普通人の映画体験―虚心な出会い -34ページ目

普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年1月25日(木)「ココロヲ・動かす・映画館○」(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-15、JR吉祥寺駅北口徒歩約5分)※で、16:30~鑑賞。

作品データ :
表題 THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY ― リミット・オブ・スリーピング ビューティ- 
製作年 2017年
製作国 日本
配給 アーク・フィルムズ
上映時間 89分




「SLUM-POLIS」などの自主映画で注目を集めてきた二宮健監督が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015で審査員特別賞を受賞したインディーズ作品『眠れる美女の限界』を、商業映画デビュー作としてセルフリメイク。サーカス団でマジシャンの助手を務めるヒロインが、妄想と現実の境界をさまよう姿を描く。主演は『フローレンスは眠る』などの桜井ユキ。彼女の恋人をTVドラマ「民王」シリーズや『blank13』などの高橋一生が演じるほか、成田凌、山谷初男、満島真之介らが共演する。

ストーリー :
小さなサーカス団でマジシャンの助手をしている29歳のオリアアキ(桜井ユキ)。女優を夢見て上京して10年。サーカスに入団した頃は若く美しかった彼女も、30歳を目前に、生きる目標を見失い、モラトリアムな日々を過ごしていた。ルーチンワークのように繰り返されるのは、催眠術にかかるという演技。体を浮かされ、剣に刺され、催眠状態を演じているうちに、やがてアキの精神は徐々に摩耗し、いつしか現実と妄想の境界が破綻を迎えようとしていた。何故生きるのか?何を夢見たのか?何を目指すのか?自分が生きてきた人生の過去の疑問と屈折ばかりがアキの中を駆けめぐる。唯一、アキの中で美しい思い出として残るのは、恋人・カイト(高橋一生)との時間だった。そして、二つの世界の境界が壊れるとき、アキの人生の再生が始まる…。

▼予告編



■私感 :
本作のオフィシャルサイトhttp://sleepingbeauty-movie.com/ のINTRODUCTIONによると、
≪映画界が大注目する若き才能が作り上げた作品は、かつて誰も見たことがないほど挑発的で衝撃的。/正に商業映画界に奇襲を仕掛ける作品が誕生した。/現実と妄想の目まぐるしい交錯を描く本作の脚本を手掛けたのも二宮健。緻密に構成された交錯劇が、否応もなく観るものを別世界へといざなう。/若干25歳の若手監督・二宮健は、中学時代から40本以上の自主映画を作りつづけ、『SLUM-POLIS』(15)、『MATSUMOTO TRIBE』(17)など、発表される作品が立て続けに注目を浴び、本作が満を持しての商業映画デビュー作となる。/過去と現在、現実と妄想。/観る者を縦横無尽の世界に引き込み、その視線をはずさせない力強い映像で綴るのは、人間の根源に迫る骨太のヒューマンドラマ。そして、オリジナル脚本と緻密な映像で見せる高揚感に満ちた世界観は、絶望の先に見える新世界を予感させる。≫

( ´,_ゝ`) プッ、言いも言ったり!
映画界が大注目する若き才能…、かつて誰も見たことがないほど挑発的で衝撃的な作品…、現実と妄想の、緻密に構成された、目まぐるしい交錯劇が、否応もなく観るものを別世界へといざなう…、絶望の先に見える新世界を予感させる、人間の根源に迫る骨太のヒューマンドラマ…。
ここには、例によって例のごとく、必要以上に誇大に伝える日本映画業界特有の宣伝文句(美辞麗句)が並んでいる(cf. 本ブログ〈September 18, 2015〉 本ブログ〈November 15, 2015〉 )。

これは、問題外のB級映画である。
映像、音楽、プロットすべて、手垢にまみれた、どこかで聞いたもの、見たようなものばかり。新しい発見のない既視感を覚えるイメージの連続!鋭く切り込まれ、深堀りされたテーマは一切なし!俳優たちの演技に引き込まれて心に残るようなシーンも見いだされず!
本作のキャッチフレーズは、何と「オリアアキ29歳―それでも世界は、素晴らしい。」 観るに堪えない空疎なものに何たる惹句、まさに噴飯のいたり!

それはともかく、私が今回初めて入館した「ココロヲ・動かす・映画館○」について触れておきたい。
同館(通称ココマルシアター〈COCOMARU THEATER〉)は、「ココロヲ・動かす・映画社◯」が運営する3階建てシアター&カフェで、昨年10月21日(土)、吉祥寺にグランドオープン。COCOMARU THEATERが新設され開業中である事実を私自身が初めて知ったのは、今年1月中旬になってからのこと。早速、逸(はや)る心を静めながら、同館に足を運び、1F映画館(34席)で今回の映画(『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY ― リミット・オブ・スリーピング ビューティ-』→『女神の見えざる手』の2作)鑑賞となった(此度〈こたび〉のココマルシアター行きは、『女神の見えざる手』鑑賞を目的とするものだったが、たまたま時間潰しに『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』を観た次第)。

吉祥寺~「サン・ロード」というアーケード商店街の北端~には、かつて私が頻繁に出入りした「吉祥寺バウスシアター」という老舗映画館~前身は1951年に開館した「ムサシノ映画劇場」~が存在した。幅広い作品(ロードショー+単館系作品)を上映し、落語や音楽ライブなども行なう劇場型シアターとして多くの市民に親しまれた同館も、はなはだ残念なことに、2014年6月10日をもって閉館、「63年」の歴史に幕を下ろした(cf. ブログ〈「映画」再訪〉記事〈映画『ラブリーボーン』〉)。
下矢印 cf. 吉祥寺バウスシアター~地域情報動画サイト「街ログ」(2008/05/07 ) :

下矢印 cf. 吉祥寺バウスシアター ~2014年3月の時点の画像 :

  (チケット売り場)                          (入り口)

  (サンロード側から見たところ)                 (上映中の『ロボコップ』『ネブラスカ』『MUD マッド』ポスター) 
私は『MUD マッド』(2013年、ジェフ・ニコルズ監督)を2014年3月6日(木)13:00~に、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013年、アレクサンダー・ペイン監督)を同年同月15日16:10~に、『ロボコップ』(2014年、ジョゼ・パジーリャ監督)を同年同月同日18:30~に、それぞれ鑑賞。ちなみに、私が同館で最後に観た映画は『ブルージャスミン』(2013年、ウディ・アレン監督)で、2014年5月14日(水)16:45~のこと。

COCOMARU THEATERの公式サイト https://www.cocomaru.net/の「劇場案内」によれば、≪映画を観終わったあとの感想会や、新鋭映画監督を支援する自主映画企画発掘イベントなど、様々な試みに挑戦していきます。上映ラインナップは、ココロヲ・動かす・映画社○配給作や話題のロードショー作品。さらに企画特集上映なども行います。≫
また、同サイトの「支配人から皆様へ」によれば、≪子供のころから夢だった小さい映画館が実現しました。映画は私にとって人生そのものです。それをみんなで共有して、好きなもの同士感想を言い合える場所がほしかったんです。この映画館のコンセプトは、「いい作品との出会い、感動の出会い、人との出会い」です。/また、以前西荻窪に住んでいて、自分が20代の落ち込んでいるときに、バウスシアターや井の頭公園のゾウのはな子によって勇気づけられたことがありました。そうした過去もあり、カルチャーの街だった「吉祥寺」が今ちょっと寂しくなっているので、「映画館をこの街に」ということはこだわりがありました。今回、バウスシアターの本田様はじめ、関係者の方々にもご協力いただけたのは大変感謝しております。/この映画館が、業界の発展に貢献し、吉祥寺の街の良さを伝えていく発信地の一つとなればと願っています。≫

ココマルシアターという「こぢんまりとした映画館」には今後、吉祥寺バウスシアターの正当な後継者の地歩を固めることが期待される。私はひたぶるに願ってやまない。同館が取り扱うべき映画作品は、可能なかぎり吉祥寺バウスシアターの上演作に勝るとも劣らない、観客を思い切り多角的に楽しませる諸作品~佳作・傑作・名作・力作・労作・快作・問題作~であってほしい、と。

下矢印 ココロヲ・動かす・映画館○ :
2018年1月12日(土)吉祥寺プラザ(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-19、JR吉祥寺駅北口サンロード突き当たり左)で、15:40~鑑賞。

作品データ :
原題 KINGSMAN:THE GOLDEN CIRCLE
製作年 2017年
製作国 イギリス
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 140分


『キック・アス』(2010年)の気鋭マシュー・ボーン監督による、世界的ヒットを記録したイギリス製痛快スパイ・アクション『キングスマン』(2014年 本ブログ〈September 29, 2015〉)の続編。世界的麻薬組織にアジトを破壊された諜報機関“キングスマン”のエージェントが、アメリカ諜報機関の協力を得て、巨悪に立ち向かっていく姿を、スタイリッシュにして過激なアクション満載に描く。出演はコリン・ファース、タロン・エガートン、マーク・ストロングら前作のキャストに加え、チャニング・テイタム、ハル・ベリー、ジェフ・ブリッジス、ジュリアン・ムーアら豪華キャストが新たに参加。先端からナイフが飛び出る靴やライター型手榴弾、カバンと一体化したライフル銃など、スパイ映画ならではのガジェットも多数登場する。

