「ターミネーター」1作目は「未公開シーン」で物語に化学変化が起きる! | 映画復元師シュウさんのブログ

「ターミネーター」1作目は「未公開シーン」で物語に化学変化が起きる!

今回も「ターミネーター究極試写版」のお話。

未公開シーンは、たった8分程度だけれど、それが組み込まれるだけで、物語が化学変化を起こすというのが今回のテーマだ。

 

現在、未公開シーンを本編の”あるべき位置”に戻す作業を続けているが、未公開シーンの白眉は、これまでも触れてきた、カイルたちが爆薬を作っている「理由」だ。

 

まずは、そこを掘り下げて考察してみたい。

 

カイルが爆薬を作る理由は、「サイバーダイン社」の工場を破壊するためだったということが、スクリプトの初稿では触れられている。

ところが、実際の撮影台本や映画本編からはキレイサッパリと消え去っている。

だから、映画を観ただけだと、爆薬は、ターミネーターを葬る武器としか考えられない。

 

しかし、未公開シーンには、「爆破の理由」を”仄めかしている”シーンがあるのだ。

 

1:サラが電話帳に載っている「サイバーダインの住所」を発見する。

 

2:その住所を基に、サラは、サイバーダインの工場を破壊しようとカイルに進言。

  結局カイルも渋々と承諾する。

 

そして、未公開シーンでは、映画のラストのターミネーターを葬った後に登場する重要な2カットがある。

1:工場の中で、2人の技術者が、謎のマイクロチップを発見するカット。

 

2:サラが救急車に乗って立ち去ると、カメラが工場の看板を映す。

  そこには「サイバーダイン・システムズ」の文字が。

 

これらのシーンが本編に組み込まれると、物語後半に化学変化が生じるのだ。
まずは、組み込んだ上で、流れを箇条書きにしてみた。

①サラとカイルは、今のうちにサイバーダイン社の工場を破壊しようと決意する。(※未公開シーン)
②場面転換すると、カイルとサラは爆薬を作り始める。

③ターミネーターが襲来して、サラたちは逃げる。

④カイルは、作った爆薬で応戦する。

⑤とある工場まで逃れたところで、ターミネーターと激闘の末、カイルは死亡。

  ターミネーターはプレスでつぶされる。

⑥工場の技師がマイクロチップを発見、研究所に回す。(※未公開シーン)
⑦サラは救急車で病院に運ばれ、工場の看板が大写しに。(※未公開シーン)

  そこには「サイバーダイン・システムズ」の表記がある。

⑧サラは、ジョンをお腹に宿しながら、今後に向けての決意を「テープ」に吹き込み、メキシコへ去る。

 

いかがだろうか?

 

「①」と「②」の間に、サイバーダイン社を破壊するために爆薬を作っている、という説明が無いから、何のために爆薬を作っているかが、分かりにくい。

 

そして、「④」と「⑤」の間では、サラたちが、「サイバーダイン社の工場に向かっている」という状況説明がないので、やみくもに逃げ回って、なりゆきで何かの工場まで来てしまった…という印象を受ける。

 

ところが、「⑥」と「⑦」のシーンによって、「ああ、サラたちはやみくもに逃げていたんじゃなく、サイバーダイン社をつぶす目的を持ってこの工場に来ていたのね。」と、伏線回収につながる流れなのだ。

 

正直言って、やや回りくどいし、伏線が分かりにくい印象を受ける。

そういう意味では、実際の映画で、全てを削除して、物語をシンプルにしたのは良かったのかもしれない。

 

だが、これらのシーンが加わると、以下のことが判明する。

1:すでに、この1作目の段階で、サラはサイバーダイン社を破壊しようと考えていた。

2:爆薬を作って、破壊するために工場に向かった。

3:結局、工場の破壊は失敗になった。

4:皮肉にも、工場にターミネーターを招き入れ、ターミネーターのチップを工場側に渡す事態も招いてしまった。

 

このようにストーリーが変化する。

 

つまり、1作目のもともとのコンセプトでは、「サイバーダイン社の破壊は失敗していた。」ということが、物語の核心だったのだ。

変えようがない未来だからこそ、映画のラストでサラは、運命を受け入れる決意を固め、力強くジープを走らせたのである。

 

この流れで行けば、物語の悲壮感が増し(なんせ、自分たちがターミネーターを工場に引き込んじゃったのだから)、運命を受け入れた「覚悟」が、より画面から伝わってくると考えられる。

 

そして何より、サイバーダイン社の破壊がメインアイディアの「ターミネーター2」が作られたかどうか…。

 

おそらくキャメロン監督は、「運命を受け入れる」というテーマを描くなら、物語がややこしくなる「サイバーダイン社の爆破」というアイディアを削除しても、十分機能すると踏んだのではないか。

 

ちなみにキャメロン監督は、「ターミネーター」2枚組DVDセット(未公開シーン集のコメンタリー)で、「”爆破のアイディア”をとっておいたので、「2」を作ることが出来た。」と語っている。

 

 

興味深いのは、同じサーバーダインの破壊というアイディアを使いつつ、「1」では「運命を受け入れる」がテーマで、「2」では「運命は変えられる」と、テーマが変容していることだ。

どちらのテーマも重要だし、いずれも「覚悟」が無ければ成しえないから、大切なメッセージだと思う。

 

まあ、今回の究極試写版では、「1」を本来の姿に戻して「2」以降が無かった(かもしれない)世界観にするので、”化学変化”によって、どんな物語と感じるかは、完成してからのお楽しみに!