”大人にされて嫌だったこと”~特定非営利活動法人ウィーズのスタッフブログより~ | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

【まずはリブログの記事】

 

上記ブログを読み,簡単にコメントするつもりが,やたら長いものになってしまった(汗)。

 

1.

 今,私は,渡辺義弘弁護士の論考を紹介する記事を連載しているが,その渡辺義弘弁護士の論考に引用されている本がある。

 

それでも僕らは生きていく―離婚・親の愛を失った25年間の軌跡 単行本 – 2001/8

著者のジュディス・ウォーラースタイン(wiki)から。

 

 ウォーラスタインがどういう研究をして,上記著書でどういう指摘をして,それに対して,原則的実施論を推進する日本の裁判官がどういうスタンスを取っているかは,渡辺義弘弁護士の論考を追いかけつつ紹介していきたい。

 

 ポイントを要約しよう。要約不相当部分は当職の責任。

 

①原則的実施論を導いた家庭裁判所の調査官や裁判官の論考は,米国のウォーラスタインらの研究を支えに,以下のように述べる。

 

 「我が国及び海外の心理学の諸研究からは,一方の親との離別が子にとって最も否定的な感情体験の一つであり、非監護親との交流を継続することは子が精神的な健康を保ち,心理的・社会的な適応を改善するために重要であるとの基本的認識が認められるなど,子の福祉の観点から面会交流を有益なものととらえる意識が社会の中の定着しつつある」

 

②他方,米国その他で共同親権・共同監護を進めた国では,その後の追跡調査から,共同親権・共同監護の推進に対する揺り戻しが始まっている。例えば,ウォーラスタイン自身,追跡調査の結果を踏まえ,以下のように,指摘する。これらの指摘は,極めて当たり前の指摘だ。

 

「ある年齢の子供にはうまくいくものがその子供の別の成長段階に移行すれば有害になる場合もある。すべて子供や家庭に適用する協定などないのだ。子供を頻繁に行き来させる共同監護協定は、両親が対立している子供にとっては有害なものだ。二つの戦場の間を行き来する子供たちは,肉体および精神に変調をきたす。こうした子供たちは苦しみ、彼らの順応力は急激に低下する。」

「両親の仲がうまく行っている離婚家庭の子供にとっては有益なものになりうる。」

「共同監護が役立つ子供もいれば、そうでない子供もいるということだ。」

「一つの規範がすべての子供にあてはまるはずはないのだ。」

「物を言うのは,親の精神状態と親子関係の性質,両親の協力体制,そして子供の年齢と気性と順応力である。」

 

③日本の家庭裁判所は,それまではウォーラスタインを権威として紹介し,あがめ奉り,原則的実施論の論拠としてきた。しかし,ウォーラスタインが,25年目の追跡調査研究の発表は,東京家裁の原則的実施論方針発表者が面会交流の効果として考えている内容とは逆であった。すると,東京家裁の同方針発表者は,ウォラースタインらの研究は「比較対象の統制群がない」「母集団に偏りがある」「臨床的な描写にすぎず客観性がない」などとの批判が存在することを述べた。渡辺義弘弁護士には,その姿勢は,あたかも家裁調査官の世界が,それまでウォラースタインらを讃美していた過去を弁解しているように映る。

 

2.

 面会交流について,特に激しく争われるケースの追跡調査はとても重要だ。そこでは,「振り返り,物を言えるようになった子どもらの声」に耳を傾けるべきだろう。

 面会交流を,当の子が,有益と受け止める場合もあれば,有害と受け止める場合もある。

 そのことは,ずっと前のFPICの調査でも指摘されていた。

 以前,このブログで,『離婚した親と子どもの声を聴くー養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究』(FPIC)を取り上げて17に及ぶ記事を書いた。

 

1 面会交流について悩んでいるお母さんたちへ
2 『離婚した親と子どもの声を聴くー養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究』から
3 監護者母の場合の父との面会交流,子の評価①~人数,割合の紹介 
4 監護者母・父との面会交流ありの場合の子の評価~子の声の紹介① 
5 監護者母・父との面会交流なしの場合の子の意見~子の声の紹介②
6 監護者母・父との面会交流あり・なしの子の意見について~私が感じたこと
7 監護者父の場合の母との面会交流,子の評価②~人数,割合の紹介
監護者父・母との面会交流ありの場合の子の評価~子の声の紹介③
監護者父・母との面会交流なしの場合の子の評価~子の声の紹介④-1 
10 監護者父・母との面会交流なしの場合の子の評価~子の声の紹介④-2
11 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと①
12 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと②
13 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと③
14 監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論①
15 監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論②
16 監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論③
17 監護者母・親権者父の父との面会交流ありの子4人の声

 

子どもらの声を聴くということ,追跡調査の重要性。今更,私が指摘するまでもない。日本においてこのような追跡調査が立ち後れ,それをすべきことはずっと前から言われ続けている。

 

3.

