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ハイブリッド証券 : 基礎(2)似たような概念

 今回はハイブリッド証券と似たような概念をいくつか整理しておきます。とりあげるのは「メザニン証券」「エキゾチック証券」「仕組債」です。

1.メザニン証券
  メザニン証券はハイブリッド証券とほぼ同義の言葉です。「メザニン」(Mezzanine)という言葉はもともと英語で「中二階」を意味する単語で、まさ に1階である普通株式と2階である負債の間にある中二階に位置する証券、ということになります。単にメザニンとも呼ばれ、その場合は個々のメザニンローン やメザニン債を指す場合もあります。
 ではハイブリッド証券とメザニン証券は何が違うかというと、私見では語感というか利用される場面が違いま す。ハイブリッド証券は「負債と普通株式の中間の商品の総称」として主としてマーケットの機関投資家が投資対象のカテゴリーを整理するときに使っている印 象です。たとえばマーケットで普通に流通しているCBなどは株への転換権が付いているハイブリッド証券ですが、これをメザニンとは通常呼びません。

  これに対してメザニンは企業再生とかM&A案件においてハイレバレッジ化するときにシニア(優先)債と普通株の間を埋める調達手段として使われる語感があ ります。ユーザーとしては企業再生関係者やPE投資家などのハイリスクで流動性の低い案件をストラクチャリングしたり投資したり人たちの印象があります。 また商品性もハイブリッド系とメザニン系では「クセ」が異なります。たとえば通常のCBであれば社債部分の条件は市場の実勢とあまりかけ離れた条件をつけ ることはできないでしょう。一方案件の特殊性が高く一部の投資家のクラブ・ディールになることの多いメザニンの場合は、金利や配当水準が相対で決まるため 一般のCBなどとかなり異なることも多いでしょう(ただしメザニン案件同士の条件比較は詳細に行われます)。また投資家にエクイティ・キッカーと呼ばれる インセンティブを追加で付与することも珍しくありません。

2.エキゾチック証券(商品)・仕組債
 エキゾチック証券(またはエキ ゾチック商品)とは、預金や社債や株式といったプレーンな証券ではない、複雑な仕組みを持った証券全般を指します。さまざまなデリバティブを組み込んだ金 融商品はすべてエキゾチック証券になります。一般に目にするものでは以下のような例があります。
 
 ・外貨預金
 ・預け入れと元本償還が円で、金利が外貨建ての預金
 ・預け入れは円建て、金利と元本償還が外貨建ての預金
 ・預け入れ期間を銀行側の裁量で決められる預金
 ・日経225

  エキゾチック証券はかならずしも「負債と普通株式の中間」という限定されたものではなく「原資産にデリバティブが組み合わされたもの」くらいの意味合いと なります。その点ではエキゾチック証券はハイブリッド証券も含む概念といえるかもしれません。通常は、そこまで厳密な区分けや解釈論などはしませんし、商 売上は重要な話ではありませんが。
 これに関係して「仕組債」という言葉もあります。これはその名のとおり「プレーンな債券にデリバティブなどの 条件が組み込まれたもの」といえます。古典的なものではCBやワラント債、ABSなどが該当します。償還や為替の換算などに複雑な条件が付いたもの、その 他の証券化商品をベースとした債券なども仕組債のカテゴリに入ります。仕組みが複雑だからといって必ずしも資本性が高いといったわけではなく、さまざまな キャッシュフローを創り出せる点を重視した商品です。負債と株式の中間といった切り口ではなく商品の仕組みの視点からの整理といえるでしょう。

ハイブリッド証券 : 基礎(1)ハイブリッド証券とは

ハイブリッド証券を組成する際の税務的な側面をいろいろ取り上げてきましたが、そもそもハイブリッド証券とは何かについてまとめておきましょう(順番が ちょっと逆でしたか)。簡単にいうと「負債と資本(普通株式)の中間的な証券」を意味します。そこで負債と普通株式の持つ性格を改めて整理しておきましょ う。

 1.負債
  ①元本を返済しなければならない
  ②満期がある
  ③固定した(または何らかの指標に固定的に連動した)利息が払われる
  ④発行会社が好業績でも利息の増額を求めることは出来ないが、業績が悪化しても利息が
   経営陣の判断で減額されるわけでもない
  ⑤債権者は投資額を超える責任を求められることはなく、有限責任である
  ⑥投資家(債権者)には負債の発行会社の経営に参加する権利はない
  ⑦発行会社が清算や破綻する場合、残余財産の分配請求権は株主より優位である
  ⑧発行会社が破綻したとき、経営権が株主から債権者に移転する(正確には裁判所から
   指名された管財人弁護士などが債権の回収と弁済に当る)
  ⑨金利は発行会社の課税所得計算において損金になる

