謎の金融日誌 -4ページ目

ハイブリッド証券 : スキーム(その2)発行体と投資家

ハイブリッド証券のスキームの前提条件についてのエントリのつづきです。今回は2(発行体の属性)と3(投資家の属性)についてです。

2.発行体は内国法人なのか外国法人なのか
  発行体が内国法人の場合、課税所得計算上は利息は損金算入で配当は不算入。投資家側は源泉税20%(所得税15%(法人の場合))が本則となります。また 配当の受取が法人ならば二重課税回避のために益金不算入ですね。外国法人の日本子会社が日本で円債を発行する場合(いわゆるサムライ債やその変形)の場合 も同じです。日本企業が投資家を海外からも含め広く集めたいのであれば、海外の金融子会社=外国法人経由が一般的で(ユーロ円債)、これは昔から行われて います。この場合の法人税・源泉税は外国子会社の所在地の税法によって異なってきます。

3.投資家は居住者なのか非居住者なのか、PEの有無はどうか
 投資家の立ち位置によって課税関係が変わる点も考慮すべきポイントです。簡単にいえば投資家が日本の会社(居住者)かどうか、日本の会社でなくても日本で事業をしている(PEがある)かどうか、が基準となります。
ま ず居住者というのは、単純には日本国内に本店がある会社、すなわち日本の会社です。外国の会社であれば本店がその会社の本国なので居住者になりません。こ の「本店の場所によって判断する」のを本店主義といったりします。国税庁は原則的には本店主義のようです。ただしややこしいのは相手国が本店主義ではな く、「その会社が主として事業を行っている場所を居住地にする」という「管理地主義」を採用している国の場合は、どこが居住地がすぐに決まりませんので、 実質で判断されることになります。
さて居住者であれば日本企業の発行した社債の利息や株式の配当を受取れば国内源泉所得になりますから通常の課税 がなされます。次に非居住者の場合ですが、事業に供する恒久的施設(=Permanent Establishment、PEと略称)がある者は課税、無い者は非課税となります。PEは単にオフィスビルに事務所を借りていなければいいというもの ではなく、実態として国内で事業活動を行っている拠点として国税庁から認定されてしまうとPEになります(高級ホテルやサービスオフィスの1部屋だけを長 期で借り切って仕事をしている外資系ファンドなども、ほぼ「PE有り」となります。まあ、最近は撤退が多いですけども)。単に外国企業であるとか非居住者 であるとかだけではダメということですね。機関投資家やファンドが相手の場合は日本で本業を行っていなくても、何らかのマーケティングや営業活動の拠点を 設置したり、駐在員を置いている場合も多いでしょう。これはPE有りに該当する場合も多くなります。これを回避するには、その投資家のグループ企業でPE のない海外SPC経由で投資してもらうか、外-外で投資してもらうといった工夫が必要になります。
(つづく)

ハイブリッド証券 : スキーム(その1)

ハイブリッド証券のバリエーションにはいろいろありますが、IRでよくみかけるスキーム図はだいたい似通っています。しかし非常に基本的なところでよく受けるご質問に

「なぜ本体で優先株を発行せずにケイマンの特別目的会社(SPC)からなのか?節税対策なんだろうと漠然とは思うけど実際にはどうなのか」
「なぜ本体では社債形式にしてSPCでは優先出資証券という形にするのか?」

というものがあります。
こ の観点はハイブリッド証券に特有のものではなく、証券化やプロジェクトファイナンスなど「仕組もの」には共通する部分です。今日はこの点について簡単にま とめておきます(規制や税制はころころ変わるのと、個別の発行事例は発行体や投資家のさまざまな利害や市場環境にも影響されるので一概にはいえません が)。

まず、この手の案件を考えるときに注意が払われるのは「税金」の問題です。その際のポイントは以下のとおりです。
 1.発行されるのは債券なのか株なのか
 2.発行体は内国法人なのか外国法人なのか
 3.投資家は居住者なのか非居住者なのか
 4.発行地は日本なのか海外なのか
 5.利子や配当を受取るのは日本なのか海外なのか
こんなところでしょう。この点をもとに発行体側の利子や配当が損金算入できるか(法人税の節税)、投資家側の源泉税がなくて済むかなどが検討されます。何回かに分けて順次みてみましょう。

1.発行されるのは債券なのか株なのか
  ハイブリッド証券は、資本増強を目的としつつ、利払や配当はできるだけ損金で落としたいのが発行体側の本音です。また投資家側も発行体側の法人税が圧縮さ れた商品設計ならばそれだけ高いリターンを期待できることになります。しかし純粋な社債だと資本性の度合いが落ちてしまい、よい格付ももらえないため困り ます。そこで、理想的には法人税控除後も高い利回りとなる優先株するか、利払が業績に連動する利益参加型の劣後社債が考えられます。しかし前者だとかなり 高い収益を見込んでおかないと十分な優先配当を約束できなので発行体としてはつらくなります。そもそも収益力が落ちている中で発行するのが通常ですから、 配当をコミットするレベルはできるだけ下げておきたいところです。一方、利益参加型の社債の利払は国内では損金不算入となる恐れがあり、スキームとして安 定しません。そこで、発行体自身では社債形式で調達し、証券の形式がよりゆるい海外では優先株(優先出資証券)を発行するという選択肢が考えられます。
(つづく)