 さらに,面会交流支援の現場の声も極めて重要だ。

 

渡辺義弘氏の論考を収めている 

 

『子ども中心の面会交流―子どものこころの発達臨床・法律実務・研究領域から原則実施を考える』においても,

 

第8章 

臨床心理士,面会交流援助者からみた面会交流原則実施論

 山口惠美子(公益社団法人家庭問題情報センター常務理事/臨床心理士)

 

の論考は,本当に,考えさせられる。

 

FPICの支援の現場から見た面会交流の現状。この第9章は,家裁の裁判官,調査官,調停委員に,是非とも読んでほしい

 ・・・簡易迅速に「家裁マターから外せばいい」ってもんじゃないんだから・・・

 

面会交流支援の重要性なんてことも,ずっと前から言われ続けてきたことだ。私もこのブログで書いたことがあった。支援組織,支援の枠組が育っていない中で,現状,家裁の調停運用を使って継続的な支援を実現できないかと考えたものだった。

 

DVと面会交流(5) 要素その4 母親の回復を促進し,子どもの心の負担を軽くする バンクロフト&

 

★★引用開始★★

4.
 私は,監督つき面会交流の制度が存在しないこの日本において,家庭裁判所が,面会交流の子どもにとっての重要性を強調するのであれば,面会交流の調停は,1年か2年くらい係属させて裁判所が関与する中で息の長い取組をしてほしいなぁと心から思います。

 月1回2時間程度の面会交流をさせるという合意が成立すればOK,あとは当事者同士でどうぞ~というような姿勢ではなくてね。

 1年か2年くらい裁判所が関与する中で,別居や離婚後の同居親と子の生活の安定,同居親と子の回復の進み具合を確認して,その進行に合わせて,面会交流を,コントロールされた状態で開始するのがよいと思います。
 そして,毎回の調停の期日で,その面会交流が子に及ぼす影響をきちんと評価しつつ,別居親,同居親の双方が,面会交流を実施してのプラス面や気がかりなことを話し合うチャンネルを用意して,次の面会交流に向けての別居親,同居親それぞれの課題を設定し,次の面会交流を実施していく。

 そういう取組みの中で,私は,裁判所には,初期段階では,同居親の回復を重視し,同居親に対して支援的な働きかけてを行っていってほしいと思います。
 このような取組は,子の利益のためであり,そして,長期的には,面会交流を求める別居親の利益にもなっていきます。
 この点は,こちら

5.
 別居や離婚して間が無く,生活も安定していない,子も落ち着いていないという状態の同居親に対し,別居親が要求しているから,面会交流は抽象的に子のためになるからと言って,面会交流に応じるように強いプレッシャーをかけるようなことは,子の福祉の観点からは,裁判所は,慎重になってほしいと私は思います。
 しかも,日本の裁判所は,監督つき面会交流なし,基本的に,月1回2時間程度,具体的方法は協議して実施という合意だけさだめて,その後は,勝手に当事者でやってくれというのが基本スタンスのように私には思われます。
 なんとも乱暴な話です。


★★引用開始★★

 

 私は,DVが背景にある難しいケースで面会交流を実施するのであれば,①監護親,②非監護親,③子のそれぞれに支援者が関わり,支援者らがケース会議を開いては,それぞれに関わっていくという継続的な支援があってほしいなぁと夢想したことがあります。

 

 日本のあちらこちらで,面会交流の支援に関わる現場の人たちの労苦に思いを馳せます。

 ボランティアの民間支援活動。それは,それでボランティアであることからくる美点もあるのでしょうが,本当に,日本全国に根づかせ,そして,低所得者でも用意に利用可能なものとするには,予算投入が必要です。税金を投入すべきなのです。

 

 同様の議論は,犯罪被害者支援の分野でもなされていました。まだまだ支援活動が貧弱であったころ,犯罪被害者への支援活動は,山上晧氏や大久保恵美子氏をはじめとする民間支援団体によって始まり,実際の支援は,多くの無償ボランティアによって担われていました。どの団体も,財源問題に苦しんでいました。

 

6.

 リブログの記事なのに,むちゃくちゃ長くなりました。

 

 面会交流の支援の現場で,思い悩みつづ,ずっと活動をしてこられた方々,そして,現在,その活動をされている方々,これからその活動をされる方々,そういう方々の声を媒介にして,子どもらの声を聴きましょう。

 そして,私は,そういう活動をされてきた方々,されている方々,しようという方々に,深く感謝したいと思います。