無議決権株と評価
「無議決権株を追う㊦ 普通株より割安に評価 日本市場の未熟さ反映?」 2008年7月19日 日経
「日本の株式市場のために、議決 権のない優先株は必要だ。我々が実験台になる」。伊藤園の本庄八郎社長は他社に先駆け、昨年九月に同株を上場させた意義をこう強調する。「議決権の拡散を 恐れ、資金調達に踏み切れない企業にとって成長の一助になる」と同社長。だが高い理想と裏腹に、伊藤園の無議決権優先株の株価は上場来、低空飛行が続いて いる。
配当が普通株に連動し二五%上乗せされるにもかかわらず、株価は上場来ずっと、普通株より三―四割安いまま。伊藤園に続く企業が出ないのは「今、上場させても市場で割安に評価される」(大手食品企業)との警戒感もある。
なぜ価格差がこれほど開くのか。理由の一つに、無議決権優先株が「東証株価指数(TOPIX)に採用されていないため、流動性が低い」との指摘がある。
野村証券金融工学研究センターの新谷理クオンツアナリストは、伊藤園の無議決権優先株がTOPIXに採用された場合、「指数連動型の投資信託などの買い で、一時的には株価を二百―三百円ほど押し上げる効果がある」とみる。もっとも時価総額が小さいため「保有しなくても、指数との連動性に影響はない」(ク オンツ運用担当者)とあって、継続的な売買注文で流動性が高まるかは不透明だ。
もう一つ、「普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している」との見方がある。
日本の無議決権優先株と仕組みが似ているイタリアでは、個人投資家の株式投資促進を目的に、同株が一九七〇年代に広まった。当初は普通株より株価が八割も安いケースもあったが、株主保護の法制度が見直された九〇年代後半以降は、価格差が縮小傾向にある。
とはいえ、普通株との価格差は依然二割前後。「イタリアと同様、少数株主保護の制度にまだ改善の余地が大きい」(商法学者)とされる韓国もサムスン電子が 三割安、LG電子が五割安など普通株との価格差が大きい。一方、株主のクラスアクション(集団訴訟)制度などが整備された米国では、普通株との価格差が 五%前後にとどまる。
国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かない よう経営を監視する必要が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。普通株より割安に放置された伊藤園の無 議決権優先株が、日本の株式市場そのものの未成熟ぶりを反映しているなら、なんとも皮肉な話ではある。
無議決権優先株に対する日本の投資家の評 価はまだ定まっていない。だが例えば欧州では、欧州連合(EU)が昨年「無議決権株を発行している企業の業績や企業統治は、他の企業に比べても決して劣っ ていない」とする調査結果を公表。同株を発行する企業が、株主の目を逃れ低成長に甘んじているわけではないと断じた。日本の企業もそうした評価を得るに は、投資家との信頼関係を一つ一つ積み重ねていくしか解はなさそうだ。
「日本の株式市場のために、議決 権のない優先株は必要だ。我々が実験台になる」。伊藤園の本庄八郎社長は他社に先駆け、昨年九月に同株を上場させた意義をこう強調する。「議決権の拡散を 恐れ、資金調達に踏み切れない企業にとって成長の一助になる」と同社長。だが高い理想と裏腹に、伊藤園の無議決権優先株の株価は上場来、低空飛行が続いて いる。
配当が普通株に連動し二五%上乗せされるにもかかわらず、株価は上場来ずっと、普通株より三―四割安いまま。伊藤園に続く企業が出ないのは「今、上場させても市場で割安に評価される」(大手食品企業)との警戒感もある。
なぜ価格差がこれほど開くのか。理由の一つに、無議決権優先株が「東証株価指数(TOPIX)に採用されていないため、流動性が低い」との指摘がある。
野村証券金融工学研究センターの新谷理クオンツアナリストは、伊藤園の無議決権優先株がTOPIXに採用された場合、「指数連動型の投資信託などの買い で、一時的には株価を二百―三百円ほど押し上げる効果がある」とみる。もっとも時価総額が小さいため「保有しなくても、指数との連動性に影響はない」(ク オンツ運用担当者)とあって、継続的な売買注文で流動性が高まるかは不透明だ。