CB償還

「CB繰り上げ償還相次ぐ 機関投資家が現金化急ぐ」 日経2009年3月13日

 上場企業が海外で発行した海外円建て新株予約権付社債 (転換社債=CB)の繰り上げ償還が相次いでいる。凸版印刷が二千二四年に満期を迎える六百億円のCBのほぼ全額を二十九日に、東武鉄道やソフトバンクな ども月末に約五百億円を償還する。金融危機で現金化を急ぐ機関投資家が、発行条件で定めた権利(オプション)を行使しているためだが、条件通りの償還に応 じられないケースも出ている。

 CBの繰り上げ償還は、投資家側が実際の償還期限より前倒しで会社側に償還を求めること。満期償還までの期間が長い場合が多いため、投資家の選択肢を広げる目的で発行条件に付けられることが多い。
  凸版が繰り上げ償還するのは〇四年に発行した二十年物のCBで、額面の九九%に当たる五百九十五億六千万円。〇八年末の現預金と有価証券を合せた手元流動 性は千九百八十八億円あり「今回の繰り上げ償還は手元資金で行う予定」。繰り上げ償還後の発行残高の四億四千万円は凸版が繰り上げ償還権を持つが行使する かどうかは未定だ。
 東武鉄道も一六年が満期のCB五百億円のうち四百八十二億三千万円を三十一日に繰り上げ償還する。「権利行使は想定していたが、ここまでになるとは思わなかった」(財務部)としているが、償還に備え、複数の金融機関からの協調融資で賄う考えのようだ。
 三月末にはソフトバンクが一五年満期の五百億円を全額償還。日本特殊陶業も約百六十一億円のうち百三十四億円強を償還する。
  発行時の条件通りの満額繰り上げ償還が難しい企業もある。アセット・マネジャーズ・ホールディングスは二月十六-二十七日の繰り上げ償還の権利行使を前に 社債権者集会を開き①繰り上げ償還額を額面五〇%に減額②満期償還の一年延長③満期償還額は九〇%などで合意。十八日の繰り上げ償還は百三十億円のうち額 面で一億円、実額は五千万円強になる見通し。
 原弘産も二月二十日だった繰り上げ償還日を前に、社債権者に対し額面の一五%での買入れを打診。十三日にスイスで社債権者集会を開く。

ジャルコ社債で注意喚起

「ジャルコ社債で注意喚起」 2009年3月4日

 ジャスダック証券取引所は三日、AV機器接続端子メーカーのジャルコが二日に発表したMSCB(株価によって条件が変わる転換社債)の発行に対し、「株主の権利への配慮が著しく欠ける」として、投資家に注意を喚起するための公表措置を取った。
 ジャスダックはMSCBの引受先が新株予約権を行使することで既存株主の持ち分が大幅に希薄化する可能性があると判断。ジャルコに対し新株予約権の転換、行使を制限するよう勧告したが、同社が従わなかったため公表した。
 ジャルコは「運転資金が枯渇しており、他の資金調達方法が契約に至らなかったため」と説明している。

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(コメント)
本 件の評判は当然よくないと思いますが、会社自身が資金繰りに窮していると認めて発行している場合、単に既存株主の価値の希薄化を論じても意味がありませ ん。比べるべきなのは、「法的整理に入ったときに債権者・株主が得られる弁済率」と「ここでMSCBなどの方法で急場をしのいだ場合の弁済の可能性」で す。もっとも両者を厳密に計算し尽くすことは無理ですが、何でもアリの状況になってしまった場合に延命先を講じることを一概に責めることはできません。た だ、外部の投資家からすれば内部関係者がどこまできちんと忠実義務を果たしているのかが不透明になりがちなのも確かです。調達計画と併せて経営陣の処遇も 含めた再建策を市場に問うことも欠かせないでしょう。

産業ファンドの劣後債発行

「劣後債発行 産業ファンドが発表」 日経2009年2月18日

 不動産投資信託(REIT)の産業ファンド投資法人は一七日、三菱商事 を引受先に八十億円の劣後債を発行すると正式発表した。REITによる劣後債発行は初めて。通常の投資法人債(社債に相当)に比べて資本性が強いため取引 先金融機関は有利子負債と認識せず、財務体質を改善できると判断した。
 払込日は二十七日。調達資金の大半を借入金返済に充てる。保有物件を売却することもあり、六月末の実質的な有利子負債比率を五〇%弱と昨年十二月末比で約一〇ポイント下げる。
 二〇〇九年六月期は劣後債発行など資金調達関連費用がかさみ、純利益が前期比二三%減の七億円となる見通し。

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(コメント)

REIT 初のメザニンになりますね。REITは本来、優良物件の賃料収入を得てそのほとんどを配当するというビークルですから、事業の多角化にともなうキャッシュ フローの分散が大きくなったり小さくなったりすることがあまり想定されていません。メザニンを出すこと自体、非常時といえます。事業を運営している事業会 社や金融機関であれば経営方針によりキャッシュフローの大きさとバラツキを選択できるわけですが、物件の集合体に過ぎないREITの場合はそれも限界があ るわけで。端的にいえば資金繰り対応のものとしか言いようがないので、深い意味を詮索しても仕方ないかもしれません。