 2.普通株式
  ①元本を発行会社が返済する義務はない
  ②満期はない
  ③固定した利息の支払はなく、経営陣の判断で毎期の配当が決められる。
  ④発行会社が好業績なら配当が増額されたり、業績が悪化すれば無配となることもある
  ⑤株主は出資額を超える責任を求められることはなく、有限責任である
  ⑥投資家(株主)には株式数に応じて発行会社の経営に参加する権利があ
   る
  ⑦発行会社が清算や破綻する場合、残余財産の分配請求権はすべての債権者に劣後する。
   多くの場合、株式の価値はゼロになる
  ⑧発行会社が破綻したとき、経営権を失う
  ⑨配当は発行会社の課税所得計算において損金にならない

 上記1、2で列挙した点を念頭に置きながらハイブリッド証券の持つ性質をみてみます。

 3.ハイブリッド証券の特徴
  ①元本返済の義務がある場合(劣後債)と無い場合(優先株)がある
  ②元本返済の義務がある場合でも、満期が無いか超長期である(50年など)
  ③利息や配当の支払は通常の債券や借入に劣後する。または業績が一定程度悪化した
   場合は支払が停止される。ただし支払われる場合は普通株式の配当よりは優先される
  ④投資家は投資・出資額を超える責任を求められることはない
  ⑤投資家には経営参加権はない
  ⑥発行会社が清算や破綻する場合、残余財産の分配請求権は上位の債権者より劣後する
   が、普通株主よりは優位である
  ⑦発行会社が破綻しても経営権が移転されない
  ⑧証券が劣後社債なら利息は損金になるが、優先株なら損金にはらなない。ただし商品設計
   により課税当局の判断が変わる可能性はある
  ⑨証券には普通株式への転換権や転換権のついた社債(CB)への交換権が付与される場合
   が多い。ただし転換権が強力すぎると既存株主の価値下落の懸念が強まるため、たくさん
   付けることはできない
 ただし、上記①~⑨の性格は個々の商品性によって大きくことなっており、かなり負債に近いものから普通株式に近いものまでさまざまです。分類としては、負債に近いものから

 ・一般の社債やローン
 ・劣後債・劣後ローン
 ・優先株式・優先出資証券
 ・普通株株式

な どとなりますが、分類が同一であって発行条件は個々の証券によりかなり異なっています。したがって①~⑨の特徴を同時にすべて満たしているわけではないも のや、満たしていても程度が異なるものは無数に存在します。まさに「負債と普通株式の中間」であればなんでもハイブリッド証券に該当するのです。なお、会 社法でいうところの「種類株」も普通株式とは異なった条件が付随しているという点でハイブリッド証券の仕組みによく利用されますが(配当優先株)、種類株 というだけでは特に負債の性格を持っているわけではないので単独でハイブリッド証券にはなりません。むしろ普通株式に比べ株主の権利が制限されているとい うものが普通なので(議決権制限株など)、普通株式より劣後しているとさえいえるかもしれません。

ハイブリッド証券  : スキーム(その4)まとめ

前回まででハイブリッド証券を出す際の前提条件となる環境を説明しましたが、ごちゃごちゃしているのでまとめてみましょう。発行体と投資家のニーズは以下の感じです。

1.発行体は発行する証券の利子・配当などを損金にしたい
 → 社債を発行すれば利子は損金算入可。しかも劣後社債の形式にすれば経済実態は株式
  同様のものを設計可能。
2.発行体は財務基盤強化のために資本性のある証券を出したい
 → 優先株なら資本性があるが、そのままだと課税面で魅力がない。課税がなくて優先株に
  類似した証券を出せる仕組みがほしい。
 → そのためには軽課税国で規制の緩い国に金融子会社を置いて発行すればよい。その際、
  この子会社の信用力の裏づけは日本の親会社が発行する劣後社債と親会社からの保証と
  なる。
3.投資家は日本や発行地の源泉税、法人税、消費税などを最小にしたい
 → 軽課税国で日本にPEのない非居住者のステータスで日本企業の金融子会社に投資する。

なお、不動産証券化などに詳しい方なら「資産流動化法の特定目的会社(TMK)を使って似たようなことができるのではないか?」という指摘もありそうです。TMKの場合、
 ・TMKの保有する特定資産が有価証券の場合は利子・配当の源泉課税を免除する
 ・TMKが配当可能利益の90%以上を配当する場合には配当の損金算入を認める
と いう特典があります。しかし資産流動化計画の提出は必要なこと、優先出資は公募扱いで発行・継続開示の負担が重いこと、課税上の特典を受けるためには、募 集を主として国内で行うこと(発行価額の50%以上)、優先出資には適格機関投資家のみによる引受けか50人超の引受人が必要なことなどの条件がありま す。国内募集を中心とすると海外投資家を集められないかもしれません。またここでいう適格機関投資家にはSPCが入らないので、海外の金融機関などは SPC経由でなく自社で投資しなければならず、それだと居住者またはPEのある非居住者となってしまうため、いずれにしても課税面で魅力が失われてしまう のです。
 これに対して、ケイマンでSPCを設立した場合に海外投資家のメリットとしてよく挙げられる点をみてみると、
 ・法人税、源泉課税がない
 ・SPCの設立コストは安い
 ・資産流動化計画の届出や規制上の各種登録・認可なども不要
 ・SPCにケイマンでの帳簿保存義務はなく、会計監査も義務ではない
 ・取引、書面とも英語で処理できる
 ・英米法の慣行で取引を処理できるので法的に安定したスキームにできる
 ・軽課税国の中でも政情が安定している
 ・ニューヨークとの時差が1時間しかないので業務の遂行上便利である
などがあります。こうした点を勘案すると、日本の銀行や大企業が資本調達する際には、ユーロ円建ての劣後債の発行+ケイマンSPCの設立と劣後債引受け+ケイマンでの優先出資証券の発行を組み合わせるのが良いことがわかります。

