発達障害が理解されにくいワケを自分で考えてみた | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

春野 あめ:著  中島 美鈴:監修  竹書房  定価:1300円+税  (2024.3)

 

               私のお薦め度:★★★★☆

    
育てる会の会報でも、「ちゃーちゃん日記」で連載しているASD当事者によるエピソード・・・新鮮な気持ちで毎号読ませていただいています。

同じように人間関係でトラブルに悩んでいた著者の春野あめさんが、自分の障害を知り、歩き始める様子を明るくマンガで描いた一冊です。


著者の春野さん、25歳のときに発達障害の診断を受け、最初はADHDの診断だけだったそうですが、この本を書いたことで、自己分析が進みASDとしての特性にも気づかれたそうです。

本書では、これまでの人間関係のトラブルを“自分で考えて”、それがなぜ起こってしまったのかを
“自分なり”に分析されています。そして下の目次にあるように、そのエピソードを「ASD傾向の特性」、「ADHD傾向の特性」、「ADHD+ASD傾向の特性」、「二次障害の影響」などに分けて紹介してあるので、とても分かりやすく、納得しやすいものになっています。

たとえば最初のケース1「話の意図を汲み取れない」は、「ASD傾向の特性」から引き起こされたエピソードです。
職場に休日出勤した春野さん、仕事が一段落したので、先輩の堀さんに「ヒマです」と伝えると、パソコンを打っている堀さんに「じゃあ適当に他のことやってて・・」と言われ、・・・じゃあ「YouTube みよ~っと」と、スマホで楽しんでいて、「あのさ、さすがにそれは・・・一応仕事中だからさ」と、肩をトントンされてしまったそうです。
ここからが、自分の障害の特性を知ってからの、春野さんの自分なりの当時の行動の自己分析です。

何やってんだ 私~~~っ   振り返ってみるとひどいですね  自分でもドン引きです・・・
でも当時 なぜこんな行動に出てしまったかというと・・・
私は堀さんのこの発言 「適当に他のことやってて~」が  何を指しているのか理解できていなかったんです!!

通常であれば 仕事中に「他のこと」と言われた場合 「言われた仕事は済ませたし・・・来週の会議の資料を今のうちに作っておくか」などと 仕事の枠の中から考えると思うのですが 私の場合「他のこと」がどの範囲がまでを指しているのかわからず 「他のことをやってて」→「他のことしていいんだ」→「自由時間!」 と独自の解釈をし 「YouTube みよ~っと」思いついたままに行動してしまったのでした

このように私は曖昧な表現で話されたと際 置かれた状況から自分が何をすべきか正しく判断することが苦手なため 結果相手の話の意図を全くわかっていない行動をとってしまいます
これが私の発達障害の「特性」のひとつです

なので私のような特性を持つ当事者や「伝わりづらいな」と感じる人に指示を出す際は “はっきりと”“具体的に”“ゆっくり”話してくれるとうれしいです
私はたとえ話や冗談が入るとさらに指示の内容がわからなくなり混乱してしまいますが 「文字」でいただけると誤解も少なくわかりやすいと感じます


しっかりとした自己分析ですね。でも、一般就労の場合、お願いしているばかりでは、「面倒くさいヤツ」と、敬遠されてしまうかもしれません。
それは春野さんも理解して、努力されていらっしゃいます。

ただ 常に相手からのフォローやサポートを求めるわけにはいかないので 私たち当事者側は一般的に使われる言い回しや暗黙のルールなどを知識として入れておくと 突飛な行動も避けやすく 

さらに「わからないことを人にきく練習」をしておくと だんだん状況判断や話の意図を理解するスキルが上がっていくのではと思っています
  
こんな風に前向きに捉えている春野さんですが、ご自身が「特性のひとつ」とおっしゃっているように、ASDやADHDの特性は多岐にわたります。


最初の「話の意図を汲み取れない」に続いて、ケースとして挙げられているのは「失言する」、「後先考えない行動をとる」、「ちょっとした言葉を攻撃と感じる」、「人との距離感がおかしい」、「融通がきかない」・・・・などなど、当事者の方や、ASD児を育ててこられた方、特に高機能なお子さんの保護者の方には思い当たることもあるのではないでしょうか。