もう一つ、「普通株にあって優先株にない議決権の価値が大きいから、価格差が拡大している」との見方がある。
日本の無議決権優先株と仕組みが似ているイタリアでは、個人投資家の株式投資促進を目的に、同株が一九七〇年代に広まった。当初は普通株より株価が八割も安いケースもあったが、株主保護の法制度が見直された九〇年代後半以降は、価格差が縮小傾向にある。
とはいえ、普通株との価格差は依然二割前後。「イタリアと同様、少数株主保護の制度にまだ改善の余地が大きい」(商法学者)とされる韓国もサムスン電子が 三割安、LG電子が五割安など普通株との価格差が大きい。一方、株主のクラスアクション(集団訴訟)制度などが整備された米国では、普通株との価格差が 五%前後にとどまる。
国の法制度や市場のルールが未整備で、企業経営に対する規律付けが弱いと、株主は自ら議決権を握り、株主の利害に背かない よう経営を監視する必要が増す。その場合、議決権の価値は増大し、結果として無議決権株と普通株の価格差が広がる。普通株より割安に放置された伊藤園の無 議決権優先株が、日本の株式市場そのものの未成熟ぶりを反映しているなら、なんとも皮肉な話ではある。
無議決権優先株に対する日本の投資家の評 価はまだ定まっていない。だが例えば欧州では、欧州連合(EU)が昨年「無議決権株を発行している企業の業績や企業統治は、他の企業に比べても決して劣っ ていない」とする調査結果を公表。同株を発行する企業が、株主の目を逃れ低成長に甘んじているわけではないと断じた。日本の企業もそうした評価を得るに は、投資家との信頼関係を一つ一つ積み重ねていくしか解はなさそうだ。
無議決権株と支配権確保
「無議決権株を追う㊤ 透ける「支配権確保」の思惑 導入計画に反発強く」 2008年7月18日 日経
議決権がない「無議決権株」の 発行を検討する企業が、じわり増えてきた。伊藤園が昨年九月、無議決権株の一種で、普通株より配当が多く普通株への転換を前提としないタイプの「無議決権 優先株」を国内で初めて上場。今年六月にはワタミやゼンリンも同種の株式を発行できるよう定款を変更した。東京証券取引所も市場の育成に乗り出したが、無 議決権株に対する投資家の評価はまだ低く、定着に向けた課題は多そうだ。
六月二十一日、ワタミの株主総会が国技館(東京・墨田)で開かれた。約六千五百人が詰めかける“大入り”ぶりだったが、総会前、渡辺美樹社長には心配のタネがあった。無議決権優先株の定款変更議案のことだ。
話は三日前にさかのぼる。安定株主である取引先金融機関の担当者がワタミ本社を訪ね、応対した中川直洋執行役員に、同議案の「議決権行使を棄権する」と通 告した。同じ企業が発行する株は権利も同じであるのが望ましい、という理由のようだ。報告を受けた渡辺社長は「普段友好的な株主に初めて渋い顔をされた」 とショックを隠せなかった。
総会では、今度は複数の個人株主が、増資で一株当たり利益が希薄化する懸念を訴えた。渡辺社長は「(定款変更しても株は)すぐには発行しません」と念を押し、議案は可決された。
似た光景はゼンリンでもあった。五月八日にワタミと同様の定款変更議案を発表後、機関投資家を訪問すると、予想外の反発に遭った。ゼンリンの筆頭株主は創 業家の資産管理会社。企業にとって無議決権優先株は、議決権のある株主の構成を変えずに、株式市場で資金調達できるのが一つのメリット。だが、投資家の目 には「創業家の支配権を希薄化させないための単なる便法ではないか」と映ったのだ。
「経営と保有は分離している」(柏木順取締役)とはいえ、買収防衛策の導入とセットだったこともあり好意的な受け止め方は少なかった。総会では数%の反対票が出たが、「株主は選択肢が増える」と強調し議案の可決にこぎつけた。
ソフトバンクも五月八日に「資金調達手段をできるだけ多様化しておこう」(後藤芳光財務部長)と、無議決権優先株の発行に向け定款を変更する考えを表明し た。既存の普通株を持つ株主に無議決権優先株を無償で割り当てる考えだったが、株価が急落し一転、総会への提案を断念した。
