彼の今回の日本出張はほんの数日で、
その初日に彼とホテルで9時間も過ごした。
(数ヶ月前に“別れた”ので、セックスするつもりはなかったのに結局かなり盛り上がってしまった。)
彼が日本に帰国している最後の日、
私は、まだ明るいうちに仕事が終わった。
(今日、もう飛行機に乗って日本からいなくなっちゃうんだよなぁ…)
(彼とは離れたはずなんだし、関係を継続する気はないんだから、放っておくべきだよね)
職場から最寄駅に向かう最中も、地下鉄で家に向かう途中も、あれこれ逡巡していた。
(こんなに天気が良い日に早く帰れるなんて。買い物にも行けちゃう。)
離れたはずなのに、つい会ってしまってホテルで
9時間も一緒に過ごしてしまった日のことを、
また“魔が差した”ということにして、
スルーしてもよかった。
スルーすべきだったのかもしれない。
以前、オンライン同棲状態で濃密に過ごしていた頃は、普段の他愛もないこともさんざんやり取りしていたし、長距離ドライブの前後や
空港からどこかに行く時などは
必ずお互いメッセージを送り合っていた。
もし事故とかに遭って死んじゃっても、
この関係だと相手が死んじゃったことを
ずっと知らないかもしれないから悲しいね、とか、
もし事故に遭って死にそうになったら、
死ぬ間際に少しでも思い出してね、などと
半分は冗談、半分は本気で言い合ったりしたこともあった。
今回、念のためにメッセージアプリを確認したけれど
空港で飛行機に乗るはずの彼からは、
何のメッセージも来ていなかった。
(…これでいいんだ。
前みたいな関係はやめるって決めていたんだから、
お互いどこに行こうが連絡する必要はない。)
けれど、いつ何が起きるか分からない世の中だし、
時間はどんどん先に進んでしまうので、
やっぱり思ったことは素直に伝えておこうと思った。
“また会えなくなってしまうのは寂しいです”と
シンプルなメッセージを送った。
日本を発つ前のお別れの挨拶のつもりで。
すると、瞬時に“今からお茶しませんか?”と
返事が来た。
“え、今日が日本にいる最終日でしょ?
空港に行く時間とか大丈夫なんですか?”
“大丈夫ですよ。飛行機に乗るのは明日だから。”
“そうだったんだ!じゃあお茶しましょう”
仕事が終わったのがかなり早い時間で、私は家に向かって電車に乗っていた。彼もちょうど遠くない場所でお土産を買っていたところだというので、
20分後に地下鉄◯◯駅の△番出口で待ち合わせることにした。
私の方が先に着いて、地下鉄から地上に出た。
雰囲気がある街並みで、荘厳な外壁のビルが並んでいるエリアだ。地上に出たところに地図の看板があったので、近くに行って眺めていた。
地図の看板の前に立ち、そろそろ彼がくる頃だなと思って地下鉄に続く階段を振る返ると、
ウェディングドレスとタキシードを着た若いカップルるが、ギリシャの神殿風の外壁の前でカメラマンに写真を撮ってもらっている姿が目に入った。
純白のドレスが目に眩しい。
初々しくてとても幸せそうだ。
するとそこに、地下鉄から地上に続く階段を登ってきた彼が現れた。
私から見たら、視界の右端にはウェディングフォトを撮っているカップルが、視界の左端には地下から登ってくる彼が見えていた。そして階段を登り終えたあたりで彼もウェディングフォトを撮っているカップルに気づいたようで、スローモーションのように顔を若いカップルに向けながら私の方に近づいてきた。
「ごめんね、先に来てたんだ」
「いえ、こちらこそ急にすみません」
「また会えて嬉しいよ。今日は仕事早く終わったんだね」
「はい、今日が飛行機に乗る日かと思っちゃってて、最後の挨拶のつもりでメッセージしたんです。でもまた会えて嬉しい」
メッセージのやり取り中に決めていた、
庭園の中にレストランや喫茶店が
集合しているエリアに向かった。
平日のご飯どきではない時間帯なのにけっこう混んでいた。
オープンエアのテラス席に席をとり、注文をした。
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