監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論③ | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

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石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

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このシリーズ
1 面会交流について悩んでいるお母さんたちへ
2 『離婚した親と子どもの声を聴くー養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究』から
3 監護者母の場合の父との面会交流,子の評価①~人数,割合の紹介 
4 監護者母・父との面会交流ありの場合の子の評価~子の声の紹介① 
5 監護者母・父との面会交流なしの場合の子の意見~子の声の紹介②
6 監護者母・父との面会交流あり・なしの子の意見について~私が感じたこと
7 監護者父の場合の母との面会交流,子の評価②~人数,割合の紹介
監護者父・母との面会交流ありの場合の子の評価~子の声の紹介③
監護者父・母との面会交流なしの場合の子の評価~子の声の紹介④-1 
10 監護者父・母との面会交流なしの場合の子の評価~子の声の紹介④-2
11 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと①
12 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと②
13 監護者父・母との面会交流あり・なしの場合の子の意見について~私が感じたこと③
14 監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論①
15 監護者母・父との面会交流補足,監護者母・親権者父という場合について~序論②

 前回記事で,『離婚した親と子どもの声を聴くー養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究』 (FPIC調査研究)の中の,監護者母,親権者父と親権者と監護者を分離した場合について,私は,大ざっぱな3つの分類で考えられるのではないかと指摘しました。
 この記事では,DV夫,モラハラ君が子を妻に対するコントロールのための道具として利用し,その一方法として親権主張する場合について,詳しくみていきたいと思います。


 まず,DVのケースでは,DV夫は,本当は離婚したくないという隠れた動機を隠蔽するために,妻が受け入れられない子の親権主張を強硬に行って離婚の紛争を長期化させる場合があるように思います。
 また子の親権主張を脅しとして行うことで,別の譲歩を妻に迫るという場合もあるように思います。
 子は物ではありません。
 実際に親権主張し,子の監護を父の方で行うこととなった場合,具体的にどのような監護実態になるのか?
 そこを全く考えていないで親権主張を行っているように思われるような場合は,子を物扱いし,妻に対するコントロール手段やプレッシャーのために親権主張を弄んでいるとしか私には思えません。

 このようなケースで,子の監護権者を母,親権者を父とする合意をしてしまうと,それは,まさにDV夫,モラハラ君の思うツボになります。
 子の養育というのは,もちろんそこに充実感もあるわけですけど,とても骨の折れる日常的な家事育児労働を積み重ねて行くことです。
 そういう骨の折れる養育監護を妻の方に押しつけつつ,他方で,親権者という強力が権限をDV夫が自分の手元においておき,その親権に基づいて,子を道具として利用することで,離婚後も元妻に対して強力なコントロールを及ぼしていくことが可能になります。


 『DVにさらされる子どもたち』(バンクロフト&シルバーマン・金剛出版)の中でも,「子どもを『武器』として利用する」という表題で,①同居中に子どもを「武器」にする,②別居後子どもを「武器」にするとして,DV夫が親権・面接交渉権をDVの強力な武器にして妻・母を脅す場合が少なくないことを指摘しています(同書73頁~77頁)。
 これはアメリカの研究を踏まえた記述であり,日本の場合でそのまま当てはまるものかという問題はありますが,参考までに,紹介しましょう。


 合法的に親権を獲得して子どもを奪ってやる,と脅す加害者も少なくない。しかも驚くほど多くのケースで,加害者はこの脅しを実現させている。第1章で述べたように,暴力をふるう男性は暴力をふるわない男性と比べて親権裁判を起こす割合が高く,また実際に裁判になった場合,勝訴することが多い(しもちゃん註・・・勝訴することが多いというのはアメリカの場合の記述であることに注意して下さい。)。