なかでも私が興味を持ったのは、「認知の歪み」と、それに対する発達障害当事者向けの認知行動療法の章でした。少し長くなりますが紹介します。

「認知の歪み」とは 物事に対し考え方や捉え方が極端で偏った思考パターンになっている状態のことで なかでも認知機能が弱い当事者は「自分が劣っている」と感じてしまう人が多いため 悲観的なスキーマ(個々のもつ信念)を持ちやすく 認知の歪みを引き起こす確率が高くなるのです

この、やっかいな「認知の歪み」のパターンは10種以上もあるそうで、春野さんが当時当てはまっていたと思えるパターンの一部がこちらです。

○ 恣意的推論  「仕事がうまく進まない この仕事はもう失敗だ…」
    証拠もないのにネガティブな結論を引き出してしまう
○ 個人化    「連絡がこない 私が何かやらかしたに違いない」
    本来自分に関係のないネガティブぼ出来事まで自分のせいにして者えてしまう 
○ ラベリング  「怒られた…私はダメ人間だ」
自分自身を説明するための包括的なラベル付けを行う
○ 「すべき」思考 「もっと努力すべき ミスは絶対に許されない」
   自身や他者の行動について「~すべき」または「~すべきではない」と決めつけること
○ 過度な一般化  「問題が解けない…私はいつもこうだ どうせ今回も試験に落ちる」
   わずかな出来事から広範囲のことを結論付けてしまう
○ 全か無か思考・完全主義  「失敗ばっかり私はこの仕事向いてないんだ」
   物事に白黒つけないと気がすまないこと 物事を完璧にこなそうとする傾向
○ 読心術思考   「あの人は私のことを嫌っている!」
      他者が自分について何を考えているかわかっていると根拠もなく信じていること


そして、春野さん、希死念慮にまで落ちこんだこともあったそうですが、その後当事者向けの認知行動療法に巡り会い、なんとか抜け出すことができたそうです。

その詳細は本書をお読みいただければ、と思うのですが、「ツールを使う」というところで、一番なるほどと思ったツールを一つだけ紹介します。
それは、今話題の生成AIを使うという方法でした。


考え事の整理をAIチャットに手伝ってもらう
   Q.  ○○と言われました 考えられる意図は?
   AI. いくつかの可能性が考えられます
        1.自分の安全を守りたいという気持ちから 他の人との関わりを・・・・・     


たしかに、こんな風に客観的にAIから可能性を答えてもらえると、知り合いに“非難された”という感情からの反発もなく、「認知の歪み」からの脱出も容易になりそうですね。

とても明るい作風で前向きになれる本なので、当事者の方にもお薦めしたいと思います。

本書はマンガですので読みやすく、若い方、ご本人にとってもハードルは低いのではないでしょうか。

そして、本書の最後のケース「危険な行動をとる」にある、性被害に遭いやすい(監修の中島先生によると、Barkley(2002)の研究では、ADHDの女性はそうでない人に比べ、避妊をせずに性感染症にかかる割合が4倍多く、20歳までに妊娠する確率が10倍高いそうです・・)、ことについては 育てる会の次回

12月7日(土)のセミナー、平木真由美先生の「自閉スペクトラム症の人の性と生」でも取り上げられると思いますので、詳しくお知りになりたい方はぜひご視聴ください。最後に宣伝でした。

 

            (「育てる会 会報 317号」(2024.9) より)


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目次

  はじめに

CASE 01 話の意図を汲み取れない
          【ASD傾向の特性】

CASE 02 失言する
          【ASD傾向の特性】

  中島美鈴先生 memo

CASE 03 後先考えない行動をとる
          【ADHD+ASD傾向の特性】

CASE 04 ちょっとした言葉を攻撃と感じる
          【二次障害の影響】

CASE 05 人との距離感がおかしい
          【ASD傾向の特性】

  中島美鈴先生 memo

CASE 06 融通がきかない
          【ASD傾向の特性】

CASE 07 連絡をしない
          【ADHD傾向の特性】

  中島美鈴先生 memo

CASE 08 自覚なく人を不快にさせてしまう
          【ASD傾向の特性】

CASE 09 人の話をちゃんと聞けない
          【ADHD傾向の特性】

CASE 10 思い込みが激しく感情が暴走しやすい 〈前編 〉
        思い込みが激しく感情が暴走しやすい 〈後編 〉
          【認知の歪みの影響】

  中島美鈴先生 memo

CASE 11 嘘をつく
          【ADHD傾向の特性】

CASE 12 理想が高すぎる
          【コミュニケーションの特徴】

CASE 13 危険な行動をとる
          【ADHD+ASD傾向の特性】

  中島美鈴先生 memo

  おわりに