東証の時価総額雑感
最近の株価の乱高下に関連してデータをちょっと眺めて見ます。
1.東証1部の時価総額推移
2007年 9月30日: 517兆円
2007年12月28日: 476兆円
2008年 3月31日: 389兆円
2008年 7月31日: 416兆円
2008年 8月15日: 398兆円
2008年10月17日: 286兆円
直近の時価総額は1年前の55%にまで下落しています。1年で日本のGDPの約半分に当る規模の時価総額が消えた勘定になります。特に最近の数ヶ月はまさに転げ落ちるような転落ぶりでした。
2.時価総額のシェア
時価総額の金額階層別にどれくらいの規模の会社がどれだけ分布しているかみてみました。
株価暴落前の8月半ばでは以下のとおりでした。
(2008年8月15日)
5兆円以上 : 10社(1部上場社数計に対する社数のシェア0.6%)
1兆円以上5兆円未満 : 78(4.5%)
5千億円以上1兆円未満 : 78(4.5%)
1千億円以上5千億円未満: 359(20.6%)
5百億円以上1千億円未満: 261(15.0%)
1百億円以上5百億円未満: 662(38.1%)
1百億円未満 : 291(16.7%)
次に暴落後の直近時点でもみてみます。
(2008年10月17日)
5兆円以上 : 4社(シェア0.2%)
1兆円以上5兆円未満 : 52(3.0%)
5千億円以上1兆円未満 : 73(4.3%)
1千億円以上5千億円未満: 295(17.3%)
5百億円以上1千億円未満: 234(13.7%)
1百億円以上5百億円未満: 661(38.7%)
1百億円未満 : 387(22.7%)
東 証1部に上場する会社の数は1700社あまりあるのですが、時価総額が5百億円に満たない会社が8月時点で54.8%、10月時点で61.4%もありま す。5百億円といえば、8月時点の時価総額398兆円の0.01%に過ぎません。一方で時価総額上位50社の市場1部の時価総額に占める割合は、
2008年8月15日 47.0%
2008年10月17日 46.6%
でともに5割弱にもなっています。時価総額5兆円以上の銘柄だけでみると、市場全体に占める時価総額の割合は8月時点で12.3%、10月時点でも11.8%もあります(社数シェアではともに0.2%)。
わ れわれは東証1部企業というとつい大手町や丸の内に本社を構え、多くの事業所や工場を持ち何万人もの従業員を抱えた大企業=「擬似トヨタ」や「プチ新日 鉄」を想像してしまいます。また、そうした企業がとてつもない価値で売買されていると漠然と思い描いてしまいがちです。しかしそんなことは
幻想にすぎない
のですね。いわんや東証2部やJASDAQはおろか、新興市場などマメ粒のような会社がいっぱいあるわけです。当然、不祥事に遭ったり突然つぶれてしまう会社だって出てきます。
バリューやグロース、大型や小型といった紋切り型のカテゴリだけでなく、その会社の業暦や規模、経営力/人的リスクも含めた「格」みたいなものがもっと反映されやすい市場になれば・・・そんなことは無いものねだりなんですが・・・というのが雑感でした。
1.東証1部の時価総額推移
2007年 9月30日: 517兆円
2007年12月28日: 476兆円
2008年 3月31日: 389兆円
2008年 7月31日: 416兆円
2008年 8月15日: 398兆円
2008年10月17日: 286兆円
直近の時価総額は1年前の55%にまで下落しています。1年で日本のGDPの約半分に当る規模の時価総額が消えた勘定になります。特に最近の数ヶ月はまさに転げ落ちるような転落ぶりでした。
2.時価総額のシェア
時価総額の金額階層別にどれくらいの規模の会社がどれだけ分布しているかみてみました。
株価暴落前の8月半ばでは以下のとおりでした。
(2008年8月15日)
5兆円以上 : 10社(1部上場社数計に対する社数のシェア0.6%)
1兆円以上5兆円未満 : 78(4.5%)
5千億円以上1兆円未満 : 78(4.5%)
1千億円以上5千億円未満: 359(20.6%)
5百億円以上1千億円未満: 261(15.0%)
1百億円以上5百億円未満: 662(38.1%)
1百億円未満 : 291(16.7%)
次に暴落後の直近時点でもみてみます。
(2008年10月17日)
5兆円以上 : 4社(シェア0.2%)
1兆円以上5兆円未満 : 52(3.0%)
5千億円以上1兆円未満 : 73(4.3%)
1千億円以上5千億円未満: 295(17.3%)
5百億円以上1千億円未満: 234(13.7%)
1百億円以上5百億円未満: 661(38.7%)
1百億円未満 : 387(22.7%)
東 証1部に上場する会社の数は1700社あまりあるのですが、時価総額が5百億円に満たない会社が8月時点で54.8%、10月時点で61.4%もありま す。5百億円といえば、8月時点の時価総額398兆円の0.01%に過ぎません。一方で時価総額上位50社の市場1部の時価総額に占める割合は、
2008年8月15日 47.0%
2008年10月17日 46.6%
でともに5割弱にもなっています。時価総額5兆円以上の銘柄だけでみると、市場全体に占める時価総額の割合は8月時点で12.3%、10月時点でも11.8%もあります(社数シェアではともに0.2%)。
わ れわれは東証1部企業というとつい大手町や丸の内に本社を構え、多くの事業所や工場を持ち何万人もの従業員を抱えた大企業=「擬似トヨタ」や「プチ新日 鉄」を想像してしまいます。また、そうした企業がとてつもない価値で売買されていると漠然と思い描いてしまいがちです。しかしそんなことは
