ザ・パターン・シーカー サイモン・バロン=コーエン | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ


『 ザ・パターン・シーカー 』

    サイモン・バロン=コーエン:著  篠田 理佐:訳  岡本 卓・和田 秀樹:監訳 

    化学同人  定価:2400円+税 (2022.11)

 

         私のお薦め度:★★★☆☆

今月のお薦め本、書名だけでは「自閉症と関係あるの?」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんね。
著者は、『自閉症入門 親のためのガイドブック~』『自閉症スペクトラム入門 ~脳・心理から教育・治療までの最新知識~』や『自閉症とマインド・ブラインドネス』など、このコーナーで何度も紹介したことのあるサイモン・バロン=コーエン博士です。
副題に「自閉症がいかに人類の発明を促したか」とあり、帯には「なぜ、人類だけが発明できるのか?」とあるように、“発明”に必要な要素と、その要素と“自閉症”との関係を解き明かそうとされているのが本書です。

本書で最初に登場するのは4歳のアルと2歳のジョナという2人の少年です。ともに言葉を話さず、他人に興味を示さず物事の中にあるパターン(規則性・法則性)を見つけることにこだわっていました。のちにアルはトーマス・エジソンの名で発明王と呼ばれるるようになり、一方の現代に生きるジョナは自閉症と診断され、いまだ一人の友だちを作るのにも難渋している若者として暮らしています。
そして二人に共通するのが「パターン・シーカー」という特性であり、日本語に訳せば「法則探求者」とでもいえるのでしょうか。

そして、筆者はこのパターン・シーカーの特性こそが発明に必須なものであり、地球上で人類のみが持つ能力である、との説を展開していきます。
その一部を抜粋して紹介してみましょう。

心理学者かつ自閉症研究者として私は35年間、ヒトのマインドを研究してきた。
私はこの本において、人間の発明についての新しい理論を紹介する。簡単に説明してみよう。

1.唯一、ヒトは脳に特殊なエンジンを持つ。これは、システムの最小定義である、if- and-thenパターンを探索するものだ。私は、脳に存在するこのエンジンを「システム化メカニズム」と呼ぶ。                       

2.システム化メカニズムは、7万年前~10万年前という人類の進化における特筆すべき時期に出来上がった。このとき、最初のヒトは、それまでの動物や現在のヒト以外の動物には成しえなかった方法で複雑な道具を作り始めた。        

3.システム化メカニズムの獲得によって、この惑星上でヒトだけが、科学、および技術を極めることができ、他のすべての種を凌駕することになった。
・・・・・
5.システム化メカニズムは、自閉症マインドでも、非常に高く調整されている。
・・・・・


この仮説の前提を証明するために、動物にはこのif- and-then(もしならば)システムが備わっていないのか、とか、過去のヒト科であるホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス、ホモ・ネアンデルターレンシスなどは“発明”という能力を獲得できなかった、とか、またホモ・サピエンス(現人類)がネアンデルタール人に取って変わることができ、ネアンデルタール人が絶滅したのは、このシステム化メカニズムによる認知革命が本格化してきた4万年前頃・・・・などという説は、実は「ああ、そうかもね」と斜め読みした部分でした。みなさんも、よほど知的探究心の深い方以外は、「ホンマでっか」でも構わないと思いました。バロン=コーエン博士には申し訳ないですが・・・・

なにより私が、この本を手にした一番の動機は、自閉症と人類の発明についてでした。自閉症というもののポジティブな面を知り、ソウソウと納得したかったから・・・みなさんもおそらくそうではないかと思います。


これについては、心の理論の第一人者であるバロン=コーエン博士は、まずヒトの脳を5つのタイプに分類することからら始められています。

使われているのはシステム化指数(SQ)と共感指数(EQ)の二つです。どちらの傾向が高いかによってタイプが分類されます。
すでにお気づきのように、SQの高い人は「木を見て森を見ず」のような細部まで注視するタイプで、EQの高い人は空気を読んだり、他人の心を容易に察知でいる人です。
ですから、まずSQの高いS型、EQの高いE型、そして両方を平均にもつB(バランス)型に分類されています。
そしてその端っこには極端に高いSやEの指数を持つエクストリームS型とエクストリームE型が含まれています。

