中途半端な時間だったのに混んでいて、店内は満員だったしオープンテラスも最後の席だった。
隣のテーブルには、威勢のいい関西弁で話す壮年男性と青年がいて、彼の声がかき消されそう/彼との話を聞かれたら少し恥ずかしいなと思った。
でも彼も思ったより大きな声で話していて、それに、周りに聞かれたら恥ずかしいような話しにはならなかった。
2時間半くらいそこにいて、お互いの仕事の話しや今後の展望、それに彼は赴任先での生活を話していた。
彼にしては珍しく、なんとなく日本に帰ってきたいと思っているような雰囲気を感じた。
日本にいる最終日だから感傷的になっているのかもしれない。彼がずっと憧れていた場所に赴任できてあんなに喜んでいたのだから、と、私は黙って聞いていた。
彼がずっと日本にいたら会いたい時に会えていいけれど、彼の人生に私は一切口を出したくなかった。
そもそも彼とは“離れた”わけだし、それ以前に、相手が彼でなくとも、そういう大事なことに無責任に発言するのは好きではない。
庭園に続く屋外のテラス席だったので、道ゆく人との距離が近い。彼の肩越しに、ウェディングドレスとタキシードを着た若いカップルが歩いてくる姿が
見えた。私は彼に何も言わなかった。
(さっき地下鉄の駅の横で撮影していたカップルかと思ったが、ドレスのデザインが違うから、別のカップルのようだ。)
2人が私たちの横を通って歩いていくにつれて、今度は私の肩越しに、彼からウェディングドレスとタキシードの2人の後ろ姿が見えていたはずだ。彼も何も言わなかった。
この場所は、建物が重厚で独特の雰囲気があり、綺麗な庭園もあるので、ウェディングフォトを撮りにくる若いカップルが多いのだ。
そのうち彼は、持っていた撮影機器を出した。
「ねぇ、これ面白い撮り方ができるから試してみて?」
「はい。どうやるんですか?」
彼とホテルで会ってデモしてもらった時とは
違う機械だったが、あれよりは簡単で、
すぐにできるようになった。
色々と試している中で、ハイビスカスティーを透過した日光が、白いテーブル上で赤色の光になって揺らめいている様子、日光を正面から受けて肌がきらきらと光って見えている彼の顔、斜めになった時に渋い陰影ができた彼の顔を撮ったりしてみた。
ひと通り試して性能を堪能したあとに機械を返すと、今度は彼がそれを使って私の顔を撮影した。
「ちょっと、撮らないでください!」
「ふふっ どうして?いいじゃない?この前も思ったけど、tefeさんの眼って綺麗な茶色なんだよね」
「そうなんです、わたし色素が薄いんですよ。髪の毛も、肌も。」
「そうだよね、肌も白いよねtefeさん」
「とにかく、見られたら悪いから写真は撮らないでください」
ビデオは撮られちゃったのに?などと言ってくるかと思ったら、さすがに両隣のテーブルに人がいたからか、その事は言い出さなかった。
そのうち日も沈んで寒くなってきたので、
店を出ることにした。
「僕、この後は用事があるのでタクシーで行きますね。」
「そうなんだ」
レストランがある庭園の敷地内の、綺麗な色のレンガ敷きの路面を歩いて公道に向かった。レンガ敷きの路面を歩いていると、どこか海外の街並みでも歩いているように錯覚する。
彼は、庭園の敷地が終わって公道に入る境目の、レンガ敷きの路面の最後の部分でぴたっと立ち止まった。身体を向き合わせる。
(なんか嫌なことを言われそうな予感がする…)
「僕、もう向こうに戻っちゃうけど、また会いましょう」
「…そうですね」
「次は年末年始になると思います」
「そうなんですね」
“離れた”はずの彼とは、会いたいとも思っていなかったはず。なのに会ったらセックスが濃厚すぎた。
かと言って彼と継続的にどうこうなりたいと思ったわけではない。彼の赴任先まで追いかけるような気分になったわけでもなかった。
帰国前に会いたかっただけで、何かの約束が欲しかったわけでもない。
“また会いましょう”とか“次は年末年始”と言われて
私は嬉しいのか嬉しくないのか、なんだかよく分からない複雑な心境になっていた。
そんな私たちの横を、ウェディングドレスを着た外国人カップルが通り過ぎていった。今度はマーメイド型のタイトなデザインのドレスだった。
今日、これで3組目だ。
はっきりした約束は特にせず、
この前の別れ際と同じような眼差しを交わして、
私たちはそこで別れた。
別れ際のキスはなかった。
▶︎(プロフィール画面の、フォロー中•フォロワーの数字の近く)→「すべての記事」→「テーマ別」に進むと、分類があります![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
このブログの構成についてはこちらをご覧ください。
↓↓








