泥ノ田 犬彦:著 講談社 定価:① 860円、② 690円 +税 (①2023.11、②2024.5)
私のお薦め度:★★★★★
みなさん、夏休みいかが過ごされたでしょうか?
私もお盆休み、あまりの暑さに外出する気力もなく、一日中クーラーをつけっぱなしの家の中で・・・のんびり過ごしていました。
そんな訳で今月紹介するのは、ひさしぶりのコミック(マンガ)本です。
これまでも、このお薦め本のコーナーでは、真面目なマンガとしては「光とともに・・・」(戸部けいこ)や「この星のぬくもり」(曽根 富美子:森口 奈緒美:協力)など、またコミック版としては「うちの子 かわいいっ 親ばか日記」(あべ ひろみ)、「100%あらたくん」(茂木 和美)、「あしたはきっと晴れ」(あらみ なおこ)、「毎日やらかしてます」(沖田 ×華)」「イケイケ、パニッカー」(高阪 正枝)などなど、結構紹介してきました。
これらは自閉症という“障害”をメインに取り上げ、理解や啓発、また共感を主軸としたもので、したがって読者も比較的自閉症の関係者の方が多かったように思います。
一方で、エンターテイメントとしてのマンガの紹介の数は少なく、「格闘探偵団 4・5 走れ!タッ君」(小林 まこと)ぐらいだったような気がします。
そういう意味では、本当にひさしぶりの、マンガらしいマンガの紹介です。
先日の吉田友子先生のセミナーで、2024年本屋大賞受賞の「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈:著)を紹介していただきましたが、本書は同じく2024年のマンガ大賞受賞のシリーズ(現在第2巻まで)です。
同じ年に、2つの大賞を受賞した作品が、それぞれユニークな主人公を取り上げてくれているのは嬉しいですね。
勉強もバイトも続かないヤンキー高校生の小林。
ある日、小林のクラスに変わり者の宇野が転校してくる。
彼は立て続けに話しかけられると硬直してしまったり、たくさんのことを同時に行えなかったりと“普通”のことが苦手。
それでも様々な工夫をして頑張っている宇野に共鳴した小林は自分も変ろうと行動を起こす。
もうみなさん、これだけ読めば(1巻 裏表紙)お分かりのように、宇野君は特性を持っています。
でもそれは宇野君だけでなく、この物語に登場する様々な人も特性・・・というか、弱さや苦手なところを持っています。この物語の主人公のヤンキーの小林君をはじめ、天文部の美川先輩、小林君のバイト先の山田さんや望月くん、お互いみんな苦手なところはあって、その特性がもっとも強く表われているのが宇野君、というだけかもしれません。
これ以上書くと、ネタバレになってしまいそうなので触れませんが(小説やマンガのいいところを紹介するって難しいですね)、宇野君がいつも自分で書いて、肌身離さず持っているノートについて、小林君に説明している箇所だけ紹介させてください。
・・・僕は記憶することが得意なのですが たくさんのことを同時に行なったり 臨機応変にすることが苦手です
知らない人がたくさんいる所は特に苦手です
それで学校で失敗してしまうことが多くて 困っていました
答えがわからないと迷います そして失敗してしまいます
わからないことがある時は 一人で宇宙に浮いているみたいです
聞いても教えてもらえない時もあります
上手にまっすぐ歩けない
それを笑われたり怒られたりすると 怖くて恥ずかしい気持ちになります
でも、僕は宇宙を歩きたい! だからテザーを作りました!
テザーとは宇宙飛行士が宇宙空間で活動する際に使用する命綱のことです!
テザーがあると 無重力空間でも船から離れません!
ノートは 僕にとっての命綱です
そんな話を聞いた小林君に、帰り際に宇野君のお姉さんが2階からかけ言葉がとても印象的でした。
今日はありがとね
・・・啓介(宇野君) ちょっと人と違うところあるからさ~
ノート何回か捨てられて帰ってきたこともあってね~
まあヨソから見れば汚いノートだもんね
でも・・・
人と同じように生活するのにさ 工夫が必要な人もいるんだよね
だからあの子と話してくれて 姉は嬉しかったです!
そんな、テザー(命綱)を作って、なんとか工夫しながら生活している人たち、我が子たちに重なります。
自閉スペクトラム症とは脳のタイプが違っているだけ・・・と分かっていても、彼らがこの社会でマイノリティであることは間違いなく、工夫をしていかなければ生きづらい人生なのでしょう。
それが、この物語ではテザーであるノートであり、工夫を支援と言い換えると、構造化や視覚的支援、支援ツールなどになるのでしょうね。
ただ、この物語、フィクションですからこの先どうなっていくのか、読者としてはとても気になるところです。宇野君の夢が叶って、小林君と二人テザーに繋がって宇宙遊泳・・・となれば最高なのですが、それではあまりに現実離れして、荒唐無稽な話になってしまいそうですね。
宇野と小林の2人には描きたかった(与えたいと思っている)エンディングがそれぞれあり、ゆっくりそこに向けて話をすすめていくつもりです。描いている最中に変化があるかもしれませんが、大幅には変えない予定です。(第2巻「あとがき」より)
二人がどこに向かって歩いていくのか、応援しながら見守っていきたいお薦め本です。
(「育てる会会報 316号」 2024.8 より)
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目次
【 第 1 巻 】
第1話 ワン・ジャイアント・リープ
第2話 惑う星たちの帰り道
第3話 憧れの先輩 !
ペン入れの時に聞いている歌たち
あとがき
【 第 2 巻 】
第4話 宇宙っていいな
第5話 もちベーション
第6話 そういうところがかっこいい !
第7話 理由を探して
番外編 1 はんぺん談義
2 姉弟の朝食
3 ソフトに悩んでいる
4 たまごやきラプソディ
あとがき