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記述で補足が必要な部分がありました。

海外発行して「PEなし非居住者」または「外国法人」が日本企業の海外発行の債券の利子を受け取っても節税になるというのは、「民間国外債の利子の非課税の特例」が延長されているためです。

ハイブリッド証券 : スキーム(補足)過少資本とか・・・

前回でケイマンSPCを使ってユーロ債と優先出資証券を発行する意味を説明しましたが、少し補足です。それは

「過少資本税制とかタックス・ヘイブン税制とかは関係しないのか?」

というご質問を頂戴したからです。私は税の専門家ではないのでそろそろボロが出かかっていますが(笑)、私の理解では以下のとおりです。

1.過少資本税制
  外国企業の日本子会社が親会社から資金調達をする際に、増資で調達するとそのリターンである親への配当は子会社の損金扱いとなりませんが、借入で調達すれ ばその利息は子会社の損金になります。したがって税金込みのリターンを最大にするにはできるだけ資本を少なくして借入で調達するのがいいということになり ます。こうした資本を過少にして課税を回避する行動を抑制するために過少資本税制があります。
 具体的には、「日本子会社の外国支配株主または資金提供者に係る負債の総平均が外国支配株主等からの資本の3倍を超える場合」などは、その超える額にかかる利息について損金算入を認めないというものです。
 この税制は外国支配株主とその日本子会社という位置関係を想定しているので、日本の大企業が海外に子会社を設立して資金調達するという位置関係とは逆になりますから、過少資本税制が想定する事象とは異なることになります。

2.タックス・ヘイブン税制
  タックス・ヘイブン税制は日本企業が海外における事業活動で得た利益を軽課税国(租税回避地)に留保したまま日本での課税を圧縮しようとする行動を防止す るためのものです。例としてよくあるのはパナマとかリベリアにおける便宜地籍船やキャプティブを使った節税などです。これは日本の親会社が租税回避地に子 会社を作り、海外事業で得た利益を留保している場合に、その一部について留保金課税を行うことにより租税回避地の利用を抑制します。ハイブリッド証券をケ イマンSPCで調達するようなケースでは、SPCは日本企業の100%子会社ではあるものの、その収益は親会社から買った劣後債の利息だけですからそもそ も「海外の事業で得た利益」になり得ません。しかもこの利息はすべて優先出資証券の投資家に配当されて留保はされず、親会社にも配当しないのですからタッ クス・ヘイブン税制的にいう租税回避には当らないと思います。

ハイブリッド証券 : スキーム(その3)発行地と収益の受取地

ハイブリッド証券の仕組みについてのつづきです。今回は4(発行地)と5(利息・配当を受取る場所)についてです。

4.発行地は日本なのか海外なのか
  発行体が日本企業で発行通貨が円でも発行地が日本でないといけないわけではありません。1980年代から日本企業は低コストで発行規制の緩いユーロ円債市 場での調達を行ってきています。若干道草すると80年代末のバブル期には転換社債やワラント債を盛んに発行していました。これもハイブリッド証券の一種で す。まだユーロ円債自体に適債基準があったり、ユーロ円債の国内還流制限があったりと規制だらけの時代でした。90年代はバブル崩壊による調達意欲の低下 とジャパンプレミアムのせいで起債自体が激減しましたが、2000年代に入ってからはユーロ円市場での大規模な起債はまた増えた印象がありますね。ただし ゼロ金利政策などでコスト的には国内でも海外でもあまり変わりません。最近大企業がユーロ円市場を指向する理由は、調達ソースが細る中にあって多様な投資 家にアプローチすること、投資家のリターン/税務ニーズへの対応、大規模な調達の達成(アベイラビリティ)ためなどと思われます。

5.利子や配当を受けとるのは日本なのか海外なのか
  ハイブリッド証券が海外で発行されると想定します。その利子・配当の受け取りパターンは、①日本でカストディアンや信託の日本の口座で受け取る場合と②発 行地など海外の支払口座で受取る場合があります。受取人が内国法人の場合、①なら発行地(現地)国の源泉税がまず外国税額控除として所得から差引かれて残 額に国外源泉税15%がかかります。ただしこれは租税条約を締結している国の場合です。②の場合は国内源泉税の特例があり、現地の支払金融機関で受取る場 合には源泉20%のみとなっています(外国株式で上場しているものは7%になる特例があります)。
 なお、非居住者が海外法人が発行する証券の利子・配当を受取る場合は源泉なしとなります。
(つづく)