社会福祉法人 和枝福祉会:監修 ナツメ社 定価:1600円+税 (2021年8月)
私のお薦め度:★★★☆☆
今月のお薦め本は、いつもこのコーナーで紹介している「子育てに役立つ」とか「共感を呼ぶ」とかいう類いの本ではなく、ひたすら現在日本で一般的に受けられる制度やサービス、助成金などを網羅しておこうという解説本です。
「障害のある子」・「一生涯」と題名にある通り、今は幼児期・学童期にいる子どもたちへのサービスから、これから大人になり社会にでるまでの利用できる制度、また65歳で障害福祉サービスから介護保険サービスに移る際での注意点までが見通せるようになっています。
ただ、現在でも福祉サービスについては年々、次々と変ってきていますから、本書で紹介されている制度も、今の子ども達が大人になる頃には様変わりしているかもしれませんが・・・。
おそらく、今のままでは介護保険サービスは現役世代に比べて高齢者が増えすぎて財政的にパンクしてしまうかもしれませんし、いざ支援を受けようとしても福祉人材不足で、事業者を見つけられないおそれもあります。そのとばっちりで障害福祉サービスについても変らないではおられないと思います。
でも、それを嘆いていても先には進めないので、とりあえず本書で、現在の自分の知識に漏れがないか、確認していきましょう。
その観点からみると、本書はフルカラーのイラストで、具体的な金額もわかりやすく表示してあり、大体、見開きに一つのサービスの説明なので理解しやすい解説書だと思います。
パート1では学齢期のサービス、2では「就労時、就労後の利用できる制度、3では日常生活における制度や各種の手当、そして障害年金や親亡き後の話・・・と続いていきますから、まずは目次を見て知りたい制度や、知らなかったサービスから目を通していけばいいと思います。
自分では知っていたつもりでも、抜けている制度もあるのではないでしょうか。
目次一覧は下にありますので、ご覧ください。
たとえば私は、「就労定着支援事業」については詳しくは知りませんでした。
厚生労働省では、2018年4月から就労系の障害福祉サービスから一般企業に就職した障害者に対して、早期離職を防ぎ、職場への定着を目指した「就労定着支援」を始めました。
就職をした障害者の場合は、生活が大きく変化することによって生活リズムが乱れる、職場の人とコミュニケーションが取れない、お金の管理ができないなどの問題が出てくることがあります。
そこで、生活面での課題をみつけ、事業所やかかりつけの医師、就労移行支援事業所などとの橋渡しをして問題の解決に向け、定着を図ろうというわけです。
月1回以上は支援者が利用者の自宅と企業を訪問し、障害者一人ひとりに必要な支援を行います。この支援は就労から6ヵ月を経過した人を対象に、就労定着支援事業所が中心となって行われます。利用できる期間は最長3年です。
それは、この制度が「就労系の障害福祉サービスから一般企業に就職した障害者」を対象とし、特別支援学校などから、直接一般企業に就職した生徒については対象外となり、また実際にこの事業を行なっているのが元の障害者継続雇用や移行支援を行なっている障害福祉サービス事業所であるため、私には縁遠かったためでしょう。
でも、支援者としては知っておかなければいけない知識でしょうね。
知っておかなければ・・・というところでは、育てる会が運営している「エール 1」のような計画相談支援事業についても知識不足の箇所がありました。
「相談支援事業者には2種類ある」
相談支援事業者を行う事業者には、指定特定相談支援事業者(指定障害児相談支援事業者)と指定一般相談支援事業者があり、その事業内容は異なります。障害福祉サービスなどの利用計画の作成や、支給決定後のサービス利用などの連絡調整は指定特定相談支援事業者が行います。一方、入所施設設に入所している障害者が地域での生活に移るときや、単身で生活する障害者の緊急対応についての相談などは指定一般相談支援事業者が行います。
なんで「エール 1」が、わざわざ「指定 “特定”相談支援事業所」なんて呼ばれるのか・・・なんて思っていましたが、疑問が解けました。お恥ずかしい次第です。
でも、こちらの方が「特定」ではなく、「一般」のサービスだと思えるのですが・・・。
他にも、知らなかった制度に「特定贈与信託」なんて制度もありました。
障害のある子の将来にわたる生活の安定を図るために親がまとまったお金を信託銀行に預けて管理・運用してもらい、親や親族が亡くなった後には、信託財産から障害のある子どもに生活費や医療費などが定期的に渡される制度を「特定贈与信託」といいます。この場合の親(委託者)から子(受益者)への贈与を「みなし贈与」といいます。
この制度が利用できるのは、国税庁が指定する特別障害者か特定障害者です。
特定贈与信託の大きなメリットは、信託財産のうち特別障害者では6,000万円、特定障害者は3,000万円までが非課税となる点です。通常であれば、生前贈与は年間110万円までが非課税で、これを超えるとその超えた部分に贈与税がかかってしまいます。
特定贈与信託の制度を利用すれば一度に3,000万円、6,000万円までが非課税になるため節税にもなります。