幻想にすぎない
のですね。いわんや東証2部やJASDAQはおろか、新興市場などマメ粒のような会社がいっぱいあるわけです。当然、不祥事に遭ったり突然つぶれてしまう会社だって出てきます。
バリューやグロース、大型や小型といった紋切り型のカテゴリだけでなく、その会社の業暦や規模、経営力/人的リスクも含めた「格」みたいなものがもっと反映されやすい市場になれば・・・そんなことは無いものねだりなんですが・・・というのが雑感でした。
有利発行とは
新株や新株予約権を発行するときに、実務上特に注意が必要なのが
・有利発行
・不公正発行
の2点です。今回は有利発行を取り上げます。
有 利発行とは「新株・新株予約権を既存株主以外の第三者に宛てて発行する場合に、既存株主よりも特に有利な(安価な)金額(新株予約権の場合は「特に有利な 条件」)で発行する場合には、発行が定款上許されていても、発行条件について株主総会の特別決議を得なければいけない」という会社法(旧商法)上の規定に 抵触する状況を指します。なお新株予約権については総会決議により取締役(会)に発行条件の決定を委任することができます。
有利発行は会社における既存株主の価値を希釈化させ、持分を不当に低下させる危険があるからです。この点は大事なので、くどいですが形式的に確認しておきましょう。まず新株発行の場合です。
(旧商法280条ノ2第2項)※
「株 主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ株式ノ種類、数及最低 発行価額ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議(※1)アルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新 株ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス」
※1 特別決議を指す。
(会社法199条第3項)
「第一項第二号の払込金額(※2)が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会(※3)において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。」
※2 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。)又はその算定方法をいう。
※3 309条第2第5号において特別決議事項に指定されている。
次に新株予約権の場合です(それにしても、いまさらカタカナは読みにくい・・・)。
(旧商法280条ノ20第2項)
「・・・ 左ノ事項ハ取締役会之ヲ決ス但シ定款ヲ以テ株主総会ガ之ヲ決スル旨ヲ定メタルトキハ此ノ限ニアラズ。・・・(中略)・・・(第13号)株主以外ノ者ニ対シ 特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルトキハ其ノ旨並ニ新株予約権ノ割当ヲ受クル者、之ニ対シ割当ツル新株予約権ノ数及其ノ新株予約権ノ発行ノ条 件」
(同280条ノ21)
「株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ新株予 約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十 三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス(以下略)」
(会社法238条)
「(第2項)募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない(※4)。
(第3項)次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、第一号の条件又は第二号の金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
一 第一項第二号に規定する場合において、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者
に特に有利な条件であるとき。
二 第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であ
るとき。」
※4 309条2項6号による特別決議
(239条)
「前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数
の上限
二 前号の募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額の下限」
有利発行かどうかを巡っては過去たびたび実際に問題となり有名な裁判例もあります。このブログでは大それた法解釈などはとてもできませんが、証券設計という観点から興味深いのでいつくかの事例をとりあげてみようと思います。
・有利発行
・不公正発行
の2点です。今回は有利発行を取り上げます。
有 利発行とは「新株・新株予約権を既存株主以外の第三者に宛てて発行する場合に、既存株主よりも特に有利な(安価な)金額(新株予約権の場合は「特に有利な 条件」)で発行する場合には、発行が定款上許されていても、発行条件について株主総会の特別決議を得なければいけない」という会社法(旧商法)上の規定に 抵触する状況を指します。なお新株予約権については総会決議により取締役(会)に発行条件の決定を委任することができます。
