私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

息子が生まれ、やがて自閉症と診断されてから、はじめはなんとか治す方法はないかとむさぼるように読み、やがてようやく障害を受け容れ、これからは自閉症のままで幸せに生きていく道を探しながら・・・これまで巡りあった本の数々です。


後に続く方が、書店で手に取ってみたときの参考材料の一つにでもなれば、そんな思いで紹介します。著者名での検索は、右のテーマ欄から探してみてください。

書名別検索は『書名順索引』 からどうぞ。


今息子哲平が就労して、安定して暮らしているのも、これらの本からいただいたたくさんのアドバイスのおかげも少なからずあったと思っています。

泥ノ田 犬彦:著  講談社  定価:① 860円、② 690円 +税  (①2023.11、②2024.5)

        私のお薦め度:★★★★★ 

みなさん、夏休みいかが過ごされたでしょうか? 
私もお盆休み、あまりの暑さに外出する気力もなく、一日中クーラーをつけっぱなしの家の中で・・・のんびり過ごしていました。

そんな訳で今月紹介するのは、ひさしぶりのコミック(マンガ)本です。

これまでも、このお薦め本のコーナーでは、真面目なマンガとしては「光とともに・・・」(戸部けいこ)や「この星のぬくもり」(曽根 富美子:森口 奈緒美:協力)など、またコミック版としては「うちの子 かわいいっ 親ばか日記」(あべ ひろみ)、「100%あらたくん」(茂木 和美)、「あしたはきっと晴れ」(あらみ なおこ)、「毎日やらかしてます」(沖田 ×華)」「イケイケ、パニッカー」(高阪 正枝)などなど、結構紹介してきました。

これらは自閉症という“障害”をメインに取り上げ、理解や啓発、また共感を主軸としたもので、したがって読者も比較的自閉症の関係者の方が多かったように思います。
一方で、エンターテイメントとしてのマンガの紹介の数は少なく、「格闘探偵団 4・5 走れ!タッ君」(小林 まこと)ぐらいだったような気がします。

そういう意味では、本当にひさしぶりの、マンガらしいマンガの紹介です。
先日の吉田友子先生のセミナーで、2024年本屋大賞受賞の「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈:著)を紹介していただきましたが、本書は同じく2024年のマンガ大賞受賞のシリーズ(現在第2巻まで)です。
同じ年に、2つの大賞を受賞した作品が、それぞれユニークな主人公を取り上げてくれているのは嬉しいですね。

勉強もバイトも続かないヤンキー高校生の小林。
ある日、小林のクラスに変わり者の宇野が転校してくる。
彼は立て続けに話しかけられると硬直してしまったり、たくさんのことを同時に行えなかったりと“普通”のことが苦手。
それでも様々な工夫をして頑張っている宇野に共鳴した小林は自分も変ろうと行動を起こす。


もうみなさん、これだけ読めば(1巻 裏表紙)お分かりのように、宇野君は特性を持っています。
でもそれは宇野君だけでなく、この物語に登場する様々な人も特性・・・というか、弱さや苦手なところを持っています。この物語の主人公のヤンキーの小林君をはじめ、天文部の美川先輩、小林君のバイト先の山田さんや望月くん、お互いみんな苦手なところはあって、その特性がもっとも強く表われているのが宇野君、というだけかもしれません。


これ以上書くと、ネタバレになってしまいそうなので触れませんが(小説やマンガのいいところを紹介するって難しいですね)、宇野君がいつも自分で書いて、肌身離さず持っているノートについて、小林君に説明している箇所だけ紹介させてください。

・・・僕は記憶することが得意なのですが たくさんのことを同時に行なったり 臨機応変にすることが苦手です

知らない人がたくさんいる所は特に苦手です

それで学校で失敗してしまうことが多くて 困っていました

答えがわからないと迷います そして失敗してしまいます


わからないことがある時は 一人で宇宙に浮いているみたいです

聞いても教えてもらえない時もあります

上手にまっすぐ歩けない

それを笑われたり怒られたりすると 怖くて恥ずかしい気持ちになります

でも、僕は宇宙を歩きたい! だからテザーを作りました!
テザーとは宇宙飛行士が宇宙空間で活動する際に使用する命綱のことです!
テザーがあると 無重力空間でも船から離れません! 
ノートは 僕にとっての命綱です


そんな話を聞いた小林君に、帰り際に宇野君のお姉さんが2階からかけ言葉がとても印象的でした。

今日はありがとね

・・・啓介(宇野君) ちょっと人と違うところあるからさ~
ノート何回か捨てられて帰ってきたこともあってね~
まあヨソから見れば汚いノートだもんね

でも・・・
人と同じように生活するのにさ 工夫が必要な人もいるんだよね
だからあの子と話してくれて 姉は嬉しかったです!


そんな、テザー(命綱)を作って、なんとか工夫しながら生活している人たち、我が子たちに重なります。
自閉スペクトラム症とは脳のタイプが違っているだけ・・・と分かっていても、彼らがこの社会でマイノリティであることは間違いなく、工夫をしていかなければ生きづらい人生なのでしょう。
それが、この物語ではテザーであるノートであり、工夫を支援と言い換えると、構造化や視覚的支援、支援ツールなどになるのでしょうね。

ただ、この物語、フィクションですからこの先どうなっていくのか、読者としてはとても気になるところです。宇野君の夢が叶って、小林君と二人テザーに繋がって宇宙遊泳・・・となれば最高なのですが、それではあまりに現実離れして、荒唐無稽な話になってしまいそうですね。

宇野と小林の2人には描きたかった(与えたいと思っている)エンディングがそれぞれあり、ゆっくりそこに向けて話をすすめていくつもりです。描いている最中に変化があるかもしれませんが、大幅には変えない予定です。(第2巻「あとがき」より)

二人がどこに向かって歩いていくのか、応援しながら見守っていきたいお薦め本です。

          (「育てる会会報 316号」 2024.8 より)

--------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


--------------------------------------------------

目次

【 第 1 巻 】

  第1話 ワン・ジャイアント・リープ

  第2話 惑う星たちの帰り道

  第3話 憧れの先輩 !

    ペン入れの時に聞いている歌たち

    あとがき

【 第 2 巻 】

  第4話 宇宙っていいな

  第5話 もちベーション

  第6話 そういうところがかっこいい !

  第7話 理由を探して

    番外編 1 はんぺん談義
          2 姉弟の朝食
          3 ソフトに悩んでいる
          4 たまごやきラプソディ

    あとがき

橋 謙太:著  星山 麻木:監修  高祖 常子:協力  合同出版  定価:1600円+税 (2024.5)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

本書のカバーに書かれている言葉
『発達障がい児の子育ては一筋縄ではいきません。ママひとりの力で乗り切るのは至難の業です。
 思い出してください。「親」は母親だけを指すのではありません。父親だっているのです。
そう! パパの出番です! 』 

そう、本書は、「発達障がい」をもつパパへの、我が子の子育てのお誘いです。

私自身、自閉症をもつ息子の子育てには、割と関わってきた方だと思い、ペアレントメンターとしても登録しているのですが、本書を読んで少々「時代おくれ」に近づいてきているのでは、と反省した次第です。
筆者のお嬢さんは20歳ぐらい、我が家の息子はもう36歳、自閉症児の子育てを取りまく環境にとって、この15歳ぐらいの差は大きいですね。


なにしろ、私がはじめて子育てに関わった頃は、自閉症のセミナーでも「オヤジは縁の下の力持ちになれ!」とか、「たとえ子育てに参加出来なくても、奥さんのジャマだけはするな!」とか言われて、あくまでも子育ての主体は母親で、父親はサポート役というのが当たり前でした。
もちろん、それには社会背景もあって、当時は児童発達支援も放課後等デイもなく、学童も日中一時もなく・・・多動で一瞬も目の離せない自閉症児を持つ母親は、勤めをあきらめ家庭内で見るしかなく、どうしても子育ては母親が中心になるしかなかったのでしょうね。

それから、30数年、ようやく福祉制度も整ってきて、本書では自閉症児を育てる家庭でも共稼ぎが当たり前にできるようにまり、父親と母親が対等となった社会での発達障がい児の子育ての話です。

『父親から「親」になるアイデア』の章では、育児の役割分担についても触れられています。

最後に、平日の通院や保育園(幼稚園)の保護者会、子どもが病気になったときに、夫婦のどちらが休むかという問題です。なんとなくママが休むと決まっていないでしょうか。保護者会などに参加すると圧倒的にママが多く、 ママがダメならパパが、となっているように思います。

ママだから、パパだからではなく、立場や時々の状況で、どちらが休みを取りやすいのかを夫婦で考えてみる必要があります。わが家では、子どもの急な発熱などで夫婦どちらかが休まなければならない場合には、夫婦で 「今日打ち合わせはある?」 「その打ち合わせは内部? 外部?」と確認し合い、 なるべく休みを取りやすい方が休むことにしていました。
ちなみに未就学児が病気をする日数は年間約30日と言われています。もし周囲に頼れる人がいない場合、夫婦共同で休みを取っていかないとどの道、片方の有給が不足する事態になりかねません。


ここまで割り切って、子育てに主体的に取り組めるパパが、今では「当たり前」になっているか、どうか・・・昭和世代の私には多少疑問は残りますが、それでも令和の今ではそんなパパがだんだん増えてきているのでしょうね。そしてそんなパパにとっては、目からウロコのアイデアがたくさんもらえる本書だと思います。

もっとも、本書の自己紹介の欄にあるように、著者は少し変った経歴の持ち主で、今の日本社会よりは少しだけ進んだ意識を持たれているからこそ、割り切れたのかもしれませんが・・・・(^_^)

私たち夫婦が 日本で一緒に生活するようになった当初は、私が専業主夫をやっていました。
「日本で」 と書いたのは、実は以前、私がバックパッカーの延長でプラジルで働いていたからです。いつまでも日本に帰ってこない私を、妻が会社を辞めて迎えに来ました。日本に帰国した際には妻が先に仕事を決め、私はしばらくの間専業主夫をやっていましたが、私が働きだしてからも家事育児・仕事の分担が50:50の夫婦生活を送りました。


もちろん、今も昔も変っていないこともあります。

本書でも取り上げていますが、まだまだ日本では、行政など公的な場では、男性優位が残っているようですね。中学校選びの際のアドバイスです。

大切なのは、子どもの学力、コミュニケーション能力、友人関係、通学距離なとを考慮し小学校と同じで良いかどうかトータル的に判断することです。小学校と中学校は同じ学区内にあることが多いため、子どもはそのまま持ち上がりになることが多いですが、小学校と中学校の先生の連携が上手く取れていないケースがあります。入学する半年前くらいから学校見学をすることはもちろん、親が学校間の架け橋をする必要もあります。
ここでパパが出て行くことは重要です。まだジェンダーバイアスの強い日本。父親がでていくと、学校は「本気だ」と身構えます。逆手に取ってパパの出審です!


このあたりは全く変っていないようです。20年以上も前、私が当時の若いお父さん方にちょっと年上の先輩として話したアドバイスと同じですね。
お父さんが、スーツにネクタイで学校に乗り込むと、母親だけの訪問の時よりは、はっきりと学校側の対応も変ってきます。でも、こんなアドバイスが通用するあたり、令和になっても日本の男社会はまだまだ続いているのかも知れませんね、


さて最後に、パパに向けて気をつけていただきたい課題です。
2つ挙げられていて、1つは母親のうつ病で、発達障がい児を育てる母親の重度抑うつ域は10%で、健常児を育てる母親の10倍だそうです。
いかに発達障がい児の子育てが大変でストレスを伴うものであるかを示していると思います。お母さんをどうか気遣ってあげてください。


もう一つは離婚率の高さであると指摘されています。

発達障がい児を育てる夫婦は離婚率が高いと言われています。
アメリカでは一般的に、2組に1組が離婚していますが、発達障がい児を育てる夫婦の場合には約80%の夫婦が離婚しています。これは日本の夫婦にも当てはまるでしようし、 母親の家事育児の負担が大きい日本では、さらに大きな数値である可能性があります。


そして、次の章で筆者が指摘しているように、離婚後は86.8%が母親の方が子どもを引き取る母子家庭となり、加えてジェンダーギャップが大きい日本では、女性の給与は男性の70%・・・、ひとり親世帯の相対性貧困率は44.5%に達するそうです。

これは一般の話ですから、目の離せない発達障がい児を育てる母子家庭で正規雇用が難しいとすると、更にその貧困率が高くなることが想像されますね。

もちろん離婚は悪いことではありません。今や人生における選択肢のひとつになっているといえます。

ただ、夫婦の感情が折り合わなくなる先に待っているのが離婚だと考えると、発達障がい児を育てる家庭では一般家庭にくらべて、夫婦の感情の温度差がより現れやすいことが推察できます。
子育ては大変。でも、人生を豊かにしてくれるのもまた子育てです。
夫婦のコミュニケーションを深め、子どもの状況を共有し、お互いが主体的に子育てをしていくことを切に望みます。 


そうですね。こんなジェンダーギャップのひどい(男女不平等ランキングでは、146カ国中125位だそうです)日本においては、もしも折り合いがつくものなら、子どもを中心にして、お互いおもいやりをもって一緒に子育てしていってほしいと、私も切に願って、今月のお薦め本とさせていただきます。

 

           (「育てる会会報 315号」 2024.7 より)

 

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------
目次

  マンガ  プロローグ
  はじめに
  刊行によせて

Chapter 1 発達障害ってなに?
  
  発達障がいの基礎知識
  保健センター・療育センターってどんなところ?

  コラム① 通常級でがんばる息子の応援団になる! ディノパパさんの場合

Chapter 2 うちの子が発達障がい!?

  マンガ  うちの子は「普通」じゃない?

  楽観的なパパ、温度差がしんどいママ
  「うちの子らしい発達」をふたりでサポートしよう
  発達障がいを受容できないパパに悩む、でも期待しているママへ

  コラム② 夫婦で子どもの「好き」を育てる 魚博士ママさんの場合

Chapter 3 家族というチームを動かす

  マンガ  「手伝う」じゃ足りない!