ストーリー :
“キングスマン”は表向きこそロンドンの高級テーラーながら、秘められた素顔は、どこの国家にも属さない諜報組織。そこがある日、サイコパス的ヴィラン、ポピー(ジュリアン・ムーア)率いる世界最大の麻薬密売組織“ゴールデン・サークル”の急襲により本部やメンバーを根こそぎ失ってしまう。生き残ったのは、以前スカウトされて腕を磨いたエグジー(タロン・エガートン)と、教官でありメカ担当のマーリン(マーク・ストロング)のみ。孤立無援の二人は敵を追い、同盟組織の“ステイツマン”の協力を求めてアメリカへ渡る。しかし、表ではバーボン・ウイスキーの蒸留所と最高級のバーボンを提供する店を経営しているステイツマンは、英国文化に強い影響を受けたキングスマンとは対照的に、コテコテにアメリカンなチームだった。やがて、前作で凶弾に倒れたはずのエグジーの恩師、ハリー(コリン・ファース)も復活して、彼ら【英国マン&米国マン】は文化(ノリと価値観)の違いを何とか~意地やプライドをぶつけ合いながら~乗り越え、共闘していく。一方、上品な見た目に反して超サイコなゴールデン・サークルのボス、ポピーは、世界中の麻薬使用者を人質にした驚愕の陰謀を始動させていた。エグジーとハリーを筆頭とする、キングスマン+ステイツマンは、この“最強の敵”の陰謀を阻止すべく、破天荒な戦いをクレイジーに繰り広げる!
アップ ダウン
【ゴールデン・サークルの総帥ポピー・アダムズ (Poppy Adams)の“陰謀”】
ゴールデン・サークルはカンボジアの山奥に本拠地を置く、1950年代アメリカ文化に倒錯したサイコな女性ポピーが率いる、世界最大のドラッグ・カルテル。ヘロイン・コカイン・大麻・LSDとあらゆるドラッグを取り扱い、年商は2500億ドルに達している。
ポピーは時機の到来を思わせるある日、全世界のメディアをハッキングし、声明を発表、アメリカ大統領と交渉する。――世界中に流通する自社のドラッグに人工のウイルスを仕込んだ。このウイルス入りドラッグを摂取した者は、顔に青い斑点が出始め→躁状態で狂って踊り出し→筋肉が麻痺して目や鼻から血が吹き出て、最終的に死に至る。しかし、その症状を改善する治療用の解毒剤も開発している。何より要求したいのは、ドラッグの売買を全面的に開放して麻薬戦争を終わらせること、つまり“ドラッグ取引の合法化”と“ゴールデン・サークルの上場会社化”を推進すること。この要求に応じれば解毒剤を世界中に一斉に配布するが、応じなければドラッグを使う奴皆殺しで、このままでは数億人の人間をみすみす見殺しにすることになるだろう…。
ポピーは年来の悲願である、ドラッグ⇔ゴールデン・サークルの完全合法化を達成するために、世界中に毒(殺人ワクチン)をばらまき、麻薬常習者をはじめとする世界中の人々を脅す、とてつもない陰謀をもくろんだのだった。やがてゴールデン・サークルのドラッグを摂取した感染者が世界中に溢れ返り、病院へ訪れる人が殺到し、世界は混乱の渦の中に飲まれていく―。

▼予告編



▼ All Deaths & Action Under 14 Minutes Movie Mash Up :
(映画冒頭のロンドンタクシーが激走するカーチェイスや、さながら007映画のごとき雪山でのスペクタクルや、獰猛なロボット犬との戦いなど、マシュー・ボーン監督が紡ぐアクションシーンは、相変わらず練りに練ったアイデアが盛り沢山で、遊び心満載!)



キラキラ 劇中歌「Take Me Home, Country Roads」(邦題:「故郷に帰りたい(カントリー・ロード)」 :
【本作で主題歌的に流れるのが、「Take Me Home, Country Roads」。アメリカを代表するシンガーソングライターだったジョン・デンバー(John Denver、1943~97)が1971年に放った大ヒット曲である。同曲はオープニングにバグパイプ・アレンジで奏でられるばかりか、クライマックス・シーンで重要な役割を果たす。映画の終盤で、カントリー&ウェスタンが好きな知能派マーリン(マーク・ストロング)は、英国紳士の犠牲的精神の高貴さを物語るかのように、デンバーの「カントリーロード」を声高らかに歌いながらエグジーの身代わりとなって地雷で爆死を遂げる―。】


2018年1月5日(金)新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3-15-15、JR新宿駅東口より徒歩5分)で、18:35~鑑賞。



作品データ :
原題 Baahubali 2-The Conclusion
製作年 2017年
製作国 インド
配給 ツイン
上映時間 141分

日本公開 2017年12月29日

伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語を描いてインド映画史上歴代最高興収を達成し、日本でもロングランヒットを記録した歴史アドベンチャー大作『バーフバリ』2部作の後編。主人公シヴドゥが知る父バーフバリと母デーヴァセーナを巡る悲劇の物語と、裏切りの暴君バラーラデーヴァに戦いを挑むシヴドゥの復讐の旅路を壮大なスケールで描き出す。監督・脚本のS・S・ラージャマウリや主演のプラバース(シヴドゥと父バーフバリの二役)をはじめ、前作のスタッフ(撮影のK・K・センティル・クマール、音楽のM・M・キーラヴァーニら)やキャスト(ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、タマンナー、ナーサルら)が再結集。

ストーリー :
遥か遠い昔、インドに栄えたマヒシュマティ王国。自らが伝説の英雄バーフバリの息子であることを知ったシヴドゥ(プラバース)は、父の家臣カッタッパ(サティヤラージ)から、ある裏切りによって命を絶たれ、王座を追われた父の悲劇を聞かされる…。かつて、蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利を収め、国母シヴァガミ(ラムヤ・クリシュナ)※から王位継承を託されたアマレンドラ・バーフバリ(プラバース)は、自らが治めることになる国を視察するため、忠臣カッタッパと共に身分を隠して旅に出た。その途中、クンタラ王国の国王の妹デーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)と恋に落ちるバーフバリ。だが、王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)※が、バーフバリとデーヴァセーナの仲を裂き、バーフバリを王座から引き摺り下ろそうと卑劣な陰謀を企んでいた。やがて、王位を奪ったバラーラデーヴァは、バーフバリと生まれたばかりのその息子を亡き者にしようとする…。父バーフバリはなぜ殺されなければならなかったのか?母デーヴァセーナはなぜ25年もの間、鎖に繋がれていたのか?すべてを知った若者シヴドゥは、マヘンドラ・バーフバリを名乗り、暴君と化したバラーラデーヴァに戦いを挑む!

※50年前、マヒシュマティ王国を建国したヴィクラマデーヴァ王が急死し、時を同じくして王妃も病死する。後には生まれたばかりの王子アマレンドラ・バーフバリが残され、国務は王兄ビッジャラデーヴァの妃シヴァガミが代行することになった。これに反発する家臣の一部が謀反を計画するが、シヴァガミは家臣たちを取り込み謀反を防ぎ、首謀者たちはカッタッパに斬り捨てられる。ビッジャラデーヴァは息子バラーラデーヴァを王位に就けるように提案するが、シヴァガミは「バーフバリとバラーラデーヴァのうち、より優れた者を王位に就ける」と宣言する―。

▼予告編



▼ cf. 『バーフバリ 伝説誕生』(『バーフバリ』2部作の前編、インド公開:2015年7月10日、日本公開:2017年4月8日)ダイジェスト映像 :

2017年12月29日(金)新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3-15-15、JR新宿駅東口より徒歩5分)で、18:45~鑑賞。



作品データ :
製作年 2017年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 129分


『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの山崎貴監督が、同作の原作者・西岸良平(さいがん りょうへい、1947~)の人気コミック『鎌倉ものがたり』を実写映画化したファンタジードラマ。人と妖怪や幽霊が仲良く暮らす不思議な街・鎌倉を舞台に、急死した新妻の魂を取り戻すべく黄泉の国へと旅に出た主人公・ミステリー作家の冒険の行方と夫婦の愛をノスタルジックかつユーモラスに綴る。和装に身を包み多趣味なミステリー作家を堺雅人、年の離れた妻を高畑充希が演じる。そのほか堤真一、安藤サクラ、田中泯、國村隼、薬師丸ひろ子、三浦友和、中村玉緒らが出演。

ストーリー :
鎌倉に暮らすミステリー作家・一色正和(堺雅人)のもとに嫁いだ年若い妻・亜紀子(高畑充希)は、その生活に驚くばかり。道を歩けば、人間ばかりでなく、魔物や幽霊、妖怪や仏様、神様、貧乏神、死神(安藤サクラ)までも現われるのだ。ここ鎌倉は、どうやら人と人ならざるものたちがあちこちに仲良く暮らす街らしい。何千年も昔から妖気が溜りに溜まっていろいろな怪奇現象が起こるけれども、鎌倉では普通のことのようだ。
本業の小説執筆のかたわら、鎌倉警察の捜査に協力して魔物がらみの怪事件を解決する探偵としても活躍する夫・正和。彼はその上、鉄道模型収集やら熱帯魚飼育やら多趣味でもあり忙しい。そんな一色家に、実年齢130歳? の家政婦・キン(中村玉緒)、腐れ縁の編集担当・本田(堤真一)、果ては貧乏神(田中泯)が居座るなど個性豊かな面々が次々に現われ、騒がしい日々が続く。それは亜紀子の理想とはちょっと違うけれど、楽しい新婚生活ではあった。
しかし、正和には亜紀子に隠していた秘密があった。その秘密が原因で正和は結婚に疑問を感じて生きてきたようだ。正和はなぜ亜紀子を見初めたのだろうか?
ある日、病に倒れた正和が目を覚ますと、亜紀子の姿が消えていた。夫への愛にあふれた手紙を残して—。なんと亜紀子は不慮の事故で亡くなっており、黄泉の国(あの世)に旅立っていたのだ。失って初めて気づく妻・亜紀子への愛。正和は亜紀子の命を取り戻すべく、江ノ電に乗って自らも黄泉の国へと向かう黄泉の国へ向かう。そこで彼を待っていたのは、亜紀子を黄泉に連れ去った魔物たちとあの人の姿…。一色夫婦の命をかけたDESTINY=運命が、今動き出す―。

▼予告編

2017年12月23日(土)吉祥寺オデヲン(東京都武蔵野市吉祥寺南町2-3-16、JR吉祥寺駅東口徒歩1分)で、19:00~鑑賞。

作品データ :
原題 STAR WARS:THE LAST JEDI
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 ディズニー
上映時間 152分


SF映画の金字塔「スター・ウォーズ」サーガの「続3部作(Sequel Trilogy)」の幕開けとして2015年に公開され、世界中で大ヒットとなった『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(「エピソード7」 本ブログ〈January 18, 2016〉)のその後を描く続編(「エピソード8」)。伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーを巡り、帝国軍の残党「ファースト・オーダー」と、彼らに立ち向かう「レジスタンス」との戦いが繰り広げられる。主人公を演じるのは、前作で大抜擢を受けたデイジー・リドリー。ルーク・スカイウォーカー役には、前作で約30年ぶりにシリーズに復帰を果たしたマーク・ハミル。他にもカイロ・レン役のアダム・ドライバー、フィン役のジョン・ボイエガ、ポー・ダメロン役のオスカー・アイザックら主要キャストが全員続投。2016年末に急逝したレイア・オーガナ役キャリー・フィッシャーにとっては本作が遺作となった。新たなキャラクターとしてローラ・ダーン、ベニチオ・デル・トロ、ケリー・マリー・トランらが参加。監督・脚本は『BRICK ブリック』『LOOPER/ルーパー』などで頭角を現わしたライアン・ジョンソンが担当する。

ストーリー :
レイア(キャリー・フィッシャー)率いるレジスタンスは、ファースト・オーダーの猛攻に晒され、基地を手放し決死の脱出を図る。その頃、レイ(デイジー・リドリー)は「レジスタンスの希望」である伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)を連れ戻そうと説得を試みていた。あるトラウマから心を閉ざし、ジェダイの訓練を請うレイに対しても頑なな態度を崩そうとしないルークだったが…。
ついにフォースを覚醒させたレイを待ち受ける驚愕の運命とは?なぜ、ハン・ソロとレイアの息子カイロ・レン(アダム・ドライバー)が、ダース・ベイダーを受け継ごうとするのか?そして、レイアやストームトルーパーの脱走兵フィン(ジョン・ボイエガ)、パイロットのポー(オスカー・アイザック)、ドロイドのBB-8らレジスタンスの戦士たちの新たなるミッションとは?―知られざる秘密が明かされるとき、さらなる謎が生まれる!