有利発行は会社における既存株主の価値を希釈化させ、持分を不当に低下させる危険があるからです。この点は大事なので、くどいですが形式的に確認しておきましょう。まず新株発行の場合です。
(旧商法280条ノ2第2項)※
「株 主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ株式ノ種類、数及最低 発行価額ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議(※1)アルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新 株ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス」
※1 特別決議を指す。
(会社法199条第3項)
「第一項第二号の払込金額(※2)が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会(※3)において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。」
※2 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。)又はその算定方法をいう。
※3 309条第2第5号において特別決議事項に指定されている。
次に新株予約権の場合です(それにしても、いまさらカタカナは読みにくい・・・)。
(旧商法280条ノ20第2項)
「・・・ 左ノ事項ハ取締役会之ヲ決ス但シ定款ヲ以テ株主総会ガ之ヲ決スル旨ヲ定メタルトキハ此ノ限ニアラズ。・・・(中略)・・・(第13号)株主以外ノ者ニ対シ 特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルトキハ其ノ旨並ニ新株予約権ノ割当ヲ受クル者、之ニ対シ割当ツル新株予約権ノ数及其ノ新株予約権ノ発行ノ条 件」
(同280条ノ21)
「株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ新株予 約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十 三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス(以下略)」
(会社法238条)
「(第2項)募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない(※4)。
(第3項)次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、第一号の条件又は第二号の金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
一 第一項第二号に規定する場合において、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者
に特に有利な条件であるとき。
二 第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であ
るとき。」
※4 309条2項6号による特別決議
(239条)
「前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数
の上限
二 前号の募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額の下限」
有利発行かどうかを巡っては過去たびたび実際に問題となり有名な裁判例もあります。このブログでは大それた法解釈などはとてもできませんが、証券設計という観点から興味深いのでいつくかの事例をとりあげてみようと思います。
東武もハイブリッド証券を発行
「東武 「ハイブリッド証券」で負債増やさず資金調達」 2008年9月26日 日経
東武鉄道の二〇〇九年三月末の連結有利子負債(長 期未払い金含む)は約八千五百億円と、〇八年三月末に比べ四%ほど減る見通しだ。資本と負債の中間に位置する「ハイブリッド証券」を活用して八百億円を調 達すると二十五日発表したが、この手法による調達では負債が増えないためだ。
一二年春の開業を目指す新タワー「東京スカイツリー」(東京・墨田)建設など資金需要は旺盛で、財務内容が悪化しない調達方法を探る。
今回は英国領ケイマン諸島に本社を置く特別目的子会社に対し八百億円のユーロ円建て新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行。その子会社が日本政策投資 銀行など金融機関三行に同額の優先出資証券を割り当てる。連結決算で親子会社間の債権債務が相殺消去される。子会社が発行する優先出資証券が残り、貸借対 照表では純資産の少数株主持ち分が増える。
新タワー建設資金の約六百億円のうち二百六十五億円は放送事業者など外部から調達する。
東武鉄道の二〇〇九年三月末の連結有利子負債(長 期未払い金含む)は約八千五百億円と、〇八年三月末に比べ四%ほど減る見通しだ。資本と負債の中間に位置する「ハイブリッド証券」を活用して八百億円を調 達すると二十五日発表したが、この手法による調達では負債が増えないためだ。
