれまでの先生の著書や訳書とはひと味違って、書名からお分かりのように門先生が歩まれてこられた「児童精神医学」の足跡を巡る一冊です。
ですから、今月はいつもの自閉症児の子育てへの参考にしてほしいノウハウや対応法の“お薦め本”というよりも、代表の今月の巻頭文と同じく、私の読書感想文、読んで良かった私のお薦め本となっていますのでよろしくお願いします。

私が今まで読んできた偉人の伝記や自伝などは、何かを成し遂げるために、コツコツと、あるいは波瀾万丈に努力してきた、そんな物語がほとんどで、それが故に感銘をいただいていたように思います。
目の前の高い山の頂上を目指して、凡人の私には手の届かないような足取りで登っていくクライマーみたいな姿ですね。一筋の道をひたすらたどる修験者か仙人さんみたいな感じです。
でも、本書の門先生の歩んでいる姿はちょっと違っています。

まずは、門先生が“この指とまれ”と唱えられた、本書の冒頭の「自閉スペクトラム医師宣言」を紹介します。

ここに一つの宣言文がある。医師による宣言、それも発達障害を診る精神科医師による宣言、しかも自分も自閉スペクトラム上にあると認識している精神科医師による宣言である。

自閉スベクトラム医師宣言(Declaration as a Doctor on the Autism Spectrum:DDAS)
私たちは、この宣言を発表する自分自身が自閉スペクトラム(以下AS)の特性を有しており、AS上にいるすべての人々と連帯することを誇りに思います。私たちの目標は、AS上にいる人たちが、適切に理解され、必要な支援を受け、その個性を自由に発揮し、充実した生活を築くことができるようになることです。
私たちは、自らの経験を通じて、ASが少数派の単なる特性であり、その特性に対する多数派からの誤解や偏見が、本来の個性や能力を阻害してしまうことを痛感しています。そのために、私たちは自分たちの経験を活かし、AS上にいるすべての人々と連帯し、その声を強く反映させることを約束します。 (以下略)


そんな、ASと自ら宣言された先生、やはり先着1名様(脳ミソのキャパは先着1名様で全画面表示! :ニキ リンコ)の特性をお持ちなのか、本書でも各章ごとにその折々、取り組まれるテーマが次々と変わっていかれます。
不登校への対応から児童虐待、薬物療法批判、TEACCHプログラムの話から現在のPECS、そして西陣麦酒まで・・・いわば、生涯をかけて高い山に登ろうとするのがこれまでの伝記だとすると、本書は目指す山の頂に達する度に、次に登る山、登らなければならない山が見つかり、山の稜線を歩いていくような、そんな一冊だと思いました。
どの山一つをとっても、私などではたどり着けない頂上なのですが、先生はあっさりと次のテーマを見つけ、それを極めていかれます。

もちろん門先生にとっても険しい山もあります。
薬物療法について書かれた章などその最たるものでしょう。

児童精神医療の分野で使用される薬は、厳密に考えればそのほとんどが実験的な使用なのである。治療薬であれ検査薬であれ、そうなのだ。つまり、これらの薬を投与するということは、治療的な人体実験、もしくは非治療的な人体実験ということになる。そうすると人体実験としてのしかるべき倫理基準に則して行われなければならないが、その点が私には甚だ疑間に思えた。1985年当時、子どもに使用された薬の効果について報告された論文をいくつか読み、薬の実験的使用に関する手続きについての当時の指針や倫理原則を参照してみたところ、我が国の児童精神医療の悲惨さには改めて慄然たる思いを禁じ得なかった。

そんな門先生が、止むに止まれぬ義理から、日本児童青年精神医学会の第50回総会の総会長を引き受けざるをえなくなったそうですが、その時引き受ける条件として出されたのが、“開催にあたり製薬会社からの寄付は受けない、つまり参加費を値上げしてでも自前で総会を開催する”ということだったそうです。
期待と激励の声と同時に、やはり誹謗中傷にもあわれたそうですが、プログラムを充実させ史上最多の参加者で、製薬会社からの寄付を上回る額の剰余金まで確保されたとのことです。

余剰金が出たら開催地でのいろんな活動に使ってよいことになっていたのだが、そうはしなかった。次の総会も製薬企業からの寄付を受けずに開催できるようにと、学会に贈呈した。しかし、その願いは見事に打ち砕かれた。次の総会で、再び製薬企業からの寄付も無料の弁当も、あっけなく復活していた。もちろん、私も同僚もランチョン・セミナーは聴講したが、弁当は受け取らなかったことは言うまでもない。

いかにも門先生らしい、自閉スペクトラム医師宣言を唱えた医師らしい後日談で、笑っちゃいけないのですが思わず笑ってしまいました。そして、製薬会社と“ほど良い、いい関係”でつきあう、合わせていくのが非ASのえらいさん、学会の中枢部のお医者さんなんでしょうね。
いかに門先生といえ、一人でこの強固な関係を変革するのは困難だったのでしょうか、残念!