株価急落の背景に は、同社が将来、無議決権優先株で増資するのではないかという懸念と、「流通性の低い株を割り当てられる」ことへの反発があった。無議決権優先株は議決権 がなく流動性が低い分、普通株より価格が割安になるため、株主は普通株を割り当てられるのに比べ、保有する同社株全体の時価が目減りする可能性がある。
無議決権優先株を使い、株主還元を拡大して「ファン株主」を増やしたいとの思いは各社に共通している。だが、ここまで導入を表明した企業がすべてオーナー系企業である点に、投資家は、支配権を拡散させたくないという企業の秘めた思いを敏感に感じとっているようでもある。
議決権がない「無議決権株」の 発行を検討する企業が、じわり増えてきた。伊藤園が昨年九月、無議決権株の一種で、普通株より配当が多く普通株への転換を前提としないタイプの「無議決権 優先株」を国内で初めて上場。今年六月にはワタミやゼンリンも同種の株式を発行できるよう定款を変更した。東京証券取引所も市場の育成に乗り出したが、無 議決権株に対する投資家の評価はまだ低く、定着に向けた課題は多そうだ。
六月二十一日、ワタミの株主総会が国技館(東京・墨田)で開かれた。約六千五百人が詰めかける“大入り”ぶりだったが、総会前、渡辺美樹社長には心配のタネがあった。無議決権優先株の定款変更議案のことだ。
話は三日前にさかのぼる。安定株主である取引先金融機関の担当者がワタミ本社を訪ね、応対した中川直洋執行役員に、同議案の「議決権行使を棄権する」と通 告した。同じ企業が発行する株は権利も同じであるのが望ましい、という理由のようだ。報告を受けた渡辺社長は「普段友好的な株主に初めて渋い顔をされた」 とショックを隠せなかった。
総会では、今度は複数の個人株主が、増資で一株当たり利益が希薄化する懸念を訴えた。渡辺社長は「(定款変更しても株は)すぐには発行しません」と念を押し、議案は可決された。
似た光景はゼンリンでもあった。五月八日にワタミと同様の定款変更議案を発表後、機関投資家を訪問すると、予想外の反発に遭った。ゼンリンの筆頭株主は創 業家の資産管理会社。企業にとって無議決権優先株は、議決権のある株主の構成を変えずに、株式市場で資金調達できるのが一つのメリット。だが、投資家の目 には「創業家の支配権を希薄化させないための単なる便法ではないか」と映ったのだ。
「経営と保有は分離している」(柏木順取締役)とはいえ、買収防衛策の導入とセットだったこともあり好意的な受け止め方は少なかった。総会では数%の反対票が出たが、「株主は選択肢が増える」と強調し議案の可決にこぎつけた。
ソフトバンクも五月八日に「資金調達手段をできるだけ多様化しておこう」(後藤芳光財務部長)と、無議決権優先株の発行に向け定款を変更する考えを表明し た。既存の普通株を持つ株主に無議決権優先株を無償で割り当てる考えだったが、株価が急落し一転、総会への提案を断念した。
株価急落の背景に は、同社が将来、無議決権優先株で増資するのではないかという懸念と、「流通性の低い株を割り当てられる」ことへの反発があった。無議決権優先株は議決権 がなく流動性が低い分、普通株より価格が割安になるため、株主は普通株を割り当てられるのに比べ、保有する同社株全体の時価が目減りする可能性がある。
無議決権優先株を使い、株主還元を拡大して「ファン株主」を増やしたいとの思いは各社に共通している。だが、ここまで導入を表明した企業がすべてオーナー系企業である点に、投資家は、支配権を拡散させたくないという企業の秘めた思いを敏感に感じとっているようでもある。
「株主配分を考える㊦」 2008年7月12日 日経
「株主配分を考える」㊦ 2008年7月12日
問われる横並び 成長に応じた配当がカギ
「日本企業は金太郎あめだなあ。」六月下旬、企業の配当政策をテーマにしたセミナーで、日米主要五百社の配当性向の分布をみたある機関投資家は、思わずこう漏らした。
配当性向は純利益からどれぐらい配当に回したかを示す指標。日本の上場企業の配当性向は二〇〇七年度約三〇%と、欧米主要企業の四割前後に比べ見劣りする。だが、集計値から個別企業へ視点を移すと、意外な実態が浮かび上がる。