▼予告編



▼メイキング映像

2017年12月23日(土)吉祥寺プラザ(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-19、JR吉祥寺駅北口サンロード突き当たり左)で、16:45~鑑賞(再見)。
同年12月8日、新宿ピカデリーで初見(本ブログ〈December 28, 2017〉)。



◆本作の監督兼主演を務めたケネス・ブラナー(Kenneth Branagh、1960~)にインタビュー (Real Sound 2017.12.15-『オリエント急行殺人事件』ケネス・ブラナーが語る新ポアロ像 「白黒つけられる時代ではない」) :
――本作の脚本を手がけたマイケル・グリーンは、『ブレードランナー 2049』『LOGAN/ローガン』など、これまでの作品でも人間の命をテーマに扱っていますが、『オリエント急行殺人事件』でも同様のテーマ性を感じました。実際に出来上がった脚本を受け取ったときの感想を聞かせてください。
ケネス・ブラナー(以下、ブラナー):まさにその通りで、グリーンは作家として、人間への洞察が鋭く深い人物なんだ。今回の脚本も、殺人事件をただの謎解きやパズルと見なすのではなく、人々の苦しみや痛み、情熱、人を失ったときの悲しみなどと結びつけたものになっていた。人間の感情を非常に理解しているところに、とても感動したよ。

――アガサ・クリスティの原作小説も、シドニー・ルメット監督が手掛けた1974年の映画版も世界的に有名な作品ですが、仕上がったものに自分の色を加えていくことについては、どんな意識で臨みましたか。
ブラナー:(ブラナーが演じた)名探偵エルキュール・ポアロが、“人間は、どれだけ獣より優れているのか”を追求するところに僕は惹かれた。物語の初めでポアロは、「この世の中は悪と善で分かれていて、中間などない」と言っているけれど、話が進むに連れてその信念は揺るがされてしまう。そういった部分を強調した映画にしたいと思ったんだ。ポアロはこの事件に関わったことで、人間の苦しみや悲しみ、正義というものを、時には踏みにじらなければならないということを学ぶ。以前と違う自分に変化することは彼にとって、複雑な過程で、その様相のなかでのポアロを描く点は、ほかのどの作品とも違うと思っているよ。

――ルメット版でアルバート・フィニーが演じていたポアロよりも、あなたのポアロはもっと人間味があると感じました。
ブラナー:もちろんアルバート・フィニーとは違うね。彼のポアロは40年前のもので、簡単に比較対象にはできないけれど、彼は彼なりの人間味がある力強く素晴らしい演技を見せていた。原作小説に“ポアロは首をかしげる“という表現があるけれど、アルバートは、駅に来るとき(少し大げさに首を振るジェスチャーを見せて)こうやってやっているんだ(笑)。アガサ・クリスティは33作の長編、50作の短編を書いていて、その中にも様々なポアロ像があり、100人の俳優が演じられるくらいのネタがあるんだ。そういう意味でアルバート版ポアロを非常に参考にした部分もあるね。僕の場合は、過去に失恋した女性カトリーヌの写真を出すといった、ロマンチックな部分を強調している。他のポアロで見るシニカルだったり、理想主義的だったりする部分も少し描いているし、様々な違いを見つけることができると思うよ。自分なりに考えて、ポアロ像を構築してきたんだ。

――最後にポアロが“選択”を迫られる場面もルメット版とは大きく違います。2017年という現在に、正義や人が生きていくということを描く意味として、この選択に行き着いたのですか。
ブラナー:この映画を通してポアロは、人間味のあるやり方について悪戦苦闘する。最終的に被害者たちの苦しみや痛みを認め、理解する一方で、“目には目を歯には歯を”という復讐の思想は動物的であるといった考えは持っていて、法の支配も信じて疑わないんだ。だから、事件は解決したけれど、彼の中では解決していないはずで、矛盾を抱えながらもポアロは列車を降りていく。人生を黒と白に分けることは不可能で、世の中はバランスよくできているものではないんだよね。

――本作のエンディングの方が、ルメット版より納得のいくものがありました。最後のカットも素晴らしかったです。
ブラナー:(最後は)ポアロが重荷を背負っていく心象風景を表したいと思った。原作小説は、“事件は解決した、これで終わり”という締め方で、オリジナル映画版ではシャンパンまで飲んでいる。でも、現代はそうはいかない。白黒はっきりつけられる時代ではない灰色の世界を、われわれは毎日生き延びているんだ。

――(『シンデレラ』『ハムレット』など)あなたの作品は豪華絢爛なイメージがあったのですが、今回の室内劇ということで、狭い空間でどう手腕を振るうのか興味がありました。
ブラナー:列車内というのは非常に限られた空間で、その中から外の風景をいかに効果的に使うかは考えた。終盤のシーンでは、絵画「最後の晩餐」を意識したワイドな見せ方もしたし、列車の外にある雪崩をしっかりと映して、映画全体の開放感にもこだわった。その一方で、列車内のカメラワークにも気を遣って、例えば、死体を乗客たちが発見するシーンでは、死体そのものをあえて映さず、観客達が乗客たちと同じ視点で見ていることを意識した。また、別のシーンでは、窓越しにカメラを置いて、人物の顔が三面に映るように撮ったカットもあって、嘘をついていることを表現したんだ。この映画には、そんな仕掛けがいくつも存在する。乗客たちの気持ちが落ち着かないのと同じように、観客たちをソワソワさせるカメラワークにしているんだよ。

――今回主役と監督を兼任しましたが、演技をしながら、監督として作品全体を見ていく必要がありますよね。両側面からのジャッジが求められていたわけですが、その点は?
ブラナー:撮影中に(ゲアハルト・ハードマン役の)ウィレム・デフォーから「ポアロは事件を演出し、あなたは映画を演出している」と言われたよ。確かにそうだよね(笑)。それに、ポアロを演じるために、9か月間を準備に費やしたのだけれど、僕の監督の仕方が次第にポアロに近づいていることに気づいたんだ。非常に几帳面なのポアロの性格が僕に乗り移っていたように感じたね。

――すでに本作のシリーズ化が決定していますが、次はどんなテーマを考えていますか。
ブラナー:先日、マイケル・グリーンがLos Angeles Timesのインタビューで、いかに『ナイル殺人事件』が若い頃の彼に影響を与えたかについて語っていた。僕もこの小説には非常に大きな影響を受けて、盲目的な恋愛にはどういう危険が及ぶのかという点が興味深かった。次回のテーマは、そういったものになるんじゃないかな。このシリーズが続いていくのなら、事件ごとにポアロのキャラクターは変わっていくはずだ。“ポアロはこういうときは必ずこういう行動を取る”という風に固定された人物ではなく、事件ごとに学び変化していくと思っている。そのほうが娯楽としてもおもしろいからね。やっぱり、愛をテーマにしたものが一番おもしろいと思う。多くの人は言わないけど、アガサ・クリスティの小説は実はセクシーで情熱的な部分もあるから、そこを開拓するといい題材になっていくと思っているよ。

丸レッドケネス・ブラナー監督作の本作(2017年版)は、1934年にアガサ・クリスティ(Agatha Christie、1890~1976)が発表した長編推理小説“Murder on the Orient Express”を原作としている。
原作は著者の長編としては14作目、「エルキュール・ポアロ」シリーズとしては8作目にあたる。日本語初訳は『十二の刺傷』(柳香書院刊、延原謙訳、1935年)の題名で刊行された。1932年に実際に起きた“リンドバーグ愛児誘拐事件”と、豪華国際寝台列車オリエント急行を組み合わせたセンセーショナルな内容と、その奇抜な結末から著者の代表作の一つに挙げられている。
なお、同作は戦後、『オリエント急行の殺人』または『オリエント急行殺人事件』の邦題で出版を重ねてきた。ex. 延原謙訳『オリエント急行の殺人』(早川書房、1954年)、蕗沢忠枝訳『オリエント急行の殺人』(新潮文庫、1960年)、古賀照一訳『オリエント急行殺人事件』(角川文庫、1962年)、久万嘉寿恵訳『オリエント急行殺人事件』(講談社文庫、1975年)、中村能三訳『オリエント急行の殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫、1978年)、茅野美ど里訳『オリエント急行殺人事件』(偕成社文庫、1995年)、安原和見訳『オリエント急行殺人事件』(光文社古典新訳文庫、2017年)、等々。

メモ 私がアガサ・クリスティの“Murder on the Orient Express”に初めて出会ったのは、大学1年の「英語」授業の時だった。
当時の私の見るところ、高校英語の延長である大学の英語授業は、基本的にレベルが低く、全体として馬鹿馬鹿しいほどに面白くない授業が多かった。唯一の例外が、アガサの同作を原文で読んだ一授業。それは原書購読ならぬ、教養英語の一環として小説のところどころを拾い読みする程度のものだったが、アガサの推理小説の予想外の面白さを知らせるに足る授業だった。
私は小中高時代、アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle、1859~1930)とエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe、1809~49)、両者の推理小説については、魅力に憑かれて、くまなく読み漁っていた。
そして今度は大学時代を通して、『オリエント急行殺人事件』をきっかけにして、『アクロイド殺し』(1926年)、『ABC殺人事件』(1936年)、『そして誰もいなくなった』(1939年)をはじめ、アガサ・クリスティの推理小説(長編&中短編)の大半を、それこそ夢中になって読みふけり、むさぼるように読み進めるにいたった。

本 アガサ・クリスティ原作“Murder on the Orient Express”
うずまき The Armstrong Case
《Although the subject of the novel is Ratchett's murder, the drama that led to the murder happened a couple of years earlier with the murder of Daisy Armstrong.
• Ratchett is an American passenger on the Orient Express. Poirot immediately suspects he is evil, therefore when Ratchett claims he is getting death threats and needs Poirot's help, Poirot refuses. Ratchett is the victim of the murder on the Orient Express. It is revealed that he is actually the child murderer Cassetti, who was not punished by the legal system.
• Daisy Armstrong is the 3-year old daughter of Sonia Armstrong and Colonel John Armstrong. Daisy's maternal grandmother is a famous stage actress. Daisy is kidnapped by Cassetti and held for ransom. After her wealthy family pays the ransom, Daisy is found dead. Her family and friends describe her as ''the delight of the house.'' 》(Study.com)