信託制度については聞いたことがありましたが、障害者の非課税枠についてまでは知りませんでした。
ここでいう「障害者」は、知的障害についていうと、重度の方が「特別障害者」、中程度の方が「特定障害者」となるそうです。たいして相続財産もない我が家には縁遠い制度ですが、中には資産家の方もおられるのでは・・・と紹介しておきます。
なお、そのお子さんが亡くなられた場合、残った信託財産は受益者(子)の相続人、おそらくはきょうだいや甥、姪などに相続されることになりますが、あらかじめ委託者(親)が任意に指定しておけばボランティア団体や障害者団体などに寄付することもできるそうです。その節には、ぜひとも「育てる会」も候補の一つに・・・といいたいところですが、まあそれはそれとして、本書には他にも知らなかったサービスも多いのではないでしょうか。
日本では支援を受けるためには「申請主義」が主流であり、たとえば子どもが障害年金を受けるためには、誰かが「裁定請求」をしなければ受給できない仕組みになっています。
本書に載っている「特別児童扶養手当」や「障害児福祉手当」にしても、申請しないとそれっきりです。
わざわざ役所から言ってきてはくれないので、今の世の中、自閉症をもつ子にたいして、それをやれるのは親しかいないようですね。
本書を読んで、「漏れがないか、ぜひ一度確認しておいてほしい」と、お薦め本に挙げさせていただきました。
(「育てる会会報 309号」 2024.1 より)
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目次
はじめに
プロローグ : 障害のある子のライフステージとサポート
パート 1 誕生から学校卒業まで
障害のある子どもとその親をサポートしてくれる機関はいくつもある
知っておきたいこんな制度 : 自宅で保育が受けられる居宅訪問型保育
乳幼児健診は疾病や障害の早期発見・治療に重要な役割を果たす
さまざまな福祉サービスを利用して障害の状態に合わせて知識や技能をつける
福祉サービスを受けるために必要な「受給者証」について知っておこう
障害のある子の日常生活や社会生活をスムーズにするための「児童発達支援」
外出が困難な重度の障害児のための「居宅訪問型児童発達支援」
知っておきたいこんな制度 : 学校に行けない子どものための訪問教育
指導員が保育所などを訪問して集団生活に適応できるよう支援する「保育所等訪間支援」
施設に入所している障害児が受けられる「障害児入所支援」は福祉型と医療型の2タイプ
サービスを受けるには「障害児支援利用計画」を作成する
専門家からのアドバイス : 障害者総合支援法にもある利用計画
発達障害児を育てる親の悩みに寄り添うペアレント・メンター
発達障害者支援センターは子育てから就労相談まで幅広く支援
発達障害とはどんな障害?
障害のある子もない子も地域の学校でいっしょに学ぶインクルーシブ教育
小学校はどこに? 一人ひとりの状態や二―ズに合わせた学びの場が充実
就学相談で子どもも親も納得できる就学先を選びたい
さまざまな交流や共同学習の機会が設けられている特別支援学校
一人ひとりに短期的・長期的な指導計画をつくりよりよく生きることを目指す
学校と連携し、放課後や長期休暇中にも障害児の自立を目指す「放課後等デイサービス」
中学校を卒業したらどうする? 高等学校や大学進学の道も開かれている
専門家からのアドバイス : 中学校を卒業する前に考えておきたいこと
ケーススタディ ○ あせらず子どもの発達に合わせて
○ 特別支援学校と協力して
○ 成長に時間はかかっても
パート 2 仕事に就くとき・就いてから
就労を希望する人はハローワークや障害者就業・生活支援センターなどに相談を
企業には障害者の雇用が義務付けられている
知っておきたいこんな制度 : 職業生活全般の相談・指導を行う障害者職業生活相談員
ハローワークが中心の「チーム支援」を利用して就労を図り職場への定着を
就労系の障害福祉サービスのひとつ「就労移行支援」は一般企業への就職をサポート
就労継続支援A型、B型はともに利用期間の制限なく職業訓練が可能
一般企業に就職した障害者の職場定着率アップを目指した「就労定着支援」
「障害者トライアル雇用」制度の利用で仕事と職場の相性を確認して正式雇用へ
障害者の就業の不安と悩みに寄り添い職場への適応をサポートする「ジョブコーチ」
働きやすい環境が整った特例子会社も広がりつつある
手当をもらいながら職場で訓練する「職場適応訓練」
在宅で仕事をしたい障害者を支援するための団体もある
ハローワークの求職者を対象にしたハロートレーニングで障害者も職業訓練を
ケーススタディ ○ 自信をもって働いています
○ 本音はなかなかいい出せない
○ 就労移行支援で自分の特性を理解
パート 3 生活を支える主なサービスと利用法
障害のある人の生活を支えるサービスのベースとなる「障害者総合支援法」
「障害者総合支援法」の対象になるのは3つの障害のいずれかに当てはまる人や難病の人
障害福祉サービスの利用の手順を確認しておこう
知っておきたいこんな制度 : 相談支援事業者には2種類ある