  子育てするのはママだけじゃない
  日本の社会構造を知るとパパの重要性が見えてくる
  受け身な “父親” から主体的な “親” になろう!
  父親から「親」になるアイデア①  夫婦の働き方を考えてみる
  父親から「親」になるアイデア②  家事育児の役割分担を考えてみる
  父親から「親」になるアイデア③  夫婦間のコミュニケーションを見直す

  コラム③ 表に立つパパ、裏方のママ  職場以外コミュ障ママさんの場合

Chapter 4 パパができる子育て

  マンガ  先生とも力を合わせて

  パパができる子育て①  保育園・幼稚園・学校に行く習慣をつける!
  パパができる子育て②  保育参加・授業参観で子どもの特性を知る!
  パパができる子育て③  園や学校からの情報をキャッチする!
  パパができる子育て④  とことん遊ぶ!
  パパができる子育て⑤  祖父母・地域の人との橋渡し
  パパには居場所が必要だ
  おしえて!  高祖先生

  コラム④ 横のつながりに支えられて  藤牧さんの場合

Chapter 5 小一の壁と小学校入学後

  マンガ  ベストな道はどれ?

  就学の選択肢は多種多様!  年長になったら情報収集を
  学校を決めるポイントは「子どもの状態」と「支援の手厚さ」
  放課後の過ごし方は子どもの心と向き合いながら柔軟に決める
  小学校でも先生との連絡は密に取る

  コラム⑤ 合言葉は「ふみペースでいこう!」  櫻井さんの場合

Chapter 6 子どもの未来は、実は明るい

  マンガ  マイペースに成長中!

  発達障がい児のライフステージはこんなに多様!
  中学校  学力・コミュニケーション能力・通学距離 ・・・・・総合的な判断を!
  高等学校  大学・就労につながる選択、早めの情報収集がマスト
  高校卒業後  進級・就労・就労訓練の3つの選択

  コラム⑥ 父親はいちばんの理解者  当事者・大学4年生 佐野さんの場合

  マンガ エピローグ

  おわりに
  子育てをがんばるパパにおすすめの本

藤木 和子:著  中央法規出版  定価:1800円+税 (2024.3)

         私のお薦め度:★★★★★

育てる会では8月10日(土)に川崎医療福祉大学の小田桐早苗先生と、当会副代表の松田紗代による 「きょうだいからみた 自閉症と家族」のセミナーの開催を予定しており、また7月18日(木)には、「きょうだい児について思うこと」として、保護者同士の座談会も行います。


その際の主なテーマは、周りからのきょうだい児への精神的な支援や、利用できる制度、共感の大切さ・・・などということになると思うのですが、本書はそれとは少し違った視点、法律の面からの解説、サポートを取り上げた本になります。

「50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます」のサブタイトルにあるように、障害のある弟さんを持つ弁護士の藤木和子先生が、具体的な50の質問に、法の専門家として、またきょうだいとしての立場から答えていただいています。

最初の質問は、本の帯にあるように「私は一生、障害のある弟の世話をしなくてはいけないのですか?」です。
先生の弟さんの障害は、聴覚障害ということですから、育てる会のきょうだい(この本では「きょうだい」:障害のある人の兄弟姉妹、「兄弟姉妹」:それ以外の場合、と表記されています)の方とは障害の種別は違いますが、不安な思いは同じだと思います。

それに対する、法律家としての藤木先生の回答はどれも明解です。

「親や周囲から「将来はよろしくね」「きょうだいがいるから安心」と言われます。私は弟とずっと一緒に暮らして、世話や生活費の面倒をみなくてはいけないのですか?」

『 NOです! 法律上、親は成人になるまで子どもの世話をしなければいけませんが、きょうだいは違います。世話(福祉サービスの手続きや見守り、お金の管理などを含む)をするかは、あなたが選べます。弟さんが心配なのはわかりますが、このような言葉がけはX(NO)です。』   


ただ、法律の文言については、誤解されている部分もありますね。
私も誤解していましたが、それが2番目の質問につながります。

「 法律に「きょうだいには扶養義務がある」と書かれているらしいですが、私には弟を世話する「義務」があるんですか?」

『 民法という法律にその条文がありますが、扶養義務は2種類あって、きょうだいは下記(※)の弱い義務です。実際に世話やお金の仕送りなどを強制されることは、99%ありません!』


※ きょうだい、成人後の親子関係、祖父母と孫など(弱い義務)
  「自分に余裕がある範囲で助ける義務」(生活扶助義務)
     → きょうだいや親へのお金の仕送りはしても、しなくてもよい


ここでの、「義務」の2種類のうち、もう一つの「強い義務」とは未成年の子どもや夫婦に対して課せられる義務で、自分と同じ生活レベルの生活をさせるという「生活保持義務」だそうです。こちらの義務は養育費や生活費を支払うことが求められます。
また、後ろの質問(№06)にもでてきますが、きょうだいの配偶者には、この弱い義務すらも発生しないそうなので、どうぞ安心してプロポーズしてください。

それでは、生活扶助義務にある「余裕がある範囲」の基準は何でしょう。やはり不安になりますね。
きょうだいが旅行をしたり、コンサートに行ったり、おいしい物を食べたり・・・、楽しく生活していることは、周りや行政から「余裕がある」とは言われないのでしょうか?


この答えも、次の3番目の問いへの答えに載っています。

一般的な収入額の範囲で諸見を楽しむことは「余裕がある」ことにはなりません。
憲法の「個人の尊重(自由)」「幸福追求権」「自己決定権」からも、自分で稼いだお金は自由に使えることが大原則です(義務は税金などだけ)。
自分の収入、職業、社会的地位にふさわしい生活をしたうえで「余裕がある」人はほとんどいないでしょう。


こんな風に、きょうだいの進路や就職、恋愛や結婚、そして親亡き後までの質問と答えが50個続いていきます。今、不安で悩まれているきょうだいにとっては、救いとなる項目が多いのではないでしょうか。

50の質問の項目については、下の目次欄に記載していますのでご覧ください。
 

ものごころついた頃から、すでに障害のある兄弟を持つ子どもたちにとっては、親にも、先生にも、周りの大人たちにも相談できなくて、自分ひとりで抱え込んでいるきょうだいも多いのではと思います。
イラストも多くて、とても読みやすい本になっていますので、「こんな本もあるよ」と、ぜひきょうだいに渡していただきたいと願います。

一方で、とかく法律とは、ドライで、「血も涙もない・・・」と思われがちですが、きょうだいとしても書かれた本書ではその底に暖かい想いが流れているのも感じます。難しい法律にも、血が通い始めたようです。

「法律上、あなたは自由です!」「あなたの希望で選択できます!」・・・「でも、なぜかある申し訳なさ」

それは、きょうだいとして、親や周囲とも葛藤を繰り返し、なんとか乗り越えてきたからこそ生まれた、筆者ならではの温かさでしょう。

法律では自由だとしても、自分の気持ちが整理できない場合や、誰かの言葉や世間の目が心を縛る場合もあります。それでも、法律は判断の参考や決断の背中を押す―助になると思います。制度や支援、体験談やヒントも紹介していきます。そうすれば、次の行動が見えてくるかもしれません。
せっかくの人生、一度きりです。


ここまでは、きょうだいの立場から話してきましたが、障害のある兄弟姉妹も、親も幸せでいてほしいです。誰もが悩んだりしなくてすむ、安心でき、幸せになれる世の中になるように、一人のきょうだいとして弁護士として、できることを一つずつ、前に進めていきたいと思います。

最後に、筆者が救われたという「きょうだい会」についても紹介しておきます。
悩みを抱えた多感な頃の藤木先生が駆け込んだ「きょうだい会」では、障害の種類や内容、経験や考え方が似ていても、違っていても、不思議なくらい話が通じたそうです。


Twitter(現X)を通じて知り合ったとのことで、本書の末尾には現在藤木先生が関わっておられるサイトの案内が載っていますので、興味を持たれたきょうだいの方はどうぞ覗いてみてください。

「しぶこと」  https://sibkoto.org/、 「全国きょうだいの会」 https://kyoudaikai.com/
 「日本きょうだい福祉協会」 https://siblingjapan.com/  他

 

           (「育てる会会報 314号」(2024.6) より)

 

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------
目次

  はじめに

第1章 きょうだいとしての自己紹介


  5歳から「きょうだい」に
  悩みが押し寄せた20代後半
   私の年表
  きょうだいの活動を始めたきっかけ
  「ヤングケアラー」が注目される
  法律はきょうだいの自由と幸せの見方!
  法律上、あなたは自由です!あなたの希望で選択できます!
  でも、なぜかある申し訳なさ
  誰もが悩まず、幸せになれる世の中に

   COLUMN 1  きょうだいの活動をすることを家族はどう思っている?

第2章 さまざまなきょうだい

  きょうだいは本当にさまざま
  つらかったこと、あるとよかったこと
  よかったこと
  きょうだいだから選択するときに考えること ~進路・結婚・親亡きあとまで~
  気になっていることは? ~きょうだいの課題チェックリスト~

   COLUMN 2  ほかのきょうだいはどう思っているか、何を考えているか?

 
第3章  きょうだいの50の疑問・不安に答えます

  01 障害のある弟がいます。
     きょうだいは一生、世話をしなくてはいけないのですか?

  02 法律に「きょうだいに扶養義務」と書かれている!?
     私には「義務」があるんですか?

  03 趣味にお金を使ってはダメ!?
     「余裕がある範囲で助ける」の「余裕がある」の基準は?

  04 扶養義務ってどこまで?
     同居や世話をする義務もありますか?

  05 きょうだいが複数いる場合、扶養義務は平等ですよね?
     世話をした分、財産を多くもらいたい

  06 結婚を考えている相手がいます。
     結婚相手にも扶養義務が生じますか?

   COLUMN 3  そもそも兄弟姉妹は法律ではどのような関係

  07 弟中心の実家は落ち着けない
     実家を出たいです!

  08 奨学金は借金だから返済が大変?
     奨学金での進学を検討中です

  09 やりたい仕事か、医療・福祉、安定した公務員などの仕事か?
     将来の進路・仕事に迷っています

  10 福祉系の学校に進学したけど、向いていない・・・・・・
     ほかの進路を考えたいです

  11 進学を機に実家を出た。
     親の希望に従って地元で就職するべき!?

  12 就職活動で障害のある姉のことを話すか迷う・・・・・・
     家族のことは話すべきですか?

  13 親が家を出ることや就職に反対
     保証人になってくれません

  14 交際相手に、障害のある姉のことをいつ、どう伝える?
     相手と家族の反応が心配です

  15 交際相手の親から結婚を反対されています・・・・・・
     私は結婚できますか?

  16 子どもがほしいけれど、遺伝カウンセリングを受けるか悩む・・・・・・
     どうすればいいですか?

  17 両親から二世帯住宅で障害のある妹と同居する提案が
     妻に同居に応じてもらえる?

  18 親が「孫が楽しみ!」と言っているけれど・・・・・・
     子どもを希望するか悩みます

  19 障害のある妹に対して、自分にできることはしたい
     何からすればいいでしようか?

  20 弟にショートステイを利用してもらいたい
     まず何をすればいいですか?

   COLUMN 4  福祉サービスを利用したきょうだいの声

  21 親が障害福祉サービスの利用申請をしない・・・・・・
     私に何ができますか?

  22 同居の家族がいると
     福祉サービスが減らされるのですか?

  23 家族が世話をできない場合、墜害のある兄弟姉妹を
     行政が支援してくれるのですか?

  24 異性の妹の入浴や排泄、着替えの介助に
     抵抗感があるのですが・・・・・・

  25 障害のある姉のことで会社を休む場合、有休? 介護休暇?
     会社に説明すべきですか?

  26 親の介護、妹の世話、子育てで介護離職は避けたい!
     仕事と介護を両立できますか?

 
   COLUMN 5  介護と仕事、子育て、自分の生活などとの両立

  27 生活保護を申請した弟を支援できないか?
     と役所から書類が届いた!

  28 兄のお金のトラブルや他人に迷惑をかけたりするのが心配。
     私も責任を負うのですか?

  29 障害のある弟が親のカードを使ってゲームに多額の課金
     返金してもらえますか?

  30 親が弟の将来を不安に思って
     霊感商法にお金を出していた!

  31 警察から電話! 障害のある兄が人を突き飛ばして逮捕
     私はどうすればいいですか?

  32 障害のある兄がケガをさせた相手が骨折していた
     私が賠償するのですか?

  33 弟がアイドルなりすまし詐欺に遭ってしまいました!
     お金を取り返せますか?

  34 もうかかわりたくない。
     親子や兄弟姉妹の縁を切る方法はあるのでしようか?

  35 実家の戸籍から出て、自分の戸籍を別に作る制度がある!?
     「分籍」について知りたい

  36 妹との生活が限界で虐待的な行動をしてしまいます
     心中も考えます・・・・・・。助けて!

  37 障害のある兄から暴言・暴力があります
     警察に通報してもいい?

  38 親や兄の暴言・暴力から逃げて新しく自分の人生を生きたい!
     私は支援を受けられますか?

  39 生活保護を申請しようと思っているけれど、扶養照会で
     家族に連絡されたくない!

  40 今は家族みんな元気ですが、いつまでもこのままではない・・・・・・
     親亡きあとのことが心配です

  41 親亡きあとの準備について親と話し合いたい
     どうやって切り出せば・・・・・・?

  42 弟に障害がある場合、親が遺言を書かないと手続きが大変!?
     親に遺言を書いてもらうには?

  43 将来、弟の成年後見人になってほしいと言われた
     そもそも成年後見人って?

  44 親がきょうだいに成年後見人になってほしいと希望
     専門家に頼むほうがいい?

  45 元気だった父が余命宣告された。
     障害のある弟には伝える? 父と何を話し合えばいい?

  46 弟の世話をしていた母が突然亡くなってしまった
     何をどうすればいい?ぃ

  47 虐待を受けた高齢者や障害者のニュースを見ました
     施設での虐待が心配です

  48 施設に入るときは家族が身元保証人にならないといけない!?
     ほかの方法はありますか・・・・・・?

  49 高齢や病気になると障害者施設を出なくてはならない?
     「きょうだい亡きあと」も考える?

  50 「弁護士に相談を」とよく言われるけれど
     弁護士に相談するメリットは?