 子どもを武器として利用するという加害者の行動は,別居後にエスカレートすることもある。これは別居によって,相手を意のままにコントロールしたり脅したりする手段が減るためである。加害者の目的は復縁を迫ることとか相手への仕返しだが,いずれの場合も子どもは効果的な手段となる。たとえば,子どもに向かって,「ママが裁判所で命令をもらってきたから,パパはこの家に来ると牢屋に入れられてしまうんだ」「母さんが父さんに怒っているから,一緒に暮らせないんだよ」「ママは今,他の男とセックスしているから,パパをこの家に入れたくないんだ」などと言う。別居の原因が自分の暴力や虐待にあることを,子どもの前で認める加害者はまずいない。なかには事実を歪めることによって,別居したのはママのせいだと子どもに母親を非難させ,自分が家に戻れるように圧力をかけさせる者もいる。暴力が極端にひどい場合を除いて,子どもは一般に別居した父親を恋しがり,家に戻ってきてくれるよう願っている。ほとんどの被害女性は,いざ加害者と別居しようというときに不安やためらいを感じるが,こうした母子間の齟齬や緊張はそれをいっそう増幅させる。私たちのクライアントのパートナーにも,一時期別居したものの,子どもからの圧力で加害者のもとに戻ったという被害女性が何十人もいる。
 加害者が,元パートナーとのコミュニケーションの手段として子どもを利用することもある。被害女性が保護命令を得ていたり,その他の手段で加害者と接触したくない意思を明らかにしている場合には,この戦略がとくに大きな意味をもつ。私たちが受けもったある加害者クライアントは別居前,妻に「おまえを愛している。死ぬまでな。おまえが他のおとこのものになることなど絶対に許さない。俺たちは一緒に死ぬんだ」と言った。別居後,彼は子どもに「ママに,いつまでも愛していると伝えてくれ」と言ったが,子どもにはこのメッセージの隠れた意味に気づくはずもなかった。
 別居後,以前からあった加害者の親としての問題行動がさらに悪化することも多い。これは,多くの加害者に共通する復讐しようとする性向や,元パートナーの目が行き届かなくなることなど,これまでみてきた理由による。そのためこの時期には,母親の権威をおとしめる,子どもを母親に反抗させる,子どもを引き離すと脅す,といった行動が顕著になることがあり,さらには気まぐれに子どもと面会しようとする,仕返しや威圧の手段として親権や面接交渉権の訴訟を起こす,途方もない出費や大きな約束をして子どものご機嫌をとる,といった行動がみられることもある。母親が新しい男性とつきあいはじめると,新しいパートナーに子どもを反抗させる,根拠のない児童虐待の通報をする,親権裁判を起こすなど,子どもを利用して邪魔しようとすることもある。母親失格だと証明して子どもを取り上げてやる,と言って被害女性を脅す加害者も多い。別居後の加害者にとって,親権や面接交渉権の裁判を起こすと脅したり,実際に提訴することは,自らの支配権を維持するためのきわめて重要な手段となる。



 以上を踏まえて,もう一度,先のFPIC解説を読み返してみましょう。

☆☆☆引用開始☆☆☆

離婚には合意しても子どもの親権を主張したり,監護をめぐって対立する場合に,子どものためというよりも,離婚という結論を優先しようとして親権と監護権を分けてしまうことがある。そのような妥協をしてしまうと,離婚後の新たな紛争要因になりかねない。

☆☆☆引用終了☆☆☆

(1)
 FPICは,はっきりと,監護者母を承認しつつ親権主張を捨てない夫・父の姿勢こそが離婚の形を大いに歪めてしまっていることを指摘すべきです。
 離婚後に監護者となった母は,本来は,親権主張したはずです。それを引っ込めて「妥協」せざるを得なかったのは,夫・父が強硬に親権主張しているからでしょうに。
 「子どものため」を考えていないのは,第一に,夫・父の方であって,そういう夫・父の強硬な親権主張に対し,妻・母は,親権断念という苦渋の選択をしているわけですよ。
 それをですね,まるでそういう選択に追い込まれた妻・母の方が「子どものため」を考えていなくて,離婚優先で安易に妥協したかのような印象を読者に与えてしまうFPICの書きぶりは,私は,読んだときにちょいとした憤りを感じましたね。

(2)
 FPIC解説の,「離婚という結論を優先しようとして親権と監護権を分けてしまうことがある。そのような妥協をしてしまうと,離婚後の新たな紛争要因にもなりかねない」という部分。
 
 DVのケースでそのような親権者と監護権者の分離という状態になってしまったのなら,そのようなケースで上記のように言っちゃうのは,DV被害者である妻・母に対しては,かなり問題が大きい。
 私は,このようにお伝えしたいです。

 DVの場合,夫・父がDVの手段として子を道具利用し,親権主張を武器に使うという卑劣な脅しをする場合がある。
 そのような場合,DV被害者である妻・夫は,これまでのDVの恐怖や別居後も延々と続くDVの脅しの中で,とにかく離婚を優先したいという心理状態に追い込まれていくことがある。追い込まれた妻が親権者と監護権者を分離するという方法で離婚を優先した場合,それは,子の福祉に反する結果となることが多いし,離婚後も,DV夫が,子の親権者として,子を道具として利用して元妻への支配を及ぼすというDV夫の卑劣な企みを許すことになりかねない。
 もちろん,真の問題は,そのように子をDV道具として利用するDV夫の側にある。
 別居後もDV夫からの攻撃にさらされ続けるDV被害者の妻は,ほんとうに大変な状況ではあるが,親権者と監護権者の分離というのは問題がとても大きいということを理解し,なんとかDV夫の攻撃に屈することなく,子の親権を主張し続けていただけたらと思う。そのためにも,安全と安心の確保,経済的基盤の確保が重要なのだが,この点でも,DV被害者の妻・母は,多くの困難の中にある。そういう困難の中でも,なんとかやり遂げていただけたらと願わずにいられない。
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