みずほ証券が日本のTOPIX(東証株価指数)五〇〇と米国のS&P五〇〇の各採用企業について、二〇〇七年の配当性向を調べたところ、日本企業は約二割が十五-二〇%に集中し、六割以上が一〇-三〇%の範囲に収まった。
これに対して米国は分布がばらついているのが特徴だ。最も多いのが無配で十九%を占める。インターネット検索最大手で急成長を遂げてきたグーグルは上場以来、無配が続く。逆に配当性向一〇〇%超、つまり利益を上回る配当をする企業が四%ある。
米国では配当政策は個々の企業の成長ステージを基準に考える。投資家は成熟産業に対しては利益の多くを配当するよう求める。一方、成長企業に対しては「企 業価値を上げるチャンスがあるなら配当より成長投資を優先しても構わない」(インベスコ投信投資顧問の川上敦取締役)と無配も許容する。米国は上場企業全 体でみると、実は八割が無配という。
企業の成長性にかかわらず配当性向が平均値に集中する日本。「他社並みに」という経営者の横並び意識が、企業の配当政策の個性を無くしている。
今年一月に約四千億円で有望新薬候補を持つ米MGIファーマを買収したエーザイ。買収費用で二〇〇八年三月期は上場来初の最終赤字になったが、増配を継続 した。「減配してもいいですよ」。ある外資系投資顧問はエーザイにこんなアドバイスをした。成長投資で赤字なら、あえて増配する必要はないと考えているか らだ。
米運用会社のブランデス・インベストメント・パートナーズは今春、投資先であるに日比谷総合設備の配当政策に疑問を投げかけた。「大幅増配や自社株買いでいったん余剰資本を圧縮したうえで、配当性向を適正化したらどうか」というのがブランデスの主張だ。
投資家が求めるのは必ずしも高配当とは限らない。求められるのは個々の企業の経営実態に即した配当政策だ。少数派ではあるが、国内でも自社の成長ステージを見極めた配当政策を取る企業も現れ始めた。
七月初旬、英投資会社シルチェスター・インターナショナル・インベスターズのファンドマネジャーが靴販売大手のチヨダの本社を訪れ、「投資家を向いた経営に感謝します」と謝辞を述べた。
国内の靴販売市場は縮小傾向にある。チヨダは安定した利益は上げられるが、大幅な伸びは期待できない。白土孝取締役は「もはや多額の投資を必要としない以 上、利益をできるだけ株主に配分するのが筋だ」と語る。単独ベースの配当性向八〇%を目標に掲げ、利益の八割を配当する。
日本企業が六期連続の 増益で積み上げた手元資金は〇八年三月期末で四十六兆七千億円。かつてないカネ余り状態が続いている。成長企業は資金を投資に振り向け、資金余剰の成熟企 業は配当や自社株買いで資金を市場へ返す。こうした当たり前の資本政策を実践できるか。企業に問われているのは、哲学のある株主配分だ。
問われる横並び 成長に応じた配当がカギ
「日本企業は金太郎あめだなあ。」六月下旬、企業の配当政策をテーマにしたセミナーで、日米主要五百社の配当性向の分布をみたある機関投資家は、思わずこう漏らした。
配当性向は純利益からどれぐらい配当に回したかを示す指標。日本の上場企業の配当性向は二〇〇七年度約三〇%と、欧米主要企業の四割前後に比べ見劣りする。だが、集計値から個別企業へ視点を移すと、意外な実態が浮かび上がる。
みずほ証券が日本のTOPIX(東証株価指数)五〇〇と米国のS&P五〇〇の各採用企業について、二〇〇七年の配当性向を調べたところ、日本企業は約二割が十五-二〇%に集中し、六割以上が一〇-三〇%の範囲に収まった。
これに対して米国は分布がばらついているのが特徴だ。最も多いのが無配で十九%を占める。インターネット検索最大手で急成長を遂げてきたグーグルは上場以来、無配が続く。逆に配当性向一〇〇%超、つまり利益を上回る配当をする企業が四%ある。
米国では配当政策は個々の企業の成長ステージを基準に考える。投資家は成熟産業に対しては利益の多くを配当するよう求める。一方、成長企業に対しては「企 業価値を上げるチャンスがあるなら配当より成長投資を優先しても構わない」(インベスコ投信投資顧問の川上敦取締役)と無配も許容する。米国は上場企業全 体でみると、実は八割が無配という。