  参考資料・おすすめのサイト

  著者紹介・協力者

本田 秀夫:著  SB新書  定価:900円+税 (2024.3)

 

         私のお薦め度:★★★★☆

これまでこのコーナーでも紹介してきた、「学校の中の発達障害」、「子どもの発達障害」、「発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち」などの、本田秀夫先生によるSB新書発達障害シリーズの新著です。今著では、発達障害と知的障害の関連性について、わかりやすく説明いただいています。
「おわりに」の中で、本田先生も触れられていますが、近年は自閉スペクトラム症のなかでも、知的障害を伴わない子どもたちや、大人になって初めて診断される高機能な方に焦点があたっているように思えますね。

私が精神科の研修を始めた1988年当時、子どもの発達の異常といえば知的障害というのがほとんどの精神科医の認識でした。私が1991年から勤務していた横浜市総合リハビリテーションセンターは、当時、センター内にある知的障害児通園施設に通う子を中心に知的障害の子どもたちの診療をするために、常勤医として精神科医を配置していました。1990年代から2000年代前半にかけて、私が担当していた子どもたちの過半数は知的障害がありました。
一方、私たちは横浜市の臨床の現場で、当時は注目されていなかった知的障害を伴わない発達障害の子どもたちが、実は決して珍しくないことに気づきました。そのことを強調して発信しているうちに、いまでは発達障害の人の数のほうが圧倒的に多いことが広く知られるようになりました。逆に、発達障害ばかりが注目され、近年では知的障害が見逃されることも日につくようになりました。また、境界知能の子どもたちの生きづらさにも、もっと関心が寄せられる必要があると思われます。


確かに、息子(まさに本田先生が研修を始められたという、1988年生まれです)が自閉症の診断を受けた三十数年前には、自閉症児のほとんどは知的障害を伴っているとされており(2000年に発行した、育てる会の「自閉症のしおり」の初版でも80%ぐらいとしていました)、平成17年に「赤磐ぐんぐん」をつくった際にも、通ってくるお子さんの多くが知的障害を併存していたように記憶しています。

もちろん、その頃のような知的障害を伴う自閉症児がいなくなったわけではなく、ここで書かれているように、本田先生らによる知的障害を伴わない発達障害児について「強調して発信」していただいたおかげで、それまでよりはるかに多くの発達障害をもつ子どもたちが見つけられるようになったためでしょう。いまでは「赤磐ぐんぐん」や「ぐんぐんキッズ」に通っている子どもたちでは、知的障害を伴わない子が大半になってきたように感じています。

そこでもう一度、あの頃に戻って、知的障害と発達障害について、その関係性や違い、一緒に対応した方がいいこと、分けて考えた方がいいことなど、改めて整理したいと本書をお薦めすることにいたしました。

まず、知的障害と発達障害に共通して大切なこと、「早期発見と早期支援」、これについては異論のある方は、まずいないのではないでしょうか。

最初に結論を言ってしまいます。知的障害や発達障害の子の将来を考えたとき、最も重要なのは「早期発見・早期支援」です。「早く」支援するということです。
どうして早く支援するのか。それは一言で言えば、早期支援によって知的障害や発達障害の特徴が早く理解できるからです。まわりの人たちが医師や支援者とさまざまなやりとりをすることによっ
て、知的障害や発達障害への理解を深めていけます。特徴がわかれば、それに合わせて対応していくこともできます。
それの何がいいのかというと、まわりの人が子どもの特徴を理解し、対応できるようになると、その子は幼児期から安心して過ごせるようになります。周囲の人がその子に合ったコミュニケーションを行い、その子に合った生活環境を整えることによって、子どもの心配ごとが減っていくのです。毎日、安心して過ごせること。これは子どもの成長にとって、何よりも大切なことです。


また知的障害・発達障害の特性は自然経過では悪化はしないが、環境により二次障害が引き起こされることがあるので、それを防ぐためにも早期支援がなにより重要と述べられています。
ただ、その際の支援においては、知的障害と発達障害でキーワードが違ってくるそうです。


知的障害は『ゆっくり』、発達障害は『アンバランス』です。
トイレトレーニングを例にあげて説明されています。

・知的障害の場合
知的障害の子は、おしっこやうんちの仕方、そのときの衣服の脱ぎ方、おまるの使い方などを習得するのが全体的に「ゆっくり」です。その子のペースで少しずつ学んでいきます。大人が他の子と比べないようにして、じっくり取り組めば、その子はストレスなく練習していけます。
知的障害の子育てでは焦らないで、のんびり構えることが大事なのです。

・発達障害の場合
発達障害の子は、得意と苦手がはっきりしている場合が多いです。例えば、絵や写真などを見て理解するのは得意だけど、口頭で説明を受けて理解するのは苦手という子がいます。
その場合、トイレの仕方を話して間かせるよりも、写真で手順を見せたほうが、習得が早くなります。
発達障害の子育てではその子に合ったやり方・環境を考えることが大事です。


他にも本書では、知的障害・発達障害の基本の話から、子育ておいて配慮しておくこと、受けられる支援機関の話、進路選択において学校や仕事を選ぶ際の話などなど、豊富なアドバイスが詰まっています。


『大人になったときの状態から「逆算」する』、『「勉強が苦手」ということを相談してもいい』、『「時間をかければできる」は幻想』、『「一人で生きていく」を目標にしなくていい』などなど、これらは目次の一部ですが、興味を持たれた方はぜひ一度手に取ってお読みください。

新書版ですので、いわゆる専門書より値段もお手頃で、内容も読みやすい1冊となっています。

それでは最後に、育てる会でもよく話題にのぼる「自立」についての本田先生の考えを紹介して、今月のコーナーを終わらせたいと思います。「進路を自分で決める」という章の中の話です。

私はよく「自立ってなんだろうか」と考えるのですが、自立というのは「できることを自分で判断して実践し、できないと思って困ったときには誰かに援助を求めること」なのではないかと思っています。
この話は知的障害や発達障害がある子にも、障害がない子どもにも共通して言えることです。知的障害の程度が重い子どもでも、この2つは身につきます。反対に知的機能がとても高い場合でも、この2つを身につけ損ねたまま年を重ねて、社会参加がうまくできなくなってしまうこともあります。
私は「できることを自分で判断して実践する力」を「自己決定力」、「困つたときに誰かに援助を求める力」を「相談力」と呼んでいます。以前には同じような意味合いで「自律スキル」と「ソーシャルスキル」という言葉も使っていましたが、最近はもっと整理して絞り込んで「自己決定力と相談力を身につけることが大事」という話をお伝えしています。自己決定力と相談力をどうやって育てるか。これが障害のある子にも障害のない子にも、あらゆる年齢帯で重要になります。
自己決定力と相談力を育てるためには、子どもが「自分で選べるんだ」「自由に決定できるんだ」そして「悩んだときは人に相談すればいいんだ」と感じられる環境を保障する必要があります。
進路選択はそのためのいい機会になります。進路選択というのは、複数の環境のなかから自分が行きたい場所を選ぶ機会です。それは迷いや悩みにもつながるものですが、自己決定や相談を経験するチャンスでもあるわけです。


育てる会でも、将来の社会の中での自立を目指して、グループホームの「ほっぷ」や「すてっぷ」で支援を続けていますが、まだまだ弱いのがこの「相談力」のように思えます。

考えてみると、小さい頃から人に相談する、助けを求めるという体験が少なかったのかもしれませんね。自戒をこめて、今後に生かしていきたいと思います。                                             
             (「育てる会 会報 313号」 2024.5 より)

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

目次

  はじめに 知的障害の支援は「早く」そして「ゆっくり」

  【「何がゆっくりなのか?」 問題編】 

第1章 どうして「早く」支援するのか?

  【発達障害・知的障害の子の将来を考える】
    安定して過ごしていくために必要なもの
    最も重要なのは早期発見・早期支援
    早期支援によって、将来が変わる

  【事例で知る 子どもたちの育ち方】
    早期支援を受けるのは何歳頃から?
   [事例1] 3歳の健診で「発達が気になる」と言われたお子さん
   [事例2] 3歳よりももっと前に、支援を受け始めたお子さん
   [事例3] 子育て相談をきっかけに、1歳で支援につながったお子さん
   [事例4] 小学校中学年で、勉強についていけなくなったお子さん
   [事例5] 就学前に、軽度の知的障害がわかったお子さん
   [事例6] 小学校時代に支援を受けられなかったお子さん

  【知的障害・発達障害の早期支援とは】
    早期支援は乳幼児期からの支援
    支援を受けると、子どもの苦労が減る
    「早く」気づいて支援を受けることで、安心できる

第2章 知的障害・発達障害の基本を知る

  【支援の話の前に、まずは「基本」から】
    「ゆっくり」を考えるヒント
    知的障害・発達障害の基本を知っておこう
    知的障害と発達障害が両方ある子もいる?
    知的障害と発達障害には同時に対応する

  【知的障害と発達障害の関係】
    知的障害と発達障害の関係(医学の視点)
    知的障害と発達障害の関係(法制度の視点)
    知的障害と発達障害の関係 ― これからの視点
 
  【発達障害の基本】
    そもそも「発達障害」とは?
    「神経発達症」の定儀
    神経発達症と発達障害の違い
    今後は神経発達症と呼ばれるようになる?

  【知的障害の基本】
    「知的発達症」の定義
    「知的機能」とは何か?
    「適応機能」とは?
    「概念」「社会性」「実用」とは?
    知的発達症の重症度の目安
    知的障害の診察・検査・診断
    最新の診断基準の特徴
    「知的障害はIQで決まる」という誤解
    「強度行動障害」は行政用語
    知的障害の原因
    知的障害と「境界知能」はどう違う?
    境界知能は問題になり得るハイリスク群
    境界知能でも、生活上の支障があれば支援を受ける

  【知的障害・発達障害の対応の基本】
    知的障害や発達障害は、自然経過で悪化しない
    特性は悪化しないが、情緒が乱れることはある
    情緒が乱れるのは、基本的には「二次障害」
    対応の基本は、二次障害を予防すること
    基本がわかれば、必要な支援もみえてくる

第3章 知的障害は「ゆっくり」

  【知的障害をさらに深く考えていく】

  【キーワードは「ゆっくり」】
    知的障害は「ゆっくり」
    発達障害は「アンバランス」
    「ゆっくり」と「アンバランス」
    焦らず「ゆっくり」育てていこう

  【何が「ゆっくり」なのか】
    動作が「ゆっくり」なわけではない
    「何がゆっくりなのか?」 解答編
    その子の「ゆっくり」を丁寧に理解していく
    例えば、分数を学ぶのも「ゆっくり」
    子どもによって発達の仕方やスピードは違う

  【大人になっても「ゆっくり」?】
    大人は「ゆっくり」というよりは「低い」
    あらためて「知的機能」を考える
    「精神年齢」でlQを測る方法がある
    年齢と知的機能の関連を考える
    小4教室には小1から中1相当の子がいる?
    大人になったときの知的機能を考える
    成人期の見通しを持つと、支援がしやすくなる

  【知的障害の子育ては「逆算」】
    大人になったときの状態から「逆算」する
    ピアジェの「認知発達理論」を参考に
    将来から逆算して、いまやることを考える
    認知発達理論は算数・数学にも当てはまる
    逆算しないと「過剰訓練」になる場合も
    「放任」につながってしまう場合もある
    「ゆっくり」の見極めが大事

第4章 「ゆっくり」にみえない子どもたち

  【ゆっくりにみえない子をどう支援するか】
    幼児期にある程度しゃべれている子
    困難があっても気づかれにくい

  【軽度知的障害と境界知能】
    小学校に入って、勉強面で苦労する
    苦労しているけど、支援につながらない
    「勉強が苦手なだけでは相談できない」という誤解
    「勉強が苦手」ということを相談してもいい
    医療関係者も、誤解していることがある

  【そもそも「勉強が苦手」とは】
    「勉強が苦手」の4つの要因
    努力を強いると、メンタルの問題が生じる
    「逆説的高望み」が出てくる場合もある
    勉強にこだわらないほうがいい
    自分のペースで学習した子の場合
    厳しいペースで学習した子の場合
    物心つく前から、自分のペースで学べるように
    「自己肯定感」が育つ条件とは?
    子どもには教育を受ける権利がある

  【勉強が苦手な子にどう教えるか】
    「その子に合った教え方」とは?
    小4で小1相当の勉強をすることもある
    無理やり学んでも、定着しにくい
    「一夜漬けの試験勉強」と同じ
    「時間をかければできる」は幻想
    「定着しやすい学習」を目指す
    「1~2回教えたら定着する」を目安に


  【「難しいことは後回し」でいいのか】
    「後回し」をためらわないほうがいい
    将来を心配する人が多いけれど
    「一人で生きていく」を目標にしなくていい
    例えば「お金の使い方」を教える場合
    難しいことは人に手伝ってもらう
    「人を頼るスキル」も練習していく
    将来から「逆算」して練習する
    大人になるまでに、支援の受け方を身につける

第5章 「ゆっくり」な子どもの育て方

  【子どもの発達が気になると思ったら】
    専門家に相談して、支援を受け始める

  【「ゆっくり」だと気づいたら】
    知的障害が早期発見されるきっかけ
    乳幼児健診で気づかれることが多い
    親はその段階ではピンときていない
    ピンとこなくても、支援を受け始める
    早期支援は子どもと親への支援
    園の先生が気づくこともある
    情報共有できれば、支援につながる

  【「ゆっくり」を受け止める】
    気づくタイミングはさまざま
    受け止めるのには時間がかかる
    一般的な子育てから、やり方を切り替える
    切り替えをサポートするのが専門家の仕事
    切り替えるのは「あきらめる」ことでもある
    すべての人がどこかであきらめている

  【「安心感」を大事にする】
    子育てのベースは「ァタッチメント」
    能力主義ではベースがうやむやに
    ベースに安心感がある子は成長していく
    学歴にこだわると能力主義に傾きやすい
    子どもの安心は、親の安心にもつながる

  【支援を受ける】
    どうやって支援を受けるのか
    乳幼児健康診査・フォローアップ・子育て相談
    医療機関・療育機関・児童発達支援
    障害者手帳(療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)
    障害福祉サービス受給者証
    保育園・幼稚園・保育所等訪間支援
    就学時健康診断・学校・特別支援教育
    就学相談・教育相談
    放課後等デイサービス
    就労支援・障害者就労
    特別児童扶養手当・障害児福祉手当・障害年金・成年後見制度
    早期に支援を開始すれば、コース全体を利用できる