一二年春の開業を目指す新タワー「東京スカイツリー」(東京・墨田)建設など資金需要は旺盛で、財務内容が悪化しない調達方法を探る。
今回は英国領ケイマン諸島に本社を置く特別目的子会社に対し八百億円のユーロ円建て新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行。その子会社が日本政策投資 銀行など金融機関三行に同額の優先出資証券を割り当てる。連結決算で親子会社間の債権債務が相殺消去される。子会社が発行する優先出資証券が残り、貸借対 照表では純資産の少数株主持ち分が増える。
新タワー建設資金の約六百億円のうち二百六十五億円は放送事業者など外部から調達する。
ペッキング・オーダー:外部調達手段の優先順位
ペッキングオーダー仮説では、経営陣は資金調達手法としてまず内部留保を選び、それで足りないときに初めて外部調達を行うと書きました。しかし外部調達
手段といっても銀行借入・社債・株式などがあります。転換社債や優先株といった証券を組成することも可能です。これら外部調達手段の間の優先順位はどう考
えたらよいのでしょうか。
実は、理論・実証両面で優先順位は
銀行借入→社債→転換社債など→普通株式
といった順番になることが分かっています。理論モデルはやや複雑になるので、ここでは直感的な説明をしておきましょう。
まず社債と株式の関係を考えます。両方とも外部調達手段なので経営陣と投資家の間には内部情報について情報の非対称性があります。したがっていずれの価格 も市場では過大評価または過小評価されることになります。投資家は両者の間の期待値で評価することになります(「一括均衡」だから)。社債と株式とでは相 対的には社債の方が過小評価の度合いが小さいため、優良企業はまず社債を発行します。一方不良企業も株式を発行すると将来への悲観的シグナルを自ら明らか にしてしまうことになるので、これを避けるためやはり社債を発行します。結局、外部調達ではまず社債が選ばれ、社債でも資金が不足する場合に株式が発行さ れるのです。
※一括均衡・・・情報の非対称性の下で、商品・サービスの質について情報の非対称性があるため過大評価も過小評価も適切に価格に反映されず、それらの期待値として価格が一括して定まってしまう状態。
※分離均衡・・・商品・サービスの品質を各企業が正しく顧客に伝達でき、品質に応じて「分離した」価格をそれぞれ付けられる状態。
このことを数値例でみてみましょう。T=0、1の2期で0期に資金調達および投資を行い、1期に回収を計画しているN社を考えます。初期投資には100の 資金が必要で、その成果は高収益(H)=180、低収益(L)=120となるものとします。N社経営陣と外部投資家は投資の結果がHかLのいずれかである ことはわかっているものとします。ただしT=0において経営陣はHかLのどちらかであるか知っているのに対して投資家はどちらになるのかは分かりません (投資成果の予想について経営陣が情報優位にある)。経営陣は既存株主の価値の最大化を目標としているものとします。T=0におけるN社の事前の資本は 100(1株)でその他の負債や内部留保はないものとします。また投資成果はすべて配当として株主に配分されます。経営陣が投資成果をHまたはLと確信し ている状況で、それぞれ株式と債券による調達の効果は以下のとおりです。なお債券の信用リスクは考えないものとします。
<投資成果=Hのケース>
T=0で1株=100で株式を発行すると、T=1で投資成果は180、NPVは80(=180-100)となり、これを既存株主と新株主で分け合いますか ら80÷2株=40が1株当りの価値です。したがって発行株価は100+40=140で市場が均衡するはずです。しかし投資家はT=0では投資成果がHか Lか分かりませんから、HとLの期待値=150で評価します。すると1株当りのNPVは50÷2=25となり、発行株価は100+25=125になりま す。経営陣が本来考えている株価から15過小評価されてしまうということです。
一方、債券を発行した場合には株価の希薄化が起こりませんから、 金利を無視すれば既存株主の受け取るNPVは80÷2=40であり、株主価値は100+40=140となります。すなわち株式発行による過小評価の影響が 大きいので、この場合は債券発行が望ましいということになります。
<投資成果=Lのケース>
まず株式での調達の場合です。1 株=100で調達すると投資成果は120、NPV=20(1株当り10)となりますから、既存株主価値は100+10=110です。投資家はやはり投資成 果がHかLで区別できませんから株価=125と評価します。したがって125-110=15の過大評価となります。一方債券で調達した場合には株価評価に 影響がありませんから既存株主価値は110のままです。結局この場合には株式発行による調達が望ましくなります。
ところが、投資家が (HとLを区別できないにせよ)上記の帰結を理解していれば、N社が社債を発行すれば投資成果=H、株式を発行すればそれは投資成果=Lのシグナルである と受け取られるでしょう。投資成果=Lであれば株式市場はN社株式の評価が過大であるとして株価が下落してしまうため、15のプレミアムは享受できなくな ります。またN社が真の優良企業であれば過小評価を避けるために進んで社債を発行するでしょう。したがって外部資金調達ではまず社債が選好されます。N社 の業績見通しがそれほど良くない場合でも、株価の過大評価を維持するためには優良企業にならってまず社債を発行せざるを得ないことになります。そして株式 は社債で賄いきれない場合に発行されることになるのです。