適切なサービスの組み合わせを検討する「サービス等利用計画」をつくる
● 在宅生活の支援
居宅介護(ホームヘルプ)/重度訪間介護
短期入所(ショートステイ)
生活介護/自立生活援助
重度障害者等包括支援/療養介護
図書館のサービス/緊急一時保護/手話通訳者の派遣
訪問理美容サービス/寝具の乾燥・水洗いサービス/紙おむつの支給
● 日常生活用具
日常生活用具の給付
補装具費の支給
● 住宅支援
区営住宅申し込みの優遇など/住宅設備の改善費の助成
● 外出の支援
鉄道運賃の割引
有料道路通行料金の割引/国内航空運賃の割引/福祉タクシー利用券の交付
同行援護/行動援護
自動車運転免許取得費用の助成/自動車燃料費の助成
● 税金・共料金など
所得税・住民税の障害者控除
NHK放送受信料の免除/自動車税の減免
ゴミミ出しの支援/水道・下水道料金の減免
● 医療
自立支援医療(育成医療)の給付
自立支援医療(更正医療)の給付
自立支援医療(精神通院医療)の給付
心身障害者医療費助成制度/小児精神障害者入院医療費助成
小児慢性特定疾病の医療費助成制度
● 手当・貸付
特別児童扶養手当
障害児福祉手当
特別障害者手当
生活福祉資金の貸付
「障害者総合支援法」には利用者負担の軽減措置が設けられている
知っておきたいこんな制度 : ほかにもある軽減措置
身体障害児(者)のための身体障害者手帳の仕組みと交付まで
知的障害児(者)のための療育手帳の仕組みと交付まで
知っておきたいこんな制度 : 発達障害の人にも交付の可能性がある
精神障害児(者)のための精神障害者保健福祉手帳の仕組みと交付まで
ケーススタディ ○ 支援を活用することで自立できる
○ 障害者手帳保有のメリットは大きい
○ 税金などの減免は生活の安心材料
パート 4 20歳になったら受給できる障害年金
公的年金は日本国内に住所がある人は全員加入する制度
障害年金が受給できるのは障害等級に該当する人
20歳前の障害でも受給できる「20歳前傷病による障害基礎年金」
「20歳前傷病による障害基礎年金」は一定以上の収入があると支給制限を受ける
知っておきたいこんな制度 : 所得制限以外の理由による支給停止もある
年金受給のための提出書類は年金受給決定のカギになる ①
専門家からのアドバイス : 発達障害が気になったら早めに受診を
年金受給のための提出書類は年金受給決定のカギになる ②
「20歳前傷病による障害基礎年金」の請求のしかたと流れ
専門家からのアドバイス : 障害基礎年金を受給するには詳細な記録をつける
日々の生活を支える障害年金の受給額はいくら?
障害認定日に障害等級に該当していなくてもその後症状が重くなれば申請できる
障害の認定には永久認定と有期認定がある
専門家からのアドバイス : 就労しても障害年金は受給できる
ケーススタディ ○ 遡及請求で生活資金を確保
○ 子どものために資産は必要?
○ 安心して暮らすためには早めの準備を
パート 5 親が亡くなる前に考えておきたいお金のこと
親亡き後、子どもは生活していけるの?
専門家からのアドバイス : 無理をしないで!
障害のある人が財産を相続するときは「障害者の税額控除」が受けられる
後見人の負担を減らす「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」
3000万円または6000万円までが非課税で贈与できる「特定贈与信託」
障害のある子の将来のために資産管理を家族に託す「家族信託」
遺産分割協議なしに財産を分配できる「遺言代用信託」
親の財産を障害のある子固有の財産として残せる「生命保険信託」
手頃な掛金で生涯にわたり年金が受け取れる「障害者扶養共済制度」
生活に困窮したら「生活保護」を受けることもできる
ケーススタディ ○ 親亡き後のために自宅を売却
○ シェアハウスで自立
○ 生活の術を教えておきたい
パート 6 親が亡くなった後の子どもの生活はどうする?
財産管理や契約の権利を保護・支援する「成年後見制度」
成年後見人とはどんな人? どんな仕事をしてくれる?
専門家からのアドバイス : 認知機能が十分でない人が利用できる「特定援助対象者法律相談援助」
成年後見人には誰がなる?
成年後見制度を利用するための手続きの流れと費用
判断能力が低下したときに備える「任意後見制度」
「日常生活自立支援事業」は福祉サービスの利用や金銭管理をサポート
親がいなくなったらそれまでの親の役割は誰がする?
ひとりになったときはどこに住む? 自宅のほかには施設入所かグループホームがある
施設に入所する人に夜間のサービスを提供する「施設入所支援」
専門家からのアドバイス : 納得できる施設を選ぶには
地域で自立した生活を営むためのさまざまな支援の形を備えた「グループホーム」
専門家からのアドバイス : 親元を離れるときはゆっくりと
グループホームの生活は? 生活費はいくらかかる?
介護保険では1カ月の支給限度額が決まっている
施設入所では介護保険施設と特定施設で負担額は異なる
65歳以上で介護が必要な場合は要介護認定の申請を
ケーススタディ ○ 兄弟姉妹にかかる重圧
○ 法人後見人で将来も安心
こんなときはここに相談
索引