第6章 「ゆっくり」な子どもの進路選択

  【どんな学校・どんな仕事が合うのか】

  【学校生活をどう考えるか】
    通常学級か、それとも支援級か
    通常学級で国語や算数を学ばせたい場合
    通常学級での個別対応には限界がある
    通常学級で友達と一緒に過ごしたい場合
    学習環境も保障する必要がある
    通常学級は約7割の平均的な子ども向け
    知的障害や発達障害の子は苦労している
    文部科学省は子どもの学業不振に寛容で冷淡
    知的障害や境界知能の子はついていけなくなる
    先生一人の努力で対処できることではない
    「ユニバーサルデザイン」を考える
    「合理的配慮」を考える
    誰もが学びやすい環境をつくるには

  【進路を自分で決める】
    「自立」って、なんだろうか?
    大事なのは「自己決定力」と「相談力」
    進路選択が決定・相談のいい機会に
    何歳でも決定・相談は経験できる
    子どもは「理解」してくれる相手を信用する
    親子の「合意」形成も重要な経験に
    視覚情報を使うのは、合意形成のため
    合意が得られなければ、別の選択肢を相談する
    知的障害の子の自己決定・相談
    自己決定と相談は「表と裏」の関係にある
    2つの力が社会参加につながっていく

  【仕事をどう考えるか】
    仕事も学校・学級選びと基本的に同じ
    思春期以降は自己決定がより重要に
    本人が試行錯誤しているときは助言を控える
    中学卒業後の進路をどうするか
    支援を受けた人は落ち着いている(ことが多い)
    支援を受けるのを嫌がる人もいる
    「もう少し学校に通いたかった」と打ち明ける人も・・・・・

  【社会生活をどう考えるか】
    社会の差別や偏見をどう考えるか
    社会には「助け合い」がある
    社会には「競争」もある
    助け合いと競争のバランスをみる
    バランスのいいコミュニティを探す
    通常学級にも支援級にも競争はある
    自分がマジョリティとなる場所を選ぶ
    子どもが自分で選んで進んでいく
    大人は子どもの自立を支援していく

  おわりに



 

朝日新聞取材班  朝日新聞出版  定価:810円+税 (2023.11)

 

                   私のお薦め度:★★★☆☆

本書は、2022年4月から2023年6月まで「朝日新聞デジタル」で連載されていた発達障害についての特集記事に加筆修正されて書籍化されたものです。
最初の「まえがき」の中で、本書が出版された意図について書かれています。

発達障害には、大きく分けて、注意欠如・多動症(ADHD)と、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD、または限局性学習症SLD)の3つがあります。詳しくは本編にゆずりますが、いずれも生まれつき脳の機能に偏りがあることで、さまざまな症状が出ます。
ただ、アメリカの精神医学会による精神疾患の診断基準「DSM-5」をあらためて読むと、診断基準には、症状があることに加えて「症状によって、日常生活などに明らかな障害を引き起こしていること」という条件が明記されています。
つまり、特性があるだけでは疾患にはならず、周囲との関係性のなかではじめて、発達障害は「障害」になる――のです。
それならば、どうしたら発達障害の特性が、生きる上で「障害」にならずにすむのだろうか。
この本ではその答えを、読者のみなさんと一緒に探したいと思っています。


これについては、先日の講演会の中で吉田友子先生が、自閉スペクトラム(AS)が脳のタイプであるのに対し、Disorder(障害)がついた自閉スペクトラム症(ASD)は「明確な困難があり支援を要する場合に診断される」と定義されておられました。

したがって、ASDと診断された場合には、支援が必要ということなので、安易にグレーゾーンという言葉は使うべきではないとおっしゃられたのが印象的でした。(2024.4.21 育てる会セミナー)

また、“「障害」にならずにすむ”というところでは、日本でPECSをひろめていただいている門眞一郎先生のたとえを思い出しました。
ASD児の、目に見える“問題行動”の下には氷山のように、障害による特性や環境など水面下に隠された部分の方がはるかに大きいという「氷山モデル」については聞かれたことがあると思います。
従来は、だからこそ水面下の部分を理解して、そこに働きかけようという考えでしたが、門先生の「新氷山モデル」は、氷山の置かれた環境に着目されています。
つまり、海水の中にあるから氷山は浮力で水面上に現れ、そこに無益な言葉がけなどがあって塩分が濃くなれば、ますます上昇し問題行動が目立ってくる。
それに対して、周りの環境を真水に近づければ、氷山も次第に沈んで行き、子どもも周りの大人も暮らしやすくなる・・・そのためには本人が表出コミュニケーションの手段を持つことが欠かせない、というような話だったと思います。

話が少しそれましたが、本書に戻ると連載されたテーマに沿って、第1章ではADHDの女性の問題(2022年4月:特集)、第2章ではパートナーが発達障害だったというカサンドラ症候群の話(2022年11月)、第3章では発達障害の特性のある人の周りの環境についての話(2023年4月)、そして最後の第4章では職場での合理的配慮の話(2023年6月)と続いていきます・

元が一般読者向けの新聞記事のため、わかりやすく・・・ということで、テーマの掘り下げはあまり深くはないですが、その分、専門家や関係者へのインタビュー記事とか、資料の提示とか広く参考になる箇所も多いです。 

興味深いデータもある。ADHDと診断された女性の方が、男性に比べるとうつ病になりやすく、離婚経験や非正規雇用で働く割合も高い――。そんな論文が2019年に発表された。
昭和大学附属烏山病院の精神科医・林若穂さんたちのチームは、ADHDと診断された男女計
335人について分析した。その結果、女性のおよそ4分の1がうつ病や双極性障害などの精神疾患を併発していて、割合は男性の約2倍。離婚している割合も女性は7.7%で、男性の4.5倍だった。非正規雇用で働いている人の割合も、女性が28.8%と、男性の2倍以上だつた。
論文では、日本社会は依然として、穏やかで、礼儀正しく、控えめで、気配りができる、そんな「やまとなでしこ」のような姿を女性に期待している風潮があると指摘。その対極にあるADHDの女性は、社会生活を送る中でより困難を抱えている可能性があることを示唆している。


これはADHDについての論文でしたが、発達障害は社会の中で「障害」になる、ということを示していると思います。

また、一方で新聞記事ですから、センセーショナルな取り上げ方もあり、ハッピーなだけでなく、失敗した家族のエピソードも登場します。むしろその方が多いかもしれません。

それでも、みんな最後は前向きに生きていこうとしています。

カサンドラ症候群の章で、妻がADHD、ASD、適応障害と診断されたオサムさんの話です。
時間の観念がなく遅刻が毎日、段取りも考えられず、お金の管理や育児も苦手な奥さんとのトラブルが絶えず、それに加えて4歳の息子も発達障害の疑いを持ち始めたオサムさん・・・

少し長くなりますが紹介します。

また現実を受け止めきれなかった2018年の夏休み。家族で福井県の恐竜博物館を訪れた。

そこで、オサムさんは衝撃を受けた。
普段は聞き分けがなく、落ち着きもなく、手を焼いてばかりの息子なのに、まるで別人だった。夢中になってハンマーで石を砕き、化石の発掘体験をしている。
目ををキラキラさせて。そんな姿を見るのは初めてだった。
「あの子は、ずっと発掘をやっていればいいんだね」と妻と話した。 そのときに思った。
ああそうか、自分は環境に合わせることばかり考えてきたけれど、環境の方を合わせることができれば、こんなにも輝けるのか。変わるべきは、心を開くべきは、自分のほうなんだ。
うすうすとはわかっていた気持ちに、オサムさんはやっと、向き合えた気がした。
それから、考え方がかわった。


自宅の片付けは、プロのサービスを利用することにした。お金の管理には、用途別の袋に小分けに入れる方法を取り入れた。
アラームには、「ごはんのじかんだよ」「起きるじかんだよ」という家族の声を録音して鳴らすようにした。「妻の練習のために」とかたくなに妻に求めていた家事も、できるだけ分担するようにした。
・・・・・・・
最近は、生活が少しずつ整い、心の余裕も生まれてきた。
妻の「ぶっとんだ出来事」は今も日常茶飯事だ。冷蔵庫の野菜室に魚が入っていたり、洗面所の蛇口に水中眼鏡がかけてあったり、詰め替え終わったシャンプーの空袋が放置されていたり・・・・・・。
それでも今は「も~」と言いながら写真をとれば気持ちが収まるようになった。
「こちらの方に、ちょっと寄ってきてくれたかんじ」。妻は笑う。
妻も、遅刻をしないために通っていた作業所を卒業し就職に向けた階段をひとつずつ上がっている。
子どもの発達の問題など、悩みはつきない。でも家族の困難も、今は「チーム」として乗り越えていける気がする。

あるとき、オサムさんはふと、妻に伝えた。「あなたと結婚して、良かったと思っている」
ちょっと戸惑ったけど、妻も伝えた。「ありがとう」


「チームになれる」 いい言葉ですね。
子どもに発達の問題があったとしても、奥さんが発達障害で困っていたとしても、そしてオサムさん自身に少し細かすぎることがあったとしても・・・心に余裕さえあれば、いいチームになれる。


そんな一冊です。新書版で値段も手ごろですし、なによりプロの記者の方々が書かれているので、とても読みやすい仕上がりになっています。

心に余裕のある時の、家事の合間にお薦めの一冊です。

 

          (「育てる会会報 312号」 2024.4 より)

-------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------

目次

  まえがき

第1章 私は「できない」女?
        ―ADHD女性の生きづらさ 

  1 私は「人間失格?」

    母のようになりたくなかった
    入社1年目、うつ状態に
    ワンオペ育児と宇宙人、部屋は荒れていき・・・・・・
    飛び散るゴキブリ「私、変わらなきゃ」
    助けがなければ・・・・・・「それなら私が」
    「誰かに助けを求めることは、悪いことじゃない」
    発達障害とは

  2 「お前はくず」 結婚は地獄の一丁目

    「ノロマ。くず。変な人」・・・・・・小さい頃からいつも言われてきた
    「おれの人生を邪魔するな」と夫に言われ・・・・・・
    40代で決意、診断はADHD
    働いても働いても、ミスばかり・・・・・・
    いつか「夫の暴言語録100」で文学賞を取りたい
    ADHD女性を追い詰めるものは何か

  3 モラハラ夫と別れて・・・・・・

    「役立たず」夫から言葉の暴力
    「モラハラ夫のいる場所には戻れない」
    「料理は俺が」 再婚相手は最大の理解者だったが・・・・・・
    育児と介護でパンク 「何もしたくない!」
    診断で開けた世界 そしてひとりに
    娘を見守っていくことが今の生きがい

  4 自分の「トリセツ」

    「男の3倍働かないと、女は認められない」
    自分にイライラ そして「まさか息子が」
    「うちの家系じゃない」と言われ
    自分の障害は墓場まで持って行く
    レンチンを駆使、家事の時間を半減

   Interview
  ADHD女性の強みを発信していくことも大切
       ― 林 若穂さん(昭和大学附属烏山病院精神科医)

    大人になってからADHDに気づく女性が多い
    就職、結婚・・・・・・人生の転機は要注意
    早めに特性に気づけば、失敗も減る
    治療を受けるかは本人次第

第2章 「ツレ」が発達障害
       ― ふりまわされる、でも愛している
  1 義母のメールで知った妻の発達障害

    時間の感覚がない妻
    誰にも言えずに一人で悩んだ
    「理由があるなら知りたい」と妻
    変わらない日常に、心はすり切れた
    「遅刻をしない」練習を
    「私を改変したいの?」激怒した妻
    4歳の息子の姿に衝撃
    そしてチームになる

  2 雑談できない夫と家族の再生

    新婚旅行での夫の不可解な行動
    買い物から手ぶらで戻った夫
    何げない雑談、したかったのに
    カウンセラーに指摘された本当の気持ち
    最善の道を探してもがく日々

   Interview
  パートナーと生き延びる方法は
       ― 真行結子さん(発達障害者の家族の支援団体「フルリール」代表)

    誰にもわかってもらえなかった
    精神的にも肉体的にも疲弊
    家族の孤立、強めないためには
    「自分が幸せになる人生」選んで

第3章 発達「障害」でなくなる日

  1 変わるべきは親?

    息子の異変
    学校に行けなくなった息子
    児童精神科クリニックを受診
    「ペアレント・トレーニング」を受ける
    変わった母、息子は・・・・・・
    ペアレント・トレーニングとは

  2 配慮しない学校、動いた母

    「自分はバカだ」と暴れる娘
    「カクカクした声に」娘の音読ストレス
    「自分はバカじゃなかった」ホッとした娘
    「環境が変われば娘も変わる」そう思った矢先に・・・・・・
    「ここに通いたい」娘の選択

  3 大学中退 ― 「おれ、どうする?」からの逆転

    課題を提出できず、「大学7年生」に
    中3の春、親から告げられた
    大学中退、進む先がわからない
    学歴としては「失敗」だけど
    グレーゾーンの大学生を支援する仕組みがほとんどない現状

  4 得意分野を生かして「再構築」

    「学校に行けない」大学院での苦悩
    雑談できずひとりぼっち、つまずいた就活
    「自閉スペクトラム症の可能性が高い」
    バイト失い、就職を考えたが・・・・・・
    得意の「英語」がつないだ未来
    特例子会社とは

   Interview
  発達障害は「キーボードの不具合』
      ― 岡嶋裕史さん(中央大学国際情報学部教授)

    家では気づかなかった
    コンピューターに例えると入出力装置にちょっと不具合
    自身も「溶け込みにくかった」少年時代
    人との対話、苦手なら動物でもいい
    「メタバース」は発達障害の子にとって福音に
    親はどんどんかかわって
    ある程度「合理的な区別」は必要

第4章 合理的配慮とは ― 企業の現状と課題

  1 合理的配慮とは何か

    過重な負担にならない範囲で、各自の希望に応じた配慮を提供
    背景に「発達障害」そのものの難しさも

   Interview
  マイノリティーが社会を変える     ― 川島聡さん(放送大学教授)

    合理的配慮は、機会平等を保障する
    合理的配慮には条件もある
    闘うことで、社会が変わる
    法律をつくっただけではダメ
    「何が本質か」を見極める力を

  2 会社はどうすればよいか

   Interview
  企業成長のチャンスに ― 大野順平さん(Kaien 法人担当デイレクター) 