========
【追加】銀行借入と社債の優先順位
株式(エクイティ)と社債(デット)の利用の順番は以上のとおりですが、同じ負債同士の銀行借入と社債の順位はどう考えるのか補足:
これも情報の非対象性の大きさがカギです。
結論からいうと銀行借入の方が情報劣位の度合いが小さいと考えられるので借入から先に利用されると考えます。理由は以下のとおりです。
・銀行は少数の担当者・部署が発行会社と相対で交渉するのに対して、社債権者は直接交渉の窓口を持たない小口分散された投資家の場合が多いこと。
・銀行は企業金融の専門家として一般社債投資家より発行企業の経営情報に触れる機会があること。
・銀行は発行企業の資金繰りや決済状況、人事交流などから経営状況をモニターする機会があること。特に日本ではメインバンクと呼ばれる存在が発行企業の経営情報を知りうる場合がある(とされること)
ただしバブル期以降は上場大企業であれば借入比率が趨勢的に低下していますからメインバンクの影響力は低下しているでしょうし、社債投資家にも生命保険など機関投資家が入っていることも少なくないので、上記の特徴がそのままあてはまらない場合も増えているでしょう。
実は、理論・実証両面で優先順位は
銀行借入→社債→転換社債など→普通株式
といった順番になることが分かっています。理論モデルはやや複雑になるので、ここでは直感的な説明をしておきましょう。
まず社債と株式の関係を考えます。両方とも外部調達手段なので経営陣と投資家の間には内部情報について情報の非対称性があります。したがっていずれの価格 も市場では過大評価または過小評価されることになります。投資家は両者の間の期待値で評価することになります(「一括均衡」だから)。社債と株式とでは相 対的には社債の方が過小評価の度合いが小さいため、優良企業はまず社債を発行します。一方不良企業も株式を発行すると将来への悲観的シグナルを自ら明らか にしてしまうことになるので、これを避けるためやはり社債を発行します。結局、外部調達ではまず社債が選ばれ、社債でも資金が不足する場合に株式が発行さ れるのです。
※一括均衡・・・情報の非対称性の下で、商品・サービスの質について情報の非対称性があるため過大評価も過小評価も適切に価格に反映されず、それらの期待値として価格が一括して定まってしまう状態。
※分離均衡・・・商品・サービスの品質を各企業が正しく顧客に伝達でき、品質に応じて「分離した」価格をそれぞれ付けられる状態。
このことを数値例でみてみましょう。T=0、1の2期で0期に資金調達および投資を行い、1期に回収を計画しているN社を考えます。初期投資には100の 資金が必要で、その成果は高収益(H)=180、低収益(L)=120となるものとします。N社経営陣と外部投資家は投資の結果がHかLのいずれかである ことはわかっているものとします。ただしT=0において経営陣はHかLのどちらかであるか知っているのに対して投資家はどちらになるのかは分かりません (投資成果の予想について経営陣が情報優位にある)。経営陣は既存株主の価値の最大化を目標としているものとします。T=0におけるN社の事前の資本は 100(1株)でその他の負債や内部留保はないものとします。また投資成果はすべて配当として株主に配分されます。経営陣が投資成果をHまたはLと確信し ている状況で、それぞれ株式と債券による調達の効果は以下のとおりです。なお債券の信用リスクは考えないものとします。
<投資成果=Hのケース>
T=0で1株=100で株式を発行すると、T=1で投資成果は180、NPVは80(=180-100)となり、これを既存株主と新株主で分け合いますか ら80÷2株=40が1株当りの価値です。したがって発行株価は100+40=140で市場が均衡するはずです。しかし投資家はT=0では投資成果がHか Lか分かりませんから、HとLの期待値=150で評価します。すると1株当りのNPVは50÷2=25となり、発行株価は100+25=125になりま す。経営陣が本来考えている株価から15過小評価されてしまうということです。
一方、債券を発行した場合には株価の希薄化が起こりませんから、 金利を無視すれば既存株主の受け取るNPVは80÷2=40であり、株主価値は100+40=140となります。すなわち株式発行による過小評価の影響が 大きいので、この場合は債券発行が望ましいということになります。
<投資成果=Lのケース>
まず株式での調達の場合です。1 株=100で調達すると投資成果は120、NPV=20(1株当り10)となりますから、既存株主価値は100+10=110です。投資家はやはり投資成 果がHかLで区別できませんから株価=125と評価します。したがって125-110=15の過大評価となります。一方債券で調達した場合には株価評価に 影響がありませんから既存株主価値は110のままです。結局この場合には株式発行による調達が望ましくなります。
ところが、投資家が (HとLを区別できないにせよ)上記の帰結を理解していれば、N社が社債を発行すれば投資成果=H、株式を発行すればそれは投資成果=Lのシグナルである と受け取られるでしょう。投資成果=Lであれば株式市場はN社株式の評価が過大であるとして株価が下落してしまうため、15のプレミアムは享受できなくな ります。またN社が真の優良企業であれば過小評価を避けるために進んで社債を発行するでしょう。したがって外部資金調達ではまず社債が選好されます。N社 の業績見通しがそれほど良くない場合でも、株価の過大評価を維持するためには優良企業にならってまず社債を発行せざるを得ないことになります。そして株式 は社債で賄いきれない場合に発行されることになるのです。