企業の成長性にかかわらず配当性向が平均値に集中する日本。「他社並みに」という経営者の横並び意識が、企業の配当政策の個性を無くしている。
今年一月に約四千億円で有望新薬候補を持つ米MGIファーマを買収したエーザイ。買収費用で二〇〇八年三月期は上場来初の最終赤字になったが、増配を継続 した。「減配してもいいですよ」。ある外資系投資顧問はエーザイにこんなアドバイスをした。成長投資で赤字なら、あえて増配する必要はないと考えているか らだ。
米運用会社のブランデス・インベストメント・パートナーズは今春、投資先であるに日比谷総合設備の配当政策に疑問を投げかけた。「大幅増配や自社株買いでいったん余剰資本を圧縮したうえで、配当性向を適正化したらどうか」というのがブランデスの主張だ。
投資家が求めるのは必ずしも高配当とは限らない。求められるのは個々の企業の経営実態に即した配当政策だ。少数派ではあるが、国内でも自社の成長ステージを見極めた配当政策を取る企業も現れ始めた。
七月初旬、英投資会社シルチェスター・インターナショナル・インベスターズのファンドマネジャーが靴販売大手のチヨダの本社を訪れ、「投資家を向いた経営に感謝します」と謝辞を述べた。
国内の靴販売市場は縮小傾向にある。チヨダは安定した利益は上げられるが、大幅な伸びは期待できない。白土孝取締役は「もはや多額の投資を必要としない以 上、利益をできるだけ株主に配分するのが筋だ」と語る。単独ベースの配当性向八〇%を目標に掲げ、利益の八割を配当する。
日本企業が六期連続の 増益で積み上げた手元資金は〇八年三月期末で四十六兆七千億円。かつてないカネ余り状態が続いている。成長企業は資金を投資に振り向け、資金余剰の成熟企 業は配当や自社株買いで資金を市場へ返す。こうした当たり前の資本政策を実践できるか。企業に問われているのは、哲学のある株主配分だ。
「株主配分を考える」日経2008年7月11日
「株主配分を考える(上) 揺れる業績連動 指標を工夫 減配抑える」 日経2008年7月11日
日本企業の株主配分が岐路に立ってい る。業暦連動型の配当政策が定着してきたが、原材料高や米国景気の減速などで企業業績が停滞する懸念が出ているからだ。業績に連動して配当を減らすか、減 配を避けて安定性を強調するか。投資家が増配圧力を高める中、企業は難しい判断を迫られている。
「年間配当三十円を確保するように努めております」--。半導体製造装置メーカーの東京精密は「最低額保証型」の配当政策を打ち出し、二〇〇九年三月期の決算短信にこう明記した。
半導体メーカーの投資抑制で今期の連結純利益は前期比半減になる見通し。「連結配当性向三〇%」との目標を掲げているが、これを厳格に適用すると、今期の配当は五十二円減の約十八円になってしまう。
同社の約四割の株主は配当志向が強い個人株主。最低額の目安を提示したのは、大幅減配を回避する「理屈が必要だったから」(高田泰男執行役員)という。今期は記念配を付け、年四十円にする予定だ。
上場企業は好業績を背景に株主への利益配分を増やしてきた。〇七年度の配当総額は七兆六千億円と過去最高を更新。純利益からどれだけ配当を支払うかを示す「配当性向」の目標を設定するなど、業績連動型の株主配分が普及したことも配当額を増やす原動力になった。
ところが、配当の財源となる企業収益に暗雲が広がっている。上場企業は今期に七期ぶりの減益となる見通し。「業績連動型の配当が定着して初めての減益局 面」(メリルリンチ日本証券の菊池正俊ストラテジスト)を迎える。業績連動型というなら、減益ならば減配してもよいはずだが、そう簡単ではない。
「減益だから減配や無配というのは短拓的だ」。生命保険協会の小野恵司企画部担当部長はこうクギを刺す。個人㈱ぬ主だけでなく、生損保や銀行など安定株主にとって配当は貴重な収入源。経営者もイメージダウンにつながる減配はなるべく避けたいのが本音だ。
そこで、配当額の変動を抑制する配当指標がじわり広がっている。配当の下限の基準を提示する「最低額保証型」と、自己資本に対する配当額の割合を示す「自己資本配当率(DOE)」が代表的な指標だ。