ナゾの人 Characters
(以下の文中の英文は、SparkNotes、Shmoopからの引証。SparkNotesは【 】内、Shmoopは【 】内。)
The Investigators :
・Hercule Poirot
ベルギー出身の私立探偵。中東での仕事を終えた彼は、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗り、ヨーロッパへの帰途に就く途中で殺人事件に巻き込まれる―。
エルキュール・ポアロは「灰色の脳細胞」を十全に活用できる賢さを持つと自認し、自らを世界最高の探偵であるとする自信家である。女性には優しく、物腰柔らかで、常に整理・整頓を心掛け、身なり(特にぴんとはね上がった大きな口髭)に注意を払い、乱雑さには我慢できない。捜査には容疑者たちとの尋問や何気ない会話に力点を置き、会話から人物の思考傾向・行動傾向を探っていく。容疑者全員を集め、ポアロの辿った推理過程を彼らへ説明しながら真犯人をその場で指し示す。アガサ・クリスティが生み出した、この架空の名探偵は、シャーロック・ホームズ~アーサー・コナン・ドイルの推理小説シリーズの主人公である私立探偵~などと同様、時代を越え現在にまで至る支持を得た名探偵の一人である。
【A retired Belgian police officer. Poirot is Christie's most famous detective and is known for his short stature and long, curly moustache. Poirot is very intelligent, extremely aware and instinctual and is a brilliant detective. The novel is generally written from his perspective.】
・Monsieur Bouc
オリエント急行を運行する「ワゴン・リ」社のベルギー人重役で、ポアロとはポアロがベルギー警察にいた時期からの知人。【The director of the Compagnie Wagon Lits and formerly worked for the Belgian police force with Poirot. Traveling on the Orient Express, M. Bouc asks Poirot to take the case. M. Bouc provides comic relief in the novel, constantly frustrated with the case and confused by Poirot.】
・Dr. Constantine
ラチェットの検死を行なったギリシャ人医師。【The coroner aboard the Orient Express. Dr. Constantine is often Poirot or M. Bouc's sidekick and is present for most of the evidence gathering. Dr. Constantine examines Ratchett's body and determines when he could have been killed.】

The Victim :
・Ratchett
60代のアメリカ人実業家。一見柔和そうに見えるが、眼光や雰囲気には狡猾で獰猛な態度が表われている。デイジー・アームストロング(Daisy Armstrong)を誘拐して身代金を奪った後、彼女を殺害した犯人で、本名はカセッティ。莫大な保釈金を支払い釈放された後、名前を変えて外国で暮らしていた。
【Real name Cassetti, kidnapped and murdered the young Daisy Armstrong for money. The Armstrong family murders Ratchett because he escaped punishment in the U.S. Poirot describes Ratchett as a wild animal.】

The Suspects :
・Hector Willard MacQueen
アメリカ人青年で、ラチェットの秘書。―実は「デイジー・アームストロング誘拐事件」を担当した検事の息子。【The young American Hector MacQueen is Mr. Ratchett's secretary. His father was the District Attorney on the Armstrong case, and he has no problems whatsoever owning up to his dislike of Ratchett.】【Ratchett's personal secretary. Hector is truly in cahoots with the Armstrong family.】
・Edward Henry Masterman
中年のイギリス人男性で、ラチェットの執事。―実は戦時中はジョン・アームストロング大佐(Colonel John Armstrong)の従卒で、戦後はアームストロング家の執事。【The quiet Mr. Masterman, an Englishman, is a foil to the Italian, Foscarelli. On the train, he works as Ratchett's valet. He served as Armstrong's batman in the war, and later his valet. Mr. Masterman provides an alibi for Foscarelli, as he stayed awake in their train car due to a toothache.】【Masterman is not a terribly colorful character, mainly referred to by his function—"the valet." Masterman is very polite and obedient, perhaps even haughty.】
・Antonio Foscarelli
自動車のセールスマンで、アメリカに帰化した、色の浅黒い陽気なイタリア人。―実はアームストロング家の運転手。【The loud and talkative Italian man, Antonio Foscarelli provides a foil to the taciturn English valet, Mr. Masterman. Foscarelli's Italian heritage attracts M. Bouc's suspicions, as M. Bouc believes that all Italians are knife-wielding murderers.】【Revealed by Poirot, Antonio was the Armstrong's chauffeur. Antonio loved dear little Daisy and tears when he speaks of her.】
・Mrs. Hubbard (Caroline Martha Hubbard)
陽気でおしゃべり好きな、中年のアメリカ人女性。ポアロの犯人探しを意図的にミスリードしようとする謎めいた未亡人。―実はソニア・アームストロング(Sonia Armstrong)の母親/殺されたデイジーの祖母で、女優のリンダ・アーデン。【Mrs. Hubbard is the elderly American woman who is always talking about her daughter – and she's played with gusto by America tragic actress Linda Arden. As her confession in the last chapter reveals, Linda Arden is the grandmother of the murdered Daisy Armstrong, and the mother of Mrs. Armstrong (Daisy's mom) and of the Countess. As a skilled actress, Linda Arden fits perfectly into what is characterized throughout the novel as a highly theatrical murder. A strong-willed woman, she offers to take the blame for the murder plot, declaring that she would have "stabbed that man twelve times willingly".】
・Princess Natalia Dragomiroff
ロシア貴族の老婦人。―実はソニアの後見人(godmother)で、リンダ・アーデンの親友。【A Russian princess. Princess Dragomiroff is a generally despicable, ugly old lady; her yellow, toad-like face puts off Poirot.】【Princess Dragomiroff was the godmother of Linda Arden's children and a close friend to the actress. She represents fierce loyalty and the triumph of mind over matter.】
・Hildegarde Schmidt
中年のドイツ人女性で、ドラゴミロフ公爵夫人の忠実なメイド。―実はアームストロング家の料理人。【Hildegarde Schmidt is a German lady's maid to Princess Dragomiroff, and an incredibly loyal one, at that. She is the former cook at the Armstrong house.】
・Countess Helena Andrenyi
ルドルフ・アンドレニ伯爵の美しい若妻(エレナ・アンドレニ伯爵夫人)。―実はソニアの妹。【The sister of Sonia Armstrong, did not murder Ratchett. Because the Countess is closest to the Armstrong case, she attempts to conceal her identity by dropping grease on her passport and smudging the name label on her luggage. The Countess is quite young, dark haired and beautiful.】【The beautiful Countess is the daughter of Linda Arden and the sister of the late Mrs. Armstrong. Like her mother, she is an excellent actress, though it's the grease smudge on the Countess's Hungarian passport that ultimately gives her identity away to Poirot. Her husband defends her innocence until the end, and he's telling the truth, since he did the stabbing for her.】
・Count Rudolf Andrenyi
フランス外遊途中のハンガリー人外交官。妻のエレナを事件にあまり関わらせないよう擁護している。【A very defensive man who tries to conceal the true identity of his wife, Countess Andrenyi. The Count takes his wife's place in the murder.】
・Colonel Arbuthnot
インドからイギリスへ帰る途中の英国軍大佐。―実はアームストロング大佐の戦友。【A friend of Colonel Armstrong, and father of Daisy Armstrong. Like Mary Debenham, Poirot suspects him because he called Mary by her first name on the train to Stamboul. Colonel Arbuthnot is hard-willed, polite and very "English."】
・Mary Debenham
バグダッドで家庭教師をしていたイギリス人女性。―実はソニアの秘書兼デイジーの家庭教師(governess)。【Daisy Armstrong's governess. Mary Debenham is a calm, cool and unruffled lady, instrumental in the planning of Ratchett's murder. Poirot is most suspicious of Mary because of conversation he overhears between herself and Colonel Arbuthnot on the train to Stamboul.】
・Greta Ohlsson
敬虔なスウェーデン人宣教師。―実はアームストロング家の乳母。【The yellow-haired Greta Ohlsson was the nurse at the Armstrong house. We are constantly told that she has yellow hair and a face that looks like a sheep. Poirot is usually gentle and kind in his interrogation of her.】【The Swedish lady was Daisy Armstrong's nurse and is a very delicate type—not meant for murder.】
・Cyrus Bethman Hardman
ラチェットから身辺護衛を依頼された(と称する)、アメリカ人の私立探偵。―実はアームストロング家の、濡れ衣を着せられ自殺したメイド、スザンヌの恋人。【Mr. Hardman is an American private snoop, hired by Mr. Ratchett to guard him. In reality, he is the man who loved the young nursemaid who tragically threw herself out of a window when accused of being involved in the Daisy Armstrong murder. His presence on the train ensures that no outsiders are wrongly accused of the crime.】
・Pierre Michel
ポアロたちが乗るオリエント急行のフランス人車掌。―実は自殺したメイド(デイジー・アームストロングの子守役)、スザンヌの父親。【Father of the suicidal nursemaid of Daisy Armstrong, is the Conductor of the Orient Express. Pierre, like the other servants does not initially receive much scrutiny—he is not a top suspect. However, as the novel progresses, his involvement in the murder is proven essential.】

映画 1975年5月17日、シドニー・ルメット監督作『オリエント急行殺人事件』(原題:Murder on the Orient Express、製作年:1974年、製作国:イギリス、英国公開日:同年11月22日、米国公開日:同年11月24日)が日本で公開された。アガサ・ファンとなった私は、公開直後の同作を東京・渋谷の映画館に勇んで出かけて行き、じっくり堪能した。
シドニー・ルメット(Sidney Lumet、1924~2011)と言えば、知る人ぞ知る名作『十二人の怒れる男』(原題:12 Angry Men、米国公開:1957年4月、日本公開:59年8月)が出世作である。私は高校時代にこの硬派な「社会派」映画を観て、強い感銘を受けた。そのリアリズムに徹した骨太な演出のもと、「走る豪華ホテル」という、限定された狭い空間を最大限利用して映画の“華やかさと楽しさ”を詰め込んだ作品こそ、『オリエント急行殺人事件』にほかならなかった。
このルメット版(1974年版) 『オリエント急行殺人事件』は、英俳優のアルバート・フィニーがエルキュール・ポアロ役を演じたのをはじめ、リチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンス、マーティン・バルサム、ヴァネッサ・レッドグレイヴ等々とメガスター総出演映画だ。オスカー受賞者や演劇界の重鎮、世界的に名前が知られている銀幕のスターが一堂に会した文字通りの“オールスター・キャスト”作品!1975年の第47回アカデミー賞では、主演男優賞・助演女優賞・脚色賞・撮影賞・作曲賞・衣装デザイン賞の6部門でノミネートされ、スウェーデン人宣教師のグレタ・オルソンを演じたバーグマンが助演女優賞に輝いている。 
このゴージャスなミステリ大作では、イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、バネッサ・レッドグレーブ、ジャクリーン・ビセットらの女優陣の活躍が目立つが、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンスらの抑えた好演も見逃せないし、こんな大物揃いのキャスティングで全員が何ら不自然さもなく見事なまでに各々が際立つ存在感と個性を発揮している。