もっとも、ここで力を使い切るよりは、次の山の頂、PECSの日本での啓発に力を注いでいただいたおかげで、私たち親にとってはありがたかったと思えます。
・・・取り上げられた薬物療法については、みんなで少しずつでも声を挙げていきましょう。

また、本書は門先生の人となりを幾分かでもご存知の方にとってはほのぼのとして、心あたたまる一冊なのですが、もし門先生のご講義を受けたことのない方にとっても、各章ごとに含蓄ある言葉がちりばめられているのが本書となっています。万人にお薦めの一冊です。

たとえば、最初の頃、児童福祉センターでお仕事を始められた頃のテーマ “不登校”に対する門先生からの提案です。

したがって、子どもが本当に必要とするときに休みが取れる制度を設けることが、不登校を減らすうえで大きな力になるはずだと考えた。子どもだって疲れるときは疲れる。当たり前だ。だから、子どもにもいつでも取れる「年次休暇」を与えるべきなのだ。
疲れたときに休みを取ることができるということは、子どもにとっても非常に大事な権利だ。休息の権利は、「子どもの権利条約」の第31条に明記されている。その際重要なことは、休みを必要とするときにはいつでも自由に休めて、休むときに理由を言う必要がないということである。
だから、理由を言わなくても休暇が取れる年次休暇制度を設けるべきなのだ。


ここでも、「子どもは本来無給なのだから、ここでは「有給休暇」ではなく「年次休暇」と呼称すべきである・・・」なんて主張は、いかにも門先生らしい“こだわり”でクスッとしてしまいました。

一方で、同感できるグチも漏らされています。これは、2000年にロンドンで開かれたPECSのワークショップに参加された後のつぶやきです。

ところで、ワークショップ受講のために、はるばるロンドンまで大枚はたいて行ってきた以上、PECSを実践しないという選択肢はなかった。今では国内で、しかもオンラインで、ワークショップを受講することができるので、交通費や宿泊費がいらない。それでも受講費が高いとおっしゃって、特に特別支援学校の先生はなかなか受講してくださらない。京都や大阪から東京ディズニーランドに1泊2日で行く費用よりは安いと思うし、とても画期的な表出コミュニケーション支援のスキルを習得できることを考えると、一生の宝になるしプライスレスだと思うのだが。

そうですね。「近隣の講演会等の案内板」でも紹介していますが、普段行政開催の無料セミナーに慣れている学校の先生方には、2日間で、40,700円(保護者30,250円:税込)のPECSのワークショップレベル1の金額は高く感じられるのかもしれませんね。
しかも、学校からの補助もなく自前での参加となると・・・・先に書いた、お医者さんが学会におけるランチョンセミナーの無料弁当(製薬会社からの提供)に慣れてしまって、“当然”と思うところに似た感じなのでしょうかね。

そこで、ということで、実は来年度の即実践講座の講師を門先生にお願いしています。

年間10回の連続講座ですので、その中の表出コミュニケーションのところではPECSの有効性を、実践の様子も交えながら紹介していただきたいと思っています。
この連続講座でPECSについて知ってもらい、授業や療育に取り入れたいと思ったら、次はレベル1のワークショップを受講していただきたいと願っています。
また、これも「近隣の講演会等」に載せていますが、来年 令和8年1月16日(金)19:00~20:30には「PECSの概要」として、無料のセミナーがオンラインでありますので、興味のある方は“お試し”でいいので、ぜひ視聴してみてください・・・・と、お願いして、今月のお薦め本を終わらせていただきます。

                  (「育てる会会報 323号」(2025.12) より)

 

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目次

  プロローグ

第1章 大学入学まで

第2章 大学生時代

第3章 病院勤務医時代

第4章 英国にて ~留学とローナ・ウィング先生~

第5章 児童精神科医始めました

第6章 児童虐待、ADHD、自閉症をめぐって

第7章 自閉症と薬をめぐる問題

第8章 自閉症 ~治療から支援へ~

第9章 自閉症とPECS

第10章 取り残された人たち

第11章 デジタル・デバイド

第12章 退職後 ~西陣麦酒の誕生~

第13章 少数派と多数派

  エピローグ