大和総研の調べによると、TOPIX(東証株価指数)五〇〇採用銘柄のうち配当指標を公表している企業は二百五社。配当性向のみが百四十八社と最も多いが、最低額保証型は二十四社、DOEは十九社ある。
東京急行電鉄は〇九年三月期からの中期経営計画でDOE二%をめどとした。越村敏昭社長はアナリスト向け説明会で「株主価値向上を意識した経営にかじを切った」と強調した。
配当性向が配当額を純利益で割るのに対して、DOEは配当額を自己資本で割って計算する。純利益に比べて金額の大きい自己資本を分母とするため、数値の変 動は小さくなる。大和総研の鈴木政博クオンツアナリストは「安定配当を好む経営者にとって使い勝手が良い指標」と指摘する。
ただ、DOEは国際性がないという欠点がある。「欧米で採用している企業はほとんど聞いたことがない」(ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンの小口俊朗社長)。業績好調時でも増配幅が限定されるので、株式投資の魅力をそぐとの声もある。
安定配当から業績連動型へ変わってきた日本の株主配分。収益環境の悪化を受けて、企業は業績連動と安定性のバランスを模索し始めた。
(最低額保証型)
・奥村組:安定配当9円または配当性向50%の相当額の高い方
・マキタ:年間配当18円を下限とし、連結配当性向30%以上を基本方針
・中部電:配当性向40%をメド。年60円配の維持に努める
・東京精:連結配当性向30%をメド。市況低迷時も年30円配当を確保するよう努める
(自己資本配当率 DOE)
・オリックス:当面はDOE2%を目安
・三井化学:連結配当性向25%以上、DOE2%
・東急:中計3ヵ年期間中はDOE2%
・オートバックス:11年3月期にDOE3%目標
(了)
→ 投資家の機会費用という観点が相変わらず無い。安定配当の考え方は毎月分配のグロソブのような感じ。預金じゃないんだから業績連動でいい。DOEは分母 が自己資本だから投資効率に近い概念を表すけど、簿価自己資本じゃ話にならないし、自己資本の変動の要因分解によっては恣意的な指標になるし、時間の概念 もないし中途半端はたしか。しかも投資効率指標としても2%じゃ国債だよ。
四半期配当もできるようになったのだから、四半期毎の株式時価総額に 対する配当割合とかで決めるとかどうなんでしょうか。メリットとしては①時価ベースの自己資本になる、②会計科目上の変動ではなく市場からの評価だけに影 響される、③四半期という投資期間を明示できる、④四半期ベースでの数値により、年1回の減配・無配ショックを緩和させられる、といった点があるのでは。 デメリットとしては(1)四半期での結果を問われる、(2)配当実務が面倒、(3)株価が乱高下する懸念、などがあるかも③と(3)は相対的にどちらか影 響大きいか分かりませんが。
日本企業の株主配分が岐路に立ってい る。業暦連動型の配当政策が定着してきたが、原材料高や米国景気の減速などで企業業績が停滞する懸念が出ているからだ。業績に連動して配当を減らすか、減 配を避けて安定性を強調するか。投資家が増配圧力を高める中、企業は難しい判断を迫られている。
「年間配当三十円を確保するように努めております」--。半導体製造装置メーカーの東京精密は「最低額保証型」の配当政策を打ち出し、二〇〇九年三月期の決算短信にこう明記した。
半導体メーカーの投資抑制で今期の連結純利益は前期比半減になる見通し。「連結配当性向三〇%」との目標を掲げているが、これを厳格に適用すると、今期の配当は五十二円減の約十八円になってしまう。
同社の約四割の株主は配当志向が強い個人株主。最低額の目安を提示したのは、大幅減配を回避する「理屈が必要だったから」(高田泰男執行役員)という。今期は記念配を付け、年四十円にする予定だ。
上場企業は好業績を背景に株主への利益配分を増やしてきた。〇七年度の配当総額は七兆六千億円と過去最高を更新。純利益からどれだけ配当を支払うかを示す「配当性向」の目標を設定するなど、業績連動型の株主配分が普及したことも配当額を増やす原動力になった。