雪の結晶 【1974年版】ストーリー :
1930年、ニューヨーク、ロングアイランドに住む大富豪アームストロング家の3歳になる一人娘が誘拐された。20万ドルという巨額の身代金が犯人に支払われたにもかかわらず、幼児は死体となって発見された。悲報のショックで夫人も亡くなり、アームストロング(Colonel Armstrong)自身も度重なる不幸にピストル自殺を遂げてしまう。事件後6ヵ月目に犯人が逮捕されたが、莫大な金力とある種の秘密勢力を利用して証拠不十分で釈放されるという結果に終わった。それから5年後。トルコのイスタンブールから、アジアとヨーロッパを結ぶ豪華な大陸横断国際列車オリエント急行が、さまざまな乗客を乗せて、パリ経由カレーに向けて発車しようとしていた。ベルギー人の有名な探偵エルキュール・ポワロ(アルバート・フィニー)も乗客の一人で、ロンドンへの帰途につくところだった(ちなみに、字幕では、2017年版が「ポアロ」であるのに対して、1974年版が「ポワロ」となっている)。真冬だというのに珍しくオリエント急行の1等寝台車は満員で、偶然出会った古い友人で鉄道会社の重役であるビアンキ(マーティン・バルサム)の取りはからいで、ポワロはようやくコンパートメントで落ち着くことができた。やがて列車は動き出し、3日間の旅が始まった。2日目の深夜、列車は突然スピードをおとした。前夜から降り続いていた雪で線路が埋まり、立往生してしまったのだ。ポワロは周囲の静寂で眼をさました。隣室で人が呻く声を聞いたような気がしたのだ。同時に車掌を呼ぶベルが鋭く廊下に響いた。オリエント急行は雪の中に立往生したまま朝を迎えた。そしてポワロの隣りのコンパートメントにいたアメリカ人の億万長者ラチェット(リチャード・ウィドマーク)が、刃物で身体中を刺されて死んでいるのを執事のベドウズ(ジョン・ギールグッド)とポワロが発見した。コンパートメントに残された燃えかすの手紙には、5年前に起きたアームストロング家の幼女誘拐事件に関連する文面が発見された。ポワロはビアンキに依頼され、この事件の解明を引き受けざるをえなかった。そして早速、国籍も身分も異なる同じ1等寝台の車掌と12人の乗客たちの尋問を始めた。まずはラチェットの秘書ヘクター・マックイーン(アンソニー・パーキンス)、さらにこの車輌の車掌のピエール・ミシェル(ジャン=ピエール・カッセル)、ベドウズ、ハバード夫人(ローレン・バコール)、宣教師グレタ・オルソン(イングリッド・バーグマン)、ハンガリーの外交官ルドルフ・アンドレニ伯爵(マイケル・ヨーク)とその夫人(エレナ・アンドレニイ伯爵夫人、ジャクリーン・ビセット)、ドラゴミロフ公爵夫人(ウェンディ・ヒラー)とそのメイド、ヒルデガルデ・シュミット(レイチェル・ロバーツ)、英国軍人アーバスノット大佐(ショーン・コネリー)、女教師メアリー・デブナム(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)、車のセールスマン、フォスカレリ(デニス・クイリー)、私立探偵と名乗るハードマン(コリン・ブレイクリー)の順だった。尋問していくに従い、ラチェットがアームストロング誘拐事件の真犯人であることが判明した。ポワロの明晰な頭脳で、全く関係のないと思われた13人の関係性が次々と明らかにされていく。そうしてポワロは、意外な真犯人の名を口にするのだった…。



▼【1974版】 Trailer :


▼【1974年版】 Train departing :


演劇 【1974年版(旧作)|2017年版(新作)】 キャストの比較
主人公 :
・【1974年版】Albert Finney as Hercule Poirot|【2017年版】Kenneth Branagh as Hercule Poirot
旧作のポアロを演じたのは、これまで5度アカデミー賞にノミネートされているアルバート・フィニー(1936~)。ピタッと7:3に分けられた黒髪に、くるんと巻いたシャープな黒髭という凝った役作りで好評を博したが、彼がポアロを演じたのはこの1作だけ。新作では、シェイクスピア俳優として有名なケネス・ブラナー(1960~)が白髪交じりのグレーの髪をオールバックにし、モコモコした同色の「immense(立派)」な口髭・顎髭も蓄えた、スタイリッシュなポアロを堂々と演じている。

被害者 :
・【1974年版】Richard Widmark as Ratchett/Casetti|【2017年版】Johnny Depp as Ratchett/Cassetti
殺人事件の被害者であるラチェットを演じたのは、旧作ではデビュー当時、その風貌から“ハイエナ”と呼ばれたリチャード・ウィドマーク(1914~2008)。新作では、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで海賊ジャック・スパロウ役を務め、老若男女問わず世界的にその名を知られたジョニー・デップ(1963~)。

容疑者たち :
・【1974年版】Anthony Perkins as Hector MacQueen|【2017年版】Josh Gad as Hector MacQueen
ラチェットの秘書ヘクター・マックイーンを演じたのは、旧作では1960年代を代表する青春スター、アンソニー・パーキンス(1932~92)。新作では、『アナと雪の女王』(2013年)のオラフ役(声)や『美女と野獣』(2017年)のル・フウ役で知られるジョシュ・ギャッド(1981~)。

・【1974年版】John Gielgud as Edward Beddoes|【2017年版】Derek Jacobi as Edward Henry Masterman
ラチェットの執事(valet)の名は、原作でエドワード・ヘンリー・マスターマン、旧作でエドワード・ベドウズに改変され、新作で原作と同じ。演じたのは、旧作ではイギリス演劇史に名を残す名優で、「20世紀最高のハムレット役者」と謳われるジョン・ギールグッド(1904~2000)、新作では主に舞台俳優として活躍し、特にシェイクスピア劇に数多く出演しているデレク・ジャコビ(1938~)。

・【1974年版】Denis Quilley as Gino Foscarelli|【2017年版】Manuel Garcia-Rulfo as Biniamino Marquez
原作のアントニオ・フォスカレリに相当する役柄。1974年版のデニス・クイリー(1927~2003)がシカゴで自動車販売をしている陽気なイタリア人(ジーノ・フォスカレリ)を、2017年版のマヌエル・ガルシア=ルルフォ(1981~)がキューバで脱獄し、アメリカで自動車販売を行ない成功した陽気な実業家(ビニアミノ・マルケス)を、それぞれ演じている。

・【1974年版】Lauren Bacall as Harriet Belinda Hubbard/Linda Arden|【2017年版】Michelle Pfeiffer as Caroline Hubbard/Linda Arden
旧作ではハリウッド黄金時代を代表する女優ローレン・バコール(1924~2014)が気が強く男勝りなハバード夫人を、新作では『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(1989年)、『アンカーウーマン』(1996年)など多くの素晴らしい作品に主演したミシェル・ファイファー(1958~)がブロンドが目立つ色気あるハバード夫人を、それぞれ演じている。

・【1974年版】Wendy Hiller as Princess Dragomiroff |【2017年版】Judi Dench as Princess Dragomiroff
老齢のロシア人貴婦人、ドラゴミロフ公爵夫人を、旧作ではウェンディ・ヒラー(1912~2003)~『旅路』(1958年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞~が、新作ではジュディ・デンチ(1934~)~イギリス演劇界で確固たる位置を占め、『007 ゴールデンアイ』(1995年)から「007」の上司“M”に扮して映画『007』シリーズの醍醐味に一役買う~が、どちらも貫録十分に演じている。

・【1974年版】Rachel Roberts as Hildegarde Schmidt|【2017年版】Olivia Colman as Hildegarde Schmidt
礼儀正しく口数が少ない中年女性、ヒルデガルデ・シュミット(ドラゴミロフ公爵夫人のメイド)を演じたのは、旧作ではレイチェル・ロバーツ(1927~80)、新作ではオリヴィア・コールマン(1974~)。どちらも実力派女優よろしく丁寧で味わい深い演技を披露している。

・【1974年版】Jacqueline Bisset as Countess Helena Andrenyi|【2017年版】Lucy Boynton as Countess Helena Andrenyi
ルドルフ・アンドレニ伯爵の夫人、エレナ役を、旧作ではジャクリーン・ビセット(1944~)が知的で上品な健康的な美しさで、新作ではルーシー・ボイントン(1994~)が(体調を崩して薬を常用中のためか)病的な危うい美しさで、それぞれ鮮明に縁取っている。

・【1974年版】Michael York as Count Rudolf Andrenyi|【2017年版】Sergei Polunin as Count Rudolph Andrenyi
ルドルフ・アンドレニ伯爵は、旧作のマイケル・ヨーク(1942~)版ではハンガリーの外交官で社交が上手、しかし新作のセルゲイ・ポルーニン(1989~)版ではハンガリー出身の貴族で著名なダンサーながら、愛想が悪く喧嘩っ早くて獣性丸出し…。ポルーニン自身、ウクライナ出身の世界的ダンサーで、バレエ界きっての異端児・反逆児といわれる人物。ここでは、彼の素顔に迫るドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』(2016年)を地で行くような造型表現が垣間見見える。

・【1974年版】Sean Connery as Colonel Arbuthnot|【2017年版】Leslie Odom Jr. as Dr. Arbuthnot
アーバスノットは旧作では原作と同じ英国軍大佐であるが、新作では大佐ではなく軍医に変更される。アーバスノット大佐を演じたのは、言わずと知れた『007』シリーズの初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリー(1930~)。ドクター・アーバスノットを演じたのは、ブロードウェイ・ミュージカル『Hamilton』に出演し、2016年のトニー賞でミュージカル主演男優賞を受賞した(アフリカ系アメリカ人)レスリー・オドム・ジュニア(1981~)。

・【1974年版】Vanessa Redgrave as Mary Debenham|【2017年版】Daisy Ridley as Mary Debenham
律儀で聡明な、アーバスノットと親しい女教師であるメアリー・デブナムを演じたのは、旧作ではブロンドカーリーヘアの、余裕綽々たるヴァネッサ・レッドグレイヴ(1937~)~イギリスを代表する女優の一人であり、パレスチナ問題でシオニズム批判を表明するなど反体制の闘士としても知られる~。新作では、ブラウンの髪の、風貌も演技も瑞々しいデイジー・リドリー(1992~)~2015年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の中心的な役柄であるレイ役を射止め、一躍世界中の注目を集める~。

・【1974年版】Ingrid Bergman as Greta Ohlsson|【2017年版】Penélope Cruz as Pilar Estravados
旧作では、原作と同じ役名のグレタ・オルソン~元は乳母で今は宣教師をしている苦労人風の中年女性~を、ヨーロッパとアメリカで活躍したスウェーデン出身のスター女優、イングリッド・バーグマン(1915~82)が演じている。新作では、グレタ・オルソンに代わる、信心深い宣教師ピラール・エストラバドスを、『それでも恋するバルセロナ』(2008年)でアカデミー賞(助演女優賞)を受賞した最初のスペイン人女優ペネロペ・クルス(1974~ )が演じている。ピラール・エストラバドスはアガサ・クリスティの別作品“Hercule Poirot's Christmas”(1938)(村上啓夫訳『ポアロのクリスマス』早川書房、1984年)に登場するキャラクターで、新作ではこの名前のみを借用。バーグマンもクルスもきらびやかな美しさを封印し、地味な演技に徹している点が特筆に値する。