========
【追加】銀行借入と社債の優先順位
株式(エクイティ)と社債(デット)の利用の順番は以上のとおりですが、同じ負債同士の銀行借入と社債の順位はどう考えるのか補足:
これも情報の非対象性の大きさがカギです。
結論からいうと銀行借入の方が情報劣位の度合いが小さいと考えられるので借入から先に利用されると考えます。理由は以下のとおりです。
・銀行は少数の担当者・部署が発行会社と相対で交渉するのに対して、社債権者は直接交渉の窓口を持たない小口分散された投資家の場合が多いこと。
・銀行は企業金融の専門家として一般社債投資家より発行企業の経営情報に触れる機会があること。
・銀行は発行企業の資金繰りや決済状況、人事交流などから経営状況をモニターする機会があること。特に日本ではメインバンクと呼ばれる存在が発行企業の経営情報を知りうる場合がある(とされること)
ただしバブル期以降は上場大企業であれば借入比率が趨勢的に低下していますからメインバンクの影響力は低下しているでしょうし、社債投資家にも生命保険など機関投資家が入っていることも少なくないので、上記の特徴がそのままあてはまらない場合も増えているでしょう。
情報の非対称性(4):ペッキングオーダーモデルの数値例
今回はペッキングオーダーモデルを数値で確かめてみます。この仮説はテキストでも言葉で簡単に触れられるだけの場合がほとんどであるため、ここではMyers-Majlufの原論文にやや忠実に再現してみることとします(注:長文)。
(前提条件)
1.T=-1 期、0期、+1期の3期間を想定します。T=-1では投資家はL社経営陣の行動について同一の情報を持っています。T=0では経営陣はL社の既存の資産と 投資計画について追加的な情報を獲得し、その結果経営陣は企業価値評価を改訂します。ただし投資家はT=1になるまでこの情報を知らないものとします。
2.T=-1における既存資産の価値を期待値A=E(A~)とし、A~の確率分布は資産のT=0における改訂された価値の範囲を表すものとします。経営陣がT=0において改訂する予想値をaとします。これはA~の実現値です。
3.T=-1における投資計画のNPVはB=E(B~)とします。B~の分布はT=0における改訂されたNPVの予想値を表します。経営陣はT=0で改訂する予想はbであり、B~の実現値です。
4.a とbは負の値をとらないものとします。株主は有限責任なのでaが負になっても損失まで負担することはないという意味です。また投資計画のNPVがT=0で 負になることがわかればその時点で経営陣は投資計画を採用しないのでbは負になりません。B~はゼロで打ち止めということです。
5.経営陣はT=0における既存株主の利益Vkを最大化するものとします。すなわち、経営陣は
Vk0=Vk(a, b, E)
を最大化します。なお新株主の利益はⅤnとします。この既存株式の市場価値はVk0と等しくなるとは限りません。投資家はA~とB~および株式が発行されるかどうかしか知らないからです。ここで、
P’ =T=0における既存株主の株式の市場価値(新株が発行された場合)
P =新株が発行されない場合のT=0における市場価値
とします。
6.L社の内部留保Sは経営陣と投資家の双方によって知られており定数とします。経営陣と投資家が利用できる情報は以下のようにまとめられます。
時期 T=-1 T=0 T=1
(対称情報) (経営陣情報優位) (対称情報)
(利用可能な情報)
経営陣 A~とB~の分布、S a、b、S a、b、残余のS(もしあれば)
投資家 A~とB~の分布、S A~、B~、S a、b、残余のS(もしあれば)
E(=0またはI-S)
上記の前提で具体的な数値例を考えて見ます。今2つの等確率で生じる状態1、2があるものとします。真の状態は経営陣にはT=0で明らかとなり、投資家にはT=1で明らかになります。
<ケース1>
(状態1) (状態2)
既存資産 a=150 a=50
投資計画(NPV) b=20 b=10
L 社の内部留保は当初ゼロ(S=0)とします。投資計画にはI=100が必要とし、内部留保がゼロなので投資を実行するならE=100の新株を発行する必要 があります。ここでL社が状態の良し悪しに関係なく新株を発行し投資計画を実行する場合の解はP’=115、すなわちA+B=115です(状態1のa+b と状態2のa+bの期待値)。
状態1ではL社の真の価値は
a+b+新株発行による調達=150+20+100=270
です。これをV≡Vk0+Ⅴn=270と定義します。T=0における市場価値はP’+E(既存株式の市場価値はP’、新株の価値はE)ですから、
Vk0 =(P’/(P’+E))V=115/215×270=144.42
Vn0 =(E/(P’+E))V=100/215×270=125.58
となります。
状態2では
V≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=50+10+100=160
Vk0 =115/215×160=85.58
Vn0 =100/215×160=74.42
ここで株式の市場価値は
P’=1/2(144.42+85.58)=115
E=1/2(125.58+74.42)=100
となっています。L社は2つの状態のいずれでも新株を発行するので、その情報からだけでは投資家には追加的な情報は何もありません。
