『 自閉スペクトラムの子の育て方のコツがわかる本 』
本田秀夫・日戸由刈・萬木はるか 監修 講談社 定価:1500円+税 (2026.5)
私のお薦め度:★★★★★
先月号で紹介した「わが子に障害があるとわかったとき まず読む本」は、ある一家での障害(自閉症と軽度の知的障害)がわかった時から成人までの成長に寄り添った支援のお話でしたが、本書では、幼児期・学童期に焦点を絞ったASD児の子育て入門本と言えるでしょう。
親の会などで、初めて告知を受けたばかりのお母さんや支援をされている方から「最初に読むとしたら、どんな本がいいでしょう?」と聞かれることもあります。
昔、自閉症がまだまだ世の中に理解されていない頃には、「自閉症の治療教育プログラム」(E.ショプラー)、「自閉症のトータルケア」(佐々木正美)、「自閉症の特性理解と支援」(藤岡宏)などなどの、自閉症の特性理解やTEACCHプログラムのような有効な支援の方法が書かれた本などをお薦めしていたのですが、今のお母さん達は自閉症についての情報も豊富で、療育についても勉強されていらっしゃるようですね。
そこで新しい“最初にお薦めする本”が本書です。
ここでは、療育技術のノウハウより前にある子育ての“心構え”を“育て方のコツ”として書かれています。
『自信をつけ、意欲のエネルギ一を蓄える重要な時期という認識を』
自閉スペクトラムの子の支援において、思春期より前に適切なサポートが行われているかどうかは、とても重要です。
幼児期から小学校の中学年頃までは、自信をつけ、意欲のエネルギーをしっかり蓄える時期。この時期に、エネルギーを蓄えることができたら、思春期以降に多少の困難があっても乗り越えることができるのです。つまり、思春期より前のサポートが、思春期以降に起こりうる二次的な障害を防ぐカギとなっているのです。
ここからは、その具体的なコツに入っていきます。各ページごとにイラスト付きで「育て方のコツ」や「ここがポイント」、「たとえば」、「ここに注意!」、「こんなふうに考えよう!」などと簡潔にわかりやすくアドバイスをしてくれています。
たとえば、「心得3 「守りやすいルール」で枠組みをつくる」
を例にあげると・・・
『スーパーマーケットの「イラスト」(本文)』
「さわらないで」を「お豆腐とって」にするだけで、禁止のルールがお手伝いに変わる
『ここがポイント』 本当に大事なルールだけにしぼる
厳しいルールで子どもの行動を制限しても、守れないばかりか、それをとりしまる細かいルールが増えるばかりです。本当に大事なルールだけにしぼって、そのルールを共有することが大切です。
『ここに注意!』 厳しいルールはNG。「過剰適応」で子どもを追い詰める
自閉スペクトラムの特性をもつ子どもは、親や先生から「やりましょう」と言われたことは、「無理をしてもやるべき」と考える傾向があります。
自分を押し殺し、場に合った行動をとり続ける状態を「過剰適応」といいます。
過剰適応が続いて我慢が限界になると、今まで元気に見えていた子どもが、急にエネルギー切れを起こし、抑うつ状態や不登校といった二次的な障害が引き起こされます。
こんな風に偏食やトイレ、あいさつなど、場面ごとに子育てのヒントやアドバイスがあり、読みやすい説明となっています。
それではもう一つだけ、あいさつについての『育て方のコツ』を紹介いたします。
あいさつは無理に教えなくていい
自閉スペクトラムの子にとって、「あいさつ」は無意味なものにうつります。無理に教えるのはやめましょう。大人の様子を見て、徐々に身につけていけばよいのです。
大人になるまでに身につけばいい、くらいの感覚で接しよう。
スマホでのInstagramやX、TikTokなどに慣れた若い方にとっては、長い文章だけの解説よりも、この本のように、文字よりもイラストで伝える本の方が手にとっていただきやすいと思います。
もちろん要所要所には「本田先生からのアドバイス」や「Column(コラム)」のページもあり、詳しい解説もあり、しっかり読んでいただきたいページもあります。
「視覚的構造化は「命令カード」ではない」の言葉から始まるColumnのページです。
やってはいけない「視覚的構造化」ルール
視覚的な手がかりは、自閉スペクトラムの子どもにとって、理解を助ける有効な方法です。
しかし、使い方を間違えると、子どもを操る道具になりかねないので注意が必要です。視覚的構造化は、親が子どもを思いどおりに動かすための「命令カード」ではないのです。
「スーパー、ドラッグストア、お姉ちゃんのお迎え……」などと、絵カードや写真を見せて、親の都合につき合わせるケースも見受けられます。しかし、これでは、子どものルーティンは崩れ、子どものストレスはたまるばかりです。
視覚的構造化の本来の目的は、子どもが状況を理解し、自分で判断できるようにすることです。「行く」「行かない」を決める経験は、自律への第一歩です。
絵カードや写真は、その判断を助ける「手がかり」であり、親の意図を押しつける道具ではないことを親自身がしっかり理解する必要があります。