・【1974年版】Colin Blakely as Cyrus Hardman|【2017年版】Willem Dafoe as Gerhard Hardman
旧作では、原作と同じ役名のサイラス・ハードマン~ピンカートン探偵社(Pinkerton)に勤める探偵~を、コリン・ブレイクリー(1930~87)~ビリー・ワイルダー監督の『シャーロック・ホームズの冒険』(1970年)でのワトソン役の好演で評判を呼んだ、北アイルランド出身の庶民派タイプの俳優~が演じている。新作では、原作のサイラス・ハードマンに相当する役柄ながら、オーストリア人の教授を名乗る人種差別の激しい人物、ゲアハルト・ハードマンを、ウィレム・デフォー(1955~)~『プラトーン』(1986年)および『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた、多才な才能と強烈な存在感を印象づけるアメリカの性格俳優~が演じている。

・【1974年版】Jean-Pierre Cassel as Pierre Michel|【2017年版】Marwan Kenzari as Pierre Michel
オリエント急行の車掌ピエール・ミシェルを演じたのは、旧作では性格俳優としてフランスを代表する国際スターとなったジャン=ピエール・カッセル(1932~2007)。新作では、『セブン・シスターズ』(2016年)や『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(2017年)などに出演し、注目度上昇中のオランダ人俳優マーワン・ケンザリ(1983~)。新旧のピエール車掌は、アームストロング家の自殺したメイドとの関係で、原作から設定が少し微妙に変更されたキャラクターとなっている。原作上のピエール車掌が当のメイド、スザンヌ(Susanne)の父親であったのに対して、カッセル版がポーレット(Paulette)という名のメイドの父親であり、ケンザリ版が原作と同名のスザンヌの“brother(兄)”である。

主人公ポアロの協力者 :
・【1974年版】Martin Balsam as Bianchi|【2017年版】Tom Bateman as Bouc
オリエント急行を運営する鉄道会社の重役は、原作でベルギー人のブーク(M. Bouc)だったのが、旧作でイタリア人のビアンキ(Signor Bianchi)に変更され、新作で原作と同じブークとなる。演じたのは、旧作では『十二人の怒れる男』(1957年)、『サイコ』(1960年)、『ティファニーで朝食を』(1961年)などで名脇役ぶりを発揮したマーティン・バルサム(1919~96)。新作では、イギリスのTVドラマ『ダ・ヴィンチと禁断の謎』(2013~14年)や『ジキル&ハイド』(2015年)で知名度がアップしたトム・ベイトマン(1989~)。キャラクターの年齢設定について特徴的なのは、原作のブークおよび旧作のビアンキがポアロと同世代であるのに対して、新作のブークがめっきり若返って年配のポアロより随分と年下である点。

・【1974年版】George Coulouris as Dr. Constantine|【2017年版】該当なし(原作→旧作で登場したギリシャ人の医師コンスタンティンの場合、新作ではアーバスノットが軍医という設定になったため、対応するキャラクターは存在しない)。
旧作では、ラチェットの死体の検分をしたりするなど、ポアロの捜査に協力するDr. Constantineを演じたのは、an English film and stage actor、ジョージ・クールリス(1903~89)。クールリスと言えば、斬新な構成と演出で現在に至るまで映画史上最大の傑作として高く評価される『市民ケーン』(原題:Citizen Kane、1941年、オーソン・ウェルズ弱冠25歳の処女作)で新聞王「ケーン」の後見人「ウォルター・サッチャー」に扮している。

▼【1974年版|2017年版】 Side-by-Side :
(A side-by-side, shot-for-shot comparison between the 1974film and 2017film adaptation of “Murder on the Orient Express”.)
2017年12月20日(水)下高井戸シネマ(東京都世田谷区松原3-27-26、京王線・東急世田谷線下高井戸駅から徒歩2、3分)で、19:30~鑑賞。



作品データ :
原題 ON THE MILKY ROAD
製作年 2016年
製作国 セルビア イギリス アメリカ
配給 ファントム・フィルム
上映時間 125分


『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』のエミール・クストリッツァ監督が自ら主演し、イタリアを代表する女優モニカ・ベルッチをヒロインに迎えて贈る人間ドラマ。戦争が終わることなく続く国を舞台に、前線にミルクを届ける配達人の男と村にやってきた美しい花嫁が繰り広げる愛の逃避行を、エネルギッシュかつファンタジックに描き出す。『アンダーグラウンド』のミキ・マノイロヴィッチらが共演。

ストーリー :
隣国と戦争中のとある国で、コスタ(エミール・クストリッツァ)は右肩にハヤブサを乗せ、村から戦争に行った兵士たちにミルクを届けるため、毎日ロバに乗って銃弾をかわしながら前線を渡っている。国境を隔てただけの近場で続く戦争がいつ終わるのか、誰にも分からなかった。そんな死と隣り合わせの状況下でも、村には呑気な暮らしがあり、おんぼろの時計に手を焼く母親と一緒に住んでいるミルク売りの娘ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)は美しく活発で、村の男たちはミレナ目当てでこの家のミルクを注文する。そのミルクの配達係に雇われているのがコスタで、ミレナはコスタに想いを寄せていた。戦争が終わったら兵士である兄ジャガ(ミキ・マノイロヴィッチ)が帰ってきて、この家に花嫁として迎える女性と結婚する。その同じ日に自分もコスタと結婚するという計画を、ミレナは思い描く。しかし、コスタはミレナの求愛に気のない素振りで話をそらすばかりだった。そんな折、家に花嫁(モニカ・ベルッチ)がやってくる。ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれたというミステリアスな美女である彼女とコスタは、お互いに人生を一変させるほどの重い過去の影があり、初めて会った瞬間から惹かれ合うものを感じる。まもなく、敵国と休戦協定を結んだという報せが舞い込む。久々に訪れた平和に村人たちは、どんちゃん騒ぎを繰り広げる。やがて戦争が終結し、ジャガが帰還する。コスタの気持ちはさて置き、ダブル結婚式の準備は着々と進む。しかし、過去に花嫁を愛した多国籍軍の英国将校が、彼女を連れ去ろうと特殊部隊を村に送り込む。残忍な兵士たちによって村は焼き払われ、村人たちはみんな死んでしまう。村に帰る途中で蛇に引き留められたコスタは運よく生き残り、花嫁を連れて決死の逃避行を開始する。二人きりとなった彼らの愛は燃え上がるが、果たして追手から逃げ切り、幸せをつかむことはできるだろうか…。

▼予告編

2017年12月20日(水)下高井戸シネマ(東京都世田谷区松原3-27-26、京王線・東急世田谷線下高井戸駅から徒歩2、3分)で、17:05~鑑賞。



作品データ :
原題 MA' ROSA
製作年 2016年
製作国 フィリピン
配給 ビターズ・エンド
上映時間 110分


フィリピンのインディペンデント映画界を代表する俊英ブリランテ・メンドーサ監督が、東南アジア最大といわれるフィリピン・マニラのスラム街を舞台に、生活のために麻薬の販売も手掛ける雑貨店店主夫婦の過酷な日常と警察組織の腐敗ぶりをドキュメンタリー・タッチのリアルな描写で描き出した社会派ドラマ。主演は本作の演技で第69回カンヌ国際映画祭で女優賞に輝いたジャクリン・ホセ。第69回カンヌ国際映画祭のパルムドールに出品された。第89回アカデミー賞外国語映画賞のフィリピン代表作品になったが、候補には至らなかった。

ストーリー :
マニラの無法地帯。腐敗した警察も、密売する女も、法の目をくぐりここで生きている。
ローサ・レイエス(ジャクリン・ホセ)。食品や雑貨類を扱うサリサリストア「ROSA」を切り盛りし、夫ネストール(フリオ・ディアス)、長男ジャクソン(フェリックス・ロコ)、次男カーウィン(ジョマリ・アンヘレス)、長女ラケル(アンディ・アイゲンマン)、次女ジリアン(イナ・トァソン)とともにマニラのスラム街に暮らしている。人が密集しているこの街は貧しくても人と人のつながりは深い。
ある土曜日の夕方。スーパーマーケットに買い出しに来たローサとカーウィン。突然の雨の中、たくさんの買い物袋を持って家路へ急ぐ。タクシーが入ることを拒むその街は、貧しい人々が暮らすスラムだ。帰り着くと、ネストールは店番もせずに、こそこそクスリをやっている。
買い出してきた雑貨や菓子類を分けた後、仕入れた麻薬を砕き、手慣れた様子で小さなビニール袋に小分けにする。これが家族の生活を支えているのだ。
夕食を買いに出掛けるローサ。息子同然に面倒を見ているボンボンが「ローサ、“アイス”を売って」と近づいてきた。どうやら“アイス”とは、麻薬の隠語のようだ。
夕食を家族でとろうとしたその時、突然男たちがやってきた。「警察だ!全員、動くな!ブツはどこだ?」「ケガ人が出る前にブツを出せ!」手錠をかけられ連行されるローサとネストール。
警察署。―「禁止薬物の不法所持だ。言い逃れはできないぞ」「刑務所に入るわけにはいきません。貧しいんです」
「20万で手を打ってやる」と巡査がささやく。「そんな大金…」とローサは口ごもる。「協力しないならブタ箱行きだ。金がないなら売人を売れ」と巡査はたたみ掛ける。ローサは売人のジョマール(クリストファ・キング)を売った。
捕まったジョマールのバッグから大量の麻薬とカネが見つかる。巡査たちは嬉々として、押収したカネを山分けする。ひとりの巡査がカネをポケットに入れ、署長室へと向かう。
巡査たちはジョマールにも金を要求した。ジョマールは上級警部へ携帯メールで助けを求めるが、巡査たちにバレて袋叩きにされる。その様子を見ていたローサに巡査の一人が拳銃を向けて言う。「警察に連絡したら殺すぞ!区長に連絡しても同じだ」
ジョマールが持っていたカネ10万、ジョマールの妻リンダ(メルセデス・カブラル)が見逃し料として払う5万。20万ほしい警察は、残りの5万をローサたちに要求した。「カネを払うまで、両親は帰せない」警察署にやってきたローサの子供たちに3級巡査部長が告げる。
やがて、子供たちは両親の釈放のために金策に走る。親族に無心し、家電を売り、体を売る。それでもまだ足りない。ローサは家族を署に残し、不足を工面しに行く。それは、自分と夫の釈放だけでなく、家族の絆を取り戻すための行動なのだ…。