    困りごとは非常に多様
    困りごとを伝えるのが苦手な人も
    採用後にわかるのは「後出し」?
    「できない」と責めず、一緒に考える

   Column   
  発達障害の特性に対する合理的配慮の対応事例

   Special Interview
  発達障害が強み  ニトリ会長の「お、ねだん以上。」な話
      ― 似鳥昭雄さん(ニトリホールディングス会長) 

    カバンを紛失、財布も忘れて・・・・・・
    人と違う・・・・・・不安だった子ども時代
    仕事を転々「自分でやるしかない」
    人生の目標に出会った27歳
    好きなことは集中できた
    長所があれば、短所は隠れる
    苦手があっても「3年は我慢を」
    苦しくても、前へ進もう

   あとがき

梅崎 正直:著  中央公論新社  定価:1600円+税 (2021.8)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

そういえば、最近あまり “子育て体験談” 的な本を紹介していませんでしたね。
息子が成人し、グループホームで親離れに向けた生活を始めてくれたおかげで、今は親亡き後の暮らしの方に私の関心が向いていたせいでしょうか。

でも、今、子育ての最中にいる方にとっては、時には “役にたつ” 本ばかりでなく、ホッと共感できるような本もありがたいですね。
そんな訳で、今月は親、父親の書いた本の紹介です。

著者の梅崎正直氏は、読売新聞社の医療・健康・介護サイト「ヨミドクター」の編集長で、息子さんは本書の発刊された2021年で28歳といいますから、私の息子よりは若干年下、でもほぼ一緒の時期に子育てしてきた世代です。

知的に重度な自閉症も同じなので、勝手に共感を持ちながら読ませていただきました。
                                                         
障害のある子どもを育てていると、不幸だとか、かわいそうだとか、そんなふうに思われることがある。通常の子育てと違って、確かにしんどい面はあるけれど、だからと言って不運・不幸と思ったことは不思議とない(思うヒマもなかったのかもしれない)。
とりわけ苛酷でも、理想的でもない、いたってフツーな日々を過ごしているわが家のストーリーが、こうして本になることは自分でも意外だが、同じ障害の子を持つ若い親たちの目に触れ、少しでも安心してもらえるなら何より幸せだ。(「まえがき」より)


このあたりも、まさに一緒ですね。

以前私も、息子の子育てについて「自閉症児の子育ては大変だけど、苦労と思ったことはない」などと気楽なことを言って、妻に「あなたは楽なところだけ取って、本当に大変なところは全部私がやっている !」とこっぴどく言い負かされたことがありました。

確かに24時間見ていた母親の労力、気苦労とは比べられないのでしょうね。

でも巻末にある、筆者と小児外科医の松永正訓先生の対談の中に、こんなくだりがありました。

「障害児を授かってどう生きていくか」


梅崎  松永さんの連載の最後にインタビューさせてもらったときに、障害のある子の親たちからお手紙などをもらうことも多いということをお聞きしました。松永さんから見て、障害のある子を長く育てて来た親たちに共通することってあるんでしょうか。

松永  そういう人生を歩んできて、大変は大変なんですよ。だけど、「不幸ではなかった」とみなさん言いますよね。いろんなことがあったけど、やり遂げられた「プライド」のようなものを仄かに感じます。

口に出して言う人はいないけれど、「この人は人生をちゃんとていねいに、深く生きてきたんだな」と。

障害児を授かって、これからどう生きていくか、人間ってそれを自由に決めていいと思うんですね。悲しく、つらく、暗い人生を歩んでいる人もいます。でも、そうじゃない人生を選ぶこともできる。それは、子どもに障害があってもなくても同じだと思うんです。

そうですよね。せっかくの一度しかない人生、親も子も、できれば明るく、ていねいに生きていきたいですね。
松永先生の「子どもに障害があってもなくても」という言葉のように、どうせなら幸せを感じながら・・・できれば気楽に暮らせることを願っています。

本書に返ると、アルアルと共通する所も多い息子と洋介くんです。
単語を覚えて、しゃべっていたのに、2語文に進むことはなく、いつのまにか発語がなくなり退行していったり、偏食に悩まされ、常にふりかけを持ち歩いたり・・・ちなみに洋介くんは鮭のふりかけ、我が家は“ゆかり”のふりかけでしたね。
千葉と茨城を結ぶ幹線道路のセンターラインの上をひたすらラインに沿って歩いていて、たまたま親切なドライバーに保護された、などという話は、まさに我が家のエピソードと見間違うほどでした。

もちろん、筆者の梅崎氏は「ヨミドクター」の編集長をされているので、私などよりは貴重な体験も多いです。


その中で、私の印象に残った話です。

2011年の東日本大震災の際、福島の原発事故により、千葉県の施設に避難してきた知的障害児・者施設の300名ほどの入所者を取材していた梅崎氏・・・

重度知的障害の人が大半で、スタッフに引率され、それぞれの部屋に入った。60代以上と思われる高齢の人もいた。スタッフは荷物の整理に忙殺され、入所者たちは暗い部屋の二段ベッドにそれぞれ腰かけて、呆然と宙を見つめていた。
騒然として落ち着かない空気の中、狭い廊下の突き当たりにある小窓から、 一人でずっと外を見ている男性を見つけた。小柄で、頭髪はすでに白く、70歳近くに見えた。なにげないふりをして近づくと、小さな声が聞こえた。


「ママ、パパ・・・・・・・」


それを聞いたとたん、僕はぎゅっと胸を締めつけられた。予期せぬ災害と事故によって故郷から遠く離され、彼が探しているママとパパはまだ健在なのだろうか。生きていたとしても、この災害で無事だったのだろうか。
数十年後、僕も妻もいなくなった世界で、洋介もママとパパを探すのだろうか・・・。


切ないですね。でもその光景を見てから梅崎氏の想いも変っていきます。

それまでは、韓国映画「マラソン」の主人公の母のセリフ 「私の夢は、息子より1日だけ長く生きること」 という言葉に共感を覚えていた筆者ですが、 その出会いにより

これが現実なんだ。子どもは親より先まで生きていく。重い障害があっても、高齢期を迎えることができるなら、それは親のものでも誰のものでもない、洋介の人生だ。」 

そう思えるようになられたそうです。


そして、そんな梅崎氏が思うのは、洋介くんのこれからの暮らしです。

地域のグループホームには空きがなく、洋介が通所する法人では、もう新設する余力がないという。めどが立たない中で、大規模な施設に入所する子もいるが、どうしても遠方になる。

保護者が資金を持ち寄ってグループホームを建てることも構想されるが、実際に共同生活をするとなると入居者同士の性別や相性も問題となって、資金を出した人が思惑通りに住めるとは限らない。
それに、何より重要なのは、「誰に運営を頼めばいいのか」「必要な人材は得られるのか」ということだ。最終的には「人」の問題となる。


確かに、私たちの育てる会で創ったグループホーム「ほっぷ 1」や「すてっぷ 1」を見学に来られる方々に、「親たちで協力しあえば、割と簡単に建てられますよ」とアドバイスはしていますが、問題はその後の運営なんですね。

 

育てる会グループホーム「ほっぷ1」「すてっぷ1」


幸いにして25年続けてきた育てる会には力を合わせてきた仲間や、頼りになるスタッフたちがいますが、それを1から創るとなると大変なのかもしれません。 

梅崎氏も、倉敷市の “ぷれジョブ” を参考にして、これから「地域を育てる」ことに力を入れられるそうですので、岡山からもエールを贈りたいと思います。

今月は、特にお父さん方にお薦めしたい1冊です。

 

            (「育てる会会報 311号」 2024.3 より)

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

目次

 

    まえがき

Ⅰ 波乱の航海

    「個性ではない。障害です」医師の厳しい言葉に・・・
    僕が初めて「自閉症」と向き合った日

    どうして「ハイハイ」ができないの!?・・・
    夫婦でお手本を見せた日々

    そこに見える「二語文」の岸辺 でも手が届かない・・・
    言葉の遅れに悩んだ頃

    「来てもらっては困る」
    と言われた幼稚園で・・・

    父は何度でもプールサイドを走る・・・
    3年通った水泳教室を退会させられた理由

    本気のラブレターをもらってきた日・・・
    「養護学校」の就学通知書に反して入った小学校で

    脱走① 警察官に取り囲まれていた息子 いったい何が?・・・
    「二度と会えないかも」と思った日のこと

    脱走②「 バス通りのセンターラインを
    子どもが歩いてる!」と小学校に電話が・・・

    「生まれちゃったのね」
    と言われた通夜の席

Ⅱ 洋介の世界

    最重度ですが何か?・・・
    「パンツの絆」でつながる父と子の話

    真夜中、屋根の上に裸の子どもが・・・
    謎多き「夜の生活」

    「おしゃれボーイ」と呼ばれて・・・
    服選びのジレンマ

    10年続いた「ツバ飛ばし」は職人芸!?・・・
    「こだわり」にどう向き合うか

    僕が毎日遠くのスーパーに通ったわけ・・・
    自閉症と偏食

    混雑する電車や店舗で大騒  ジタバタ大の字で・・・
    「パニツク」の思い出は親子の歴史だ!

    多目的トイレ前の惨劇・・・
    父は手で受け、弟は走った

    わけあってマスクできません・・・
    コロナと障害

Ⅲ 光のほうヘ

    わが子を悪く言うようで・・・
    葛藤する障害程度の調査 慣れてるつもりでも

    「この子に障害がなかったら一緒にしたかったこと」 
    をすればいい・・・ 背中を押され山ヘ

    自閉症の人には特別な才能がある?
    息子が作った「最高傑作」は・・・

    女の子に手を握られて・・・
    けっこうモテた10代の頃

    クリニック中が大歓声!
    10年通って1本の虫歯を治すまで

    元旦の朝の驚き・・・
    ゆっくりでも前に進んでいるんだ

Ⅳ 共に育つ

    「息子より一日だけ長く生きたい」と
    思ったこともあるけど・・・・・・

    弟が兄を追い越してしまうのが怖かった頃・・・
    次男と僕のフクザツな話

    10年間、障害のある兄のことを誰にも話せなかった・・・
    Oさんの物語

    苦節10年 やっと背中に触れた!・・・
    愛犬がくれた「奇跡より大きなもの」

    わが家の最後の大物
    扇の要に座る長女の話

    この子にしてこの母親あり・・・
    妻のこと

    洋介が取り戻してくれた
    僕の人生

    背後から現れた獅子舞の顔にびっくリ!
    寅さんゆかりの店で大騒ぎ

    いつまでも守る・・・の願いは叶わない
    着実に近づく「親亡き後」

    成人式では大人気 晴れ着の同級生から
    飲み会に誘われ・・・きっと夢は叶うよ


対談 × 小児外科医・松永正訓さん

    障害のある子の自立とは・・・
    やがて来る「子離れの試練」

   あとがき

 

 

鈴木 慶太:著  ユリカ:マンガ  合同出版  定価:2200円+税 (2023.7)

 

           私のお薦め度:★★★★☆

 

近頃、よくマスコミや講演会などで耳にする横文字に“ニューロダイバシティ”という言葉がありますね。

ニューロ(=脳の)、ダイバシティ(=多様性)というふうに訳して、「発達障害をもつ人は脳のタイプが違っているマイノリティ(少数派)な種族というだけなので、お互いその多様性を認め合って暮らしていこう」、という趣旨で使われることが多いです。


本書は、そんな自分の特性に気づきはじめた中学生の海(うみ)くんを主人公にした物語をマンガにして、それに著者の鈴木慶太氏が解説をしていくという形をとっています。

マンガを読んだだけでも、本書の伝えたいことは響いてきますから、最初にマンガだけ読んで、興味のあるところの解説を読むというやり方もアリだと思います。

著者の鈴木氏は元NHKのアナウンサーで、NHKを退社してMBA取得のため渡米留学する3日前に3歳だった息子さんが発達障害の診断を受けた・・・という、この業界でも希有な体験の持ち主の方です。

その留学では、発達障害の特性を活かして利益をあげているビジネスケースを学び、日本に帰って就労支援サービスの「Kaien」を立ち上げ、多くの発達障害のある人を一般企業就労へと結びつけてこられたそうです。

ですから、本書でも発達障害をマイナスと捉えるのではなく、その強みをうまく活かしていこうという明るい本になっています。もちろん題名にある通り、“フツウ”とは違って少数派の子ども達ですので、悩んだり傷ついたりすることもあります。


マンガの最初で、海くんと、ちょっと変った自由人の寅雄おじさん(母の弟)との会話です。
二人とも人間の写真には興味がなくて、人の写っていない路地裏の写真や昆虫の写真が好きだそうです。


「世の中の多数派は旅に行くと観光地をバックに家族や友達と記念写真を撮るよね でも、記念写真には興味がない少数派もいるんだ」(寅雄)
「ぼく きっと少数派だ ふだんから集団行動が苦手だし友だちもいない・・・」(海)
「少数派は決して悪いことじゃない  集団が好きなタイプもいれば ひとりで行動する方が楽なタイプもいる  良い悪いの話ではなくどちらでもいいことなんだ」(寅雄)
「そうかなあ・・・ みんなになじめない自分はダメなやつだと思ってた」(海)
「世の中は多数派の都合のいいようにできているから少数派は苦労する  だからといって決して悲観することはないんだよ」(寅雄)

寅雄おじさんのように、こんな風に言ってくれる大人が周りにいればずいぶん助かると思うのですが、
まだまだ世の中は“フツウ”が“良い”と思っている人が多数派ですね。
物語のネタバレになるかも知れませんが、海くんも寅雄おじさんも、そして知り合ったND(ニューロダイバース=脳の特性の強い個性的な人≒発達障害をもつ人)の子どもたちも、みんな苦労しながら自分の道を探していくことになります。
それでも、著者の鈴木氏は、NDとしての強みを活かせば、やがて道は開けてくると説きます。

SLD(学習障害)であることを公表しているハリウッドスターのトム・クルーズは、文字を読むのが苦手で、台本を読むことが難しいらしい。

そこで台本をほかの人に読んでもらい、聴きながらイメージを膨らませる方法をとり、他人とはちがう演技で人々を魅了している。彼は苦手なことから目を背けず、対策を立てることで、少数派の特性をマイナスからプラスに変えたんじゃないかな。
だから、たとえ、君がマイノリティだったとしても、決して悲観しなくてもいいんだ。不便だけど、自分の苦手なことや困りことの対策を考え、強みを磨いていけば、自分らしい暮らし方や、自分の力を活かす働き方を見つけることかできるんだ。
           

それでは、AS(自閉スペクトラム)の強みってなんでしょう。
真面目なこと、素直なこと、わかったことはキチンと最後までやること、嘘をつけないこと、裏表がないこと・・・いっぱいありそうですね。


また、障害者の就労支援をされている立場からすると、将来を考えるとき Will(自分がしたいこと)、Can(自分ができること)、Should(まわりに求められていること)の3つのキーワードで考えることを勧められています。
ASDの人の場合、自分の状態を客観的にみる「メタ認知」が弱い人が多いと言われています。そのためおこることの一つがグルグル思考なんですが・・・

夜寝る前に、過去の失敗や気がかりなことなどを思い出して、あれこれ考え続け眠れなくなる人もいるんじゃないかな?