ところが、配当の財源となる企業収益に暗雲が広がっている。上場企業は今期に七期ぶりの減益となる見通し。「業績連動型の配当が定着して初めての減益局 面」(メリルリンチ日本証券の菊池正俊ストラテジスト)を迎える。業績連動型というなら、減益ならば減配してもよいはずだが、そう簡単ではない。
「減益だから減配や無配というのは短拓的だ」。生命保険協会の小野恵司企画部担当部長はこうクギを刺す。個人㈱ぬ主だけでなく、生損保や銀行など安定株主にとって配当は貴重な収入源。経営者もイメージダウンにつながる減配はなるべく避けたいのが本音だ。
そこで、配当額の変動を抑制する配当指標がじわり広がっている。配当の下限の基準を提示する「最低額保証型」と、自己資本に対する配当額の割合を示す「自己資本配当率(DOE)」が代表的な指標だ。
大和総研の調べによると、TOPIX(東証株価指数)五〇〇採用銘柄のうち配当指標を公表している企業は二百五社。配当性向のみが百四十八社と最も多いが、最低額保証型は二十四社、DOEは十九社ある。
東京急行電鉄は〇九年三月期からの中期経営計画でDOE二%をめどとした。越村敏昭社長はアナリスト向け説明会で「株主価値向上を意識した経営にかじを切った」と強調した。
配当性向が配当額を純利益で割るのに対して、DOEは配当額を自己資本で割って計算する。純利益に比べて金額の大きい自己資本を分母とするため、数値の変 動は小さくなる。大和総研の鈴木政博クオンツアナリストは「安定配当を好む経営者にとって使い勝手が良い指標」と指摘する。
ただ、DOEは国際性がないという欠点がある。「欧米で採用している企業はほとんど聞いたことがない」(ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンの小口俊朗社長)。業績好調時でも増配幅が限定されるので、株式投資の魅力をそぐとの声もある。
安定配当から業績連動型へ変わってきた日本の株主配分。収益環境の悪化を受けて、企業は業績連動と安定性のバランスを模索し始めた。
(最低額保証型)
・奥村組:安定配当9円または配当性向50%の相当額の高い方
・マキタ:年間配当18円を下限とし、連結配当性向30%以上を基本方針
・中部電:配当性向40%をメド。年60円配の維持に努める
・東京精:連結配当性向30%をメド。市況低迷時も年30円配当を確保するよう努める
(自己資本配当率 DOE)
・オリックス:当面はDOE2%を目安
・三井化学:連結配当性向25%以上、DOE2%
・東急:中計3ヵ年期間中はDOE2%
・オートバックス:11年3月期にDOE3%目標
(了)
→ 投資家の機会費用という観点が相変わらず無い。安定配当の考え方は毎月分配のグロソブのような感じ。預金じゃないんだから業績連動でいい。DOEは分母 が自己資本だから投資効率に近い概念を表すけど、簿価自己資本じゃ話にならないし、自己資本の変動の要因分解によっては恣意的な指標になるし、時間の概念 もないし中途半端はたしか。しかも投資効率指標としても2%じゃ国債だよ。
四半期配当もできるようになったのだから、四半期毎の株式時価総額に 対する配当割合とかで決めるとかどうなんでしょうか。メリットとしては①時価ベースの自己資本になる、②会計科目上の変動ではなく市場からの評価だけに影 響される、③四半期という投資期間を明示できる、④四半期ベースでの数値により、年1回の減配・無配ショックを緩和させられる、といった点があるのでは。 デメリットとしては(1)四半期での結果を問われる、(2)配当実務が面倒、(3)株価が乱高下する懸念、などがあるかも③と(3)は相対的にどちらか影 響大きいか分かりませんが。
さまざまな株主還元指標
<日経 2008年6月6日>
「新日石 自己資本配当率を導入 株主配分 今期2%以上目標」
・2009年3月から配当総額÷自己資本=自己資本配当率(DOE)を導入。原油高で純利益の
変動リスクが高まっている中、短期的な業績変動に左右されにくいDOEを採用した。
・今期のDOE見通しは2.2%。純利益は前期比62%減の見通しながら配当はDOEにより8円
