『 ハグなんて とんでもない! 』
エイミー・グリエルモ、ジャクリーン・トゥルビル 文 ジゼル・ポター 絵 さくまゆみこ 訳
子どもの未来社 定価:1800円+税 (2026.6)
私のお薦め度:★★★☆☆
表紙のウエスタンシャツを見て、お気づきの方も多いと思いますが 『 自閉スペクトラム症の動物学者 テンプル・グランディン 』 女史の伝記絵本です。
伝記と言えば、生涯に成し遂げた業績を紹介するものが多く、またこの業界(発達障害や自閉スペクトラム症・・・界隈)がマイナーなこともあり、自伝を除いて“伝記”なるものが書かれるのは珍しいですね。
本書のテンプル・グランディン博士、世界で最も著名な当事者のお一人であるのは間違いないのですが、取り上げられるのは、その功績・・・牛を落ち着かせるための締め付け機(スクイーズ・シュート)からヒントを得て自分が落ち着くための締め付け機「ハグするマシン」を設計・製作したり、また牛たちを虐待をすることなくスムーズに誘導させる家畜施設の設計など・・・よりも、高機能自閉症の特性を活かした生き方にあると言えるでしょう。現在はコロラド州立大学の教授となり、アメリカやカナダでは、半数以上の肉牛が博士の設計した施設で処理されているそうです。
一方で、女史を主人公にした映画「テンプル・グランディン ~ 自閉症とともに」や、オリバー・サックスの「火星の人類学者」では、そのユニークさが前面に出て、多くの人とは違った感覚、感性、文化の中で生きてこられたことを表現されています。本書もその一冊となります。
本書で登場するテンプル・グランディンはまだ少女時代です。
ほかの子は、かなしかったり、さびしかったり、こわかったりすると、だっこやハグでなぐさめてもらいます。
「ありがとう」や「うれしい」という気もちを、ハグであらわす人もいます。
まるでクッキーをあげるみたいに、かんたんにね。
だれかが両手をひろげるのは、たいてい、ぎゅっとハグしてもらいたいときです。
テンプルだって、なぐさめてもらいたいときが、ありました。
でも、ハグされると、世界一チクチクするくつしたのなかに、すっぽり入れられたような気がするのです。
だから、だれかがハグしようとすると、テンプルは、けとばしたり、さけんだりして、にげるのでした。
自閉スペクトラム症の子が、みんなそうだとは限りませんが、確かに多くのお母さん達が経験しているのではないでしょうか。我が家でも、幼い頃から抱っこするのは難しかったですね。身体を反り返らしてピタッとするのを嫌がっていたような気がします。・・・診断を受ける前でしたのでうろ覚えですが・・・
ちょうど今、我が家の猫も抱かれるのを嫌がって、すぐに逃げ出します。猫と一緒にするのは、息子に失礼な話ですが、まあ生まれつきの体質だと思って、半ば諦めています・・・
そんなテンプルさん、ハグだけでなく、学校では周りのクラスメイトからは変わった子だと思われていました。
送風機のブーンという音を、テンプルは歯医者さんのドリルのように感じました。
学校の食堂は、さわがしいし、くさいし、話し声がジェット機のエンジンみたいにひびきました。
ベルがジリジリ鳴ると、キツツキに頭をつつかれているような気がしました。
そうした音からのがれるために、テンプルは校庭のブランコに避難しました。
日本でも、当事者の小道モコさんが、「学校はジャングルのようでした」と表現されておましたが、ASDをもつ人にとっては、学校は厳しいものがあるのでしょうね。
そしてこれを解決する方法は、「ハグなんて、とんでもない!」と逃げ出した本人に、少しでも慣れるようにと無理強いすることではなく・・・なにしろ、本人は世界一チクチクする靴下に入れられているように感じているのですから・・・、周りの多数派である先生やクラスメイトが、本人の感覚を知って、環境に配慮してあげる、しかないように思えます。
本書の中では、初めに書いたように、テンプルさんは牛の診察や治療の際に、牛を落ち着かせるため両側から挟み込む締め付け機を見て、これなら自分もハグされるように気持ちを落ち着かせることができると考え、得意の設計図を描き、針金や滑車、ヒモ、古い椅子のクッションなどを集めてきて「ハグするマシン」を発明したわけです。
テンプルは、おばさんに立ち会ってもらい、自分でつくった装置のなかに入って、ひもを引っぱりました。
すると、横の板が動いて、テンプルのからだを両側からぴたっとおさえました。
テンプルは、にっこりしました。
さわがしい音が消え、空気はさわやかになり、明るい日ざしも、ここちよく感じられます。
童話だったら、ここで「メデタシ、メデタシ」となって物語は終わるのですが、ASDの子どもたちが誰でもテンプルさんのような才能を持っているわけでもないし、加圧装置が有効な子どもばかりとは限りませんね。
要は、その子に合った、無理をさせないで落ち着ける場所や環境を作ってあげることが大切で、そしてそれは周りの大人達の課せられた課題なのでしょう。そう思って今月のお薦め本とさせていただきました。
なお、本書のタイトルは『ハグなんてとんでもない!』なのですが、本書の結びの言葉を紹介します。
でも、しだいに、このマシンを使わなくても、おちつけるようになり、そのうち、なくてもだいじょうぶになりました。
やがて、このマシンはこわれてしまいました。
だったら、どうすれば元気がもらえるか、テンプルにはもうわかっていました。
『そう、それには、ハグがいちばん!』
「今では、わたしもハグができるようになったのですよ」 ―― テンプル・グランディン
(「育てる会 会報 339号」2026.7 より)
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目次
『 ハグなんて とんでもない!』
作者あとがき ・・・・・・・・A.G.とJ.T.
解説 ・・・・・・・・・・・・・・・和田 真 (神経生理学者:順天堂大学 客員准教授)

































