【ラスト】 串焼きのようなものを食べつつ、無言で一点を見つめるローサの視線が様々なことを物語っている。どん詰まりの滅茶苦茶な社会の中で、ローラたちの家族の絆が、微かな希望の光として浮かび上がってくる―。

▼予告編



◆ブリランテ・メンドーサ監督(Brillante Mendoza、1960~)インタビュー (SYNODOS-2017.07.14):
――リアリズムとフィクションが隣り合わせにあるような作風ですよね。
私は実際に起きていること、現実を見せたいといつも思っています。同時にそこには物語、創作もあります。フィクションであっても、そのシーンが演出されたものであっても、誠実に表現すれば、それは真実味のある、現実であると信じられるものになります。カメラを固定するなど、ありきたりな映画制作方法では、真実を語れません。私の映画では、手持ちカメラを使います。それによってカメラが狭い通路でも歩けて、その場所の中でしっかりと人との関係性を築くことができるのです。

――登場人物が悪いことをしていても、その人自身は悪者とは限らない。あなたは環境が彼らをそうさせてしまう、と映画で語っていますね。
私はそのキャラクターの人物を知る前に、その人間性(人間らしさ)を観たいと思っています。一般的に人は「良い人」「悪い人」と分けて考えます。どんな国でも、「良い人」と「悪い人」がいて、ある人は良いことができて、ある人は悪いと決めつけます。私が着目するのは、フィリピン人かどうか、金持ちか貧乏かに関わらず、まず人間であるということです。

――『ローサは密告された』はまさに現ドゥテルテ政権の麻薬戦争を表してしていますね。
『ローサは密告された』のコンセプトを立てたのは前政権のときでした。私の映画は、私のいる環境について私が観たこと、感じたことを反映させています。現政権は麻薬との戦いに注力していますが、問題はそれだけではありません。私が次の映画を作るときは、何か別のこと―例えば組織や腐敗などの他の側面を見つめるでしょう。麻薬以外にもたくさんの問題があるのです。

――『ローサは密告された』のアイディアはどこから生まれたのでしょうか。
4年前、ある人が自分の家族に起こったことを話してくれたのです。実は『ローサは密告された』の登場人物のひとりを演じている人ですが、誰とは言えません。その人の話に心を打たれたのです。これはフィリピンの警官の秘密です。誰もが麻薬の問題、腐敗の問題があることは承知していますが、私自身が個人的にその問題に触れたのは初めてでした。
より深く、細かいところまで全部知ろうと努めました。事件がどのように起きたのか、特に、お金に困って麻薬を売るに至ったその理由です。そしてほかの家族の方々にも会いました。私にすべてを話すのは彼らにとってたやすいことではありませんでした。そのため、私たちの間に信頼関係を打ち立てる必要がありました。私が彼らの話を「利用」して、金儲けしようとしているのではなく、何故、どのような理由でそれが起こったのかを知りたいと思っていることを分かってもらわなくてはならなかったのです。
シナリオは少しずつ書き進められ、同時にフィリピンの警察についても調査を進めました。なので、『ローサは密告された』は実話を基にした映画と言えます。数年前からこうした方法で私は仕事をしています。実際の事件を見つけ出し、その「関係者」に会う。その人はシナリオにとって「トランポリン」のような役割を果たし、『ローサは密告された』の場合は脚本家であるトロイ・エスピリトゥと一緒にシナリオを発展させていきました。

――『ローサは密告された』はどこを舞台としているのでしょうか。映画の中の家族はどんな階級に属するのでしょう。
舞台は実際のマニラの中心部の一角です。その土地を非難したいわけでないので、具体的な場所は申し上げられません。この物語は大都市であればどこででも起こりうる物語なのです。この一家は、現在のフィリピンの80%と言われる貧困家庭です。彼らは中の下クラスに入りたいと願っていますが、子供たちの中には教育を受けている者もいるので、それは叶うかもしれません。でも、ローサたちの店は非常に小規模で、稼ぎは一日10ドル足らずです。それっぽっちのお金でどうやって生きていけばいいのか。私は、フィリピンの80%に関わる物語を描くことが、この国全体を語ることになると思っています。20%の裕福な階級はこの国の代表ではないのです。

――あなたにとって、自国について語る必要性とは何ですか。
芸術家とは現在起こっていることを反映するものです。画家であれ、音楽家であれ、作家であれ、インスピレーションは身近な環境から生まれるのです。この映画を作ることは私にとって必要なことでした。この物語は語らねばならない。しかし、ルポルタージュはジャーナリストの仕事です。ただ楽しませるためでもなく、人々を教育し、人々に知らせるために私は映画をつくります。楽しませるためでもありません。現在、映画界を支配している映画は人々におべっかを使う、嘘っぱちの物語で、私たちの周囲にある世界を反映したものではありません。私の映画は、ポルノのように貧しさを見世物にすることはしない。普通の人々の話を語るのです。

――物語が起こるのは数時間の間です。なぜこのような形式にしたのでしょうか。
実際の状況がそうだったからです。時間の問題は非常に重要でした。フィリピンでは、平日に捕まれば、麻薬の売人はすぐに刑務所に行きます。しかし、金曜の夜に捕まると、裁判所が週末は閉まっているので、月曜まで警察に留め置かれる。なので、警察は週末にガサ入れをしようとするのです。
48時間の交渉の余地があり、金と交換に釈放することができるからです。もちろんこうした腐敗を生むのは貧しさです。生き延びるためには、法も道徳も無視して状況を打開しなければなりません。でもこうした不正はフィリピンだけの話ではありません。先進国でも不正はあり、もっと上層部で行われるため人の眼に触れることがないだけなのです。

――手持ちカメラがもたらす具体的な効果はどのようなものでしょうか。
手持ちカメラの映像は、主人公たちの生活の不安定さ、差し迫った感じ、いつまでたっても変わらない腐った状況を示します。隠れて生きなくてはならず、いつも監視されていて、自分の身を守らなければならない世界なのです。
カメラは3台使用し、俳優にはカメラ位置は伝えませんでした。俳優たちには、これまで学んだことはすべて忘れて、できるだけ自然に演技するよう求めました。この作品には俳優ではない素人の出演者もいたからです。シナリオも与えませんでした。決めたセリフはあるにはありましたが、自分でセリフを作って構わないと言いました。必ず言わねばならない重要なセリフは確認しましたが、それ以外の部分に関しては自由にさせました。そうすることで、うまく瞬間をつかまえられるのです。
アクションも、状況も、感情も、すべて内側から生まれるものに任せました。撮影は俳優が登場人物の陥った苦境を感じ取れるよう順撮りで行いました。最終的に大量のラッシュがあり、編集は映画製作の中でも非常に重要な過程になりました。シナリオ執筆と準備が創作活動の50%、2週間もかからなかった撮影は20%、そして数か月かかった編集作業が30%です。

――その方法を俳優たちはどのように受け止めていましたか。
この方法は、彼らが演じる役柄を膨らませるような大きな自由を与えたので、彼らは気に入っていました。実りある協力関係でした。準備中、私とスタッフは物語の舞台となり、撮影が行われる界隈に入りびたり、住人と接し、どのように暮らしているのかを観察しました。そのあと、俳優に同じことを求め、振舞い方、話し方を掴んでもらいました。昼や夜は地元の人たちと一緒に食事をし、製作準備中は、私たちが彼らを招きました。セリフのなかにはこうしたやり取りから生まれたものもあります。

――警察署はスタジオのセットですよね。
本物の警察署です。普段そこに勤務している警官たちは、私たちが撮ろうとしている内容を知っていました。しかし、彼らは、自分たちのことだとは全く感じていなかったのです! マニラの警察署は住所不定の子供が大勢います。ちょっとした盗みを働いて捕まるのですが、家族がいないので警察に留まり、小間使いをしたりしています。よくあることなのです。

――現在の社会をそのままに映し出している内容であり、製作の中止を求める声などはあがらないのでしょうか。
『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』の時は軍隊から脚本をみせろといわれたこともあったり、たまに撮影を止められたりすることもあります。しかしリアルを求めて、できるだけ実際の現場で撮影しているので、ある程度のリスクは覚悟しています。

――この作品では心理を描いていません。アクションがあるのみです。登場人物は常に動き、争いあい、歩き、倒れ、立ち上がります。
彼らにとってはこれがいつもの、日常的な状況なのです。彼らは物事をあるがままに受け取る。彼らは感覚が麻痺してしまっているので、嘆きも抵抗もしない。そもそもほかに選択の余地もないのです。ローサの娘ラケルが転ぶ場面は象徴的です。彼女はとても狭い路地を歩いている。ほかに道はありません。誰かが水を捨てる。別に悪意からではありません、仕事だからです。娘は滑り、転ぶ。でも彼女は文句も言わず、自分を転ばせた老婆をなじりもしない。ただ立ち上がって、歩みを続けるだけです。

――子供たちがみなで親の負債を負うのが印象的です。
それも実際にあったことなのです。私はこの点に興味を引かれ、また痛ましいとも思いました。子供たちはまだ若い。彼らはいい市民とは言えませんが、いい子供ではあるのです。彼らの両親もいい市民ではないが、いい親なのです。家族の絆は時に道徳を外れます。人はある面では悪人でも、別な面では善人であることがありうる。登場人物それぞれの感情を見せることをあえて抑えました。ローサが涙を流す最後の場面まで。彼女は何も後悔していない。生き延びるためには後悔している暇もないし、道徳や犯した罪のことなど考えてはいられない。進まなければならないのです。
それでも彼女は最後に人間味を見せる。それはあらゆる人の持つ人間性の集約です。その苦しみは彼女と共にある。しかし彼女は強くいなければならないし、するべきことをしなければなりません。ほかの一家が店を閉めるのを彼女は見ます。その家族も生き延びようとしていて、その家族に何が起こっているのかはわかりません。ナイーブで傷つきやすい家族かもしれません。そして、それは、彼女が見ていた家族にも起こりえることなのです。

――ローサとその夫ネストール役にジャクリン・ホセとフリオ・ディアスを選んだ理由はなぜでしょうか。
彼らは1980年代初めにデビューしていますが、その時私はまだ美術監督でした。一緒にパブで働き、友人になりました。ジャクリンは私の最初の映画に出演しています。それから何度か、「サービス」と「どん底」などで夫婦の役を演じてもらっています。ジャクリンもフリオもそれぞれ役者としてのキャリアを積んでいますが、私と仕事するときには、私の映画のスタイルを知っていて、私が彼らに期待するものを知っています。だから仕事がやりやすいのです。この作品では、ジャクリンの実の娘アンディ・アイゲンマンが、ローサの娘ラケルを演じています。

――カンヌ国際映画祭で、ジャクリン・ホセが主演女優賞を受賞したときはどう思われましたか。
驚きました。あんなにたくさんの名だたる女優さんたちがライバルでしたから。コンペティション部門に映画を出品し、フィリピン人の運命の一片を全世界に語ることができる、それだけで大いに認められたことになりますし、ジャクリンの演技が称賛されるだろうということは分かっていました。でもここまでとは思いもよりませんでした! ジャクリンが主演女優賞を獲得したことは私たちの国にとって非常に名誉あることです。東南アジアの女優で、カンヌ国際映画祭で受賞したのは初めてですからなおさらです。

■私感 :
私の個人史上、フィリピン訪問はこれまでに1度。2010年5月、マニラ(Manila)→ターラック(Tarlac)に滞在した。それは、身につまされる諸体験を味わう旅だった―。
本作はフィリピンの素顔とも言うべき貧困層と警察の暗澹たる現状を全編手持ちカメラのドキュメンタリー・タッチの映像で活写!何というスリリングさとリアルさ!