しかしこの結果は実は均衡解ではありません。既存株主にとってのペイオフをみてみると以下のようになります。
(ペイオフ=Vk0) (発行・投資 E=100) (発行・投資なし E=0)
Vk0(状態1) 144.42 150
Vk0(状態2) 85.58 50
こ のペイオフの下では、既存株主の利益を最大化しているL社の最適戦略は状態2においてのみ新株発行・投資することです。状態1では既存株式の市場価値は新 株を発行する場合より低いからです(144.42<150)。しかしL社がこの戦略を採る場合株価は60(=50+10)に下がってしまします。均衡での 市場価値のペイオフは以下のようになります。
(市場価値=P’) (発行・投資 E=100) (発行・投資なし E=0)
P’(状態1) ―― 150
P’(状態2) 60 ――
し たがって、企業は状態1において良い投資計画(NPV=+20)を見送り、状態2において悪い投資計画(NPV=+10)を実行することになります。 T=0における市場価値はP’=60(状態2)およびP=150(状態1)です。既存株主に対する平均ペイオフは1/2×(150+60)=105です。 事前の企業価値における損失は10となります(T=-1におけるV=105に対して潜在的な価値は115だから)。
別の数値例も考えて見ましょう。既存資産と投資計画の価値を以下のように仮定します。
<ケース2>
(状態1) (状態2)
既存資産 a=150 a=50
投資計画(NPV) b=100 b=10
ここで、状態1では
V(状態1)≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=150+100+100=350
Vk0 =(P’/(P’+E))V=115/215×350=187.20
Vn0 =(E/(P’+E))V=100/215×350=162.79
となります。
状態2では
V≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=50+10+100=160
Vk0 =115/215×160=85.58
Vn0 =100/215×160=74.42
ここで株式の市場価値は
P’=1/2(187.20+85.58)=136.39
E=1/2(162.79+74.42)=118.05
と なっています。本ケースでは、状態1、2のどちらの場合にもL社は新株を発行し投資計画を実行することが最適解となります(既存株主の価値が増加するか ら)。投資計画は、状態1では新株が本来の価値より低い値段で売らざるをえなくても、見送りを許容できないほどの価値をもっています。新株はいずれの状態 においても発行されるので、新株発行の決定は何の情報ももたらさず、したがってP’=A+B=155です。
しかし元々の計画の価値では、L社は状態1では新株発行や投資をできません。本ケースではL社に内部留保S=100がある場合、追加的投資のネットのペイオフは以下になります。
(ペイオフ) (投資) (発行・投資なし)
Vk0 状態1 170(=150+20) 150(=150+0)
Vk0 状態2 60(=50+10) 50(=50+0)
L 社は状態1、2の両方において投資をします。事前におけるL社の本来のP’は115であり前の105と比べて10高くなっています。この理由は、企業が NPV20の投資を見送ることを余儀なくされるという可能性50%を回避できるからです。T=-1において内部留保100を確保しておくことで、事前の NPV10を得られたということもできます。
(前提条件)
1.T=-1 期、0期、+1期の3期間を想定します。T=-1では投資家はL社経営陣の行動について同一の情報を持っています。T=0では経営陣はL社の既存の資産と 投資計画について追加的な情報を獲得し、その結果経営陣は企業価値評価を改訂します。ただし投資家はT=1になるまでこの情報を知らないものとします。
2.T=-1における既存資産の価値を期待値A=E(A~)とし、A~の確率分布は資産のT=0における改訂された価値の範囲を表すものとします。経営陣がT=0において改訂する予想値をaとします。これはA~の実現値です。
3.T=-1における投資計画のNPVはB=E(B~)とします。B~の分布はT=0における改訂されたNPVの予想値を表します。経営陣はT=0で改訂する予想はbであり、B~の実現値です。
4.a とbは負の値をとらないものとします。株主は有限責任なのでaが負になっても損失まで負担することはないという意味です。また投資計画のNPVがT=0で 負になることがわかればその時点で経営陣は投資計画を採用しないのでbは負になりません。B~はゼロで打ち止めということです。
5.経営陣はT=0における既存株主の利益Vkを最大化するものとします。すなわち、経営陣は
Vk0=Vk(a, b, E)
を最大化します。なお新株主の利益はⅤnとします。この既存株式の市場価値はVk0と等しくなるとは限りません。投資家はA~とB~および株式が発行されるかどうかしか知らないからです。ここで、
P’ =T=0における既存株主の株式の市場価値(新株が発行された場合)
P =新株が発行されない場合のT=0における市場価値
とします。
6.L社の内部留保Sは経営陣と投資家の双方によって知られており定数とします。経営陣と投資家が利用できる情報は以下のようにまとめられます。
時期 T=-1 T=0 T=1