ネガティブな思考にとらわれる状態=グルグル思考は専門的には「反芻思考」と呼ばれているんだ。多数派もグルグル思考にとらわれることはあるかもしれないけれど、ASD系の人はグルグル思考にはまりやすく、いやな記憶を思い返してしまうことが知られている。
子どものころの失敗を思い出して、「やるんじゃなかった」と後悔し、その場にいるかのようにつらくなり、その経験を毎晩のように思い出して苦しむ人もいる。


そこから抜け出せないのが、メタ認知の弱さなんですが、同じ事が自分の将来・就労を考えるときにもあてはまりそうですね。Will(やりたいこと)は分かっていても、Can(自分ができること)やShould(周りが望んでいること)が客観的に見えてないケースもあるのではないでしょうか。もしそれが特性からくるものだとしたら、それを気づかせてあげるのも周りの大人の役目でしょう。もちろん、信頼関係が前提で、親が出来れば一番いいのでしょうが・・・。
本書でも、「困ったら大人をフルに活用しよう」として、いざというときに頼りになりそうな大人をキープして、ストックしておくことをアドバイスしています。さて、私は誰かにキープされているのでしょうか。

最後に寅雄おじさんと、NDクラブの愛先生からのメッセージです。


「人生は速さを競うレースじゃない。山登りのように、もし、一番になれなくても、景色を楽しんだり、草花を観察したり、自分のペースで、人生を楽しむ方がいいんだよ」(寅雄)


「ひとりで過ごすことは、決して恥ずかしいことじゃない。自分が心から「一緒にいたい」と思う人がいないなら、無理して友だちをつくる必要なんかない。おひとり様行動を楽しんで! 」(愛)

 

                       (「育てる会 会報 310号」 2026.2 より)

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

目次

 

  はじめに
  登場人物紹介

第1章 世界は少数派(マイノリティ)でできている!

  1 世界は少数派でできている!
  2 実は、とっても身近なマイノリティ
  3 少数派の強みを活かすストレングスモデル

 「先輩」からのエール  市川拓司さん(小説家)

第2章 ニューロダイバースのための自分研究
     あなたはどんな少数派? その①

  1 ニューロダイバース(ND)を知ってますか?
  2 ものの管理が苦手な少数派
  3 落ち着きがなく、じっとしていられない少数派
  4 計画が立てられない少数派
  5 勘違いしやすい少数派
  6 不器用でスルーできない少数派
  7 変化が苦手な少数派
  8 パニックになりやすい少数派
  9 ネガティブなことばかり考えてしまう少数派
  10 空気が読めない少数派

 「先輩」からのエール  小島慶子さん(タレント・エツセイスト)

第3章 ニューロダイバースのための自分研究
     あなたはどんな少数派? その②

  1 なかなか調子が出ない少数派
  2 感覚が人とちがう少数派
  3 体のコントロールが苦手な少数派
  4 疲れやすい少数派
  5 ぐっすり眠れない少数派
  6  スムーズにことばが出ない少数派
  7  読み書きが苦手な少数派

 「先輩」からのエール  借金玉さん(ライター)

第4章 マイノリティの処世術
     必要なサポートを受けるには?

  1  NDのサバイバルに必要な含理的配慮とは?
  2 対策を考えるためまずは原因を分析しよう
  3 親とじょうずにつきあおう
  4 信頼できる大人を味方につけよう
  5 福祉サービスを活用しよう

 「先輩」からのエール  武田双雲さん(書道家)

第5章 少数派の未来
     自分の将来をデザインする

  1 自分の道を探そう
  2 義務教育が終わったら、どうする?
  3 忘れちゃならない受験対策
  4 働く準備をしよう
  5 障害者手帳を取得するメリツト
  6 自分自身を理解しよう

 「先輩」からのエール  寅雄さん(自由人)

第6章 少数派の未来
     自分の人生を生きよう

  1 自分の道を進むために
  2 得意なことを探すチカラ
  3 じょうずにまわりを頼るチカラ 
  4 マイぺースで進むチカラ
  5 しなやかに立ち直るチカラ(レジリエンス)
  6 共に生きるチカラ 

  エピローグ
  少数派のキミにおすすめの本や映像作品 
  フツウと違う少数派のキミヘ

  さくいん

社会福祉法人 和枝福祉会:監修  ナツメ社  定価:1600円+税 (2021年8月) 

 

               私のお薦め度:★★★☆☆           

 

今月のお薦め本は、いつもこのコーナーで紹介している「子育てに役立つ」とか「共感を呼ぶ」とかいう類いの本ではなく、ひたすら現在日本で一般的に受けられる制度やサービス、助成金などを網羅しておこうという解説本です。

「障害のある子」・「一生涯」と題名にある通り、今は幼児期・学童期にいる子どもたちへのサービスから、これから大人になり社会にでるまでの利用できる制度、また65歳で障害福祉サービスから介護保険サービスに移る際での注意点までが見通せるようになっています。

ただ、現在でも福祉サービスについては年々、次々と変ってきていますから、本書で紹介されている制度も、今の子ども達が大人になる頃には様変わりしているかもしれませんが・・・。

おそらく、今のままでは介護保険サービスは現役世代に比べて高齢者が増えすぎて財政的にパンクしてしまうかもしれませんし、いざ支援を受けようとしても福祉人材不足で、事業者を見つけられないおそれもあります。そのとばっちりで障害福祉サービスについても変らないではおられないと思います。

でも、それを嘆いていても先には進めないので、とりあえず本書で、現在の自分の知識に漏れがないか、確認していきましょう。

 

その観点からみると、本書はフルカラーのイラストで、具体的な金額もわかりやすく表示してあり、大体、見開きに一つのサービスの説明なので理解しやすい解説書だと思います。

パート1では学齢期のサービス、2では「就労時、就労後の利用できる制度、3では日常生活における制度や各種の手当、そして障害年金や親亡き後の話・・・と続いていきますから、まずは目次を見て知りたい制度や、知らなかったサービスから目を通していけばいいと思います。

自分では知っていたつもりでも、抜けている制度もあるのではないでしょうか。

目次一覧は下にありますので、ご覧ください。

 

たとえば私は、「就労定着支援事業」については詳しくは知りませんでした。

 

厚生労働省では、2018年4月から就労系の障害福祉サービスから一般企業に就職した障害者に対して、早期離職を防ぎ、職場への定着を目指した「就労定着支援」を始めました。

就職をした障害者の場合は、生活が大きく変化することによって生活リズムが乱れる、職場の人とコミュニケーションが取れない、お金の管理ができないなどの問題が出てくることがあります。

そこで、生活面での課題をみつけ、事業所やかかりつけの医師、就労移行支援事業所などとの橋渡しをして問題の解決に向け、定着を図ろうというわけです。

月1回以上は支援者が利用者の自宅と企業を訪問し、障害者一人ひとりに必要な支援を行います。この支援は就労から6ヵ月を経過した人を対象に、就労定着支援事業所が中心となって行われます。利用できる期間は最長3年です。

 

それは、この制度が「就労系の障害福祉サービスから一般企業に就職した障害者」を対象とし、特別支援学校などから、直接一般企業に就職した生徒については対象外となり、また実際にこの事業を行なっているのが元の障害者継続雇用や移行支援を行なっている障害福祉サービス事業所であるため、私には縁遠かったためでしょう。

 

でも、支援者としては知っておかなければいけない知識でしょうね。

 

知っておかなければ・・・というところでは、育てる会が運営している「エール 1」のような計画相談支援事業についても知識不足の箇所がありました。

 

「相談支援事業者には2種類ある」

相談支援事業者を行う事業者には、指定特定相談支援事業者(指定障害児相談支援事業者)と指定一般相談支援事業者があり、その事業内容は異なります。障害福祉サービスなどの利用計画の作成や、支給決定後のサービス利用などの連絡調整は指定特定相談支援事業者が行います。一方、入所施設設に入所している障害者が地域での生活に移るときや、単身で生活する障害者の緊急対応についての相談などは指定一般相談支援事業者が行います。

 

なんで「エール 1」が、わざわざ「指定 “特定”相談支援事業所」なんて呼ばれるのか・・・なんて思っていましたが、疑問が解けました。お恥ずかしい次第です。

でも、こちらの方が「特定」ではなく、「一般」のサービスだと思えるのですが・・・。

 

他にも、知らなかった制度に「特定贈与信託」なんて制度もありました。

 

障害のある子の将来にわたる生活の安定を図るために親がまとまったお金を信託銀行に預けて管理・運用してもらい、親や親族が亡くなった後には、信託財産から障害のある子どもに生活費や医療費などが定期的に渡される制度を「特定贈与信託」といいます。この場合の親(委託者)から子(受益者)への贈与を「みなし贈与」といいます。

この制度が利用できるのは、国税庁が指定する特別障害者か特定障害者です。

特定贈与信託の大きなメリットは、信託財産のうち特別障害者では6,000万円、特定障害者は3,000万円までが非課税となる点です。通常であれば、生前贈与は年間110万円までが非課税で、これを超えるとその超えた部分に贈与税がかかってしまいます。

特定贈与信託の制度を利用すれば一度に3,000万円、6,000万円までが非課税になるため節税にもなります。

 

信託制度については聞いたことがありましたが、障害者の非課税枠についてまでは知りませんでした。    

ここでいう「障害者」は、知的障害についていうと、重度の方が「特別障害者」、中程度の方が「特定障害者」となるそうです。たいして相続財産もない我が家には縁遠い制度ですが、中には資産家の方もおられるのでは・・・と紹介しておきます。

なお、そのお子さんが亡くなられた場合、残った信託財産は受益者(子)の相続人、おそらくはきょうだいや甥、姪などに相続されることになりますが、あらかじめ委託者(親)が任意に指定しておけばボランティア団体や障害者団体などに寄付することもできるそうです。その節には、ぜひとも「育てる会」も候補の一つに・・・といいたいところですが、まあそれはそれとして、本書には他にも知らなかったサービスも多いのではないでしょうか。

 

日本では支援を受けるためには「申請主義」が主流であり、たとえば子どもが障害年金を受けるためには、誰かが「裁定請求」をしなければ受給できない仕組みになっています。

本書に載っている「特別児童扶養手当」や「障害児福祉手当」にしても、申請しないとそれっきりです。

わざわざ役所から言ってきてはくれないので、今の世の中、自閉症をもつ子にたいして、それをやれるのは親しかいないようですね。

本書を読んで、「漏れがないか、ぜひ一度確認しておいてほしい」と、お薦め本に挙げさせていただきました。

 

                   (「育てる会会報 309号」 2024.1 より)

-------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------

目次

  はじめに

    プロローグ : 障害のある子のライフステージとサポート

パート 1 誕生から学校卒業まで

  障害のある子どもとその親をサポートしてくれる機関はいくつもある

    知っておきたいこんな制度 : 自宅で保育が受けられる居宅訪問型保育

  乳幼児健診は疾病や障害の早期発見・治療に重要な役割を果たす
  さまざまな福祉サービスを利用して障害の状態に合わせて知識や技能をつける
  福祉サービスを受けるために必要な「受給者証」について知っておこう
  障害のある子の日常生活や社会生活をスムーズにするための「児童発達支援」
  外出が困難な重度の障害児のための「居宅訪問型児童発達支援」

    知っておきたいこんな制度 : 学校に行けない子どものための訪問教育

  指導員が保育所などを訪問して集団生活に適応できるよう支援する「保育所等訪間支援」
  施設に入所している障害児が受けられる「障害児入所支援」は福祉型と医療型の2タイプ
  サービスを受けるには「障害児支援利用計画」を作成する

    専門家からのアドバイス : 障害者総合支援法にもある利用計画

  発達障害児を育てる親の悩みに寄り添うペアレント・メンター
  発達障害者支援センターは子育てから就労相談まで幅広く支援

    発達障害とはどんな障害?