2015年現在のフィリピンの貧困率は約22%、その多くがひしめき合ってスラムに暮らしている。スラムでは犯罪は絶えず、薬物常習者、密売人も多い。
小さなコンビニでは、雑貨や食料品と同じ感覚で麻薬が売られている。あまりにも生活に浸透した麻薬汚染問題は、フィリピンが抱える深刻な病巣だが、スラムで生きる貧しい人々はこの商売で生きているのだ。問題はかなり根深い。
根深いのは、警察の腐敗ぶりも同じだ。警察は押収した麻薬の横流しや密売人への恐喝など“捜査”の名のもとに私腹を肥やし、悪事がバレそうになれば暴力も殺人もいとわない。
誰かに密告させて逮捕した人間に、法外な手打ち金ー口止め料(見逃し金)を払わせ、別の誰かの名前を聞き出し、また逮捕、金を要求。ローサもまた密告されたわけだが、それは繰り返される“おなじみの出来事”にすぎない。自分や家族を守るためには、誰かを密告するしかない。この絶望的なスパイラルの元凶が警察組織なのだから、唖然呆然、もはや溜め息さえ出ない…。

Cf. 【貧困(出典:フィリピン統計機構〈Philippine Statistics Authority〉) : フィリピンの貧困率は、2015年は21.6%で約2200万人。この数年で貧困率は5%ほど下がり、GDPは上昇しているが、人口も増えているため、貧困人数は下がらず、富はひたすらに富裕層へ集中している。15年に食事を確保する上で最低限必要な「食糧費」は、月1266ペソ(約2820円)、5人家族で6329ペソ(約14430円)と言われている。貧困が深刻な「収入」が「食糧費」より下回る人は8.1%、820万人が最低限必要な食事すら口にできていない計算になる。】
【フィリピンの麻薬状況 : なぜフィリピンで麻薬が大きな社会問題なのか? 歴史上、スペイン、アメリカの大国からの侵略・蹂躙に晒されてきたフィリピンは大きな産業が育ちづらく、比較的小さな工場で作りやすく単価も高い、覚醒剤の密造・銃器の密造が盛んになったと考えられる。特に多くの貧困地区では過酷な労働に耐えるため、薬物が蔓延している。薬物に汚染された国民と密売人は一説では30人に1人とも言われている。ただ、フィリピンの麻薬犯罪などの統計は、数字の幅が大きく正確な数は把握できない。】
2017年12月20日(水)下高井戸シネマ(東京都世田谷区松原3-27-26、京王線・東急世田谷線下高井戸駅から徒歩2、3分)で、15:00~鑑賞。

作品データ :
原題 A STREET CAT NAMED BOB
製作年 2016年
製作国 イギリス
配給 コムストック・グループ
上映時間 103分




夢に破れてホームレスとなり、薬物にも溺れていた青年が一匹の野良猫との出会いを機に再生していく姿を描く、実話がベースのハートフルなドラマ。原作はイギリスでシリーズ合計1000万部を超える大ヒットを記録した、ジェームズ・ボーエン(James Bowen、1979~)のノンフィクション“A Street Cat Named Bob”(2012)(服部京子訳『ボブという名のストリート・キャット』辰巳出版、2013年)。主演は『タイタンの戦い』のルーク・トレッダウェイ、共演にルタ・ゲドミンタス、ジョアンヌ・フロガット、アンソニー・ヘッド。また、猫のボブ役にはボブ本人が起用され、映画初出演とは思えない見事な演技を披露している。監督は『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』『シックス・デイ』のロジャー・スポティスウッド。

ストーリー :
ジェームズ(ルーク・トラッダウェイ)はロンドンでプロのミュージシャンを目指すが夢破れ、家族にも見放されて、今はホームレスとなっていた。人生に目的も目標もなく、薬物依存から抜け出すこともできず、まさにドン底の生活を送っていた彼のもとに、足にケガをした一匹の野良猫が迷い込んでくる。「ボブ」と名付けられたその猫を、ジェームズはなけなしの金をはたいて看病する。それ以来、どこに行くにも一緒の二人は、次第に世間の注目を集めるようになる。彼らの前には次々と試練や困難が立ちはだかるが、ジェームズはボブのためにも、それらを一つ一つ乗り越えていく。やがて、大きなチャンスが訪れる…。

▼予告編



▼メイキング映像 :



▼ cf. James Bowen and a Street Cat Named Bob (2012/05/04 に公開) :
(James Bowen was a homeless busker but when he met an injured cat, both of their lives were transformed. James Bowen wrote a best-selling book, A Street Cat Named Bob, which reveals his and Bob's heartwarming story.)

2017年12月8日(金)新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3-15-15、JR新宿駅東口より徒歩5分)で、18:50~鑑賞



作品データ :
原題 MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 114分


“ミステリーの女王”と呼ばれるアガサ・クリスティ(Agatha Christie)の名作小説をジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォーをはじめとする一流キャストの豪華共演で映画化。トルコ発フランス行きの豪華寝台列車オリエント急行を舞台に、密室の車内で起きた殺人事件を巡って、容疑者である乗客全員にアリバイがあるという難事件に挑む名探偵エルキュール・ポアロの活躍を描く。シェイクスピアの戯曲から、『マイティ・ソー』などのSFまで幅広いジャンルを手がけるケネス・ブラナーが監督を務め、ポアロ役にも挑戦する。脚本を手がけたのは、マイケル・グリーン。2017年には、ジェームズ・マンゴールドの『LOGAN/ローガン』、リドリー・スコットの『エイリアン:コヴェナント』、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『ブレードランナー 2049』、そして本作とグリーンの脚本映画が立て続けに4本公開される。

ストーリー :
エルサレムで教会の遺物が盗まれ、鮮やかな推理で犯人を突き止めた、名探偵のエルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)。イスタンブールで休暇をとろうとした彼だが、イギリスでの事件の解決を依頼されて急遽、オリエント急行に乗車する。

※オリエント急行(Orient Express、初期には Express d'Orient)の起源は、国際寝台車会社(Compagnie internationale des wagons-lits、日本での通称「ワゴン・リ」社)により1883年に運行がはじめられたパリ ‐ コンスタンティノープル(イスタンブール)間の列車(当時は一部船舶連絡)である。その後、西ヨーロッパとバルカン半島を結ぶ国際寝台車会社の列車群が「オリエント急行」を名乗るようになった。西ヨーロッパ側の起点はパリのほかフランスのカレーやベルギーのオーステンデなどがあり、バルカン半島側の終点はイスタンブールのほかギリシャのアテネやルーマニアのコンスタンツァ、ブカレストなどがあった。第二次世界大戦前までは上流階級や外交官、富裕層の乗り物だったが、戦後は観光列車として一般化した。

出発したオリエント急行でくつろぐポアロに話しかけてきたのは、アメリカ人富豪のラチェット(ジョニー・デップ)だ。脅迫を受けているという彼は、ポアロに身辺の警護を頼む。しかし、ポアロはラチェットの要請をあっさりと断るのだった。
深夜、オリエント急行は雪崩のために脱線事故を起こし、山腹の高架橋で立ち往生してしまう。そして、その車内では殺人事件が起こっていた。ラチェットが12か所も刺され、死体で発見されたのだ。乗り合わせていた医師のアーバスノット(レスリー・オドム・Jr)は、死亡時刻を深夜の0時から2時の間だと断定する。
鉄道会社のブーク(トム・ベイトマン)から捜査を依頼されたポアロは、列車は雪に閉ざされており、犯人は乗客の中にいると確信、一人ひとりへの聞き込みを開始する。ラチェットの隣室のハバード夫人(ミシェル・ファイファー)が「自分の部屋に男が忍び込んだ」と訴えるなど、乗客たちの証言によって、さまざまな事実が明らかになってきた。しかし、乗客全員にアリバイがあり、ポアロの腕をもってしても犯人像は浮上しない。
ラチェットの部屋で発見された手紙の燃え滓(かす)から明らかになったのは、彼がかつて“デイジー・アームストロング誘拐事件”に関わっていた事実だった。少女を誘拐し、殺害したラチェットが、復讐のために殺されたのか?殺害犯は乗客の中にいるのか、それとも…?

※「デイジー・アームストロング誘拐事件」とは、5年前にアメリカで起きた出来事で、富豪アームストロング家の一人娘である3歳のデイジーが誘拐され、後に殺害されたという残忍な事件。検察はアームストロング家でメイドをしていたスザンヌを容疑者として捜査を進めていた。スザンヌは無実であったが検察の執拗な追及により自殺してしまう。デイジーの母親ソニアは、当時妊娠中で、事件のショックから早産のため母子ともに死亡。そして、デイジーの父親、ソニアの夫アームストロング大佐もその後に拳銃自殺してしまうという、悲惨な結末を迎えた。この事件の真犯人の名は、「カセッティ」。彼はその後、名前を変え「ラチェット」と名乗る―。ちなみに、デイジー・アームストロング事件は、1932年にアメリカを騒がせた“リンドバーグ愛児誘拐事件”~1927年に初の大西洋単独無着陸飛行に成功したことで有名な飛行士チャールズ・リンドバーグ(Charles Lindbergh、1902~74)の長男ジュニア(1歳8か月)が、1932年3月1日にニュージャージー州ホープウェルの自宅から誘拐され、10週間に及ぶ探索と誘拐犯人との身代金交渉の後に、5月12日に邸宅付近で遺体として発見された~をモデルにしているとされる。

【事件の捜査は暗礁に乗り上げたかと思われたが、ポアロは天性の直観と丹念な推理で事件の真相を紡ぎ出していく。だが、衝撃の真相を前にしてポアロは懊悩する。真実を優先すべきなのか、それとも、正義を優先すべきなのか、と。やがて、彼は世の中には白でも黒でもないグレーゾーンがあることを認めるというエモーショナルな決断を下すことになる。】

▼予告編



▼ Behind the Scenes ― Movie B-Roll & Bloopers :



▼ジョニー・デップ(Johnny Depp、1963~、ラチェット役)のインタビュー :