増配の20円。なお過去三年のDOEは平均1.5%だった。
<日経 2008年6月6日>
「第一三共の今期 1000万株超自社株買いへ 製薬大手が株主配分強化」
・製薬大手四社の株主配分が強化される。第一三共は1000万株超の自社株買い(発行済株式
の1.4%)、武田薬品工業も配当と自社株買いによる株主配分が純利益の二倍程度に膨らむ。
アステラス、エーザイも増配や自社株買いを予定。四社合算の株主配分額は5,400億円で、
予想純利益の4,550億円に対して総配分性向(=(配当+自社株買い)÷純利益)は86%から120%近くまで高まる。
・武田の現金同等物残高は1兆6千億円。アステラスなども多額の数千億円の手元資金を持ち、
株主から資本効率改善を求められている。
各社とも配当性向、DOE、総配分性向などさまざまな指標で株主還元を考えているようです。
しかしどのような指標が適切なのか、記事からはあまり分かりません。指標の定義は、
1.配当性向=配当÷純利益
2.DOE=配当÷自己資本
3.総配分性向=(配当+自社株買い)÷純利益
と なっており、それぞれ2%を目指す(新日石、DOE)、100%以上にする(武田、総配分性向)などとなっていますが、根拠までは不明です。投資家側の要 求収益率と整合的でなければ意味はないわけです。その点ではCAPMといった市場指標(または、簡単にはROE)で比べないと資本効率がわかりません。純 利益をどう分配するのかということと資本に対してどう還元するかというのは考えている段階が異なっています。少なくとも資本効率でハードルを考慮したうえ で、毎期の純利益に対する配分を決めるのが順序といえます。自社株買い自体は当面の資本効率を引き上げはするでしょうが、分配への業績としてカウントされ るのはやや違和感があります。自社で過去決定した増資を否定しているだけともとれるわけなので。
「新日石 自己資本配当率を導入 株主配分 今期2%以上目標」
・2009年3月から配当総額÷自己資本=自己資本配当率(DOE)を導入。原油高で純利益の
変動リスクが高まっている中、短期的な業績変動に左右されにくいDOEを採用した。
・今期のDOE見通しは2.2%。純利益は前期比62%減の見通しながら配当はDOEにより8円
増配の20円。なお過去三年のDOEは平均1.5%だった。
<日経 2008年6月6日>
「第一三共の今期 1000万株超自社株買いへ 製薬大手が株主配分強化」
・製薬大手四社の株主配分が強化される。第一三共は1000万株超の自社株買い(発行済株式
の1.4%)、武田薬品工業も配当と自社株買いによる株主配分が純利益の二倍程度に膨らむ。
アステラス、エーザイも増配や自社株買いを予定。四社合算の株主配分額は5,400億円で、
予想純利益の4,550億円に対して総配分性向(=(配当+自社株買い)÷純利益)は86%から120%近くまで高まる。
・武田の現金同等物残高は1兆6千億円。アステラスなども多額の数千億円の手元資金を持ち、
株主から資本効率改善を求められている。
各社とも配当性向、DOE、総配分性向などさまざまな指標で株主還元を考えているようです。
しかしどのような指標が適切なのか、記事からはあまり分かりません。指標の定義は、
1.配当性向=配当÷純利益
2.DOE=配当÷自己資本
3.総配分性向=(配当+自社株買い)÷純利益
と なっており、それぞれ2%を目指す(新日石、DOE)、100%以上にする(武田、総配分性向)などとなっていますが、根拠までは不明です。投資家側の要 求収益率と整合的でなければ意味はないわけです。その点ではCAPMといった市場指標(または、簡単にはROE)で比べないと資本効率がわかりません。純 利益をどう分配するのかということと資本に対してどう還元するかというのは考えている段階が異なっています。少なくとも資本効率でハードルを考慮したうえ で、毎期の純利益に対する配分を決めるのが順序といえます。自社株買い自体は当面の資本効率を引き上げはするでしょうが、分配への業績としてカウントされ るのはやや違和感があります。自社で過去決定した増資を否定しているだけともとれるわけなので。