  障害のある子もない子も地域の学校でいっしょに学ぶインクルーシブ教育
  小学校はどこに? 一人ひとりの状態や二―ズに合わせた学びの場が充実 
  就学相談で子どもも親も納得できる就学先を選びたい
  さまざまな交流や共同学習の機会が設けられている特別支援学校
  一人ひとりに短期的・長期的な指導計画をつくりよりよく生きることを目指す
  学校と連携し、放課後や長期休暇中にも障害児の自立を目指す「放課後等デイサービス」
  中学校を卒業したらどうする? 高等学校や大学進学の道も開かれている

    専門家からのアドバイス : 中学校を卒業する前に考えておきたいこと

    ケーススタディ ○ あせらず子どもの発達に合わせて
              ○ 特別支援学校と協力して
              ○ 成長に時間はかかっても

パート 2 仕事に就くとき・就いてから

  就労を希望する人はハローワークや障害者就業・生活支援センターなどに相談を
  企業には障害者の雇用が義務付けられている

    知っておきたいこんな制度 : 職業生活全般の相談・指導を行う障害者職業生活相談員

  ハローワークが中心の「チーム支援」を利用して就労を図り職場への定着を
  就労系の障害福祉サービスのひとつ「就労移行支援」は一般企業への就職をサポート
  就労継続支援A型、B型はともに利用期間の制限なく職業訓練が可能
  一般企業に就職した障害者の職場定着率アップを目指した「就労定着支援」
  「障害者トライアル雇用」制度の利用で仕事と職場の相性を確認して正式雇用へ
  障害者の就業の不安と悩みに寄り添い職場への適応をサポートする「ジョブコーチ」
  働きやすい環境が整った特例子会社も広がりつつある
  手当をもらいながら職場で訓練する「職場適応訓練」
  在宅で仕事をしたい障害者を支援するための団体もある
  ハローワークの求職者を対象にしたハロートレーニングで障害者も職業訓練を

    ケーススタディ ○ 自信をもって働いています 
              ○ 本音はなかなかいい出せない 
              ○ 就労移行支援で自分の特性を理解

パート 3 生活を支える主なサービスと利用法

  障害のある人の生活を支えるサービスのベースとなる「障害者総合支援法」
  「障害者総合支援法」の対象になるのは3つの障害のいずれかに当てはまる人や難病の人
  障害福祉サービスの利用の手順を確認しておこう

    知っておきたいこんな制度 : 相談支援事業者には2種類ある

  適切なサービスの組み合わせを検討する「サービス等利用計画」をつくる

 ● 在宅生活の支援
    居宅介護(ホームヘルプ)/重度訪間介護
    短期入所(ショートステイ)
    生活介護/自立生活援助
    重度障害者等包括支援/療養介護
    図書館のサービス/緊急一時保護/手話通訳者の派遣
    訪問理美容サービス/寝具の乾燥・水洗いサービス/紙おむつの支給

 ● 日常生活用具
    日常生活用具の給付
    補装具費の支給

 ● 住宅支援
    区営住宅申し込みの優遇など/住宅設備の改善費の助成

 ● 外出の支援
    鉄道運賃の割引
    有料道路通行料金の割引/国内航空運賃の割引/福祉タクシー利用券の交付
    同行援護/行動援護
    自動車運転免許取得費用の助成/自動車燃料費の助成

 ● 税金・共料金など
    所得税・住民税の障害者控除
    NHK放送受信料の免除/自動車税の減免
    ゴミミ出しの支援/水道・下水道料金の減免

 ● 医療
    自立支援医療(育成医療)の給付
    自立支援医療(更正医療)の給付
    自立支援医療(精神通院医療)の給付
    心身障害者医療費助成制度/小児精神障害者入院医療費助成
    小児慢性特定疾病の医療費助成制度

 ● 手当・貸付
    特別児童扶養手当
    障害児福祉手当
    特別障害者手当
    生活福祉資金の貸付

  「障害者総合支援法」には利用者負担の軽減措置が設けられている

    知っておきたいこんな制度 : ほかにもある軽減措置

  身体障害児(者)のための身体障害者手帳の仕組みと交付まで
  知的障害児(者)のための療育手帳の仕組みと交付まで

    知っておきたいこんな制度 : 発達障害の人にも交付の可能性がある

  精神障害児(者)のための精神障害者保健福祉手帳の仕組みと交付まで


    ケーススタディ ○ 支援を活用することで自立できる 
              ○ 障害者手帳保有のメリットは大きい
              ○ 税金などの減免は生活の安心材料 

パート 4 20歳になったら受給できる障害年金

  公的年金は日本国内に住所がある人は全員加入する制度
  障害年金が受給できるのは障害等級に該当する人
  20歳前の障害でも受給できる「20歳前傷病による障害基礎年金」
  「20歳前傷病による障害基礎年金」は一定以上の収入があると支給制限を受ける

    知っておきたいこんな制度 : 所得制限以外の理由による支給停止もある

  年金受給のための提出書類は年金受給決定のカギになる ①

    専門家からのアドバイス : 発達障害が気になったら早めに受診を

  年金受給のための提出書類は年金受給決定のカギになる ②
  「20歳前傷病による障害基礎年金」の請求のしかたと流れ

    専門家からのアドバイス : 障害基礎年金を受給するには詳細な記録をつける

  日々の生活を支える障害年金の受給額はいくら?
  障害認定日に障害等級に該当していなくてもその後症状が重くなれば申請できる
  障害の認定には永久認定と有期認定がある

    専門家からのアドバイス : 就労しても障害年金は受給できる

    ケーススタディ ○ 遡及請求で生活資金を確保 
              ○ 子どものために資産は必要?
              ○ 安心して暮らすためには早めの準備を

パート 5 親が亡くなる前に考えておきたいお金のこと

  親亡き後、子どもは生活していけるの?

    専門家からのアドバイス : 無理をしないで!

  障害のある人が財産を相続するときは「障害者の税額控除」が受けられる
  後見人の負担を減らす「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」
  3000万円または6000万円までが非課税で贈与できる「特定贈与信託」
  障害のある子の将来のために資産管理を家族に託す「家族信託」
  遺産分割協議なしに財産を分配できる「遺言代用信託」
  親の財産を障害のある子固有の財産として残せる「生命保険信託」
  手頃な掛金で生涯にわたり年金が受け取れる「障害者扶養共済制度」
  生活に困窮したら「生活保護」を受けることもできる

    ケーススタディ ○ 親亡き後のために自宅を売却
              ○ シェアハウスで自立
              ○ 生活の術を教えておきたい 

パート 6 親が亡くなった後の子どもの生活はどうする?

  財産管理や契約の権利を保護・支援する「成年後見制度」
  成年後見人とはどんな人? どんな仕事をしてくれる?

    専門家からのアドバイス : 認知機能が十分でない人が利用できる「特定援助対象者法律相談援助」

  成年後見人には誰がなる?
  成年後見制度を利用するための手続きの流れと費用
  判断能力が低下したときに備える「任意後見制度」
  「日常生活自立支援事業」は福祉サービスの利用や金銭管理をサポート
  親がいなくなったらそれまでの親の役割は誰がする?
  ひとりになったときはどこに住む? 自宅のほかには施設入所かグループホームがある
  施設に入所する人に夜間のサービスを提供する「施設入所支援」

    専門家からのアドバイス : 納得できる施設を選ぶには

  地域で自立した生活を営むためのさまざまな支援の形を備えた「グループホーム」

    専門家からのアドバイス : 親元を離れるときはゆっくりと

  グループホームの生活は? 生活費はいくらかかる?
  介護保険では1カ月の支給限度額が決まっている
  施設入所では介護保険施設と特定施設で負担額は異なる
  65歳以上で介護が必要な場合は要介護認定の申請を

    ケーススタディ ○ 兄弟姉妹にかかる重圧
              ○ 法人後見人で将来も安心 

  こんなときはここに相談

  索引

 

𠮷田 友子:著 Gakken  定価:1800円+税 (2023年12月:初版本 2011年5月

 

            私のお薦め度:★★★★★  

 

𠮷田先生が原著である初版本 『 自閉症・アスペルガー症候群 「自分のこと」のおしえ方』 を出版されたのが2011年ですから、もう12年前になるのですね。その間、自閉スペクトラム症児者への支援で、変ったもの、変らなかったもの、いろいろあると思います。

 

本著でいえば、変らないのは、適切な告知、説明は自己肯定感を高める手段となりえるし、その後の継続した支援につながっていくものであるというとらえ方でしょう。その変らないものについては、すでに初版本で紹介させていただいていますが、そのお薦め紹介の書き出し部分です。

 

----------------------------------------------------------------------------------

自閉症、中でも高機能自閉症・アスペルガー症候群のお子さんを育てているお母さんにとって、本人への告知は、いつかは行わなければならない、避けては通れない道でしょうね。

「一緒に考えていきましょう」と言っていただけるような、理解のある主治医に恵まれていればいいのですが、残念ながらそんなお母さんはまだ少ないのが、日本の現実です。

本人や保護者の側に立って、しかも深い発達障害への理解をもった、本書の筆者の𠮷田先生のような先生に巡り会えることは宝くじに当たるような幸運かもしれません。

その𠮷田先生の勤められる「よこはま発達クリニック」(※当時)に行こうと思ったら、初診には何ヶ月も待たなければならないとか・・・まさに宝くじですね。岡山から横浜も遠いですね (^_^;)

なんと言っても、日本にはまだ児童精神科医の数が少なすぎるのでしょう。

 

本書はそんな地方都市に住み、自ら子どもと向き合っているお母さんに、𠮷田先生が書いてくださった、告知の進め方の手引きとなる本です。

副題に「診断説明・告知マニュアル」と付けられているように、「いつ、誰が、どのように」告げたらいいのか、またその手順についてはひな型が示されていて、それを実際の子どもたちに合わせて修正していけばよいようになっています。こんな本を待ち望んでいたお母さんは、日本中にいると思います。 

                (「育てる会会報 157号」 2011.6)

-----------------------------------------------------------------------------------

 

「変らない」といいましたが、自閉スペクトラム症への社会の認知がすすんできたこともあって、児童精神科医の先生は、ますます不足してきています。岡山でも、初診までは半年から今では1年、中には初診は現在受けられないところまで出てきています。

そう考えると、本書、「診断説明・告知マニュアル」として適切な告知のひな型(テンプレート)は、ますます貴重なものになってきますね。

自閉症について、本人に合わせて正しく理解できるように(マイナスなものととらえないように)伝え、本人の自尊心をより高められるように・・・ お母さんだけでは、なかなか難しいと思えます。

テンプレートの具体例を、本人に合うように入れ替えて、「こんな風に説明しようと思うのですが・・・」と主治医の先生に伝えれば、きっといいアドバイスもいただけるのではないでしょうか(主治医の先生も、アドバイスがしやすくなると思います (^_^) )

 

では、次にこの増補版で変った部分・・・ 副題に「小学生から大学生まで」とあるように、初版本では主に小学生ぐらいのお子さんへの説明に重点がおかれていたのですが、増補版では大人になって、自分で発達障害かも? と気づいた方に対する説明も加わっています。

 

これは𠮷田先生の、現在のもう一つのお仕事、各大学での学生面談での相談から、切実さを感じられたのでしょう。

知的に遅れのない自閉スペクトラムの児童の場合、高校ぐらいまでは学業への影響は少なく、かえって構造化された学校生活では、優等生で過ごせる場合もあります。ところが、大学生活で自由にカリキュラムを選んで単位を取得したり、それに合わせてバイトや部活を入れたりするようになるとつまづいてしまうケースも多いのだと思います。

 

大学生では就職活動で内定が得られないことから相談につながり、自閉スペクトラム・自閉スペクトラム症と知ることが稀ではありません。彼らは診断名を知ることで不安を生じることも、自分の努力不足ではなかったとわかり安堵することもあります。

ただ、安堵した場合でも、大学卒業後の将来像について安心できる具体的なイメージがもてないと、またそのための具体的な道筋や支援が見出せないと、改めて大きな不安を生じるのは当然のことです。

社会に出ることが間近に迫った青年たちの将来への不安に対しては、共感だけでなく、不安軽減のための具体的な手助けを一緒に探す支援が必要です。

 

小学生にしても、大学生にしても、診断名を伝えてそれで終わりではなく、大切なのはそれを知った後の具体的な支援ということですね。

 

一方で、𠮷田先生は青年たちが自らの診断名を知った後の危険性についても、初版本から1節を追加して解説しておられます。

 

自分の直面するトラブルに自閉スペクトラム症が関与していると知った青年の中には、 トラブルの相手に診断名を伝えることで「謝罪の気持ちを伝えたい」「わざとではないとわかってほしい」「迷惑をかけるばかりだから免除してほしい」と考え、実行する人たちがいます。このような診断名の使用は本人の利益にも相手の利益にもつながらない危険性があります。

 

診断名だけ伝えることで解決をはかろうとする自閉スペクトラム症の青年たちは、周囲からは「診断を言い訳にしている」「努力を放棄した」とみえるかもしれません。しかし実際は努力していないのではなく、今できる努力をそれ以外に知らないだけです。

このような診断名の使用は本人に不利益をもたらす危険性が高い、不利な使用です。ただしこれも診断説明の副作用というよりも、診断名の活用のしかたを学ぶ機会が失われていたこと、つまり支援不足の結果といえるでしよう。

 

𠮷田先生はそれを「水戸黄門の御印籠」に例えていらっしゃいますが、たしかに診断名を免罪符のように使おうとすると、まわりからのいらぬ反発を招いてしまいますね。やはりここでも必要なのは、日々の生活の中で、トラブル解消に向けた本人への具体的な支援なのでしょう。

 

また、この増補版で変ってきていること、それはみなさんお気づきのように、本書の題名から変っていますね。 初版本「自閉症・アスペルガー症候群」 → 増補版「自閉スペクトラム」 です。

そして、アスペルガー症候群が医学的分類としては使われなくなり、自閉症スペクトラムあるいは自閉スペクトラム症に含まれるようになってきたように、その「三つ組」の表現も変化してきています。

 

初版本:

①  社会的な振る舞いの特徴や、その学ひ方の特徴

② 社会的コミュニケーションの特徴や、その学び方の特徴

③ 社会的イマジネーションの特徴(手に取ることのできない本質や概念よりも具体的な情報になじみやすい特徴)や、その結果としての秩序を愛する特徴

 

増補版:

① 人とのかかわりや集団参加でみられる特徴

② 人とのコミュニケーションでみられる特徴

③ 考えや行動の柔軟性やきわめる力/社会的想像力の特徴

 

という具合です。

本質的な内容は同じだと思いますが、表現方法は印象が違ってきていますね。

 

その三つ組にしても、初版本では「自閉症スペクトラム」、増補版では「自閉スペクトラム」と表現されています。

これは𠮷田先生によると、

★自閉スペクトラム(AS)は脳タイプ名(発達の多様性のひとつのパタン)、自閉スペクトラム症(ASD)は診断名(疾患名)と障害名のいずれの意味でも使用される

とのことですから、増補版では、ASの特性を、障害としてみるのではなく、あくまでタイプとして捉えようとする𠮷田先生の想いが、さらに強くなっているように感じました(・・・私の勝手な解釈ですが・・・)。

 

そんなわけで、まだ初版本を読まれたことのない方には絶対お薦めの1冊ですし、すでに初版本を買われた方にも、あれから10年お子さんも青年・成人期を迎えられていることでしょうから、改めてASや本人への理解を確認するためにと、増補版の購入もお薦めしたいと思います。

 

             (「育てる会 会報 308号」(2023.12) より)

 

---------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------

目次

  はじめに
  増補版に寄せて
  本書資料のダウンロード方法

第1章 説明という支援 

  1. 診断名を問いかけてくる小学生たちの登場
  2. 日本の現状
  3. 自閉スペクトラムの心理学的医学教育

第2章 自閉スペクトラムをどうとらえるか

  1. 「どう説明するか」には「どうとらえているか」が映し出される
  2. 欠落ではなく、ひとつの認知スタイルとしての自閉スペクトラム
  3. 強みと苦手は、同じ特徴の表と裏
  4. 支援の目的