(対称情報) (経営陣情報優位) (対称情報)
(利用可能な情報)
経営陣 A~とB~の分布、S a、b、S a、b、残余のS(もしあれば)
投資家 A~とB~の分布、S A~、B~、S a、b、残余のS(もしあれば)
E(=0またはI-S)
上記の前提で具体的な数値例を考えて見ます。今2つの等確率で生じる状態1、2があるものとします。真の状態は経営陣にはT=0で明らかとなり、投資家にはT=1で明らかになります。
<ケース1>
(状態1) (状態2)
既存資産 a=150 a=50
投資計画(NPV) b=20 b=10
L 社の内部留保は当初ゼロ(S=0)とします。投資計画にはI=100が必要とし、内部留保がゼロなので投資を実行するならE=100の新株を発行する必要 があります。ここでL社が状態の良し悪しに関係なく新株を発行し投資計画を実行する場合の解はP’=115、すなわちA+B=115です(状態1のa+b と状態2のa+bの期待値)。
状態1ではL社の真の価値は
a+b+新株発行による調達=150+20+100=270
です。これをV≡Vk0+Ⅴn=270と定義します。T=0における市場価値はP’+E(既存株式の市場価値はP’、新株の価値はE)ですから、
Vk0 =(P’/(P’+E))V=115/215×270=144.42
Vn0 =(E/(P’+E))V=100/215×270=125.58
となります。
状態2では
V≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=50+10+100=160
Vk0 =115/215×160=85.58
Vn0 =100/215×160=74.42
ここで株式の市場価値は
P’=1/2(144.42+85.58)=115
E=1/2(125.58+74.42)=100
となっています。L社は2つの状態のいずれでも新株を発行するので、その情報からだけでは投資家には追加的な情報は何もありません。
しかしこの結果は実は均衡解ではありません。既存株主にとってのペイオフをみてみると以下のようになります。
(ペイオフ=Vk0) (発行・投資 E=100) (発行・投資なし E=0)
Vk0(状態1) 144.42 150
Vk0(状態2) 85.58 50
こ のペイオフの下では、既存株主の利益を最大化しているL社の最適戦略は状態2においてのみ新株発行・投資することです。状態1では既存株式の市場価値は新 株を発行する場合より低いからです(144.42<150)。しかしL社がこの戦略を採る場合株価は60(=50+10)に下がってしまします。均衡での 市場価値のペイオフは以下のようになります。
(市場価値=P’) (発行・投資 E=100) (発行・投資なし E=0)
P’(状態1) ―― 150
P’(状態2) 60 ――
し たがって、企業は状態1において良い投資計画(NPV=+20)を見送り、状態2において悪い投資計画(NPV=+10)を実行することになります。 T=0における市場価値はP’=60(状態2)およびP=150(状態1)です。既存株主に対する平均ペイオフは1/2×(150+60)=105です。 事前の企業価値における損失は10となります(T=-1におけるV=105に対して潜在的な価値は115だから)。
別の数値例も考えて見ましょう。既存資産と投資計画の価値を以下のように仮定します。
<ケース2>
(状態1) (状態2)
既存資産 a=150 a=50
投資計画(NPV) b=100 b=10
ここで、状態1では
V(状態1)≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=150+100+100=350
Vk0 =(P’/(P’+E))V=115/215×350=187.20
Vn0 =(E/(P’+E))V=100/215×350=162.79
となります。
状態2では
V≡Vk0+Vn=a+b+新株発行=50+10+100=160
Vk0 =115/215×160=85.58
Vn0 =100/215×160=74.42
ここで株式の市場価値は
P’=1/2(187.20+85.58)=136.39
E=1/2(162.79+74.42)=118.05
と なっています。本ケースでは、状態1、2のどちらの場合にもL社は新株を発行し投資計画を実行することが最適解となります(既存株主の価値が増加するか ら)。投資計画は、状態1では新株が本来の価値より低い値段で売らざるをえなくても、見送りを許容できないほどの価値をもっています。新株はいずれの状態 においても発行されるので、新株発行の決定は何の情報ももたらさず、したがってP’=A+B=155です。
しかし元々の計画の価値では、L社は状態1では新株発行や投資をできません。本ケースではL社に内部留保S=100がある場合、追加的投資のネットのペイオフは以下になります。
(ペイオフ) (投資) (発行・投資なし)
Vk0 状態1 170(=150+20) 150(=150+0)
Vk0 状態2 60(=50+10) 50(=50+0)
L 社は状態1、2の両方において投資をします。事前におけるL社の本来のP’は115であり前の105と比べて10高くなっています。この理由は、企業が NPV20の投資を見送ることを余儀なくされるという可能性50%を回避できるからです。T=-1において内部留保100を確保しておくことで、事前の NPV10を得られたということもできます。