ここまで書けば、もうお分かりですね。人類が他の種を凌駕するのに必要だったのは、if- and-thenシステムによる発明であり、そのパターン・シーカーはS型もしくはエクストリームS型の人の特性であり、また高機能自閉症の人もほとんどがエクストリームS型に分類されることでしょう。
ちなみに、S型、E型、B型の人の割合はそれぞれ約3分の1ずつ、そしてエクスリームS型は人類のわずか3%ほどといわれるのですから、「ザ・パターン・シーカー」≒「高機能自閉症」といえるのかもしれないですね。
なお、逆のパターンのエクストリームE型の脳タイプは逆に男性よりも女性に多く、女性の3%、男性のわずか1%、超共感型といわれるそうです。ある意味納得ですね。
気になる方は本書の巻末に「付録1 SQとEQでわかるあなたの脳タイプ」という質問と採点表がついていますので、自分の脳タイプをチェックされてみられては・・・・

それからの20年間、エジソンの発明は飛ぶ鳥を落とす勢いであった。
29歳で、カーボン・トランスミッターを発明。アレクサンダー・グラハム・ベルの発明した電話が使えるようになった。
32歳で、彼は商業化にむけて実用的な最初の電球を発明し、36歳で、生成・供給可能な商業実用的な最初のセントラル・システムを整備した。
43歳には、サイレント映画の先駆けとなった初期のフイルム投影機「バイタスコープ」を発明した。
他にも、最初の実用的なディクタフオン、謄写版、蓄電池を発明した。エジソンは疲れ知らずのハイパー・システマイザーだったのだ。有名な話だが、彼が自分の執拗な実験についてこう言ったといわれている。 

「私は失敗したのではなく、うまくいかない1万通りの方法を見つけただけです」

この発言は、システムの中ですべての変数を試すこと、そしてそれぞれの効果を追跡する必要性を完全に表している。これが、システム化のメカニズムの核心なのだ。
エジソンは、ハイパーシステマイジング・マインドという、たぐいまれな才能に恵まれていたが、彼の仕事への飽くなき執着と乏しい社会性は、私生活では困難を起こし続けた。彼は、他の誰かと親しい人間関係を築くことができなかったのだ。


もちろん、150年前のトーマス・“アル”・エジソンは自閉症という診断を受けていたわけではありません。そもそも、その頃には“自閉症”という言葉すら、まだなかった時代です。でも様々なエピソードからして、特性を持っていたのは間違いないといえるでしょうね。そして、ハイパー・システマイザーだったエジソンのたくさんの発明が人類の文化を一段階前に進めたことは間違いないでしょう。

また、自閉スペクトラム症(ASD)が劣っているのではなく、ただ多くの人と脳のタイプが違うだけ、というように、本書に登場するパターン・シーカーのS型やエクストリームS型の人だけが逆に“優れている”という訳でもなく、ただ違っているだけの話ですね。

システム化メカニズムは発明や実験能力を生み出し、一方で共感回路は、他人や自分の考えを振り返る力も培い、柔軟なコミュニケーシヨンを可能にした。これら二つの新しい認知モジュールが共に認知革命を牽引したのだ。多くの自閉症の人びとが心の理論に翻弄されながらも実験することのオ能には恵まれていた事実が示しているように、システム化メカニズムと共感回路はそれぞれ独立しているものの、言語と音楽(※)という二つのヒトに固有な発明に見られるように、明らかに相互作用している。
   ※音楽と発明についての詳しい考察は本書をお読みください

S型のヒトによってなされた発明は、E型の言語によるコミュニケーションにより共有され、初めて人類のモノになったということでしょう。
7万5千年前の宝石の発明者や4万年前の洞窟画家にも思いを馳ながら、今月のお薦め本といたします。

             (「育てる会会報 334号」(2026.2)より)

 

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目次

第1章 生まれながらのパターン・シーカー
       - アル(エジソン)の幼少時代

第2章 システム化メカニズム

第3章 5つの脳タイプ

第4章 発明家のマインド

第5章 ヒトの脳に起きた革命

第6章 システム・ブラインドネス
       - なぜサルはスケートボードをしないのか?

第7章 巨人の戦い
       - 言語 vs. システム化メカニズム

第8章 シリコンバレーの遺伝子を探る

第9章 未来の発明家を育てる


  謝辞
  訳者あとがき
  付録1 SQとEQでわかるあなたの脳タイプ
  付録2 AQでわかる自閉特徴の値
  原注と参考文献
  索引
  図・写真 提供