思えば30年以上前にも、こんな誤解をして絵カードを使っている支援者の方、学校の先生もいらっしゃいましたね。 今月号の会報(育てる会会報 338号)の「ぐんぐんだより」にあるように、これからの流れを本人に視覚的に分かりやすくするためならいいのですが、集団生活の進行に合わせさせるために、とか、ルールを守らせるためにとか・・・30年経っても、あえて「やってはいけない」こと、としてこんなことを書かなければ伝わらないのが現実でしょうか。
昨年、発達障害支援講座をお願いした菊池省三先生の近著の「足型をはめられた子どもたち」の中でも、授業中に足をバタバタさせないためにと、全員の机の下に足型が描かれていた話がありました。
同じ足型でも、発達障害の子どもに“立つ位置が分かりやすいように”と置いてあげることもありますね。
似て非なるもの、ですね。要は一人ひとりに合わせて、本人の暮らしが楽になるようにと・・・その違いが学校や支援現場で、当たり前に分かるようには、まだまだ頑張らねばいけませんね、ということで今月のお薦め本といたします。
そういえば、最初に書いた、“以前にお薦めしていた本”の中に、こんな本もありました。
「わが子が発達障害と診断されたら」(佐々木正美:編著 諏訪利明・日戸由刈:著)、当時の「育てる会会報 166号」(2012.3)でも紹介したお薦め本です。
本書の著者でもある日戸由刈さんも第3章の「家族と専門職、両方の立場から」を担当されています。今、読み返しても良い本ですので、改めて時代を超えて、こちらもお薦めいたします。
(「育てる会会報 338号」(2026.6.) より)
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目次
まえがき
先輩パパ・ママのエビソード 1
自閉スペクトラムを指摘されるのでは・・・・・・
不安な気持ちでいっぱいでした
先輩パパ・ママのエビソード 2
もしも診断されたら・・・・・・
この子の将来を決定づけてしまうのではと不安でした
本田先生からのメッセージ
「育ち方」を受け入れ、育て方を「ギアチェンジ」する
1 自開スペクトラムの子はどんなことで困るのか
そもそも自閉スペクトラムとは ― 「自分の世界にハマリやすい」特性の持ち主
対人関係が独特。 一方的だったり、受動的だったりする
「自分のやり方」「ぺ―ス」に強いこだわりがある
「感覚過敏」「感覚鈍麻」といった特性も
記憶力にすぐれているが、想像することは苦手
何よりも注意したいのは「二次的な障害」
必要なスキルを育てるためには、無理のないサポートを
コラム 周囲の理解と環境が、カギになる
2 自開スペクトラムの子と向き合うための5つの心得
「自己決定力」と「相談力」をバランスよくのばしたい
心得1 「視覚的構造化」がとても有効
心得2 OKラインを見直してみよう
心得3 「守りやすいルール」で枠組みをつくる
心得4 子どもの「好き」をいっしょに感じよう
心得5 子どもの「安全基地」になれれば、それだけでいい
コラム やってはいけない「視覚的構造化」のルール
3 「自己決定力」の芽を育てるコツ
マンガ :自己決定力ってなに? どうすれば身につくの?
初めの一歩 :子どもの特性を理解することから始めよう
得意・不得意 :できるかな? 状況を見定めてサポートする
ルーティン :生活の基盤となるルーティンをしっかりつくる
生活リズム :休みの日も、できるだけペースを崩さない
希望を聞く :どっちがいい? まずは二択で子どもに選ばせる
提案して合意 :提案したら、必ず子どもの気持ちを確認する
体調の変化 :いつもと様子が違ったら「休む」を提案してみる
偏食・トイレ :見通しと工夫でサポートが楽になる
メルトダウン :メルトダウンを起こしても、対策があれば安心
身じたく :サポートと工夫で「できること」が増えていく
お出かけ :子どもが楽しめそうなものや場所を探ってみよう
お手伝い :「できた!」で子どもの「やりたい!」をのばす
あいさつ :「ありがとう」や「どうぞ」は、まずは見せるだけでいい
片づけ :片づけやすい工夫でやる気をサポートする
習い事 :「始める」「やめる」は子どもの気持ちを第一に
コラム 「過干渉」が自己決定力の芽を摘んでしまう
4「相談力」の芽を育てるコツ
マンガ :相談力ってなに? どうすれば身につくの?
変わるのは誰? :まずは大人が変わろう
ニーズ :子どもの潜在的な二―ズをくみとる
成功体験 :「できた!」が自信につながる
宿題 :ひとりで15~30分が限度
我が家ルール :いちばん困っていることに的をしぼって決める
ほうれんそう :子どもの報告を楽しく聞く
こだわり :生活に役立つスキルとして残す
親のメンタルケア:子育てに熱心な親ほど心が疲れやすい
支援制度 :親子で積極的に利用しよう
コラム 幼児期・学童期の自信は、かけがえのない財産になる


























