  資料 自閉スペクトラム

第3章 ひな型(テンプレート)を用いた説明

  1. 特性や診断の説明にはさまざまなスタイルがあっていい
  2. ひな型(テンプレート)を用いた説明
  3. ひな型(テンプレート)を用いることの利点

第4章 特性や診断を説明する

  1. 特性や診断の説明手順
  2. 説明文の作成
  3. 診断名・障害名として伝える

第5章 いつ、伝えるか

  1. 説明の時期は暦の年齢では決められない
  2. 説明の時期を判断する「目安」、あるいは説明に向けた準備

第6章 誰が子どもに伝えるか

  1. この先も子どもに1対1で会える大人が説明する
  2. 専門家が説明する場合
  3. 親が説明する場合

第7章 説明で期待される効果、あるいは説明の目的

  1. 安堵し、罪悪感から解放される
  2. なぜ技術を学ぶ必要があるのかを、正しく理解できる
  3. 「自己否定的な技術向上」の回避に役立つ
  4. 自分を理解するためのキーワードに気づきやすくなる
  5. 自己の存在にかかわる秘密がなくなる
  6. 本人と親・専門家の、より強固なチームが形成される
  7. 相談する決心と技術をはぐくむ
  8. 診断名との混乱の少ない出会いを設定できる

第8章 説明の副作用

  1. 説明後の抑うつや退行
  2. 「自己否定的な技術向上」と必要な工夫や手助けを受け入れることの拒否
  3. 将来への不安
  4. 満足・安堵による相談の終了
  5. 努力の放棄は説明の副作用か
  6. 診断名の不利な使用

第9章 説明のあとの支援

  1. 具体的対応(環境調整や本人の工夫)の継続.
  2. キーワードの提供を重ねる、深める
  3. 本人が主体的に情報を活用できるように支援する
  4. 他の自閉スペクトラムの人たちとの類似と相違を実感させる

巻末資料 本人向け勉強会資料

  おわりに
  謝辞
 

 

 

 

 

 

 テンプル・グランディン:著  中尾 ゆかり:訳  NHK出版  定価2400円 + 税 (2023年7月)

 

          私のお薦め度:★★★★☆
 
自閉スペクトラム症を公表しておられる方の中では、世界で最も著名なお一人である、テンプル・グランディン女史の近著です。
テンプル博士(グランディン博士とお呼びするのが正しいかもしれませんが、「テンプルさん」の方が言い慣れているので、こう表現させていただきます)のプロフィールについては、もう説明するまでもないかもしれませんが、30年ほど前に「我、自閉症に生まれて」・・・、自閉症者ご本人の書かれた著書として感銘を受けたのを今でも思い出します。

ちょうど同じ頃に、日本で出版されたドナ・ウィリアムズさんの「自閉症だったわたしへ」と合わせて読んで、自閉症の本人から見た私たちの世界の姿に、物の見方、文化が二重になったような新鮮な感覚を感じさせられました。
テンプル博士は、その後の「Thinking in Pictures(邦題:自閉症の才能開発)」を出版され、世界を「絵で考える」脳と表現され、その才能を活かして、家畜を取扱う装置を設計したり、動物行動学者として大学教授となり、活躍されておられます。


本書は、さらに研究、考察を重ねられ「視覚思考者(ビジュアル・シンカー)」の世界を解説していただいています。


まずは、大きく分けてこの世界には、言語を使って物事を考える言語思考者と視覚思考者の2パターンの人がいるということです。

私は自分の考え方がふつうと異なることを知らなかったので、ほかの人がみな自分と同じ方法で考えているわけではないとわかって戸惑った。仮装パーティに招待されて出かけて行ったら、仮装していたのは自分だけだったときのような気分だ。たいていの人と私自身の思考のプロセスがどう違うのか、想像するのは難しかった。だれもが絵で考えているのではないと知ったとき、人はどんなふうに考えるのかを明らかにし、自分と同じように考える人をみつけることが私の使命になった。
それ以来、私のような視覚思考者がどのくらいいるのか研究を続けてきた。責料を調べ、じっくり観察し、自閉スペクトラム症や教育関係の会合で講演をしたときに簡単な調査を行ない、親や教育者、障害者支援者、仕事関係者など、たくさんの人と話をした。 (「はじめに」より)


こうして、テンプル博士は自閉スペクトラム症、視覚思考者の側か世界を研究、解説されてこられたわけです。オリバー・サックス氏がテンプル博士を「火星の人類学者」と称し、火星人の側から地球人を研究しているよう、と例えた所以でしょう。


次に、同じ視覚思考者の中にも、2種類あるのではないか、と考察されています。

それはテンプル博士自身の属する“絵で考える”「物体視覚思考者」と、数学的に世界を捉えられる「空間視覚思考者」です。わかりやすく例を挙げられているのは、「建築家」と「建築エンジニア」の差です。

どちらも空間の中に建築物を構築していくのですが、イメージとして造りあげるのが建築家だとすれば、それを強度や構造を頭の中で考えながら図面におとして、建設できるようにするのが建築エンジニアというわけです。後世に名を残すのは建築家でしょうが、イメージ通りに線を描いていく建築エンジニアの協力がなければ、建物はできあがらないのでしょう。
そして、ここでもう一つ言わしていただければ、その建物を発注したり、建築費を工面する施主は「言語思考者」であることが多いのではないでしょうか。
・・・・で、前の国立競技場で一度は採用されながら、予算オーバーにより、おそらく言語思考者である当時の安倍首相の判断で廃案となってしまったザハ・ハディド女史の幻の競技場のような例も生まれるわけでしょう。

テンプル博士によると、言語思考者は物事を順序立てて理解し、体系的・論理的な思考をするため、学校では成績がいいそうです。

そもそも、口の達者な人は会話を仕切る傾向があり、やたらと几帳面で、社交的だ。言葉を巧みに使いこなす能力が必要な華やかな職業に就き、出世するのもうなずける。教師、弁護士、著述家、政治家、企業の管理職などだ。たぶん、みなさんもこういう人を知っているだろう。
私たちは、おしゃべり文化の中で暮らしている。言語思考者は宗教やメディァ、出版、教育で世論を支配している。放送の電波やインターネットは言葉であふれ、宗教指導者や評論家、政治家はその大部分を占領し、 ニュース解説者は「番組の顔」と呼ばれる。主流の文化は口の達者な人に有利で、言葉がものを言う世界なのだ。


一方で、視覚思考タイプは、イメージを使い高速に連想できるが、言葉で話し始めるのが遅く、視覚化することができない。代数なども苦手で学校では苦労してきたそうです。その分建設や組み立てなどの作業は得意で、優れた技術者になれるということです。

「一風変った人」というのは、もちろん、「まわりになじめない人」を遠回しに言っているのだ。私がこれまでいっしょに仕事をしてきた人の中には、人づきあいが苦手でこだわりが強く、マイペースで仕事をして、しばしば身だしなみを気にしない人が少なくない。元同僚にこういう設計士がいて、かつては問題児だったそうだ。ディスレクシアに苦しみ、自閉スペクトラム症の特質もいくつかもっていた。今でも吃音が残っている。

人生を救ったのは、高校の溶接の授業。郡や州のイベント会場で装置を組み立てて販売し、やがて自分で事業を始めた。今では金属製品を製造する大企業を経営し、特許をいくつも取って製品を世界中に売っている。略図を描く必要もなく、どんなものでも組み立ててしまう。正真正銘の物体視覚思考者だ。

問題となるのは、言語思考者が一般的、支配的、多数派とされる社会・・・つまり今の現代社会においては、視覚思考タイプ、なかでも物体視覚思考者が認められにくいということでしょう。
もちろん、古くはエジソンやアインシュタイン、現代では本書でとりあげているイーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏のように、大きな偉業を成し遂げたアスペルガー症候群や空間視覚思考者の方もいますが、多くは苦労して暮らしているのでしょう。

本書は近著ですので、東日本大震災の際の福島原発事故についても取り上げられています。
地震の際には、綿密に設計された耐震構造と非常用ディーゼル発電機への切り替えのおかげで、被害は未然に防ぐことができた。
ただその後の津波により、非常用発電機が破壊されたことにより、最悪のメルトダウンが起こってしまう・・・・

もう一つ、福島第一原発を損傷させた設計上の問題と思われる箇所が気になった。冷却装置が浸水に耐えられる防水性の扉と壁で保護されていたら、メルトダウンは避けられたのではないだろうか。
防水扉は昔からある科学技術で、船舶で長年使われ、潜水艦にも取り入れられている。船では、船体に穴があいたときに損傷を受けた区分を密閉し、沈没を防ぐ安全装置になる。
原子力発電所が高度な科学技術を取り入れて運転されてぃたにもかかわらず、防水区分は重要項目に入っていなかったのだろうか。これさえあれば、冷却装置や非常電源を浸水から守ってメルトダウンを防ぎ、事故を避けることができたのではないかと私は思う。メルトダウンが発生したのは、非常用の冷却ポンプと原子炉の運転に必要な発電機がほぼ水没したからだ。
物体視覚思考者なら、波が防波堤を越えて発電所に押し寄せる光景を思い浮かべ、事前に対処したのではないだろうか。


先日、11月22日の原発事故の名古屋高裁での控訴審判決でも、「建屋などの浸水を防ぐ水密化が実施できた」とする原告側の主張が棄却され、国の責任が認められませんでしたが、政治家や裁判官には、言語思考者しかなれない(目指さない)としたら、ある意味しかたのない判決だったのかもしれません。
でも、テンプル博士が、「思考タイプの違う混合チームは強い」とおっしゃているように、おそらく言語思考者で占めらているであろう東電の取締役会に、一人でも物体視覚思考の役員、しかも意思決定に向けての発言権を持った役員の方がいたら、この災害は未然に防げたのでは・・・・と思うと残念ですね。


30年以内にはかなりの確率でおこるであろうといわれる、南海トラフ地震の対策検討室にも、テンプル博士のような、物体視覚思考者の方に一人は入っていただきたいと切に願います。

もちろんみんながみんな 「自閉スペクトラム症者 = 物体視覚思考者」と言う訳ではありませんが、テンプル博士による、ビジュアル・シンカーへの考察、新鮮で興味深い1冊でした。

明日からの子育てや実践には即には繋がらないかとも思いますが、もしビジュアル・シンカーに該当するようなお子さんをお持ちでしたら、その才能を活かし、本人を理解する助けとなる本、なにより共感が生まれる本だと思います。

 

                   (「育てる会会報 307号」(2023.11 より)

 

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

目次

はじめに 「視覚思考(ビジユアル・シンキング)」とは何か

  なぜ本書が生まれたか
  各章の内容

第1章 視覚思考者(ビジュアル・シンカー)の世界 ― 頭の中の「絵」で考える人びと

  二つの思考タイプの異なる世界
  ファイルする人、積み上げる人
  思考タイプの判定テスト
  視覚記憶でわかる思考のタイプ
  脳科学の歴史
  視覚思考者の脳をのぞいてみたら
  右脳・左脳思考
  物体視覚思考と空間視覚思考
  三つの思考スタイルの相違
  アファンタジアの奇妙な世界
  視覚思考と自閉スペクトラム症
  脳の代償作用
  まわりの評価は変わる
  ボトムアップで考える
  視覚思考のメリット

第2章 ふるい落とされる子どもたち ― テストではわからない才能

  実践的な教育
  テストの落とし穴
  社会見学に行こう
  さまざまな知能
  代数でつまずく
  スキルを伸ばす入口
  抽象的な思考の発達期
  飛び級の勧め
  多様な学び方
  障害の固定観念にとらわれない
  子どもの才能伸ばそう

第3章 優れた技術者はどこに? ― 視覚思考を社会に活かす

  発明と視覚思考
  技術屋とエンジニア
  革新するのは目立たない人
  製造業の危機
  職業訓練の重要性
  就業体験制度を利用する
  チャンスをつかむ
  否定されてもあきらめない
  視覚思考と脳の多様性
  職場で活かされる脳の多様性
  早期の経験が役に立つ
  雇用主側の対応
  得意なことを活かす

第4章  補い合う脳 ― コラボレーションから生まれる独創性

  ブロードウェイの奇跡
  建築家と建築エンジニア
  “テレパシー”で語り合う
  ロゼッタストーンの解読
  飛行機の自動操縦装置の発明物語
  正反対の兄弟
  思考タイプの混合チームは強い
  NASAでの成功例
  有能な人物には相棒がいる
  プログラミングとウェブデザイン
  思考の多様性を活かす経営者
  思考の多様性で成功する
  営業vs現場
  言語思考者と視覚思考者の出会い
  ひらめきが訪れるとき
  補い合う脳の将来性

第5章 天才と脳の多様性(ニユーロダイバーシテイ) ― 視覚思考と特異な才能が結びつくとき

  エジソンの機械好きな頭脳
  二つの思考タイプの天才ミケランジェロ
  視覚思考とディスレクシア
  コンピューターの父チューリング
  I T業界のスーパースター
  アインシュタインの脳
  天才と創造性の脳科学
  天才の脳の多様性
  遺伝子による影響
  生まれか育ちか
  サヴァン症候群の驚異的な能力
  天才に才能を伸ばす機会を与えよう

第6章 視覚思考で災害を防ぐ ― インフラ管理から飛行機事故の防止まで

  危険が “見える”
  視覚思考と事故の防止
  原油流出事故とリスク・マネジメント
  インフラの危機
  インフラ事故の原因
  メルトダウンを防ぐ
  福島第一原発事故から学ぶ
  ボーイング737MAX墜落事故
  経費削減の落とし穴
  身近に迫るサイバー攻撃
  有効な防止策
  A I がかかえる問題
  言葉に問題あり

第7章 動物も思考する ― 視覚思考との共通点

  動物研究の歴史
  動物の認識能力
  意識の脳科学
  将来にそなえる
  鏡に映っているのはだれ?
  道具を使う動物
  感情のシステム
  感情は脳のどこで生まれるのか
  言葉がなくてもわかる
  私と動物の関係

おわりに 視覚思考者(ビジユアル・シンカー)の能力を伸ばすために

  謝辞
  訳者あとがき
  参考文献